タイトル:【ODNK】福岡空港突入マスター:凪池 シリル

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/21 09:52

●オープニング本文


 福岡空港、そして春日基地。
 戦いの果てに、北九州に残る主要なバグア基地は、今やこの二つとなっていた。
「――『長かった』」
 九州軍司令が放った言葉に、傍にいた士官が眉をひそめる。
「分かっている。まだそれを言うべきではないということは」
 まだ勝利ではない。ルウェインが墜ちた時もあのダム・ダルを討った時も、彼はこの言葉を飲み込んできたのだ。
「‥‥だがそれでも、春日を落とせば北九州でバグアが大きな作戦をとってくることは難しくなるだろう。それが叶った時、そろそろここで私に一度、『長かった』と言うことを許してもらえないだろうか」

「――そして贅沢を言わせてもらうならば、諸君らの手によって、『長かった』と振り返る日々を一日でも短いものにしてもらいたい」

 『長き日々』を『短く』。そのために、諸君らの奮戦に期待する。
 そう締めくくり、九州軍司令は作戦を発令した。



 ソイツ、に相対する能力者は、決して見た目に騙されて油断しているつもりなどなかった。
 ぱっと見は12、3ほどの少年。金褐色の髪と瞳に、黒の太極服。小柄で華奢な身ためだが‥‥その身に釣り合わぬ大刀をやすやすと振り回し、何より瞳に宿る狂気に、ただものであるわけがない、と十分に警戒し、遠慮のない攻撃を加えていた。
 そして能力者の一撃が、狙い澄まして、大刀を振るう細い腕に叩きこまれる。叩きつけた衝撃が、弾かれも吸収されもせず、間違いなく腕にヒットした確かな感触があった。はずだった。
 ‥‥だが次の瞬間、能力者は少年の大刀が起こす旋風に巻き込まれて、吹き飛ばされる。
「あははー♪ 『どうなってんだこのくそガキ』って顔してるねー!」
 場違いな明るい声。
「おかしいよねー今骨砕けたよねー僕。筋とかも多分無事じゃないかなー? 痛いとか痛くないとかでなくそんな状態で物理的に重たい武器が振るえるわけないって思うかなー」
 そのまま少年は倒れた能力者に大刀の刃を突き立てた。
「元々の僕の体の持ち主はねー! 実の親に金の為にバグア側にうっぱらわれたんだけどー。バグア側からしたらひ弱な少年の体なんてどうでもいいや、ってもういじっていじっていじり回したらしいんだよねー」
 横手から着た新たな能力者を、ダメージを受けた腕を鞭のようにしならせて軽く吹き飛ばす。その前にすでに撃ち抜かれていた足は回復を始めているがまだえぐれており、にもかかわらず平然と駆け抜けていた。
「一応人間の見た目してるらしいんだけどねー。もうこれ中身は『そう言えば人間だったよねこれ』ってくらい変わっちゃってるらしくてねー。まあそれでもたまたま高い能力になったから僕がヨリシロとしてもらたんだけどさー」
 ケラケラと笑いながら少年はいう。
「まあだから、『どうなってんだこれ』って言われても実のところ僕にもよく分からないんだよねー! 普通に胸とか頭とか叩いても死なないかもよー? 本当どうなってるんだろうねーあははー♪ どうやったら死ぬかなー!」
 話からすれば少年はバグアでありもうそのヨリシロとなった少年とは別の存在であるはずだが、まるで自らの境遇を嘆いているようにも見えた。
「‥‥いけない、調子に乗るな、って、兄さまに言われてたっけ。こんなところで死んだら駄目だよね、もっとドレアドル様の役に立たなきゃいけないんだから。気をつけて気をつけて。やりすぎないやりすぎない」
 やがて、目の前の相手が全て沈黙したのを確認した少年は、言いつけを思い出してブツブツと呟いていた。



