タイトル:【埼玉】オセンベーマスター:凪池 シリル

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/08/29 05:48

●オープニング本文


 東京が解放されてそろそろ一年。依然、関東各地では小競り合いが続く中、埼玉の戦況もまた硬直していた。
 主戦場は宇宙へと移り、地上バグアの勢力は徐々に削られている。
 だが、宇宙へと主力を取られているのはUPC軍としても同様であり、敵本拠地へと踏み込む決定的な契機と戦力を得られずにいた。
 そうした状況の中で、業を煮やしたのは――バグアが、先だった。
「私に愉しみを与えるための家畜に過ぎない存在が‥‥随分調子に乗り始めているようですね」
 人類の文明と文化を弄び冒涜する。心地よい悲劇と怨嗟の養殖場。埼玉とはそういう場所であるよう、彼は部下たちに指示した。彼自身も、大宮にて、人類文明の象徴をこの地にすむ者自身の手によってバグアのものへと作り変えさせるという行為によってそれを堪能していた。
 人類は少しずつ絶望を積み重ねて、やがてそれすらも感じなくなる――その、はずであったのに。
 ここしばらく、逆らうものが増えてきた。鬱陶しい、希望というものを目に灯すものが。
「ならば今一度‥‥あなたたちなど所詮、こちらの戯れで生かされているにすぎないと言うことを、思い知らせる必要がありますね‥‥」

 そうして。戦力の増強と見せしめを兼ねて、住民を少しずつキメラや強化人間と変えるよう、埼玉では密かに指示が進められていたのだ‥‥――



 お米と醤油の、芳ばしい香りが辺りに漂っています。こんにちわ天の声です。
 ここは埼玉県草加市。名物はその名もズバリ草加煎餅。
 只今草加駅前広場では、地元有志にて開かれた催し物の真っ最中です。
 焼き立てお煎餅。食ったことありますか。お米の香り高いほかほかの煎餅を醤油にじゅっと沈めます。焙られた表面にしみ込みゆく醤油がまだ滴り落ちるくらいのうちにガブリとやると、表面はしっとりながら歯ごたえはバリバリと。これがまたうめぇんだ。
 親に連れられた子供たち、ジャンクフードにならされた子なんかは最初は「えー? おせんべー?」なんてぶーたれながらしぶしぶ歩いてるんですが、次第にいいにおいに顔色を変え、そして一口食ってみるなり「せんべいの れきしが かわった!」とばかりに目を輝かせていくのがなんとも言えない気持ちにさせられます。
 草加市は東京に近いおかげもあって、東京解放戦後から結構早めに復興の手が延ばされつつあります。
 今回のこの催し、地域復興を実感するために誰かが提案。しかしそんなことやってる場合か、そんなことに回す予算があるなら復興に使うべきでは‥‥との意見もあり、実現は難しいと思われていたのだとか。そこへある日、話を聞きつけた有志の篤志家が寄付を申し出、ここに開催の運びと‥‥。
 あれ。
 有志の、篤志家。このご時世に、埼玉で。
 なんか微妙に引っかかりを覚えない気がしないでもないのは気のせいっすかね。
「くっくっく‥‥賑やかな地元の催し。幸せそうに歩く家族連れ‥‥完璧ですね」
 どこぞのビル屋上。現れる白スーツ姿の怪しい青年。
「さあ、和やかな祭りを絶望に変えていきましょう! なぜなら悪とはそういうものだから!」
 やっぱりお前のマッチポンプかいっ。
 ‥‥一応、その手の悪がイベント会場襲うのって、人間の負の感情がどうのこうのって理由付けがあって、バグア的にはそんなもん価値も意味もろくにねえと思うんすけど‥‥まあ無意味なツッコミなんだろうなー。
「ゆけぇ! バグア怪人スーパーオセンベー!」
『オセンベー!』
 というわけで青年の叫びと共に彼方から現れてきたのは‥‥ああ、お煎餅っすね。そりゃあ祭りをお膳立てしたのがこいつなら祭りに合わせた敵も用意できるってもんです。
 手足が生えた直径3mのお煎餅。こう書くと間抜けだし実際ビジュアル的にも間抜けなんすけど、それも遠目に見てりゃあ、という条件の元なんでしょうなあ。無力な人間から見て、間近にこんなんが迫りくるのを発見した日にゃあ、一瞬ポカーンとした後パニックにもなります。
 つぅか、よく考えるとイベント開催させたこと自体には意味あるのか。今回も例によってちゃっかり人民略奪しようとしてるしな。一か所に人を集めるって効果はあるっすね。
「さあこい魔弾軍曹マジカル☆リボルバー! 今度こそひねりつぶして差し上げましょう!」
 で、やっぱり茜さんを呼ぶんかい。あれも倒したところでそれほどUPC軍に被害はねえと思うんすけど。



