●リプレイ本文
●ウォームアップ
「それにしても、ハニワですか‥‥。バグアの考えることはよくわかりません」
赤村菜桜(
ga5494)の呟きは、もっともなものだろう。だが、バグアとはそもそも、正体不明の存在なのだ。だから。とはいえ‥‥。
「まあ。なにはともあれ、キメラは倒さないとな‥‥そういや、一応キメラの仲間なのか‥‥」
隣に並んだアルト・ハーニー(
ga8228)の頭上に浮かぶ『?』マーク。キメラとはそもそも、生物の改造体ではなかったか。つまりあれだろうか、ハニワを破壊すると、その中には‥‥。
「いや、考えないことにしよう」
「そうですね」
半眼になった二人をよそに。仲間たちの間で、顔合わせと、作戦の打ち合わせが行われる。
「空色の悪魔といえば美空のことなのでありますよ」
あどけない顔立ちにキリッとした笑顔を浮かべ。美空(
gb1906)は、仲間たちに敬礼を送る。
「宜しくおねがいします。ああ、早くハニワに会いたいですねえ」
おっとりと笑うネイス・フレアレト(
ga3203)は、ハニワ見たさに任務に加わったクチである。だが、高速移動するハニワを引きつける囮として、十分な能力を持っている。
「鬼ごっこなんて何年ぶりでしょうかねえ」
一方。どこか緊張感のない口調で答える蓮角(
ga9810)も、バラバラに現れるハニワを一カ所に集め、一網打尽にするという任を得ている。未だハテナモードから脱していないアルトを加え、三人の囮と、ハニワを待ち受ける、菜桜、美空の迎撃組。相手とさして人数が違わない以上、各個人の活躍が、作戦の成功にかかっている。
「では、作戦開始なのであります!」
美空の号令と共に。傭兵たちは、それぞれの持ち場に散っていった。
●レディ
「うまくいくとありがたいですけど‥‥」
通信機での通話を終えて、菜桜はそう呟く。
ハニワの出現予想地点の周りは、コーンや看板などで一応の交通規制を敷いている。しかし、道路の封鎖を長引かせれば、街の人々の生活に支障が出る。
「とりあえず何とかするであります」
鈴の鳴るような声でささやきながら、美空は、おびき出し先の裏路地に網を張る。キメラ相手にそう長く保つものではないが、数分でも足を止めれば御の字だ。
迎撃組が着々と準備を進める中。囮組の三人は、それぞれの持ち場に散り、準備運動を始めていた。
「さて‥‥」
その一点。ネイスの背後に、ただならぬ気配が現れる。
ゆっくりと振り返ったネイス。彼が見たものは、地上数センチに浮遊する、土気色をした――埴輪。
「あれが噂のハニワさんですねぇ‥‥」
視線を合わせ、息を整え。
「私の足がどこまで通じるか、ちょっと楽しみですねぇ‥‥」
呟きが終わるか終わらぬか内に。ネイスの髪と瞳が、血潮のごとき紅色に変じる。
「ではッ」
助走もそこそこに。常人を越える早さで駆けだしたネイスの背を、かすかな駆動音を立てながら、ハニワが追いかけ始めた。
●GO!
