タイトル:【東京】秋葉原戦略会議マスター:凪池 シリル

シナリオ形態: イベント
難易度: やや易
参加人数: 20 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/05/31 22:42

●オープニング本文


「言っとくけど。私一応現地を見た人間として連絡係を仰せつかっただけで、今回の作戦に直接参加はしないわよ」
 集まった傭兵たちを前に、茜さんはどこか不機嫌な感じで説明を始めました。
「まあそんなわけで今回も‥‥秋葉原潜入作戦なんだけど」
 前回、能力者の潜入の成功によって、これまで予測でしかなかった秋葉原の状況が少しずつ確信に変わりつつあります。
 すなわち「能力者とばれず」「エミールの友達」であると認識されたら、わりと平気に中を歩けるってことっすね。
「レジスタンスもそのことに気付いたんでしょうね。こちらから接触を図って、これまで一方的に発信するだけだった情報を双方向でやり取りできないか考えた」
 こっちの状況や要望を伝えれば、よりピンポイントな情報がもたらされるってわけっすね。
「で、これよ」
 そこでモニターに映像が流れます。おお、先週の「じゃぽね!」じゃねえっすか。
 これ、秋葉原内にある高校が舞台なんすよね。
「で、このシーン」
 放課後、秋葉原内を歩くシーンっすね。その背景にある看板、それがここでぐぐっと拡大されます。すると。
 『××日●●時、ここで待ってるよ!』と張り紙がしてあるじゃないですか。
「この看板。先日、傭兵が撮影してくれた内部写真に、全く同一のものが映ってるわ」
 わざわざ先日傭兵が通った道のものを使うってことで、気付いてくれる可能性に賭けたんすかね。たまたま撮影していた傭兵が居たってのはグッジョブですか。こりゃ調べてみる価値があるってもんです。
「まあ、そんなわけだから、この店に行って、合図とともに近づいてくる人がいたらそいつがおそらくレジスタンス。そこで、情報のやり取りをしてきてほしいわけよ‥‥向こうの流儀に、合わせてね」
 最後のあたりからごにょごにょしだす茜さん。
「私は、私なりに。先日ここに行った時のことは覚えてる。一見平和そのものだけど‥‥やっぱりこの街はおかしくなってるわ。‥‥ちょっとしたはずみで、歪みが出てくる。ひとまずは刺激しないように‥‥油断しないでやってほしいわけで、その‥‥情報交換のやり方なんだけど‥‥」

 そんなわけで今回の指令:メイド喫茶でオタトーーーーク!

「に、上手く誤魔化して情報交換をして来いってことよ!? そういうわけだから空気違う人間がボロを出すとまずいから本当、上手くやれる人間が行けってこと! 私は行かない! 作戦前の準備と質疑応答係だからね! あと上手くやれるやつはやれるやつで、本末転倒して夢中になるんじゃないわよ! 以上!」

●参加者一覧

/ リチャード・ガーランド(ga1631) / 伊藤 毅(ga2610) / UNKNOWN(ga4276) / キョーコ・クルック(ga4770) / 秋月 祐介(ga6378) / ナティス・レーヴェル(ga8800) / 狭間 久志(ga9021) / 瑞姫・イェーガー(ga9347) / 周太郎(gb5584) / 湊 獅子鷹(gc0233) / ソウマ(gc0505) / キャメロ(gc3337) / リズィー・ヴェクサー(gc6599) / 住吉(gc6879) / ビリティス・カニンガム(gc6900) / 関城 翼(gc7102) / 河端・利華(gc7220) / クラフト・J・アルビス(gc7360) / 月隠 朔夜(gc7397) / たこ(gc7398

