タイトル:けい助、行きます!マスター:中畑みとも

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/08 22:18

●オープニング本文


 竜生九子。それは、中国に伝わる伝説上の生き物で、竜が生んだ九匹の子の事を指す。
 彼らは九匹とも性格も姿も異なり、各々の性格に合わせた場所でそれぞれの活躍を見せたと言われている。
 そして、ここにその名を冠する、一つの傭兵グループがあった。
 メンバーがそれぞれ各々の得意を持って活躍することを思い、その名を付けられたグループは、新人の育成を目的としており、その為、指導メンバー以外は殆ど新人である。その上、一人前になった傭兵は、そのグループを抜けさせられるという、なんとも珍しいグループであった。


 そんな竜生九子のメンバーの中に、一人の青年がいる。名前を、上条・けい助(カミジョウ・ケイスケ)。傭兵になって半年の、まだまだ新人の域を出ない青年であったが、今竜生九子の中でも急成長中の、優良株と見られている人物である。
「けい助くん。ちょっといいかしら」
 上条を呼び止めたのは、竜生九子内で参謀の位置にいる女性サイエンティストだった。手には仕事の依頼らしい書類を沢山持っている。女性はその書類の中から一枚を取り出し、上条に手渡した。
「先日、うちの訓練でロボットを作成したのは知ってるわよね? それでね、うちの予算が大分なくなっちゃったのよ。だから、あなたにも手伝ってもらおうって、リーダーがね」
「え?」
 リーダー。その言葉に、上条はパッと顔を綻ばせた。竜生九子のリーダーは、歳は若いが能力は高く、経験も豊富で人に慕われており、彼に認められようと竜生九子に所属を希望するものが後を絶たないと言われる人物である。だが、竜生九子内でも、その彼から直接依頼を配布されることは滅多になく、配布されるということは認められたということで、とても名誉なことだと、上条は理解していた。
 その彼が、自分を、指名した。
「嬉しいのは判るけど、ちゃんと話を聞いてね」
 思わず顔がにやけていたのだろう。呆れたような疲れたような顔の女性に、上条は慌てて姿勢を正す。
「あなたにキメラ退治の依頼へ行ってもらうわ。キメラの名前はナイフプチャット。単体としてはそれほど強くない相手だけれど、群れで行動しているらしいの。目撃情報によれば、最低6匹。チームプレーで攻撃してくるようだから、こちらもそれ相応の作戦を立てなければならないわね。‥‥ここまでは判る?」
 問われて、説明中からうんうんと何度も頷いていた上条は、「ん?」とカクリと首を傾げた。そのきょとんとしたような、まるで子供のような表情に、女性は溜息を吐く。
「勿論、あなた一人に行ってもらうわけじゃないわ。こちらで他のメンバーを募集するから、あなたはその中に入って、彼らと一緒に仕事をして。いいこと? あなたは彼らの指示を聞き、それに従うのよ。決して、一人で暴走しないこと。必ず、彼らの指示に従って。必ず、絶対よ」
「はい! キメラを退治すればいいんすよね! 頑張ります!」
 女性に元気よく返して、上条は拳を振り上げながら去って行く。その背中を見送り、女性は大きな溜息を吐いた。
「はぁー‥‥本当に大丈夫かしら。心配だわ‥‥あの子、能力は高いのだけれど、ちょっと‥‥頭がね‥‥」

 上条・けい助。竜生九子内で急成長中の新人傭兵。
 体力と攻撃力、そして防御力がずば抜けて高く、多少の攻撃では揺るがない強さを持っている青年。
 素直な性格で、判らないことはすぐに他人に聞きたがり、自分の名前の漢字が難しくて書けなかったので、平仮名で登録したという青年。
 誰に彼を調査させたとしても、特記事項には恐らく、必ず同じことを書かれるだろう青年。

 特記事項、『お馬鹿です』

●参加者一覧

九条・命(ga0148
22歳・♂・PN
白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
天・明星(ga2984
13歳・♂・PN
ソウ・ジヒョウ(ga5970
27歳・♂・SN
佐倉祥月(ga6384
22歳・♀・SN
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA

