●リプレイ本文
深い森の中。
深緑の光が辺りを満たし、自然をたっぷりと含んだ心地の良い風が吹き抜ける。
だが、その風もまた、やがては血の臭いを含んだ凶風となるのだろうか。
闘気と殺気を含んだ不可視の乱流が、この敵味方を合わせた16の戦士たちの間で吹き荒ぶ。
対峙する戦士たち、両者相手の力量を確かめるかのように、動こうとしない。
●黒焔の双月
どれほどの時が経ったのだろうか。
実際には数分の時しか流れていないだろう。しかし、この場に居合わせた者にとっては、一秒でさえ永遠の時と体感したとしても、おかしくない。
まず動いたのは、傭兵達の側だった。
「一騎討ちが望みなら、僕がやろう。そっちは誰が出る?」
二本の月詠を抜き放ちつつ、八神零(
ga7992)は前に進み出た。
すると、相手からも同じように一人のキメラが刀を手に、前に歩み寄ってくる。
対峙する両者、闘気の濃度が更に濃くなったかのように、辺りの小枝を揺らす。
「‥始めるか」
そう呟くと同時に、八神は一気に間合いを詰めた。
そして、左右の刀で挟み込むような斬撃を行う。
キレのある攻撃だ、しかしキメラも伊達に武士の形を取っているわけではない。
その斬撃が体に及ぶよりも早く、キメラは一歩大きく肩から前進する。
八神の胸板を肩甲で思い切り強打したのだ。
息を詰まらせながらも、後退する八神。キメラは刀を振りかざしながら更に詰め寄ってくる。
横薙ぎに叩きつけられる刀身を素早く受け、切り返すように放たれた斬り上げは一歩体をずらす事でやり過ごす。
事前の情報どおり、かなりの強敵だ。
八神は守勢に回りながらも、冷静にそう判断した。
彼が真っ先に一騎打ちに望んだのは、勿論彼自身の戦士の技量を推し量るためでもあるだろう。
だが、一番の理由は待機しているであろう他の皆に自分の実力と相手の実力を比較して貰う事にあるのだ。
よって、現在は守勢に回っているのであった。
しかし、予想以上の強敵‥長時間受けるばかりだと、やられてしまう危険も生じている。
あまり時間を稼ぐ事は出来なかったが、八神はチラリと仲間の方へ視線を飛ばし、目で合図した。
『撃破する』
八神は月詠を構えなおし、攻勢に移る。
相手の戦法が変わったのを悟ったのか、キメラは後退しようとした。
だが、ソニックブームと紅蓮衝撃の攻撃がそれを妨害する。キメラが咄嗟に衝撃波を捌いた時には、八神は目の前だ。
二段撃と紅蓮衝撃が重ねて発動される。
キメラは一太刀目を何とか受け止めたものの、大きく仰け反ってしまった。
そこへ、二段撃の二発目が繰り出される。
「キメラとはいえ、あんたの誇り‥確かに受け取った」
月詠は甲冑を砕き、その内で守られていた肉体を、破壊した。
●柿原・聖
八神が戦闘を終えた後、待機していたメンバーも戦闘を開始した。
ある者は一人で、そしてある者は数人で集まり、互いのじゃ何なら無い程度に散らばる。
そして、聖・真琴(
ga1622)と柿原ミズキ(
ga9347)もまた、互いに支援できる程度の距離をとり、戦闘を行っている。
「武士道でも気取ってンのか?」
覚醒し、普段とは打って変わった乱暴な口調となる聖。
両腕を振ると、仕込んであった深紅の爪‥ルベウスが顔を覗かせた。
