タイトル:【太原】SmokinHere1マスター:凪池 シリル

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/04/24 13:06

●オープニング本文


●少し昔の話

 まだ、体のあちこちに違和感が残っている。
 少し前の戦いで負った怪我はもうほとんど癒えていたが、決して軽傷ではなかったことを自覚させられる。
 苦笑しながら、孫 陽星は、それを振り払うように喫煙所へと向かっていた。
 喫煙所と言っても大層なものではない。ベランダに灰皿が設置されているだけだ。
 そこへたどり着くと、風下に移動してから一服。
 胸の奥に感じるのは決して吸い込んだ煙だけではなかった。
 溜息のように一度吐き出すと、元からあったわだかまりも纏めて吐き出そうとばかりに、再び深く紫煙を吸い込む。
 と、そこでカラリと硝子戸が開く音がした。
 新たに人が来る気配に顔を上げ、相手が誰であるか確認すると陽星は一度体をこわばらせた。
「――いらん。こんな場所でまで堅苦しいもん持ち込むんじゃねえ」
 姿勢を正そうとする前に、相手にそれを制されて、居心地悪く身をすくめるしかできない。
 せめて、と、挨拶程度に軽く一礼した。
 そうして、狭いベランダで並ぶようにして煙草をふかしていると。
「‥‥言いてえことがあるんじゃねえの?」
 落ち着かない様子なのが丸分かりなのだろう、話しかけられた。
「い‥‥え‥‥」
 図星なうえに不意を打たれて、かろうじて返した言葉はどう見てもぎこちなかった。相手が笑う。
「――先の戦闘、てめぇの分隊見捨てるように指示したのは俺だよ」
「――‥‥っ!」
「すぐに向かわせられる救援には限りがあった。即座に優先順位を判断して‥‥自力で生還できそうなところは、後回しにした。それだけのことだ。買かぶりだったとは言わせねえぞ? 実際てめぇらは戻ってきた。まあ約一名、無事とは言い難かったわけだが」
 どう返答したらいいのか分からずに、間を埋めるようにただ煙を吸い込む。‥‥塞がったはずの傷に染みていくような錯覚を覚えた。
 だからと言って、文句の言葉も出てこない。己への評価が妥当かどうかはともかく、判断の理由としては納得できる。限られた手段で、一人でも多く救うにはどうするかの判断。
 その判断を下したのが、己にとってはただの軍参謀というわけではない。この軍隊という場所で多くのことを教えてくれ、救ってきてくれた人であるならばなおさら。
 ――理解はできる。理解はできるのだ。
「‥‥ま、下手すりゃ無能を助けて有能が死んでたかもしれねえ危険な判断でもあるこた百も承知だ」
 そこで、向こうも一度ふーっと煙を吐いた。
「それに、どんな理由があろうが強制的に無茶に巻き込まれた側に恨みごとの一つも言うなってわけでもねえ」
「‥‥それは‥‥でも、こちらが助けられた結果、他の方の被害が増えた場合でも、言いたくなったと思います」
 そろそろこちらも口を開かねば間が持たないと思って、ようやく言葉を発した。
「まぁ――な。お前がとった作戦も、付き合わされた連中は恨んでるかもな」
 一瞬考えた。先の戦い。はっきり自分で指揮したことと言えば、己を囮にした作戦のことだろうか。
「‥‥私は、少佐と違って、死んで恨まれるほどの人望も能力もないですよ」
 言うと、返ってきたのはただ失笑だった。
「ま、何にせよ。愚痴られんのは構わんが謝らねえぞ。てめぇらは帰ってきた。他の奴もおおむね無事だ。結果だけ見りゃあ俺の判断は正しかった。全ては結果だ。だから、謝らねえ。謝らねえが――」
 そこで、相手は煙草の火を灰皿に押し付けて消し、移動する。
「――良く帰ってきた」
 すれ違い際、ぽんと肩に手を置かれ、言われた。
 軽く置かれたはずの手が、少し重く感じた。



