タイトル:【紅獣】再臨の羽・逆襲マスター:中路 歩

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/22 10:42

●オープニング本文


「利奈、UPCの犬からメールが入っていますよ?」

 私服姿の咲が、浴室の前で入浴中の利奈に向かって声をかける。その手にはかなり無造作に掴まれたノートパソコンがぶら下がっている。
 湯船で酒を煽っていた利奈は、チラリとそのノートパソコンを一瞥した後、咲と目を合わせる。

「アンタねぇ‥とりあえず画面握るの止めなさいよ」

 言いつつ湯船から身を乗り出し、咲にちょいちょいとパソコンを床に置くように指示する。自分は濡れているのでパソコンを操作する事が出来ないからだ。
 咲は言われた通り床にパソコンを置き、軽く操作してメールを開く。
 
 ちなみに、UPCの犬とは軍人の事だ。

「なになに‥ん、依頼ね。しかも個人的な‥っと、報酬もかなりのものねぇ。どうしよっか?」

「‥聞かれましても‥依頼の内容は何なのですか?」

 他所では絶対に見せない純粋な苦笑をし、咲は小首をかしげる。
 
「最近LHの傭兵達が討伐に失敗したキメラをもう一度叩くから、協力してくれ、だってさ。まぁ、アタシもその報告書は読んだから知ってるけど、流石にあんなキメラ相手だったら失敗も仕方ないかもしれないわねぇ‥」

 その依頼とは、以前能力者達が失敗した「舞い降りる羽」である。その時に逃げ出したキメラの同型、もしくはその強化型が街や集落を襲い続けているらしい。バグアも、能力者達の手から逃れたキメラからデータを回収し、更なる改善、生産をしたのだろう。

「キメラを一気に掃討する為に炎を使ったらしいけど‥フォースフィールドに関してはデータが少ないから仕方ないか。‥事後調査で蟲の大半と一匹の鳥キメラの屍骸以外は確認されなかったらしいわねぇ」

「ちょっと待ってください」

 咲が淡々と話し続ける利奈の言葉を静止する。
 少し気分が良さそうに話していた利奈は、若干気分を害した様子で言葉を止める。

「事後調査の事は報告書に無かったはずですが‥軍のサーバーにハッキングでも?」

 少しゲンナリした様子で話す咲。
 利奈は誇らしげに笑い。

「残念ながらねぇ、アタシでも軍にはハッキングしないわよ。一週間はかかるからめんどくせーし」

 一週間あれば出来るのかよ、というツッコミはさて置き。

「一軍人のデータバンクをハッキングしただけ、案外簡単よ?」

 そう言える人間も稀だろう。
 だが、咲はいつもの事だとため息をついた。

「それで、どうしますか? やるなら私が行きますが」

 今現在事務所には全員が待機している、中には仕事の疲れが癒されていない者もいるが、利奈が頼めば断る者はいないだろう。
 しかし利奈は。

「いんや、アタシ行くわよ。アンタら、車で爆走したり森林歩いたりして大変だったんでしょ?」

 そう言った。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
佐竹 優理(ga4607
31歳・♂・GD
夜坂桜(ga7674
25歳・♂・GP
ヒューイ・焔(ga8434
28歳・♂・AA
天(ga9852
25歳・♂・AA
文月(gb2039
16歳・♀・DG

●リプレイ本文

「‥分かった! 熱湯だ! 名付けて、焼いて駄目なら茹でてみな作戦!! どうよ!?」

 冗談か本気かは知らないが、佐竹 優理(ga4607)は拳を握り締め、語った。
 だが、依頼前のピリピリしたこの状況下で、まともに相手をしてくれる物もいるはずは無く、皆華麗にシカトしている。

 気を取り直すように、天(ga9852)が咳払いをした、

「俺のミスがこの光景を招いたと思うと‥否が応でも全力にならざるを得ない」

 その言葉に、夜坂桜(ga7674)は首を横に振る。

「今度こそ後悔しないようにしましょう」

 そう、微笑んだ。
 夜坂、天、そしてもう一人、文月(gb2039)の三人は、以前今回の依頼の標的である鳥キメラを逃がしてしまった経緯を持っている。
 あの失敗は仕方の無いものではあったが、雪辱を返すを与えられた今、彼らは全力で汚名を返上しようとするだろう。