「‥‥間違いない。こいつだな」
 資料で示された少年の姿に、福岡空港攻略を命じられた士官は重々しく頷く。
 偵察により見慣れぬバグアの存在を発見したこの士官は、至急軍の各地に情報を求めていたのだ。
『‥‥そちらに向かっていましたか』
 そうして、モニターの向こうで答えるのは中国の孫 陽星(gz0382)だった。
『彼らは、ウランバートル方面などで活動が確認されていたバグアたちです』
 郭源、禍弦、それからこの少年はモールドレ、と名乗っていることが確認されているという。
『立場としては、ドレアドルの部下、のようですね。北京解放後、こちらでは動きは見られなかったのですが‥‥』
「‥‥むこうも、簡単に九州を諦めてくれる気はない、ということか」
 士官は重い溜息を吐く。
「とはいえ、こちらもここまできてやっぱりやめよう、などというわけにもいかんが。まったく‥‥、いや」
 そう言って士官は再びモニターに顔を向ける。
「そちらも大丈夫かね? 顔色が優れないようだが」
『え? ‥‥。いえ。お気遣いありがとうございます、大丈夫です』
「まあ、大丈夫じゃないとしても、そうも言ってられん状況、か。せいぜい、互いに頑張ることにしよう」
 言って士官は、改めて傭兵たちを見た。
「改めて。諸君らにお願いしたいのは陽動に乗じての福岡空港への突入だ。福岡だが‥‥こちら側の捕虜が多数収容されている、との情報がある。制圧は迅速に行う必要がある」
 重々しく、士官は説明した。
「陽動と同時であることを鑑みて、直接空港の攻略は君たち少数精鋭で行ってほしい。我々は先に、周域にさりげなく展開してフォローの予定だ」
 そう言って、士官は準備があると言って先に出ていく。
 あとには傭兵たちと、それから、モニターの向こうでどこか疲れた顔をした孫少尉がまだ残されている。
『‥‥九州も大詰めと聞いています。そちらには行けませんが、私も、UPC軍として可能な限り協力するつもりです。皆さんはまだ少し時間があるようですし‥‥作戦の概要は伺っていますから、疑問があればお答えできるかもしれません』
 なんなら、気晴らしの雑談でも、と、軽く冗談めかして笑う孫少尉だが、どこか力ないようにも見えた。もしかして気晴らしを欲しているのは彼の方かもしれない。
『――頑張りましょう。北九州だけではなく、全ての人類の未来の為に』
 そうして最後に、自らも鼓舞するかのように、彼は言った。

●参加者一覧

ノエル・アレノア(ga0237
15歳・♂・PN
小鳥遊神楽(ga3319
22歳・♀・JG
夏 炎西(ga4178
30歳・♂・EL
リュドレイク(ga8720
29歳・♂・GP
カララク(gb1394
26歳・♂・JG
猫屋敷 猫(gb4526
13歳・♀・PN
グロウランス(gb6145
34歳・♂・GP
月城 紗夜(gb6417
19歳・♀・HD
ウェイケル・クスペリア(gb9006
12歳・♀・FT
御鑑 藍(gc1485
20歳・♀・PN
秋月 愁矢(gc1971
20歳・♂・GD
秦本 新(gc3832
21歳・♂・HD

●リプレイ本文

●出発前

(孫少尉、何かあったのでしょうか‥‥)
 夏 炎西(ga4178)は、モニタ越しにも分かる孫少尉の様子が少し気がかりだった。
 遠慮がちに様子をうかがう彼に対し、小鳥遊神楽(ga3319)がすっと前に出て、少尉に話しかける。
「‥‥孫少尉が何を思い悩んでいるかなんて、あたしには分からないけれどね。とりあえずは今日出来る事を片付けてから、明日の事を考える事にした方がいいわよ」
 いつもどおり、クールな様子言われた言葉に、少尉は少し目線を落とした。
「そう‥‥その通りですよね。すみません」
 しゅんとして俯く少尉に、神楽は「別に謝ってほしいわけではないのだけど」と苦笑する。
「貴公を見ていたら『若年寄』というフレーズが浮かんだよ。今後、俺はそう呼ばせて貰おう」
 その様子を見て、茶化すように行ったのはグロウランス(gb6145)である。
 どういう受け取ればいいのか、孫少尉はただ困惑の表情を浮かべた。
 それでも、少し空気が和らいだのを見て、神楽が再び口を開いた。
「そうそう、あたしが任務を無事に果たしたら、少尉のおごりで一杯飲みに行きましょう」
 さらりと奢れと言われて、少尉がまた「へ?」という表情になる。次に、「まあ世話になってる方だし‥‥」「でも時間が‥‥」等、暫く、どう返事したものか真面目に考える様子が見受けられ。
「‥‥そうですね。お互い、落ち着いたらその時に。楽しみにしています」
 どうにかそう答えると、神楽は少し満足したように微笑む。
 ‥‥そんな雑談も交えながら、やがて、軍からそろそろ作戦決行との連絡が入ってきた。


