●リプレイ本文
●何時まで出てくるカボチャキメラ
「敵は‥‥かぼちゃのお化けですか。それはいいんですが、やはり爆弾というのが厄介ですね〜」
モエギ・マーブル(
ga3445)が金の髪を触りつつ、うん。と、ひとつ頷く。メイド服姿が可愛らしい。
悪質なフライング・サンタさんですね〜♪ と、可愛らしく笑うシェリル・シンクレア(
ga0749)だが、当然、見過ごすことも、容赦するつもりも無い。
「まだ残ってましたか〜オレンジ・ジャックちゃんとブラック・ランタンちゃん♪」
「ハロウィンは終わったというのに、迷惑な話ですね‥」
これ以上の被害を出す前にと、鳴神 伊織(
ga0421)は視線を踊るオレンジ・ジャックとブラック・ランタンに向ける。シェリルが、小首を傾げて、緩い癖のある長い銀髪を揺らす。
「白い袋にプレゼントを入れて子供に渡そうとするなんて、サンタのつもりなんでしょうか?」
「カボチャの癖に、クリスマスに煙突から不法侵入してくるじいさんの真似かよ」
やれやれと、内藤新(
ga3460)は仲間達の後から付いていく。不法侵入は困るが、置いて行くのがプレゼントならば、多少は目をつぶってもかまわない。ドリームなのだから。けれども、災害を置いていかれるのは困る。
「‥子供心を傷つけるキメラは、まさに小さな魔物」
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)は、溜息を吐く。ハロウィンのイベントへ参加するつもりだったのだが、任務で行きはぐれば、ハロウィンの象徴のような顔をしたキメラが、子供達の心をえぐる。嫌な話だと、ひとり呟く。
「俺様のトコじゃないっつってもな」
禁煙パイポを器用に咥えたまま上下させつつ、角田 彩弥子(
ga1774)はその長い髪をかきあげる。教員免許を持つ彼女は、学生が学校で危ない目に会うのが許せない。
「見過ごせねえな」
場所は小学校だ。トラウマになってしまっては可愛そうだ。
「避難は終わっているみたいだよ」
万が一を考えて、篠森 あすか(
ga0126)は、学校周辺の避難状況を確認してきていた。幸い、迅速に避難誘導され、残るは学校のみになっている。よし。と、彩弥子が頷く。
「賞味期限切れのカボチャキメラ‥さっさと片付けてやらねぇとな」
「そうですわね。早急にご退場願います♪」
シェリルは、落ちそうな眼鏡を、両手で、くいっと直すと、はい。と、笑みを浮かべた。
●カボチャ退治
「爆弾に関する情報は無しですか‥」
どんな爆弾かを聞き込んでいた伊織は、あくまでも予想の範囲だがという話しか聞けなかった。思いついた事を口にしてみるが、言っているうちに、やっぱりまずいかしらと、あすかはがっくり来る。
「投げられた爆弾をキャッチして投げ返す‥‥って考えが頭をよぎったんだけど、これじゃ袋の爆弾に誘爆しちゃうよね」
「一応、作戦通りに‥な?」
ホアキンは新から練成強化を受けながら、穏やかに声をかける。熱くなった左手に目を落とせば、そこには磔刑の釘痕のような痣が赤く光って浮かび上がって来る。覚醒だ。
「そうだよね、がんばろう」
うん。と、あすかはすぐに頭を切り替えて、力を発動させる。
「練成強化完了です。これであなたの武器の切れ味は新品以上」
にっと笑う新の両手首から先は、オレンジの光をぼうっと放ち。
「行くよっ!」
オレンジと黒のリボンの付いた爆弾を手にした、オレンジ・ジャックとブラック・ランタンは、キキキッ。ゲゲゲッ。と、愉快そうに校庭で踊っている。ドーン。ドーン。と、次々に音がする。校舎に投げられていないのが救いか。
「やめろクソカボチャ!そんなプレゼント、地面だって喜ばないぜ」
新の声に、踊りまくっていた二体のキメラは、ぴたりと動くのを止めた。そうして、二体そろって、くるりとこちらを向いたのだ。何やら、話すかのように顔を寄せ合うオレンジ・ジャックとブラック・ランタンは、能力者に向かってプレゼントを持って走って来る。
