●リプレイ本文
「ん、好きなだけ貰っていいのか、なら」
優人が示したアイスに、最初に動きを見せたのはグロウランス(
gb6145)だった。クーラーボックス一箱、丸々頂戴とばかりに持ち上げようとする。
「これから砂漠に行くだけに、デザート(砂漠)は必須だろ?」
くそ暑いとこで任務なんだ、寒いギャグも飛ばしたくなる、というつもりで言ったグロウランスに注がれた視線は、彼が期待したのとは別の冷たさだった。
「ん。それは。勝者が総取りと。そういうルールの。宣告で。いい?」
視線の主は最上 憐(
gb0002)。
「異存は。ない。アイス食べ放題の為なら。全力で。相手に。なる」
そう言ってグロウランスに向かって一歩踏み出す憐。本気の殺気がそこにあった。
「‥‥いや。軽いギャグだよ。おじちゃんが悪かった。皆で仲良く食べよう」
クーラーボックスを置き降参するグロウランス。
「‥‥ん」
憐はあっさり納得してアイスに手を伸ばした。結果的に、一瞬涼しい思いはしたグロウランスである。
それをきっかけに、何名かの傭兵がそれじゃあ、とばかりにアイスを手に取った。
「抹茶アイスおいしー」
エリアノーラ・カーゾン(
ga9802)が言うのを聞いて、ああ、それもいいですね、と、チョコとオレンジのアイスキャンディーを手に守原有希(
ga8582)が言う。
一つ平らげ終えると、エリアノーラはまだ足りないのか、「んーぅ」と声を上げながらさらにがさごそとクーラーボックスを漁る。
「流石にハーブコーディアルのアイスは無いわね。うん、残念。優人、戻ってくるまでに調達しといてくれない?」
しれっと要求してくるエリアノーラだが。
「え。何。ハーブコギー? って何? はやみん」
「少なくともそれはねえよ」
横文字に弱い子御武内 優人。残念ながらエリアノーラのご要望が叶う可能性は低いように思えた。
「相変わらずだなぁあの二人」
M2(
ga8024)が、呟きながらやはりしゃくしゃくとアイスを齧っていた。
「居場所の分からない敵を見つけて倒す、か。集中力が物を言いそうだね」
一方で、真面目にこれからの作戦について相談するのは旭(
ga6764)。だがその手にはやはりアイスがある。
「敵斥候部隊の排除は戦術としては基本かつ単純ではあるんだが、砂嵐とCW、作戦域の広さが厄介だな」
答えるのはネオ・グランデ(
gc2626)。彼もやっぱり、自分の分のアイスは確保していた。
暫くしたところで、優人が一同をぐるりと見渡す。今だ手ぶらの面々に、どう? と視線で促すと、比良坂 和泉(
ga6549)が、
「じゃあ、帰ってきた時用に」
と、かちわり氷タイプのものを選んで確保していた。
御守 剣清(
gb6210)は、
「あ、甘いものは苦手なので、他の方にお譲りします」
と答える。それを確認してから。
「あー。そんじゃあそろそろ。出発です。いいかな」
一同に向かって、優人は言った。飲み込むように喰らい続けていた憐が若干不満そうだった。
●
砂塵が舞い散る砂漠へと、KVが降り立つ。
「おっと‥‥脚を取られないよう慎重に、と」
和泉が呟いた。騎乗する機体はグローム、愛称はスプリガン。
久しぶりのKV戦、それも陸戦経験は元々少なめ、更に今回不整地とあっては、慎重にならざるを得ない。
数歩、確かめるように足を踏み出すと、感覚をつかんだのか、視線だけゆっくりと振り返る。
今回傭兵たちは、2人組6チームを作って広域を捜索する作戦をとることにした。
『最上さん、行きましょうか』
『‥‥ん。よろしく』
側に立つナイチンゲールから返事が返ってくる。乗るのは呼ばれた憐。機体の名はオホソラという。
