タイトル:HW☆ボンバー!マスター:中畑みとも

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/11/10 15:55

●オープニング本文


『ラスト・ホープ』
 人の手で作られたこの都市でも、昔と変わらぬ人々暮らしが日々営まれている。
 その為か、いつもどこかしらで人々の心を和ませる色々なイベントが行われている。

 今日も街角の小さな窓を飾るオレンジ色のカボチャ。
 壁に蝙蝠やファンシーなお化けが描かれたポスターが貼り出されている。
 そこに書かれた「Trick or Treat!」の文字。
 ──『ハロウィン』である。


 その男は毎日の日課である畑仕事に向かっていた。鍬を背負い、鼻歌を歌いながら道を行く。
 男の住む村は人口的にも規模的にも、とても小さいものであった。金持ちも居なければ、酷い貧乏人も居らず、村に住む者たち全てがほぼ自給自足のような生活を営んでいるような村。寂れた、と言っても過言ではない場所であったが、治安は悪くなく、キメラの被害も滅多に出ない、平和な村であった。
 しかし、男が畑へと着いたとき。そんな村の平和が一瞬にして突き破られた。

 破ったのは、一匹のネズミであった。いや、男がもう少し危機感を持っていれば、それが『ボンバーマウス』と呼ばれるネズミ型のキメラであったことが判っただろう。ボンバーマウスは、明らかな恐怖の表情を顔に貼り付け、何かから必死で逃げている様子だった。
 男のことなど全く目もくれず、物凄いスピードで村へと逃げ込んでいくボンバーマウスに、男は恐る恐るボンバーマウスがやって来た方向に目をやった。
 そこには自分が耕した大切な畑が広がっており、その奥には見慣れぬオレンジ色の物体が転がっていた。
 男は、止めておけばいいものの、怖いもの見たさから、そのオレンジ色に近づいていった。それが何やらカボチャらしきものであることが判別出来るくらいまで近づいたとき、ガバリとカボチャが動いた。
「ひ、ひええええっ!」
 男が悲鳴を上げて尻餅をつく。急に動き出したカボチャは、ハロウィンの時期になるとよく見られるジャック・オ・ランタンのように顔がくり抜かれており、子供ほどの身長で、黒いマントと黒いタイツを履いていた。それは最近巷を騒がせている『オレンジ・ジャック』と呼ばれるキメラであることを、男は知らなかった。
「ば、ば、ば、化け物!」
 オレンジ・ジャックから立ち上る、あまりのプレッシャーに、男は腰を抜かしたまま這い逃げようとする。しかし、オレンジ・ジャックはそんな男に気付いてもいないように村の方を睨み付けると、子供が癇癪を起こすように地団太を踏んで、村へと走って行った。
 命が助かったらしい男は、ぽかんとしてオレンジ・ジャックを見送る。


 オレンジ・ジャックの頭の後ろに、ネズミに齧られたような跡がついていた。

●参加者一覧

九条・命(ga0148
22歳・♂・PN
雪ノ下正和(ga0219
16歳・♂・AA
劉黄 柚威(ga0294
27歳・♂・SN
ハルカ(ga0640
19歳・♀・PN
皇 千糸(ga0843
20歳・♀・JG
神徳 奏音(ga1473
24歳・♂・SN
新居・やすかず(ga1891
19歳・♂・JG
時任 椎那(ga3988
21歳・♂・FT

●リプレイ本文

 すっかり荒れ果ててしまった村の中を、一体のボンバーマウスが駆け抜けて行った。命の危機を必死に回避しようと、持て得る全ての力を使って駆けるボンバーマウスは、物凄い速さで去って行く。そしてその後を、両手をぶんぶんと振り回しながらオレンジ・ジャックが追いかけて来た。ボンバーマウスを見失ったらしいオレンジ・ジャックが悔しそうに地団太を踏むと、カボチャがガクガクと揺れる。
「‥‥何というか‥‥被害の割りに深刻そうに感じられないんですけど‥‥」
「カボチャとネズミの、鬼ごっこに参加するのか‥‥?」
 新居・やすかず(ga1891)がキメラの様子を確認して呟けば、劉黄 柚威(ga0294)が微妙に疲れたような溜息を吐いた。
「まあ、これも村を助けるためです。作戦を実行しましょうか」
 そう言って、新居は本部から借りてきた無線機を取り出した。