「あのバグア‥‥やっぱりあたしが埼玉に来たせいでアイツも来たってことになるのかな‥‥」
 出撃の命令を受けて和歌山 茜(gz0402)はポツリとつぶやいていた。
 だとすれば、故郷を取り戻したい想いで軍に入り、関東に、埼玉にやってきた彼女の想いは、完全に裏目に出ていることになる。
 そうして、つい、考えてしまう。

 能力者は強くなった。地上の大部分は奪還された。
 多分もう、ほっといてもそのうち埼玉も奪還されるんだろう。
 ‥‥自分が、頑張らなくても。
 全員がそう思ったらだめだから、一人一人が頑張るんだ‥‥なんてお題目はいらない。
 あたしはあたし個人の都合で、意地で、この戦いに参加してる。
 ‥‥それでも。今までは多少迷惑かけたとしても、かろうじて能力者であることがプラスになるから許されると思ってた。
 今は‥‥どうなんだろうか。
 やっぱりあたしの覚醒は、迷惑の方が大きいだろうか。
 ‥‥この戦いの行く末に最後まで関わりたいって言うのはあたし個人の我儘だって分かってて‥‥それで、いいんだろうか。

 と。
 とはいえ、迷いを抱えていようが今現時点での彼女の立場は軍人だ。出撃命令があれば出撃する、その義務がある。
 今はその状態に半ば感謝しながらも‥‥それでも。
 この戦いの行く末次第では、きちんと考え直さなければならないと、彼女は思っていた。

●参加者一覧

龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
ファリス(gb9339
11歳・♀・PN
セラ(gc2672
10歳・♀・GD
ゼクス=マキナ(gc5121
15歳・♂・SF
ルーガ・バルハザード(gc8043
28歳・♀・AA
ジョージ・ジェイコブズ(gc8553
33歳・♂・CA

●リプレイ本文

「確かにアレは煎餅な形だな」
 ゼクス=マキナ(gc5121)さんが無感情な声で言いました。
「巨大煎餅‥‥流石に食えないかな?」
 龍深城・我斬(ga8283)さんはどこかのんびりした声でんなことを呟いてます。
「前に巨大雑煮と戦った事あるけどあれも食えなかったし」
 ああ、そんだけ平常心なのはようは慣れですかい。
 ルーガ・バルハザード(gc8043)さんは正義の怒りを燃やしています。
「くっ‥‥異星人の分際で、無駄に文化を学習しおって! わけのわからん怪人をつくるなど!」
 ‥‥いや、学習出来てるかなあ?
「‥‥今回のキメラはファリスもなんだかよく分からないの」
 ファリス(gb9339)さんなんかは、文字通りわけが分からないらしく困惑顔。ほよほよと頭上に「?」マークが漂っているのが見えてくるようです。
「でも、街の人達に迷惑を掛けている以上きちんと退治するの」
 なんとか気を取り戻そうとするファリスさん。実際、こんなのにきっちりと苦戦している人がほら、そこに。
「くっ‥‥フレイム☆バレット! 必殺ハラワタぶち抜きシューーート!」
 叫ぶと共に撃ち出される弾丸。
 んで。カキーンと弾かれる銃弾。茜さん、驚きの顔を見せますが、あんた物理攻撃ろくに効かないのこれまで散々実証したでしょうに。
 と、そのとき。
「光の旋律に導かれ、煌く涙は剣に変わる!」
 移動車両から降りた傭兵達から、高らかに名乗り上げる声。
「マジカル☆リリックのバリエーション」
 そしてきらりーんとほとばしる光のエフェクト。
 おー、いつもよりかがやくりりっくー、あれはまさかー。
「魔奏少女ルミナス☆リリック」
 うん、セラ(gc2672)さんっすけどね。いや、アイリスさんなのか。
「悪い子は浄化のリズムでみじん切りだぞ☆」
 結構ご無沙汰していた気がしますが、あんたも相変わらずっすね。これで眼の色は冷静そのものだったりするところまで。
 と、ここでさらに別にもう一人、前に一歩踏み出す影。
「闇に覆われしこの世界を貫く、正義の光の一閃! 光に導かれ、魔槍少女ファリス、ここに参上なの!」
 こちらは安定のファリスさんですね。柔らかな光と天使の翼は覚醒特徴、無理なく鮮やかに変身を演出します。
「立ち塞がる敵はこの槍で一撃必滅なの!」
 びしり、とオセンベーに槍を突きつけるファリスさん。決まりました。
「ふっふっふ、来たな魔法少女たち! 今日こそ貴方たちを蹴散らして差し上げましょう! ゆけえ、オセンベー!」
『オセンベー!』
 満足げに声を上げるバグアさんと、前進するオセンベー。さて、今回のヒーロー・ヒロインは以上でしょうか?
 いや。
 ひゅんひゅんひゅん、と、小気味よく風を切る音がします。
 ジョージ・ジェイコブズ(gc8553)さんが器用にくるくると回すそれは‥‥!
 ‥‥ええと、見た目デッキブラシ‥‥っすね。
 そのまま片手で鮮やかにバトンのようにくるくると操ると、しゅた! と小脇にはさんで、もう片方の手を前に突き出し決めポーズ。
「およそ凡人‥‥限りなく平凡‥‥。貴様の目はそう言っている」
 うん、なんか決め台詞っぽいものも始めたし決めポーズっすよね。バトルデッキブラシでやるそれが格好いいのか、というとまあ‥‥その、感性は人それぞれあっていいと思うんだ。
「だが、漢は皆」
 そんなこんなでジョージさんの口上は続きます。びしりと右手親指で胸を指し。
「ここにヒーローを宿しているもの‥‥。正義の魂に甲冑など必要ないッ!」
 力強く言い放ちます‥‥っておぉい! あんた心意気とかじゃなくて冗談抜きで防具一切なしかい!?
「あるにこしたことはないですが」
 ちゃんと防具着てる周りにフォロー入れてる場合じゃなくてっすね。
 まあ、彼が口上を終えたところで、オセンベーもいよいよ接近してきてるので戦闘開始です。

