●リプレイ本文
緊迫に包まれるショッピングモール。
恐怖の象徴のように立つ、巨大なナイトフォーゲル。
その周囲に死神の如く立っている能力者達。
更に、その使い魔のように能力者に付き従いながら、銃を構えるテロリスト。
子犬のように怯える、一般人達‥。
膠着状態‥否、圧倒的にテロリスト側が有利な状態だ。
彼らが引き金を引けば、この場は阿鼻叫喚の地獄と化すだろう。
そんな恐怖の空間から少し離れ‥宝石やブランド物が並ぶ高級店が軒を連ねる場所。
元々、庶民の為のショッピングモールでこの様な店を利用する人も稀であり、襲撃場所から遠い事もあり、店員含め皆とっくに逃げ出している‥はずだった。
「うひゃは、ガキの頃思い出すぜ」
たまたま、銃のメンテナンス及びパーツ交換の為にモールへと訪れていたOZ(
ga4015)が、ワクワクと宝石店に入ってくる。
そして何をするかと思えば‥。
「たまんねーな」
レジの引き出しを力ずくで、引っ張った。
当然中にはギッシリとした金が入っており、これまた当然警報機が鳴った。
「‥なんだ?」
KVの外部スピーカーから、困惑の声が漏れた。
勿論そのKVの中の男だけではない、人質とされた一般人も含め、全員が困惑の表情で辺りを見渡している。
「‥おい、お前たちは様子を見て来い。それとお前達は、こいつらを輸送する準備を始めろ」
もうLHなどから能力者が派遣されてきたとは考えにくいが、万一のこともある。予定より少し早いが、一般人達をさっさと連れ出す事にしたのだった。
一般人テロリストの半数が高級店のほうへ向かい、残った半数がじりじりと人質の方へ歩み寄る。スナイパーの女も隠密潜行を発動させながら、高級店の方へ走り去っていった。
●スナイパー二人
「玲奈ちゃんのために大工仕事の木材を調達するつもりが事件に巻き込まれるとは映画に出てくるような典型的なテロだよな」
「緑川さん、荷物持ちと助言有難うございました」
人ごみから少しだけ離れた店内、そこには三島玲奈(
ga3848)と緑川 安則(
ga0157)が、各々の得物を持って待機していた。
彼らは兵舎改造の為、角材などを購入しに来ていたのだった。
最近は何かと物騒なので、念のために銃を隠し持っていたのだが、今回はそれが功を奏したようである。
「これじゃ動きにくいわ」
敵が動き始めたことを察知し、三島はセーラー服を脱ぎ始める。単に動きやすくなるからであって、変な意味は無いことを先に明言しておこう。
脱ぐと同時に、巨大な戦闘兵器、アンチマテリアルライフルを取り出した。
「アンチマテリアルライフルにはやはりこれが似合うだろう? 使ってくれ」
そのライフルを確認した緑川が、懐から一つの弾を取り出した。
貫通弾だ。
たしかに、この強力な兵器と貫通弾があわせられれば、半端なKVにとってはひとたまりも無いだろう。
「さすが軍師、用意周到ね♪」
その好意に甘え、三島が貫通弾を受け取ろうとした‥その時だった。
なんともいえない悪寒が、二人を駆け抜けた。
それは数多の死線を潜り抜けた物が感じられる物であり、同時に彼らが命を代価としている傭兵という役職柄だったからこそ、知る事が出来た。
お互いが手を引っ込め、素早くその場から飛び退く。
その次の瞬間。
轟音と共に、嵐のような銃弾がその場所を蹂躙する。
人間などよりかなりの高性能を持つKVのレーダーが、この二人を捉えたのだろう。
KVのバルカンが、この場所を蹂躙したのだった。
●激突
轟音が起きると同時に、人質達はほぼ一斉にその場に伏せた。
能力者達は平然とそれを見届ける。
「‥ネタなのかマジなのかは知らんが、止めとけ。後で後悔するぞ」
