タイトル:【OMG】ヤ バ いマスター:凪池 シリル

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/04/23 06:12

●オープニング本文


 月面基地――通称『崑崙』。
 度重なるバグアの妨害を受けながらも、軍と傭兵の活躍により着実に建設を進め‥‥そして。とうとう、駐在人員の派遣を迎える日がやってきた。
 ‥‥しかし。

「‥‥! 月方面、敵部隊が観測されました! その数多数‥‥母艦も出撃していると思われます!」
 オペレーターが、悲鳴に近い声を上げる。
「‥‥面倒臭ぇ、やっぱこうなんのかよ!
 ったく連中、見下してた相手が這い上がってくるのが、よっぽど気に食わないと見える」
 エクスカリバー級巡洋艦『オニキリマル』、艦長の土橋桜士郎(gz0474)は、いつも通り唯面倒臭そうに言った。
 そう、いつも通り。ここまできたら、やるべきことを為すのみだ。何が相手でも。
「まあ、何とかなんだろ。月面降下作戦は予定通り決行するぞ。
 ――邪魔な連中は蹴散らすだけだ」

 一方、バグア母艦。
「――ふ。再び強者と見えるか‥‥!」
 敵指揮官ダークミストは、人類の月面基地の完成を許したというこの事態に、むしろ笑みを浮かべていた。
「さあ、人類よ。本気で死合うぞ! 全軍前進! 月面基地を叩き潰す!」
 この状況ならば‥‥さぞかし、必死で抵抗してくるだろうな?
 ダークミストは嗤う。これまでの戦いはあくまで力試し。今こそ全力でぶつかりあう舞台は整ったのだ、と。

 人類は宇宙へさらなる一歩を刻むのか。宇宙の覇権をかけた闘いが、始まる。



「敵指揮官がこっちに向かってる!?」
 敵味方入り乱れる月面上空。いざ出撃を目前に控えたUPC軍KV隊に、まさにその瞬間にもたらされた報に、一同に戦慄が走る。
 敵母艦よりカスタムティターンが出撃。月表面に向かっている。外見からしてこれまでに交戦報告がなされている、ダークミストのものと思われる、と。
 ティターンを支給されるほどのバグアはそう多くは無い。ましてやカスタム機。ダークミストはこの宙域の指揮官クラスと目されたのは当然のことだった。それが。
「母艦を守るんじゃなくって前線に出てくるってのか!? 聞いてない! どうするんだよ!?」
 月面降下を目指すKV隊の任務は、直接基地破壊を狙ってくる、同じく降下してくるワームやキメラの退治。敵艦隊から、数に任せて降ってくるであろうそれを撃退する、という想定であった。
「いや。まあ。今更任務の変更とか効かないし。予定通り」
 詰め寄ってくる隊員に、いつも通りの――ではない。さすがにちょっと困った様子は滲んでいる――口調で答える御武内 優人(gz0429)。リトルフォックス隊も、この任務のKV隊として組み込まれていた。
「予定通りってなんだよ!? すでに予定通りもへったくれもないだろ!?」
「いやまあ。まさか俺らがティターンの矢面に立てとか言われないよ。俺らはいつも通り。戦線の一翼として倒せる敵を倒す。そう言う意味では、予定通り」
「流れ弾が飛んでくる可能性があるのがゴーレムと上位バグアのティターンじゃ全然違うだろ!?」
「まあ――そだね。でも、俺らは逃げだせない。忘れちゃいけないよ。俺たちは‥‥兵士だ」
 隊員が押し黙ったのは、今更騒いでもどうにもならないという現実を突きつけられたからか、それとも極めて珍しい優人の真面目な表情ゆえだろうか。
「分かってるよ。今の俺らじゃ逆立ちしてもティターンに手出しなんか出来るわけない。だから‥‥いよいよもってどうにもならなくなったら、ちゃんと撤退指示は出す。リーダーとして。そんで‥‥
 ――そん時は、俺がちゃんと殿を務める。やっぱ、リーダーだから」
 真っ直ぐに隊員を見つめ返して、優人は言った。
 速水 徹は、ここまでは黙って様子を見ていた。普段へらへらしているこいつの、今の言葉が信用なるのか? と言えば、徹としては、なる。
 有力軍人の息子。親の七光で立場を優遇され、リーダーに収まったと言われる優人は、それらの蔭口に対し今まで、何ら言い訳せずに淡々と成果を重ねてきた。それを見てきたから。
「‥‥ま、そうならねえのが一番だがな。今回の作戦には、傭兵も出撃する。そっちに期待するしかねえだろ」
 そうして徹は、流れが変わったこのタイミングで、静かに口を滑り込ませた。
「ある意味チャンスじゃねえか。俺らはルーキーチームとして編成された、成長することを期待されてるんだ。いつまでもちまちました戦いしてるわけにいかねえ。なら‥‥敵エースと人類エースの戦いとやらを間近で体験させてもらえるいい機会だぜ」
 徹の言葉に、優人はうむ、と頷き。

