タイトル:マンドラゴラの山マスター:中畑みとも

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/08 22:00

●オープニング本文


 その日、男性は食事に使う為の山菜を取りに、近くの山に登っていた。
 里の近くにあり、子供の頃からの馴染みの山は、それなりに歩き辛い道であっても、男性にとっては何の苦もない。
 一緒にやって来た愛犬も、楽しそうに山を駆け上がって行く。その様子に笑いつつ、男性は山菜を探して奥へと入って行った。


 暫く歩くと、周りは深い木々に囲まれていた。半分程が埋まった山菜籠を見て、男性は後ろを振り返る。そろそろ山の中腹を越えようという場所だった。ここら辺で戻らないと帰りが遅くなってしまう。
 男性はそう判断して、愛犬の名前を呼んだ。だが、いつもならすぐに飛んでくる愛犬からは鳴き声しか帰って来ない。何かを見つけたような、そしてそれを自分に知らせているかのようなその鳴き声に、男性は怪訝に首を傾げながら、愛犬の元へと足を運んだ。
「どうしたんだ?」
 着いたのは、まるで木々が避けて育ったかのように円状に黒い土だけが広がる場所だった。何だか妙な雰囲気がして、男性は空恐ろしくなる。
 そんな場所で、愛犬は地面に向かって必死に吼えていた。普段こんなに吼えることのない愛犬の様子に只ならぬ思いを抱きつつ、男性は愛犬の視線の先を見つめる。
 そこには、短い玉ねぎの葉にも似たものが生えていた。しかし色は黒く、遠目から見れば土と同化してしまうほどだ。よく見れば、辺りには同じような葉が沢山生えていた。
 見たことのない植物だ。男性は試しにその葉を引っこ抜いてみようと手をかけ、少しだけ上に引っ張った。
「ぃぃぃぎぎぎぎいいい」
 途端、気味の悪い声が聞こえて、男性はバッと葉から手を離した。愛犬は何か恐ろしいものに出会ったように尻尾を丸め、葉に向かって威嚇するように吼え続けている。
 男性の脳裏に、一つの言葉が閃いた。マンドラゴラ。塊根が人間の形をしており、引き抜くと恐ろしい悲鳴を上げ、その悲鳴を聞いた者は死んでしまうと言われている、伝説の植物。まさか、まさか。
 酒の席で聞いたなら、御伽噺と一笑する男性だったが、この気味の悪い場所に生える見たこともない植物を前にし、更に今さっき確かに聞いた声が、男性に大きな不安を呼び起こした。腰を抜かす寸前の男性に、愛犬が不安そうにすがり付く。
 その男性の目の前で、引き抜きかけた葉の周辺の土が、ぼこりと動いた。
 瞬間、男性は悲鳴をあげ、山菜籠も頬り投げて山を駆け下り、愛犬もそれを追って脱兎の如く逃げ出して行った。

●参加者一覧

雪ノ下正和(ga0219
16歳・♂・AA
ケイ・リヒャルト(ga0598
20歳・♀・JG
白鴉(ga1240
16歳・♂・FT
高村・綺羅(ga2052
18歳・♀・GP
三島玲奈(ga3848
17歳・♀・SN
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
19歳・♂・ER

●リプレイ本文

「‥‥伝説のマンドラゴラ‥‥! 花屋に並ばない伝説の植物は俺が貰ったぁぁ!」
「いや、多分キメラだろ」
 拳を握り締め、興奮したように叫んだ白鴉(ga1240)にツッコミを入れたのは、雪ノ下正和(ga0219)だった。その言葉に、ケイ・リヒャルト(ga0598)も頷く。
「そうね。伝説上のマンドラゴラだったら、悲鳴を聞いた時点で命を奪われている筈だし、一説には茎を持っただけで毒が回るというのもあるわ。葉を抜こうとして悲鳴を聞いた村の方がまだ生きているのだから、その可能性は低いわね」
「それじゃあ、やっぱりキメラか? こんな地味なキメラもいるんだな‥‥」
 ケイの解説に首を傾げたのは高村・綺羅(ga2052)だ。そんな彼らを後目に、未だ興奮状態の白鴉を少し呆れたような目で見つつ、三島玲奈(ga3848)が呟く。
「キメラの方がいいわ。犬の命と引き換えにマンドラゴラを引くなんてこと、したくないしね」
 その言葉に相槌を打ち、ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)が持っていたギュイターを肩に乗せる。
「それじゃ、調査開始するか」
 傭兵達が進む足元の土が、少しずつ黒ずんで行った。