●リプレイ本文

 ――電脳魔都、秋葉原‥‥。
 一見、以前と全く変わらないたたずまいを見せるこの街は、しかし今はバグアに占拠され、洗脳された民が暮らす危険な敵地なのだ。
 だが能力者とばれれば敵に囲まれるこの地に、決死の覚悟で踏み込まんとする無謀なものたちが居た。
 ざっ。
 その靴が、アスファルトを踏みしめる。
「『任務は遂行する』『趣味も満足させる』――「両方」やらねばならぬのが辛い所ですな」
 悲壮な決意すら漂わせ、秋月 祐介(ga6378)が言った。
 続く仲間に、その背で「覚悟はいいか?」と問い。
 そして、「俺は出来てる」と、これまた言葉にはせず、踏み出した一歩をさらに前に進めることで示す。
 そうして彼が護衛の伊藤 毅(ga2610)を伴って秋葉原の街へと消えていくのを合図に――他の何人かの傭兵も、あるいは共に行くものと頷き合い、あるいは一人行く己の覚悟を見つめ直し‥‥思い思いに秋葉原の地へと踏み込むのであった。



「まさか‥‥誘ったら来てくれるなんて思わなかった‥‥」
 キョーコ・クルック(ga4770)は、顔を赤らめて、もじもじしながら歩いていた。
 傍らを歩くのは、メイド服のキョーコに合わせて完全執事服で固めてきた周太郎(gb5584)である。
 先日秋葉原に潜入した経験を生かして、という建前がキョーコにはあったが、それでも来てもらえるとは思わなかった。
 先日、告白したばかりである。だが、「そういう風」には見てもらえていないことは、何となく分かっていた。
 実際、今も隣を行く周太郎が考えていることと言えば、
(余所余所しい歩き方だな、怪しまれねばいいが)
 と言うものであった。来た理由も、「人数が足りなくても困るだろうからな‥‥」と言うものである。
 それでも。重ねた時間が、起こしたアクションが少しずつ何か変えてくれると希望を抱かずにはいられなくて。
 先ほどからちらちらと隙を窺ってい手は引っ込めていた手を、思い切って周太郎の手に重ねる。
 ぴくりと、周太郎の手から躊躇う気配が伝わってくる。
「やぁ、メイド同伴の執事とは、なかなか隅に置けないね」
 そこで声をかけてきたのが、周太郎に友人であり、今回彼に執事服を提供した狭間 久志(ga9021)だった。
 彼もまた、執事服に身を包んでいる。その少し後ろを行くのは恋人のナティス・レーヴェル(ga8800)だった。ただしナティスは、キョーコのようなメイド服でなく、普段通りの露出の高い、かなり際どい服装のままである。
「ああ、いや‥‥、‥‥?」
 周太郎が久志に応じようとした瞬間、久志が周太郎の視界から消えた。
「‥‥草以下がなに、許可も取らずに発言しているの?」
 次の瞬間周太郎の視界にはナティスがあった。その声が行く先を追い視線を下に向けると、彼女に踏みつけられた久志が居る。
「いいこと? はっきり声を出すにはある程度呼吸が居るのよ? 貴方の吐息で空気が汚れたらどう落とし前をつけてくれるの。生きてて申し訳ないと思うのだったら最低限の呼吸で済ませるのが義務ではなくて? どうせ草以下なのだから二酸化炭素でも吸っていなさいと思うのに。いえ二酸化炭素ももったいないわ、排気ガスでも吸ってなさい」
 言ってさらに久志を踏みつけるナティス。
「ヤダ‥‥いいじゃない、その怯えた瞳」
 もぞりと体を動かして見上げた久志を、冷酷な笑みで見下すナティス。
 ゆっくりとナティスがその足をどけると、久志は慣れた様子で恭しく姿勢を、服装を正す。
 どうやらお嬢様と執事と言う設定らしい。
 そう、潜入の為の芝居である。
 あくまでも芝居である。
 依頼後当人たちがそう言っていたのだから間違いはない。
 そんなわけで、ナティスがカツカツと靴音を鳴らしながら身を翻せば、久志も当然のごとくついて行く。
 ‥‥取り残される周太郎とキョーコ。気がつけば、離すタイミングを失ってその手はずっと繋ぎっぱなしであった。
「ぇと‥‥だめ‥‥?」
 少しうるんだ瞳で見上げ懇願するキョーコ。
「‥‥まあ、歩きにくくて文句を言うのでもなければ、構わんさ」
 今更離して不自然に思われて目立っても困るか‥‥と、周太郎は承諾した。
 まああんな演技を見せられた後じゃ、手をつなぐくらいどうと言うことはないだろう。実際。
「えへへっ♪」
 それまでのぎこちないものから一転上機嫌の足取りになって、そして手を繋いで二人は目的のメイドカフェに向かうのだった。