 ボンバーマウスを探してウロウロとしているオレンジ・ジャックの前に立ったのは、皇 千糸(ga0843)だった。何を考えているのか、小首を傾げてくるオレンジ・ジャックに対して、馬鹿にしたような笑みを向ける。
「そこの愚鈍な南瓜頭。尻尾丸めて逃げるなら今のうちよ」
 言って、はんっと皇が鼻で笑うと、言葉の意味は判らないにしろ、自分が馬鹿にされたらしい事は気付いたオレンジ・ジャックが、ガガガガガとカボチャを揺らし、地団太を踏んだ。そして物凄い速さで皇に迫ってくる。
「っ! 早っ!」
 思わず防御体制を取った皇の腰を、九条・命(ga0148)が掴む。オレンジ・ジャックの拳をギリギリのところで回避した皇は、九条を見上げた。その身体には包帯が巻かれており、怪我が治っていないにしろ、手当てはきちんとしているらしい事が判る。その傷に触れないように、皇が立ち上がった。
「ありがとう、助かったわ」
「予想以上に俊敏だな‥‥」
 2人が顔を見合わせ、オレンジ・ジャックに背を向ける。それを、オレンジ・ジャックはゆっくりとした動きで振り返ると、カボチャを小刻みに揺らしながら追いかけて行った。

 ガッと音がして、無線機から九条の声が聞こえて来る。それに答えるのは屋根の上にいる新居だ。
「判りました。スタンバイします」
 新居がサッと手を上げると、同じく屋根の上に待機していた劉黄が頷き、家の影に隠れていた雪ノ下正和(ga0219)が逸る気持ちを押さえつけるように刀を握る。雪ノ下の反対側にある家の影にはハルカ(ga0640)が準備運動をしながら待機していて、また別の家の影では時任 椎那(ga3988)が「カボチャ‥‥煮物‥‥」とぶつぶつ呟いていた。
 少しして、待機していた者の目に、皇と九条の姿が映る。その後ろにはオレンジ・ジャックが迫っていた。
 新居と劉黄が、オレンジ・ジャックに向かって小銃を構え、引き金を引く。暴走していたオレンジ・ジャックはその気配にギリギリまで気付かず、何とか避けたものの、マントとカボチャに穴が開いてしまった。それにオレンジ・ジャックが愕然とした様子で固まる。
「行っくよー!」
 敵を確認したと同時に覚醒してファングを構えたハルカが、オレンジ・ジャックへ迫った。そしてその爪を振り下ろそうとするが、オレンジ・ジャックの腕に掴まれる。その素早さに、ハルカが「お?」と楽しそうに笑うと、オレンジ・ジャックはガゴンッと顔を上げ、ハルカを睨んだ。
「うわっ! B級ホラーみたい!」
「バグアのくせに逆ギレかよっ! 逆ギレしたいのは、お前等バグアのせいで貧乏になってる俺の方だっ!!」
 雪ノ下の刀がオレンジ・ジャックの腕を狙う。それをオレンジ・ジャックがハルカの腕を放して回避すると、刀を逆手に装備した時任がオレンジ・ジャックに斬りかかった。時任はオレンジ・ジャックの懐まで迫るが、俊敏な動きで逃げられてしまう。
「‥‥早い‥‥」
 オレンジ・ジャックが両腕を大きく広げ、周りにいた傭兵達を吹き飛ばすようにグルンと身体を回した。振り回される腕を雪ノ下とハルカは一足早く後ろに飛んで避けたが、一番接近していた時任はもろに喰らって横に吹き飛ぶ。
「椎那さん! 大丈夫ですか!?」
「‥‥ん‥‥大丈夫だ‥‥」
 掠り傷はあるものの、上手く受身を取って起き上がった時任に、新居がホッと胸を撫で下ろした。
「そいつ、かなりすばしっこいわよ! 足を狙いなさい!」
 皇が小銃を構え、オレンジ・ジャックの足を狙う。ハルカと雪ノ下に気を取られていたオレンジ・ジャックは、その弾丸を避けきれずに受けてしまった。グラリと体勢の崩れるオレンジ・ジャックに、劉黄が屋根の上からカボチャ頭を狙う。それに気付いたオレンジ・ジャックが、身を捻って逃げようとするが体勢が悪く、中心こそ避けたものの、弾はカボチャ頭を貫通して行った。
「今だっ!」
 どちらが先に叫んだのか、雪ノ下と九条は動きの止まったオレンジ・ジャックにチャンスとばかりに目を輝かせる。
「未完成の必殺技! 試させて貰うぜ!!」
「くそう! ついこの前までの俺の全財産2千円! 貧・乏・退・散っ!!」
 九条がオレンジ・ジャックの右側から疾風脚を使って駆け出した。その反対側、オレンジ・ジャックの左側では、雪ノ下が豪破斬撃を発動している。
 2人が同時にオレンジ・ジャックへと迫った。
「これが俺の未完成必殺拳、『狼牙』だ! 喰らえ!!」
 九条が疾風脚に瞬天速をも加え、極限まで速度を上げた拳を振り上げる。狼の紋章が輝く右拳が、物凄い勢いでオレンジ・ジャックの身体に入って行く。
「貧乏人の怒りを思い知れっ!! 必殺っ、気合斬りっ!!」
 怒りに任せて思いっきり振り下ろされた雪ノ下の刀が、オレンジ・ジャックの固いカボチャにめり込んで行く。メキメキと嫌な音がして、カボチャが切り裂かれて行った。
 2人の攻撃を同時に受けたオレンジ・ジャックが、ゆっくりと生命機能を停止し、崩れ落ちる。
「‥‥これじゃあ、必殺技がどれだけの威力だったか、よく判らねぇな」
「ん? ああ、すまねぇ。邪魔しちまったな」
「いや、お前の怒りも判るからな。また別のところで試すさ」
 動かなくなったオレンジ・ジャックを見下ろし、覚醒を解いた九条と雪ノ下がのんびりと話す。それに、皇が「ちょっとー」と声をかけた。
「今度はネズミよ。さっさと済ませちゃいましょう」