●空港突入

「正念場か‥‥」
 近くまで来たところで、カララク(gb1394)が呟く。
 彼はこれまで、【ODNK】としての作戦には、初期のころに数回経験があるのみ。当時と比べて随分と優勢になったことに感慨を覚え‥‥そして、それゆえにここからの逆転など許してはならない、と気を引き締める。
 囮班は上手くひきつけてくれているようだ。突入するのに問題は、見られない。
(九州開放のために多くの人々が頑張ってるです。私も負けていられないですね。精一杯頑張るですよ!)
 猫屋敷 猫(gb4526)も想いを新たにしたところで、一同は一気に走りぬけ、空港内部へ。
 突入してすぐに、広いロビーを徘徊するキメラが目に入る。
 合図と共に、炎西が閃光手榴弾を投げ込む。咄嗟に目と耳をふさぐ傭兵たちに対し、人型とはいえキメラに対処が取れるわけがなかった。ふらつくキメラたちを、人数でも実力でも押している傭兵たちが相手取って、問題になるはずもない。反撃のすきすら与えず全ての個体を黙らせると、半々に分かれ左右の小部屋を調べにかかる。
「――っ!?」
 分かれて探索を初めてからしばし。ドアに手をかけた途端現れた殺気に、咄嗟に反応してノエル・アレノア(ga0237)は身をひねる。
 タイミングをはかった一撃を避けられて、仕掛けてきた強化人間に驚きの顔が浮かんだ。
 同時に後方からキメラたちがやってくるが、カララクの射撃が足並みを乱し、連携を阻む。その隙に猫が強化人間に接近、円閃を用いて回転しながら連続で斬りかかると、秦本 新(gc3832)が銃でその援護をする。
 射撃を縫って前進しようとするキメラの間には、竜巻が舞い上がった。
「ただの電磁波より、趣があるだろう?」
 グロウランスが超機械。キメラは、主に彼が担当するようだ。
 しばしの激突――その暫く後。
『A班、こちら間もなく一階の探索を終了するわ。そちらの様子は?』
 右側を担当していた別の班から、神楽が無線で連絡をしてくる。
 オリジナルのヘッドセットでそれを受信した秋月 愁矢(gc1971)は、少し戦況を見渡して――
「問題はない。そちらよりは遅れるかもしれないが、すぐに合流可能だ」
 あっさりと、そう答えた。
 やがてその言葉の通りに――一階の制圧、完了。

 2階に上がるエスカレータの前で再び合流した一行はそのまま全員で、警戒しつつ上階に突入する。数名は、予め空港の見取り図を頭に入れておいていた。バグアに改造されている可能性も考慮のうえだったが、今のところ見取り図どおりの構造に思える。そこから、相手が仕掛けてくる場所、タイミングを予測し、いなし、無事二階ロビーに到達。また現れた数体のキメラを、問題なく撃破すると、再び二手に分かれ、左右の各部屋へ。全員、各階の確実な殲滅を目指して行動する。
 A班も、B班の先ほどの動きと大きくは変わらない。神楽が弾幕射撃でキメラと強化人間の連携をダメージを与えつつ分断すると、炎西とリュドレイク(ga8720)、御鑑 藍(gc1485)が孤立に気をつけつつ強化人間を相手取る。周囲のキメラは、ウェイケル・クスペリア(gb9006)と月城 紗夜(gb6417)が蹴散らしていた。
 駆け抜ける途中、紗夜が窓の外の異変に気がつく。ドラゴンフライのキメラが二体、こちらに向かってくるのが見えた。どうやら外周の囮班に討ち漏らしがあったらしい。だが紗夜は、むしろにやりと笑みを浮かべてキメラに向けて 超機械「ザフィエル」を向けると。
「派手にやってしまうか、どうせ、殲滅任務だ」
 呟き、遠慮のない攻撃を連続で叩き込む。近寄ることすらかなわずキメラたちは堕ちて行った。
 このフロアも問題なく殲滅を完了すると――三階へ。


