タイトル:【OMG】西王母の住処マスター:凪池 シリル

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/04/08 07:02

●オープニング本文


「いぇい! 御武内でーすっ!」
「‥‥なんでいきなり、いつもに増してテンションたけえんだオメーは」
 月面に接近する敵影が確認されたということで集められた傭兵たち。
 宇宙をいく輸送船の中。傭兵たちの前に現れたのはリトルフォックス隊、御武内 優人(gz0429)と速水 徹のコンビである。
「え? だって。建設途中の、月面、基地、ですよっ! なんか色々とわくわくする要素目白押しじゃないですか」
「‥‥。オメー、幾つだよ」
「そういえば今月28日で21になりますね。ハッピーバースデー俺!」
「‥‥くそっ‥‥余計なこと言った‥‥!」
 思わずうめく徹。
「そんなわけで着々と宇宙の版図を広げる人類! 俺は相変わらずのでぃアマントしゅタオプっ!」
「‥‥ああまあ、いろんな意味で相変わらずだな」
「いやまあ、これでちょっとずつ進歩はしてるんですよ」
「どこが?」
「バージョンアップしてもらった」
「オメーじゃなくてKVの話かよっ!」
「錬力もちょっと上がったしっ! 兵装も増えたしっ! 何よりこれ以上名前がややこしくなったらどうしようかと思ったけどそんなことは無かった! 素晴らしいっ!」
「一番重要なのそこか!?」
 突っ込んでから、徹はそこで我に返ってやれやれと頭を振る。
「‥‥いいからブリーフィングに入れよ。要するに俺らは今回もメインには動けねえ。時間制限の範囲で援護出来るだけなんだな」
「まあそうなります。‥‥あるいは、動けなくなる前にヤれ、って言いたいんだけど、今回は無茶するより堅実にお願いします」
 そう言って、優人は表情をやや真面目なものに切り替えて、説明を開始する。
 募集の際に少々触れたように、今回は月面基地へ向かうと思しき敵戦力の撃退が目的。月面基地建設計画の護衛‥‥ということになる。
 先だって公募された計画に則り、月面基地は最低限の基礎を作り、そこから順次拡張していくという工法を取っている。その、最低限の基礎は完成し、その気になればもはや居住可能な状態にはなっていて――そして、どこまで拡張を目指すかを、ここからは探りながら工事を進めていくことになる。
「だからまー、単に撃退すればいいってもんじゃなくて。ここで俺らが苦戦したりすると、『怖いからやっぱほどほどにしとこう』って話になるわけですよ」
 だから、派手な戦果を目指すよりも、漏らさず、きっちり仕留めに行く。そういった、工事をするもの、計画する者に安心感を与える戦いが必要になる。
「そしてっ! 今回の計画の目玉っ! とある傭兵さんの意見を受けて、月面基地にはKVハッチを埋設、そしてその補給能力に西王母の技術が転用されることになりました〜!」
 と、ここでまた急にテンションを上げる御武内。
 簡易ブースト、宇宙非対応機ではブーストが必須となる宇宙戦では、錬力の問題が常について回る。そこで、内部機構を取り出し特別仕様に仕立てた西王母をハッチに組み込み、埋設する。比較的安全、かつ緊急時には急速チャージできるKVハッチの完成、というわけだ。
「あれだ、西王母さんの内臓切り開いて生き埋めにする感じ」
「そういう言い方するとグロいわっ!」
 主導するのが中国軍ということで、奉天に対し多少無理が利ける結果でもる。だが、それでも予算の都合、それから西王母の技術となると制御用の能力者を常駐させる必要が出るため、この西王母仕様のハッチは、設置予定は二基のみ。
「真面目な話、軍の宇宙対応機の切り替えは進んでるけど‥‥特にアジア軍は、地上戦の遅れもあって進み切ってない。‥‥正直さー、今の機体のままそこそこ戦えるなら、それでもいいかな、って思わなくもないしね」
 なんだかんだで長く乗った機体って愛着あるじゃん、とそっと呟く優人。
「名前ややこしくならなかったし」
「押すな、そこ」
 徹が突っ込んで、オチがついたという感じで笑いかける優人。
「そんなわけで、これの埋設も実際、出来るかどうかは今回の戦い次第です。よろしく」
 そう言って、彼は笑ったまま話を締めた。