 太原衛星発射センター。
 先の北京解放戦の折、空へと撤退する敵を追い、ドレアドル軍との激戦の末奪還した場所だ。
 そこに設置されたマスドライバーは、傭兵たちの活躍により完全な破壊を受けることなく奪取することに成功している。
 さすがに無傷とはいかなかったが、宇宙への足掛かりとして修理が進められ――とりあえず今、曲がったレールがどうにか真っ直ぐになろうとしているところである。やがて焦げ付いた回線も見よう見まねながらつなげられ始めるだろう。
 宇宙へ進出する――追われる立場から追う立場へと反転する。期待が高まる一方、バグア軍が座してそれを待っているなど考えられないのも事実。
 センターの警備は解放戦後、また一つ中国軍に増えた重要事項だった。
「‥‥この地点で、キメラの徘徊が確認されています」
 地図に示すのはセンターとは少し離れた位置だ。
 だが放置すればセンターに出入りする人間や貨物が襲われる可能性は十分にある。
 いや、センターへ被害が出なかろうが、人に害をなす目的で生み出されたキメラを放置できるわけがない。
「現状、遠目に数体が目撃されただけですが、さらなる多数の個体が準備されている可能性もあります」
 場所は崖沿いの森。総数は不明で、どこかに群れが巣くっていることも想定される。
「‥‥捜索しながら、退治にあたります」
 隊員に向けて説明する。
 その間に、様々な方向に思考を巡らせる。討ち漏らしのないよう、効率よく捜索を進めつつ、緊急時のフォローが出来る体制にするには。どう動き、動かすか。
 何気なく手を机につくと、ぎしりと音がした。
 一瞬、重たいと錯覚した。
 ‥‥いや。実際、重い。それは預かることになる命の重さだ。
 指先一つ間違えるだけで、幾つかの命が零れていくのだろう。
 ――まだそこには、いつか感じた重さほどのものは乗っていないのだろうけど、それでも。
 ぐ、と掌を握りしめる。今ここでこの重さを投げ出すわけにはいかないのだ。
「状況が不透明なので今回は傭兵の応援も頼んでいます。詳細は、彼らの動向もみていかないといけませんね」
 気持ちを切り替えるようにそう言って、重い手を上げて、禁煙パイプを取り出す。
 そうして、孫少尉は高速艇の到着を待った。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
夏 炎西(ga4178
30歳・♂・EL
カルマ・シュタット(ga6302
24歳・♂・AA
美崎 瑠璃(gb0339
16歳・♀・ER
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA
クアッド・封(gc0779
28歳・♂・HD
鹿島 灯華(gc1067
16歳・♀・JG
秦本 新(gc3832
21歳・♂・HD
沙玖(gc4538
18歳・♂・AA
カイン・メンダキオルム(gc6217
17歳・♂・FC

●リプレイ本文

「白鐘剣一郎(ga0184)だ。改めて宜しく頼む」
 そう言って、剣一郎は孫少尉に対して軽く挨拶の言葉を告げると、時間を惜しむようにして、今回の作戦について話し始める。
「こちらでも色々と検討してみたが、今回は互いの長所を生かす方向で対応したい思う」
 要するに、傭兵と兵士は混成にせず、それぞれで動くということだ。
 ただし、情報面では垣根なく連携を密にし、緊急時には相互支援を行いたい、と。
「‥‥こちらとしては、ありがたい申し出だと思います」
 少し遠慮がちに間をおいてから、しかし、頷いて孫少尉は答えた。
 夏 炎西(ga4178)が次いで、傭兵の班分けと行動計画を伝えた。その上で、小隊の展開する位置も教えていただければ、と、視線だけで問う。
「そう‥‥ですね」
 やはり、やや躊躇ってから孫少尉が地図上で示した予定捜索範囲は、人数から考えれば狭いように感じたかもしれない。
 だが、一般兵が戦闘する以上、彼らは数が頼りだ。捜索は分隊で手分けして行うが、すぐ集まれるよう、それぞれがそんなには離れられないという。
「――すみません。頼りにさせていただきます」
 傭兵一同を、改めて見渡しながら孫少尉は言った。
「信頼に応えるべく、精いっぱい努力させていただきますね」
 それに対し、いつもの笑顔で炎西は応えた。

(衛星発射センターかぁ。あの時はあたしたちの小隊はウランバートルでアグリッパとドンパチやってたっけ)
 話し合う間、美崎 瑠璃(gb0339)はふと、先の北京での大規模作戦を思い返してた。
 ここからセンターはやや距離があるが、それでも巨大なマスドライバーは遠目にその姿を見ることが出来る。
 せっかく手に入れた重要施設、しっかり守らないと、と意気込む瑠璃の横で、同じくそれを見上げているのはクアッド・封(gc0779)だ。
 彼はあのとき、まさにこの戦域に居た。
(‥‥流れた血の価値は、どれだけ相手の血を流したかよりも‥‥こうやって、目に見える形で分かるほうが‥‥気分は良い)
 想いを馳せ‥‥クアッドは、そのまま視線を兵士たちへと向ける。
 ‥‥ここまで、ここを守ってきたのは彼らだ。そして、これからも。
 言葉には出さず、ただ確かに、感謝の意を捧げる。あの戦場に関わったものとして。

