タイトル:【WF】Sweet 妖精探しマスター:凪池 シリル

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 14 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/01/01 00:03

●オープニング本文


 LH某所で行われている、クリスマスパーティ。
 メイン会場である、皆で飾りつけたホール。
 そこからちょっと視点を変えて、舞台はホールから直結しているガーデンテラス。
 思い切って一歩外に出てみると、冬の空気は冷たいけれど、とても澄んでいて。
 寒いけれども、パーティでのぼせた身体には不思議と心地よい。
 テラスにはテーブルといすが広がっていて、幻想的にライトアップされている。しっかりと上着を着れば、短い時間ならばホールから食べ物を持ち込んでここで楽しむのも中々乙かもしれない。
 そしてそのガーデンテラスからさらに少し歩けば、庭園が広がっている。
 中央に花壇。それから、植え込みで通路が作られている。こちらも球状のランプが夜の緑に味わいを与えていて、誰かと語らいながらゆっくり歩くのもまた良さそうな雰囲気だ。
 だがまあ、寒い。素直にホールで楽しんでいるのがやはり一番賢明な気もするが、それでも一目くらいはここを見ておこう、と思わせる理由はあった。
 パーティが少し盛り上がってきたところで、UPC軍の参加者からこんなアナウンスがあったのだ。
『ところでもう、見つけた方はいますでしょうか? 今日この会場に、街で噂の「ホワイトフェアリー」が隠れているんですよ』
 少し茶目っ気を持たせながら、説明する士官が掲げたのは、この冬ちらほらと噂される『白い妖精』を意識したのだろう、掌大のフェルトで作られたマスコット。
 妖精が、テラスや庭園のあちこちであなたの様子をうかがっていますよ、と士官はいう。
『出会えたら、素敵なクリスマスが過ごせるかもしれませんね?』
 パーティの、ほんの余興。勿論仕込であることは明らかなのだから、効果のほどは不明。ムキになって探すものでもないかもしれないが‥‥それでもなんとなく気になってしまうのもまた人情。
 などと、多くのものが穏やかな気持ちですごす、その、片隅で。

「ふ、くふふふふ‥‥」

 陰鬱な笑い声を上げる者が、一人。
 ぐるりと会場を見渡す、その視界の端々に。
 パーティを、寄り添って楽しむ二人組たち。所謂カップル。今風に言うとリア充。
「ふーざーけーるーなー! こんな奴らに、これ以上幸せがもたらされる道理があるか!? いや無い! ならばその妖精、不平等となる所へと行き渡らぬよう、持たざるものの手によって刈り尽くされるが正義! 同士たちよ! 立ちあがれぇええええ!」
 ――そして直後、悲痛な宣言が響き渡るのだった。

●参加者一覧

/ 小鳥遊神楽(ga3319) / リゼット・ランドルフ(ga5171) / 最上 憐 (gb0002) / シフォン・ノワール(gb1531) / リヴァル・クロウ(gb2337) / 劉斗・ウィンチェスター(gb2556) / 鳳覚羅(gb3095) / セツナ・オオトリ(gb9539) / 湊 獅子鷹(gc0233) / エリス・ランパード(gc1229) / ヘイル(gc4085) / イスネグ・サエレ(gc4810) / 吉田 友紀(gc6253) / 武藤 甲那(gc8485

●リプレイ本文

 12月24日。人によってこの日付の意味の重さはそれぞれだけど。
 パーティの知らせに、足を運ぶ人々はそれなりに、いた。
 それぞれの、意味と、理由と、期待を抱えて。

●集う人々

 リゼット・ランドルフ(ga5171)は友人と過ごすためにやってきた。今、彼女と共に歩くのはセツナ・オオトリ(gb9539)とリヴァル・クロウ(gb2337)。
 仲良く歩く三人、その中でセツナは、期待と不安が入り混じった様子で、どこか落ち着きない様子だ。
「せっかくのクリスマスですし、のんびり楽しめるといいですね」
 ふわりと笑みを浮かべて、リゼットが話しかける。声に、セツナはここにあらずだった心を慌てて引き戻す。
「そ、そうですね。‥‥でも、違いますよリゼットさん。今日はまだ、クリスマス『イブ』ですよっ」
 時間がたつごとに増していく不安を振り払う意味もあるのだろう。セツナは、ちょっと意地悪く言い返す。
「――正確に言うと、それもまだ違うな」
 リヴァルが、苦笑気味に口を挟んだ。
「クリスマスとは本来はイエス・キリストの生誕を祝うものであり、クリスマスイブというものは前日の日没を起点に深夜0時までを指す。だから‥‥」
 リヴァルは視線を西の空の端へ。冬の日は早くも沈もうとしているが、それでもまだ日があるこの時間はイブではないのだ、と。
 初めて知る知識だったのだろう。セツナはへえ、と感心してリヴァルを見返す。上げ足を取り返されたことへの不平はない、素直な態度にリヴァルは苦笑を微笑に変える。