『オ、オ、オセンベー!!』
 オセンベーの煎餅ブレス。
 前に出るルーガさんが盾を掲げて弾丸を防ぎます。
「く‥‥喰い物を粗末にしおってからに‥‥ッ!」
 良く考えたら道いっぱいにお煎餅の残骸が散らかってるっていうのは、人によっては耐え難い光景ですね。
 今回は物理防御が高い敵と聞いて準備した機械剣、確かめるように二、三度振ります。やはり若干慣れない様子、ですがもはやそんなこと言ってられる状況でも心境でもありません。突撃、一気に敵に向かい回り込むと普段扱う剣と同じ要領で鋭く剣を打ちおろし、その剣先がオセンベーへと‥‥。
 命中する、その前に、ちょっと視点変更。
「‥‥ふむ」
 ルーガさんが前へと踏み出していった丁度その時、静かに呟いたのはゼクスさんでした。足元にコロコロと、ルーガさんの盾がはじいたお煎餅つぶてがコロコロと転がっていきます。ゼクスさん、静かな表情でそれを拾い上げます。
「成程、これは喰えんな」
 ええまあ、武器にするくれえっすから。お煎餅ではなくそれに似せた硬くした何かっす。冒頭の我斬さんとの会話である程度その可能性は検証されてはいましたが。
(食えないとはな。ならば存在する価値はない)
 確信すると、ゼクスさんは静かに手を掲げ、超機械「ザフィエル」が起動させます。生まれた力が伝わっていき、皆さんのSES兵器を強化していきます。立て続けに唸りを上げる超機械から、更に錬成弱体がオセンベーへ。
 ルーガさんが狙っていたのはオセンベーの足、被害が拡大しないよう機動力を奪う作戦のようです。斬り返したニ撃目が、ゼクスさんの強化を受けダメージを重ねていきます。
 他の皆さんも勿論続々行動を開始。
「はッ!」
 ジョージさんはあえてルーガさんから一歩遅れる形で前線参加。くるくる回していたデッキブラシはこれも立派な知覚武器。
「たぁッ!」
 短い気迫の言葉と共に繰り出すのはコンパクトに動きをまとめた細かな攻撃。気を引くために威力よりも手数優先のようです。ルーガさんと同様、慣れない知覚武器なんで様子見つつ、って感じでもあるみたいっすね。そもそもこの方、本来は銃使いみたいですし。
「ヒーローに強化イベントはつきもの‥‥。それこそが今ッ!」
 ただまあ、これはこれで結構楽しそうにやってますねこの人は。
「サァ! ってこれ違う」
 ところであんまり余裕こいてると、敵も反撃してきます。
『オーセーンベーッ!』
 ずしんと足をふみならすとともに再びブレスが前に出た一行を襲います。‥‥ジョージさん、ほら、やっぱり鎧は必要だって。
 そこでファリスさんが傷ついた茜さんを庇うように槍を構えました。
「フレイム・バレット! いつも通りフォローはファリスに任せて、思う存分に戦って欲しいの!」
 その手に輝くのはリューココリネ、彼女もこの場に合わせて知覚武器を用意したようです。
 我斬さんとセラさんは立ち上がりは若干様子見気味。二人が気にかけるのは目の前の怪人よりも前回同様に居たスーツの変態バグアさん。
「避難し遅れた人とか居ないかチェックしつつな」
 我斬さん、周囲に状況に目をやりつつ、変態スーツは常に視界から外していません。
 代わりにセラさんは一般人に被害が行かないかを厳重にマーク。
 ‥‥とはいえ、じっとしていればこちらの意図が向こうに勘付かれやぶへびになりかねません。何より、早くオセンベーも倒さねば、実際に変態スーツが動きはじめた時に苦戦は必至。
「双撃! ルミナス☆スラッシュ!」
 セラさん、両手にそれぞれ持ったホーリーベルで斬りかかります。しかしこれは物理攻撃。かっきーんと弾かれます。
「くっ硬い! ルミナス☆ソードが弾かれるなんてっ」
 明らかに分かってやってる感じっすけど。
「ならっ! ルミナス☆グレートソード!」