 一方、任務のどさくさにまぎれて‥‥もとい、他に潜入する傭兵のサポートの為に二人で秋葉原を散策する男女がもうひと組。
 待ち合わせ場所に先に来たのは男の方。
「これは調査だデートなんかじゃねえ‥‥下心なんかねえ‥‥任務のついでにダチを楽しませるぐらいバチは当たらねえよなうん‥‥あわよくば手ぐらいは‥‥ヘマして嫌われたら‥‥? 覚悟決めろグリフォン!」
 重体の痛みをごまかすためでもあるのだろう、壁を殴りつつぶつぶつと呟くのは湊 獅子鷹(gc0233)である。
 服装は、いつも通りのスーツだが、明らかに普段より綺麗にパリッと仕上げてある。
 そこへとてとてと近づいてきたのはリズィー・ヴェクサー(gc6599)。こちらは秋葉原潜入仕様と言うことで巫女装束である。
「どーなのよー? 似合ってるー?」
 くるりと一回りしていうリズィーに、「あ、ああ、まあまあ、いけてんじゃねーの?」とこたえる獅子鷹。ぎこちないのは、決して痛みのせいだけではない。
「行きたいところを言ってくれれば大抵のことは案内できるぜ」
「秋葉原は初めてなのよ。よく分からないのよ」
「お、おうそっか。んじゃテキトーにぶらついてみっか?」
 言ってどこかギクシャクと歩き出す獅子鷹。
 んー、と頷きつつも、
(‥‥普段は不敵だけど、今回は変‥‥?)
 そんな風に思うリズィーであった。
 ぶらぶらと街を歩く二人。「アレは何なのー?」とあれこれ聞くリズィーに、答えられるものは答え、答えちゃまずいと思われるものは誤魔化す獅子鷹。
「ケバブなのね、お肉は大好きなのっ☆」
「食べるか? よし、支払いは任せろー!」
 マジックテープの財布をバリバリと音たてながら獅子鷹が言うと、リズィーが「やめて!」とお約束の反応を返して、なんだかんだで笑いながら秋葉原を楽しむ二人である。
 ‥‥とはいえ、完全に遊びほうけているわけではない。二人もプロの傭兵である。何気なくあるきながらも、周辺をさりげなく警戒している。
 だが。
「一つだけ俺も行きたいところがあるんだが構わないか?」
 暫く歩いた後、獅子鷹がそう切り出す。
 頷くリズィーとともに向かった先は神社。リズィーが巫女装束なのもあって、そこへ向かう二人を不審に思うものはいない。
 お参りし、手を合わせる獅子鷹。
「何をお願いしたのよー?」
「ん? 大切な友達が傷つかず幸せに過ごせるようにってな」
 そう答えて、それから。
「後ダチとしてこの場で約束するよ、お前の危難やお前の苦難は、俺の刀で必ず振り払うと」
 その言葉に、リズィーは最初ただきょとん? と首をかしげていた。
 やっぱり、こんな言葉じゃ伝わりきらないか、と獅子鷹は苦笑して、でもとりあえず今はこれでいい、と思う。
「それじゃ、メイド喫茶? にいくのさね」
 ふと思い出したリズィーが、お仕事嫌いな人は嫌いーっ、と、そう言うと獅子鷹が慌てて歩き出す。



「‥‥教授、僕のダメ嗅覚に反応があったのだが、具体的に言うと次の角曲がった裏路地から」
 他方では、色気まったくなしに観光を楽しむものどもが。
 祐介と共に歩く毅がそう呟くと、ひょい、と路地へと消えていく。そして出てきたときには、なんと言うかそういうのに弱い人はつい購入してしまうオーラを放つ、秋葉原らしいカオスを放つグッズがその手にあった。

