タイトル:【OD】対空砲破壊指令マスター:凪池 シリル

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/07/09 09:44

●オープニング本文


 ――熱砂戦線。
 そのように表現しても差し支えない程、アラビア半島戦いは熱く、そして広がりを見せつつあった。
 バーレーンより上陸を果たしたUPC軍は、強行偵察時に入手した敵前線基地『アルカルジ』を目指して進軍。電撃作戦を掲げたかのような移動スピードを見せるUPC軍に対し、バグア側も徹底抗戦を決意。バグア軍はアルカルジに向けて主力部隊の移動を開始する。

 砂にまみれた地に相対する両軍。
 アラビア半島の趨勢を決する戦いの幕は、今まさに上がろうとしていた。



 UK3。三番艦轟竜號には、次々と部隊が飛来していた。
 整備班もひっきりなしにKVの周囲、甲板と格納庫を行き来している。
「来たぞ」
 誰かが呟いた。
 綺麗なアプローチ。六機のKVが滑り込んできていた。 ズウィーク・デラード(gz0011)軍曹のスカイフォックス隊だ。
 先に到着した別隊が、今まさにブリーフィングを開始しようとしていた一室からも、その様は見えていた。
 そうして。
「あー。あれが空を舞う蝶なら、俺らは地を這う芋虫です」
 丁度、傭兵たちに作戦を説明しようと口を開いたタイミングでそれを見た御武内 優人(gz0429)の第一声は、そんなものになった。
「‥‥いやまあ、あらゆる点で蝶と芋虫レベルの差で済めばいいな、とは思うが。いきなり何言ってんだオメーは」
「向こうが空戦の予定なので、俺らは先に陸上を制圧して支援します」
「そういう意味かっ!? 分かるかさっきのでーーー!?」
 突っ込みを入れるのはいつもの通り、相方、もといKVでペアを組む相棒、本人いわくただの同僚の為やむなく付き合わされてる速水 徹である。
 他のUPC軍の面々や、一部傭兵にとっては「ああ、いつものね」なやり取りが繰り出された後、徹が優人を締め上げてやっと、という、これまたいつものパターンを経て作戦の説明が開始される。
「えーと、そんなわけで、空戦が始まるから、その前に地上にある、対空砲。と、あぐりっぱさん。これを壊しとかないとまあ、格好の的ですから。やんないといけません、と」
 そうして説明されるのはかなり重要な事なのに相変わらず気の抜けた声だった。なおアグリッパがひらがななのはミスではなく、なんか本当にひらがなで書いたほうがしっくりくる響きで言ったからということを説明しておく。
「んでー、問題が一つあって」
 それから提示されたのは、偵察飛行により撮影された幾つかの状況。
 アグリッパ、および対空ミサイル、プロトン砲が数機と、それを護衛する様に巡回するゴーレム。
 地上から攻めるにあたり、最も障害となりそうなのはゴーレムだが、ゴーレム自体はごくオーソドックスなタイプに見える。
「このゴーレムさんが。よく見るとね、なんかちょっと浮いてるんですよ」
 慣性制御による疑似飛行能力を応用して、地中からわずかに浮いて移動しているという。目的は地上哨戒であるだろうに、わざわざそんなことをする意味を考えると。
「‥‥地雷原なんじゃねーのここ、と」
 どうやら、一筋縄ではいかないようである。作戦会議がはじめられた。