 依頼主が言っていた場所は、確かに奇妙な場所であった。土は他の場所と違って汚れたように黒く、木々や植物らしきものが見当たらない。その中で唯一あるのは、ポコポコと頭を出しているマンドラゴラらしき黒い葉のみだ。
「‥‥これだけの広さの空間があって、今まで村の方が見つけなかったのは不思議ね。土の色も違うし、元からというよりは、まるで侵食されたみたいね」
「その考え、良い線かもよ。見て、これ」
 思案気のケイに高村が声をかける。そこには雪ノ下もいて、じーっと木の幹を見ていた。土の色が黒から本来の山土の色である茶色に変わる境界線に立った木の幹は、根の方から少しずつ黒ずんできている。
「土壌から栄養分を抜き取っているか、もしくは毒を流しているかなんかしてるみたいだな」
「地味なキメラは地味なりに脅威かもしれないな」
 高村の言葉にふむと頷いて、雪ノ下は刀を抜くと、黒ずんでしまった根を突き刺した。見下ろす下で、刀を抜いた場所からどろりと粘り気のある黒い液体が出てくる。
「毒の可能性が高いな」
「うわっ、きもっ! さっさとマンドラゴラ倒しちゃった方がいいよ、これ」
 途中から後ろで覗き込んでいた三島が、黒い液体を見て眉を顰めた。その意見に異論はなく、ケイが振り返る。
「他はどうだった?」
「土が黒いのは、ここら一帯だけのようだな。他にはマンドラゴラらしき黒い葉も生えていない」
 問いに答えたのはユーリだった。白鴉と辺りを回ってきたらしく、一緒にこちらに歩み寄ってくる。
「で、どうすんの? 抜くの?」
「抜いて動き出したら厄介だから、まず根元を銃撃してみるのはどうかな」
 どこかわくわくとした様子の白鴉に、三島が人差し指を立てて提案した。それにケイが「そうね」と呟くと、三島は早速とばかりにライフルを構える。
 マンドラゴラは抜こうとすると悲鳴をあげる。このマンドラゴラがキメラであったとしても、その悲鳴に何らかの攻撃性があるかもしれないとして、傭兵達はそれぞれ耳栓とヘッドフォンをセットした。それを見て取って三島は頷くと、ライフルの銃口を射程範囲ギリギリにあったマンドラゴラに向け、引き金を引く。
 発砲音に続いて、ザシュッと土を抉る音が続いた。黒い葉の根元には穴が開き、弾丸が命中したことが判る。だが、暫くしてもやって来ない反応に、高村がそろそろと近づいた。
 高村が随分近づいても、葉は動かない。それに高村は葉を掴むと、一気に引き抜いて、直後に葉をその場に放り投げて飛び退った。
 ぼとりと地面に落ちたマンドラゴラは、醜くも確かに伝説に見られるような人型をしている。しかし、その体のほぼ中心には弾丸で抉られたらしい穴が開いており、マンドラゴラは悲鳴を上げる間もなく絶命しているようだった。それに、白鴉がホッとしたように耳栓を外すと、他の傭兵もそれに続く。
「無難に、抜く前に銃で撃つか、武器で刺すかした方が簡単そうだな」
「そうだね。何かちょっとつまらない気もするけど」
 ユーリが言えば、高村も頷いた。ケイが小銃「フリージア」のスライドを引けば、白鴉がセリアティスを持ってマンドラゴラに近づく。
「‥‥持って帰って育てられないかなぁ」
「無理だろ」
 ぼそりと呟いた言葉を素気無く雪ノ下に却下され、白鴉がしょんぼりとしながらセリアティスを持ち上げた。そして、それを黒い葉の上に突き立てようとした瞬間。
「ぃぃいいいぎぃいいいい」
「ぎゃっ!」
 足元から不気味な鳴き声がして、白鴉がぎょっと飛び退る。それに他の傭兵たちもそれぞれの武器を構え、臨戦態勢を取った。
「ひぇぇ、本当に鳴いたよ!」
「抜こうとしてもいないのに‥‥」
 怯える白鴉を後目に、ケイが冷静に辺りを見渡す。黒い土が次々とぼこり、ぼこりと浮き上がった。黒い葉が揺れ、大量のマンドラゴラが這い出てくる。
「うっわ‥‥これ、やばくない?」
「1匹が殺されたことで、危機感を持ったってことか? これはキメラ決定だろう」
 高村の呟きに、ユーリがギュイターの引き金を引いた。連射された弾丸に数匹のマンドラゴラが弾き飛ばされて絶命するが、地面からは更にボコボコとマンドラゴラが這い出てくる。
「どうやら悲鳴には何の効果もなさそうだし、個体としても弱そうだ。環境汚染が目的のキメラってのが有力かもな」
「そうと判れば、全部退治しちゃおう」
 雪ノ下の推察に、三島がわらわらと近づいてくるマンドラゴラに向かってライフルの引き金を引いた。


