タイトル:【AP】比類なき瞬間マスター:凪池 シリル

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 2 人
リプレイ完成日時:
2012/04/17 06:45

●オープニング本文


※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。





「――やあ。せっかくだから、少し話をさせてもらえるかな。

 昨日も。それから明日も。
 終わらない、繰り返される戦争の日々。

 ――だが、繰り返される日々といいながら、その実、一つとして「同じ」戦いなどない。
 だから。
 歴戦の古参兵にも。
 今日初陣の新参にも。
 『ソレ』が訪れる可能性はいつだって、等しく、在る。

 高級将校が発令する大規模な戦いでも。
 地方新聞の片隅にやっと載るような小さな事件でも。

 圧倒的な力の前になすすべもなくか。
 冗談みたいなささやかな不幸からだったのか。

 勇敢に最後まで戦ったのか。
 見苦しい命乞いの挙句になのか。

 その瞬間を理解する間もなく一瞬でだったのか。
 じわじわと、忍び寄るそれを長い間味わってだったのか。

 納得して、最後には笑いながらだったのか。
 拒絶して、最後まで抗いながらだったのか。

 ‥‥如何なるものであっても、大した違いなどないだろうね。
 『ソレ』が訪れた瞬間から、誰もが等しく無価値になり。
 ――そしてだからこそ、どの瞬間も、僕にとっては等しく愛おしいんだ。

 だから、君のそれも、僕はしっかりと見届け、刻んでいるよ」


 ――何なら、もう一度思い返してみるかい?
 ――その上で君が今、語っておきたいことがあるならばそれも聞こう。

 間違いなく人生に一度きりの。
 あなたの、比類なき神々しい瞬間について。


 片手に、振るったばかりの収穫の鎌。
 片手に、そうして得たあなたの魂。

 黒衣の青年――死神は、手を取り歩きながら、語りかける。

●参加者一覧

秘色(ga8202
28歳・♀・AA
百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
堺・清四郎(gb3564
24歳・♂・AA
レインウォーカー(gc2524
24歳・♂・PN
ヨダカ(gc2990
12歳・♀・ER
綾河 疾音(gc6835
18歳・♂・FC

●リプレイ本文



 ――建物の半数は原形を失い、道には累々と死体が横たわっている。
 キメラの襲撃を受けた街は、秘色(ga8202)を含む軍と傭兵が駆けつけた時、すでにそんな有様だった。
 胸を焼く後悔に立ち尽くす暇は無かった。
 現れたキメラの一体を瞬く間に斬り伏せる。一息だけついて次の一体へ。
 街を駆けまわるために邪魔するキメラを、一体何体切り捨てたのか? そんなことも分からなくなるそのころ。視線の先に。
「――っ!」
 思考や理解より先に身体が動いた。走る、キメラを叩き伏せる、そして――崩れかけた建物から小さな人影を抱きかかえ退避する。そこまでを、ほとんど脊髄反射ともいえる速度と思考で。
「‥‥もう大丈夫じゃ」
 そうして、その状況になってやっと自分が何を見て、何を為したのかを理解して。
 秘色はゆっくりと抱き寄せた存在、少年へと語りかける。
「ありがと」
 少年は小さな声で答えた。瞬間、秘色の身体が震える。
「――そしてご苦労様」
 次に少年が発した声は昏く冷たく。そしてその時、秘色の背中から、血にまみれた少年の腕が生えていた。
「‥‥!?」
 だが、次の瞬間、少年の顔に驚愕が走る。腹を貫いた手が――抜けない。
「‥‥我ながら‥‥ありふれた手に‥‥油断したものよのう‥‥」
 凄絶な笑顔を少年に向けながら、秘色は指が食い込むほど強く、少年の腕を握りしめる。
「助けられたばかりの童が‥‥斯様に明瞭に答えるものかと‥‥気付かねばまんまと逃がすところであったわ‥‥」
 秘色はコロコロと笑い、バグアは致命的な詰めの甘さを後悔することになる。
 バグアは、あり得ないと慌てふためいた様子で、必死で秘色の腕を振りほどこうともがき回り。
「‥‥遠慮せずと、も‥‥道連れと、参ろう‥‥か!」
 秘色はただ、真っ直ぐに刃を下す。ごく自然、すなわち一切無駄のない流麗な軌跡。断ち切ると言うただ一つの意思が込められた一太刀にエミタが呼応し、SESが閃く。
 半分となったバグアの身体、力が抜けたその腕が秘色の腹からズルり、と抜けて。秘色もまた、逆方向へと倒れ込む。
「ああ‥‥此れは、ヤバイ‥‥かの‥‥ふふ」
 致命傷だと自覚する。それでも一応は治療をエミタへと訴えかける。が、やがては錬力も尽きて、そして――





