●リプレイ本文
「ハッピーバースデーだ。和歌山茜、いや、噂の魔法少女フレイムバレット!」
待ち合わせ場所に向かった茜さんを、そう言って出迎えたのは緑川安則(
ga4773)さん。
「私は緑川安則。元三等陸尉、習志野にいた。噂じゃあ君も自衛隊魂を持って二曹を名乗っているって聞いてな。興味を持って来させてもらった。ほら、酒は揃えてきたぞ」
初対面の方からいきなりこれです。一体どこでどこまでうわさになってるんっすかね。いろんな意味でちょっとひきつる茜さんです。ってかなんで誕生日知ってるのか。
「茜さんこんにちわ!」
続く、今度は知った声に振り向けば、セラ(
gc2672)さんと、天真爛漫な笑みを浮かべるファリス(
gb9339)ちゃんの少女コンビ。はい、いつもなら魔奏少女と魔槍少女のややこしいコンビですね。もうこうなったらドラグーンの魔装少女とか出てこないかなとかちょっと思う今日この頃です。
「茜姉様! お誕生日、おめでとうなの。ファリス、お祝いにきたの!」
キラキラ笑顔で言われて、ああそういえばなんかの時に教えたっけ、それでか、と納得する茜さん。
「? 姉様、どうしたの? お誕生日、嬉しくないの?」
納得はしたもののつい笑みがぎこちなくなっちゃう茜さんに、重ねて問いかけるファリスさん。
「あーいや。ほら、もう祝ってもらうような年齢でもない、かな、とか」
さすがに子供にアラサーの悲哀を全力でぶつけるほど大人気ない大人にはなれません。そんなわけで、微妙な感じで遠慮を見せることにした茜さん。
「‥‥それは違うと思うの。お誕生日はその人が生まれてきた事をみんなで喜ぶ日だと、前に教会の神父様が言っていたの。茜姉様とファリスがこうして出会えたのも神様のお導きなの。だから、めいっぱいお祝いするの」
とはいえ、こんなこと言われちゃさすがに叶いません。ありがとう、と笑って、ファリスさんの頭を撫でる茜さん。
そのままぐるりとメンツを見渡せば、バレンタインのときにもお話しした月城 紗夜(
gb6417)さんに、いつもおなじみの沙玖(
gc4538)さん。あとは‥‥
「ん、集まって何か楽しそうなことをやると聞いてな。気分転換に邪魔させてもらうことにした」
と、こちら初対面のグロウランス(
gb6145)さん。まあ、安則さんもそうですが、LHを通じて募集をしたんだからそう言う方も集まりますな。改めてはじめましてとご挨拶する茜さん。 そんなメンツでお誕生会? スタートです。
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ってなわけで茜さんの部屋にやってきた一行。
「茜姉様のお祝いだから、なるべく姉様はゆっくりして欲しいの。その分、ファリスががんばるの」
ファリスさんがそういうと、前に出るのは食材の袋とエプロンを見せてやる気満々のグロウランスさん。
腕前もそうですが、とりあえずエプロンがフリル付きなのが気になります。
「‥‥ん、ああ、これか。大分昔、能力者になる前にな‥‥貰ったんだ。義妹から、な」
説明されてもそれはそれでどういうことなのかますます気になりますが、まだあまり深く突っ込める間柄でもありません。
「‥‥まあ、せっかくだからお手並み拝見して見ますか」
食材を見る限りではセンスは悪そうではありません。他の皆さんも、すっかり「茜さんの誕生日だから」モードなのを察して、お願いして見ることにします。
「これ、ファリスが焼いてきたの。姉様に食べてほしいの」
そういってファリスさんが手作りクッキーを、
「バイト先のものだがな。食物繊維も入っていて、肌にいいらしい」
紗夜さんが人参ケーキを差し出せば、ひとまず、料理を待つ間のお茶会タイムです。
