タイトル:油虫戦隊ゴキレンジャーマスター:凪魚友帆

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/23 20:31

●オープニング本文


 ぴたっと張り付きぶーんと飛び立つ。それが我らの信条よ。
 黒い足甲は勇気の印。人間どもよ畏れおののけ。
 我ら五匹は無敵の仲間。人間どもよ覚悟せよ。
 いざ行かん。油虫戦隊、ゴキレンジャー!


「可及的速やかに消滅させてください」
 額に青筋を立てた男は、資料をぐしゃりと握りつぶす。
 分類で言えば、ブラインドビートルとなるのだろう。しかし、五色の布を身体に巻き、決めポーズと共に現れる姿は、なにか勘違いしているとしか思えない。
「更にムカつくのは、ヤツラによる被害です」
 油虫らしいというか。彼らは力を持たない民衆や、まだ成りたての能力者を狙って襲撃を行う。しかも、奇襲でだ。
 タチが悪いことに、彼らはバグアの技術の粋を集めた自動式カメラを所持しているらしく、自らの襲撃の様子を、広く世界にばらまいているのだ。
「物好きはどこの世界にも居るらしく、その映像のファンになる人間も出てきている。その中からいつ、バグアに協調する者が現れるか‥‥」
 彼らは自覚していないかもしれないが、これは立派なプロパガンダである。このまま彼らのファンが広がれば、人類の戦線に、大きな溝が入る可能性がある。
「そして何より。あんなゴキがヒーローを名乗るとは許せない!」
 そっちかよ。
 傭兵たちの心の声を知ってか知らずか。怒りと共に突き出される、害虫退治グッズの数々。バグアには効かないとわかっていても、出さずにはいられないのだろう。
「ヤツラは隙のある人間と、おいしい餌の前に現れる。どのような手段を使っても良い。ヤツラをおびき出し、欠片も残さず吹き飛ばせ!」
 口角泡をとばし。烈火の指令に応えたのは‥‥。

●参加者一覧

羽鳥・流(ga5232
18歳・♂・BM
シェスチ(ga7729
22歳・♂・SN
M2(ga8024
20歳・♂・AA
白虎(ga9191
10歳・♂・BM
皆城 乙姫(gb0047
12歳・♀・ER
篠ノ頭 すず(gb0337
23歳・♀・SN
紅月・焔(gb1386
27歳・♂・ER
五十嵐 彩斗(gb1543
16歳・♂・DF

●リプレイ本文

●忍び寄るヒーロー
 かさり、かさり。
 風音さえもしない廃墟のビルに、やけに小さな足音が響く。
 そこにあるのは、お月見に使うような供物台と、そこに盛られた大量の団子。
 かさ、かさかさり。
 その場に現れたのは、五色の塊。人よりもはるかに小さい、彼らの名は。
「現れたな、ゴキレンジャー!」
 若い男の叫び声。五匹のブラインドビートルが、一斉に振り返った。

●悪の軍団
 闇の中。薄明かりから、四人の人影が現れる。
「僕、じゃない、我が輩は、場当たり怪人☆メトロニウ魔!」
 そう言うシェスチ(ga7729)の格好は、いかにも悪の怪人らしい、ごてごてとしたもの。むしろ付属物が多すぎて、元の姿が何かがわからない。恥ずかしさのなせる技である。
「孤独戦態、セクハラレッド!」
 と、微妙にヒーロー側の名乗りを上げた紅月・焔(gb1386)の格好は、名乗りに反した黒装束。どことなく、ゴキレンジャーの面々に似ていなくもない。二人の背後に守られるように、おどおどと隠れる皆城・乙姫(gb0047)の姿もあった。
「ご、ゴキブリにうらみはないけど、キメラは倒さなきゃ。に、苦手だけど、が、がんばろう」
 思わず、小声でつぶやき。挙動不審な乙姫のそばに、すっと立つ人影。黒の眼帯、豪華な着物に小銃という姿の篠ノ頭・すず(gb0337)は、乙姫の肩にそっと触れ、大丈夫、という風にうなづいてみせる。
 ――ぶぅんぶぅん。
 威嚇するゴキレンジャーに向かって、彼女は大きく胸を張る。
「我は、悪の能力者エミータ。我らの罠にまんまと引っかかったな、ゴキレンジャー!」
 ――ぶん!
 怒りを露わにするゴキレンジャーに対して、にじりよる悪の軍団。緊張が、嫌がおうにも高まる。
 声がしたのは、その時だ。
「その勝負、待った!」
 中性的な子供の声。それと共に現れたのは……。

