タイトル:肉を食え。マスター:凪池 シリル

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/08/30 22:54

●オープニング本文


「はやみん、兵士とはいえ俺たちは若者なわけですよ」
「はやみんじゃねえよ。なんだよ」
 いつもの会話から始まる御武内 優人(gz0429)と速水 徹である。
「思うのです。こんな時代だからこそ、あえて俺たちが率先して青春を謳歌せねばと」
「‥‥また何か、ろくでもねえこと考えてるだろ」
「肉食いたい」
「‥‥ろくでもあるとかないとか以前に、ついて行けねえよ」
「夏ですよ。バーベキューとかどうかなあと。河原とかで。青春。新しい出会い。そしてお肉。いや何となく昨日思いついただけだけど」
「‥‥なあ。信じられるか? この行き当たりばったり野郎がKVの若手ルーキー集めたって言われるチーム率いるリーダーなんだぜ‥‥?」
「うんはやみん。遠い眼してどこに向かって話してるのかな」
「‥‥ああ。もういいよ。バーベキューでも何でも好きにしろよ」
「ん。じゃあそう言うことでこの日は開けておいてください」
「何さらっと俺も行くことになってんだよっ!?」
「いや一人だと心細いじゃないですか」
「だからって勝手に数に入れるなっ! 他の奴誘えよ!」
「えーまー一応声かけて見るけどさー。他の皆いまいちノリ悪いしさー」
「俺だってオメーのノリについてけるわけじゃねえっ!?」
「またまたー。大丈夫、今回傭兵の人たちにも声かけて見るから寂しくないって」
「あのなっ! ‥‥おいっ!?」
 そこまで一気に話し終えると、もう言うことはないとばかりに勝手に走り去っていく優人。
 結局徹は、廊下に一人ポツンと残されて。

「‥‥そうやって、俺に最初に馴れ馴れしく声かけるから、他の奴のノリが悪くなるんじゃねえのか‥‥?」

 ばつ悪そうに、一人ぽつりと呟いていた。

●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
シンディ・ユーキリス(gc0229
25歳・♀・SF
守谷 士(gc4281
14歳・♂・DG
アメリア・カーラシア(gc6366
17歳・♀・SN
宇加美 煉(gc6845
28歳・♀・HD
クラフト・J・アルビス(gc7360
19歳・♂・PN

●リプレイ本文

「夏だ! 川だ! BBQだ!」
 約束の集合場所に向かいながら、シンディ・ユーキリス(gc0229)は誘った人間のハイテンションを思い出していた。
 一見淡々としている彼女だが、口数こそ少ないが実は人との交流は大好きだったりする。
 バーベキューとくれば、バックパッカーとして世界を駆け巡る中鍛えられたキャンプの腕前も見せどころだろう。
 せっかくだから、と参加した今回の集まり、彼女もまだ表情には出ていないが結構楽しみにしているようだ。
「お。シンディも来たんだ。やっほー」
 皆が集まる場所に到着すると、呼びかけ人である御武内 優人(gz0429)がひらひらと手を振る。シンディも笑みを浮かべて手を振り返す。
 ぐるりと見渡す。同行するらしい者たちをそれとなく確認し‥‥
「お、徹も来てるじゃん」
 その時、やっぱり、という感じで声を上げたのはクラフト・J・アルビス(gc7360)だ。
 呼ばれた速水 徹はどこか不本意と言う顔でむくれていた。
 これまでの依頼で何度か見た顔触れたちに、シンディの表情が綻ぶ。
「二人とも‥‥飲めるって聞いたから。シンディ、お酒強いから‥‥無理しない程度に、付き合ってもらうからね?」
 不機嫌な顔のままの徹に、逃がさないとばかりに、シンディは手にした缶飲料――ほとんどビールや缶チューハイのようだ――を掲げて見せる。
 え、と、徹は戸惑いながら、集まった一同を見渡した。確かに、今いるメンツのほとんどは未成年に見える‥‥いや。
「私は自称18歳なのでぇ」
 唯一、大人びた雰囲気を持っている宇加美 煉(gc6845)は、徹と目が合ったとたん、先を制してそう言った。
「いやまて。自称ってなんだ自称って」
 思わず突っ込み徹だが、
「ほら、私は自分の分は持ってきてありますからぁ」
 気にするそぶりもなく、煉は手にしている瓶を振る。
 ナイスにもほどがある妖しいバディからかもし出される雰囲気と合わさるとどう見てもワインだがグレープジュースであった。
「そういうわけだから‥‥トオルも付き合ってくれると‥‥嬉しいかな‥‥」
 笑いながら、改めてシンディが言うと、そこで徹もあきらめたかのように歩き出すのだった。