「ネ〜グさんとデ〜ト、ネ〜グさんとデ〜ト♪」
 吉田 友紀(gc6253)は、遠足に向かう小学生のごとき浮かれた足取りで待ち合わせ場所に向かっていた。だが。
「うぅ〜、ケブラー・ジャケットも蛍火もないなんて不安だよぅ」
 時折立ち止まっては、そんな物騒なことを呟きだす。
 頼りなさそうに、ぺたぺたと己の服装を触って、あらためる。
 ドレス姿、だった。普段であれば、着ないような。
 ‥‥心細いのは、果たして武装をしていない、それだけだろうか。
 自然と大人しくなっていた足取りで目的地に到着すると、待ち合わせの相手であるイスネグ・サエレ(gc4810)はすでにそこにいた。
 スキップから普通の速さに、そして今はどこか緊張でゆっくりと。友紀はイスネグに近づいていく。
「ド、ドレスなんて初めてなんだけど、に、似合うかな‥‥?」
 完全に近寄る前に、恥ずかしさと少しの不安に、赤くなりながら友紀は尋ねた。
「綺麗なドレスだね、よく似合ってて可愛いよ」
 イスネグの言葉に、友紀は尻尾があればパタパタと振っていただろうほど元気になって顔を上げる。そうして、ようやっと初めて、相手の顔を見て。
「ネグさんのスーツ姿もかっこいいよ♪」
 そしてそう返すと、そこから二人並んで、歩きはじめる。

 シフォン・ノワール(gb1531)は劉斗・ウィンチェスター(gb2556)と共に訪れていた。
 すでに会場入りしている二人は、並べられた料理をつつきながらまったりとパーティを楽しんでいる。
「あ、これおいしいよ。食べる?」
 劉斗が差し出した料理を、シフォンが一口。
「‥‥り、劉斗の作ったのの方がおいしいわ‥‥」
 たどたどしく返した言葉に、劉斗が笑顔を浮かべる。
「ん、そっか。じゃ、今度作ってあげるね。ありがと」
 そう答えて、劉斗はシフォンを撫でた。
 その掌の感触は暖かく。
 その瞳の色合いは優しい。
 そこには特別な好意が込められている――大切な妹に向けるかのような、慈愛の想い。
 ‥‥嬉しくないかといえば、そんなことはない。でも‥‥そうじゃ、ない。
 自分が本当に欲しい視線は、それじゃないのだ。
「どうしたの? 寒い?」
 どこかシフォンが、いつもより言葉少なめな気がして劉斗が尋ねる。ふるふると首を横に振ってシフォンが否定して、そして。
 シフォンはここで一度、真っ直ぐに劉斗を見る。
(今日こそは‥‥)
 目の前にいる存在と、その存在が己にもたらすもの。秘めたる決意を新たにして‥‥だけど、もうしばらくはこのまま、パーティを楽しもう。

