●リプレイ本文
「さあて、とっとと片付けてガッポリ報酬を頂きましょ! 金に飢えた貧乏傭兵にかかりゃどんな敵でもイチコロでさァ」
翠の肥満(
ga2348)が駆るディアブロを先頭に、八機のKVが戦闘区域に踊り出る。
報告通りそこには6羽の巨大な鳥が宙を旋回していた。その羽に‥紅い染みを付けたキメラもいる。
「‥因縁の対決って奴だな。来れなかった相棒の分までやってやろうぜ」
「前回、前々回と部隊の後輩が世話になってるからね‥」
ヒューイ・焔(
ga8434)と伊流奈(
ga3880)が口々に呟く。
特にヒューイは前回も同系列の敵と戦闘を行っており、自らの名言どおり『相棒』の分まで戦うつもりである。
と、数羽のキメラがこちらの気付いたのか、突如旋回行動をやめ、真直ぐこちらに突撃してきた。
元々戦闘兵器として作られているのだから、荘厳な機械の塊であるナイトフォーゲルを前にしても躊躇がないのは、別におかしい事ではない。
しかし、何処かこちらをあざ笑うかのような‥今まで能力者達を苦しめ、あまつさえKVを撃墜している事で生じた自、余裕が‥そんな気がするのだ。
「皆にいと高き月の恩寵があらんことを‥」
救うべきモノを救い、護るべきモノを護り、断つべきモノを断つ為に戦う‥終夜・無月(
ga3084)は、その思いを瞳に秘め、皆に言う。
各KV、そしてキメラたちは、戦闘開始の合図が鳴ったかのように、同時に散開した。
●友
「今度こそこの世から消し去ってあげるよ‥醜い怪物さん‥」
もとよりの同じ部隊である伊流奈とヒューイは、ここでもペアとして行動していた。
やはり、同じ部隊だけあって呼吸が合っている。お互い、付かず離れず、しかし連携が行える距離を常に維持していた。
そのペアが、一匹のキメラを補足する。
相手もこちらに気が付いたようだが、タイミングも、射程もこちらが遥かに有利だ。
少し加速し、前に躍り出るヒューイの後方で、伊流菜のKVがライフルの銃口を覗かせる。
「‥去ね」
まず初撃の一発。
真直ぐキメラの胴体に向かって放たれた弾丸‥しかし、キメラは易々と回避する。
そこに狙い済ましたように、ヒューイが仕掛ける。
連装式の、ロケット弾ランチャーが放たれる。
元より精密射撃には向かない武装だが、このタイミングならば当たる確率もグンと向上する。
一方キメラは羽‥蟲を撒き散らし、壁を作る。
爆音。
無数に舞い踊る純白の羽。
だが、キメラ自身にその攻撃は届かなかったようだ。
「‥ちぃ!」
ヒューイが思わず舌打ちをする。
その羽のカーテンとも呼べる場所から、儚さとは逆方向の羽‥悪夢のような数の蟲が襲来してきたのだ。
バルカンを放ちながら急旋回を掛けるヒューイ。だが、事前情報の通り本当に追跡ミサイルの如く迫ってくる。
このままでは追いつかれる‥!
と、そこへ伊流奈が急接近してくる。そして、ヒューイを追い回す蟲の更に後方から、バルカンを撃ち始めた。
その挟撃に蟲の数は倍以上の速度で減って行き、やがて全て消滅させた。
「‥おい、やつはどこへ消えた!?」
蟲ばかりに集中していたせいか、鳥キメラの姿がどこにも無い。
他のキメラは他の班がちゃんと対応しているし、逃げたとも考えにくい。
二人が事前情報のある一項目を思い出し、回避行動を取った時と、【水中から】弾丸のように鳥キメラが飛び出してきたのはほぼ同時だった。
そう、このキメラは水中移動できるのだ。
不意打ちをしくじったキメラは、再び海中に飛び込もうと行動する。
だが、ヒューイのバルカンと伊流奈のミサイルポッドの弾幕で思うように事が運ばない。
ランチャー防御、攻撃と大量に蟲を使用したキメラは、最後の足掻きで残った蟲を全て放出し、決死の思いで再び海に飛び込もうと試みる。
「御膳立ては出来た‥頼むよ、ヒューイ!」
残った蟲は全て伊流奈が引き受け、ヒューイは真直ぐ海面に向かう。
それに気付くキメラだが、まともな攻撃手段を失った今、突き進むしかない。
ヒューイはキメラに対し、追撃を‥与えなかった。
そのまま、キメラは海中へ飛び込む。
逃がしたわけでは無い、その証拠に、ヒューイは武装の切り替えを行っている。
その武装とは‥空対潜ミサイル「爆雷」‥であった。
キメラがどうなったかどうかは、言うまでも無いだろう。
●月の恩恵
一方こちらは、終夜とチェスター・ハインツ(
gb1950)のペア。
この二人はキメラに迂闊に近づかず、一定距離からの攻撃を行っていた。
「随分と様変わりしましたね‥」
そう呟きながら、終夜はエネルギー集積砲を逃げ惑うキメラに向けて放つ。
彼もまたこの鳥キメラの系統と戦ったことのある傭兵の一人なのだ。
その逃げるキメラを追撃する終夜の援護をするように、チェスターが抜群のタイミングでミサイルを放った。