 ヒクリッと身体を震わせ、異様な影に見下ろされたボンバーマウスは、恐怖に怯えた目でそれを見上げる。目の前にいたのは、3体のカボチャ頭だった。
「みぃーつけたわよぉー」
 ゆらぁーと近づいてくるカボチャ達に、ボンバーマウスが脱兎の如く逃げていく。
「あ! そっちじゃなくて、あっちに逃げて下さい!」
 パンッと足元の土が弾け、ボンバーマウスが慌てて方向を転換した。逃げていくボンバーマウスを追うカボチャのうち、2人の手には小銃が握られている。
「だから、そっちじゃないって」
 ボンバーマウスが逃げようとした先に、さっきとは別のカボチャが弾丸を撃ち込む。その度に、ボンバーマウスは方向転換を余儀なくされ、カボチャ達に誘導されているとも知らずに必死に逃げて行った。

「お、来た来た!」
 目の上に手を翳し、遠くを見守っていた雪ノ下は、見えてきた姿に楽しそうに声を上げた。それは、必死で逃げるボンバーマウスと、それを追いかける三体のカボチャ‥‥もとい、ハロウィンメットを被ったハルカと皇、新居の三人だった。
「‥‥追い込み班じゃなくて良かった。流石に、この歳でアレは被りたくはない‥‥」
「あいつら、すげぇ楽しそうだな‥‥」
 呟いて苦笑する劉黄に、九条も呟く。カボチャの中心にいるハルカは特にノリノリで、「喰っちゃうぞ〜!」と叫びながら走って来ていた。その様子を見て、劉黄と九条が肩をすくめる。2人の後ろでは、時任がトリモチのついた棒をしげしげと眺めたり、ぶんぶん振り回したりしていた。
 ボンバーマウスは、必死の形相でカボチャから逃げていて、隠れている雪ノ下や九条、劉黄、時任達に気付いていない。そのままその場を通り過ぎようとして、ガシャンッという音と共にボンバーマウスが引っ繰り返った。
「やった! 作戦通り!」
 雪ノ下とハルカが嬉しそうにガッツポーズをする。追い詰められていたボンバーマウスは、至る所に仕掛けられていたネズミ捕りにまんまと引っ掛かっていた。ボンバーマウスが中で暴れる度に、ネズミ捕りがガシャンと音を立てる。
「ふふふ、どうしてくれようか〜」
 ハロウィンメットの下でにやにやと笑って、ハルカが近づく。と、ボンバーマウスがカッと口を大きく開き、炎弾を吐き出した。それに思わず飛び退ったハルカの目の前で、ネズミ捕りが溶け、ボンバーマウスが逃げ出す。
「あ! あいつ、何か吐いたよ!」
「逃がさないわよ!」
 スナイパー達が己の小銃をボンバーマウスに向かって構える。が、その前にぬっと伸びてきた棒にボンバーマウスが絡め取られた。それは時任が振り回していたトリモチ付きの棒だった。
「椎那くん、ナイス!」
 グッと親指を立てるハルカに、時任が無表情で親指を立て返す。
「さて、お仕置きの時間ですね」
 トリモチに足を取られ、もがくボンバーマウスを、三つのカボチャと傭兵達が見下ろした。


■オレンジ・ジャック、ボンバーマウスの退治
■任務終了!