●能力者戦隊エミタンジャー
 どこからか照射されるスポットライト。その中には、三人の男がいた。
「変身!」
 格好よく決めポーズ。その瞬間、仕掛けられていた爆竹が、火花と共に暴れ回る。
「リサイクル戦士、エコグリーン!」
 そういうM2(ga8024)の姿は、海賊のように頭を覆ったバンダナと、ヒーローを意識したゴーグル。相棒の槍、エリシオンも、今日はヒーロー装備仕様だ。ちなみに、先ほどの爆竹も、おびき出しようの団子も、全て彼の手配である。
「悪で遊ぶゲーマー、ヒッキー戦士ゲーマーブラック!」
 M2の隣でそう叫ぶのは、覚醒の効果で黒い肌と化した五十嵐 彩斗(gb1543)。刀をビシッと構えつつ、目が笑っている。
(丁度、ゲームでギャグキャラが必要だったのですが‥‥まさか、自分でやることになるとは)
 そんな思いなどつゆ知らず。この立場をもっとも楽しんでいる白虎(ga9191)が、得物の100tハンマーを振り上げた。
「皆のアイドル・ホワイト☆メイド! がお仕置きだよっ☆」
 図らずも白兵武器を揃えた三人。覚醒の迫力も相まって、かなりの威圧感を与える。小さな背で思い切り伸び上がった白虎は、悪の軍団を指さし、高らかと宣言した。
「力を悪用する能力者たちめ。ボクら、能力者戦隊エミタンジャーが、成敗してくれる!」
「‥‥ほう、面白い」
 女幹部エミータことすずが、片目をにやりと細める。
「たかだか三人ごときで、我らを倒すことなどできるのか? そもそもそちらは白兵武器ばかり、こちらは連写できる射撃武器を構えている。まずはこちらに近寄らねば、そもそも攻撃することも」
「突撃いいいッ!」
「待て。相手の話を聞かないのはルール違反だぞ!」
 そんな主張もむなしく、雪崩式に戦いが始まった。仮装しているとはいえ、どちらも能力者。ともすれば廃墟が崩壊してしまうような、激しい戦いが繰り広げられる。
 ――という状況が、目の前にあり。
 完全に取り残されたゴキレンジャーたちが、ようやく我に返った。目の前で行われる、正義と悪の戦い。それを見て、彼らは。
 ――ぶぅぅぅん。
 とりあえず、悪を倒そうと決めるのだった。