「まあそんなわけでですね。ヤバい敵はマジヤバい傭兵の皆さんがヤバい頑張ってヤバい何とかしてくれると信じて、俺らは俺らでヤバい頑張る。そんなヤバいいつも通りの作戦となります」

 続く言葉は、もう完全にいつもの様子でいつもの調子だった。
「半分以上意味分からねえっ! オメーただヤバいヤバい言いてえだけだろっ!」
 徹が突っ込みを入れると、完璧にいつもの空気――。
「‥‥やれやれ。この二人は。まあ本当、どうにもならないですし、私たちも覚悟決めますか」
 そして、残る一人が諦め気味に言うと。
「あ、そんなわけでマジヤバい傭兵の皆さん、ヤバいビビってる俺らに出来ればヤバい一言なんかいただけると」
「もういいんだよそれはっ!」
 一同は、苛酷な戦いへ、いつも通り出撃準備を進めていく――

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
エリアノーラ・カーゾン(ga9802
21歳・♀・GD
レイミア(gb4209
20歳・♀・ER
イーリス・立花(gb6709
23歳・♀・GD
シンディ・ユーキリス(gc0229
25歳・♀・SF
ラサ・ジェネシス(gc2273
16歳・♀・JG
BEATRICE(gc6758
28歳・♀・ER
アクア・J・アルビス(gc7588
25歳・♀・ER
クローカ・ルイシコフ(gc7747
16歳・♂・ER

●リプレイ本文

「優人さん。ヤバイ状況ですけど、ヤバイ位強化頑張ったので、きっとやばい活躍できるですよー」
 アクア・J・アルビス(gc7588)がノリでそう答える中、エリアノーラ・カーゾン(ga9802)は「んーぅ」と唸りながら一同を見回している。
「何というか、一番ヤバいのは傭兵の参加メンバーな気がする。そこんトコ、優人はどー思う?」
 エリオノーラの言葉に、優人も視線を巡らせる。とはいえ、優人はまだそれほど多くの傭兵の顔を知っているわけではない。「そうなの?」と問うと。
「ウン、味方も我輩以外、マジヤバイ歴戦の兵が集まってるカラ」
 太鼓判を押すようにそう言ったのはラサ・ジェネシス(gc2273)。
「ある意味教科書に載っててもおかしくない人達ダカラ、戦い方見てテクニックを盗むといいヨ」
 ラサの言葉に目線を鋭くしたのは徹だ。実のところ、ラサの言葉を待つまでもなくこの場に居る者の何人かの所作からヤバい実力を感じ取っているのだろう。
 BEATRICE(gc6758)が口元に軽く優しい笑みを浮かべながらそこに加わる。
「私も‥‥『逆立ちしてもティターンに手出しなんか出来るわけない』組ですから‥‥倒せる相手から倒していきましょう‥‥」
 エースクラスが出来る限り邪魔されないようにする、それもきっと必要なことだと。その言葉にリトルフォックス隊の面々は頷こうとするが、まだどことなくぎこちない。
 その時、ぽそりと優人の死角から聞こえてきたのは、こんな声。
「ハヤテからクルーエル‥‥クルーエル、クルーエル‥‥うん。まだまだ‥‥シンプル・イズ・ベスト‥‥」
 はっとした優人が振り向く。その先に居たのは彼が想像してた通りの顔。シンディ・ユーキリス(gc0229)。
「また乗り換えたのか!? 宇宙機か! くそ、俺だって負けませんよ、愛機に乗り続けてきた意地を見せてやりますよ。でぃアマントシュタオぷっ! どうだ!」
「‥‥三回続けて」
「ぐっ‥‥」
 最後の一回はやはり噛んでいた。このやり取りは随分おなじみで、優人だけでなく隊の皆も幾分か緊張を和らげていた。
「‥‥大丈夫。敵の強さや数が変わっても、やることは今まで通り。それこそシンプル・イズ・ベスト、よね?」
 シンディが微笑む。
「悪いことする人たちは追い返しちゃうですよー」
 アクアが声を上げる。
 優人たちも笑顔で手を掲げて‥‥互いの手を、打ち鳴らす。
 これまでに築いてきた、ヤバい絆の賜物だった。