 ――傭兵と、軍人。
 性質の違いから、行動は共にしないと決めた彼らの間に流れる空気は、しかし、穏やかだった。
 違いを認めつつも、互いを尊重する思いは、ちゃんとそこにある。



 傭兵達は三人ずつ三隊に分かれて捜索することにした。
 一人あまることになるが、瑠璃はベースキャンプに残って情報連携役を務めることになる。
 さっそく瑠璃は、軍人でキャンプに残る人間に声をかけて交流を図っていた。
 捜索チームのうち一つ、鹿島 綾(gb4549)、イルファ(gc1067)、沙玖(gc4538)の三人組が傭兵達の中では最初に森の中へ入っていく。
「今回も、宜しくお願いします」
「ああ、こちらこそ宜しくな」
 中でも綾とイルファはすでに顔見知りのようだ。イルファの、やや緊張気味の礼に、綾が肩をたたきながら応えた。
 綾と沙玖が前、イルファが一歩下がる陣形で、一行は進んでいく。
 綾が足跡や獣道などからキメラの痕跡を探す中、イルファは別の方向を気にしているようだった。
「私の様な未熟者が、軍人の方々の身を案じるのは‥‥失礼かも知れません、けれど‥‥」
 胸騒ぎがするとイルファは言う。
 軍の方は人数も多く、敵に狙われ易い事を考慮し、彼らからあまりはなれないようにしたいと彼女は同行する二人に進言した。
 すでに軍もある程度まとまって行動している。あまり気にしすぎれば更に捜索範囲を狭めることにも繋がるわけだが‥‥。
 悩む彼らの顔を上げさせたのは、けたたましい重火器の響きだった。
 隠密性もへったくれもない、絶え間ない銃声。キメラたちが好戦的な性質であれば、確実に呼び寄せる――
 すぐさまベースと連絡を取り、位置を確認する綾。
「こちらが合流すると伝えてくれ! 位置は合図する!」
 シグナルミラーで自分達の位置を知らせたあと、三人は軍が交戦しているであろう方向へ駆けつけた。
 銃撃を受けるのは小型のキメラが一匹だった。取り囲まれ無数の銃弾を浴びるそれは、ろくなダメージを受けた様子もなく、ただ衝撃に押さえつけられることを煩わしそうにもがいている。
 一撃でも喰らえば致命傷ならば、反撃を許さぬよう撃って撃って撃ちまくって倒す。それが、エミタの加護を受けられないものの戦い方。危険性を理解しようとも、目の前の事態に対しそれ以外にやりようがなければそうするしかない。
 もう一体、中型のキメラは、能力者と思しき兵士がどうにか動きを抑えている。
「‥‥割り込むぞ! イルファ、援護を頼む!」
 綾の呼びかけに、イルファが二匹のキメラに向けて制圧射撃を放つ。その隙に沙玖が前に出る意志を伝えると、一度兵士達の射撃が止められる。
 兵士達を狙わせぬよう、一気に間合いを詰めると、沙玖は鱗の少ない顔を狙って斬りつけた。
 ――百の銃弾がようやく負わせたかすり傷の横に、易々と刃が食い込んでいく。
 その傍で、綾が中型のキメラを、怪我を負った能力者兵から離すように突き倒す。
「今回は巧遅より拙速か。早急に片付けるぞ?」
 綾の呼びかけに。
「ふ‥‥鷹に狙われたトカゲが永く生き残れるはずもなかろう!」
 不敵(?)な態度で沙玖が返す。
 先ほどまでとは違う様子に、いろんな意味でイルファが戸惑うが、突っ込みを入れている場合ではない。
「‥‥敵影確認! 新手が来る!」
 どこかの兵士が上げた叫びに。
「足を止めます‥‥先には、行かせません!」
 イルファは砲台をSMGで狙い撃って無力化を図る。
 綾と沙玖も、新たな敵が現れればまずソニックブームで牽制、背の砲撃に兵士を狙う余裕を与えぬよう行動する。
 ――その後数体のキメラが中、小交えて向かってきたが、援護射撃を受けるエースアサルトが二人、その威力の前ではさしたる問題とはならなかった。

