タイトル:【ODNK】北九州制圧マスター:凪池 シリル

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/05 12:46

●オープニング本文


 UPC軍北九州攻撃の一報は、バグア側にも早い段階で情報は流れていた。
「北九州ですか‥‥」
 連絡を受けた上水流(gz0418)は、一人呟いた。
 こうしている間に、上水流の脳裏では様々な思惑が渦巻いている。アジア・オセアニア地域だけを見てもUPC軍の攻勢は強まっている。これにジャッキー・ウォン麾下の将として如何に対応していくのか。
 上水流は、それに対して一つの案を弾き出す。
「重要な拠点である事は、俺も理解しています。
 ただ、我々が守護するのは北九州だけではありません。北京、ウランバートルが陥落した後、UPC軍の勢いはアジア全土に広がりをみせています」
 事実、中東方面ではペルシャ湾をUPC軍が攻略。インド方面では、デリーに向けて軍は進軍を継続している。
 バグアとしてはこの劣勢を跳ね返さなければならない。
「救援の準備はさせます。ですが‥‥間に合うかは分かりません。
 最善を尽くしても、願いが叶わない事は多々あるでしょう」
 上水流は視線を落としながら、軽く微笑んだ。
 今や、アジア・オセアニア地域において北九州はそれ程重要な拠点ではなくなってしまった。北京からの支援を送る事も難しく、UPC軍は東京解放作戦を推し進めている。ここで北九州防衛のために兵力を割いてしまえば、中東やインドの戦力を削る事になる。
 それならば、北九州を諦めて残る地域の防衛に努めた方が良い。
 つまり、上水流は――北九州を見捨てるつもりなのだ。
「ゾディアック‥‥ブライトン博士が生み出した新たなる槍も、最早過去の遺物。
 翻弄されたエースの末路。哀れと言っては失礼ですが、北九州が放つ最後の輝きは格別でしょうねぇ」

 北九州のバグアは、退路を断たれた形となる。
 だが、退路を断たれたのであれば、敵陣に向かって前進する他ない。
 最期を覚悟したバグア達の生き様が、北九州の地へと刻まれようとしている。



「そんなわけでこう、北九州ヤバいの話を受けて集まった俺たちですが」
 今回、作戦を共にするUPC軍の一人だと言う御武内 優人(gz0429)は、決戦前だと言うのに全く緊張を見せないような態度で話かけてきた。
「うん。ヤバかった。なんかこー、キメラがこうグロっとかゲチョって感じでアレだった。ゴーレムも一部そんなん。まあアレって言っても多分こっちに不利になる感じのアレじゃないんで、やることはまあなんというか、ソレだ。っ‥‥!」
 と、先に見てきた情報を調子よくしゃべる声が突如詰まる。同時に後ろからどつかれたかのようにつんのめる優人。
「まともな言語でしゃべろっ! さっきっから聞いてりゃ全然分かんねえんだよオメーはぁ!?」
 ようにというか実際にどつかれたのだが。後ろに控えていた青年によって。
 ぽかーんとする傭兵たち。
「あー。相方のはやみん。です」
 優人がそう、そのまま前に出てきた青年を紹介する。
「はやみんじゃねえよ! 相方でもねえよ漫才やってんじゃねえんだっ! っていうか今傭兵たちが聞きてえの絶対そこじゃねえだろっ!」
「相方じゃないの?」
「まず聞き返すのがそこか!?」
「じゃ、相棒?」
「だから問題はそこじゃねえ! ついでに相棒でもねえ!」
「えーなんで。KVでペア組んでんだから相棒だろ」
 しれっという優人に、はやみんと呼ばれた青年(締まらないのでここで補足してしまうが速水 徹という名前である)が一度沈黙した後、深い溜息をつく。
「‥‥。いいから、真面目に説明を、しろ。オメーが命令されたんだろうが。これ以上まぜっかえすなら殴る。キャバルリーの俺がストライクフェアリーのお前を本気で殴る」
「お、オォウ‥‥なんか目がマジだ。分かった、本気出す」
 こくこくと頷く優人に、徹はやれやれと胸ぐらをつかむ手を離した。
「えーとだから、上は上で頑張ってるから、下は下で頑張る」
 ピクリとまた剣呑な気配が生まれた。
「いやこれからだよ? まだ説明終わってないよ? えーと、俺たちは、制空部隊が頑張った後に、地上の敵を相手する。プラント爆撃してるから、亀さんとか恐竜さんとかはなるべくがんばって潰す。あとはゴーレムとかいる。なんか動き悪かったりもするけど。多分。‥‥で、いいよね? はい俺よく頑張りました」
「自分で言うなよっ!」
「あーそうだ、あとはキメラいっぱい。まあなんかこれもげちょ、な感じで強さ的にはあんま問題なさそうなんだけど、とにかく数がいっぱいだから、まとわりつかれると厄介、じゃないかなー。その辺互いにフォローが必要、かと思われ」
「いちいち疑問形を挟むなイラっとするっ!」
「まあそんなこんなで今日も背中は任せた相棒」
 最後に、あっさりとした調子で、つまり信頼しきった様子でそう言った優人を見る徹の視線に、一瞬、複雑な色が混ざる。
「‥‥だから相棒じゃねえよ。何でお前そんなに馴れ馴れしく出来るんだ」
 呆れた声で呟くと、不機嫌な態度のまま徹は傭兵たちに向き直る。
「まあ、こいつは見ての通りあほだがむかつくことにKV乗りとしての腕前は悪くねえから宜しく頼む」
 そうして、不安になるだろう傭兵たちをせめてフォローするかのように、申し訳なさそうにそういうのだった。