「初めての任務で緊張します‥‥しっかりやれるかな‥‥?」
 そう呟きながら歩くのは月隠 朔夜(gc7397)である。
「ここが秋葉原ですか? ‥‥以前とはかなり変わってしまいました‥‥」
 きょろきょろしながら、少し不安そうにする朔夜に話しかけるのはソウマ(gc0505)。押さえておくべき、と、事前に調べたティピーリュース等人気アニメの話題を説明しながら歩くと、朔夜ははじめはふんふんと頷いていた。
 だが、催眠暗示を用いて、どんな人にもなりきることから『魔猫』=まねっこの異名を持つソウマである。周囲を情報を取り入れては演技を修正、オタクの演技にどんどん熱がこもり始め、語るトークもだんだんと危険なものに‥‥。
「それはないと思います!!」
 が、朔夜、意外と冷静。本気で駄目なところ突っ込みを入れたしなめて、どうにかソウマが本気で「向こう側」に言ってしまうのを引き止める。なんだかんだで、傍目には上手く会話を楽しむ二人を演じているのであった。

 住吉(gc6879)は、
(此処が噂の日本のオタク系文化の発祥の地、そして聖地である秋葉原ですか‥‥これは観光のし甲斐が‥‥いえ、作戦のし甲斐がありますね〜♪)
 と、楽しむ気を微塵も隠さずに上機嫌で歩き回っていた。とはいえ目的を忘れているわけではなく、周辺の状況はきっちりと確認。逃走経路や、敵の戦力が警戒していないかなどをスキルもつかってきっちり調べている。
「いやいや、これが噂の秋葉原の知られざる名物‥‥おでん缶ですか‥‥これならお土産にも最適でしょうね〜」
 声を弾ませて言ってはいても、決して観光を満喫しているわけではないんだとは本人が後に語るところである。



 で、本題のメイド喫茶。
「バイトをしたい?」
 河端・利華(gc7220)の申し出に、メイドカフェの店長は
「それで、週何日、何時間入れるのかな」
 と聞き返すと、利華はう‥‥と固まってしまった。
 適当に嘘を答えておくか? でもそこから傭兵の侵入がばれたらレジスタンスの人がどうなるか‥‥ぐるぐるしているうちに店長の視線がどんどん訝しげなものになっていく。
「あああああのすみませんっ! わ、私メイドと言うものにものすごくあこがれていまして! 心酔してまして! 時間はないんですけど一度だけ! 本場で! メイドの心と言うものを体感してみたくてこうして恥を偲んでお願いしに来て!」
 テンパった末に出た台詞がこれである。
「素晴らしい!」
 とたん、立ち上がるのは見せにいた客の一人。
「そうメイドは素晴らしいよね至高の存在になりたいというなら僕が一肌脱ごうじゃないかまずはこの僕のお手製メイド服を貸してあげようそして奉仕の心を手取り足取り指導してあげるよ僕は厳しいけどねじゃあまずお着替えしようか速く速く」
 完全にアブねー目で利華近づく男。‥‥洗脳装置の哀れな犠牲者である。多分。
「あああああ、あのっ!?」
 ちらりと店長に視線を送るが、お静かにお願いします、と言うだけで客同士のトラブルには基本立ち入れない模様。
 どうも、騒ぎが大きくなる前に撤退するしかなさそうだ。
 ‥‥当日飛込みで、その場ですぐにアルバイトに入ろう、と言うのは普通、無理があるのである。