分担は、憐機が前衛、和泉機が援護。
砂漠を進みながら、憐が視線を巡らせる。ともすれば視界の邪魔になりそうな砂煙だが、その乱れに着目して敵が移動した痕跡をつかめないか探っていく。それから注意するのは、ジャミングによる計器の乱れと。
『‥‥ん。頭痛がした。CWかと。思ったけど。さっきの。アイスの後遺症かも』
『いや、こっちもです‥‥ちゃんと、いますよっ!』
和泉が突っ込みながら(←ダブルミーニング)発見したCWにバルカン掃射を浴びせる。
援護を受けながら警戒を続ける憐の視線の先に‥‥ゴーレムの影が捉えられる。
『‥‥ん。突撃する。援護。お願い』
和泉機が射線をそちらへ向け、牽制する中、憐機がゴーレムに向かって駆けていく。
『‥‥ん。全速で。突っ込み。全力で。暴れる。後は。やられる前に。やれば。おっけー』
宣言の通りブーストをかけて突っ込むと、一気に近接戦へ。
翻るツインブレイド。数度の激突で相手が無人機と見切ると、援護射撃を受けながらの憐機の性能ならば倒すのは時間の問題だった。
ゴーレムの巨体が地に倒れる。衝撃が広がり、一瞬、砂塵が噴き散らされ。
砂漠に堂々、憐機にペイントされた「カレーは飲み物」の文字が浮かび上がるのだった。
『2機6組で敵基地を包囲する形で展開しつつ、ドコに居るか分かんない敵ワーム探し出して叩く、ってコトよね』
シュテルン・G、空飛ぶ剣山号に乗りこんだエリアノーラが、僚機に確認する。
(地上‥‥襲撃‥‥向いている居ないはともかく‥‥思いつく限り最善の手段を考えましょう‥‥)
横で思いを馳せるのはBEATRICE(
gc6758)。乗る機体はロングボウII、ミサイルキャリアだ。
前をエリアノーラ機が行き、BEATRICE機がついていきながらカメラによる探索を行う。
「また、この頭痛? もぉいい加減慣れっこよ、CWのこんちくしょーめ。」
コックピットの中で、エリアノーラが呟く。
道すがら、頭痛を感じては配置されているCWを潰していく。ぼやきながらも根気よく進んでいけば、一体のゴーレムが発見される。
エリアノーラ機がスラスターライフルを構え、撃つ。一撃を受けたゴーレムが踏鞴を踏むと、その威力におののいたように進路を反転させた。
――この切り替えの、早さ。即座に逃走に出る、ということは。
『追うよ! 足止めお願い!』
エリアノーラが叫び、背を向けるゴーレムを追う。
『地上ですが‥‥多くないとはいえ‥‥ミサイルは搭載してきていますよ‥‥』
BEATRICEが言うと同時に、機体からロングボウの機能を最大に生かしてミサイルが二連発。エリアノーラの指示で、ゴーレムを直接狙うのではなく、その予想進路先に「置く」一撃。
有人機であるがゆえに、反応、そして思わず減速がかかる。エリアノーラ機が、そこに迫る。
スラスターライフルで機関部を狙いながらの接近、そして‥‥機槍の先が、ゴーレムに届いた。
機盾を構え、BEATRICE機をかばうようにたちまわりながら槍でゴーレムを相手取るエリアノーラ機。
そうして、頭痛の鬱憤を晴らすかのような攻撃が、ゴーレムに叩き込まれるのであった。
次のチームはM2とネオ。
機体はそれぞれウーフー2の『ココペリ』と、シラヌイ改の蒼獅子・改(ノイエ・ブラウ)。
とりあえず、敵を見つけたら片端からなぎ倒していくつもりで進んでいく二人が気にかけるのは、ジャミングの強さ。
計器を用意し、妨害電波が強くなる方向を確認すると、二人ともあえてそちらへと進んでいく。
「それにしても頭痛が酷いな‥‥」
ネオが思わずぼやいた。ジャミングが強くなる方向というのは、当然CWが多くいる領域だ。
