タイトル:悪戯鼠学園乃章マスター:凪魚友帆

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/29 00:32

●オープニング本文


「いったあーいっ」
 ツルツルに凍った床の上。背中をさする少女の前で、男子たちが戦慄する。
「イチゴか」
「イチゴだ‥‥ッ」


「という、男子の風紀を乱す事件が、数多く起きておりまして」
 こほんと咳払い一つ。男は、傭兵たちに資料を配る。なんのことはない、普通の高校。そこに現れたのは、小さな小さな、イタズラ者だった。
「複数の目撃証言を会わせると、敵はボンバーマウスだと思われます。様々な弾丸を使い分ける、すばしこいネズミのキメラです」
 現れたボンバーマウスは一匹。だが、本来よりも高い知性を持っているのか、なかなか姿を現さない。
「そのマウスが唯一姿を現すのが‥‥イタズラです」
 何の因果か、そのボンバーマウスは、年頃の女子にイタズラをしかけるのが好きらしい。これまでも、氷弾で凍らせた床で転ばせたり、炎弾で服を焼き焦がしたりと、やりたい放題らしい。
「幸い、まだ、女生徒に大きな負傷者は居ません。ただ、イタズラの度にあられもない姿にされる女子見たさに、ボンバーマウスの逃走路を確保する男子まで現れました」
 このままでは、学校の風紀が完全に崩壊してしまう。校長に泣きつかれたUPCは、傭兵たちに援助を求めたのだが。
「一つ、問題がありまして」
 と言いつつ、やけに嬉しそうに。男は、こう続けた。
「学校に動揺を広げさせないため、傭兵たちには、学生、あるいは教師などの格好をして頂きたい、とのことです」
 あっけにとられた傭兵たちの前に、並べられる制服。困惑する彼らに向け、男は優しく呟く。
「大丈夫。入学の際の手続きから退学の理由まで、UPCがばっちり準備しますから!」
 そっちかよ。
 白い目をものともせず、男は小さく一礼する。
「よろしくお願いしますね」
 そういう男の顔は、とびきりの笑顔だった。

●参加者一覧

水鏡・シメイ(ga0523
21歳・♂・SN
キラ・ミルスキー(ga7275
16歳・♀・SN
月夜魅(ga7375
17歳・♀・FT
レイアーティ(ga7618
26歳・♂・EL
レイ・アゼル(ga7679
18歳・♀・SN
佐竹 つばき(ga7830
20歳・♀・ER
御崎 緋音(ga8646
21歳・♀・JG
水瀬 煉(gb0078
17歳・♂・EL