 一人で来ていたヘイル(gc4085)は、偶々こうした場においては珍しい人物と出会っていた。
「お久しぶり、と言っていいのかな。少尉達も来ていたのか」
 孫 陽星(gz0382)である。見れば彼の小隊の副隊長である謝 雷峰も共にいる。
「ああ‥‥ヘイルさん。どうも、お世話になっております」
 声をかけられたことに気がつくと、陽星は丁寧に頭を下げた。いつもどおり、だからこそこの場においては異彩な雰囲気を放つ陽星に、ヘイルは苦笑する。彼にかかればこのパーティも、依頼の礼をして回るための仕事の場か。
「相変わらずだな‥‥いや、だが以前に比べて多少は吹っ切れた顔をしているな。何かあったのか?」
 ヘイルの指摘に、陽星は「そうですか?」と、不思議そうに首をかしげる。
「まぁ何かあったら言ってくれ、俺でよければ愚痴位なら幾らでも聞く。どうせそういう事を言う相手もそんなにいないんだろう? 溜めこむ前に‥‥」
 と、そこまで話しかけて、相手の様子がおかしなことに気付いてヘイルは一度言葉を止める。
 もう一人、この場に近づいてきている者がいた。
 陽星と同じ方向に視線を向けると小鳥遊神楽(ga3319)がいた。普段とはがらりと装いを変えて、黒を基調としたパーティドレスに身を包んでいる。背中と胸元が空いたそれは神楽のスタイルの良さを実に引き立てていた。寒くないようにかけられているショールがまた大人の雰囲気を醸し出し、それに留められた白薔薇のコサージュがまたいいアクセントになっている。
 そうして、その姿に合わせしずしずと歩み寄ってくる神楽に、陽星は実に間抜けな表情で釘付けになって固まっていた。
 ぽかーんと口を半開きにして、呆然としたようなその顔の、頬が軽く赤くなっているのは寒さのせい、とは思えない。
(‥‥成程)
 ヘイルは、先ほどの質問の答えが分かった気がして‥‥そして、次に自分がするべきことを考えて視線を雷峰へと向ける。
 ――察しの良い副隊長は、多分、自分も同じ顔をしているのだろうな、と言う「にやり」という笑みを浮かべていた。

「どいつもこいつもリア充ばっかりかよ」
 湊 獅子鷹(gc0233)は会場の空気に辟易と呟いていた。そうして、時折違和感を訴えてくる左腕を煩わしげに振る。過日の依頼で酷いけがを負ったそこは今、義手になっていた。
 ‥‥本当は、会おうと思った相手がいた。だが、これのせいで会い辛くなった。‥‥どういう反応をされるかは、さして考えなくても想像はついた。‥‥いずれはばれるのだろうが、それでもしんどさを考えると後回しにしたいな、と考えてしまう。
 気分を変えようとこうしたハレの場に出てみれば、ちらほらと目に留まるカップルと思しき者たち。己の現状を考えると、余計に苛立たせる結果にしかならなかった。
 ふつふつと黒い気持ちがわき上がる。いつしか彼は無意識に鬱憤のぶつけどころを探していた。
 なお。
「にゃはは、やっぱり良い雰囲気♪」
 獅子鷹が会おうとしていた人物、エリス・ランパード(gc1229)が、実は同じ会場で食べ歩きに興じパーティを満喫していることなど、この時点では獅子鷹は全く知る由もなかったのである。

「そうか‥‥もうそんな季節になっていたか‥‥」
 その時鳳覚羅(gb3095)は、高速移動艇の中で一人反省していた。
『クリスマスくらい、家族のために帰ってきなさい』
 同隊所属の友人からもたらされた説教と、パーティの案内。だが、戦場を転々としていた彼にそれが届いたのは、当日までかかる依頼を請け負ってしまった後のこと。今更キャンセルするわけにもいかず‥‥結果として、依頼達成と同時に移動という慌ただしいことになってしまった。
 ‥‥開場の時刻には、間に合いそうもない。盛り上がるイベントも逃してしまうかもしれない。終わるまでには、間に合うだろうか。間に合ったとして‥‥待っていて、くれるだろうか。
「‥‥怒っているだろうなぁ」
 苦笑が漏れる。
 焦ろうが、高速艇の速度を上げてくれと頼むわけにもいかない。ただこれ以上トラブルは起こさないでくれと祈るしかできなかった。時間が、過ぎていく。

「‥‥ん。匂いに。誘われ。来た」
 そんな感じで、特別な思い出各々が集まる中、最上 憐 (gb0002)は。
「‥‥ん。食べる前から。おかわり。宣言をしてみる」
 ただひたすら、食事を続けていた。
「‥‥ん。おかわり。おかわり。大盛りで。山盛りで。エベレスト盛りで」


●催し、あるいはカオスの開幕

「せっちゃん、聞きました?」
 UPC軍からのアナウンスに、リゼットはセツナに声をかける。
「え? す、すいませんなんですかっ?」
 待ち人来たらず。時がたつと共に上の空になって行く時間が増えていって、セツナは慌ててリゼットに聞き返す。
「‥‥妖精さんを見つけると、幸せになれるそうですよ?」
 くすりと微笑んで、リゼットは先ほどの話をセツナに説明する。
「そうなんですか‥‥」
 話を聞いて、セツナは一瞬考えて、そしてはっと目を輝かせる。
「じゃあ、ボクは妖精さんを見つけて兄さんにプレゼントすることにします」
 いつも人のために戦い、傷ついてもなお戦い続ける兄の為に。
 がぜん、張り切って周囲に目を光らせ始めるセツナ。駆けだす勢いに、リゼットは見失わないよう寄り添って。
「‥‥ん?」
 そんな二人を見守るリヴァルは、ふと不穏な気配を感じた気がして周囲を確認する。