 絶好の機会だった。この宙域の指揮官たるエースティターン、それが、味方の援護もあって今己の前に硬直を晒している。百地・悠季(ga8270)は今こそと、全霊を以って機剣の一撃をそこへと突きこんでいく。
 しかし――エース機は伊達ではないということだろう。相手も、無理矢理悠季の動きに反応する。
 ――結果は。
「相討ちっ!」
 響くレッドアラート。カメラモニタに写されるのは、ティターンの中枢に食い込む己が愛機の剣。互いに互いの剣を貫き合っている。悠季は理解して、即時脱出装置を起動した。
 最後に機体の腕で相手の挙動を抑えつけ、限界を迎える前にコックピットが射出される。
 ‥‥そうして宇宙空間を漂いながら、機体信号の消失を認識した。後部カメラのモニタの向こうで、爆発の火球が見えた。
 また同じ性能の機体を用意はしてくれるだろう。それでも、自分好みの機体を失うのはやるせない。
(まあ生きてるだけましだけどね)
 ポッドの中で手足を縮めながら、彼女は一人ごちた。
 迂闊に動くわけにはいかない。退屈、それ以上の不安を誤魔化すように、今の彼女に出来るのはモニターとレーダー眺めるだけだった。不幸中の幸い、周囲戦闘はそれほど激しくないようだ。
 と。レーダーに味方機の反応が現れる。
(‥‥旦那の『天』かな)
 確認はしてない。でも即座に直感でそう思った。
(撃墜されて心配してるだろうなあ)
 望遠で確認出来た機体は果たして、『天』だった。機体の手がこちらに伸びるような様子に、思わず彼女も掴みかえすように手を伸ばして。

 衝撃に機体が揺れる。

 視界が、オレンジ色に染まる。

 目の前が、火の海と化していた。

 ――敵の光線砲撃が、彼女の脱出艇を貫いたのだ。

 嘘‥‥
 ここで‥‥

「いやっ‥‥あぅっ!?」
 慌てて機体操作しようとするもパネルも火花を散らし続けており。そしてそれが彼女にも燃え移る。
 いや、触れずとも周囲の熱気が彼女の肌と灰を焼き続けていた。
(熱い、熱い‥‥苦しい‥‥)
 活性化を試みるが全く間に合わない。忍び寄る死の感覚を徒に延長するだけ。

 ――走馬灯。
 駆け巡る記憶と想いには、未練と無念がありすぎた。
 娘は生後半年の可愛い盛り。家族計画では後二人は産むつもりだった。
 希望にあふれた己の未来が、潰えていく‥‥――

 滲む視界で、チカチカとまたたく光に気付いた。炎の中で、レーダーだけがまだ生きている。
 もがくように、こちらに近づいていく光。それに。
 ‥‥ここで終わりなら自分は今何をしなければならないだろう?

 ――何時だってあたしは貴方と娘の味方でずっと傍に居るから

 意識が途切れる。あたしは笑顔を貫けただろうか。





「照準はいらんぞ!とにかく撃ちまくれ!」
 堺・清四郎(gb3564)が友軍に向けて叫ぶ。映し出される敵勢力は地が3に敵が7。それでも上等だとばかりに彼はライフルを撃ちまくる。
「馬鹿野郎! 迂闊に飛びあったら‥‥!」
「く、くそ、今行くぞ!」
「待て! 後退しろ、そいつはもう助からん‥‥!」
 奮戦し、清四郎の周囲では一度敵が押し返されていくものの、やがては数がものを言う。戦線は徐々に切り崩され、乱される。それでも、清四郎は声を張り上げ続ける――

 解放されたはずの日本全土は、今、残党による大攻勢を受けていた。
 様々な要因により発見が遅れたそれに、UPC軍は大規模都市間近までの接近を許す。
 中央即応集団、傭兵部隊への命令はただ一言。