●偶然?
 ――ぶぶーん。
 得意の空中攻撃で、メトロニウ魔ことシェスチを狙おうとするゴキブルー。彼がそれに気づいたときには、必殺☆顔面張り付きは、ほぼ成功しようとしていた。
 が。横合いから突き出された槍の先が、その軌道を乱す。
「あ、すまん」
 しれっと言い放ったエコグリーンことM2は、再び戦いに戻る。
 一方、別の方角からは、三匹フォーメーションを取ったゴキイエロー、グリーン、ピンクが、乙姫に向けて迫ろうとしていた。戦いの緊張で周囲が把握できず、無防備な彼女に、ゴキトリオが迫る。
 という所で、振り下ろされた100tハンマーが、三匹の進路を塞ぐ。
「あは。ごめーん」
 屈託なく笑う、ホワイト☆メイドこと白虎。苦情を言うように羽をばたつかせた三匹は、踏みつけられないよう、方々に散っていくのだった。
 そして。ずっと戦いの隙をうかがっていたゴキレッドは、エミータことすずの隙をうかがって、じわりじわりと忍び寄る。ゴキレンジャーのリーダーとして、悪の幹部は、絶対に倒さねばなるまい。
 味方であるゲーマーブラックこと彩斗の背後より、すずの太股をねらって飛びかかろうとし。
 次の瞬間、彩斗の持つ刀の背が、ゴキレッドを大きく吹き飛ばした。
「あ、すいません、当たってしまいました。エミータめ、得体の知れない術を使いましたね‥‥」
 と、ゴキレンジャーたちにアピールしつつ、彩斗は再び、すずとの戦いに戻っていく。
 そんなことが何度も続き、ゴキレンジャーたちの間に、少しずつ、疑念が広がっていく。
 ――その傍らで、こそこそと動く、六匹目のゴキレンジャーが居た。
 表向きは、ゴキレンジャーと闘うフリをしつつ。戦場の外周でおろおろしている乙姫に、そっと近づき。
 さわっ。
「きゃぁぁぁっ!」
 お尻を押さえて真っ赤になる乙姫の背後から、そっと立ち去る黒い影。振り返った乙姫がみたのは、取り残されたゴキレッドだった。
「だ、だれかったすけてぇぇぇ」
 スパークマシンを乱射する乙姫に、皆の視線が集中する。慌てて逃げ去るゴキレッドは、命からがら、電撃と銃弾の雨から逃走する。
 それを眺めつつ、至福の表情を浮かべた彼は。
 ――とんとん。
「ん?」
 振り返ったセクハラレッドこと焔が見たのは、悪鬼の如き表情をしたすずだった。
「貴様。誰に手を出しているのか‥‥わかっているのか?」
 わかりませんとはいえない雰囲気。このままだとゴキ諸共倒されると判断した焔は、さっと姿勢を正して頭を下げる。
「いや、もう、すんませんでした、ちょっとした出来心です、はい」
 必死に言い訳を並べつつ。つい、口が滑る。
「今からゴキ退治に戻るんで。そろそろヒーロー側も本格的に加勢を‥‥あ」
 ‥‥。
 ――ぶ、ぶぶぶ。
「しまった!」
「いえ、いずれはバレることでしょう。彼らが『道化』ということは」
 場の空気が冷めていく。しかしそれは、次に起こる爆発までの、嵐の前の静けさだった。
 ヒーロー側と悪人側のそれぞれが、がちゃり、と武器をゴキたちに向け。
「あは☆ 総攻撃!」
 白虎のかけ声と同時に、一斉に襲いかかるのだった。

●そして数分後
 ぷちっ。
「よーし、最後の一匹をしとめたぞー」
「むしろ‥‥むちゃくちゃ弱かった‥‥」
 槍の柄をぬぐうM2の隣で、シェスチがぼそりと呟く。
 戦隊を気取っても、しょせんはブラインドビートル。能力者七人がかりで攻められれば、多勢に無勢なのだった。
「あ、これですね。カメラ見つけましたあ」
「どれどれ。見せて見せてー」
 ひょいひょいと近寄る白虎に、カメラのディスプレイを見せる彩斗。そこには、ゴキレンジャー最期の日の一部始終が、克明に記録されていた。
「これからは、エミタンジャーの時代だね!」
「いや、さすがに表に出すのは」
 と言いつつ、この映像をゲームの資料にしたい彩斗。激しい強奪戦の末、上層部に差し押さえられるのは、これから少し後の話である。
 そして、終わっていない戦いがあと一つ。
「あはっ。動けないまま殺されるのって怖い?」
「はい! 怖いんで助けてください!」
 キメラ相手には通用しない粘着シートも、能力者相手には有効なのだ。乙姫がすずをなんとかなだめ、焔が生きながらえるまで、しばし、時が必要だった。
 ともあれ、戦いは終わった。廃墟の中には、彼らの姿は。

 ――かさり。

 ‥‥いや、確証はない。最近のヒーローは、五人では終わらないのだから‥…。