時折、配膳や片付け、グロウランスさんの手伝いに入ったりと人が入れ替わったりなどしながらも、ゲームをしたりおしゃべりしたり、和やかな時間が過ぎていきます。
「そういえば、アイツの誕生日は七月なんだが‥‥」
ふと、そんな話を切り出す紗夜さん。アイツ、というのは以前に聞いた恋人さんのことっすね。
「プレゼントに悩む。そ、そう言えば言葉でも愛を伝えようとしたのだが、中々」
‥‥嫌いじゃないとか、そういう話になるんだよな。と、もじもじと話す紗夜さん。
「傭兵稼業に戻るようだし、足しになる物がいいかと思うが。個人的に、その、ペアとか、も、いいな‥‥とか」
「んー‥‥ペア、かー」
そして、なんだかんだで真面目に聞く茜さんです。
「そういうの重いっていう男もいるし、もらった瞬間は嬉しいんだけど恥ずかしくて一緒に付けるのは嫌‥‥とか言ってしまわれちゃうこともあるしねー」
そっちはプレゼントにどういうもの貰ってるの? と尋ねると、特注品の刀と鞘だという。
「女の子のプレゼントに、刀か‥‥いや貴女見て選んだんでしょうけど。なんか恋人恋人意識するよりは相手の好みや実利で考える人かなあ‥‥」
想いがこもってるだけで実用性が低いもの、よりは本当に相手が欲しがってるもので考えたほうが喜ぶ相手かも、と茜さん。
「ただそうすると、好き、って想いはこめにくいのがねー」
「うむ‥‥難しいな。大体アイツは鈍すぎる!」
中々結論が出ない悩みに、こっからちょっと愚痴モードはいる紗夜さんです。
「服装変えてみたり、お洒落にしてみても気付かないし‥‥スカートが好きと聞いたが、傷が多いからな」
実際、こんな話してますが紗夜さん、現在きっちり重傷中。入院してなくていいのか。
「私が主導権握っていると思ったら、いきなり接吻するし、訳が分からん」
まあ熱がこもってるうちは、最終的にはノロケに突入するもんですがこういうのは。けっ。
さてお次は。
「前にこちらの相談を受け付けると言ったね」
たまたま二人になった、タイミングで、話しかけてくるのはセラさん‥‥いや、この口調はアイリスさんですね。
少し身構える茜さんです。
「ならば夏物の服をテーマに服飾談義としようじゃないか」
そうしてアイリスさんがきりだしたのはそんな話。
「どうにも流行り物などに疎くて困るのさ。やはり吸水性と通気性かな?私はともかくセラはこの季節厳しいかもしれないからね」
気楽な調子のアイリスさんに、しかし茜さんはふーんと興味深そうに呟いてからしげしげと相手を眺めます。
「‥‥それは、『貴女が』そうしたいの? それともセラが服飾を気にしなくて気になるって話?」
そう言ってまたアイリスさんを眺めます。特に、いつも、魔奏少女であるときも、常に冷静さをもつ瞳。
「まあどちらにしたって。『貴女が』貴女として感じることがあって、それを楽しんでるなら、私がどうこう言うことじゃないのかしらね」
それなりの付き合いになります。茜さんとしては、ちょっと変わってきた印象に、何か思うことがあるみたいです。
「‥‥で、服の話だっけ? 別に流行を追う必要なんてないと思うけどね。その人なりの服の選び方ってもんがあるから、まずは自分で、ピン、と来たものを選ぶところからだと思うわ。私だったら、その方向性を見てからアドバイスできるところはする、って感じかな」
今度、一緒に買い物でも行く? そんな感じで話が弾んでいきます。
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まあそんなガールズトークも展開されつつ、しばしの時を経て。
「さて、一人やもめの男の料理、特と見ろ」
運ばれてきますグロウランスさんの手料理。
ベトナム風生春巻きに青ネギのフランスパンカナッペ、豚肉の揚げトーストといったものが運ばれてきます。