●参加者一覧

リゼット・ランドルフ(ga5171
19歳・♀・FT
ゲシュペンスト(ga5579
27歳・♂・PN
赤宮 リア(ga9958
22歳・♀・JG
シンディ・ユーキリス(gc0229
25歳・♀・SF
ラサ・ジェネシス(gc2273
16歳・♀・JG
巳沢 涼(gc3648
23歳・♂・HD
リック・オルコット(gc4548
20歳・♂・HD
ラーン=テゴス(gc4981
17歳・♀・DG
月見里 由香里(gc6651
22歳・♀・ER
アクア・J・アルビス(gc7588
25歳・♀・ER

●リプレイ本文

「優人さん、いぇい! そして、ちょっと遅れてハッピーバースデー!」
 移動の輸送艦内、優人に合わせてちょっとテンション高めに挨拶するのはアクア・J・アルビス(gc7588)である。
「御武内はんと速水はんはお久しぶりやね。月面基地の完成に一歩でも近づけるように、うちも精一杯尽力させて貰います」
 同様に、以前も宇宙戦で一緒に戦った月見里 由香里(gc6651)もまたリトルフォックス隊に声をかける。
「月の兎ならぬ月の狐か‥‥、本当に遠くまで来たもんだな」
 しみじみと言うのはゲシュペンスト(ga5579)だ。同時にスターフォ‥‥と何か言いかけたようだが、途中で自重した、というのは余談。
 丁度その時、輸送艦は月付近に到達していた。敵艦隊との接触予想地点は、これよりもう少し先になる。傭兵たちを乗せた輸送艦は、そのまま上空を通り過ぎていく。
「お月様に基地だなんて浪漫ですよね。御武内さんじゃなくともワクワクしてしまいます♪」
「月面基地かー。少し前なら考えられない事だったなー」
「まさか月に来れるなんてな‥‥ガキの頃の俺に教えてやりてぇもんだ」
 赤宮 リア(ga9958)が、ラーン=テゴス(gc4981)が、巳沢 涼(gc3648)がそれぞれに呟く。
「月面基地‥‥話程度には、聞いてたけど‥‥。思っていたより早く‥‥作業、進んでるみたい‥‥だね‥‥?」
 シンディ・ユーキリス(gc0229)がポツリと言う。実際、もう最低限の機能は完成、その気になれば駐留は可能との話だが。
「立派な基地を建設して戴く為にも脅威は確実に取り除きましょう」
「だな。今後の事もあるし、限界まで拡張してほしいね」
 リアが、涼がそう言うと、話題はそのまま自然に月面基地へと向かう。
「西王母埋め込むとか、結構画期的ですねー。思いつかなかったのです」
 アクアは、噂のKVハッチに素直に感心中のようだ。
「‥‥それだと水素カートリッジの補給はどうなるんだろうな?」
「それは結局、巡洋艦とかその辺からになるねー」
 ゲシュペンストの疑問には、残念な答えが返ってくる。特別仕様といっても西王母に出来る以上のことはできないようだ。艦艇の補給機能では30秒ほどかかるが、それでどうにかするしかない。
「つか、水素カートリッジも補給可能な宇宙用の補給能力持ちKVって何処かで作らないのかね。戻る手間がない分、俺個人としてはそっちのがありがたいんだが‥‥」
 続く呟きにも、優人は肩をすくめるだけだった。少なくとも彼は、聞いたことは無いらしい。
「‥‥せっかく、作ったもの‥‥壊されるわけには、いかないから‥‥しっかり、お掃除‥‥しないと、ね‥‥」
 シンディがそう締めくくると、一同頷いて。
「ユウトのお誕生日を、お祝いするのは‥‥それが終わってから、かな‥‥?」
 最後にそう言って、微笑みかける。
 本気か冗談かつかみかねて、優人が「ほえ?」と遠慮がちに声を漏らしたのだった。