「これなかったあいつらの分まで頑張らないとな‥」

 その天の相棒であるヒューイ・焔(ga8434)は傍らを通り過ぎるついでに彼の肩をポンと叩き、今回の策のための道具の準備に取り掛かった。

 今回の策は、以前同じキメラを討伐時に使用した策と類似している。
 だが決定的に違うのは、今回は策ではなく、キメラを実力で叩き潰す事を主にしている。つまり、より攻撃的な作戦となっているのだ。

 第一班が囮となり、第二班が攻撃。その後第一班も戦闘に回り、擬似挟撃を行う。
 それが作戦の概要だ。
 
 第一班。
 天。
 文月。
 夜坂。
 ヒューイ。

 第二班。
 ドクター・ウェスト(ga0241)。
 鳴神 伊織(ga0421)。
 佐竹。
 
 そして遊撃‥と言うより自由行動に、雨在利奈である。

「ま、めんどくせーけど、なんかミスったらサポートしてあげるから。せいぜい頑張ってね」

 ‥もはや自由行動というより、他人事だ。
 
 少しばかり不安分子はあるものの、戦力的には問題無い8人。
 作戦時間となり、ついに火蓋は切って落とされた。

●第一班
 以前の失敗した依頼に決着をつけ汚名の返上を。
 
 その思いを胸に、文月はリンドブルムを装着。
 常人より目立つAU―KVを身に纏い、囮の役割を果たそうと奮闘していた。
 上空を飛び回る鳥キメラに向けて積極的な銃撃は、キメラの羽を狙って放たれている。
 だが、空中を上下左右どこにでも移動できる上空をアドバンテージとしているキメラにその無造作な攻撃はまともに命中しない。羽を掠める物もあるが、それは数匹の蟲キメラを堕としたに過ぎなかった。
 それでも、本来の役割である「囮」の任は十分に果たせている。むしろ果たしすぎていた。

 視認で切る限りの数、8匹のキメラは全て文月に向かっているのだ。
 やはり目立つ事もあるのだろうが、一方的に撃たれてご機嫌斜めらしい。
 
 彼女に全てを任せるには荷が重すぎる、相手は決して脆弱な相手では無いのだ。
 そこでヒューイと焔は用意してあった「策」を使った。
 
 文月に向かっていた八匹の内、五匹もが彼ら二人に方向を変える。その全てが、先の文月に対する怒りを忘れ、ご馳走を見つけたような興奮の雰囲気を纏っている。
 
 その理由は、血と肉だ。

 勿論、彼ら二人自身のことではない。この時の為に用意した、血の滴る肉の事である。
 食いついたとわかったや否や、夜坂とヒューイはお互いに別方向へ走る。
 彼ら第一班の目的は囮、そして奇襲撹乱だ。
 文月、夜坂、ヒューイの三人に敵が分かれたことにより、敵集団の分断に成功している。
 夜坂と文月は、第二班が来るまで単騎で押さえ込んでいる。

 文月の周囲に残っている三匹の鳥は、リンドブルムの重装甲を警戒してか、一定の距離を取って蟲を放って来ていた。
 だが、その重装甲は蟲の攻撃の殆どを吸収するものの、全くの無傷と言うわけにはいけない。しかし文月は、振り払う程度に蟲の相手をし、鳥に向けて攻撃を続ける。

「今度は‥逃がしませんっ!」

 そして、決意の一声と共に放たれた真デヴァステイターの銃弾は、見事に一匹の鳥キメラの頭部を吹き飛ばした。

 一方、こちらはヒューイ。
 彼は相棒である天と背中合わせになり、二匹のキメラと対峙する。

「背中は任せたぞ、焔」

 信頼を込めた一言を呟き、天は真直ぐ突撃してきた一匹のキメラに狙いを定める。
 その突進を紙一重で避け、すれ違い様に一刀を差し入れる。
 刃はキメラの腹部を抉り、空中でバランスを取れなくなったのかぐらりと揺れる。
 そこを見逃す手は無い。素早く接近し、演舞とも乱舞とも取れる美しくも素早い斬撃を繰り出した。
 
「生まれてきたこと‥後悔できたか?」

 止めとして放たれた両断剣は、キメラの命を終らせた。
 だが、その魂が噴出すが如く、大量の蟲が天に纏わり付く。

 その時、天を突き飛ばし、身代わりとなったのはヒューイだ。

 彼は素早くエンリルを駆使し、切り落せるだけの蟲を捌いていく。
 そして、その大量の蟲を逆に煙幕代わりに使い、空中で様子を見ていた鳥キメラの羽に無数の風穴を開けた。
 しかし、地面に激突しても鳥キメラは存命で、唯でさえ鬱陶しい蟲キメラを更に射出した。
 流石にこの量は捌き切れず、二人は一時後退を決める。