「よーっし! 引っかきまわすよ!」
 セーラー服を脱ぎ捨て、体操着姿になって覚醒した三島は、ライフルからバスターソードに持ち変えると、近寄ってきたマンドラゴラの団体を一薙ぎした。簡単に両断されたマンドラゴラから、黒ずんだ木の根から出てきたような黒い体液がどろりと出てくる。
「その体液に気をつけて。毒かもしれないから」
「了解!」
 フリージアで近づくマンドラゴラを次々と撃ち飛ばしているケイに言われて、三島はバスターソードを持ってぐるりと回転した。辺りにいたマンドラゴラを両断した直後、体液が滴り落ちる前に飛び退る。そして、地面に着地したと同時に駆け出すと、固まっているマンドラゴラを次々と両断して行った。
「速攻は必勝の黄金律! 舞えよ凶刃、玲奈颪!」
「おおお、カッコいい!」
 三島のノリノリの台詞に反応したのは白鴉だ。「よし、俺も!」と言わんばかりにセリアティスを振り回し、叫ぶ。
「伝説の存在と俺の槍、どっちが強いのか、勝負だ!」
「だから、伝説の存在じゃなくて、キメラなんだって‥‥もういいや」
 ついに雪ノ下にツッコミを投げ出された白鴉は、それを気にも留めずに駆け出した。セリアティスの槍先を下にし、地面を抉りながら上へ切りつける。吹き飛ばされたマンドラゴラが宙に浮かび、白鴉はそれに向かって槍を振り回した。空中でバラバラにされたマンドラゴラが、ぼとぼとと地面に落ちる。
「何とかこの範囲以外の場所へマンドラゴラを向かわせないようにしたいわね。出来れば体液も他の場所へ広がらないように」
「努力しよう」
 ギュイターを撃ち続けているユーリの返事に頷いて、ケイは足に纏わりついて来たマンドラゴラを蹴り上げながら弾倉を入れ替えると、蹴り上げられて宙に浮いたマンドラゴラを撃ち抜いた。そのままくるりと半回転すると、白鴉が振り回したセリアティスに巻き上げられたマンドラゴラが白鴉の背中に張り付こうとするのを、フリージアで撃ち落す。
「うおっ! サンキュ!」
「気をつけて」
 そんな会話を横目に聞きながら、雪ノ下は刀を翻し、マンドラゴラを一刀両断した。
「ここら辺の土とか木も、どうにかした方がいいよな」
「そうだな。それも報告しておこう。サイエンティストとか、意気揚々と来てくれるんじゃないか?」
 呟きに高村が返してくれたことに頷いて、雪ノ下はこの場から離れようとするマンドラゴラに斬り付ける。ひゅるりと、刀が風を斬る音と共に、マンドラゴラの体が半分になった。刀についた黒い体液を一振りして弾き飛ばすと、再び近づいて来たマンドラゴラを静かな動作で斬り飛ばす。
「それにしても、どれだけ倒せば終わるんだ?」
「ざっと見たところだと、どうやら地面に潜っていたマンドラゴラは全部這い出したようだが」
 溜息を吐いてマンドラゴラをスコーピオンで撃ち抜き、飛び掛ってきたマンドラゴラをアーミーナイフで切り落としている高村に、ユーリが答える。その答えに少しだけ口端をあげて、高村が笑った。
「それじゃあ、今動いてるのを全部倒せばいいってことか」
 高村がスコーピオンでリズム良くマンドラゴラを撃ち飛ばす。足元に近づいて来たマンドラゴラを蹴り上げると、アーミーナイフでその首元らしい部分を切りつけた。アーミーナイフについた体液を振り落としながら、スコーピオンを構える。その一連の動作は淀みなく、高村は淡々とマンドラゴラを倒して行った。
「そろそろ数が少なくなってきたな」
 呟いたユーリは一度ギュイターを構えなおすと、辺りを見渡す。周囲は撃たれたり斬られたりしたマンドラゴラでいっぱいだ。この処理は誰がやるんだろうと、少し嫌な気分になる。
「これ、UPCに後始末任せちゃったら駄目かなぁ‥‥」
「‥‥退治は依頼に入っていたが、処理は入ってないから、いいんじゃないか‥‥?」
 同じ気分だったのだろう三島が呟くのに、ユーリは一つ溜息を吐いて再びギュイターの引き金を引いた。刻むような銃声と共に、動いていたマンドラゴラが次々と倒れていく。ユーリは仲間がいる場所を避け、手薄になっている部分へ重点的に銃口を向けていた。弾数の多さに任せて一掃していく姿に、最後のマンドラゴラは文句を言う暇もなく撃ち抜かれた。


「さて、と」
 フリージアの安全装置を戻して、ケイが溜息を吐いた。辺りにはマンドラゴラの死体がゴロゴロと転がっていて、正直あまり気持ちの良い光景ではない。
「どうしましょうか」
「どうしましょうも何も、キメラは全部倒したんだし、後の処理はUPCに任せるってことで」
「賛成。私たちにはどうしようもできないわ」
 レイの問いに雪ノ下が答えれば、高村もそれに同意した。
「これは綺麗になるまで、村の人には見せられないね」
 困ったように三島が言えば、ユーリも頷いて白鴉を振り返る。白鴉はまだマンドラゴラに未練があるのか、セレスティアの槍先で死骸をつんつんと突き、汚れないようにそろーっと葉を持ち上げた。
「‥‥記念にとか言って、持って帰るなよ?」
 念の為に、と思って告げたユーリの言葉に、白鴉の肩がビクリと揺れた。