「そう言えば、牛伍長は来ていないのか?」
「ああ、奴なら妖精を探しに行ってます」
「『WhiteFairy』か。UPCの催しとしては粋ではあるが」
 そう言えば開催と同時に何やら切実な叫びが聞こえてきたような気もするな、などとも思いつつ。
「まあ、奴が探してるのはうちの天井裏の妖精ですが」
「‥‥彼女も来てるのか!」
 それこそ意外そうにヘイルは声を上げた。度を超えた人見知りの為仲間の前にすら中々顔を出せず、『天井裏の妖精』と呼ばれていた孫小隊の隊員。そのまま裏方に徹するのかと思いきや、彼女も努力を続けているらしい。‥‥まあ、この場はさすがにハードルが高すぎたようだが。
 とまあ、こんな感じで世間話を続けるヘイルと雷峰であるが。話しながら、絶妙の呼吸でさりげなくさりげなーく移動しており、いつの間にかヘイルと雷峰、神楽と陽星の間にはっきりと距離が生まれていたり、する。
 そうして。
「‥‥前にも言ったけど、休める時に休むのも大切な事よ。小隊の皆の事を考えたら、少尉が率先して休まないとね」
 貴女が仕事の顔をしていたら同行する隊員が気兼ねしてパーティを楽しめないでしょう、と、神楽は陽星を妖精探し――こちらはUPC軍の企画の方だ。念の為――に誘い出していた。
「では少尉、ごゆっくり」
 呟くヘイルの視線の先で、神楽と陽星は連れだって、庭園の方へと向かっていく。

「ここがいいかな。友紀さん、ちょっとまってて」
 イスネグと友紀の二人は、ひとまず妖精探しには興味を示さず、二人でパーティを楽しんでいた。
 イスネグは、ツリーがよく見えるベンチを見つけ出すと、ハンカチを引いて彼女を座らせて騎士のようにエスコート。それから、両手に料理の皿を持って戻ってくる。
 と、そこではた時がついた。どうやって食べよう。イスネグの両手は塞がっている。食べるには皿を置けばいいのだが、ベンチの前にテーブルはない。ベンチの、二人の間に皿を置けば‥‥寄り添って、座れない。
 一瞬止まるイスネグに、友紀が察して、おずおずと皿から一つ料理を取って、恥ずかしそうにイスネグの口元まで運ぶ。満面の笑みを浮かべてイスネグはそれを食べると‥‥結局、イスネグが両手に料理を持ったまま二人は並んで座りなおした。そのまま、友紀が運ぶ形で2、3回二人で料理を分け合って。
「‥‥ってあれ? あたしがお皿一つ持てばいいんじゃ」
「あ、もう気付かれちゃった?」
「‥‥!!?? ネ、ネグさん、もー!?」
 恥ずかしそうにぽかぽかとイスネグをつつく友紀。もう、ツリーのイルミネーションにも負けないほどの桃色オーラ全開である。
『カップル天誅ーーーーー!』
 ‥‥叫び声が響き渡ったのは、その時だった。

「ふははははー、成敗!」
 イスネグ達とは、別の一角で。別のカップルにコショーをぶちまけ満足げに逃走を果たした一人の悲しい男がいた。
「ふ、うまく逃げおおせたようだな。これが妖精パワー!」
 掌に掲げられるフェルト人形。なんかもう、いろんな意味で何もかも哀れである、が。
「俺も混ぜろよ」
 獅子鷹が、そこに協力を申し出た。その手には、会場で調達したのだろうペットボトル。空気入れ。そして醤油のボトル。
「‥‥成程」
 にやりと負のオーラを漂わせ視線を交わし合う一人の男。
「ポイントは、俺が見つけてこよう」
「おう。発射の調整は任せろ」
 かくして、ひときわイルミネーションが美しいツリー横。多くのカップルが、見学や写真撮影に集うそこへポイントが定められ。
「目標リア充! 角度よーし! 空気圧よーし! 発射!」
 かくして、醤油テロが実行されたのである。