 打ち合わせを終えて、さあ出撃、となり甲板をかけていくと、すれ違うものたちがいた。先ほど見た、デラード軍曹をはじめとするスカイフォックスご一行である。
 有名人との思いがけない接触。
「砂漠に来たらデザート軍曹‥‥」
 だというのに、優人は、つい、いつもの調子で、思いつきをそのまま口にしていた。
「上手いねぇ」
 きっちりと耳に届いていたのだろう。笑いながら近づいてくるデラードに、慌てて挨拶するが、挨拶を返したデラードは笑顔のまま優人をどつく。
「苛め反対ーっ」
「馬鹿野郎。これは、愛情だ。愛情」
「痛い愛情いらないですーっ!!」
 実際デラードからしてみればじゃれあいなのだろうが、グラップラーとストライクフェアリーである。かなり手加減されても結構痛い。
 助けを求める視線を送った徹は「そうなって当たり前だ馬鹿野郎」と冷ややかな視線を投げつけた後、さっさと先に行ってしまった。
「今日はこのくらいにしてやる。急げよ? 仲間が待ってるぞ」
「軍曹が止めたんじゃないです‥‥か‥‥いや、もう何もいりませんからっ!」
 拳を鳴らしたデラードのイイ笑顔に、優人はじりじりと後退する。
「遠慮するな。戻ったらたっぷりご馳走してやる」
「あー、じゃあ俺らが上手くやれたらアイス奢って下さい、デザート先輩」
「‥‥おう! 死 ぬ ほ ど 食わせてやる」
 最後にぐり、とまたこめかみを拳でひとひねりしてからデラードが優人を解放すると、行ってきまーす、と悪びれることなく仲間を追いかけ、駆けだしていった。

●参加者一覧

鷹代 朋(ga1602
27歳・♂・GD
如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
リゼット・ランドルフ(ga5171
19歳・♀・FT
ゲシュペンスト(ga5579
27歳・♂・PN
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
山下・美千子(gb7775
15歳・♀・AA
セツナ・オオトリ(gb9539
10歳・♂・SF
シンディ・ユーキリス(gc0229
25歳・♀・SF
天小路 皐月(gc1161
18歳・♀・SF
杜若 トガ(gc4987
21歳・♂・HD

●リプレイ本文

「ほほう、アイス奢りとな?」
 先を行きながら、耳聡く優人とデラードの会話を聞きとめていた山下・美千子(gb7775)が、ピクリと反応する。明らかにやる気が二割ほど増したかのような声だった。
「俺はやっぱり棒アイスだな」
 言ったのは龍深城・我斬(ga8283)。
「デザート(砂漠)でデザートさんがデザートを奢ってくれるなら張り切って行きましょか」
 やはりやり取りを聞いていたのだろう。おどけていう。
「そうそう、デザート先輩がデラードを。あれ?」
 そこで追いついてきた優人である。
 声に、何気なく振り向いてきたシンディ・ユーキリス(gc0229)と優人の視線が合わさって。
「やあ。でアマントしタオプ」
 まるで当然の挨拶のように優人が言った。相変わらず舌が回り切っていない。
「ディアマントシュタオプ‥‥ディアマントシュタオプ‥‥ディアマントシュタ、ト、オ‥‥むむ」
 そして律義に付き合うシンディ。三回目でまた引っかかった。
「よし。今日も張り切っていこう戦友」
 何故かやる気が増したような調子で声をかける優人。
「それで戦友なのかよ。つーか言えるようになったら戦友じゃなくなるのかそれは」
 徹がさりげなく突っ込みを入れていた。
「アイスの前にふざけて死ぬなよ。この季節じゃ墓前に供えても一瞬で溶けるぜ」
 ごもっとも。徹の言葉に死んでたまるかと一同顔を見合わせあうと、各々の愛機に乗りこんでいった。