「気休めにアイスでも食べておくか」
そうしてネオは先ほど確保したアイスキャンディーを戯れに咥える。少し意識がはっきりした、ような気もする。
だがジャミング自体はアイスでどうなるものでもない。CWが集まる場所だと、ネオの射線は大きく揺らぎ、CW相手にも上手く定まらない事があった。それでもM2のサポートも受け、一体ずつ撃破していく。
二体ほど撃破したところで、別の敵が姿を現した。ゴーレムが一体、二人の方向に向かってくる。
このゴーレムは、点在する、ジャミングが強い地点を頼りにして逃走経路を組んでいた。先んじてCWを潰していたのは正解だったのだ。
「見つけた‥‥重武神騎乗師、ネオ・グランデ、推して参る」
ネオ機が、ブーストをかけて突っ込んでいくのを、M2機が射撃で援護する。ネオはそのまま敵の進路上に移動、挟撃するようにして、逃走を防ぐとともにM2の射線を確保する。
先手を取った傭兵たちだが、CWがいる中で有人機の相手は楽ではなかった。ゴーレムの巨大サーベルが幾度かネオ機に撃ちこまれる。
早期決着の必要を感じたM2が、距離を詰めると虎の子のブリューナクで攻撃。やがて傷つきながらも撃破に成功する。
『んじゃ、往きましょうか。よろしくお願いしますね〜』
軽いノリで挨拶した剣清。乗るのはオウガ、鬼吼刃牙だ。もっとも、声は軽くともその意思は決して軽くないのだが‥‥。
『よろしく』
今回彼の相棒となるのは旭。使用する機体はフェイルノートII、ヘリオスだ。
移動中に見つけたCWをとりあえず叩きつつ、敵影を探す。やがて一体のゴーレムが発見された。
「余裕はないっぽいな‥‥!」
剣清機、機刀を掲げるとオウガの特徴であるツインブーストをかけて一気に接近する。まさに強襲型のKVと言った働きだ。
「皆々様方、一曲いかが? ってねっ!」
その突撃を、旭機が機関銃で援護する。
接近に成功した剣清機とゴーレムが何度か切り結んで。
「‥‥無人機か」
相手を見極めた剣清の呟きには安堵も失望も含まれる。無人機の方が戦いやすい。だが、パイロットがいるのであれば可能な限り生存させたかった。己が相手取ることが出来ないのであれば、望んでも何もできない。
強すぎる正義感ゆえの葛藤。もちろん、味方の安全が優先されると、そこはきちんとわきまえているが。
『っと、ごめん、あっち行く!』
援護をしていた旭から通信が入る。新たな敵影が現れたという。そちらはどうなのだろうと気にならないでもないが、今更敵に背を見せるわけにもいかない。
旭機は機関砲をばらまきながら新手のゴーレムに突撃。接近すると武器をノワール・デヴァステイターに変え、隙を小さく、確実な射撃を心がける。
青いマントを翻しながら――
「ステップの基礎から、やり直しておいでっ!」
声と共に、レディアントスターの一閃。
ジャミングが強いところは電子戦機に、と、無理のない場所での戦闘を選んだ二人だ。着実に、それぞれが一体ずつ、撃破に成功する。
井出 一真(
ga6977)はKV好きが高じて整備士にもなったKV好きだ。今回も、砂漠対応仕様にきっちりと整備してある。
数歩砂漠に踏み出すと、返ってくる感触に満足する。愛情をこめた整備に、愛機、阿修羅の蒼翼号もきちっと応えてくれているようだ。
『さてと‥‥それではまず、CW掃除からですかね』
一真は、今回ペアを組む白鐘剣一郎(
ga0184)に確認する。
『それなのだが‥‥』
シュテルン・G、流星皇の中から、返事が返ってくる。剣一郎が示したのは別の可能性だった。
『敢えて強い反応でこちらを誘き寄せ、合間を縫って来るとしたら‥‥』