「死守せよ」

 ――かくして、絶望的な防衛戦闘が、ここに開始されていた。

「生きている奴は集まれ!」
 最終防衛ライン。引けばバグア軍は背後の都市を、多くの市民を蹂躙することだろう。
「諸君、これ以上の戦闘継続は無理だ。よって俺達は正面のバグアどもに突撃を敢行。一体でも多く道連れにし民間人避難のための時間を稼ぐ」
 生き延びたわずかな仲間たちに、清四郎は淡々と事実を伝える。
「俺は指揮官ではないが‥‥恨み言はあの世で聞く。だから今は俺に付き合ってもらいたい」
 そして、一人一人に視線を巡らせながら、誠実に、懇願する。
「‥‥馬鹿なこと言いやがる」
 一人の男が、答えた。
「お前さん、ここに居る奴が『他人のために死ぬのは嫌だ』何て言いだすとでも思ってるのかい? そんな『お利口さん』ならな、もっととっとと逃げ出すだろうに」
 と。
「‥‥。その通り、だな。馬鹿なことを――聞いた。誇り高き益荒男たちよ、感謝する。八百万の神の加護があらんことを」
 そうして清四郎はすらりと己の刀を抜いた。切っ先を静かに、バグア軍がやってくるであろう方向へ向ける。
「総員、抜刀…奴らを一体でも多く道連れにしろ! 人類の意地を見せつけるぞ! いくぞ‥‥全軍‥‥突撃!」

 戦士たちの声が響き渡る。
 最後の戦いが始まる。
 奮戦。そうとしか表記しようのない。ただ目の前の敵を切り、討ち、倒す。‥‥そして、倒される。
 一人一人と倒れていく。

「ここまで‥‥か‥‥もう一度桜が見たかったな‥‥」

 清四郎もまた、己がもはや動けないと悟ると、最後は自爆して勇敢に果てた。





 ――冷たい雨が降っている。

 視界を悪くする雨は、しかし今のレインウォーカー(gc2524)の状況からすれば悪くは無かった。
 ‥‥圧倒敵戦力の前に味方は全滅。一人息をひそめ、追手に見つからぬよう逃走中、という状況からすれば。
 見つかれば生存は絶望的。
 逆に言えば、見つかりさえしなければ希望はあると言う状況。
 そんなときに、彼は見つけた。‥‥いや、見つけて、しまったと言うべきか。
 避難中の民間人の親子。そして、それを狙う敵を。

「父さんと似たような事をしてるんだな、ボクは」
 そうして、己の前に立ちはだかる無数の敵を前に、レインウォーカーは呟いた。
「少しだけ分かった気がするよ。父さんの気持ちが」
 武器を構える。もはやこの時点で死を選んだも同然なのは分かっていたが、それでも彼は生きることを諦めずに。
「無様な道化と笑うがいい。その笑み、ボクが奪う。道化師‥‥ヒース・R・ウォーカーが」

 ――冷たい雨が降っている。

 己の全てをかけて戦い続けても現実は変わらない。刀は折れて遠くに転げて。失われた片腕から血が零れ続けている。雨が降る空を見上げるように倒れた身体は、もう起き上がる力は無い。
 死が、近づいてくる。
 自然といくつかの顔が思い浮かんだ。相棒と友達、そして愛する人。
(みんなと交わした約束を果たせそうにないのは辛いなぁ)
 思ってから‥‥ふと気付く。この状況は己の名前そのものだと。
 ヒースの花言葉。裏切りと孤独。
 ――大切な約束を破って裏切り、独り死んでいく。
「‥‥ピッタリすぎて笑えるなぁ、ホント」
 言いながら微かに漏れた笑い声は乾いたものだったけど。‥‥けど、この名前は嫌いじゃない。
(父さんがボクにくれた、大切な名前)
 それに‥‥花言葉は、他にもある。

「博愛、それに幸せな愛を‥‥かぁ」

 それは愛する人が教えてくれた花言葉。

 ――冷たい雨が降っている。
 だけどその言葉を呟いた瞬間だけ、彼の心は確かに暖かかった。

「ははっ‥‥ありがとう、みんな。ボクは‥‥幸せだったよ」

 ――だからみんなも、幸せになってくれ。


「(守れたね、次はきみが。それが、きみの望み)」
 遅すぎる救助に、夢守 ルキア(gb9436)はしかし、涙なく頬笑みを浮かべ。
「私が死んだら、白い花をくれると言った。私もきみへ、捧げよう――お休み、レイン。きみのセカイをキロクする」


 同じ戦場。何が自分たちを分けたのか。
 共に生きる約束をして――一人生き延びたクローカ・ルイシコフ(gc7747)は。
(満ち足りた顔なんかしちゃって)
 演目を終えた道化に、ただそっと小さな拍手を送った。





「危ない所だったのですよ‥‥」
 すぐ目の前で倒れた強化人間がもはや動かないのをようやっと認めて、ヨダカ(gc2990)嘆息と共に言葉を漏らす。
「‥‥お前が仕事してればもう少し楽だったのですけれどね」
 安堵はつい、そのまま恨み事へと変わった。彼女は本来後衛。そんな彼女がここまで敵に接近し、止めを刺す羽目になったのは。
「前にも言いましたよね? お前があそこで止めていれば軍人さん達は死なずにすんだのですよ?」
 死した強化人間について、彼女も何も知らないわけじゃない。何度も戦い、相手が失ったものも知っていて、‥‥だからといって、己が失ったものを許せるわけでもなく。
「これだけ能力を使った強化人間が撒き戻し出来る訳無いのです」
 それにこいつは、投降と保護の約束を呼びかけた人類より主人への忠誠を選んだ。
 一度吐き出してしまった言葉はどこまでも止まらない。唇の端が歪んでいるのを感じながら、ヨダカは。