「さぁて、今日の獲物は食いごたえがありそうだぁ」
 砂漠でドンパチとはまた余計に暑くなりそうだ、と、標的を遠目にみとめて、杜若 トガ(gc4987)が呟く。
「砂漠か‥‥まぁ、この手の悪条件はリッジウェイの得意分野だ」
 その横で、ゲシュペンスト(ga5579)がポツリと言った。
 間もなく地雷原の目されている地点の手前で、一旦一同は足を止めた。少し先を巡回するゴーレムたちが反応して、一斉にこちらに顔を向ける。
 だが、ひとまず一行が狙うのは――
「ドミニア、道を切り拓く!」
 叫んだのは鷹代 朋(ga1602)。その名を呼んだ愛機、天の持つ帯電粒子加速砲から延びた光が向かう先は、戦場の中央に立つアグリッパ。
 ついでに地雷の誘爆を狙えないかと、地に伏せる姿勢をとって地表をえぐるように放った一撃であったが、残念ながら不利な体勢を取ってまでやっても、浅く地面を撫でるくらいでは反応はなかった。だが、アグリッパの根元へは過たず命中する。
 それを攻撃開始の狼煙として、皆で一斉にアグリッパに向けて攻撃‥‥と、思っていたのだが。
 次に響き渡ったのは地響き。
 如月・由梨(ga1805)の操る機体、ディアブロのシヴァから長い影が伸びていた。その機体と同じ名前を冠する巨大な剣が、アグリッパを叩き潰している。
 剣――剣である。ただし言っておくが、由梨は作戦開始位置から動いていない。そこから、戦闘地域のど真ん中にあるアグリッパに命中させ、剣の影はなお長く伸びている。
 おおよそ機体とのバランスなど考えていなさそうな巨大な剣を、由梨のKVはもう一度持ち上げ、そしてまた標的としたアグリッパに命中させる。振るっているのだ。この巨大な剣を、きちんと。
 まるで出来の悪いコラージュのような間の抜けた光景でありながら、それは紛れのない現実であった。
 そうして、他の仲間の射撃を待つまでもなく、アグリッパは沈黙した。
 由梨機が巨剣を担ぎ直し、身を翻すのを見て、他の全員も我に返る。そう、早めに片付いたところで作戦は何も変わらない。中央のアグリッパを倒した、その後は。
 4機のKVが、こちらに近づいてくるゴーレムたちに身体を向ける。迎撃‥‥と行きたいが、一歩先は地雷地帯と予想される。さすがに、無策で突っ込むほど無謀なものたちではなかった。
 ゲシュペンストは、己と同じ愛称を与えた機体、リッジウェイのゲシュペンスト02から、機関砲の銃弾をばらまく。
 狙いはゴーレムではなく、すぐそばの地面一帯。地雷を反応させることを狙った攻撃――だが、ひとまず狙った通りの爆発は返ってこなかった。機関砲程度の衝撃では反応しないのか、それとも単純にそこには地雷はなかったのか。判断がつかないため、とりあえず二挺銃での射撃体勢に入る。
「せっちゃん、私たちも行きましょう」
 リゼット・ランドルフ(ga5171)が、傍らに立つセツナ・オオトリ(gb9539)に優雅に声をかけて、シュテルン・G、Edainを前進させる。
「はい、リゼ姉様! いくよ‥‥オージェ」
 セツナは、しっかりとそれに応じる。彼が駆るのはグローム、名はシュヴァルツェア・オージェ。
 二機とも、ゲシュペンストと同じように、足元を武器で薙ぎ払いながらゴーレムに近づいて行く。リゼット機のレーザーカノンが吸い込まれていった地面が一度、派手に噴出し砂煙を舞い上げた。セツナは機大刀で薙ぎ払う。これも勢いよく叩きつければ反応はした。衝撃が機大刀から機械の腕に伝わり、操縦桿を震えさせる。直接踏むよりは遥かにましだが、手に持った武器で爆発させる、というのはやや機体の動きを鈍らせた。
 そこへ向かってくるゴーレムに、リゼット機が重機関砲で牽制を入れる。まずは脚部を狙った後、双機槍で継ぎ目や薄い箇所を狙う。
 そのリゼット機の狙いを、セツナ機がフォローに動く。両機の死角を意識し、補佐しながら、同じように機関部に銃撃を重ね合わせる。
 前にリゼット機。中距離からセツナ機が射撃。リゼット機の動きに比べれば、セツナ機の動きはぎこちない。反撃の収束フェザー砲が幾筋か、セツナ機に叩き込まれた。リゼット機が庇うように立ち回りながらも、決して甘やかしすぎることなく合わせていく。
 三機は、周囲の地雷を意識しながら戦わねばならなかった。普通ならば臆して足が止まるところだが、それではゴーレムの射撃の格好の的だ。三機とも、可能な範囲で動くことを諦めていなかった。かと言って、無謀に地雷原を走破するでもない。
 武器で爆発させれば、その位置を素早くポイント。また、単純に敵としてではなくゴーレムの動きに注意する。浮遊移動をしていれば地雷地点、着地すればそこは安全地帯だ。
「例え地雷原でも機体の足跡や爆発痕を辿れば動けない事はない!」
 集めた情報を共有しながら、ゲシュペンストが鼓舞するように叫ぶ。
「究極! ゲシュペンストキィィィィック!!!!」
 不利な条件にも工夫で活路を見出すと、必殺の蹴りをゴーレムに御見舞していた。
 そんな中、自在に動くのは朋機だ。初撃の伏せた体勢から立ち上がると、ゴーレムの一機に向かってまっすぐ向かっていく。宇宙での稼働を見越した天は人型時、歩行ではなくホバー移動をする機体だ。ゴーレムと同様、地面を踏むことなく移動が出来る。
 自身がマーキングし、あるいは味方から共有されてきたゴーレムの浮遊ポイント、すなわち地雷が埋まっていると推測される地点にレーザーカノンを叩き込み、爆発させることで味方の安全地帯を増やし、あとは砲撃支援主体。
 痛快だったのはゴーレムが浮遊しようとしたタイミングで、頭を押さえるように放った砲撃だろう。叩き伏せられたゴーレムが設置し、地雷の爆発に巻き込まれる。FFに阻まれ地雷そのものがダメージを与えることはないが、爆圧に動きを阻害されるのは向こうも同様。続く一撃が自爆したゴーレムを直撃する。