彼女は顎をしゃくり‥。
「‥いいね。面白ぇ。‥来なよ」
開幕早々、聖は疾風脚を発動させ、一気に懐へ潜り込もうと試みた。
それに対し、キメラは半歩軸足を踏み出し、横薙ぎを繰り出す。
だが、刃が肉を削り取った感触はなく。それに加え、視界から聖の姿が消えている。
当然だ、彼女はキメラの真後ろに立っているのだから。
懐に潜り込もうとした彼女は、相手の攻撃を刹那のタイミングで見切り、跳躍する事で回避と攻撃の機会を手に入れることを同時に可能としたのだった。
キメラはすぐに気がつき、後ろに向け思い切り刃を振りぬく。
だが、アドバンテージは聖にあるのだ。
攻撃がこちらに届く前に、下段回し蹴りでキメラの体勢を崩す。何とか払われたのとは逆の足で身を支える事で転倒は免れた物の、続く蹴り上げに対処が出来ない。
聖の蹴りはキメラの手甲に繰り出され、武器を取り落とした。
しかし、キメラも黙っていない。
そのとり落とした刀を空中で素早く掴み、振り下ろしてきたのだ。
とはいえ、体勢がまだ安定していない事には変わりない。
その一撃が意外だったものの、聖は構わず攻撃を続行した。
刃で肉を削られ、血を飛沫つつも、キメラに一気に密着する。
そして、渾身の踏み込み‥寸打でキメラを突き飛ばした。
「悪りぃな‥アタシゃ悪魔なンでね」
キメラが止めを刺される寸前、最期に聞いた言葉は、あまりにも無慈悲だった。
一方柿原。
「くっ、‥さすがに強い」
刀と刀が擦れ合う音、そして軽い火花が周囲に飛び散る。
柿原は振り下ろされる刃を弾き、その垣間見た隙にねじ込むような突きを繰り出す。その攻撃を身を捌いて避け、今度は下から切り上げるような攻撃。
それを何とかパリィングダガーで受け止め、攻撃を流す。
「隙アリ‥」
すかさず、流し切りを発動。側面に回り、一気に決着をつけようと試みる。
だが、その一連の動きは見切られていた。
流され、姿勢が安定していないまま、軸足とは逆の足で、キメラは柿原の足を払う。
ほぼ同時に転倒する両者、そして起き上がり、再び衝突したのもほぼ同時だった。
金属音。
正面から互いがぶつかり、鍔競り合っているのだ。
こう着状態‥に見えるが、実際には柿原が押されている。これは単純に、純粋な膂力でキメラが勝っていると言う事だ。
「‥やるねぇ、まったく」
不利と判断、乱暴に刀を払いのけ、後ろに飛ぶ。
着地し、顔を上げる‥目の前には、矢じりが迫っていた。
あの僅かな時間で弓を番え、発射する事はいくらなんでも不可能。恐らく、矢だけを投擲してきたのだろう。
その様な理屈を考える余裕は彼女には無い、咄嗟に倒れこむことで、矢の影響は頬を掠めるだけで留まった。
だが、キメラはその隙に一気に距離を詰めてきた。
立ち上がることは出来た、しかし、振り下ろされた刀に対処するには、間が無さ過ぎる。
しかし、柿原まで害が及ぶ事は無かった。
自らの分を片付けた聖が、瞬天速で間に割り込み、刃を受け止めたのである。
「ごめん、隙を取られて」
今度はキメラが大きく退き、刀を構えなおす。
柿原も武器を構えなおし、相対した。
「はぁ‥、今度こそ決める」
三度、両者は激突する。
今度は受けることは考えない。
一太刀で、決める!