●リプレイ本文

「居たぞ。数は‥‥6匹。依頼の通りだな」
 遠くから双眼鏡を構え、キメラであるナイフプチャットを確認した龍深城・我斬(ga8283)は、伸びてきた手に双眼鏡を渡した。龍深城の双眼鏡を借りて覗き込んだ九条・命(ga0148)は、その片眉を上げる。
「‥‥1匹、他より体が大きいのがいるな。さしずめ、5匹の親と言ったところか?」
「なるほど、親子でチームプレーですか。これは手強そうですね」
 九条の言葉に頷いたのは天・明星(ga2984)だ。思案するように辺りを見回す。
(現在、ナイフプチャットの繁殖記録は確認されていないが判別の便宜上一番大きいナイフプチャットを親と呼び、二番目に体が大きいナイフプチャットを長男と呼ぶ)
 彼らがいるのは、静かな村の中だった。どうやらナイフプチャットが現われたことで、住民は村を捨てて逃げ出したらしい。ところどころにナイフプチャットがつけたらしい獣爪の傷跡はあるものの、建物自体は少しも崩れているものはなく、ナイフプチャットが現われてからあまり時間が立っていないことが判る。
「さて、けい助。君にはスナイパー2人を邪魔されないよう、護衛をして貰おう。近づく敵が居たら遠慮なく叩きのめしてくれ。ただし、2人から指示が出た場合はそれに従う事。いいかな?」
「了解っす!」
 白鐘剣一郎(ga0184)の指示に、上条・けい助(gz0066) がにっかりと笑って敬礼をした。その後ろで、佐倉祥月(ga6384)が穏やかな笑みを浮かべ、上条に近づく。
「お願いね、けい助さん。私とソウさんの安全はあなたにかかってるんだから」
「はい! 頑張るっす!」
 そう言って張り切った様子の上条に、ちょっと困ったように眉を下げて苦笑したソウ・ジヒョウ(ga5970)が、ぽりぽりと頭を掻いた。
「なにげに大変な役を引き受けちまったかな、こりゃ」
 視線の先で、ナイフプチャットの尖った耳がぴくりと動いた。