一般人が震え蹲っている中、赤髪の男ブレイズ・S・イーグル(
ga7498)が、巨大な木箱を抱え、ゆっくりとテロリスト達に近づいてきた。
一般人テロリスト達は、慌てて銃口をブレイズに向ける。
だが、ブレイズはそんな銃口など完全に無視し、チラリと「ある一点」を見つめた後、能力者達を睨みつける。
「クソが、能力者かよ‥後悔するのはどっちかな?」
グラップラーの男女がクローを填めて歩み寄って来る、その後ろでは、ドラグーンとKVパイロットが薄ら笑いを浮かべながら見守っていた(パイロットは顔が見えないので、雰囲気)。この人数差である、自らの勝機は間違いないと踏んでいるのだろう。
「‥そうか。だったら‥」
そう呟くと同時に、木箱を宙高く放り投げた。
一般人テロリストの一人が、反射的にそれを銃撃する。
すると中から一本の大剣が鞘ごと飛び出してきた。
その大剣の柄を、ブレイズが空中で掴み、一気に引き抜いた。
「死んでも後悔はしないようにな!」
叫び声と共に、覚醒した。
覚醒に伴い、黒いオーラが全身から放出される。それに怯んだのか、一般人テロリストが涙目になりながらも、引き金を引こうとした。
「刀は銃と違いワンアクションだ、お前らに勝ち目はねぇよ」
「こんな無駄な行為を容認することはできませんね」
ギョッとして振り向くテロリスト達、だがそのときにはもう遅い。
隠密潜行にて、死角から周防 誠(
ga7131)に襲撃された者はまだ良いだろう。
彼の攻撃は全て得物を狙っており、単純に制圧する事を目的しているのだ。
しかし、もう一人の襲撃者、天狼 スザク(
ga9707)はそうも行かない。
彼は自らが姫と呼ぶ女性と仲良く買出しに来ていてご機嫌だったのだ。それを邪魔された怒りは、想像を絶するだろう。
「せっかくのデートを台無しにしてくれたんだ、土産に首でも置いていってもらおうか」
その言葉がテロリスト達の耳朶に滑り込んだ時には、既に2人の首が飛んでいた。
「‥ああなりたくなければ、投降することを勧めますけど?」
周防が苦笑交じりに提案すると、生き残っていた三人は躊躇無く武器を棄て、その場に伏せた。
彼はそのテロリストの武器を回収し、戦力を無効化させる。こうなってしまえば、ただの人も同然だ。
「自分はあのスナイパーを追います、お二人はこの場をお願いします」
そう言い残し、周防は走り去ろうとする。
当然、敵は逃がそうとしない。
しかし、グラップラー二人は天狼が抑えており、ドラグーンはブレイズが抑えている。残る障害はKVだが‥。
「スナイパーだからといって狙撃だけじゃないんだよ。近距離での射撃戦もまた華となるのだからな」
いつの間に接近していたのか、緑川がKVのコックピットに向けて銃撃を行っていた。その後ろでは、三島も援護射撃を行っている。
ブラッティローズでの影撃ち、強弾撃、狙撃眼を一気に使用。たまったものではない。
その間に周防は行ってしまう。
●姫を護る者
「人を殺して出てきて平和の為だぁ? 笑えねぇんだよ!」
グラップラー二人を抑えている天狼は、そう一喝して牽制する。
腐っているとはいえ能力者、一筋縄ではいかないだろう。
と、一人が素早い動きで間合いを詰めてきた。だがその動きは予想の範疇、紙一重の差で避け、見事流し切りを命中させる。
もんどり打って倒れる男。
しかし、天狼は安堵するどころか、表情を険しくして「姫」の元へ走る。
女のグラップラーが、直接戦闘では非力なサイエンティストである淡雪を狙ったのである。
落ち着いて反撃しようとする彼女だが、相手はグラップラー、易々と回避されてしまう。
「糞がッ! 百辺逝け!!」