「うっそ!」
その手にしたプレゼントを、ポーン、ポーンと投げる。
「当たれっ!」
あすかのアサルトライフルから放たれた弾丸は、ひとつのプレゼントに当たり、空中で派手な音を立てる。しかし。もう一つのプレゼントは、そのまま、能力者達の近くに落ちて、ドーンと音を立てた。
「仕方ない。行くぞっ!」
スナイパーがあすか一人なので、どうしても投げられるプレゼント──爆弾を撃つ時間が足らない。爆発の衝撃を受けながらも、彩弥子が声をかける。狙いはオレンジ・ジャック。こちらに走りこんで来たのが幸いする。囲む為に能力者達が走り込む距離が短い。爆風を受けながら、近付けば、怒ったようなオレンジ・ジャックへとホアキンのソードが唸りを上げてオレンジ・ジャックを襲う。狙いは白い袋を持った手だったが、流石に爆風を避け、デコボコの校庭を走りながら当てるのは無理があった。しかし、ソードは確実にオレンジ・ジャックに深手を与える。何所か子供っぽかったモエギの頬が紅潮し、妖艶な表情を作る。その双眸は黄金に輝き、ファングがオレンジ・ジャックを襲う。よろけたオレンジ・ジャックへ伊織が近付き、白い袋から、手を離させようとする。足場に注意していたおかげで、安定して近づけたのだ。
「!」
だがしかし。袋の近くにいるのは、オレンジ・ジャックだけでは無い。むんずと、伊織を捕まえたのは、ブラック・ランタンである。
「くっ!」
ブラック・ランタンの、特殊能力は、怪力である。捕まれた腕が、みしみしと音がしそうだ。
「させないよっ!」
赤白のサンタカラーに塗りわけられた装備の彩弥子が、縦長になって、蛇の瞳孔に似た瞳を固定する。その双眸が捉えたのはブラック・ランタン。アーミーナイフが閃いた。僅かに緩んだブラック・ランタンの手から抜け出た伊織も、一歩下がるとゆらりと揺れる蛍火を、傷を負ってたたらを踏んだブラック・ランタンへと叩き込む。伊織は、その身体から、青白い淡い光を溢れさせ、髪と瞳に蒼い輝きを宿し。
「この一撃‥貴方達に耐えられますか‥?」
オレンジ・ジャックの方も、南瓜頭がホアキンのソードで貫かれて居た。
「‥シチューにできないのが残念だ」
穴だらけの校庭の中、オレンジ・ジャックとブラック・ランタンは自ら作った穴へと落ちていった。
●そろそろ年越しの気配がするし
小型爆弾を解体していたシェリルは、途中でUPCの解体班に取り上げられる。そう複雑な爆弾では無かったが、いくら安全を確認してと言っても、何の施設も無い場所で一人で行うのは、危険だ。何所から入手したのかも、誰が作ったのかもわからなかったが、とりあえず、小型爆弾の大量爆発事件は沈静化に向かっている。これ以上この町に居る必要も無い。
「弄んでみたかったのに〜」
「輸送機の中で爆発したら、大変だし」
あすかが、純粋な好奇心ですのにと、残念そうなシェリルをなだめる。
「持って帰るのも駄目か‥」
彩弥子も、サンプルとして持ち帰るつもりだったようだが、怒涛のように現れたUPCの爆発物解体班が、破片一つも見逃さず、綺麗に持ち去ったのでは仕方ない。しょうがない。埋め戻しを手伝うかと、腕まくりする赤白のサンタカラーの彩弥子は、働くサンタさんとして、子供達に受けていた。
「さよならトリックオアトリート&こんちはメリークリスマス」
ホアキンの持って来た白い袋から出てくるのは、色とりどりのお菓子。
また、爆弾のような怖いものだったらどうしようと、息を詰めて手元を見ていた子供達は、みるみるうちに笑顔になって。
「いらはいハッピーニューイヤー」
‥かな? と、子供達に穏やかな笑みを浮かべて。
能力者達のおかげで、何とか、オレンジ・ジャックとブラック・ランタンは退治される事となったのだった。
代筆:いずみ風花