「まだ分からないのですか? お前はフラれたのですよ」

 背中を向けて、言い放った、その瞬間。
「くっ! はっ‥‥恋は盲目と言いますけど‥‥」
 背中から胃、腹を突きぬけていく灼熱と、喉元にせり上がる鉄の味。ゆっくりと振り向けば、先ほどから投げつけた言葉の先に居た男が、己がなにをしたのか、なぜこんなことをしたのか分からないと言う顔をしていた。
「‥‥自覚してなかったのですか?」
 嗤って、ヨダカは倒れた。

(あぁ‥‥ようやく、お婆様の言っていた『愛こそが人を殺す』って言葉の意味が分かった気がするのですよ)

 致命傷を理解しつつヨダカはこの結果に、変に納得していた。

(あいつは主人を愛しているから無辜の人を殺して、ヨダカは軍人さんを愛しているからあいつを殺して、お前はあいつを愛しているからヨダカを殺すのですね‥‥)
 恐慌を起こし逃げ去っていく下手人に、恨みはわいてこない。

(それにしても‥‥寒い‥‥ですね)

 それが、彼女の最後の意識になった。




「大馬鹿野郎が‥‥1人いなくなる‥‥、ただそれだけさ‥‥」
 呟きは決して完全に強がりというだけでも無かったのだろう。だがその言葉は、あまりにも弱弱しい。
 もう何日こうしてさまよっているのだろう。宇宙空間ではそれを感じることすらままらなかった。
 大破したKVの中で綾河 疾音(gc6835)はただ一人、ゆっくりと衰弱していく。救援がやってくる気配は、ない。
 日の巡りも、何もなく、目の前に広がるのはただ星、星、星――

 ‥‥星が、流れていく。
 見上げながら腕の中には、不安に震える愛おしい存在。
 親の因果が子に報い、命を狙われた妹の手を引いて。命からがら逃げ出した夜。

 ふと我にかえれば、また一人、沈黙したコックピットの中に居る。
 星空につい浮かんだ忘れられない日の光景。
 あれから幾年。あの日見た星々はもう滅んでしまったんだろうか?
 あの娘は今日もまた、夜空を見上げているんだろうか?

 犯罪者一家の次男として生まれて27年。10歳下の妹が、彼の光。
 強盗、誘拐、詐欺、殺人‥‥悪魔に魂を売り渡すように、妹の為なら何でもした。傭兵になってからは、前線で戦う彼女の生活を支えようと家事に勤しんだ。
 毎日が楽しかった。幸せだった。妹が幸せなら、自分はどうでも良かった。

 その挙句が、こうして、たった一人で迎える死。
 それに。
 それなのに。

「‥‥俺は幸せだった、だから、」

 浮かび上がるのはただ、感謝の言葉。

(愚かで狡くてひとごろし。こんな俺の妹に生まれてくれて、ありがとう。帰れなくて、ごめんなさい。ずっとずっと、愛しているよ)

 ――願わくば君が笑っていられる、そんな時代が来ますように。

 祈りの、言葉に。
(おやすみなさい、シオ兄さん)
 聞こえた愛しい声は、夢か幻か。

 拡散する思考。その中で彼は、サヨナラは告げなかった。





「まぁ‥‥何時死ぬともしれぬ生業故、然程後悔はしておらぬ。此れがわしの寿命だったのじゃろうよ」
 死神に引き連れられながら秘色はあっけらかんと告げる。どうせなら迎えは先に逝った旦那と息子が良かったのじゃがの、と軽く口をとがらせるその傍で。
「そんな事より! 死神さんがいるという事は地獄もあるのですね?」
 ヨダカはもっとはっきり、この様にむしろはしゃいでいた。
「早く皆に会いに行くのですよ。お婆様にお母様にお父様にストリートの皆、内村にす〜ちゃんも」
 今ならまだす〜ちゃんに追いつけるかもと、せかすヨダカに対し。
「まあ、そう焦らずとも平気さ。何せ最近、ぼくらは頓に忙しくてね。極楽行きも地獄行きも決まるまで数年どころじゃない待ちさ。ほら‥‥」

 ――そこに居るさ。君が会いたかった人も。





 ――それにどうせ、君たちが置いてきた人たちだって。すぐ来るだろうから安心し給えよ。