 別エリアを捜索していた剣一郎、秦本 新(gc3832)、カイン・メンダキオルム(gc6217)の三人は、遠くで発生した戦闘の気配に一度立ち止り、振り向く。
 剣一郎がベースの瑠璃と連絡を取り短く状況を確認すると、このまま進もうと二人に告げた。
 友軍の身も心配だが、森に居るキメラを定められた期間内で殲滅するという役割も忘れてはいけない。別チームが向かい、そして状況が安定しているというのならば、ここは進むべきという判断に、二人も異を唱えることはなかった。
 新は双眼鏡も使って丹念にキメラの痕跡を追っていた。トカゲ型なら這って移動する可能性もある、と、地面を丁寧に調べ、一方で、知能がどれほどか分からないため樹上や崖の上からの不意打ちも警戒する。かと言って、担当する捜索エリアを制覇出来るよう、速度にも気を使い。
 そうした気遣いの甲斐あって、群れから離れるキメラの一群を、相手に発見される前に見つけたのはやはり新だった。最初の報告にあった通り、中型が一匹と、小型が二匹。
 この程度なら一気にこの場で倒してしまおうと結論し、遭遇をベースに報告してから三人は一気に動く。
「天都神影流・虚空閃!」
 一気に抜き放たれた剣一郎の太刀から放たれた衝撃波が、小型キメラの一匹を容赦なく吹き飛ばす。
 そこから距離を詰める剣一郎とカイン。新は中距離を保ち銃撃にて応戦する。
「問題ないか?」
 中型キメラを切りつけながら、剣一郎は連携するカインに声をかける。
「はい‥‥なんとか、大丈夫です」
 抑揚のない調子で、カインは応えた。この中ではまだ、未熟であることはカインは理解している。無理せず剣一郎を頼り、連携しながら適宜円閃を使用してキメラにダメージを与えていた。素直な態度に、剣一郎の実力をもってすればフォローは容易かった。
 ただ、まるで特徴を殺しているのではないかというほど凡庸なカインの態度が、剣一郎には少し気になるところではあった。だが、今はそれを問う場合でも立場でもないだろう。
 砲台と、爪の毒に、カインと新が多少の傷を受けつつも、ひとまずは問題なくこの場の敵を撃破する。

『――キメラが集まってるところが見つかったって、連絡、あったよ』

 声をひそめるように、瑠璃から連絡があったのは、その時だった。
「了解だ。すぐに合流する」
 丁度太刀を収めたところの剣一郎が静かに応える。

 それを見つけたのは、炎西、カルマ・シュタット(ga6302)、クアッドのチームだった。
 彼らのチームは、元々、キメラの退治よりも捜索に重きを置いて動いていた。
 クアッドが地図を眺めながら、友軍のルートの隙間を埋めるように一行を誘導し、炎西が、一定距離ごとにバイブレーションセンサーで周囲を確認する。カルマは、その炎西が周りを探る間の隙をフォローする様に、近辺の気配を警戒していた。
 振動による探知で、視界の通りきらぬ森の中に動く存在を炎西は感じ取る。
 そうして、結構奥へと進んだどこかの地点で。
「これは‥‥多い。固まっているのか、はっきりした数はいえないが、今までの報告とは、明らかに違う纏まり、か‥‥!」
 声をひそめて、炎西が告げた。
 すぐにベースへと連絡を取る。集合して漏らさず叩こうと言うことになり、三人はそれまでじっと息をひそめる。
 先に合流してきたのは剣一郎たちのチーム。だが六名になったところで、キメラたちも動きだした。存在が感知され、交戦となると群れていた全てのキメラが殺到してくる。
 暫くは6名で持ちこたえていたところに綾たちも合流し、傭兵たちはこれまでと同様、それぞれの能力を生かして応戦した。
 傭兵たちの実力からすれば今回のキメラは個体の能力としてはさほど脅威ではない。だが、『一匹残らず殲滅する』事まで目標とするのならば、逆に小型キメラの数と機動力は厄介ではあった。
 特にエースアサルト達の攻撃力に恐慌を起こした数匹が、なりふり構わず戦線を離脱にかかると、一匹が、彼らの隙間をすり抜けることに成功する。
 ――だが、暫く後に後方から多数の銃撃の音が響き渡る。
 ‥‥少し離れたところで兵士たちの目がフォローしていることを意味していた。彼らと連絡を取り合っていたことも、決して無駄に傭兵たちの足を止めたばかりでは、ない。

