タイトル:【紅獣】走れ!零!マスター:中路 歩

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/14 22:04

●オープニング本文


「もう! どうしてついてくるのぉ!?」

 爆走する軽トラックの荷台で、零は誰にとも無く文句を叫ぶ。
 その周りのLHの能力者はそれに苦笑いして、再び武器を構える。

 彼らの乗る軽トラ3台は、廃街の真っ只中を爆走している。
 時々何かの名残か、「スピードは50まで」を表す標識が傾いていたが、この車両3台は悠に100は出しているだろう。荷台にいるのが能力者でなければ、あっという間に吹き飛ばされている。
 そんな彼らの任務は、この軽トラに積まれた物品を無事この先の街まで護送する事。中身は知らされていないが、とても大切な物らしい。
 物品自体はダンボール6つで収まる量で、軽トラ毎に2つずつ置かれ、縛られている。

 その依頼人が望む日程まであと3日はある。軽トラを普通の速度で飛ばしても、1日あれば十分に到着するだろう。
 では、何故こんなに飛ばしているのか。

 理由は、後方から爆走、飛翔してくるキメラの群れだ。

 目視した限りで確認できる数は8。

 高速で飛翔しており、手が生えた鳥型キメラが4。イノシシに同じく人間の手が引っ付いているようなキメラが4である。
 まるで爆撃機かミサイルが飛んでくるような速さ。しかも徐々に追いつかれ始めている。

 能力者達は各々の武器で応戦するも、苦戦気味だ。

 だが、幸いこの道は高速道路の名残らしく、直進が続く。上手く行けば、このまま撒くことが出来るだろう。

 と、運転手がなにやら叫び声を上げた。
 戦闘関連は役立たずの零は負傷者の治療に当たっていた為、真っ先に反応する。

 いつの間にか、軽トラの側方を無数の狼キメラ。同じく速い。
 
 キメラが運転席の方へ向けて口を開ける。その口の中から、舌のような長い器官が飛び出した。それは窓ガラスを割り、運転者の首に絡みつく。
 運転者はなすすべも無く、運転席から引きずり出され、地面に叩きつけられた。

 当然、この軽トラの運転手はいなくなる。

 ブレーキエンジンがかかり、見る見るうちにスピードが落ちる。ハンドル制御をする者もいないので、大きく振動を始めた。
 バランスを崩す能力者達と零。
 すると、そのバランスを崩した拍子に、運転席の後ろ窓を突き破り、零が運転席に収まる。

 自分の今いる位置を把握すると同時に、零は素早くハンドルを握り、アクセルを踏んだ。

●参加者一覧

藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
ケイ・リヒャルト(ga0598
20歳・♀・JG
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
南雲 莞爾(ga4272
18歳・♂・GP
旭(ga6764
26歳・♂・AA
番 朝(ga7743
14歳・♀・AA
朔月(gb1440
13歳・♀・BM

●リプレイ本文

 本仕事の事前準備。

・荷物上にテントもしくは、防寒シートを掛け、ロープで固定。
・運転席、助手席間の通風口orカーステレオ等に無線を装着。
・助手席にシートベルトの他に命綱と落下防止用にハーネスを付ける。
・藤田あやこ(ga0204)、ケイ・リヒャルト(ga0598)、旭(ga6764)、番 朝(ga7743)、朔月(gb1440)の五名は命綱を装着済み。
・車の配置は基本縦1列。

●追撃
 縦一列にならぶ3台の軽トラック。
 その中で最後尾を走る軽トラの助手席扉が、内側から蹴り飛ばされた!
 運悪く吹き飛んできた扉に巻き込まれたキメラは、扉同様吹き飛んでいった。フォースフィールドの効果で直接的なダメージは無いだろうが、追いついてくるのは難しいだろう。

「待ちに待ってた出番が来たわ。ここはお任せ、こんな事もあろうかと!」

 その言葉と共に、助手席の扉を蹴り飛ばした藤田は並走する狼キメラに向け、小銃を連射した!
 隣の一般人運転手は、つい先ほどまで愛妻のように接してくれた女性の変貌振りに多少なりとも驚きを覚えているようだ。