 で、お約束の後両手剣コンユンクシオに装備変更。どちらかというと、幅の広さを生かした防御目的のようっすね。
 じわじわとオセンベーを包囲し、少しずつ削り取っていく一行。オセンベーがここで大きく息を吸い、ちょっとこれまでと違うモーションでブレス準備に入ります。
『オセンベベベベベベベッ!』
 撃ち出される滝のような小粒煎餅。叩きつけられる勢いに動きが制限されてしまいます。
 ――いや。
 ここでこれまで隙を窺っていた我斬さんが動きます。今までにない大きなモーション、ブレスを吐くその間は硬直しているその瞬間に、斧で進路を阻む礫からその身を庇いつつ、多少の被弾はものともせずに突っ込んで行きます。
(硬いと聞いちゃぶち抜けるか挑戦してみたくなるのが人情ってもんだろ)
 どうやらこれが彼の今回の一番の目的のようです。心意気は嫌いじゃねえっすけど、さて‥‥?
「いっけえぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
 猛撃に両断剣・断。堅い装甲に対する武器として重厚さをもつ斧の刃。渾身の一撃が、オセンベーに決まります!
 メキリ。
 打ちこんだその場所に、刃がめり込む手ごたえを確かに我斬さんは受け取ります。
『オセンベェェェーーー!?』
 衝撃に、多分苦悶っぽい声をあげて身をよじるオセンベー。
 斧の刃が離れると――はっきりと刻まれています。一撃の爪痕が、オセンベーの中心にくっきりと。
「今の俺の強さはこれくらいって事か」
 ぶち抜くとはいかなかった成果に満足と無念が半々といったところですか。
 だがこの一撃の結果は‥‥これだけじゃあ、終わらねえんっすよ。
 考えてもみてください。直径3mのオセンベー。それに生えた手足。良く考えればとんでもなくバランスが悪い物体の中心に強烈な衝撃が加わったんです。その瞬間、身体を傾かせているオセンベー。
「勝機! ルミナス☆足払い!」
 そしてそのことにばっちり眼をつけていた方がいます。セラさんが最高のタイミングで四肢砕きを狙います。ルーガさんが足に蓄積させていたダメージもそこに加われば。。
 ズズズズズーンと、そりゃもうすさまじい土煙を上げて倒れましたとも。オセンベー。
 当然、立ち上がるまで待つ義理も道理もありませんわな。
「砕けろ。オセンベー」
 ゼクスさんの、やはり淡々とした声音、それと共に電波増幅された超機械の一撃を皮切りに。皆様、倒れたままのオセンベーに容赦なく全力の追撃の重ねあて。
「十万石! アタァァーック!」
 説明しよう! 十万石アタックとは、埼玉名物十万石饅頭にちなんだ必殺技である!
 ジョージさんが叫びと共にバトルモップを大きく振りかぶり、叩きつけます。弧を描く水のようなオーラが尾を引いて軌跡を残し、弾ける水飛沫!
「うまい、うますぎる‥‥」
 すっとオーラが消えていくとともに、余韻を残す決め台詞。
「ま、待てお前らっ! そのまま倒れたまま倒すのか!?」
 慌てた様子の白スーツ。そう言えば居ました。
「‥‥これが絆の力‥‥! そう、皆の想いが、戦場が原での戦いの日々を思い出させてくれた! だから私はもう、躊躇わない!」
 そう言ってガンガンと我斬さんがつけた傷に向かって銃弾を叩き込んでいく茜さん。
「ふっ‥‥成程‥‥いいでしょう! 次の戦いを楽しみにしていますよ!」
 アンタそれで満足なんかい。やっぱり良く分かってないだろ。
 とまあ、積極的に手出ししたい人がいなかったため白スーツ、ここで瞬間移動で退散。倒れたまま取り残されてるオセンベーの命運はもういいよね?
「次はビッグコイノボリーでも釣れてくるんだな」
 立ち去るバグアに向けてジョージさんが一言。正直、余計なこと言わんで欲しい。