 雑談の時間は終わる。各々がそれぞれ、自分の機体に乗り込んでいく。
 イーリス・立花(gb6709)が、いつもするように、モニターをこつん、と小突く。
 アルヴァイム(ga5051)が出撃前に、軍との最終調整として傭兵たちの動きを伝えていた。



 宇宙へと身を躍らせた一行が目にしたのは、バグア母艦より大量のキメラが滝のように吐き出されると言うヤバい光景だった。UPC軍が号令の元、『滝』へとヤバい呼吸を合わせた一斉射撃。ヤバい勢いで最前列のキメラが砕け散っていく。
 そうして、剥がれおちたキメラの滝の一部、ほとんど囮だったのだろうそれらの見通しがちょっと良くなりだすと、ヤバめの敵の姿が見え隠れする。ここからが、ヤバい傭兵の出番である。
 まずは一際ヤバそうな大型キメラ、デストロイマーチに向けて各機が対応する。
「ビリビリーってなるですー」
 アクア機より、G放電装置が放たれる。アルヴァイム機の電磁加速砲が痛烈に撃ち抜く。エリオノーラ機のアサルトカービンがそれに続くと、軽く身体を丸めていた巨体が、脱力したようにだらりと広がりちぎれていった。おそらく倒したのだろう‥‥が、相手はあれ一体ではない。
 ただ地上を目指す敵は反撃する様子はなく、空での戦いは一方的な展開ではあった。だが纏まっているだけに余計なキメラがカーテンとなり、必ずしも狙った敵に絞った攻撃ができない。
 シンディ機が、ガトリングで雑多なキメラを削り取る。後方を守る仲間を考えてのことだったが、結果としてこれが味方の射線を開く。彼女自身も時折、好機にはレミエルでデストロイマーチを攻撃。だがそれでも‥‥全てを退治しきれるわけではなかった。あとは次へ控える味方次第。

 月面へとキメラが到達する。残った半数の傭兵機が、それを迎え撃つ。
「地面にいるのに浮いてるみたい‥‥変な感じ」
 呟いたのはクローカ・ルイシコフ(gc7747)。プチロフ機の挙動が軽い、というのは、ヤバい違和感がある。徐々に慣れていく必要があるなと思いながらヴァイナーシャベルを振り上げる。
 ドクター・ウェスト(ga0241)の機体が、初めに落下してきたデストロイマーチに向けて8mのヤバい機練剣、「星光」を突き立てる。すでに上空で損傷を負っていた一体は、軽くもがいただけでその動きを止める。
「ふむ〜? これでは参考にならないね〜」
 手ごたえに、ウェストは追加の水素カードリッジを叩きこもうとしていた手を止める。カードリッジを何発消費するかで、錬剣での攻撃が効率的かを計ろうとしたのだが、上空班がよくやってくれたおかげで彼の目的は達成できない。そのままウェスト機は、別の一体を探しにいく。
 その他、各機も己が標的とすべき敵を見出すまでは、順次キメラ対応に当たる。

『上空キメラ群の後方よりワームの影を確認。各機注意してください』
 そのとき、レイミア(gb4209)よりヤバそうな警告が発せられる。ピュアホワイトの複合ESMで捕えられたそれは間違いなく敵精鋭機だった。キメラの影に、ゴーレム。その更に影に‥‥ティターン。
『アレはヤバいな‥‥BEATRICE殿!』
 ラサが反応して、BEATRICEに呼び掛ける。
「ミサイルキャリアの名の如く‥‥と行きましょうか‥‥」
 呼応したBEATRICEが複合式ミサイル誘導システムIIを発動。エリアノーラ機もそれに合わせてUK−12SSMを発射するとヤバい数のミサイルが一気に放たれ、キメラの滝を突き抜け、一部がゴーレムの元へ。
「超ヤバイ砲、発射ー」
 ラサ機が、一瞬開いたキメラの滝、その向こうに居るゴーレムに向けて電磁加速砲を、FETマニューバAを乗せて放つ。直撃した一体に、大きなダメージを与えるが‥‥上空班が手を出せるのは、ここまでだった。