 キメラは、収縮器官を射出する暇も無いまま、肉片と化す。

「‥」

 その荷台に乗っているのは番と須佐 武流(ga1461)。
 番は決して寡黙な人物ではない。しかし、覚醒時には無表情に、そして無言となるのだ。
 彼女はクルメタルを得物とし、近接職である須佐の援護を行っていた。
 実際には番自身も前衛職なのだが、あえて援護という手段を取っているのである。
 
 番の射撃が狼達を近づけさせず、仮に近づけたとしても藤田の銃撃が襲う。
 まさに2段構えの防御である。

 後方の猪キメラたちとの距離は‥まだ十分にある。

 続いて、3台の真ん中を走る軽トラック。
 そこに乗り合わせているのは、南雲 莞爾(ga4272)、旭、朔月の三名で、朔月が助手席に乗っている。ちなみに、この車の助手席も既に取り外されている。
 
「群れなきゃ何も出来ないなら引っ込んでろ!」

 朔月はそう叫びながら、足元に縛り付けてある矢筒から矢を抜き取る。
 彼女は命綱を身に着けているため、大胆に身を乗り出した。
 放たれた矢は強風を計算して上で射出され、的確に狼の目を貫く。
 
 しかし、敵は助手席側だけから来るわけではない。
 運転席側からも、狼たちは並走している。朔月はどうにかそちら側の敵も倒そうと体を動かすが、やはり運転手の体が邪魔で手が出せない。

 そこは荷台の面子の仕事である。
 旭と南雲はそれぞれ小銃を手にし、キメラに向かって撃ち散らかす。

「‥どれ程の手腕を発揮出来るのやら、確かめさせて貰うぞ」

 この激しく上下する車体。助手席に座りながらならばともかく、荷台に乗っている状態では正確な射撃は難しい。
 それでも、迅速な殲滅を行使する為、南雲は撃ち続ける。
 完全に斃しきれずとも追撃が不可能ならば構わない‥その思考の通り、キメラたちは致命傷ではない物の、足や胴体に着弾し、後方に置いてきぼりにする。
 旭も同様の考えなのか、弾幕を張るかのごとく撃ち込んでいった。

 
●疑問
 そして、最も前を走る軽トラック。この車の運転手が零である。

「あわわぁ‥こ‥ここまで来ない‥よね? ‥ね?」
 
 零は怯えてはいないものの、引きつった笑顔で隣の鳴神 伊織(ga0421)に声をかけた。
 今のところ、運転手を殺した以外の狼キメラを除き、零の車体の周りにキメラの姿は確認されていない。
 やはり、最前列とあって後方二台がキメラを殲滅してくれるし、横手から急に出現するにしてもトップスピードに乗るまではやはりこの車に追いつくことは出来ない。
 それでも、リヒャルトと鳴神の両名は周囲の気配に気を配る事は辞めなかった。

 そんな中で、鳴神がふと疑問を漏らす。

「相手も随分と執拗に追撃してきますね‥」

 確かに、無理してこの様な疾走する車体を追いかけなくとも、他に人間はいくらでもいるだろう。狼キメラは「縄張り」と言う理由があるからかもしれないが、後方の猪キメラと鳥キメラはいくらなんでもしつこすぎる。

「キメラはそういう物では無いの? ‥厳しい状況なのはわかるけど、必ず抜けないと」

 ケイは武器を軽く点検しながら、鳴神に答える。彼女は、推測よりも現在の状況を打破する事に集中しているようだ。それは無論鳴神もなのだが、やはり納得出来ない物があるらしい。