●リプレイ本文

●それぞれの潜入
 すーはー、すーはー。
「‥‥平常心、平常心。緊張しても得なんてないぞ、俺」
 そうは言いつつ。どことなく挙動不審な水瀬 煉(gb0078)の隣では、ブレザーを自然に着こなした鳳 つばき(ga7830)が、遠い目をして、校舎を眺めていた。
「通ってたときは面倒だったのに、離れるとまた通いたくなる‥‥不思議不思議」
 そう。彼らはこれから、とある学校の生徒として、潜入操作を行うのだ。まあ、せっかく学校に来たのだから、少しくらいは楽しまないともったいない。
「行こ。みんなももう、潜入してるはず」
「お、おう」
 二人が校門をくぐる頃、保健室では、ちょっとした騒ぎが起きていた。
「つきよみ、と申します。短い間ですが、どうぞよろしく御願いいたします♪」
 小さく礼をする月夜魅(ga7375)の前。鈴なりになった男子たちが、一斉に拍手を送った。久々の教育実習生が銀髪の女性、しかも保険医見習いとあっては、テンションがあがらないはずはない。
 そんな彼らによってふさがれていた戸が、がらりと開けられる。振り返った男子たちの尻が、次々と蹴り飛ばされた。
「ジャマだジャマ、さっさと教室に帰れっつの」
 モーゼの海割りのごとく道を造り、キラ・ミルスキー(ga7275)が、ベッドにどっかと腰を下ろした。外を走り回っていたのか、身につけた体操着は、汗でじっとりと湿っている。
「プ、やっぱ俺にゃ似合わねー」
「そうでしょうか。ぴったりだと思いますよ?」
 月夜魅の言葉に、体操着を指で摘んで。フンと鼻で笑いつつも、まんざらでないキラだった。
 といった頃。教室で、参考書の束を片づける人影があった。
「やはり、恋愛の物語は盛り上がりますねえ」
 現代文の教師に扮した水鏡・シメイ(ga0523)の授業は、なかなか好評といった所。教室にたどり着くのに三十分迷うという問題さえなければ、現職でもやっていけそうだ。
 ここから職員室に戻るまでの冒険を想像しつつ。振り返ったシメイに、近寄る少女が一人。
「えっと、お迎えにあがりました」
 優しく微笑むレイ・アゼル(ga7679)は、神の使いか仏の眷属か。ともあれ、職員室への道を歩きつつ、シメイが呟く。
「キメラが出現した場所は、先生方から聞いておきました」
「何人かの生徒と仲良くなったので、そろそろ聞き込みを始めます」
 いかに学校生活を楽しんでいても、キメラ退治は忘れてはならない。他の能力者たちも、調査のための準備を進めている。
「うまく事が運べばいいのですが‥‥」
 どちらともなくそう呟く頃。廊下の一角で、ちょっとした騒ぎが起こっていた。
「学校にゲームを持ち込んではいけません!」
 そういって、男子生徒から携帯型ゲームを取り上げているのは、風紀委員の腕章を付けた御崎緋音(ga8646)。その後ろでは、腕組みをしたレイアーティ(ga7618)が、無表情で緋音を見守っていた。
「これは、今日の放課後まで没収! ですよね、レイさん」
「ああ」
 交わされる、意味ありげな視線。疑惑の視線をものともせず、二人もまた、学校の一部となっていく。
 そんな、朝時の風景が過ぎ。チャイムの音が、昼休みを告げ‥‥。

●昼時の会議
「はい、つきみーさん。あーん」
 ぱく、むぐむぐ。
「わ、おいひーです」
 目を輝かせる月夜魅に、さもあらんと胸を張るつばき。二人の周りでも、仲間たちが、それぞれの昼食をとっていた。
「学生の頃は、よくこうやって空を眺めていたんですよ」
 表情は乏しいながらも、瞳の奥に懐かしさを浮かべるレイアーティ。
「へぇ〜♪ ‥‥能力者じゃなかったら、私も今頃学生として過ごしていたのかなぁ‥‥?」
 その姿をうっとりと見つめる緋音の後ろでは、作戦会議が始まろうとしていた。
「教師の話によれば、図書館から続く廊下と、その下の、階段の踊り場で、キメラの出現が目撃されています」
「あ、私も。キメラは図書館方面に逃げていったという話を聞きました」
 頷くシメイの前で、レイは、広げた学校の見取り図の一点、図書館の付近に指を載せる。
 確かに、薄暗い図書館ならば、隠れる場所には適している。キメラがそこをアジトにしているなら、おびき出す手だてもある。
「後は、どう『安全に』おびき出すかですが」
「ん〜。ぶるまでも履いておきゃ良いんでね?」
 シメイの肩を小突きながら、昼寝を満喫していたキラが顔を出す。散らばっていた仲間たちも、次なる作戦のための相談に加わる。
 囮役はつばき。キラとレイがキメラの誘導を行い、レイアーティと緋音の手により捕縛する。シメイと月夜魅は生徒たちの誘導を行い、被害を広げないようにする手はずだ。
 そして、もう一人。
「む‥‥」
 鳴り出した通信音。無線機を取り出したレイアーティは、皆にも聞こえるよう、ボリュームを上げる。
『うっす、水瀬だ。今、ネズミ保護戦線の本部にいる』
 潜めた声。時折聞こえる雑音に、男子生徒の気勢の声が混じる。
「ひー、暑苦しそうだな、おい」
『いやもう。それで、今度ネズミが出たときは、全力で援護するとかいってるんで。なんとか、俺で押さえてみる』
 これで、後顧の憂いは断てた。通信を終えたレイアーティは、皆の顔をざっと見回す。
「始めるか」
 小さなうなずき。能力者たちは、それぞれの持ち場へと動いていった。