 四機がゴーレムに応戦する中、残る6機は、3機ずつに分かれて左右後方に鎮座するアグリッパの破壊に向かう。
 右側をいくは我斬、美千子、天小路 皐月(gc1161)。こちらは機体を全て竜牙でそろえてある。機体の名はそれぞれ我龍旋、マックス、竜姫。
「そう威力が高く無いならバリア系能力で強行突破! ‥‥速いと思うんだがどうかね?」
 我斬が呟いた通り、三機は超伝導DCとブースト同時発動するとなんと地雷原を一気に駆け抜ける!
 これまでに見た爆発の威力であれば、超伝導DCを纏ったKVの耐久力なら耐えられると踏んでだが‥‥加速して突き進むところに下から衝撃を受ければ、激しく機体は揺さぶられる。なんとか機体自体の大きな損害は免れているようだが、バランスを取りながらの行進。最高速は中々出せない。
 そしてそんな中――。
 ゴーレム班は、確かに地雷原という中、善戦していた。だがそれはあくまで、「地雷の中、ゴーレムと戦う」という視点で見た場合のみだ。
 本来、このゴーレムたちはアグリッパと砲台を護衛するために居るのだ。明確にそちらを狙うものがあれば、そっちを優先する。相手機よりも少ない機数で、アグリッパに向かう味方をゴーレムからカバーするのであれば、もっとそれを意識した位置取り、連携が必要だったろう。真正面に相手がいるならともかく、銃撃で気を引く程度で止まってはくれない。
 ――結論から言えば、ゴーレムたちに傭兵側KVより反応が早いものがいたのも相まって‥‥竜牙組が突撃をかけた際、2機のゴーレムがそちらを狙える状態にあった。
 爆風にたたらを踏む竜牙たちに、収束フェザー砲の集中砲火が叩きこまれる。超伝導DCを展開していたこともあって堪え切れたが、バランスを崩したところに直撃した一撃は浅くない損傷を与えていた。
 その後、二体のゴーレムは傭兵たちに合わせ左右に分かれていく。右側を担当する班から一度、美千子機がその相手をすることにした。
「ピッケル一振り、一直線!」
 美千子が叫び、その通りゴーレムに向けてピッケルを振り上げる中、我斬機、皐月機も体勢を立て直し、改めてアグリッパに向かう。
「先ずは司令塔だ、逃がしゃしないぜ、こいつの尻尾が光った上に唸る!」
 アグリッパにたどりついた我斬が勢い付けに言うと、皐月機も呼応してアクセラレータを機動、アグリッパに集中攻撃を開始する。
 ゴーレムの動きも気になるが、まずはアグリッパと砲台の破壊が最優先だ。