 かくして、月面上で、マジヤバい勝負が幕を開ける。



『ゴーレムおよびティターン、降下予測地点を転送します』
 レイミアが、ピュアホワイトのヤバい情報処理能力によるヤバい負担に耐えながら味方に通達する。
 イーリス機が即応。降下地点へと接近し、アサルトフォーミュラBを発動。上空の攻撃で弱ったゴーレム、降下直後で硬直するそれを機拳で掴み‥‥そして、尾に装備された機剣がゴーレムを貫く。もがくゴーレム、その動きは早くも停止寸前に見えた。
 敵前衛が抑えられた隙に、榊 兵衛(ga0388)の雷電が動く。機棍「蚩尤」を手に立ち向かう兵衛機に、ダークミストも楽しそうに「ほぅ‥‥」と呟き、ティターンがサーベルを構える。
 伸縮すると言う特性を活かし、間合いを計り辛くするという兵衛機の攻撃が、数度ティターンの肩を、腰を打つ。だがその数度で、ティターンも動きを変えた。強化慣性制御を発動。兵衛機の棍を盾で受け流すと一気に間合いを詰める。サーベルの間合いに持ち込まれてしまうと、棍の伸縮性もミサイルポッドによる牽制も活かし辛い。
 前に出る兵衛機を援護するように、飯島 修司(ga7951)機、そしてアルヴァイム機が射撃により足止めを図る。
 だがアルヴァイムがこの戦いで担っていたのは全体管制による防衛力維持。UPC軍含め、損耗に布陣、各戦地の戦況や補給のタイミングを把握するというのは、この戦闘の規模を考えるとヤバい忙しさである。この上ティターンの周域警戒により横槍を警戒しつつ、自身もティターンを攻撃し効果的な射撃でゴーレムとの連携を断つ、というのはちとヤバい贅沢であった。それでもヤバい作戦を渡り歩いてきたアルヴァイムのこと、管制はきっちりこなし上空戦の安定度はヤバいものにしていたが、割を食う形でティターンとゴーレムへの射撃のタイミングを計る精度は落ちた。せめて前に出た兵衛や修司、あるいはティターンに向けてヴィジョンアイを発動したレイミアが音頭をとるのであれば違っただろうが。
 いや、そのレイミア機にしても。本人含め、ヴィジョンアイを発動させたピュアホワイトに誰も気を配らない、というのはやはりヤバい。即座にダークミストはそこを見抜き、号令を発すると大量のキメラと、そして一体のゴーレムがそちらを向く。キメラとKVとは言え数がそろえば影響は無視できない。まとわりつかれ動きが鈍ったところに、ゴーレムのフェザー砲が数度撃ち込まれレイミア機が追い込まれる。
 アルヴァイムが状況を伝えると、イーリスとクローカが、急ぎその対処に向かった。撃破した一体と同じように、イーリス機がゴーレムに掴みかかり、レイミア機から離しにかかる。クローカ機がヴァイナーシャベルを掲げ、射撃から守るようにレイミア機とゴーレムの間に割り込む。

 ‥‥立ち直らせるまでのその間、地上でキメラに専念できたのはウェスト機のみ。対処しきれず、この時、多くのキメラが後方の基地に向かって流れていく。そこには、デストロイマーチの姿もあったが、どうにもならない。

 ティターン戦も継続している。連携を断とうとするのは相手指揮官にしても同様だった。ダークミストは、ゴーレムの一体を、修司機との間に割り込ませて牽制射撃を止めようとする。
 ‥‥が、この修司機。マジヤバいなんてものではない激ヤバ機であった。この機体の対応にゴーレム一機とかアホヤバい。描写の必要すらないほどにあっけなく、これが撃ち落される。
「おぉ!?」
 ダークミストが上げた声は驚愕とも歓喜ともつかなかった。ここでティターンは兵衛機に向け、盾を掲げ突き上げるように体当たり、月面の低重力もあって軽く浮かせたところで引き離し、修司機へと突進していく。修司機は機盾とハイ・ディフェンダーを構え迎撃体制をとる。
 バグアのエースと人類エース、二機が刹那の交差。
 ブーストとパニッシュメント・フォースを起動し、一気に五連撃を叩き込もうとする修司機に対し、ティターンは機動力を活かし回り込みながらの攻撃を仕掛ける。
 互いの攻撃は何度か互いを捉え、しかし全ての攻撃が完璧に決まりきったわけではない。
 それでも。
『こ、これ、は――信念の力、これほどか――!』
 ダークミストの声は、今度ははっきりと驚愕だった。
『ふむ、やはりアルザークのそれと比べれば、まだ見切れる動きですな』
 対する修司の声はまだ冷静だ――彼の機体も、決して無傷ではないが。グラリ、と姿勢を崩したティターンへ、タイガーファングを顎に一撃、更にお見舞いする。
 そこへ更に、兵衛機のミサイルが降り注いだ。
『ぬぅ!』
 ダークミストの声に応じ、接近する二機にゴーレムが割り込む。この二機に対しゴーレムが時間稼ぎにもならないのは先刻承知のはず――故にティターンは、ゴーレムが到着すると同時に大きく後退した。
 そして、二機の間でゴーレムは、盛大に自爆する!
 これもまた、月面上という条件で、威力はともかく体勢を崩すにはそれなりに効果があった。
『人類よ、見事だ‥‥! 貴様ら相手に無理をしすぎた、戦力を惜しんだこと、素直に詫びておこう!』
 体勢を持ち直したころには、ティターンは身を翻していた。止めるすべは‥‥ない。月面基地への前進を防ごうとしたものはいても撤退を警戒し囲もうとしていたものはいなかったのだから。
 止むをえまい。敵指揮官の性格上、あっけなく撤退するというのが想像しにくかったのかもしれない。だがそれ以上に、目的は月面基地の防衛だ。その意味で――敵指揮官を撤退させたと言うこの意味と効果は‥‥