「ったく。苦戦してんじゃねーわよ」

 その二人とすれ違いで駆けて来たのは、利奈だ。
 彼女は刀を2〜3振りしただけで、大半の蟲キメラを落とし。流れるような動きでホルスターから抜かれたハンドガンは、地面でのた打ち回っていたキメラの急所を撃ち抜く。
 半分に減った蟲キメラならば、ヒューイたちで十分対応可能だ。
 彼ら二人の絶妙なコンビネーションは、数瞬で全ての蟲キメラを屍と変えさせる。

「ん、夜坂いねーじゃん」
 
 周囲を見渡しつつ、利奈が呟く。
 その周囲では、第二班が第一班の集めた敵の殲滅に移っている。だが、夜坂が集めたキメラは二班の面子と戦っているのに、夜坂自身がいないのだ。

「あいつなら、単独行動で残りのキメラを探しているはずだ。既に聞いている」

 ヒューイは淡々と述べた。
 なにやら少し考えていた利奈だが、どうやらその夜坂を探す事にしたらしい。
 ハンドガンで適当に援護をしながら、何処かへと行ってしまった。
 
●第二班
「けひゃひゃ、我が輩がドクター・ウェストだ〜」

 文月が敵を集めた近くに隠れていたウェストは、十分にそのキメラの「観察」をした後、飛び出してきた。
 その第一声に驚いたキメラの隙を突き、ウェストはエネルギーガンをぶっ放す。
 辛うじて避けたキメラだったが、その回避行動を終えた瞬間に、文月の銃弾が腹腔を抉る。
 それでも上昇して逃げようとしていたが、電波増幅を使用して再び放たれたウェストのエネルギーガンが、キメラの生命を断ち切った。
 そして毎度の如く、羽蟲が飛び出してくる。
 文月がそれに対応しようとしたが、最後の一匹が文月の周囲を飛び回り、行動できない。
 ウェストは蟲に対応する為、血桜を構える。

 そして、サイエンティストならがも、この強力な武器を十二分に活かす様に刀を振り回し、蟲を振り払った。

「さすが血桜、ショップの『お勧め』の名に恥じない威力だね〜。‥それでも試作とはいえ、あの機械刀がほしいのだけどね〜」

 そう言いながら、苦笑した。
 苦笑した後、ウェストはちょっと怖い目線で生き残っているキメラを見る。
 その視線に何を思ったのか、キメラが思わずウェストから視線を逸らす。

「けひゃ‥このキメラ、蟲も鳥も、ぜひともサンプルがほしいものだね〜」

 嗚呼哀れなり、鳥キメラ。
 自業自得なのだが‥。
 

「強さ自体はそれ程でも無いですが‥面倒ですね」
 
 鳴神はたった今仕留めた一匹の屍を踏みつけながら、残っているキメラを見る。
 相手に逃げる暇を与えず、迅速に撃破したいと考えていた鳴神は、銃で狙いを定めながら歯がゆい思いだった。

「そうだねぇ、雌鳥だけに面倒‥いや失礼、ははは」

 ちょっとだけ白い目でこちらを見ている鳴神に気付いたのか、これまた冗談なのか真剣なのか解らない謝罪の言葉を漏らした。

「雌鳥とは限らなかったねぇ」

 そこでは無いだろうというツッコミは抑え、鳴神は小銃を発砲する。
 幾多の弾は羽蟲を吹き飛ばす物の、鳥本体を傷つけるには至らない‥やはり、直線的な弾道は距離さえあれば、避けられるのだろう。

「そんな怨念丸出しじゃあ私らは倒せないねぇ‥鳥さん?」

 先ほどとは打って変わった声色に、思わず傍らを向く鳴神。
 見ると、佐竹が普段の表情を崩さないまま、銃を構えていた。

 放たれる銃撃。
 だが、そのいずれもキメラから少し逸れてしまっている。
 キメラも鳴神も、何をしているのか理解できなかった。

 佐竹が銃弾を打ち込みながら、チラリと鳴神を見る。その目配せを受け、鳴神は佐竹の考えを悟った。

 再び銃を構える、鳴神。
 そして、先ほどと同じように銃を放つ。

 馬鹿にするように回避行動を取るキメラ、だが今度は上手く行かなかった。

 その回避した先には、佐竹の放つ銃弾があったのだ。
 二匹のキメラは成す術もなく羽や胴体を打ち抜かれ、堕ちてくる。

 「これで終わりですね、もう逝きなさい」

 落下してくるキメラを更に地面に叩き付けるが如く。
 鳴神は月詠に持ち替え、紅蓮衝撃を発動させた一撃を振り下ろす。
 そのあまりの攻撃力に、キメラの体は見るも無残な屍と化した。
 だがそれでも安心せず、一足飛びに後退、ソニックブームを放つ。遅れて飛び出そうとしていた蟲の大半は、その攻撃で塵となった。