●参加者一覧

小鳥遊神楽(ga3319
22歳・♀・JG
北柴 航三郎(ga4410
33歳・♂・ER
ハミル・ジャウザール(gb4773
22歳・♂・HG
フローラ・シュトリエ(gb6204
18歳・♀・PN
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
レインウォーカー(gc2524
24歳・♂・PN
イレイズ・バークライド(gc4038
24歳・♂・GD
追儺(gc5241
24歳・♂・PN
ジュナス・フォリッド(gc5583
19歳・♂・SF
BEATRICE(gc6758
28歳・♀・ER

●リプレイ本文

「え‥‥えっと‥‥凄いキメラですね‥‥」
 コックピットから見える光景に、ハミル・ジャウザール(gb4773)はげんなりと声を出した。
 同じく、北柴 航三郎(ga4410)も一部キメラやワームのグロさに軽く顔が蒼ざめている。
「接近されない様に‥‥気を付けましょう‥‥色々な意味で‥‥」
 生身でなくてよかった、と思いながらハミルがつぶやく。
「ここで北九州のバグアの南下か‥‥勝算あっての行動には見えないが‥‥」
 一方でイレイズ・バークライド(gc4038)は冷静に対応していた。
「とはいえ、さすがにこれだけ数があると‥‥無闇に突っ込んでどうにかなる状況ではなさそうよねー」
 フローラ・シュトリエ(gb6204)が、ざっと、敵の位置を見渡しながら言う。
 レインウォーカー(gc2524)は、機体に乗りこんでから少し、状態を試すような動きを見せた。その動きは、どこかぎこちない。
「悪いな、リストレイン。お前の最高性能を引き出すのは無理そうだ、今回はぁ」
 原因は先の戦いで負った負傷にあった。いまだ傷は塞がらず、体中に巻かれた包帯からじくじく血が滲みでている。
 ジュナス・フォリッド(gc5583)が、レインを気遣うようなそぶりを見せる。
「面倒をかけるけど、足手まといにはならない。ボクもプロだからねぇ。請けた仕事は完遂してみせるさぁ」
 嗤っていう、レインの言葉は半ば、強がりだった。
 グロテスクなキメラ、腐り落ちる死人の群れにも見えるその前で、全身が痛みに悲鳴を上げる。
 いつもよりずっと近くに死の恐怖を感じていた。
 そっとレインは胸に手を当てる。そうして口元に浮かぶのは、やはり笑み。
 今すぐ逃げ出したいほど怖い‥‥そんな気持ちは、疑いようもなくここにあると言うのに。
 なのに、どうしてこんなにも。
「愉しいんだろうねぇ」
 言ってレインは、機体をさらに一歩前に進める。
「北九州方面もいよいよ大詰めね。ここは踏ん張りどころみたいだし、最善を尽くさせて貰う事にするわ」
 戦闘開始前に、最後に言ったのは小鳥遊神楽(ga3319)。
 そしていい終えると同時に、最初に動いたのも神楽。彼女の機体、ガンスリンガーのカサドールが、群れ来るキメラをクロスマシンガンで牽制しながら前に出る。次いで、彼女が主目的とするレックスキャノンに向けて銃弾を浴びせた。レックスキャノンの注意がこちらに向いたのを確認すると、狙いにくいよう、そしてキメラにまとわりつかれぬよう、常に動き回る。
「そうやすやすと撃たせる訳がないだろうが!」
 神楽の銃撃に反応したレックスキャノンの出鼻をくじくように、追儺(gc5241)機、サイファーの鬼払が前に出る。同じく初めは銃撃でキメラを払いのけると、レックスキャノンの砲撃を牽制するように先制打。ただここで神楽とは違い、追儺機は近接戦を狙いに行くようだ。狙いを定めた一体に射線を集中しつつ、さらに距離を詰めていく。
 レックスキャノンが反撃に動く。立て続けの銃撃に負傷した二体は特殊コーティングを発動、体表の色を変えつつ応射、さらに別の一体が迫る追儺に対し前に出てくる。
 統制のとれていない単調な射撃は、神楽の機体はDFバレットファストも起動した機動力で難なくかわしきる。そのままさらに敵を掻き回すように動き回ると、レックスキャノンの足並みが目に見えて乱れていく。
 レックスキャノン残りの一体が動く前にイレイズ機、竜牙のY Ddraig Goch〜ドライグ〜が動いた。すでにレックスキャノン周辺のキメラは神楽機と追儺機によって払われていた。好機と見ると、再びキメラがたかってくる前にとブーストでレックスキャノンの一体に向けて急接近する。得物は双機槍「センチネル」。喉元にくらいつくように向かってくるイレイズ機に、レックスキャノンも鋭い爪を振って応戦する。さながら竜と竜の戦いだった。
「唯一の空、敵の目は引き付けられると思うケド。電子戦機だしね」