「‥‥ん。何か。微妙に。騒がしい。巨大七面鳥キメラとか。出たかな?」
 そんな感じで、各地で悲鳴が上がり始めた会場で、最上 憐は。
「‥‥ん。食べないなら。頂いて行く。弱肉強食。食物連鎖」
 ただひたすら、食事を続けていた。
「‥‥ん。襲撃される。リア充の人達。うん。いつもの事だね。平和だね」


●妖精探し

「さてと、そろそろいいですか。では行きますかヘイルさん」
「‥‥? 何がだ?」
「え。何。まさか本気でこのまま別行動する気だったとかないですよね。聞けばヘイルさんもお相手がいらっしゃらない身、そんな奴がなにを好き好んで他人の恋愛沙汰に首なんか突っ込むのか。その目的を考えればこんなところで終わるはずがないと僕はちゃんと分かっていますよ」
「いやちょっとまて!? 俺は別にそんなっ‥‥!」
「え? それとも何。先ほどから僕の相手の有無を聞いたりご自分に相手がいないと主張されたりというのはあれですか。僕がお誘いを受けているのかもしかして。そんな‥‥ヘイルさんはいい人ですけど‥‥兵士と傭兵の恋愛は、結構辛いですよ‥‥?」
「俺のスペックや兵士や傭兵とか言う以前に致命的な問題があるだろうがーっ!?」
「ふむ。では最悪の可能性を消し去ったところで、話を戻しましょう」
「素直になりなよー。興味あるんでしょ?」
「い、いやだから、そのだなっ‥‥」
 さすがに悪趣味だろうと軽く抵抗するヘイル。だが気がつくと二人に引きずられる形で、一行も庭園へと向かっていく。
「副長も、他の奴らもっ! その熱意があれば彼女を作ればいいだろうにーーー!」
 消えながら放たれたツッコミは、はたして誰かに届くのか。

「‥‥こんなこともあろうかと持ってきて正解だったわ‥‥」
 そのころ、シフォンは襲いかかる悲しい男の一人と対峙していた。男が叫んで襲い掛かると同時に、即反応して【先手必勝】。先に動いた男より速くゴム弾で男の足を撃ち抜く。
「怪我しないようにねー」
 劉斗は、ひとまず大事にならないうちは傍観の構えだ。
「ぐおぉっ!? だが俺には今妖精の加護があるっ! 全非モテの想いを背負って、人目憚らぬリア充には易々と負けられん!?」
 足の痛みに耐え抜いて前進する悲しい男その一。
「‥‥努力の方向性を間違えてるというかなんというか‥‥」
 劉斗の呟きの先で、男はあっけなくシフォンの催涙スプレーにて迎撃されていた。
「‥‥こんなことして他人の足引っ張ることばっかり考えてるから恋人できないのよ」
 情け容赦ない正論によるとどめ付き。
 ‥‥大体、リア充リア充言ってくれるけど、彼女としてはまだ現状は『充実』しているとは言い難いのに。どこか、むなしい勝利を噛みしめているタイミングで。
「すきありー」
 横手から声がかかると同時に、首元で炸裂する冷気。
「寒っ‥‥! なにこれ水風船っ!?」
 投げつけられたと思しき方向を振り返ると、けらけら笑いながら走り去っていく白いコートの背中が見えた。軽く落ち込みかけていたところに、油断をつかれ一撃をくらわされ。‥‥ふつふつと、怒りがわき上がる。
「ま・ち・な・さ・い! ガキの悪戯で済むと思ったら大間違いなんだからね!?」
 シフォンは、全力で追跡を開始した。