「キメラに手が付いているのも、何だか作為を感じさせます。この荷物‥一体、何が入っているのか‥」

 その言葉に答えたのは、零だった。

「ん〜、中身を見ちゃダメとは言われて無いけど‥マナー的には、見ないほうが良いと思うな〜」

 それもまた正しい事だ。
 鳴神は、後で依頼主に聞ければ聞いておこうと心に決めていたのだった。


●分断
「!! 零、前!」

 周辺確認を行っていたケイが、唐突に警句を発する。
 だが、それを聞いていなくとも皆気がついていた。

 高速道路の一車線が丸々、崩れているのだ。
 障害物ならば破壊すれば良いのだが、既に崩れている物はどうにも出来ない。
 
 急いで、鳴神は備え付けた通信機で後ろの二台にそれを知らせる。
 報告を聞いた運転手たちは、ハンドルを握りなおした。

 とるべき道は二つに一つ。
 一つは、左に入りサービスエリアへ降りる事。ここは下りなので多少の減速はごまかせる。だが、この先に何も無いとは限らない。
 二つ目は、右に進路変更して崩れている車線をやり過ごす事。これならば障害物などを遠目で確認できる代わりに、かなり減速していまう。当然、後方のキメラも追いついてくるだろう。

 迷う零。迷う運転手達。

 そして、結局右に進路変更することにしたようだ。見えぬ危機よりは、見える危機を回避した方が安全と踏んだのだろう。
 
 ところが、そんなときに限って、零の右方に狼キメラが踊りこんだ。
 直ぐにケイが銃撃で退けた物の、車体は右に曲がれず、左のサービスエリアの方へ向かってしまった。
 そして、後方二台は取り決め通りに左側車線に移動してしまう。

 完全に、三台は分断されてしまった。


●零混乱
「ど‥どどどどど‥どおどぉ‥どぉするのぉ!?」

 完全にパニック状態な零‥と言っても、ちゃんと運転は行っているので、それほど混乱はしていないようだ。
 通信機の向こう側から、朔月の「五月蝿いから落ち着け」という言葉も一端を担っているのだろう。

「次から次へと‥一体、どこから沸いて出てくるのか‥」

 後ろを見ながら舌打ちする鳴神。
 後方からは一匹と一羽の猪と鳥が、そして狼キメラも漏れなく追跡してきた。
 サービスエリアから本車線までの距離は短い。だが、戻る際には上り坂となるので著しく速度が低下する。
 つまり、確実に追いついてくるだろう。
 そしてさらに状況は悪化する。

「‥あはは‥おっきな壁だね‥」

 半諦め気味に零が呟いた。
 そのサービスエリアの道中には、先ほどの崩落していた高速道路が横たわっていたのである。
 それに対し、鳴神は爆頭矢を番え、狙いを定めた。

「零さん、私がアレを破壊します‥出来るだけ近づいてください」

 一発で破壊できるかは賭けだったが、引き返すにも道は無い。
 零は言われたとおり、アクセルを踏み続けた。

 その頃、後ろのケイは一人でキメラを相手にするというのに、加虐的笑みを浮かべていた。

「素敵なドライブじゃない?」

 だ、そうである。
 近づいてくる狼はとりあえず無視し、まず狙うは鳥と猪キメラ。
 別にしとめる必要は無い。一時的に追跡を不可能にすれば良いのだ。

「お遊びも程々に、ね?」

 そう言いつつ放たれた銃弾は、見事にいのししキメラの目を貫いた。
 続いて放たれた第二射は、的確に鳥キメラの翼の根本を射抜く。

 目を潰されて出鱈目に走る猪、翼を千切られ落下する鳥。
 両者は奇しくも互いの激突し、動かなくなる。

 ケイが後方の憂いを断った頃、鳴神にも勝負の時が近づいていた。
 普通に壁を射抜いたところで、車が通れるほどの幅が出来るとは思えない。
 最も脆く、連鎖的に崩壊する場所を射抜かねばならないのだ。

「感覚を研ぎ澄まし‥撃ち抜く‥!」

 そして矢は放たれた。


●逃走、闘争
 一方、本車道を走る2台。
 案の定、こちらも猪キメラたちに追いつかれていた。

 ここで活躍するのは、最後尾であり近接特化の須佐である。
 狼が伸ばしてくる伸縮器官を掴み取り、それを別のキメラに投げ飛ばす。そして猪に対しては、車体を捕まれる前にその手を蹴り落とし、更に追撃で遠くへ蹴っ飛ばした。