 そんなわけで、到着。
 バーベキューの準備をするものと川に向かうものと。
 シンディが手馴れた様子で飯ごうの準備をする。
 優人と徹がコンロを用意し、クラフトは肉や野菜などを切っている。
「自分でやるからまたいいんだよねー」
 クラフトが笑う。
「うむ、この広々とした大自然の中というのが、また」
 優人が、両手を広げながら答えた。
 一通り準備が済んだら、シンディの呼びかけでまず皆で乾杯。
 皆思い思いの飲み物を手に、それから
「今日こうして集まれたことを‥‥」
「これからの戦いもがんばろう!」
「肉ー」
 等々、勝手なことを言い合いながら、基本的には笑顔で「カンパーイ」と、手にしたカップを合わせる。
 紙コップだから音こそしないのだが、それでもなんだか盛り上がるのが不思議だ。
 清流で冷やしていた飲料が喉に心地いい。
 そうして、まずはすぐに準備が済んだ焼肉からである。
 肉。
 今回の主目的ともいえる肉。
 牛、豚、鳥と色々そろっている肉。
 大自然の中でややこしい理屈などいらない。
 焼く。
 喰う。
 以上である。
 ああうん、タレとか塩とかは当然あります。
 あとちゃんとお野菜も食べます。
 あとはただひたすらもきゅもきゅと。
 シンディ、守谷 士(gc4281)、クラフトが率先して焼き手を買って出るが、食べ盛りの男子がそろった状況、何人で焼いてもあっという間に消えていく。
 ご飯が炊けたよ、とシンディが言えば、士が「お前なんか! 握ってやる!」とハイテンションでおにぎり作成を申し出る。
「ツナマヨ山菜シャケにおかか! ガンガン作るよ!」
 宣言どおりがんがん握っていく士。増え行くおにぎり。「よ、おにぎり王子!」などと合いの手が入って、益々調子は上がっていく。
「ツナマヨ山菜シャケにおかか! ガンガン作るよ! たらこ! 豚足! バター醤油! タ・ト・バ! タトバタ・ト・バ! っと!」
「あ。具なしも作って。肉巻こう肉」
「へいお待ち!」
 もう何がなんだか分からないノリである。
 一方。
「鶏肉以外もお肉はだいたい好きですけどねぇ」
 よく分からない盛り上がりを見せる男どもに対し、まったりペースの女性陣。だがどの顔もきっちり楽しんではいるようだ。

 と、そこで、しげみからがさごそと音がした。
「え? 何?」
 一同が目を向ける。
「熊でも出るとか?」
 優人が冗談じみて言う。
「‥‥バーベキューが許可されるような場所の近くに、んなもんは出ねえ」
 徹が呆れながら突っ込む。
 ただそれでも一同が「まさかねえ」とかちょっぴり思っちゃうその最中、ひょっこり顔を出したのは終夜・無月(ga3084)であった。
「おや‥‥もう始まってたんですね‥‥」
 先に準備が在ると一人別行動をするとは聞いていたが、何をする気だったのかと問えば。
「いえ‥‥肉食いたいって聞いたものですから‥‥」
 山奥に入って熊狩りをしようとしたのだと、冗談なのか本気なのかわからない顔で言った。
 繰り返しになるが、ちゃんとバーベキューが許可されている川辺である。この辺にそんなものがいるという話は聞かない。
 どのみち、熊というのは相当獣臭が強い。材料の持ち込みもなければ、この場できちんとした処理をするのは難しかったと思われる。
 そんなことより一見最も突っ込むべきは、武器も防具も身につけないどう見ても軽装で熊狩りと言ってることかもしれないが、むしろそこは全員スルーだった。もともと能力者にとって、キメラでもないタダの熊などたいした相手ではない。この人なら普通に一撃で首へし折ってたんじゃないかな、と皆普通に認識していたようである。
 てなわけで冗談なのか本気なのかは結局不明のまま、無月もここからは普通に合流である。