「メイド喫茶か。どんなコーヒーが出てくるんだろうか」
 クラフト・J・アルビス(gc7360)は、普通に客として潜入。
 どんなコーヒーが出てくるかと楽しみな模様。‥‥なんと言うか、それが主目的になりつつある。
 普通こういった店であまり上等なものは出てこないのだが、流石にインスタントと言うほどひどくはない。機械だが、一応毎回豆をひいて入れるタイプのものである。
「お、旨いじゃん、このコーヒー」
 まあ最も、クラフトにとっては缶コーヒーでもいいらしいので、コーヒーなら何でもいいのかもしれない。
 何はともあれ、自然に客として溶け込みつつ、彼は直接情報交換には参加せず、非常時に備えての待機である。

 おなじく関城 翼(gc7102)も、チャイナドレスとコサージュという出で立ちで店内に入ると、客として待機。メイドカフェははじめてなようでどきどきしている様子だが、逆にこういう店ではそういう態度のほうがらしかったりする。特に女性であれば、メイドそのものの興味よりも物珍しさで入ってくるのは店員もある程度なれているのだろう。上手く相手して、時折話しかけてくれる。いつの間にかごく自然にメイドカフェと言う場を楽しんでいる翼である。
「たのしみましょう〜♪人生楽しんだ人の勝ちなのです〜♪」
 そういう翼。結局このあと、なんだかんだで秋葉原観光も楽しんだとは後日談である。

「私はアップルティーで、そこの執事には泥水でいいわ」
 ここで、ナティスと久志のコンビもサポートのために登場。

「はあ、噂の魔弾軍曹フレイムバレットに会えないのかー。こっちは魔法少年ガーランドってキメてきたのに」
 呟くはリチャード・ガーランド(ga1631)。意外と結構知られている和歌山 茜(gz0402)であるが、まあ来ないものはしょうがないのでその話はここでは無しである。
 魔法少年、の言葉の通り、服装はカプロイア伯爵のマント、マジシャンズロッドと魔法世界のキャラを元にしたオリジナルコス。
「うーん、秋葉原の空気、ここに来ると武人系キャラでこう言わせたくならない?アキバよ! 私は帰ってきたー!! ってね」
 定番のネタを押さえつつ、店内をぐるりと見渡し。
 隅に座る男の一人が、さりげなく合図したのを認めると、「お待たせ」と近づいていく。
 どさりと取り出されるカプロイア製羊皮紙に、カプロイア製万年筆。
「おや、遅れましたか」
 そこで登場する毅と祐介。
「イングリッシュ・ミルクティーをミルク・イン・ファーストで‥‥茶葉の選択は任せる。カップはボーンチャイナ、付け合わせはスコーンで」
 メイド相手に優雅に注文する祐介に。
「教授、そんな本格的なもの置いてると思うか? あ、僕はアイスティー、ガムシロ、ミルク、レモン抜きで」
 突っ込みいれつつ普通に注文する毅。
「ひとまず集まったかなー。それじゃー、はー、なんか、面白いネタないかなー‥‥」
 そう、リチャードが切り出して――
『同人誌作成の相談に見せかけて、情報交換計画』
 スタートである。



 そのころ。
「みぎゃ‥‥」
 そろそろ夕暮れ時の橋の上で、静かに煙草をふかす竜が一匹。
 いや正確には、竜のきぐるみ「な〜が君」に身を包むUNKNOWN(ga4276)だが。
 他の、楽しむ面々と違い、一人彼はこの街におきている異常をまざまざと思い知らされていた。
 ジャンクショップに立ち寄ってみても、「そのまま」残されてはいるがこの街の支配者がそれに興味がないのは明らかで、珍しいものもなければ活気がないままただ「残されている」だけだった。
 タワービルの大型書店に向かっても、もはや置かれているのは「エミールが興味ありそうな本」ばかりである。
 昔なじみの店は別の店になっていた。店主は異変と同時に去ったのか、あるいは洗脳されてこういう店になったのか。あるいはこの街に馴染むことができず‥‥いや、その先は考えるのはよそう。あえてこの店の扉を開こうとは思えなかった。
 スポーツバーを探しても、放映されているのはWT11を初めとするスポーツアニメで、話題もそちらで盛り上がるばかりである。‥‥それも、表面的に記号をなぞるようなうすっぺらい会話、だ。
 これが、今のこの街の真実。
 ――今はただ、この場では己こそが異質な存在であると思い知り。
 ここで目立つのは上策ではないと、哀愁と紫煙を漂わせ、夕日を背に竜は静かに去った。