エネルギー砲の回避に集中していたキメラは、そのミサイルへの反応が一瞬遅れる。
慌てて蟲を展開するものの、僅かに遅い。
直には命中しなかった物の、爆風は確かにキメラの肉体を抉る。
だが、そのダメージでキメラもキレたのか、今度は逆に真直ぐこちらに向かってくる。凄まじい速度で接近しつつも、蟲をミサイルのように射出する。
咄嗟に、チェスターは武装を切り替える。
鳥の牽制及び蟲を蹴散らす為、レーザー砲を発射した。
蟲は一塊堕とせた物の、今度は鳥が真直ぐにチェスターの方へ向かう。
終夜がそれをさせまいと動くが、視界を多い尽くす蟲が邪魔をする‥いや、すでに何匹かは機体を齧り始めている。普通に排除していては、時間がかかりすぎると判断した彼は、海面に向けて機体を進める。
そして、何をするかと思えば、海面に向かって攻撃し始めたのだ。
傍から見ると無意味な行動だが、その実、ちゃんと意味はあった。
その水柱に巻き込まれた蟲が、水圧と風圧に耐え切れず、落ちているのである。
一分も経たない内に蟲は全滅。改めてチェスターの援護に向かった。
マシンガンを撃ち込みつつ、何とか終夜が来るまで持ちこたえようとするチェスター。
だが、キメラは先ほどのミサイルがよほど気に入らなかったらしい。
体を霞め、撃ち込まれるマシンガンを完全に無視し、真直ぐこちらに突撃してくる。
そしてついに、マシンガンの残弾100を全て撃ち終え、彼は決意の眼差しでキメラを睨みつけながら、呟いた。
「仕方ないですね‥アレを使うしかないか‥」
ここに至り、彼は特殊能力の使用を決定する。
キメラの視界を、幻霧が覆い始める。
予想外の展開に、キメラは蟲を展開しつつ、見失ったチェスターの捜索を始めた。
と、そのキメラにミサイルが放たれる‥実際には、チェスターが勘を頼りに放った物だがキメラは自己の危機を察知し、蟲で撃ち落す‥それが、自身の位置を知らせる事になるとは知らずに。
「逃しません‥」
海面から戻ってきた終夜のエネルギー砲と、爆風を頼りに放たれたチェスターの最後のミサイルがキメラを蹂躙したのは。完璧に同じだった。
●決意の盾
最大射程からキメラをポイントする翠は、ふと出発前に自らが発した言葉を思い出した。
「‥大量の虫をひっつけた鳥ねえ。弾頭に殺虫剤詰めたミサイルでも撃てば、1発でオダブツなんじゃ?」
冗談か本気か、あの発言は自分でもわからなかったが、少なくともその攻撃で堕ちてくれる相手とは思えなかった。
相対した今なら、そう言える。
「FATTY(翠のTACネーム)より各機へ、上昇して敵の頭を押さえます。幸運を!」
そう叫び、ライフルをぶっ放す。
そして命中したかどうかも確認せず、急速上昇を始めた。
大抵の戦いで相手より上方に位置するというのは、かなりのアドバンテージをもらえるのと同様だ。
「マスター、宜しくお願いします!」
彼のペアである榊原 紫峰(
ga7665)は、上昇せず、真直ぐキメラへと向かう。
そして、ライフルを何とか避け、空中でバランスを崩しているキメラに向け、容赦なくバルカンを放つ。
今回、彼は自分の役目を「翠さんの盾になる」「直接的な攻撃を翠さんに向かわせないようにする」と認識している。
よって、あえて正面から相手をしているのだ。
当然ながら怒るキメラ。反撃とばかりに、多量の蟲を放ってくる。
思惑通りに敵が動いた事をほくそ笑み、榊原は出来るだけ翠に害が及ばないように離れる。
逃がすか、と思ったのか、キメラは急速移動を‥行えなかった。
空中にいるキメラの更に上方から、8式螺旋弾頭ミサイルが飛来してきたのである。
思わず不意打ちに、ドリル状のミサイルがまともに羽を貫く。
当然、その場所にいた蟲は全滅だが、キメラ本来の羽も傷つけたらしい。キメラは一瞬その場に留まったものの、すぐに海に落下していく。
翠は行動値4、移動値5は伊達では無いとばかりに、追撃を開始する。
応戦して蟲を射出するも、一撃離脱法であっさり全て回避し。回避され、追跡しようとした蟲は榊原が対応し、自らを囮としている。
ダメと判断したのか、キメラは海中に落ちる速度を上げる。ここは、一気に逃げた方が良いと踏んだのだろう。
大きな水飛沫とともに、キメラは海に消えた。
追撃をやめ、海上を旋回する翠。
出てきたところを狙う策である。
ところが、キメラは狙い済ましたように、彼の機体の後ろから姿を現し、一個の弾丸の如く向かってくる。
タイミングは完璧‥かに思えたが、翠は読んでいた。
急減速し、目測を誤ったキメラは機体を掠め、今度は自らが背後を取られてしまった。
容赦なく、ミサイルはキメラの体を貫き、四散させた。
一方の榊原も、蟲を何とか撃退したようで、こちらに飛んでくる。
その時! 翠の正面から『もう一羽』のキメラが海面から飛び出して来た!