 ある程度食べて、まだお腹がいっぱいになりきらないうちに川遊び。
「久々の川遊び‥‥んーいい感じだな。レッツエンジョイだね」
 士の声にはまだ浮かれ具合が見られた。
「じゃ、着替えてくるかな」
 どこかスキップでもしそうな調子で物陰へと消えていく士。ステップからも気持ちが浮ついているのは確かである。何が浮ついてるって、とりあえず、むやみやたらに歩く前に気配はちゃんと確認しよう。
 まあようするに。
 士が着替えに行った先には。
 先客がいた。
「何見てるのかな〜?」
 その先客、アメリア・カーラシア(gc6366)は、“にっこりと”笑みを浮かべて士に問いかける。
「わ、わーお‥‥まさかこんなことになるとは」
 ただ、その笑みは、獲物を捉えた肉食獣の迫力を伴っていた。
「遺言はもういいかな〜?」
「いやその、悪気はないんだよ悪気は」
「言いたい事はそれだけかな〜?」

 しばし、間。

「ん〜、いい天気だね〜」
 やがて、物陰から『一人で』出てきたアメリアは、そう言って気持ちよさそうに伸びをした。
「こちらに来たらぁ、見物料取ってやったのですけどねぇ?」
 同時に、別の物陰からゆっくり出てきたのは煉である。
「にゃはは〜似合うかな〜?」
 煉に気がつくと、アメリアは女の子同士嬉しそうに、着替えた水着姿を手をひらひらと広げて披露する。セクシーな赤のビキニだ。ミュールのサンダルと良く合っている。
「とっても、お似合いですよぉ」
 煉が答える。彼女もまた、白のツイストスリングショットにバッククロスワンピースという水着姿に着替え済みだ。
「洋服ってあまり着たこと無いのですよねぇ」
 煉はどこか心もとなそうだが、アメリアがそこに「似合う似合う」と笑いかける。
 実際、華やかな女性二人がきゃあきゃあと言いながら並ぶとこう、実に眼福な光景であった。
「ん〜、冷たいね〜」
 川辺に足を浸して、アメリアが満足げな声を上げる。
「皆おいでよ〜」
 そうして、にこやかに皆に声をかける彼女。

 が。
「どうすんだこの火●サスペンスみてーな光景」
「誰か回復スキル持ってる人ー」
「あー俺一応。でも拡張練成治療しか。微妙にもったいないなー」
 岩陰にべったりと倒れる士に、対処に困る男性陣。
 一同を見回すが、ものの見事にまともな回復スキル持ちがいないのであった。
「まあいきなりリタイアも可哀想だから」
 結局、優人が少し治療して、あとは能力者なので気合で何とかしました。

 だが、言ってしまえば覗きの被害を受けたアメリアだが。
「日焼け止め塗ってくれないかな〜?」
 少し川で遊んで涼んだ後は、そう言って気軽に近くの面子に声をかけるあたり、あまり気にしてもいない風だった。
 ただ、士もあんなことがあった後に名乗り出る度胸はなく。軍人二名も意外と純情ボーイだったらしく、やんわりと誤魔化しつつ辞退。
 無難に煉が応じる結果となった。
「ありがと〜、助かるよ〜」
 そうして、アメリアは以降、日光浴のためごろ寝。