 ヤ バ い。



 ティターンとゴーレムが退けられたところで、戦況は一気に人類側へと傾いていた。
『正直、下の面子を考えると、もうキメラ達は降りてこない方がいいんじゃないかな』
 相変らずキメラの滝を削り取りながら、哀れみを込めて言ったのはエリオノーラ。だが上空にヤバい人たちがいないわけでもなく。
『全力でいったら‥‥カプロイアの人が泣くのでしょうか‥‥』
 崑崙のハッチから補給を終えたBEATRICEが、再びヤバい量のK−02を撒き散らす。
 K−02ミサイルといえばカプロイアの職人さんが一つ一つ丹念に仕上げましたヤバい手間をかけた代物、それが盛大にぽんすか撃ちまくられてるこの様はまあ後日カプロイアの工房が泣きを見るだろうことは想像に難くなかった。
 地上戦。
 デストロイマーチに対し、正面は危険と判断し側面からの攻撃を狙う傭兵達だが、全力疾走する敵を側面から狙い続けるには、誰かがどこかで足を止める必要がある。
 ここでも活躍を見せたのは修司機。あえて正面に立ち、重心を低くし機盾をやや傾けて前面に構え、衝角の下へ滑り込ませる。所謂当て身投げを狙ったものだ。キメラの巨体がそこへ突進。KVをも跳ね飛ばす一撃‥‥だが、ここで低重力は修司機に味方した。機盾にそってキメラの足が浮き、その瞬間を狙った投げは相手をひっくり返させることに成功する。
 ただ真っ直ぐ突進するという相手の特性に、もっと分かりやすく効果的に対応したのはイーリスとクローカだ。
 地面を掘る。それだけである。あっけなく知能のないキメラはそれにはまった。
 特にクローカ機。ヴァイナーシャベルはそのためにあった。くわえて砲撃で更に深くすることによって、時にキメラの姿を確認してからの対処でも間に合わせる。
「ちぇっ、陸で戦うときは決まって防戦なんだよね」
 クローカはぼやいていたが、この戦いで、彼の貢献は大きい。
 動きの止まったそこへ。
『シンジェーーーーン!(かな?)』
 ウェスト機が、ヤバい叫びを上げて――ちなみに『星光』の中国読みである――ヤバい機錬剣を突き入れる。そのまま水素カードリッジを追加。再び、キメラを貫く機剣の根元から光がこぼれたところで、キメラは進軍を停止。今度こそその結果に、ウェストは満足したようだ。

 要するに、ここからは一方的な殲滅戦。後方へ流れていくキメラは、明らかにその数を減らしていき。
 ‥‥気がつけば月面は、無数のキメラの死体の散らばるやばい光景へと化していた。
 なんかアクアがそれに対しヤバい楽しそうな、期待したヤバい目を向けていたが‥‥まあ、余談である。多分。



 そうこうするうちに、他の部隊がやってくれたのだろう。母艦もいつの間にか姿を消し、キメラの滝は止まった。
 リトルフォックス隊も、ヤバい敵は約束どおり傭兵たちがきっちり抑えてくれたおかげで健在。
 ひとまず、この戦域の任務は終了。後は、――最後の砦の生身部隊がどうだったか、次第である。