柿原は腰ダメの状態から、両断剣を使用して刀を切り上げる。
キメラは上段構えから、一気に刀を振り下ろした。
膠着‥‥。
血が、飛ぶ。
それは柿原の物。キメラの一太刀は、彼女の肉体を傷つけていたのだった。
だが、そのキメラはそれだけではすまない。
斬り飛ばされたキメラの『一部』が宙を舞い、首元は根本まで抉られている。
体液を飛び散らせながら、武士は物を言わぬ屍と化した。
「なんだか勝てた気が、全然しないよ」
柿原は聖に支えられながら、屍を見下ろしつつ、呟いた。
●風花・藤田・サルファ
藤田あやこ(
ga0204)、サルファ(
ga9419)、風花 澪(
gb1573)。
こちらの三人もまた、いざという時に互いを支援できるように動いている。
サルファは、柿原達がキメラを屠ったのを見て、軽く吐息を吐く。
「皆、強いねぇ‥さて、俺も頑張るとするかなっと」
別にただ傍観していたわけではない。同じ系列のキメラならば、酷似している攻撃パターンも存在しているはず‥それを見極めるため、観察していたのだった。
観察を負え、風花とサルファは、後衛の藤田の分も合わせ、三人の武士と相対した。
仕掛けよう‥と思った矢先、後ろから奇妙な笑い声が聞こえてくる。
振り返ると、藤田が覚醒とは別の意味で、目つきを変えていた。
「ハンドルを握ると豹変する者がおる様に拙者も侍を見ると人が変わるでござる」
ござる!?。
と言うツッコミは無しの方向で‥。
「女乱学者藤田、いざ参る!」
そう高らかに叫ぶと同時に、D713を地面に置いた。
どうやら、やる気満々のようだ。
前衛二人は暫し顔を見合わせるが、肩をすくめ、改めて敵に向かい合う。
やはり、こちらが明確な戦闘意思を示さない限り、あちらも仕掛けては来ないらしく、ジッとこちらを見つめているだけだった。
「それじゃ戦闘開始だよっ」
風花は一声叫ぶと同時に、ソニックブームを発動させた。更に、その放たれた衝撃波を追うように間合いを詰める。
戦闘意思を確認したのか、一人のキメラが動き始める。衝撃波を横っ飛びに回避し、その後方の風花に向けて刺突を行った。
刺突をギリギリにタイミングで避け、お返しとばかりに流し斬りと豪破斬撃をキメラの首めがけて放つ。
しかし、その攻撃も予想していたのか、キメラは体の中心点をずらし、回避する。
サルファが風花の援護に向かおうとするが、自分の相手である武士に妨害されてしまい、駆けつけられない。
「俺もそんなに余裕あるわけではないんだが、な‥」
舌打ちしつつ、仕方なくそのキメラに向かい合うサルファ。
早々に仕留めて、援護に駆けつけなければならないだろう。
などと考えていたら、キメラが袈裟切りに刃を振り下ろしてくる。慌てて身を捌き、横なぎにクルシフィクスを叩きつけた。
キメラはその攻撃を受け止めるものの、予想外の衝撃にズザっと後退してしまう。
そこで、またもや藤田の高らかな声がした。
「受けてみよ藤田式鉄砲術!」
サルファが作った隙に、援護射撃を行ったのだ。
D−713から放たれた銃弾は、キメラの頭部に向かって突き進む。
だが、甲高い音と共に。銃弾は易々と弾かれてしまった。
キメラ自身はよろめきもしていない。
やはり、バグア側は銃に対する対抗策を練っていたらしい。
この鎧は超一点に集中する高打撃を吸収しているらしく、そのせいで銃弾による攻撃は無意味となってしまったのだ。
「ならば‥」
それを見越し、サルファは思い切り大剣を振りかざす。だが、モーションが大きすぎる。キメラは素早く、刃の届かない場所へ後退する。
ところが。
サルファはその巨大な刃を振り落とすと同時に、手を離した。
強大な蹂躙マシーンとなって飛んでゆく大剣。
予想外な攻撃にキメラは対抗できず、頭を爆砕させ、絶命する。
その刃は勢いを留まらせず、風花の相手のキメラの片腕を吹き飛ばした。