その後、皆の手によって皿やコップが運ばれて。各々の手に飲み物が注がれて。
「さて、それじゃひとまず乾杯といきますか」
安則さんが音頭を取ります。
「それじゃ、カンパーイ」
そんな感じで、お食事会スタートです。
まあ、酒が入るってだけでノリはさっきまでのお茶会とそう変わらんのですが。ガヤガヤとおしゃべりしつつまったりです。
グロウランスさんは下戸らしく、あとは大半未成年ってことで酒が入ってるのは安則さんと茜さんの二人だけっすしね。
が。
「衝撃のセラファイアスピン抱きつきー!!」
「わっ!?」
なんというか夕飯で、しかも遠慮の要らない個人の部屋となると、何とはなしにテンションあがってくるものです。
ええ、セラさん最初は普通にこの会を盛り上げようと頑張ってましたが、今やただ関係なくはしゃいでるだけですな。
料理が減ってくれば、一旦テーブルから離れてゲーム大会が始まったり。これまたセラさんが持ち込んだものです。
樽に海賊風人形が入っててスリットに剣を順番に突きさしてって、当たりの個所に剣を指した人が負けなあれです。
こんなんでも、皆でワイワイとやると不思議と本気で愉しめたりするんすよね。
自然、おもちゃの剣を持つ手に力が入る一同です。
「‥‥わっ!」
そんなわけで、わりとマジな顔で沙玖さんが差し込んだ瞬間に、脅しをかけるのはグロウランスさん。
「おわっ!?」
驚いた拍子に力み過ぎて、樽を傾ける沙玖さん。
「ぐおっ!」
そしてどうやら本当にあたりだったらしく、その瞬間飛び出す人形(プラスチック製)がグロウランスさん直撃。自業自得‥‥というよりもうナイス自爆です。爆笑する一同。
「まあともかく沙玖の負けってことでー。じゃあ罰ゲームー」
そして飛び出す酔っぱらいのたわごとby茜さん。だが場のノリでその輪は全体に広がります。
「そういえば、皆でコスプレするって準備してたんだよ〜」
セラさんの一言が決定打となり、沙玖さん、用意してたコスチューム、「シーフ」に着替えるの刑。
その後セラさんが和風の狐少女になったりファリスさんがいつもの魔槍少女(ただしマスクはティッシュ箱の厚紙製の自作)になったりする内に、段々勝負どうでもよくなってコスプレと批評に熱を入れだす一行。
「東京へ任務に行った時の服装だ。日本のアニメは、繊細さがある」
サムライ、というか新撰組の衣装になって満足げなのは紗夜さん。
「魔法少女でも和にすれば解決。日本の美は淑やかさだけではない。アニメ等は世界にも通用するし、生き生きとした姿は悪くない」
「って結局その話になるんかっ!」
ついポロっと出た紗夜さんの話に、頭を抱える茜さん。
それを見て安則さんが、笑って新しくカクテルを作って差し出します。
「覚醒時に人格が変わるなんざ、よくあることだ。私なんて酷いぜ。ビーストマンの因子が強すぎたせいか、龍みたいな鱗を持ったリザードマンだ」
そう言って試しに覚醒する安則さん。コスプレなんぞよりよほどのド迫力ですね。
「んー‥‥自分だけの悩みじゃないってのはまあ、分かってはいるんだけど」
口ごもる茜さんに、さりげなく酒を注ぎ足す安則さん。
「そういえば、上級クラスに転職する場合、確率は低いが覚醒時の設定が変わる可能性があるそうだ。事実、ビーストマンの場合は因子が変わるみたいでな。二度とビーストマンになれない。もっとも魔法少女ではなく、ウィッチガンナー・フレイムバレットとして年相応の色気ある魔女になるかもしれないな。胸が大きくなったり、身長が高くなるとか魔法少女物の定番だ」
「いやまあ、私たちはほら、なりたいですって言ってじゃあどうぞ、って出来るもんでも‥‥どうなんだろ」
ふとした思いつきを言う安則さんに、微妙な顔のままの茜さん。
