タイトル:真夜中の土偶マスター:凪魚友帆

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/08/25 21:15

●オープニング本文


 知ってるか?
 午前四時。三つ叉の道を、右、左、右、に進んで、上を見上げると。
 土偶がな。降ってくるらしいぜ。
 ――こんな風にな!

「という、根も葉もない噂話が広まっているのですが‥‥」
 こほんと咳払い。男は蝋燭の火を吹き消し、ブリーフィングルームの灯りを点ける。
「ほら、夏といえば怪談話ですし。それでもまあ、土偶というのはおかしいのですが」
 消していたディスプレイに情報を表示して。まず、男が呟いたのは。
「それで。正しい呼び出し方法は、右、左と行った所で、元の道を一本戻るというものです」
 怪訝そうな顔の傭兵たちに向け、男は画面に、街のあちこちから撮影された、破損した道を表示させる。
「生存者たちの証言によれば、噂の通りに進んだものの、恐くなって途中で逃げ出すと、空から土偶が降ってきたと。いや、人の弱気につけこんだ、巧妙なワザではありませんか」
 そういうものなのだろうか、と、半眼になる傭兵たち。男はそれを意に介さず、画面に表示した街の地図に、いくつかの印を付ける。
「噂の通りの三つ叉が続く道で、まだ事件が起きていないのは、街の東と北、二つの地点のみです。そのどちらかで土偶を待ち伏せ、破壊しなければなりません」
 沈黙。男が、静かに呟く。
「思うに、この奇妙な襲撃は、性能試験なのかもしれません。このまま、土偶の攻撃を許していれば、噂が噂でなくなり、数多くの土偶が、街を襲うということも‥‥」
 そんなホラーな風景など、誰も望んでいない。街を護るため、傭兵たちはまず‥‥。

●参加者一覧

平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
アルト・ハーニー(ga8228
20歳・♂・DF
猫瞳(ga8888
14歳・♂・BM
蓮角(ga9810
21歳・♂・AA
文月(gb2039
16歳・♀・DG
フェイス(gb2501
35歳・♂・SN

●リプレイ本文

●東の路にたつ二人
「たまには早起きも良いものですね〜」
 うん、と伸びをして。蓮角(ga9810)は、黒々と染まった街を見据える。
 草木も眠る丑三つ時。午前四時の集合というのは、なかなか骨が折れるものだ。途中で分かれた仲間たちも、ぼんやりと眠そうだった。
 現に。隣で目をこする文月(gb2039)は、今にも眠りに入ってしまいそうだ。本人曰く、覚醒すれば目が覚めるということなのだが。はたして、それまで起きていられるのだろうか。
「これもバグアの罠でふわわ」
「はは。俺も多少寝不足ではありますが‥‥大丈夫、いけますよ」
 口調は楽しそうながらも、彼の目は真剣。はっとした文月は、パンと自分の頬を張り、気合いを入れ直すのだった。

●北の辻に立つ三人
 一方。こちらの方では。
「近づかないで下さい」
 闇夜からぬっと顔を出した少女。それを目の当たりにしたカップルが、悲鳴を上げて逃げ出した。
「‥‥失礼な」
 憮然とした顔の平坂 桃香(ga1831)。もっとも、相手は彼女に驚いたのではなく、彼女の手にある、抜き身の刀に驚いたまでなのである。
 桃香が人払いを担当している間。時を待つ男が二人。
「吸っている余裕は‥‥ないですよねえ」
 火の点いていないタバコを指の間で弄びつつ。残念そうなフェイス(gb2501)の隣で、アルト・ハーニー(ga8228)がひとりごちる。
「埴輪の次は土偶かね。バグアも一体何を考えているやら」
「土偶ですか。子供の頃に見た番組でも、敵役で居た気がします」
「うむ。土偶は敵、正義の味方は埴輪だからな」
 は? といぶかしがるフェイスに、ニヤリと笑いかけ。アルトは、ちらりと時刻を確認する。
「さて、そろそろか」
 時は満ち、そして。

●みぎ、ひだり、もどる
「これで。後は道を引き返せば‥‥」
 一人呟き。蓮角は、背後を振り返る。
 二つ目の辻で待機した文月は、月詠を抜き放ち、いつでも切りかかれる体勢を取っていた。これならば、一気に押し抜かれる恐れはあるまい。
 少し緊張しつつ。蓮角は、一歩、また一歩と、来た道を戻っていく。
 そして。
「‥‥」
「‥‥」
「‥‥あれ?」
 小首を傾げた蓮角。その腰の通信機が、夜闇をつんざく呼び出し音を響かせた。