 呟くのは夢守 ルキア(gb9436)。駆るのは骸龍イクシオン。言った通り、この場で彼女の機体は唯一、飛行形態にあって低空に居た。
 そして言葉の通り唯一低空からの射撃を試みるルキア機は目立つ。動いたのはゴーレムたちが先だった。まだゴーレム対応班は動けず、フリーだったゴーレムたちは、上からの攻撃を脅威と見て慣性制御による疑似飛行に入る。3体が低空に入り、ルキア機に近づいて行く。機動力は申し分ない骸龍だが、3体にまとわりつかれるとさすがに厄介だった。だが、低空では誰も援護に入ることはできない。
「ルキアさん!」
 キメラの露払いに徹していた航三郎のウーフー、37−33121勝鴉3が唯一、強化型ジャミング集束装置でフォローする。
 航三郎の顔はまだ青ざめている。撃ち抜いたキメラが、はじけ飛び体液がグロテスクな泡となってグズグズとはじけ飛ぶ。目を逸らしたくて、逃げたくてたまらなくなる光景だった。でも。
「故郷の為には今まで何もできなかったけど‥‥一戦くらいは、役に立ちたいですよっ」
 歯を食いしばって、顔を上げる。
「ゴーレムの疑似飛行は長くは持たないはず! それまで全力で援護しますから、頑張ってください!」
 声を張り上げる航三郎に、
「ん、アリガト。大丈夫だよ、もとから囮のつもりダシ」
 笑ってルキアが応じる。幾つか、接近したゴーレムから一撃を受けつつ、それでも回避力を生かしてかいくぐる。だが、狙っていた牽制射撃やキメラの掃射に回るのはしばらく苦しそうだった。
 次いで動くのはハミル機、S−01Hの15−20160≪ナイトリィ≫とフローラ機、ディアマントシュタオプのSchnee。この二人はタートルワームを担当する。
 正面切っての戦いは自信がない、と告げるハミルに、あらかじめ敵配置を見ていたフローラが、一見遠回りに見えながらも着実にタートルワームと距離を詰めていく。
「詰める事さえできればこっちのものよ」
 彼女が最初に狙いを付けたのは明らかに動きが他より鈍る、粗悪な一体。
 練機刀「白桜舞」でフローラ機が相手取る一体を、時間をかけたくないとハミル機が横から荷電粒子砲で撃つ。近接途中距離を取りながら、互いに離れ過ぎぬよう、フォローしあえるよう気を使い合って戦っている。
 ジュナスがここで、出遅れを感じつつゴーレムに立ち向かう。機体はアンジェリカ、愛称はFST。当初、ゴーレム班はレインのフォトニックスラスターで纏めて巻き込む連携を考えていたが、大半が上空に向かわれたことで今はあまり集められそうにはない。レイン機がまだ動けそうにないのを見ると、やむなくジュナスは残り一体に向けて近接戦を仕掛けることにした。こちらもまた、キメラにまとわりつかれることを気にして、常に動き回ることを意識して攻撃を仕掛ける。
「せめて、お前は俺が潰す!」
 見た目に反して実は結構熱い心根があるジュナスである。上空で戦うルキアの助けになれないことに歯がみしつつ、全力で目の前の敵を倒しにいく。おしみなくエンハンサーを起動、練剣「メアリオン」とMMEディフェンダーを両手に、コンビネーションを意識して攻撃を仕掛けていく。
 BEATRICE(gc6758)は淡々と、キメラの処理に回っていた。でかい敵を狙うことはしない。己の分をわきまえ、強い敵と相対する味方機がその敵に集中できるようにと、ただ丁寧な仕事を心がける。
「爆発するのが分かれば‥‥楽だと思うのですが‥‥」
 幾つかのキメラは、自爆を試みてくることがすでに判明している。同じくキメラの処理にあたっている航三郎も同じ考えのようで、射撃を加えつつ、爆発するキメラに何か特徴がないか探しているが‥‥。
「外見からでは分かりませんか‥‥仕方有りません‥‥」
 結局、それが結論だった。量産キメラは出来不出来はあれど、ベースは全て同じのようだ。自爆を積んでいるものもそうでないものも、見た目に特徴があるわけではない。
 だが、それならば単純に、効率を上げて掃射するだけのこと。BEATRICEはその意思を航三郎と確かめあうと、端から追いつめ、集めるような掃射方法に切り替える。
 極力、味方から離れるようにも気を使ったそれは実に有効な方法だった。キメラたちは、自爆能力があだとなって、互いに誘爆しながら果てていく。
「やれやれ‥‥出遅れたねえ‥‥」
 レイン機、ペインブラッドのリストレインがここで動いた。一見軽く呟かれた言葉にはしかし、負傷し動きの鈍る己への後悔が滲んでいる。もはや己が気を引ける戦況ではない。仕方なしに、ひとまずジュナスが相手をするゴーレムに中距離を取って高分子レーザー砲で攻撃を加える。