●死せる黄金

 三階ロビー、空港内で最も広いそのフロアに到達した途端、広がっていた光景に傭兵たちは一度思わず足を止めた。
 ひどくやつれた様子で、不安そうに身を寄せ合う人々。一目で、この空港にとらわれていた捕虜の人たちだろうと察しが付く。
「‥‥あっれぇ? 想像以上にだらしないんだね、ここの連中」
 そしてその中心で、傭兵たちを待ちかまえていたかのように眺める少年が一人。
 狂気を宿る瞳と、揺れる髪に共通する金褐色――金の死んだ色、モールドレ。
「バグアに卑怯は褒め言葉だが、我らが怖い訳ではあるまい!」
 そう言って、初めに動いたのは炎西だった。捕虜から意識を離す目的で、挑発するように言う。
 モールドレは、はなから捕虜など気にもかけていなかったが、その言葉をきっかけにしっかりと傭兵たちに向き直り、ゆっくりと足を踏み出す。
 同時に、全ての傭兵たちが駆けだした。半分は捕虜たちの救出に、半数は敵の足止めに。
「させるかっ‥‥いきなり出てきたガキにでかい面させられるかってんだ!」
 同時に、左右の部屋や上から、別の敵が現れる。強化人間が二人に、キメラが数体。強化人間のうち一人は、傭兵の出現に逃げようと腰を上げた捕虜たちの方へと向かう。
「‥‥させない!」
 ノエルが叫んで、瞬天足で駆けつける。無力な人に向けて振り下ろされようとしていた一撃を、その身で受け止めて。
「あぁ! 避けんなよ正義の味方の傭兵さんよぉ! 人質に当たるぜぇ!」
 ノエルを軽量型と見てだろう、嗤いながら強化人間は続けて攻撃を打ちすえようとする。実際ノエルは動くことが出来ず、その身で攻撃を受ける。その様子に、猫も迅雷で駆けつけて援護に入るが、彼女の防御力も強化人間の曲刀は貫いて切り裂いてくる。反撃を試みながらも、二人の顔に余裕はない。が。
「避けないさ」
 そこに、少し遅れてきた愁矢が割り込んだ。
「味方を守る‥‥俺はそれだけだ」
 不動の盾と意思が、強化人間を阻む。手ごたえの違いに、通じないと否応なしに強化人間は悟る。
「っ! キメラども、こいつを‥‥!」
 慌てて、キメラたちに一時的に愁矢を押さえこませようとするが。
「別に正義なんてつもりはないがな‥‥これが仕事だ」
 グロウランスがそこに割り込み、キメラの動きを阻んだ。
「貴方の相手は‥‥私が‥‥」
 もう一人の強化人間には、藍が立ち向かう。強化人間の持つ長剣と藍の直刀が暫く火花を散らす。足や腕を狙って斬ろうとする藍だが、実力が拮抗する相手に、狙った場所を正確に攻撃すると言うのはそう簡単にはいかない。硬直する戦況に、リュドレイクが援護に入る。こちらは、両断剣を交えながらの着実な攻撃。左右からの攻撃が、少しずつ強化人間を追いこんでいく。
 少しずつ敵戦力と捕虜が離れていくのを見て、新が、カララクが、それから愁矢に庇われながら戦線を下がるノエルと猫が捕虜の移動に回る。新が、捕虜の中から軍人と思しき人物に目を付けると、誘導を手伝ってもらえないかと話しかけると、疲れた顔ながら頷き動いてくれた。多人数を動かすにあたっては、やはり軍の方が分がある。
 ――そして。
 モールドレには今主に、炎西とウェイケルが前に立ち、神楽が援護すると言う形の対応になっていた。
「はっ!」
 炎西が脚爪で、モールドレに攻撃を加える。もとより自分がダメージを与えることは狙っていない。反応させ、動きを制限することで仲間の攻撃を当てやすくするのが目的。ウェイケルが、それに合わせて首や四肢を狙って攻撃を加える。
 だが、少年の動きは傭兵たちの思う以上に鋭く、大刀から繰り出される一撃は武器だけの見た目通りに、重い。反撃の刃がウェイケルの肩を裂き、柄の一撃が炎西を弾き飛ばす。神楽の援護射撃の中、紗夜が回復を続け、どうにか持ちこたえている状態。
 しばらくそうした攻防が続いたあと、突如、モールドレの肘に衝撃がはじけた。
 周りの敵が倒されだし、捕虜の避難行動から余裕が生まれたカララクの射撃だった。
 貫通弾を使っての、遮蔽物越しの不意打ち。イェーガーの精密な射撃能力が、狙った通りに正確に、関節を撃ち抜いて見せる。
 ‥‥だが。
「ふぅん‥‥でも、僕にそういうの、無駄だよ?」
 モールドレはちらりとカララクを一瞥し酷薄な笑みを浮かべると、血の噴き出る肘をなんてことなさそうにそのままふるい続ける。数発銃弾を食いこませても、戦闘力の低下を狙うカララクの目論見は効果が出たように見えなかった。
 すぐそばにいるウェイケルと炎西がはっきりと、その異常性を認識して戦慄する。が。
「動かなくなるまで斬り続けりゃいーって事だろ」