「敵の特徴を利用すればこのぐらいな!」

 そう言いながら、滑空してきた鳥キメラの胴体を無造作に掴み、同じく遠くへ蹴り飛ばした。
 残る数は、2匹ずつ。
 
 助手席の藤田は狼キメラたちへの牽制を続けている。
 彼女は色々と思惑があったのだが、車線が減ってしまった今ではそれらを実行するのは難しかった。
 それでも、果敢に、

「地獄の片道切符、今日は無料出血大サービスだよ〜」

 超機械を、その名の通り超作動させていた。

 と急に軽トラを衝撃が襲った。
 猪キメラの一匹が、横手から体当たりをぶちかましてきたのである。
 助手席の藤田はともかく、荷台の二人はかなり揺さぶられた。
 番は命綱のお蔭で大した被害は無い、しかし、荷台に須佐の姿が無い。彼は命綱をしていなかったのだ。

 しかし、その須佐は車の縁を掴み、何とか持ちこたえている。
 落とされ、地面に叩きつけられた衝撃波凄まじく、大ダメージを被った。
 それでも、薄れる意識の中限界突破を使い全力移動と瞬天速を用いて、車に追いついたのである。
 
 だが、須佐は気絶している。このままでは落とされるだろう。
 すかさず、番がイアリスを荷台に転がし、豪力発現を発動させて、一気に引き上げた。
 須佐の命は助かった物の、残りのキメラは前の車の方へ行ってしまった様であった。


 そして前方の車。
 南雲が急所突きを発動させ、なんとか鳥キメラの一匹は撃ち落す事が出来た。しかし、他の3匹は未だに健在である。

「悪いが時間を掛けたくなくてな‥手早く狩らせて貰おうか」

 そう言い、南雲は月詠で、直ぐそこまで接近していた猪の頭部を撫で斬る。
 そこへ直ぐに旭の銃撃が入り、また一匹仕留める事に成功した。
 それに巻き込まれ、最後の猪も一緒に、崩落した車線の穴から落下して行った。

 と、そこで運転手が悲鳴を上げる。
 見ると、前方に回りこんだ鳥キメラが、真直ぐ運転席へ特攻してきているのだ。
 朔月が応戦しようとするが、狼キメラの伸縮器官が邪魔をし、手を出せない。
 
 動いたのは旭。
 彼は命綱を確認し、運転席の上へ飛び乗った。
 南雲も真似しようとした物の、彼もまた命綱をつけておらず、狼キメラの牽制に力を入れている。

「縄張りに入ったのか荷物に反応しているのか分かりませんが、倒さないことには先に進めませんからね!」

 スラリと、月詠を抜く。
 そして、真直ぐ向かってくる鳥キメラに正面から挑む!キメラもまた、こちらの方が狙いやすいと思ったのか、今度は真直ぐ旭のほうへ向かってきていた。

 肉が貫かれる音と、嫌な打撃音が響く。

 月詠はキメラの心臓を真直ぐに貫いている。
 そしてキメラの突撃の武器であるクチバシと爪は。旭の肩口、腹腔を抉り取っていた。
 大量に血を噴出しながら、うつ伏せに倒れようとする旭、それを南雲が掴み。荷台へと引き摺り下ろした。

 旭は重傷の身でありながらも、満足げに微笑んでいた。

 鳴神が障害物を破壊した爆音が聞こえてきたのは、そんなときだった。


●その後
 結局、荷物の中身が知らされることはなかった。
 鳴神と南雲は非常に気になっていた様子だったが、力づくと言うわけには行かないので、おとなしく引き下がった。

 この荷物の中身が何だったのか、少なくとも、この護送任務自体には全く関係ないこと。
 だが、これから先に彼らに関係しないかどうかは‥誰にもわからない。