「‥‥ごめんなさい‥‥は?」
「あががががっ! ごめんなさいすいません!」
 リヴァルもその時、リゼットとセツナの関係を勘違いして襲撃を企てていた一人を鎮圧し、アイアンクローを食らわせて説教をしていた。
 反省したかはともかく、もうオイタをする気力はなくなったであろう様子にひとまず満足し、リヴァルは、妖精の捜索を続けていろと促した二人の姿を探す。
 少し視線を巡らせただけで簡単に見つかった。何か成果があったのか、笑顔で話し合っている。まだ少し距離がある位置でそれを見つめて、リヴァルは知らず、溜息をついていた。
「‥‥もしかして、パーティ退屈してます?」
「‥‥いや。ただ、自分より若い二人には戦争といったものを知らず、こういう日を誰かと幸せに過ごせていたらと、思うとな」
 戦わなければ生き残れないという事実。だが、それを理由にするには余りにも‥‥。
 二人の笑顔を見ていると、そう思う。
 ――いつしかもっと後の世代が、生きる事に怯える事すら知らない、そんな日を取り戻す為に。
「今は戦わなければならない。我々、大人が」
「‥‥ふぅん。でもね。いっぱいの御馳走があっても。いっぱいのプレゼントがあっても。世界がどれほど平和でも――大人が笑ってないと、子供は、笑えないですよ?」
 はっとして、顔を上げる。そこで、リゼットもこちらに気付いて手を振って招いていることに気付いて、走り寄る。
「どうぞ。‥‥リヴァルさんの分です」
 リゼットが、フェルト人形をリヴァルに差し出す。‥‥お互い、忙しすぎる恋人を持って会えない者同士。通じ合うものがある。
「‥‥いや。自分で探してみようと思う」
 そのほうが、今会えない彼女の幸せに繋がる気がした。そうしてリヴァルは‥‥ぎこちなくだが微笑んで、捜索を開始する。

「一体この騒ぎは‥‥、って、あーっ!」
 醤油テロの出所を捜索していたエリスと。
 実行犯の獅子鷹。
 互いに、お互いの参加を知らずにいた二人は、ここでとうとう再会を果たしていた。
「えーと、エリスさん? ナゼココニ」
 まるでリトマス試験紙のように、興奮で紅潮していた顔から血の気が引いて蒼ざめていく獅子鷹。
「し、知りあい、か?」
「こ、ここは任せて逃げようっ!」
 一緒に実行していた二人は、ヤバさを感じ取って早々に身を翻す。
「あ、コラまちやがっ‥‥」
「‥‥此処で何をやってるのかな? カナ??」
 追いかけようとした獅子鷹は、しかしエリスの声に再び硬直する。
「あー‥‥だから。プレゼント・ショウ・ユー?」
 ギャグで適当に誤魔化‥‥せるわけがなかった。
 そうして、血管を浮かび上がらせんばかりの勢いでエリスの怒涛の説教が始まった。
「‥‥念の為に聞いておきますけど、その左手はどうなさったの???」
 説教の途中で気がついてさらに追及するエリス。
「左腕一本で数人助かったんなら安いもんさ」
 そこに関しては、あっさりとした様子で答えた獅子鷹の返事は。
「貴方は一体、何をなさっていますかーーーーっ!!!」
 火に油を注ぐ結果にしかならなかった。
 完全にブチ切れて、エリスは獅子鷹をドツキまわす。

 神楽と陽星は、二人、静かな庭園の道を歩いている。
「‥‥ねえ、この間あたしの事を【神楽】と呼んでくれたでしょ?」
「‥‥へ? そ、そうでしたっけ? あ、いえその。つい‥‥あの、それは、」
「正直嬉しかったわ」
 何となくそんな気はしていたが、やはり無自覚だったらしい。失礼しました、と言おうとするのを遮って神楽が言うと、陽星は黙り込んだ。
「‥‥あのね、少尉。ちょっと図々しい事、言っていいかしら? 二人しかいない時だけで良いから、陽星さんと呼んで良いかしら?」
「‥‥あ。はい。それは‥‥あの‥‥」
 別にどうということはない。実際、すでに己のことをそう呼ぶ傭兵はいるのだから。そう思うのに‥‥何故か彼女に改めて聞かれると落ち着かなくて、陽星はつい言葉を濁す。
「いやというなら、無理にとは言わないけれど」
 だがそう言われると、慌てて首を振って否定していた。ほっとした様子の神楽に、いよいよ陽星は己の感情のざわめきが無視できなくなる。
「‥‥あ」
 そうして歩くうちに、神楽が声を上げる。少し高い樹の枝に、ちょこんとフェルト人形が座っている。
 ――それは、妖精探しに託した逢瀬の終わりを告げることでも、ある。
「陽星さん」
 陽星が手を伸ばしそれを手に取った瞬間、神楽は呼びかける。
 振り向いた瞬間、神楽は背伸びして彼を引きよせて‥‥。
「‥‥これがあの時の陽星さんへの答えよ」
 重ね合わされた、唇。
 さすがに、幾ら鈍感でもその意味は誤解しようもなかった。
「あたしの命ある限り、陽星さんが間違った方にいきそうになったら引き戻してあげるわ。今更取り消しはなしだから、お互いに隠し事なしでいきましょう」
 続く神楽の言葉に。陽星は聞こえてはいても咄嗟に反応出来ずにいて。
 焦点が定まらなくなった彼の視界の端で、白い影が動いた。何となく一瞬、そちらに意識を取られると、見つけたのは。
 閃光手榴弾。