 グルルル、と低く喉を鳴らして、一番体の大きい親ナイフプチャットが威嚇をすると、周りをウロウロしていた他の5匹がパッと振り返り、親の近くに戻った。そのフォーメーションを崩さんと、一番槍に飛び出したのは白鐘と龍深城だ。
 月読を抜いた白鐘に、長男ナイフプチャットが牙を向いて襲い掛かった。白鐘は長男ナイフプチャットの噛み付こうとする牙を月読で防ぎ、体を捻って受け流す。長男が悔しそうに振り返るのと同時に、2番目に体の大きい次男ナイフプチャットが白鐘の背中に爪を振り下ろした。その爪が背中へ届く前に、龍深城の棍棒が割り込む。
「だらぁっ!」
 龍深城の棍棒は次男の胸を持ち上げ、そのまま投げ飛ばした。飛ばされた次男が空中で体を捻るように体勢を整え、地面に降り立つ。
 白鐘に攻撃を避けられた長男が体を翻し、白鐘に突撃してきた。白鐘がそれを避けると、長男は次男の横に並ぶ。
 白鐘と龍深城を睨みつけ、すくりと、まさに猫科を思わせる優雅な仕草で、親ナイフプチャットが立ち上がる。それを合図に、親の周りで待機していた他の3匹も動き出した。
 前衛に長男と次男、中衛にまるで三つ子のように体格の揃ったナイフプチャットが並び、後衛に一際牙の長い親が立つ。三つ子が並んで走り出すと、長男と次男がバッと横に飛び、それぞれ白鐘と龍深城を襲う。
 龍深城が棍棒を縦に振り回し、次男の伸ばした爪を弾き返した。そこに囲むように三つ子ナイフプチャットが現われ、龍深城が目を細める。三方から突き出される三つ子の爪に、龍深城は思いっきり棍棒を振り回した。自身を中心に、円を描くようにして振り回される棍棒に、三つ子が飛び退る。
 一方で長男の牙を無駄のない動作で避けた白鐘は、背後から迫る次男の爪を掻い潜り、その腕に月読で斬り付けた。虎のように太い腕からパッと赤い血が吹き出るが、斬り付けられる瞬間に腕を引かれたのか、傷は浅いようだ。
 だが、その様子に親が動く。大きな後ろ足で地面を蹴り上げ、一気に白鐘に飛び掛った。ズンッと音を立てて親の爪が地面を抉り、間一髪で避けた白鐘の前髪がパラリと風に散る。
 長男と次男が親のフォローをしようと、近づく。そこを、白鐘は見逃さない。
「‥‥そこだっ! 天都神影流・虚空閃!」
 一足飛びに、龍深城へ肩を合わせた白鐘は、親たちに向かってソニックブームを放った。放たれた衝撃波を親たちが飛び退って避けると、三つ子との距離が大分開く。
「よっしゃっ! 行くぜ!」
「了解!」
 それに飛び出したのは砂錐の爪を装備した九条と、ゼロを両手につけた天だ。白鐘が分断した陣形を元に戻さないよう、3匹に向かってその爪を向ける。
 疾風脚を使って飛び出した九条は、瞬天速で一瞬にして親との間合いを詰めた。振り上げられた親の牙を避けつつ、懐に入り込むと、瞬即撃を叩き込む。防御の出来なかった親を蹴り飛ばし、九条は小銃「M92F」を取り出すと、近づいて来た次男の胸に向かって弾丸を撃ち込んだ。弾丸が肉に減り込む鈍い音と共に、次男が苦しげな鳴き声を上げる。
 銃撃で後ろに下がった次男に、九条が瞬天速で飛び掛った。砂錐の爪で次男の即頭部を蹴りつけると、ぐらりと体を傾がせた次男の顎の下に入り込み、それを思いっきり蹴り上げる。
 蹴り上げられた次男は顎を空へ向け、後ろ足だけで立った状態になった。その腹部に、九条はとどめとばかりに蹴りを入れる。まるで抉るような蹴りに、次男の体は背後にあった小屋を壊しながら飛ばされた。バラバラと壊された木製の壁が地面に落ちる向こうで、壁に叩きつけられた次男はピクリとも動かない。
 一方で、天は悔しそうにぎりっと歯を噛み締めた。ガツンッとぶつかってくる長男の牙は重く、受ける天の腕が痺れ始める。それを何とか跳ね返し、天が体勢を整えようとしたとき、横から親が迫ってきた。
 近づいてくる爪に慌てて天がゼロを構えるが、無理な体勢であったせいか、振り下ろされる爪の衝撃に天の体が吹き飛ばされる。ゴロゴロと地面を転がる天に、再び親が爪を振り下ろそうとするのを、後方から飛んで来た矢が制止した。
「大丈夫ですか?」
 後方にいたのはアーチェリーボウを構えた佐倉だった。素早く天が体勢を整え、親から距離を取るのを見て取って、佐倉はすうっと目を細めると、親の頭部に向かって矢を放った。鋭覚狙撃によって放たれた矢は、親の右目に突き刺さる。
 悲痛な悲鳴を上げる親に、天が止めを刺そうとゼロを構えたとき、それを防がんと長男が牙を向けてきた。ガツッと音を立てて地面に突き刺さる牙を紙一重で避けた天は、その首元にゼロを突き立てる。急激な痛みにもがく長男に天がたたらを踏み、引き摺られるのに天が舌打ちをした。