●ウエニイル
「ぬおわッ!」
 とっさにかわしたアルトが、一瞬前に居た地点。その中心が深く抉れ、路面に大きなヒビが入る。
 飛び散る破片を払いのけ。能力者達が、一斉に見つめる先。闇夜にけぶる土煙に覆われ、中は見通せないのだが。
 ――ヒュゴッ!
「わっ!」
 突如飛来した『何か』が、桃香に迫る。反射的に突き出した月詠がそれとかち合った瞬間、大きな火花と共に、桃香の腕に痺れが走った。
「硬っ‥‥」
 相手の攻撃手段は何なのか。それがわからないまま、アルトとフェイスも武器を構え、周囲を探る。
「相手の得物がわからないと、攻めようがありませんね」
「例えばこう、目からビームとか、ロケットパンチとか」
「はは、まさか‥‥」
 沈黙。こちらを見つめるフェイスに、頷く桃香。ビームはまだしも、ロケットパンチは――ありえる。
「なに。パンチならパンチで、見極めれば済む事」
 ――ヒュインッ!
「だあッ!?」
 頭上すれすれを飛びすがる、謎の硬質物体。振り返りざま、アルトの剣が、飛び去ろうとするそれを斬りつけた。
 再び散る火花。顔をしかめたアルトは、しかし、何かに気づいたように、ニヤリと笑うのだった。
「アルトさん?」
「なるほど。この手応え、音‥‥」
 はたして、アルトは何を気づいたのか。フェイスと桃香が不思議に思う中、遠く、バイクの音が聞こえてきた。
「リンドヴルムの排気音?」
「東組が追いついてきましたか」
 増援が来れば、少しは戦いやすくなる。しかし。
 ――ヒュワッ!
「くッ」
 肩口に襲いかかった暫定ロケットパンチをかわし。フェイスは、アサルトライフルの引き金を引く。
 飛来する弾丸の雨に、暫定ロケットパンチが包み込まれる。鉄と何かがかち合う、甲高い音と共に――。
「お待たせしました!」
 砂埃を蹴り上げ。文月の操縦するリンドヴルムが、戦場の中央に飛び込んでくる。
 二人乗りしていた蓮角は、刀を抜き放ちながら車を降りる。その視線の先には、銃弾の雨で動きを止めた、小さな小さな――土偶の姿が。
「‥‥思ったより小さいですね」
 素直な感想に、皆も思わず頷く。
「ロケットパンチというより」
「これがロケットだったというわけですか」
 少し残念そうな桃香と、感心するフェイス。ともあれ。敵の正体は明かしたのだ、後は倒すまで。
「よおし。そろそろ本気で行こうか!」
 アルトの号令が響き渡り。彼自身もまた、クロムブレイドを胸に構え、気合いを込める。
「ふんっ!」
 渦巻く風。それが消えた時、アルトの背後には、たゆたう、埴輪型のオーラがあった。
「埴輪VS土偶‥‥いいものを見てしまった気がします」
 思わず呟くフェイスに目配せし、アルトは剣先を土偶へ向ける。
「バグアもいい仕事しているようだが、ここは仕事なんでパリーンと割れてくれよ、と」
 にまりと笑う彼の隣を、駆け抜ける影がひとつ。
「いっくぜぇぇぇ!」
 白髪をなびかせつつ、蓮角は刀を振り上げる。目標は小さいながらも、腰の入った斬撃が、土偶に直撃し。
「っつ〜!」
 腕を押さえて離れた蓮角。その前には、わずかに縁を削られた程度で立つ、土偶の姿があった。
「恐るべき頑丈さですね」
「刃が欠けちゃう‥‥」
 尻込みする桃香の目が、土偶のそれと合う。瞬間、嫌な予感に後ずさった桃香めがけ、土偶が頭のてっぺんを向けた。
 ――ヒュイーン!
「わわっ!」
 予想していたものの。あまりの勢いに、桃香の動きが遅れる。
 その胸を貫こうと迫る土偶色の弾丸は、そのまま――。
 目標に当たる寸前、鋼の腕に受け止められた。
「ふ、文月さん!」
 助けに出ようとする桃香を視線で止めて、文月は、仲間達の作る輪の、中央に進み出る。
「私だって、能力者なんだから‥‥!」
 土偶をしっかりと片腕で掴み。逆手から取り出したのは、機械的な加工が施された、刀の柄。
「あれは‥‥」
「機械刀か、なるほど」
 目を細めたアルトが見守る先。逆刃に握った柄から、輝くビームの刃が伸びる。
「‥‥ッ!」
 刃が土偶に当たった瞬間、激しい火花が周囲に散った。それは、容赦なくリンドヴルムにも降りかかる。
「文月ッ!」
「落ち着け蓮角。そろそろ、我々の出番だ」
 その台詞が終わらないうちに。オーバーヒートを起こした機械刀が、動作を停止する。
 ススにまみれたリンドヴルムの片手の先。土偶の眉間に、大きな亀裂が出来ていた。
 ――刹那。文月の手を離れた土偶が、逃げるように空に飛び出した。
「行かせません!」
 それに合わせるように大地を蹴った桃香が、月詠の刃を、土偶の眉間に叩き降ろす。
 亀裂の深まる音と共に落下した土偶を待っていたのは、蓮角の刀だった。
「うらァ!」
 亀裂を更に押し込んだ上で、刀を大地に差し込む。動きを止められた土偶は、悔しげにカタカタと動くのみ。
 その前に立つのは、埴輪のオーラを背負う男。
「残念だが、今は土偶の時代ではないのだよ」
 無表情で呟き。振り上げられたクロムブレイドが――刀の上に振り下ろされる。
 破砕音。そして、沈黙。
 刃の切れ味に、剣の重さを加え。真っ二つに割れた土偶は、もはや動く事はなかった。

●そして夜が明ける
 気づけば、うっすらと夜が明けていた。
「う〜ん、朝の運動にはちとハードでしたかね」
「たしかに」
 蓮角と文月。顔を見合わせて笑う隣を、桃香がふと通り過ぎようとして。
「蓮角さん。その、手に握っているものは?」
「いやあの、お守りに、なんて‥‥」
 へらりと笑って。蓮角は、半分に割れた土偶を、そっと懐に忍ばせるのだった。
 そんな三人から離れた所で。割れた土偶を手にしたアルトと、煙草を吹かすフェイスが居た。
「疲労感と相まって、いいもんですよ。人には勧めませんが」
「俺には、こちらの方が良くてな」
 見つめる先。工芸的にも美しく作られた土偶を見て、独りごちる。
「まったく、バグアにもいい焼き物師でもいるのかね‥‥。いるなら一度あってみたいところだな‥‥」
 わりと真顔の呟きは。朝靄の中に、そっと沈んでいくのだった。