 無月もこのときは、一人木陰でゆっくりと読書を楽しんでいた。

 士が、素もぐりで魚を捕らえようとはしゃいでいる。
 伊達に傭兵はやってない。非覚醒でも素手で魚をキャッチすると、「獲ったど〜!」と歓声を上げていた。
 川辺で足を水にさらしていたシンディに、「ん‥‥それは数が減ってきてる種だから‥‥リリースがマナー‥‥」「それは‥‥食用に適さない‥‥」等々突っ込まれもしつつ、何匹か食べられる魚もゲットすると、クラフトがそれを真似る。
 水をかけあったりしてふざけていた優人が、「お酒飲んだんだから‥‥気をつけてね?」とシンディにたしなめられると、一旦休憩とばかりに川岸に腰掛けた。
「私はあまり興味があるわけではないのですがぁ」
 そこで、優人に声をかけたのは煉である。
 優人と徹、二人の関係に付いて質問したいという。
「一部の人がどきどきわくわくしているのではないかと思うわけですよぉ」
「? よく分からんが俺とはやみんは仲良しですよ。とっても」
 優人の答えに。
「待て。俺も良くわかんねえがなんか不穏な空気を感じるんだが。大体別に仲良しじゃねえ」
 露骨に顔をしかめながら徹。
「えー」
「えーじゃねえ‥‥オメーはへらへらしてねえでもうちょっと頭使えってんだ」
 きょと、という顔をする煉と優人。
「‥‥オメーの立場をもうちょいわきまえろってのに。立場と実力考えりゃ、付き合う相手は選べってんだよ‥‥」
 ぽそりと、つい、という風に呟いたあと、徹は手にしたチューハイ缶に目をやって舌打ちする。「やっぱまだこういうのは慣れてねぇんだな‥‥」といって空になったそれを握りつぶすと、ゴミ袋がある場所へ向かっていった。
「‥‥選んでるけどなあ」
 背中を見送って、優人が言う。
 煉はただ黙って聞いていた。
 ただ、興味はないといっていた彼女の顔に、僅かに「美味しいですねぇ」と書いてあったような気がしなくもない。気のせいかもしれない。



 遊んで腹ごなしした後は、もう一度ご飯タイム。
「さてと〜私も作るかな〜」
 アメリアがここで、気合を入れて取り出したのは中華料理のものと思しき材料。
 一方シンディも、バーベキューならではの取っておきがあるとまた何か作り始める。
 二人の材料に共通するのは米。
 どうやら二人とも作るものは炒飯のようだ。
 ただしアメリアのは、手際も良くぱらっぱらに作られた純中華風の、まさしく万人が想像するところの完璧な「炒飯」。
 一方シンディのは、肉を焼いた鉄板を使用しての、残った脂を利用した、バーベキューの残りの旨さを凝縮したガーリックライス。
 さて期せずして同時に示されたニ品の炒飯。
 今日、選ばれるのは、DOTTI !?

「「「どっちもいただきまーす!」」」

 まあ、散々遊び倒した戦士どもに、選択するなんていう選択肢があるわけなかった。あっという間に両方とも平らげられた上、まだ足りないのでアメリアがホイコーローを、クラフトが焼きソバを作成する。
「ぶぅ!?」
 その、クラフトの焼きソバを豪快に口の中に突っ込んだとたん、士が悲鳴を上げた。
「あ。士に当たった? ごめんね?」
 七味を仕込んだクラフトが、笑いながら交換に応じていた。
「浮かれてあんだけひでぇめにあってんだから、少し落ち着けよ‥‥」
 一気にほおばったため思ったよりダメージがでかかったらしい。徹に水を渡されながら、士は暫くけほけほむせていた。
 シメは、シンディが川底で冷やしていたスイカ。
 自然の中で絶妙な温度で冷やされたそれを、皆でしみじみと味わう。
 これもまた、バーベキューならではの味わいだった。



 そんなこんなで、散々遊び倒した後は。
「こうゆうこともやっとかなきゃねー」
 クラフトが声をかけながら、帰りはしっかりお片づけ。
「皆‥‥楽しみましたかね‥‥」
 男性人の中で唯一のんびりとすごしていた無月が、穏やかに言った。
「楽しかったー! またなんかやろうな!」
 優人がそう言うと、皆にこやかに頷いていた。

 ‥‥軍人と、傭兵。形は違えど、いつでも戦争に駆り出される身だというのに。
 いつでもこんな時間がすごせることを、疑うでもないように。

「本当に‥‥また、何か出来ると良いですね‥‥」
 帰りの車。運転をする無月は、後部座席の穏やかな寝息を聞きながら微笑んでいた。