同じ頃。蓮角とアルトの元にも、ハニワの姿があった。
「ほんとにハニワ型キメラなんだな‥‥お持ち帰りしては駄目か?」
そんな冗談を発しつつ。アルトの背後に――ハニワが現れる。
「それ、付いてこい!」
ハニワ型のオーラをまとったアルトの背後から、静かに追いすがるハニワ型キメラ。シュールな光景も、本人たちは大まじめなのだ。
そして。最後のハニワの前を、髪を振り乱し走る青年が一人。
「しっかりついてこいよハニワ共ぉ!」
言うまでもなく追いかけてくるハニワを背にしても、蓮角は実に楽しそうだった。追いかけられた苦労の分、破壊はとても楽しかろう。覚醒の効果で好戦度を増した頭でそう考えながら、足を振り上げる。
別々の場所から始まった、空滑るハニワとの追いかけっこ。やがて、走る三人の道筋が、だんだんと寄っていき――。
「よっし、合流成功!」
「ハッ。ハニワのヤツラ、飽きずに付いてきてやがる」
「さあ、後一息ですよ‥‥!」
肯きあった男たちは、交互に先頭を走りながら、ハニワたちを誘導していく。
やがて、囮組とハニワは複雑な路地に入り込む。なるべくスピードをころさないよう道を曲がる囮組に対して、ハニワは、未確認飛行物体のように、直角にコーナリングを行ってきた。
次第に縮まっていく差。囮組の中にも、やや疲れが見え始めた。その機を感じ取ったのか、追いかける速度を上げるハニワ。
ハニワの影が、最後尾を走る蓮角にかかるーー直前。
「よっしゃ!」
●ゴール
前列の二人が横に飛び退いたのと、蓮角が高く跳躍したのは、ほぼ同時だった。
綺麗な前方宙返りを描き、着地する蓮角。その背に、ハニワたちが殺到――する寸前。
「よし、かかりました!」
「作戦成功であります」
蓮角が飛び越えた網にかかり、みっしりと抱え込まれる三体のハニワ。その周囲に、能力者たちが輪を作った。
「圧倒的ではないかわが軍はなのであります」
「逃げる前に始末をつけてしまいましょう」
大口径ガトリングを準備する美空の前で。ネイスがファングを構え、大上段から振り下ろす。
――ギィン!
「く、硬いですね」
「俺にもやらせろ!」
ザッと一歩を踏み出して。蓮角が刀を振り上げる。
――ギッ!
「ちっ」
「いいや。二人のおかげで、破壊点ができた」
アルトの言うとおり、ハニワの表面には、小さいが深いヒビが入っている。その一点めがけ、クロムブレイドが振り上げられ。
「こんないいハニワをたたき壊すのは勿体ないが‥‥仕事なんでね‥‥!」
――ギャン!
悲鳴のような音と共に。ハニワが、大きく砕け散る。
「おお!」
「なるほど。やり方は分かりました」
しかし。今までの攻撃の余波で、網は大きく破れてしまった。このままでは、ハニワが逃げ出してしまう。
「みなさん、離れて下さい!」
その声に飛び退いた先。長弓を構えた菜桜の右手に、オーラの影がたゆたう。
「――そこッ!」
気合いと共に放たれる、さみだれ撃ちの矢。しかし、その一本一本は、残った二体のハニワの身体を繋ぎ、がっちりと固定していた。
「後は美空に任せるであります!」
菜桜が退いた後。威容を誇るガトリングの銃口が、接着させられたまま動けないハニワに向けられて。
「フェードイーン」
その声は、周囲を揺らす轟音にかき消され。
一射撃五十発という圧倒的な火力の前に、ハニワたちは、土へと返されてしまったのだった。
●クールダウン
「それにしても速かったですね。危ないところでした」
覚醒を終え、落ち着いた蓮角は、今頃になって噴き出した汗を、服の袖で拭う。
「あ。写真でも撮っておけばよかったですねえ」
ネイスはそう呟き、ハニワがあった場所を見る。そこにはもう、欠片になった破片のみが残っており‥‥。
「赤村さん、なにをしてらっしゃるので?」
「え! あー、えっとお」
振り返りざま、カニ歩きで去っていく菜桜。その手の中に握られたハニワの欠片は、その後、アルトの部屋に飾られることになったという。
そして、ここにも。
「なにをしているでありますか?」
美空の問いに、泡を食って立ち上がった蓮角は、手元の欠片をなごりおしそうに見ると、そっと地面に置いた。
「いや、何となく。お守りになるかな〜と思いまして」
なにせ、動くハニワなのだ。これで御利益がないと思うわけがない。バグアがそこまで考えてキメラを作っていたとすれば、恐ろしいことである。
「げに恐ろしきはハニワなり、であります」
もっともらしくうなずく美空の手には、どこからか手に入れたのか、ハニワのレプリカが握られていた。