タイトル:【AP】能力者麻雀!マスター:凪池 シリル

シナリオ形態: イベント
難易度: やや易
参加人数: 22 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/04/20 08:02

●オープニング本文


「隊長、ちょっといいっすか!」
「良くないです。忙しいです」
 勢いよくドアを開けて入ってきた牛伍長に、孫少尉は眺めていた書類から顔すら上げずに答えた。
「即答かよっ!? 話くらい聞けよ!?」
「何となく、声の調子からくだらないことのような気がしたんです。一体なんですか」
「おう。麻雀やりませんか」
 けろっとした牛伍長の言葉に、孫少尉はつい書類から目を離した。ただし牛伍長を見るためではなく、頭痛がしそうな頭を抑えるために。
「‥‥牛伍長。貴方の行動力は、時として評価できるものだと思っています」
「お? いやあ。なんすか急に」
「ですが良くこの流れで臆面もなくそんなことが言えますねっ!? もう少し状況見て動けとあれほど言ってるでしょうがぁっ!?」
「おぉっ!? ほめられたと思ったら説教だったっ!」
「だからなんでこの流れでほめられると思えるんですかぁあっ!」
 怒鳴ってから、孫少尉ははぁーっと、深く息を吐いた。
「‥‥大体、この間相手したら『もう隊長とはやらない』って言ってたでしょうに」
「あー。隊長意外と容赦なかったよなー」
「‥‥言っておきますが、私が弱いんじゃなくて貴方が弱すぎるんですよ? 顔に出過ぎてるとか筋を読まないとかはまだしも、客風を門風と勘違いして役なしで上がろうとするとかどうなんですか」
「あーいや。でも。俺以外の奴に対してもぶっちぎりだったし」
「そもそも私がいきなり巻き込まれた理由が、『面子集めてみたら誰も点数計算が出来なかった』とか言う時点で、全員五十歩百歩でしょうが! ‥‥なんか思い出したら腹立ってきました。というわけで、やりません。時間の無駄です」
 そう言って改めて孫少尉が書類に目を落とそうとしたところで、牛伍長がちっちっと指を振った。
「まあ待てって。俺だってそりゃ、先日あれだけやられといて無策で特攻するわけじゃねえ。今日は勝つつもりできた」
 そんな不敵な牛伍長の態度を、孫少尉はとりあえず書類から目を離さないまま黙殺する。
「いいじゃねえかちょっと息抜きぐれえー。勤務時間過ぎていつまで引き籠ってんだよ。あんま根詰めるとまた海麗が心配して失踪するぜ?」
 軽く聞き流していた孫少尉だったが、最後の言葉にぐ‥‥と軽く息を詰まらせた。
「‥‥牛伍長にしては痛いところ突きますね‥‥」
「だからいいじゃねえかちょっとだけ! 一回だけ!」
 両手を合わせて拝むように頼みこんでくる牛伍長に、
「‥‥一体何だっていうんですか。もう‥‥」
 溜息をつきながら、孫少尉は立ち上がった。
「一度だけですよ。このまま話しているよりつき合った方が早そうですから」



 というわけで。何か企んでるような牛伍長、および参加者の顔が気になりつつ麻雀開始。
「お♪ それロンっすよ隊長」
 まあ運も重要なのでこういうこともある、とりあえず晒された牌を見て孫少尉がこれなら大した点数じゃないな、と思っていたら。
 次の瞬間。赤い輝きとともに卓上に衝撃が走った。
「――‥‥?」
 咄嗟に庇うように腕を掲げて目を細めると、瞬間的に孫少尉が計算した点数より明らかに多めの点棒が、勝手に牛伍長に向かって流れていく。ふと横を見ると、いつの間にかそこに設置されていたモニターに、牛伍長が今上がった手が示されている。
「‥‥ドラ2?」
 ありましたっけドラ牌。そう思って牛伍長の手牌を再び見る。
「赤ドラ牌、が、あったんです‥‥ってちょっと待ちなさい。どうして八筒が赤くなってるんですか」
 普通、赤牌といったら五萬・五筒・五索である。地域によって違うこともあるらしいが、三か七というのは聞いたことはあるが八は初耳である。
「‥‥『紅蓮衝撃』っすから」
 が、返ってきたのは予想よりはるかに斜め上の回答だった。
「『紅蓮衝撃』で攻撃力を上げた結果! そう、これぞスキル使用可能なSES搭載麻雀牌!」
 瞬間。
 突っ込む気力を失って、孫少尉は卓上に頭を突っ伏した。
「今はデモンストレーションの為に手加減たが、次から本気でいくぜっ!」
 勝ち誇る牛伍長に。
「あー‥‥はい。なんかもう、いいです‥‥」
 孫少尉はゆらあり、と顔を上げた。
 そんなこんなで次の局。
「‥‥ああ伍長、それ、ロンです」
 なんかもう変な所にスイッチが入ったのか、静かながら妙な気配を纏った声音で少尉が言って。
「‥‥高目なんで、まとめていきましょうか」
 続いて宣告された言葉に、他参加者二名(一応能力者)が、「は?」と言う顔になる。
 次の瞬間、伍長だけでなく、両隣に座る二人の手牌が孫少尉の当たり牌に姿を変え、捨て牌としてさらされる。
「いやあの‥‥」
「自分ら、手番じゃないっすよね‥‥?」
 そんな突っ込みは無駄である。
 なにせこれはSES麻雀なのだ。本来の麻雀のルールやらなんやらより、エミタの力と使用者の意思が優先されるのである。
「麻雀卓のこの座り方なら、貴方たちも範囲内でしょう!」
 そう孫少尉が言った瞬間、前方90度扇状の範囲に風が吹いた。
「‥‥纏めて散りなさい! ――私は‥‥忙しいんですよ!!」
 決め台詞とともに、彼の怒りが嵐となって、そのまま全員を直撃する!
 これぞすなわち!