 やがて静かになったあと、キメラが集まっていたであろう場所を調査することも傭兵たちは忘れなかった。
 カルマは、軍から紐を借りると数か所、その場所に張っておく。食べ物もばらまいておいて、明日紐が斬られていたり粘液が付いていないか、食べ物に手がつけられていないか調べるのだという。‥‥変化がなければ、この場に集まっていたキメラは殲滅出来た可能性は高いだろう。



 ‥‥一日目は、そんな感じで終了した。
 ベースに戻ると、クアッドと瑠璃が中心となり、負傷者の治療にあたっている。
 軍としては一般兵に被害はなし、前に出た能力者が何名か傷を負っているが、深手はないという。
 初日から、敵がまとまっている拠点を潰せたとあって、全体の士気は高いままに保たれていた。
 交代で体を休める間、何人かは傭兵と兵士の間で交流を図っている。
 新は、少し落ち着かなそうに周囲を眺めていた。
「こんな大人数(の軍)と共同で作戦、ってのは初めてでして」
 話しかけてきた兵士の一人に、苦笑しながら新は応える。
「‥‥なんと言いますか、不思議な感覚です」
 興奮しているのか、緊張しているのか。今の感覚をどう伝えればいいのか、新にはよく分からない。そう、ただ‥‥不思議な感覚、としか、今は言えなくて。
 視線を巡らせる。少し遠くでは、孫少尉と剣一郎が明日の動きについて話し合っていた。出来れば、今日の形で協力を続けてほしいという孫少尉に、剣一郎が異存はないと応じている。
「‥‥でも、こうして協力して戦う、というのは良いことだと‥‥そう思います」
 どこかぼおっとそれを眺めながら‥‥悪い感覚では、ないのだろうと。それだけは確かめて。新も近くの兵士に、明日もよろしくお願いしますと笑いかける。

 一方で、炎西は、錬力を回復したいので申し訳ないがしっかりと休みたい、と周囲に申し出ると。
「それでは‥‥寝ます」
 宣言のようにきっぱりと言うと、そのままぱたりと眠り込んでしまった。
 まあ、確かにバイブレーションセンサーを惜しげもなく使っていた炎西の消耗は大きかったわけだが。コントのようにころりと眠りこけてしまった炎西に、兵士たちの何人かがきょとん、としていた。
 また一方では、兵士の前で覚醒を見せた沙玖が、いつもの痛恥ずかしい後悔にさいなまれていた。頼むからほっといてほしいと訴える背中に無理に話をしようという者はおらず、ただ何人かがそっと助けてもらって感謝しているという意だけを伝えている。
 そうした彼らの態度は、能力者と非能力者の間に生まれがちなよくある溝というものを少しだけ埋めるのに役に立ったのかもしれない。



 二日目。
 結論から言えば、手法も結果も初日と比べ大きく特筆すべきものはなかった。
 キメラたちが一日目の動きを見て、対応できるほどの知恵を見せられるものでもない。
 同じように、虱潰しに捜索してははぐれキメラを狩り、また一か所、集合地点を見つけ潰すことが出来た。
 見つけた巣には、昨日と同じようにマーキングを施しておく。
 ‥‥もちろん、疑えば絶対に全滅した、と確信できない考え方もできるわけだが‥‥。
「これほどの成果、そして撃破数なら、残っているとしても小型が数匹でしょう。‥‥あとは、我々だけで十分対処できます」
 最後に、満足したように孫少尉は告げ、改めて傭兵一人一人に丁寧に礼を述べた。

 依頼の終了を受け、付近の基地で、帰りの高速艇の到着を待つ。
 はじめに来た時と同じように、マスドライバーを遠目に眺めながら、クアッドは静かに盃を掲げていた。
(過去、この地で死んで行った者達に‥‥献杯)
 そうして、やはり静かに、中身の日本酒をあおろうとしたところで。
「今は無理でも、いつか必ず、あの宇宙(ソラ)に届くように――なーんて。こんなシリアスなのはあたしらしくない、かな?」
 瑠璃が、クアッドの視線の先に気がついて、おどけるように言った。
「空、か。随分と、近くなったもんだ‥‥」
 応えるように、クアッドは呟く。



 傭兵たちの活躍により、ひとまずこの周囲の安全は保たれたと言える。
 だが、森の中に巣を張り、待機するように生息していたキメラの配置は、何らかの意図を感じさせもした。
 ――宙への道をたどる攻防はきっと、これで終わりでは、ない。