「――定番のネタといえばライバル、偽物、そして洗脳とかかな?」
 そんなわけで、話はメイドカフェに戻る。リチャードの言葉に、ふむ、と考える祐介。
「くず鉄を増産する悪い科学者を倒すべく、人々を洗脳して操り戦わせる妖怪ゴミ鬼神が現れる。それに巻き込まれてしまった登場人物(読者を主人公と仮定)が、その最中で偶然ティピーリュースと出会い、問題解決に協力していく‥‥とかかな」
 祐介の言葉にふむふむと頷きながら、しゃ、しゃ、とネームをきるリチャード。
 なんと言うか二人ともやけに手馴れている上に自然すぎる。
 先に居た男は、ただ上手く合わせてうん、うんと頷いているが、その目には慎重に、こちらの言葉から何か探ろうとする光があった。
 祐介の言葉の最後に多用される「常考」「常識的に考えて」。同じ言葉をあえて略したり略さなかったりするのは何なのか‥‥? レジスタンスがそれに考えを向けると同時に、リチャードのメモに、祐介が「常識的に考えて」と言ったときの台詞に、さりげなく、汚れに偽装した印がつけられていることに気づく。
 ‥‥どちらも、知っている人にはすぐ分かる様な暗号の仕込み方法。

 と、そこで。
「待ち合わせはここですか!」
 現れたのはキャメロ(gc3337)である。
「流離いのねこみみフード発明家、キャメロさんの訪問販売です」
 今日はお客さんとここで打ち合わせなのです。
 そう言ってとてとてと近づいていくキャメロ。
 何故だろう、彼女は今とても居心地が良かった。ここなら本来の自分が発揮できるような。
 その出で立ちは猫耳フード。
 リチャードらが座る席に向かうと、彼女はバッグからキッチンボールを二つ合わせた様な銀色の球体にぐるぐる回す取っ手を付けたような変てこな機械をとりだす。
「新発売のコスプレ洗濯機なのです」
 そういう彼女の言葉は、実際コスプレ中のリチャードと祐介がいる席では確かに説得力はあった。
 そうして、少女の絵が描かれた販売促進用チラシをさっと取り出す。
 そこには

洗濯機では洗えないデリケートなコスプレ衣装の洗濯に
脳んでいませんか?そこで今回開発した新商品。コスプレ衣
装も優しく洗い上げる新型洗濯機の御紹介。コンパクト設計で
置き場所にも困らない優れモノです。

いまなら専用の洗剤も付いて来るオトクなキャンペーン
チャンス中です!この機会に貴方の大事な衣装や
特別な衣装を綺麗にして、気になるあの娘に声をかけ
定番のコスプレパーティに誘う事だって夢じゃない!そんな
願いも叶えてくれる魔法のようなこの洗濯機!一家に
いちだいあるだけで、明るい暮らしをお約束い
たします!
しょうエネ設計です!

 と書かれていた。
 そこにあるのはこれまた知っていれば分かり安すぎるメッセージである。
 すばやくしまおうとする祐介とリチャードに対し、一瞬反応が遅れて、机の上に広げたまま読み込んでいるレジスタンス。
 そこへメイドがサービスにやってくる。
 一瞬緊張が走る一同。だが、さりげなく誰かがさっと目配せして。