 全体の戦況を見れば、複数のワームを相手取って見せる機体能力を持つ者が猛攻をかいくぐる中、丁寧にキメラの掃討を担当する者がいたという分担は功を奏して、初めは物量で押してきていたバグア軍。
「これで‥‥落ちろ!」
 ジュナスが、両手の武器で×字に斬りつけるようにして、ゴーレムの一体を鎮める。
 他でも、ワームが一体、また一体と倒されるごとに徐々に徐々に傭兵たちが押し返していく結果となっていた。
「‥‥だから来ないで下さいってば」
 もちろん、ハミルの呟きからも分かるように全員、担当班がいると言えどキメラの接近には十分に気を使っていたおかげもある。‥‥もしかして、グロイ外見が、傭兵たちの警戒を緩めさせないという点ではバグアにとっては却って誤算となったのかもしれない。
 そうして、やがてルキアにまとわりついてきたゴーレムが慣性制御能力の限界を迎えたのだろう、ゆっくりと落ちてくる。
「ようやく来たか!」
 ジュナスが声を上げる。
「‥‥と。気持ちは分かるけど、ここは、『本来の通り』やらせてもらえないかぁ」
 そこへ、レインが制するようにジュナスに言った。
 そうして、リストレインがどこかふらつく様子のまま、降りてくるゴーレムに向かっていく。
 明らかに動きの悪いKVに、ゴーレムが注意を向ける。ルキアのイクシオンが、ジュナスのFSTが、援護に動き。
「‥‥やっと、道化が道化としての役割を果たせそうだよぉ」
 にぃ、と嗤い、レインは『ブラックハーツ』を、そしてフォトニック・クラスターを起動させる。
 高熱量のフラッシュが90度コーンで放射、ゴーレムとキメラを纏めて薙ぎ払う。
「道化に釣られた結果はこの通り、ってねぇ」
 そうして、放射後の隙はルキアとジュナスがカバー。再び中距離に下がり、射撃武器で応戦する。

 他のワームを先に片付けた班が合流すると、全ての敵が殲滅されるまでは時間の問題だった。
 少し遠くで、UPC軍も無事様子を終えた様子が見えてくる。
 何気なく通信を拾うと、御武内 優人と速水 徹が気の抜けた会話をしつつも、それなりに活躍したのが垣間見えていた。
「何だかんだ言って息はピッタリだな、アイツらぁ」
 レインが静かに突っ込みを入れる。
「外見や性格だけで人は判断出来ないものだからな、特に能力者になると尚の事」
 特に気にするふうでもなく、イレイズが呟き返した。

 陸から、空からバグアの軍勢が払われ、倒れていく。
 戦闘前の圧倒的光景を見ていたからこそ、逆に静かになった今に圧倒される。
「ほんとに、戻ってくるんですね。九州‥‥」
 それはまだ、この戦いで全てが決するわけではない。
 だが、故郷が人類の手に戻るという期待を、航三郎は抱かずにはいられなかった。