 各人の間に和やかな空気が漂っていたが‥‥戦闘の気配は容赦なく近づいていく。
 やがて広大な宇宙空間に、KVが発進していく――



『宇宙は今回が初めてになりますが‥‥やはり、勝手が違いますね』
 宇宙空間を並んで突き進んでいく一行。その中で、初の宇宙戦となるリゼット・ランドルフ(ga5171)がこそりと呟く。
『‥‥というか、まともな空戦自体、俺は初めてだな』
 航空機形態で進む感触に、つくづく自分は陸戦屋だったのだなと涼は不思議そうに呟いていた。
『操作をイメージすれば後はKVがあわせてくれる。相棒を信じるんダ』
 答えたのはラサ・ジェネシス(gc2273)。
 その言葉に二人は意識を集中し直す。意識してみると、大気圏での動きとの認識のズレはエミタがサポートし、やがては思った通りの動きにKVはちゃんと応えてくれる。
『そう‥‥ですね。ありがとうございます』
『今までの稼ぎ全部突っ込んで手に入れた機体だ。しっかり稼いでくれよ、ナスターシャ』
 リゼットはラサに礼を言い、涼は頼もしげに新たに相棒となる機体のコンソールを撫でる。
 今回初めて宇宙に上がる二人の機体は、共に発売されたばかりのニェーバ。
『結構、同型が揃ったな。弾幕パーティとしゃれ込むかね?』
 それを受けて、同じくニェーバを駆るリック・オルコット(gc4548)が、笑って言う。
 が、後列で全体を監視する由香里がここで、警告の声を発した。予測地点まで後わずか。レーダーの端に敵影が写る。雑談はここまでだ。
『僭越ですけど、リトルフォックス隊の皆さんにも指示を出させて貰います。任務成功の為に、了承して貰うと助かりますわ』
 由香里は続いて、リトルフォックス隊にも声をかける。特に不満の声は無かった。
 そうして、全員の視界に敵影が捉えられた。
 ゴーレムが三機。それに守られるように、キメラが後ろに控え、そして影からタロスが牽制射撃を放ってくる。まずはゴーレムを抑えないと、他の敵にもろくに近づけそうにない。
 由香里機、幻龍の禄存が蓮華の結界輪を起動。ジャミング中和で味方機を支援しつつ敵位置を捕捉。指示、警戒の態勢を整えると、三機のKVが、ゴーレムに向かって突進していく。
 まずはリゼット機。ニェーバのNimueは機関砲で相手の気を引きつけ、キメラ対応班を庇うようにしながら接近していく。幾度かリゼット機の攻撃が命中すると、その威力と鋭さは無視できるものではないと判断したのだろう。フェザー砲の照準をリゼット機に合わせに来る。一対一、頼れるのは自身と自身が操るKVのみという状況で、ゴーレムの能力は決して侮れるものではなかった。リゼット機もまた何度か被弾しながら、耐えしのぎ撃ち合いへと持ち込んでいく。
 ラーン機はラスヴィエート、輝4号。照準最適化機能を起動してのミサイル弾幕で、まずは距離を置いての撃ち合いを制する。ラスヴィエートの性能を考え、相手からの攻撃は無理に避けようとはせず、受防最適化機能も起動。極力装甲の厚い部分で弾き耐え凌ぎながら、立て続けにホーミングミサイルを射出、このまま射撃で一気に押し切る方策のようだ。
 アクア機、ハヤテのMrs.jesterはフェザー砲の攻撃を回避しながら一気に接近、BCハルバードでの近接戦を仕掛けにいく。先の二機に比べれば回避力のある機体だ。距離を置いての射撃は由香里機の支援もあって避けきった。
『接近戦は初めてですー』
 零れた言葉は半ばボヤキだろうか。一度食らってしまったサーベルの一撃、それが与えてきた衝撃に不安を覚えたアクアはアサルト・アクセラレータを起動して、これ以上何度も撃ちこまれる前に迎撃を狙う。
 三機とも、一進一退の攻防。だがゴーレムの動きを阻害するという役割は十分にこなしていた。展開を始めるキメラたちに、対応するKVがそれぞれ向かっていく。