その絶叫は建物内全てに木霊し、同時に女グラップラーの死の宣告となった。
一瞬停止してしまったグラップラーの足元に超機械が見事命中し、そして後ろから怒涛の勢いで襲い掛かった天狼の一閃は、女の首を高々と打ち上げた。
●龍殺しの実力
「オラオラ! こんなもんかよ!」
ドラグーンは、ブレイズの得物が大剣なのを良い事に、バシバシ遠距離から銃撃してくる。
ブレイズは何を思うのか、ひたすらその銃弾を弾き、避けることしかしていない。
調子に乗ったドラグーンは、バックパックから大口経口の銃を取り出してきた、一気に決めるつもりなのだろう。
そのとき、ブレイズが動いた。
「ハッ‥逃がすかよ!」
そういうと同時に、ソニックブームを二度発動、そして間合いを一気に詰める。
余裕を持って避けようとしたドラグーンだったが‥気付くのが遅かった。
ソニックブームは、自らが進行できる左右に撃ち込まれていたのだ。これでは回避する事が出来ない。
考えている間に、ブレイズは既に目の前で大剣を振り上げていた。
「砕けなァ! ファフナーブレイク!」
豪破斬撃と紅蓮衝撃を同時発動させた一撃は、色んな物が砕けひしゃげるいやな音を、辺りに響かせた。
●スナイパー二人・決
その頃、緑川と三島。
彼らは隠密潜行を使いながら、うまい具合に物陰に隠れている。
そして、時々操縦席に銃弾を撃ち込みながら、また隠れているのだ。
KVの能力者はかなりイライラしていた。
先ほどのようにバルカンを撃ってしまえば簡単なのだろうが、撃ちすぎるとモールが崩壊する恐れもある。それでは本末転倒だ。
と、度重なる銃撃に、ついに操縦席の壁が吹き飛んでしまった。
驚く操縦士、あまりにもイライラしていた為、耐久力に気付く事が出来なかったのだ。
「貰った」
その声を聞いた時には、彼の命は既に無い。
この一瞬を待っていた三島が、的確に能力者の頭をぶち抜いたのだった。
それを見届けた三島は、カッコよくビシッと決め、言い放った。
「私が撃つ者は万死に値する物だ」
その傍らで、緑川は苦笑いで銃弾を再装てんしていた。
●裏切りの裏切り
咄嗟に柱の裏に隠れた周防は、正直言って困惑していた。
たった今撃ち込まれたアサルトライフル、それはLHの能力者であるOZが放ったものだったのだ。
「活動にゃ金が要るだろ? 懐に入れるのも自由、組織に収めるのも自由だ。君らと一緒に戦いたいんだ、協力させてくれ」
そう、周囲のテロリスト達と女スナイパーに話しかけていた。彼らの手には、余るほどの金品が握られている。
それでも買収されなかった彼らだったらしいが、今の一発で完全に信じたのだろう。
今の銃撃は、それだけ本気だったのだ。
「どうなって‥いるのでしょう」
周防は呟いたが、思案している暇は無い。
襲い掛かる銃弾の嵐、この柱もそう長時間は持たないだろう。
と、急に銃弾が止む。チラリと見てみると、この柱を包囲するように敵が動こうとしていた。
一般人の銃撃はともかく、OZと女スナイパーの攻撃を受けては、たまったものではない。だが、ジッとしていてもやられるだけだ。
意を決して飛び出そうとしたその時。悲鳴と銃声が重なった。
「女殺れんのか? 今日はツイテるぜ」
自分達を裏切ったはずのOZが、なぜか女スナイパーの側頭部を撃ちぬいたのだ。そして、平気な顔で、アサルトライフルを周辺のテロリストに向ける。
「なんつって、ぎゃはは」
後はただの、虐殺劇だった。
●その後
周防が生かしたテロリスト達は、結局何も知らなかった。
能力者達はともかく、彼らは金で雇われただけらしく、詳細は知らされていないのだと言う。
それと、OZが再び回収した店の金品等は、しっかりと店の人が取り立てに来たそうな‥。