タイトル:【G3P2】頭痛くなるマスター:凪池 シリル

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/12 15:29

●オープニング本文


 轟竜號、ユニヴァースナイト参番艦は、水上、水中での活動を目的として作られた艦だ。開発当時、慣性制御装置を用いての浮遊は想定していなかったが、傭兵達の活躍により、ついにこの艦を浮かせるに至るだけの慣性制御装置を入手。そして今年になり、その巨体が宙に浮くこととなった。
 ――だが、その成果に、これで満足と言うわけには行かなかった。
 飛行したことで発覚した問題が一つ。これまでは水中と言うことで速度はあまり重視されていなかったが、空中を行くのに現轟竜號の速度はあまりにも遅い。エンジンの改良は緊急の課題とされていた。
 段階的に改良されていくジェットエンジンの第一弾の実験として進む轟竜號。今のところ航行は順調といえた。
 ‥‥とはいえ、今轟竜號は、決して安全な洋上をのんびりテスト航行中、と言うわけではない。
 休む間もない戦況の中、中東戦に向けてペルシャ湾を進行中である。
 制海権はもはやUPC軍が制したとは聞いているが――



「あー。何か頭痛くなるのが居るねー」
 方角にしてクウェート方面から飛来してくる敵影を目に、護衛として乗り込んでいた御武内 優人(gz0429)が呟く。
「‥‥。そうだな。オメーだな」
 傍にいた、相棒(最も当人は絶賛否定中)の速水 徹が、つい、即座に言い返す。
「‥‥上手いこと言うね」
「感心すんなよっ!? 否定しねえのかっ! しねえなら反省しろよ!」
「あー、ちなみに、俺が言ったのは俺じゃないです。あれ。飛んできてるアレ。四角いの。頭痛くなるやつ」
 そう言って、優人は傭兵たちに向き直る。
 スピードを増した轟竜號だが、倍の速度になったといえど目標とする速度にはまだまだ届かない。
 空を行くには不十分な速度であれば、現状、速度が上がったことによって回避に余分な大周りが必要になったり、急制動が利きにくくなったりと、むしろ今は前の状態よりデメリットの方が大きい。
 護衛戦力の必要性はむしろ増しており、今回の航行の護衛に傭兵が呼ばれるのは必定であった。
「‥‥正式名称、言えるよな?」
 だと言うのに、相変わらず緩軽い様子の優人に、不安げに徹が問う。
「‥‥横文字、微妙に苦手でさー」
「キューブワームごときで苦手の範囲かっ!? オメー自分が乗ってる機体の名前言ってみろっ!」
「わんこKV」
「愛称じゃねえよ! ‥‥ってかその愛称もじっくり突っ込んでやりてえがそんな時間ねえ‥‥」
「いやKVは大丈夫ですよ。えーと。でアマントしタオプ」
「‥‥‥‥‥‥」
「いや違う違う、これは分かってる。分かってていいにくいんだ。言いにくいよね? ちょっとそこの傭兵さん、続けて三回言ってみてくんない?」
 念のため言うが、あほなこと言っている間にも出撃準備は進んでいるし敵は迫っているのである。
 バージョンアップしたUK3。空からやってくる敵勢力より、これを防衛せねばならない。

●参加者一覧

鷹代 由稀(ga1601
27歳・♀・JG
レーゲン・シュナイダー(ga4458
25歳・♀・ST
M2(ga8024
20歳・♂・AA
エイミー・H・メイヤー(gb5994
18歳・♀・AA
ファリス(gb9339
11歳・♀・PN
ウルリケ・鹿内(gc0174
25歳・♀・FT
シンディ・ユーキリス(gc0229
25歳・♀・SF
追儺(gc5241
24歳・♂・PN
BEATRICE(gc6758
28歳・♀・ER
クラフト・J・アルビス(gc7360
19歳・♂・PN