「むぎゃおー! あたしの††弑神†猫魔天使††を返せ!」
 突如、店の中でそんな叫び声が上がった。
 メイドたちが一斉にそちらを振り向く。
 叫んだのは、これまでただぶつぶつと呟いていたビリティス・カニンガム(gc6900)である。
 格好はといえば、4、5日間風呂に入らず、髪も梳かさない状態で薄汚れた服。
「あ? あたしのネトゲのキャラだよ! 知らねえのか? さてはあんたやってねえか新参だろ!」
 まくし立て始めるビリティス。そう、そこにいるのはどこから見ても「ネトゲ廃人」の姿であった。
「糞っ! あのマップがあたし専用の狩場って事はゲームやってる奴ならみんな知ってんだ! なのにあの雌司祭の奴‥‥マップの私物化はやめろだぁ? モンスター溜めこみするなだと?むかついたからモンスター押し付けてPKしてそのキャラ名を匿名掲示板に晒してある事ねー事書いてやったらあたしがBANされちまったんだよ! 畜生! どんだけ苦労してキャラ育てたと思ってやがる! 起きてる時は常にPCに向かってひたすら狩りだ! 飯は片手間におにぎり食うだけ! トイレに行く時間が勿体ねえからずっとおむつつけてプレイしてたんだぜ! 風呂? はぁ? 入る訳ねーだろ! あああああ! キャラも金もレアアイテムも全部パァ! アヒャ! アヒャヒャ! ウヒヒヒヒ! ‥‥うぇえええええん! びえええええん! もうあの世界にしかあたしの居場所ないんだよぉ‥‥ぐすっ‥‥ぐすっ‥‥」
 一気にまくし立て、崩れ落ちるビリティス。
 こういう時飲食店店員としてどうすべきか。
 当たり前だがどうにかなだめて「お帰りください」が正しい対応と言うものである。
 まあもちろん、ビリティスのこれは、潜入の、そして陽動のための芝居である。一応問題のネトゲは少し前にやってたらしいが。
 そんなわけで緊急時に一度気を引ければ必要以上に騒ぎを起こすつもりはないわけで。
 すごすごと退場のビリティス。
 もう一度言うが、彼女のはあくまで潜入用の、話を誇張した芝居である。
 ネットゲームは、マナーを守って、楽しく遊ぼうね☆ フレイム・バレットとの約束だ!

 ‥‥さておき。

「にゃー☆ 怪盗シルキーキャット参上だニャー」
 最後に現れたコスプレ‥‥もとい潜入要員は瑞姫・イェーガー(ga9347)である。
 ドローム提供の特撮番組の元猫怪人だが、本人がやっていたこともあって演技自体は一番完璧である。
 店内にいた一般人は皆、見事なコスプレと賞賛していた。
 全体を練り歩き、フォローできるよう見渡していく。
 だが完璧すぎる故に、注目度は時間がたつごとに増していった。
 仕方なく、にこりと笑ってお土産のシルバーアクセを渡して回る。間違えぬよう、レジスタンスにはメッセージを仕込んだものを。
 そうして、お茶を一杯いただいてメイドと軽い会話をしてから去ると。
「なんだか‥‥、だんだんシルキーキャットに近づいてきてるみたいにゃ」
 一人になってもなお、語尾がおかしい瑞姫。
 まぁ、気に入ってるから良いけどにゃ。
 呟き、
「駄目にゃ‥‥、モノローグまで切り替わってるにゃ」
 項垂れる。
(にゃんだろ、元からシルキーキャットだったのかにゃって気がしてきたにゃ)
 暫くすれば戻るかな、と歩き出す瑞姫。
 まさかこれも洗脳装置の影響なのか。
 多分違う。

「こんな感じでいいかな?」
 とんとんとリチャードがメモをまとめ、レジスタンスに手渡す。
 その後、印刷所の手配をどうする? どうせ弱小新人サークルだしコピー本でいいんじゃない? と、あくまで同人誌の製作会議であることを装う一同。
 ‥‥実際こういう店は、そういう話題をしてようが薄い本を積みかねて読んでようがわりとOKな空気が漂ってるとか何とか。なので実にいいごまかしではあった。

 かくして、幾つかの方法によりレジスタンス側へ意志の疎通を図った一同。

 あとは、結果を待つばかりである――


「‥‥おかしい、行く前より荷物が増えるとはどういうことだ?」
 なお、最後に、街を出るとき毅がそんな呟きを残していた。
 気にするな。同じトラップにかかった人間はきっと他にもいる。