「漸く終わったか」
 ゼクスさんの呟きが、戦闘終了を皆に認識させます。早期に転ばせたおかげで被害範囲は想像よりずっと少ないものとなりました。
 何事もなかったかのようにイベント再開、とはいかねえのが現実っすけど。
「焼きたての煎餅がこんなにも美味しいとは‥‥初めてだ」
 残されていた人たちがもったいないしお礼も兼ねてと傭兵たちに手作り煎餅を差し出すと、ゼクスさんもこの時はさすがにちょっと声音に色があった気がしましたね。
 もっともそんな元気があるのは、オセンベー出現地点から離れた地点に居た人たちのみ。
(我ら人類が押し返してきたとはいえ‥‥小規模な戦闘は減らない)
 ルーガさん、一時避難していた人々の顔付きを眺めて、しみじみと決意を新たにします。
(力持たぬ民のために、我ら傭兵が全力を尽くさねばならないのだ‥‥!)
 騎士の想いは熱血です。
「プレーンと、ごまと、のりと‥‥とにかく全種類をくれ」
 それはそれとして、もうイベントは続けられないのでお土産にどうですかと差し出された煎餅に対しては、真顔でそんなこと答えてましたが。

 さて決意を新たにと言えば茜さん。
「‥‥ファリスには茜姉様の悩みは分からないかもしれないの」
 落ち込み方がいつもと違う、と気づくのは長い付き合いあってのことでしょうか。
「でも、目の前で困っている人が居て、自分のその力があるなら、躊躇わずに使うべきだと思うの。ファリスはずっとそのつもりで戦ってきたの。茜姉様も正義の心を忘れないで欲しいの」
 真っ直ぐな言葉っすね。茜さんは眩しそうに目を細めます。
「‥‥どう、かな。力だからこそ、本当は気をつけて使わないと」
 茜さんはあえて厳しい言葉を返します。‥‥子ども扱いしないって事でもあるんすけど、ね。悲しそうな顔になったファリスさんに、やっぱり胸は痛みます。
 互いに無言、ただ、ぱりぱりとせんべいをかじる音が響きます。
「よっ、主役」
 そこへ現れるのは我斬さん。やっぱり手には草加煎餅。
「いやなによ主役って」
「いや、あの白スーツは魔弾軍曹さんを指定してるし‥‥」
 はぁ、と溜息をつく茜さん。そして煎餅をカリッ。
「‥‥あいつの妙な思考と軍曹さんの覚醒後がかみ合ってるおかげで被害が最小限だったりするしな、今の埼玉の最重要人物なのかもしれんよ」
 努めて気軽に、我斬さんは言葉を重ねます。そして煎餅をぼりっ。
「それは‥‥どうなのかなあ」
 ごりごり。
「まああの白スーツが居なかったとしても別のバグアが埼玉の担当って事になるだけで、その場合もっと悲惨な戦いが起きてたかもな」
 ごくん。パリッ。
「‥‥一つ、気付いたんだけどさ」
「ん?」
「煎餅かじりながら真面目な会話するもんじゃないわね」
 そう言って、クスリと茜さんは笑います。なんだかんだで、我斬さんの言い分に納得するところもあったのでしょう。
 何気なくまわした視界の端で、ゼクスさんが一度麦茶を所望して更に煎餅を消化していました。
「ただ、やっぱりさ、こういう光景は好き。故郷の人たちと、そのよさに触れてくれる人々」
 もっとちゃんと、こうした光景を取戻したい。そのための力になりたいと。
「まだ、未練は――あるなあ」
「‥‥それで、いいとおもうの」
 呟いた茜さんに、ファリスさんが応えました。

 とりあえずまたここに、一つの戦いが終結しましたとさ。
「しまった!強化前の敗北イベントを忘れていた‥‥ッ!」
 ジョージさん、それは知らんがな。