「あ、チャンスってやつかなー」
初撃をしくじった風花は、一時後退して様子を見ていたのだが‥チャンスを見つけるとすぐに、またもや一気に間合いを詰める。
「仏造って魂込めず‥侍キメラとは随分舐めたマネよの」
またまた藤田の声。
風花の目の前で、腕が吹き飛んだことで亀裂が入っていたキメラの鎧の亀裂が、蛇が這うように前身に広がっていく。
藤田の練成弱体である。
それでも、果敢に片腕で刀を構えるが、それで風花に勝てるとは思えない。
そして、その予想通り、風花の月詠はキメラの首を吹き飛ばした。
仕留めた後、彼女はキメラの屍へと駆け寄る。
何をするかと思えば、急に鎧に手を掛けた。
「やっぱり甲冑の中ってどうなってるのか気になるよねー。キメラだし余計に!」
が、ピクリともしない。
風花は知らないが、このキメラの鎧は「皮膚」のような物。
つまり、壊すなりしなければ中を見ることは出来ないし、見たとしてもグロテスクな肉塊があるだけだろう‥。
残りは、藤田と相対すべきキメラだが‥嫌が応にも、3対1となってしまった。
キメラの中には、不利な状況になったら逃走を開始する者もいる。だが、このキメラに至っては無駄に武士道を考えて作られているのか、決して退こうとはしなかった。
その心意気は良いのだが‥。
「射撃は苦手だが、この距離なら関係ねえんだよ!!」
「喰らえ超電波ゑれきてる!」
サルファの超至近距離エネルギーガンと、藤田の超機械によって、あっけなくやられてしまった‥まぁ、1対1を想定として作られているのだから、この結果は当然と言えば当然なのだが‥。
●槍の兵衛
「一対一を所望とは、なかなか面白い趣向をバグアも考えるじゃないか。良かろう。そっちがその気ならこちらも存分に御相手しよう」
榊兵衛(
ga0388)はロングスピアを構えつつ、そう言った。
キメラも、ブンと刀を一振りし、構える。
仕掛けたのはキメラ。間合いが圧倒的に不利なので、一気に懐にもぐりこもうと試みる。
しかし、槍の兵衛の名前は伊達ではない。キメラの動きにあわせるように後退し、突き、薙ぐ。
その槍の攻撃自体は上手く捌いているが、キメラは中々接近する事が出来ない。
少しずつ‥だが確実に、キメラの鎧に傷が増えていく。
「我が榊流が500年近くに渡って培った槍術の神髄。その身でとくと味わって貰うことにしようか」
そう言い放つと同時に、急所突きと紅蓮衝撃を発動。一気に畳み掛けるべく、槍を構える。
ところが、キメラもそこで反撃に転じた。
バッと一足下がると同時に、小太刀を抜き放ち、投擲してきたのだ。
想定していなかった反撃に、榊は回避しきれない。ザックリと、肩口に小太刀が突き刺さる。
そして、キメラはその小太刀の後を追うように、一気に接近を試みてきた。
キメラの狙いは喉元、大きく後ろに引き、必殺の刺突を繰り出すべく駆ける!
榊も乱暴に小太刀を引き抜き、槍を突き出した!
刀の切っ先が死を喰らうべく突き進み、少し遅れて槍の穂先が生命を断ち切るために突き出される。
勝負は、一瞬。
刀の切っ先は違い無く喉元へ進み‥皮一枚手前で停止した。
そして、槍の穂先は頭部の兜を砕き、真直ぐ貫いている。
榊の、勝ちだ。
「戦場での殺し合いでなぜ槍が主兵装で有り続けたか、その答えが知るには高い授業料だったな」
榊は額に流れた汗を拭い、屍に言い放った。
皆が戦っている中、一人だけ武器を構えつつも、息を切らしている戦士がいた。
その体は大規模作戦による傷が蝕んでおり、まともに戦えるとは思えない。
その前に立つのは、武士の最後の一体。
キメラは、こちらを観察するように見つめている。
と、キメラが踵を返した。
そして、戦士の視線の先で木立の間に消えていく。
バグアの意図は不明だが、『武士の情け』と言う物だろうか?
●結果
一人取り逃がした物の、この場での脅威は完全に去った。
依頼は、成功である。