 左側を行くのは、由梨、シンディ、トガ。
 はじめに動いたのはシンディ機、ペインブラッドのFPP−2100S・Y『Shine』だ。
「‥‥こういう時って、やっぱり『薙ぎ払え!』って、言うべきだよね‥‥?」
 ポツリと言うとともに、フォトニック・クラスターを発動させる。広範囲に熱が放射される――が、台詞をためらったのはまあ、正解ではあった。残念ながら地上で熱を放射するだけでは、地中にある地雷を反応させるには至らなかったようだ。元々試しに、という気持ちではあったので失望はそれほど大きくはないが。
 結果、こちらは兵器で地雷の破壊を狙いながらの前進という手段をとった。由梨機がグレネードで、シンディ機がショルダーキャノンでまず進路上を砲撃。トガも準備はしているが、弾数が心もとないのもあって控えに回る。先に味方に任せ、不足するか手狭なようなら自分も撃つ、という構えのようだ。そうして、ある程度道が開けたところで、トガ機、フェンリルのシュトゥルムハウンドがマイクロブーストでダッシュをかけた。この時アグリッパは、傭兵たちの機体の攻撃力を脅威と見て撤退の動きを見せていた。そうはさせじとトガ機、クローを掲げマイクロブーストの勢いのまま機体ごと突っ込み、アグリッパの身を地に縫い付ける。
 動きを止められたアグリッパに、由梨機の巨剣が叩きつけられた。
 由梨機はまたあっけなくアグリッパを沈黙させると、そのまま他には目もくれず砲台へととりかかる。破壊神の名にふさわしい傍若無人な威力が、動かぬ的に情け容赦なく打ちこまれていく。
「こりゃ、こっちはまかせた方がかえって早いかぁ」
 最初のアグリッパを潰した時よりもより間近でその威力を見せ付けられたトガが、呆れ半分に呟いていた。
 その間、こちらに向かっていたゴーレム一体は、シンディ機が射撃戦にて応戦していた。だが、こちらは一対一では若干、押され気味である。どうやらトガ機の野良犬の牙は、ゴーレムへと向けられることになったようだ。



『もしもーし、そっちは‥‥ああうん、終わってるねー』
 暫く後にUPC軍から通信が入ったころ、傭兵たちはすっかり任務を完了していた。
 課題であった「アグリッパと砲台の迅速な破壊」については、最も破壊力の高い由梨機が、味方機が撃墜されない限りは砲台を優先するといういっそすがすがしいまでの割り切りを見せたおかげで、UPC軍が期待した以上の速度で果たされていた。砲台の破壊が済んでしまえば、ゴーレムの撃破も時間の問題でしかない。この時全員、地雷の対処はきちんと心得ていたのだから。それまでにゴーレムを担当していたKVは少なくない損傷は被ったが、大破に追い込まれたものはいない。このくらいなら、予定の範囲のダメージと言えるだろう。
『アイスは決まりだな?』
 奢りで食い漁り、土産までせしめてやろうという気持ちでいる美千子が期待を込めて言う。
『つーかマジで暑ぃよ。たっく、奢りは酒の一杯や二杯だけじゃ足りねぇなこりゃ』
 トガが上着を脱ぎ捨てたそうにしながらぼやいた。
 ――さてこの戦い、待っていたものはどう見たか。傭兵たちが視線を上げた先に、空戦部隊が飛び立っていくのが見えた。
 早めに砲台が撤去されたのを見て、早々と展開を開始したのが見える。
 アルカルジ攻略戦、ひとまずは人類側が先制である。