 天はゼロを長男の首から引き抜くと、前足の筋を狙って切りつけた。がくりと体勢を崩した長男の横腹を蹴りつけ、横倒しにする。天はザリザリと地面を削る長男に飛び掛ると、渾身の力を持って、ゼロを長男の心臓部に突き刺した。ガッと目を見開いて、最後の力を振り絞るように急激にもがき、天に牙を突き刺そうとした長男の首に佐倉の矢が突き刺さる。
 周囲を揺らすような雄叫びが轟いて、佐倉はハッと顔を上げた。右目に矢が刺さったままの親が、猛然とこちらに向かっているのが見える。
「けい助っ!」
「了解っす!」
 慌てて矢を番えようとする佐倉を守るように、親との間に入ったのは上条だ。ソウの指示に、怒りの形相で振り下ろされる牙をバトルアクスで受け止める。
「けい助さんっ!」
「何のこれしきぃ!!」
 ギリギリと押してくる親に、上条の腕の筋肉が盛り上がった。がっしりと捕まれた肩に、親の爪が抉り込むのも構わず、上条が牙を押し返す。
「けい助! そのまま動くな!」
 叫んで、ソウがハンドガンを構えた。両手に一丁ずつ持ったハンドガンの銃口を親に向け、連続で引き金を引く。弾丸は指示の通りにピタリと動きを止めた上条の足元を擦り抜け、親の足を打ち砕く。
 足を砕かれた親が上条に圧し掛かってきた。上条がそれを雄叫びを上げながら投げ飛ばすと、親は重い音を立てて地面に倒れる。
 上条は、倒れた親の首元に向かってバトルアクスを振り下ろした。鈍い音を立ててバトルアクスが地面に減り込み、親の首がごとりと落ちる。
 その様子に見ていた九条と天が、上条に向かってグッと親指を突き出し、上条が嬉しそうにブイサインを返した。
「さて。あちらは終わったようだな」
 ふむ、と頷いて、白鐘は飛び掛ってきた三つ子の爪をひらりと避けると、龍深城と背中を合わせる。龍深城はくるくると棍棒を回し、ちらりと白鐘を見る。
 次々と飛び掛ってくる三つ子を、龍深城が棍棒で打ち返した。三つ子のうちの1匹が、龍深城に向かうと見せかけ、白鐘に牙を向ける。
「‥‥天都神影流、流風閃・紅!」
 白鐘はそれを予想していたように、まるで円を描くように優雅な仕草で避けると、素早くナイフプチャットの側面で月読を翻した。白鐘の体が赤い炎のようなオーラに包まれると同時に、ナイフプチャットの体が両断される。
 それを見て取った三つ子の残り2匹が、龍深城に襲い掛かった。その体を殴り飛ばそうとした棍棒に1匹が噛み付き、龍深城の動きが止まる。
 その一瞬を逃さず、もう1匹が龍深城に牙を振り下ろした。肩口に突き刺さろうとする牙に、龍深城が痛みに顔を歪める。と、銃声と共に重かった棍棒が軽くなり、肩に牙を突き立てていたナイフプチャットが苦しげに身を捩った。その拍子に肩から牙が外れ、龍深城は棍棒を握りなおすと、痛みにもがくナイフプチャットの頭部を渾身の力で殴る。殴られたナイフプチャットの頭部は地面に減り込み、血がジワジワと砂を汚した。肩の痛みをなくそうと、龍深城が体の細胞を活性化して傷を治しながらナイフプチャットを見れば、その腹部には佐倉の放った数本の矢が突き刺さっている。
「我斬!」
 白鐘の声に顔を上げ、慌てて棍棒を構えた龍深城に、最後のナイフプチャットが噛み付いてきた。弾丸で抉られた首元からボタボタと血が落ちているにも関わらず、物凄い力で棍棒を折ろうとするナイフプチャットに、龍深城が歯を食いしばる。
 そこに数発の銃声が響き、ナイフプチャットの首元から新たな血が吹き出した。何発も打ち込まれる弾丸に、ナイフプチャットの目が少しずつ濁り、そしてついに力なく崩れ落ちる。その様子を見届けた龍深城はホッと息を吐き、未だ煙を上げる銃口をナイフプチャットに向けているソウに笑いかけた。


「はい、これで終わり」
「ありがとうっす!」
 パタンと救急セットを閉じて、佐倉は手当てを終えた上条に微笑んだ。屈託無く笑う上条に、(弟とは違うタイプで弟みたいね)とふと思い、(けい助さんは年上なはずなのにね)と小首を傾げた。
「へへへ、キメラも無事倒せたし、リーダー褒めてくれるっすかね?」
「おお、褒めてくれるんじゃねぇの?」
「そうだな。よくやったよ」
 にこにこと笑う上条に、九条と白鐘も笑い返す。
「しかし、新人の育成専門の傭兵グループなんてあるんだな。ちょっと興味あったりして」
「俺もだ。なかなか若い実力者もいるようだしな」
 上条を見ながら龍深城が呟けば、ソウも頷いた。空を見上げれば、自分達を迎えに来た輸送機の姿が見える。
「また依頼で一緒になることがあるかもしれないっす。そんときはよろしくお願いするっす!」
「ええ、こちらこそ」
 上条と天ががっちりと握手を交わしたとき、輸送機がゆっくりと地面に降り立ち、満足そうな笑みを浮かべた女性が現われた。