●リプレイ本文

「いやまあ、この非常時にそーゆー漫才出来るあたり、余裕あって良いねぇと突っ込みたいんだけど」
 優人と徹の漫才に、ツッコミを入れるのはM2(ga8024)。実に最もなツッコミだと思うのだが。
「ディアマントシュタオプ、ディアマントシュタオプ、でアマントしタオプ。‥‥言えません、でし、た」
 ガクリとうなだれるレーゲン・シュナイダー(ga4458)。
「ディアマントシュタオプ‥‥ディアマントシュタオプ‥‥ディアマントシュt‥‥タ‥‥」
 途中で噛んでから、むぅ、と唸るシンディ・ユーキリス(gc0229)。
「Diamantstaub‥‥Diamantstaub‥‥Diamantstaub‥‥そんなに言いづらいでしょうか‥‥」
 母国語のためすらりと言ってから、首をかしげるはBEATRICE(gc6758)。
 以外にもノリのいい傭兵達に。
「面倒ならダイヤで良いじゃん略称。英語だとダイヤモンドダストだろ? 同じ会社なのに、俺のウーフーは言い易い名前で何この落差」
「結局オメーも混ざってんじゃねーか‥‥」
 指摘され、我に返るM2だった。
「いーじゃん、気は抜いても肩の力は抜かないでいけば大丈夫ー」
「逆だよっ!?」
 あいかわらずへらへらという優人に、けらけらと笑いながら突っ込みを入れたのがクラフト・J・アルビス(gc7360)。
 ひとしきり会話をしてからは、だがKVに乗り込むと皆真面目な顔になって、それぞれの持ち場へと向かっていく。



 5方向に分かれて飛んでいく10機のKV。
 向かってくる敵に対して、傭兵たちがとった戦法は素直かつ確実なもの。こちらも二機編成で5手に分かれて迎撃する。
「KV戦初だから、わからんことが多いがよろしく」
 クラフトが、共に向かう鷹代 由稀(ga1601)に挨拶を入れる。
「ヘルメットワームはあたしが抑えるわ。クラフトくんはその間にキューブワームを叩いて」
 妨害音波は厄介だが、キューブワームそのものの能力は低い。落ち着いてやれば初出撃でも大丈夫だと由稀はいう。
「了解、やるだけやってみる!」
 応えるクラフト。
「‥‥こっちも気ぃ抜くわけにはいかないわね‥‥日本で大事な仕事が控えてるし」
 初々しさに、やる気を貰うかのように由稀が呟く。このあとに控えているという東京開放線のことに少し気をとられていたが、今は目の前の戦いに気持ちを切り替える。
「アンタ達なんかにね‥‥やられてやるわけにはいかないのよ!」
 由稀のガンスリンガー、ジェイナスが駆ける。気を引くように、8.8cm高分子レーザーライフル、通称「アハト・アハト」をHWに向けて放つ。
 周囲にCWがいる状況で、あえて放った知覚兵器だった。減衰量を確認し、しかしそれでもダメージが通っていることを確認すると、そのまま撃ち続ける。
 HWの反撃が、頭痛にふらつく由稀の機体に叩き込まれる。
 その傍でクラフトのワイバーン、13−38050は必死でガトリングでCWを一体ずつ削り取っていた。頭痛のする範囲外から攻撃したかったが、今積まれている兵装で怪音波の射程外から攻撃できるようなものはない。上手く狙いが定められず、ガトリングで牽制しながらの攻防を続けている。