「‥‥ん。爆発した。コレが噂の。リア充。爆発しろ?」
 騒動が大きくなっていく周囲をよそに、最上 憐は。
「‥‥ん。白い妖精? 妖精は。食べられるのかな?」
 そんなことを言いながらも、ひたすらに食べ続けていた。
「‥‥いや。それは。やめてほしいな」


●収束

「幸せとは願うモノではなく、勝ち取るモノ、消えうせい!」
 イスネグと友紀は、ようやく襲撃してきた相手と決着をつけていた。
「‥‥意外と手ごわかったね。これが妖精パワーなのかな」
 そうして、目を回し倒れた男の掌からこぼれおちた人形を興味深げに眺めながら、友紀が呟く。
 イスネグは、苦笑してその人形を男の胸元に置きなおす。
「あっ、うん。自分で見つけなきゃ、駄目だよね」
 友紀の言葉に、しかしイスネグはそれも首を横に振る。
「私達は充分だから。この子も、他の子も。幸せが足りない人のところに行ってもらうのがいいよ」
 イスネグの言葉に、友紀は少し考えてから、うんっと笑って頷いた。
「うーん、頑張って地球を守らないとね」
 その笑顔を見て、イスネグはこの場で決意を新たにして、呟く。
「うん! 地球の平和はあたしが守る!」
「後もうちょっとだしね、子供達には平和な暮らしをさせたいね。ね、友紀さん」
「こ、子供ってネグさ――んぎゅ!」
 慌てる友紀、だがイスネグのいう『子供』、は、ただ単純に多くの子供たちの意味。‥‥が、あえて誤解を正さずに、イスネグはその誤解ごと愛おしそうに友紀を抱きしめた。
 最初から最後まで、幸せそうな二人。
 ‥‥そうして、この二人の前に妖精が現れることは、最後までなかった。

「ちょ‥‥痛っ! やめ‥‥マジやめろって‥‥泣いてるの」
 暫く殴られていた獅子鷹は、エリスの様子に気がつくと‥‥抵抗をやめる。
「‥‥だから、あれほど言ったじゃありませんの‥‥、自分の身を考えて、と」
 そうしてエリスは、とうとう殴ることも出来なくなってそのまま泣き崩れた。
「こんなモノを作った私が馬鹿みたいじゃありませんの‥‥」
 震える手でエリスが取り出し見つめるのは、アミュレット。怪我用の薬品ケースにもなっているそれの意匠はグリフォン。獅子と、鷹。添えられている罌粟の花言葉は「貴方に良き眠りと夢が訪れん事を」。なのに渡そうとした相手は、自分の安眠など気にかけていやしない。
「‥‥悪かった、あとゴタゴタで忘れてた、けどコレ」
 それを見て、獅子鷹も懐から何かを取り出す。騎士の姿をしたケット・シーのペンダント。それを、そっぽを向いて赤面しながら渡そうとする。
 エリスは、中々受け取ろうとしない。
「後この際だから、言っておくが俺はアンタのこと好きだからな」
 ポツリとつけたされた言葉に、彼女は――

「そこかっ!?」
 悪戯の犯人を追いかけていたシフォンは、一度見失いながらも、気配を感じて茂みをかき分ける。
 そこにいたのは‥‥。
「‥‥これ、見つけたら幸せになれるっていう‥‥」
 小さな、フェルトの人形だった。
「ん、そうだね。みんな一緒に幸せになれるといいね‥‥」
 手を伸ばすシフォンを見守りながら、劉斗が言うと。
「‥‥や‥‥みんな一緒に、じゃなくて‥‥劉斗と一緒に幸せになりたいって、そう思う‥‥」
 思わず零した、シフォンの言葉に。
(‥‥あれ、今のってにゃんか‥‥告白みたいな‥‥!?)
(今のってなんか‥‥告白みたいな‥‥)
 同時に感じて二人は赤面する。
「にゃ!? べ、別に気にしなくていいわ!」
「う、うん、そ、そうだね!」
 そうやって、浮かぶ想いを言葉では互いに否定しながら。
(劉斗、どう思ったんだのかな‥‥ちょっとは意識してくれてるのかな‥‥)
(なんだろ‥‥うまく言葉にできないけど‥‥俺、嬉しいのかな‥‥)
 相手を意識する思いはますます強くなるばかりで、お互い、動きがギクシャクする。