 飛び出していくのはリア機のアンジェリカ、熾天姫 (Rote Seraphim)だ。宇宙非対応機とあって常時ブーストが必要になるのだが、逆に開き直って倍加した移動力を活かし、縦横無尽に移動、多くの敵をミサイルの範囲内に叩き込める位置を割り出すと、SESエンハンサーも起動して放出。
「宇宙の塵となりなさいっ! 3×3(サザン)・インフェルノ!!」
 SESの輝きが尾を引いて、攻撃が続々とキメラに着弾していく。
 後続の涼機は簡易ブーストであるため、リア機の距離は開いていた。遠距離からまずは一体一体、スナイパーライフルで狙い撃つ。そして、傷つき動きの鈍ったキメラ群にリーヴィエニA、豪雨と名付けられた弾丸の雨あられが降り注いだ。二機の前に展開するキメラは一気にぼろぼろになっていく。

『さて、報酬の為にも一仕事だ』
 リック機のニェーバとシンディ機のハヤテ、G−100S・Y 『Storm』は動きを合わせての前進。距離があるうちにリック機が、涼と同じようにリーヴィエニAで猛烈に襲い掛かる。シンディ機はその動きを見据えつつ、打ち漏らしたと思われる敵に対しアサルトライフルとレーザーライフル、それぞれを使っての狙撃。そのまま残った敵は自機に引きつけようとする。
 そして‥‥仲間がこじ開けた戦線を通り、二機がタロスへと向かっていく。
 ゲシュペンスト機のスレイヤー、自身の名を与えたゲシュペンスト・フレスベルグが。
 ラサ機のタマモ、毬藻リペアが、それぞれにタロス目指して進んでいく。
 タロスは最初、接近を嫌がるように細かい射撃を繰り返して妨害してきたが、ラサ機が盾になり、ゲシュペンスト機が応射しながら進むことでじわじわと距離を縮めていく。近接したところでラサ機が変形、DLA−003レーザーシールドを展開し本格的にタロスの動きを阻害にかかる。その様子を受けてゲシュペンスト機も一気に急接近――
「伊達や酔狂でこんな物を宇宙に持ち込んだ訳じゃないぞ!」
 スレイヤーは元々空中変形を考慮された機体だ。滑らかに人型へとその身を変えると、タロスへと躍りかかる!
 タロスもまた、ハルバードを手に迎撃の構え、振り回して二機を弾こうとする‥‥が、それはラサ機ががっちり盾で受け止める。とはいえタロスで最も厄介なのはその回復能力。二機は互いにダメージを与えながらも、なかなか決定的な一撃を与えられない。

 状況が最初に動いたのは、リア機、涼機が相手取るキメラ群。リア機の強烈なミサイルの連打に、早々に消耗を見せていた。そこで危機を覚えた複数のキメラが、同時に奇妙な動きを見せる。
『! お二人さん! プロトン砲に気ぃつけて!』
 咄嗟に由香里が警告を発する。キメラの挙動を、彼女は以前の戦いで見ていた。‥‥砲台形態へ変化する時の動き。
 リア機と涼機は声を受けて互いに一旦、キメラより距離をとる。少し遅れてプロトン砲が、先ほどまで二人が固まっていた空間を交差して薙いで行き――
 その時の配置。キメラとKV二機がそれぞれに分散し、そしてキメラは強力な攻撃を放った若干の硬直を見せている‥‥!
『巳沢はん! 今ですわ!』
 瞬間に判断して、由香里は再び叫ぶ。
『っと! 了解! 全砲門開放、穴あきチーズにしてやるぜ!』
 そして即座にその意図を理解した涼が、鮮やかに指を滑らせ‥‥ミチェーリを発動!
 3000発もの弾丸。飽和した銃弾の塊がキメラたちへと襲い掛かる。避けられるはずもなかった。そのままリアと涼は駄目押しの射撃‥‥ほどなくして二機の前のキメラは殲滅される。

『成程。あれが最大の難所にして、狙い目か』
 逆翼の報告を受けたリックが、同様に狙いを定めて不敵に呟く。
『砲戦キメラが厄介なのは、この前の宇宙戦のデビューの時に、覚えた。ここは通さないし、基地にも撃たせない』
 返すシンディの言葉は前の戦いを受けてのもの。キメラ対KVといえど決して油断せず‥‥それでも、リックの狙いをサポートするつもりなのだろう。超電導AECを起動して待ちかまえる。
『合図はこちらが』
 シンディが呼びかけると、リックは短く了解を返してくる。そして――