 レーゲンとロッテを組むのはエイミー・H・メイヤー(gb5994)。二人とも、大規模作戦以外ではあまり空戦の経験はない。今回は、いい経験になればと考えているようだ。
「頼りにしているよ、エイミー」
 レーゲンが声をかけると、エイミーも短いながら気合の入った反応を返す。
「さァ行くよ、himmelwarts!」
 覚醒したレーゲンが口調を変えて愛機、S−01HSCの名を呼べば。
「Rosen Ritter参りましょうか」
 同じタイミング。こちらは淡々とした口調で、エイミーが自機のディアブロに呼びかける。
「こちらは通行止めです、参番館には手出しさせませんよ」
 エイミーの言葉と共に、二機が飛び立っていく。
 エイミーがHWの気を引きつつ、まずはCWを殲滅に行く構えだ。
「苛々するねェ、この頭痛‥‥アンタ達、とっとと撃墜させてもらうよ!」
 D−502ラスターマシンガンを放ちながらレーゲンが突っ込んでいく。ドッグファイト上等で距離を詰めれば、頭痛が激しい中でもばら撒かれた弾丸がCWに撃ちこまれて行く。
 護衛に回ろうとしたHWには、猛烈なミサイルの嵐が叩き込まれた。パニッシュメント・フォースが込められた、パンテオンによる攻撃。CWの頭痛の射程外から狙いをつけたものだ。
「レグを狙うなど百年早いですね」
 エイミーの言葉に反応したわけではないだろうが、流石にこのダメージは無視できないのかHWがエイミーに向き直る。

(ちょうどよかったって言うのは、流石に不謹慎、だけど‥‥今後に向けての、いい機会‥‥)
 ペインブラッド、愛称FPP−2100S・Y 『Shine』の操縦桿を握りながら、シンディは内心で呟く。
 彼女も空戦の経験が自身にはまだ少ないと考えている。そのため、この依頼への参加を決意した。
 とはいえ、友軍が狙われている状況を諸手を挙げて歓迎する、なんていうわけには行かない。
「UK3には‥‥手出しはさせないわよ‥‥」
 せめて、と、決意を込めて言う。
 共に行くM2の機体はウーフー2、『ココペリ』。電子戦機と知覚機のペアになる。
(恐らく序盤はヘルメットワーム、電子戦機の俺を狙って来ると思うから。回避頑張りつつ出来るだけ引き付けて、その間にシンディにキューブワームを壊して貰おうかな)
 M2が考え、伝えようとするが。
「キューブワーム‥‥知覚重視機体乗りの宿敵‥‥1体残さず撃つべし、落とすべし」
 いうまでもなく、シンディの決意は固まっているようだ。
 HWは牽制に留めつつ、シンディ機が主体、M2機がジャミング収束装置を適宜用いての援護という形での陣形になる。
 怪音波による知覚の減衰を考慮して主に使うのはショルダーキャノン。複数体のCWが起こす頭痛にさいなまれながらの攻撃もあるが、M2機の援護もあってCWに当てる程度ならどうにか問題はない。一体でも落としてしまえば、CW戦は相当楽になるはずだ。
 M2機もショルダーキャノンと試作スラスターライフルで、一先ずは援護と牽制に集中する。そうしながら、威力の高い電磁加速砲「ブリューナク」で狙う隙を待っているが‥‥CWの妨害もあり、敵数も多い今はまだ、その隙は見えない。

「この煩わしい感覚‥‥気持ち悪いな。堕ちろ!」
 追儺(gc5241)機、サイファーの鬼払は、ロヴィアタルの射程に入るなり撃ち払った。300発もの小型ミサイルが、群れるHWとCWに向けて一斉に放たれる。
 CWの射程の外からの一撃。ほぼ狙い通りに向かっていき、敵の足並みを乱れさせる。
 隙を逃すまいと、僚機であるファリス(gb9339)のサイファー、ジークルーネが前に出る。
「‥‥参番艦には近付けさせないの! ファリスがきちんと片付けるの」
 使用する機体が同じなら、二人の狙いも同一だ。
「キューブワームがいつまでもいると、頭が痛いままなの。だから、先に墜ちて貰うの」
 HWは暫く牽制。CWの殲滅に努める。
 もとより、CWを見たら真っ先に潰せというのはもはや常識なのだから当然といえばそうなのだが。
 乱戦に当たっては、二機とも、クロスマシンガンにガトリングという弾幕系の兵装。
 互いに互いをフォローしあうように、味方機を狙う敵がいれば弾幕で牽制、リロードの隙を埋めるように制圧射撃‥‥と、連携しながら、確実にCWを削り取っていく。
 だがその間、HWがじっとしてくれているわけではない。
 激しい頭痛の中では回避も難しい。ならばと、フィールド・コーティングを起動したファリス機が暫くはかばうような動きに出る。強化された防御力が、HWの攻撃にも耐え抜いてみせる。