●遭遇
 その日。廊下には、少女ただ一人が居た。
 ――ヂッ。
 ここ最近、急に生徒たちのガードが硬くなり、フラストレーションが溜まっていた。ようやく現れた無防備な犠牲者へ、そっと近寄る。
 ――ヂヂ。
 射程圏内に入る、直前。少女が、のろのろとした足取りで歩き始めた。
 それに合わせて付いていく内、いつの間にか、薄暗い物陰から、光の射す場所に──。
 ――ヂィ!
「チッ、気づかれた」
「逃げる前に誘導を!」
 物陰から飛び出したキラとレイが、小銃による牽制を加える。逃走方向を打ち抜かれ、慌てたキメラは、廊下の中央を駆け抜けていき。
 ねちょ。
 ――ジィ!
「引っかかったか」
 トリモチ罠を仕掛けたレイアーティ。彼の手には、空になった燃料タンクがあった。
「早く捕縛を!」
 緋音が見守る中。レイアーティが、空の燃料タンクを、キメラにむけて振り下ろす。
 ――ジッ!
「なッ」
 寸前。罠を無効化したキメラが、さっと飛び退いた。
 その先には、無防備な緋音。気を逆立てたキメラが、がばりと口を開け。
 ぼん。
「きゃう!?」
 とっさにかわしたものの、炎弾の衝撃で、緋音がころんと転ぶ。とっさに目を向けたレイアーティは、一瞬、何かに視線を奪われると、すぐに彼女の救護に回った。
「ご、ごめんなさい‥‥見えちゃいました?」
「‥‥鼠、許すまじ」
 彼の集中が乱れている間、キメラは再び逃走しようとする。その進行方向に、一本の矢が突き刺さった。
「捕縛失敗ですか。討伐するしかありませんね」
 遠く、職員室の窓から矢を射ったシメイは、周囲のざわめきを目で沈め、次の矢をつがえる。
 二本、三本。次々と放たれる矢によって、キメラはしばし足止めされる。
 そのころ、戦場では。キメラを何とか助けようと、男子生徒たちが突撃しようとしていた。
 キメラを逃そうとする彼ら。その前に、煉が立ちはだかる。
「気持ちはわかる。わかるが、すまん!」
 そんな言葉と共に、男子生徒たちの足下を、無数の弾丸が貫いた。たたらを踏んで倒れる男子生徒たちは、逆に、キメラの進路を塞いでしまう。
 ――ヂヂッ!
「逃がしはしませんよ!」
 男子生徒の山を軽々と越え、月夜魅がキメラに迫る。泡を食って逃げようとしたキメラの前には、銃を構えたキラとレイ、そしてレイアーティが居た。
「ハッ、死ねえ!」
 キラの弾丸が足を飛ばし。
「私は、キメラを許さない‥‥」
 レイの銃弾が腕を弾き。
「遊びは終わりだ」
 砲弾のごとき威力を持つ銃撃が、キメラの身体を吹き飛ばした。
 ひっくり返り、痙攣を繰り返すキメラの側に、月夜魅が近づき。
「静かに、おやすみなさい」
 刃のひと刺しで、ようやく、キメラは動きを止めた。 

●学び舎を出て
 そして。短い学校生活は終わり。
「戦争が終わって、また戻ってこれるといいんですが‥‥年齢的な意味で‥‥」
 感慨深げに呟くつばきの顔に、寂しい笑みが浮かぶ。そう簡単に終わるわけはないのだ。こんな平和な学校にさえ、キメラが現れるのだから。
、ある者は揚々と、ある者はゆったり。輸送機まで向かう仲間たちを見つつ、緋音は、こそり呟き。
「戦争が終わる頃には、あの人と‥‥」
 全ての願いは、この戦いが終わらなくては、叶いはしない。その願いのために、彼らは闘っているのだ。