 ゴーレムに対応した機体の中で最初に成果を出したのはリゼット機だった。機関部や関節部を集中して銃撃を加えていたのが目に見えて効果を現し始めたころ――それは、時間差でキメラたちに叩き込まれたミチェーリにちょうど続くようなタイミングだった――リゼット機からもリーヴィエニAを発動。600発の弾丸が全て一体のゴーレムに向かうその迫力。動きが鈍ったのは単に物理的な圧力に依るもののはずだ。無人のゴーレムが恐怖を覚えるはずもない、だが一瞬、敵機はまるでたじろいだ様にも見えた。その瞬間を見逃さず、一気に懐に飛び込むと、ソードウィングの一撃を食らわせる!
 蓄積したダメージでゴーレムは動きを停止。ちぎれながら力なく宇宙空間に漂っていく。
 リゼット機はそのまま、やや苦戦気味の、傍で戦うゴーレム対応班の援護に行く。

 そしてタロス対応班。互いに接近しての戦闘は膠着状態にあった。防御力はラサ機に分があるのだが、タロスの回復力がその差を埋める。なんとか隙を作り、大きな一撃を叩き込みたいと望む二人の前で、タロスが突如、大きくのけぞりバランスを崩した。
『お待たせしました! 加勢しますっ!』
 二機に飛び込んできた通信はリアのもの。その声に改めて見やれば、完全に不意をうっての雪村の一撃がタロスに決まっているのが分かった。
 ‥‥瞬時にゲシュペンストは動く。この機を逃していいはずがない。
「どの道、宇宙を飛べる時間は長くない‥‥ならばその限られた時間で出せる全てを出し切る!」
 体勢を変えたゲシュペンスト機、そこに取り付けられた鍛え抜かれたレッグドリルが唸りを上げる。
『どれほど戦場が変わろうと、俺のやり方は変わらん! 究極ゥゥゥゥゥッ! ゲェェシュペンストォォォォォッッ! キィィィィィィィッック!!!!』
 叫びと共に、タロスの腹部に強烈な蹴りが叩き込まれる、と、その時。
『アァァァンド! リバァァァァァァァスッ!!!!!!』
 なんとラサ機が逆方面に回り、時間差、同士撃ちとならぬよう軸をずらして、ナックル・フットコートの一撃をお見舞いしていた。両側から圧力を受けて、みしりとタロスの巨体が軋みを上げる。

『ねーねー、はやみん』
『うっせえ話しかけるな! 俺はやらねえぞ!』
『大丈夫ちゃんと著作権は守るよ! ちゃんとげしペンストキックって叫ぶよ!』
『ちゃんと言えてねえよ! ってか問題はそこじゃねえ!? 状況と腕前と機体性能考えろっ!』

 ‥‥そんな会話もBGMにしつつ、宇宙にラサのどや顔が閃いていた。
 実際問題、迂闊にまねできる代物ではないし、彼らにしても毎回狙えるようなものではないだろうが。
 要するにこの時、これくらいの余裕が人類側に出来ていたわけで。
 敵戦力の殲滅は、ほどなくして完了した。
 敵全機、基地に近づけることすらない完勝であった。



「わあぁ、月面基地なのですー♪」
 時間、気持ちともに余裕の勝利を迎えた一行に報いるように、輸送艦の帰路は月面基地に許される限り近づいての航路がとられた。
 間近で見ることの叶ったアクアが歓喜の声を上げる。
「月面基地の規模って、どれぐらいだっけか」
 ラーンがUPC軍に問いかけていた。
「いや、まだ実験段階ですからね。初期段階では、そんなに大きな規模とはならないですよ」
 誰かが応えると、ラーンはふーんとだけ言う。
「いつの日か、この月面基地で皆がウサギのコスプレをして餅つきパーティーなんてしたら楽しそうですね♪」
 リアが、何気なくそんなことを言った瞬間。
 得意満面だったラサの表情が、突如凍りついた。
「ウサギコス‥‥まさかバニー? 我輩を‥‥我輩をこれ以上追いつめるノカー!」
 宇宙に出た一同の服装は大半がパイロットスーツ‥‥すなわち、体形がピッチリと出る姿。

 同行者の姿に一人勝手に敗北していたラサの、悲痛な悲鳴が、歓談する輸送艦に響き渡ったのだった。