「ミサイルを持ち帰るのは‥‥仕事をしてない様で嫌なのですよ‥‥」
 そう言ってCWとHWを迎え撃つのはBEATRICE。彼女の機体ロングボウII、ミサイルキャリアより、宣言の通りミサイルが一斉に放たれる。
 複合式ミサイル誘導システムIIと、誘導弾用新型照準投射装置を使って、K−02小型ホーミングミサイルを惜しみなく一斉放射!
 元々、一度に250発もの小型ミサイルが標的に向かっていく様は壮大だが、それが更に倍。
「ロック可能なら芸術的な軌道が見られるのですけど‥‥」
 BEATRICEは呟くが、流石にここまでくると避けるも減ったくれもない、単純に物量だけで押しつぶせただろう。
 結論から言えば、追尾システムは有効だったわけだが。
 その、壮大美麗な攻撃が、立て続けにニ発。
 煙が晴れ終わる前から、CWがぼたりと落下していくのが見える。
 いや、見えずともCWが残っていないのは前を行くウルリケ・鹿内(gc0174)はすぐに確信した。頭痛がしない。
 まずはCWからお掃除、と思っていたがその必要がなくなってしまったようだ。
 それでも、煙の向こうからゆらりとHWの影が見えると、気を引き締めなおす。
 HWの相手は、防御力に勝るウルリケ機、雷電の八房が受け持つこととなった。
 ミサイル斉射後、バルカンを用いての一撃離脱戦法。させじと食い下がろうとするHW、プロトン砲により何度かウルリケ機に手傷を負わせるが、BEATRICEの攻撃もある。
 この状況で、HW一機が二機を相手にするのは苦しいものがあった。
 ‥‥もはや、かつて三機がかりで小型HWを叩き落していたころの面影はない。
 KVの性能も、能力者の反応も随分と上がっている。
 とはいえ、油断は決して禁物なのだろうが。

 1チームが掃討を終えれば、他のチームの状況も動きつつある。
 CWの妨害に中々命中せず、苦戦しているチームもあったが、自分の担当を終えた別班が順次駆けつけると、CWが駆逐される速度が一気に加速していく。
「この空はお前たちが汚すには綺麗過ぎる‥‥」
 追儺の呟きに答えるかのように、あちこちで敵機が撃墜されていき。
『ん。戻っても大丈夫そうー。お疲れさーん』
 やがて、UPC軍のほうから、そう伝えられてくる。
 どうやら漫才コンビも無事なようだ。

「たまには空の戦いも良いものですね」
 戻ったエイミーが、今回の経験に満足げにそう言った。
「空、飛ぶ乗って気持ちいいね〜」
 クラフトは、練習以外では初のKVでの飛行に、暫く空を飛び続けている。
「あ。いいな、俺も」
 優人が、それを見て再び格納庫に向かおうとして。
「オメーは全体行動を乱すんじゃねえ」
 あっさりと徹に諌められて連れ戻されている。
「お前もー! 時間まではまだ護衛任務の途中ってこと忘れんなよー!」
 ついでに、クラフトに向かって叫んでいた。
 まあ、勝利のあとにあまりガチガチに言っても仕方ないだろうが。

 事実、気を抜ききれるわけではない。
 今回の戦いは勝利に終わったが、これはいわば、次の戦いの準備なのだ。
 KVが舞う空からゆっくりと視線を下ろしていけば、その先に見えるのは次の戦いの地だ。
 皆が守ったUK3には、これからまた働いてもらうことになるだろう。