 神楽は今、陽星の腕の中にいた。
 反射的に、閃光手榴弾から庇うために抱きかかえた、それだけなのだが。
「あの。すみません、‥‥隠し事はなし、と言うことなので‥‥そのまま、聞いていただけますか」
 手榴弾の影響が消えてなお、陽星は、神楽を離せずにいて。
「順番が、おかしくなってしまって申し訳ありません。ですが、きちんと申し上げておきます――貴女が好きです」
 そうして、顔を見ながらではきっと言えない想いを、そっと陽星は伝えていた。

「ああくそう! 努力しろとか言いやがって! そんな簡単に行かないからこうしてるんでしょ!?」
 フェルト人形を手に、一人の女性が叫んでいる。
「幸せにできるってなら、してみなさいよ! ちょっとそこのあんた、私と付き合う!?」
 人形を掲げ、やけ気味に叫んだ相手は、
「‥‥へ?」
 わりと、まんざらでもなさそうな顔をした。

 クリスマスの力か。妖精の加護か。
 騒動が落ち着くと同時に、ちらほらと、小さな幸せがこの会場に芽吹いて行く。
 そして――

「遅いよ兄さん! 心配したんだからね!」
 待ちわびていた、離れ離れの家族の再会が、果たされる。
「ごめんごめん仕事が長引いてね‥‥ちょっと見ない間に大きくなったかな?」
 半泣きで飛びついてきたセツナを、覚羅は抱きしめる。
「これ兄さんに‥‥なんでも持っていれば幸せになれるらしいです」
 そうして、差し出された人形は、強く強く握りしめられていたのか、フェルトに少し皺がついている。
 どれほどの想いで待たせていたのか。この人形が、待ちわびる弟をどれほど支えていてくれたか。深い感謝と共に、覚羅は丁寧にそれを受け取る。
「それじゃあ、お返し」
 そうして、覚羅もお返しに何かを差し出した。
「これは俺からのプレゼントだよ‥‥御守り代わりに持っていたやつだけどね」
 渡された懐中時計を、セツナは、いいのかな‥‥大事なものじゃないかな‥‥と、おずおずと受け取る。
 そっと蓋を開いてみると‥‥そこには、セツナを含めた家族の写真があった。
 再び、「いいの!?」と言う目を向けるセツナを‥‥覚羅は、ただ優しく、撫でる。

「‥‥ん。良く、食べた」
 食べ続けた最上 憐の手も、ようやく緩み始めていた。まあ、単純に目に見えてなくなりそうになっているからと言うだけで、満腹なのかは不明だが。
「‥‥ん。毎日。クリスマスだと。良いのにね」
 だがまあ、満足げではあった。
「‥‥ん。来年の。目標は。妖精を。食べるに。しようかな」

●終幕

「ねえ、皆で記念写真取らない?」
 パーティの終盤。誰かがそんなことを言い出した。全員ではないがちらほらと賛同する者が現れ、皆、イルミネーションが最も綺麗なツリーの傍へと集まって行く。
「あ、そう言えばあの子は?」
「あの子って?」
「白いコート着た子、いたじゃん。ちょっと遊んで‥‥そう言えばいつの間にか見なくなってたんだけど」
 言われて、何人かが心当たりがあると言うふうに顔を見合わせた。
 一人が言い出すと、「そう言えばもしかして」、と何人もが口にする。目撃証言は確かに多々、あった。じゃあ、誰の知り合いか、と言われると、誰も答えられない。誰もが誰かの知り合いだろうと思っていた。

 ふと何人かは、こんなことを考える。

 いつの間にか囁かれるようになった存在、ホワイトフェアリー。
 なにが発端か。どこから生まれた言葉なのか。
 現時点でなお、分かっていない。

 ――まさか、ね?


 ‥‥さあ、『妖精探し』のこの物語。
 出会えたのは誰でしょう。
 「あなた」は見つけて、いましたか?
 ――その方には、幸せが訪れるかも、しれませんね?

 なにはともあれ‥‥


 Merry X’mas And Happy New Year!