 一方佐竹も、キメラを既に葬っている。
 スキルを積極的に使用した、畳み掛けるような猛攻により、彼の周囲には蟲と鳥の死体が散乱していた。

「ほら、怨念丸出しだから、お寝んねしちゃったねぇ‥鳥さん」


●復讐のキメラ
 こちらは、単独行動をとっている夜坂。
 単独行動と言っても、利奈が知らなかっただけで皆に知らせているから問題は無い。
 だが、その問題とは別の問題が彼に生じていた。

「さて‥のってきてくれっといいがな‥‥と言うより、乗って来すぎだろう‥」

 彼の予想通り、そして事前の情報どおり、あの8匹以外にまだキメラは存在していた。
 予定では、事前に決めてある場所に誘導させ、そこでこのキメラを撃破する。その決めてある場所は皆の集合場所でもあるため、時間さえ稼げば一気に制圧でき、無事依頼は終了する。
 
 だが、その時間稼ぎに、夜坂は大いに苦戦していた。

 この二匹‥以前夜坂や天たちが取り逃がしたキメラだったのだ。
 「経験」の力と「怨み」の力は、大きい。
 
 明らかに他のキメラより鋭いヒットアンドアウェイ、そして絶妙なタイミングの蟲射出。もし一匹だけだったとしても、苦戦しているかもしれない。
 逃げながら小銃を撃つ夜坂は、蟲の数を減らしながらも、本体には殆どダメージを与える事が出来ないでいた。
 
 と、そこで急にキメラが上昇を始める。
 一瞬送れて、自分のとは銃声が重なった。

 振り返ると、利奈がハンドガンを撃ち込みながら、こちらに駆けて来ていた。
 その後ろの方から、他の面々も走ってきているのが解る。
 安堵した夜坂だったが、直ぐに表情を厳しくした。

 状況不利と悟ったキメラが、逃走を始めたのである。
 このままでは、以前の二の舞だ。

「おいアンタ、貫通弾持ってる?」

 利奈が夜坂に声をかけた。
 反射的に、夜坂は頷く。

「んじゃ‥後始末、ヨロシク」

 そう言った後、利奈はハンドガンに貫通弾を装填する。
 そして、バイク形態で追走しようとしていた文月に、指示を飛ばす。

「一瞬で良い、動きを止めてちょーだい」

 了解したのか、文月は直ぐに走り始めた。
 ブーストを使用したリンドブルムはかなりの高速性能を持つ。
 難無く追いつき、再び全身に装着させ、スキルを発動させながら銃弾を放った。
 
 その攻撃は予期していたのか、同じく難無くキメラは回避した‥が、利奈の思惑通り一瞬速度が落ちる。

「アタシが落とす、止めは夜坂、天。任せたわよ」

 この二人を‥いや、文月を含めてこの三人を指名したのは、以前の雪辱を晴らさせる為にと、利奈が見せた善意だろう。
 
 だが、問題はどのやって落とすのかだ。ここからキメラまで、かなりの距離がある。
 
 銃声は二つ‥無造作に放たれた一発目の通常弾は、一匹のキメラの羽を貫通する。そのキメラがよろめいてもう一匹に空中で衝突した時、二発目の貫通弾が二匹目の羽の根本を吹き飛ばした。

「姉さん、ひゅーひゅーだぜ!」

 その長距離射撃を成功させた事に関して、佐竹は賛辞の言葉を送る。

 落ちて来る、時か聞かされていた時点から走り始めていた二人は、絡み合いながら落下したキメラが地面に激突する瞬間に、間合いに到着する。

 そして、見事に汚名を晴らす事に成功した。

「自分で撒いた種は、刈り取る。だろ、文月、桜」

 天のその言葉は、まるで達成感と喜びで彩られているかのように、辺りに鮮明に響いた。