 すぐに結論して、呟くとウェイケルが動く。
「――うん、それであってるよ?」
 向かってくるウェイケルに、少し驚いて、それからどこか嬉しそうにモールドレが言う。
「‥‥それまでに、お姉ちゃんが持てば、だけどね?」
 そうして、唸りを上げる一撃がウェイケルの腹に叩き込まれた。咄嗟に衝撃を殺すよう、軽く下がりながらガードしたはずなのに、腹から全身に響き渡る衝撃が走る。
「‥‥でも、そうだね。やっぱりこの中じゃあ、お姉ちゃんが一番『出来る』、かなあ」
 ウェイケルの認識は正しい。傷つけただけでは動きが止められないのならば、そういうものだと覚悟を持った上で挑むと言うのが最も正しい心構えだ。そこまで含めて、モールドレは子の場で一番ウェイケルを「気に入った」のだろう。ここから、狂気の目が、ウェイケル唯一人に向けられる。攻撃の鋭さが、重さが更に増す。
 苦境の中、ウェイケルと炎西は、同時にカララクに目線を送っていた。
 ――構わないから、そのまま狙い続けてほしい。
 この攻防の中、二人には共通して狙っていることがあった。それには、狙った個所を精密に撃ち抜けるカララクの射撃能力が大きく貢献する。
「外れてくれるな‥‥ッ」
 意図を了解し、カララクは装填した貫通弾全てを撃ちきって、そのまま肘を狙い撃つ。
 ウェイケルは、意図に気付かれぬよう、攻撃を散らす。
 炎西は、意識が己から外れたのを利用して、さらに集中して狙って超機械の攻撃を繰り出す。
 モールドレが笑いながら、大刀を振り上げて。
「これで‥‥どうかなあ!」
 振り下ろされた大刀が、衝撃を撒き散らし‥‥ウェイケルを吹き飛ばす。
 グロウランスと紗夜、両方から回復を受け続けていたウェイケルだが、もはや限界だった。倒れてしまうと、立ち上がる気力が保てない。
「‥‥へぇ」
 だが、モールドレの視線はそのときウェイケルに向けられていなかった。
 己の意図とは違う位置に落下した大刀と‥‥千切れ飛んだ己の腕を見つめている。
 一点を狙い続けて切断する。炎西とウェイケルの攻撃は、それを狙ったものだった。もっとも、ウェイケルはそれでも再生してくるくらいの覚悟もあったが。だが、さすがにそこまでの高速再生とはいかないようだ。期待した通り、戦力を大きく削ぐことに成功する。
「キミの身体‥‥もう休みたいんじゃない、かな‥‥」
 ノエルが、モールドレに視線を向け、一歩前に踏み出しながら呟く。
 ノエルは、モールドレの笑い声にどこか悲しい響きを感じ取っていた。それでも。
「僕はこの拳にかけて‥‥この作戦、成功させてみせる」
 拳を握り直しながら決意を込めるノエルの声に、他の仲間もゆっくりと動き出す。
「む‥‥まあ、いいや。本当、こいつら情けなさすぎ」
 そういって、プイ、と背を向けると、たん、と地をけって飛びだそうとする。
「‥‥逃がさん」
 紗夜が即座に反応して、追いかける。だが逃亡を警戒し、すぐに動ける体勢に居たのは紗夜一人だった。
「‥‥ちょっとそれは、甘いよお姉ちゃん」
 味方の方に追いまわそうとした紗夜だが、一人突出する形になってはそれもかなわなかった。
 モールドレが、片手で無造作に、大刀を投げつけてくる。
「――!?」
 狙って投げられたわけではないが、咄嗟に庇い姿勢を崩したところに蹴りが叩きこまれる。
 ‥‥サイエンティストには、重すぎる一撃。それが立て続けに叩きこまれ、紗夜も崩れ落ちる。モールドレは、大刀を拾い上げて振り上げて。
「‥‥バグアよ」
 動きを止めたのは、グロウランスの呟きだった。
「お前がヨリシロとした、その子は、最期に何を望んでいた?」
 問いに、モールドレは一瞬、きょとん、として。
「望み? 望みなら今叶えてもらってる! ドレアドル様が褒めてくれた! ‥‥だから僕は、こんなところで死ねない、ね」
 そうして‥‥そう答えて、モールドレは身を翻し去って行った。
 声に混じる歓喜の色は、真実味を帯びていた。それは本当に少年の望みだったのだ。母に捨てられ、研究者にないがしろにされた少年の――必要とされたいという、想い。
 そして皮肉にも、その想いに最初に応えたのがバグア‥‥ドレアドルだった。
 バグアとしても、ヨリシロとしても、その忠誠はおそらく‥‥深い。
 また必ず彼は立ちはだかるだろう‥‥去った後に誰もが、そのことを感じずにはいられなかった。

 だが、当初の目的である福岡空港の奪還、そして人質の解放は、UPCが想定していた以上の成果を果たし、傭兵たちの活躍は大いに評価された。
 課題は残したが、ひとまず――福岡の地は、解放されたのだ。