この一瞬を狙っていたのだろう。
慌てて銃口を向けるが、少し間に合わない。
「これ以上、君達の好き勝手にはさせないよ!」
翠の視界から、キメラが消えた。
横手から掠め取るように、榊原がキメラに体当たりを喰らわせたのだ!
キメラは驚いたが、すぐに蟲キメラを機体全身に張り付かせ、自らも抗う。
機体が悲鳴を上げる、そのコクピットの中で、彼は呟いた。
「例え、僕が散ろうとも‥」
鳥キメラと蟲キメラを貼り付かせたまま、彼は‥。
零距離で、グレネードランチャーを発射した!
●羽の蟲 翼の刃
「なんてキメラだ‥下手なワームより性質が悪いなぁ」
井出 一真(
ga6977)は、濃霧のように視界を埋める蟲を見て呟いた。
ミサイルを敵に撃ち込みたいのだが、これでは敵に到達する前に、蟲キメラが起爆させてしまうだろう。
だが、彼はこの強大な敵を前にしても、絶望はしていなかった。
「高村さん、援護お願いします!」
その言葉と同時に前に躍り出たのは、グレネードランチャーを装備した高村・綺羅(
ga2052)のミカガミだ。
「私が、道を開ける‥」
グレネードを蟲キメラの大群に射出する。
その弾に蟲キメラが嬉々として喰らい付いたが、別に構わない。
大きな爆音とともに、バッと羽が四散する。
その高村が作った『道』を、井出は突き進む。
蟲キメラの大群を抜けた所には、鳥キメラが二匹、こちらに攻撃を仕掛けるべく動いている。
二匹のキメラ‥井出は躊躇い無く、右手の一匹に狙いを定める。
単一目標を定め、確実に数を減らす為だ。
「出し惜しみなしだ、全弾発射!」
ホーミングミサイルD−01を明言どおり、全て射出する。
狙われたキメラは回避行動を取るものの、全てを避けることは出来ない。
二発が命中し、それは足と下腹部を吹き飛ばす。
キメラはガクンと力なく、海に落下した。
一方高村は、井出が狙わなかったキメラの牽制を行っていた。
常に一定の距離を保ち、バルカンを放つ。
それに対し、キメラは蟲を放つが、グレネードによって大半が四散。残った蟲もバルカンによって薙ぎ払われる。
グレネードのリロード時間をバルカンで埋める‥その策は見事なのだが、運悪く両方がリロード待ちに、つまり弾切れとなった。
その隙にワンサカと集って来る蟲、振り切れず、数匹が付着した。
蟲が機体を齧る音に顔をしかめながら、彼女は急速で海面スレスレを飛行し始めた。
その方法は終夜と類似している。水飛沫によって、蟲は綺麗に取り払われる。
そこへ、鳥キメラが追加で蟲を放ってきたが、錐揉み上昇でそれをやり過ごす。
すると、偶然にも、キメラはその飛沫と風圧に煽られ、隙が出来ていた。
「請けた仕事はきっちりと終らせるのがプロの仕事‥」
支援に徹するつもりだったが、必殺の瞬間を見過ごすほど彼女は愚かではない。
放たれたグレネードはキメラの胴体にめり込み、そこで力を拡散させた。
全てを仕留めたと思った高村と井出。
念のため、高村がレーダーを確認する‥。
「!! 井出さん!」
少しはなれた海から、先の下腹部と足を吹っ飛ばされたキメラが、決死の覚悟でこちらに体当たりを敢行しようとしていた。
狙いは、当然井出である。
「ソードウイング、アクティブ! 翼の剣呑さなら負けはしない!!」
正面から迎え撃つ井出!
勝負は一瞬!
嫌な破砕音とともに、井出機が損傷を受け、機体が大きく揺れた。
一方キメラは、今度こそ致命傷を受け、海に沈む‥。
今の衝撃で頭部強打した井出だったが、幸い命に別状は無さそうだ。
「バグアにこいつらが有効なキメラと思わせるわけにはいかない‥からね」
そう、言った。
●結果
榊原と井出は負傷した物の、大事には至らずに済んだようだ。
脱落者は無し。キメラも見事全滅させている。
言うまでも無く、この依頼は大成功だ。