CWが重なっているポイントはフェイントではないかというのだ。
確かに、視界が不安になる砂嵐の中、一番簡単に、とりあえず敵を探すなら「頭痛がする方向」だ。実際、今回そうした傭兵は少なくない。だが相手が知恵ある存在なら、それを逆手に取ってくる可能性は、言われてみれば考えられる。
『ですが、予想が外れたら‥‥』
それでも、頭痛がする方向に行けば少なくともCWは発見出来るのは確実だ。それを無視するならば、何の戦果もなしに撤退となる可能性もある。
『仲間との連携である程度はカバー出来ると信じている』
力強い声だった。一真が考え込んだのはほんのわずか。
『分かりました! それでいってみましょう!』
了解すると、通信でその旨を他の仲間に連絡。
そうして――剣一郎の予測は、見事的中していた。
ジャミングの薄い範囲を縫うように、極力ひっそりと砂漠を進んでいくゴーレムが、ポツンと一体。
一真機が獅子を踏ん張り、狙いを定めてロングレンジライフルで狙撃。そこへ剣一郎機がブーストをかけて突撃していく。
ゴーレムは一真機の射撃を恐れ早々と逃走にかかっていた。させじと、剣一郎機も射撃を加えつつ突撃する。
そして――二人からの射撃にさすがにもたつくゴーレムに、剣一郎機のブーストをかけた機槍の突撃が突きこまれた。
『遅い!』
そのとき、有希機、シラヌイ改の烈火閃剣も、一体のゴーレムと相対していた。
ブーストと全性能を惜しみなく発動した有希機の猛追。
あっさり追いつくとゴーレムのサーベルと、有希機のヒートディフェンダーが数度、切り結んだ。有希機は、相手の一撃を受けつつ、もう一本の機刀で足元を狙って薙ぎ払う。だがゴーレムは、臆することなく、むしろ纏わりつくかのように執拗にすがりついてくる。
「囮の無人機か」
忌々しげに有希は呟いた。ならば時間はかけていられないと、再びアクチュエイターを起動。彼の機体の性能ならば、撃破は時間の問題だった。
『あと何体残っている?』
別の班から通信を受ける。
『そうだな、ゴーレムはこちらが今、無人機と思しきものと一体交戦‥‥いや撃破した。それから‥‥』
応答し、すらすらと各班の状況を伝えるのはグロウランスだ。
今回の戦い、ゴーレムの相手とするには中々に豪勢なKVがそろっていた。各個の敵の早期撃破が叶ったのは、それら優秀なKVの活躍があったのは間違いない。
だがその裏で、今回の「広大な砂漠を、手分けして探索する」という任務に対し大きな貢献をしていたのは、グロウランスのI’s−Fael。この、ほぼ変哲ないと言っていいウーフー2だった。
打ち漏らしを防ぐには、目撃情報や探索範囲の共有は必須。だが、広大な砂漠で、CWが分布するこの中、実は通信状況はかなり悪い。‥‥誰かが、通信管制役を担わなければ。ウーフー2はまさにその役割を担うにうってつけの機体。己の役どころをきっちり抑えた働きであった。
(アラビア‥‥クウトか)
砂漠の中、グロウランスは思いを馳せる。
(俺の故郷も、かつてアラブの小都市として存在していたのだったか。今や地図から消えた、ただの廃墟に過ぎんが)
と、そこまで考えたところで。
『こちら、更にゴーレム一体撃破、無人です!』
また別の班から連絡が入って。
『OK。前情報が確かなら、そいつでコンプリートだ』
グロウランスは、いつもの調子で答えていた。
(俺は、此処に傭兵の仕事で来ている。それ以上でも以下でもない)
最後にそう、心の中で呟いて。
●
念のためと砂漠を周り、ゴーレムの姿が確認されないことを確かめながら、残ったCWも撃破していく。
そうして、前哨戦に参加した傭兵たちは、完璧な成果で凱旋したのだった。