「恥ずかしいのもそうなんだけど、やっぱり暴走気味なのがね‥‥最近じゃ、軍の皆もあんたら傭兵も、フォローに慣れてもらってきてる感じだけど、でもフォローしてもらいながら敵倒しても、プラスとマイナスどっちが大きいのかなあって‥‥」
「まあ、気にせず、飲むことだ。やけ酒でもいい。日頃の鬱憤出しちまえ」
段々と口が軽くなってきた茜さんに、いいことだと酒を差し出す安則さん。茜さんも周りが止めないのでまあいいか、という感じです。
「ありがと‥‥ってあー‥‥氷切れた」
この時期、やはり酒はキンキンに冷えててないとでしょう。そろそろお開きにしてもいいけど――と思うも、ジュースも酒も半端に残ってるのが気になります。お片付け的には飲みほしてしまいたい。
「ちょっと、その辺で買ってくるわ」
立ち上がる茜さん。
「‥‥あ、そ、それなら、俺が、一緒に‥‥」
と、そこで、何回を決した様子で立ち上がる沙玖さん。
「え? 別にすぐそこだし、すぐに‥‥」
「一応ついて行ってもらえ。夜道だし、酔ってるだろう」
遠慮しかけた茜さんに、言うのはグロウランスさん。
「え‥‥まあ、じゃあ」
年上の意見には従っとこう、と大人しく受け入れた茜さん。ひそかに親指をたてて「グッドラック」とジェスチャーするグロウランスさんに、これまた密かに掌をたてて「感謝」と応じる沙玖さん。
片隅の窓辺で茶を飲んでいたグロウランスさん、二人を見送って少し満足げに息を吐いた後。
気分転換にとやってきて、その目的は多少は果たされたわけですが。
「‥‥このまま、能力者を続けて。その先に、何が在るというのか」
要するに、転換したい気分があったというわけで。ふとした拍子、ちょっと物思いにふけっていました。
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そんなわけで、夜道を歩く二人。
「その、これ‥‥」
しばらく行った後、そっと小さな箱を差し出す沙玖さん。
「ああ、誕生日の? なんか悪いわね。ありがと」
なんてことはなしに受け取る茜さんに。
「今度の休暇の予定とかあるかな? できれば花火を一緒に見に行きたいんだが‥‥? ‥‥二人で」
しっかりと意図を伝えるために、二人で、をわりと強調気味にいう沙玖さん。
え、と、茜さんが顔を上げて、沙玖さんの表情をマジマジと見ます。
別に鈍感ってわけじゃないんすよ茜さん。年とか覚醒とかがあって、期待しすぎないように普段セーブしてるだけで。二人っきりのタイミングで、こんな風に言われたら、さすがに少しは察します。
「ええと‥‥それはあの。本当に私で、いいわけ‥‥?」
しどろもどろに尋ね返す茜さんに、沙玖さんしっかり頷きます。
しばし沈黙。きっと沙玖さんにとっては鬼のように長い沈黙。
「‥‥うん、まあ、とりあえずは、いいよ」
やがて茜さんはそう返しました。
「‥‥っていっても、とりあえずは、知り合いとしてね? 二人でもいいよ、くらい」
要するに、気持ちは分かったけどお返事保留、です。
それでもまあ、一歩は一歩でしょうか。
「じゃあ‥‥約束」
「お、おう‥‥約束」
確認し合うと、それからは無言。
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「ようお帰り。飲み直すか?」
返ってきた茜さんを、安則さんが誘いますが。
「いやなんか‥‥酔い潰れたい気分でもなくなったから‥‥いいや」
どこかボーっとしたまま、茜さんが答えて。
やがてジュースも空になると、お開きモードです。
楽しかったし、誕生日祝ってくれてありがとう、いい日だったしいい年になりそう、と一人一人にお礼を言う茜さん。
ひとまずは満足いただけたようです。
まあ、そんな戦いの合間の、一時の休息でしたとさ。