 ブリットストリーム・ロン!!!!

 落ちる落雷。
 吹っ飛ぶ兵士。

「――あー。でもやっぱりブリットストリームだから、最終的な点数は結構下がりましたねー。使いどころは考える必要がありそうです。‥‥ですがなるほど。要領は把握しました。‥‥ならこれ以上、時間をかけるつもりもありません」
 ‥‥結局、その場に静かに座るのが孫少尉一人となるまで、さほど時間はかからなかったという。



「く、くそう‥‥こうなったら、傭兵たちも巻き込んでリベンジだーっ!?」

 かくして、諦め悪い伍長の叫びによって。

 カオスな麻雀大会の開幕となったのである。



※このシナリオはエイプリルフールシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません

●参加者一覧

/ 弓亜 石榴(ga0468) / 小鳥遊神楽(ga3319) / 百瀬 香澄(ga4089) / 夏 炎西(ga4178) / UNKNOWN(ga4276) / 秋月 祐介(ga6378) / アンジェリナ・ルヴァン(ga6940) / ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280) / キア・ブロッサム(gb1240) / レベッカ・マーエン(gb4204) / 流叶・デュノフガリオ(gb6275) / 館山 西土朗(gb8573) / ソウマ(gc0505) / 兄・トリニティ(gc0520) / 春夏秋冬 立花(gc3009) / 巳沢 涼(gc3648) / ヘイル(gc4085) / グリフィス(gc5609) / 立花 零次(gc6227) / ティム=シルフィリア(gc6971) / 井上一樹(gc7153) / カタギリ(gc7159

●リプレイ本文

 孫少尉が牛伍長と勝負と呼ぶのもおこがましい何かをした、その数日後。
 いつものように仕事に向かった孫少尉は、ドアをあけ部屋を見渡すと、そこで一度動きを止めた。
 ――ない。
 奥にある彼の執務机が、ないのである。
 いくらなんでもそんなでかいものを見落とすはずもなく。さらに目を凝らすと、机があった場所、その奥の壁に何か貼ってあるのが見えた。

『第四会議室にこい』

 それだけの文面から、嫌な予感だけがひしひしと伝わってくる。
 馬鹿馬鹿しさを感じながらも、とりあえず出来ることはその、指定された会議室に向かうことだけだったわけで――

「‥‥で、何なんですかこれ」

 向かってみれば。
 初めに机の消失に気付いた時と同じように。
 部下のみならず、多数の傭兵が集まって麻雀している光景に、一旦は呆然とする孫少尉なのだった。



 さて、立ちつくす孫少尉に最初に近づいて行ったのは弓亜 石榴(ga0468)だった。
 楽しそうだから来てみたはいいが、ルールがさっぱりだったのでこれまでは見ているだけだったのだ。
 そんなわけで。
「孫さん‥‥アタシに麻雀のイロハを教えて欲しいナ♪」
 ぽっ。とか音をたてながら、『サルでも判る麻雀入門』を片手に近づく石榴。
「え? ああまあ‥‥はじめは誰でも初心者ですし、そんなに恥じることもないと思いますが」
 まだどこか呆然としながら、どっかずれてる気もする返事をする孫少尉。
「恥ずかしながら、実は麻雀よく知りませんで‥‥この機会に勉強させて頂こうかと。宜しくお願いします」
 続いて、適当な卓についていた夏 炎西(ga4178)がにこやかに挨拶。
 そう来られると、帰れとも言えない孫少尉である。
 とりあえずどうしてこうなったのかとか執務机はどこ行ったのかとかはさておいて、結局流されるままに麻雀のレクチャーをさせられているのであった。

 ‥‥とはいえ、この麻雀会がそんな和やかなもので済むはずがなく。
「ああっ! カタギリ(gc7159)がやられたっ!?」
 その、炎西がついていた卓からどごーん、という音。
 ともに上がった悲鳴に振り向けば、そこにはカタギリの亡骸(注:生きています)を抱きかかえ悔しさと怒りの涙を浮かべるグリフィス(gc5609)が。
 そしてその対面では。
「はっはっはっー! 俺こそが伝説の雀士、ザ・グッドラックだ!!」
 館山 西土朗(gb8573)がクルクルシュピーンと決めポーズをとっていた。ちなみにはっきり言って似合っていない。
「う‥‥うぅ‥‥早い‥‥」
「もういい、喋るな!」
 呻くカタギリをそっとカタギリを横たわらせるグリフィス。
「こんな麻雀‥‥修正してやる!」
 そして、キッと西土朗を睨み据える。
「悪いが、手加減はしねえぜ」
 ニヤリと答える西土朗。
 一人欠けた状態でも勝負は平然と続けられ、次の標的となったのは――
「なっ‥‥馬鹿な! このタイミングでロン!? まるで炎西が何を切るか分かってたみたいなっ‥‥ハッ!」
 炎西が牌を置いた瞬間に動きを見せた西土朗に、グリフィスが驚きの声を上げる。だが‥‥直後グリフィスは気づく。西土朗の瞳の輝き、その意味に。
「【探査の目】‥‥!?」
「そう! 牌山を組み立てるときから使用していたのよ! 奴が今引いた牌も! 切った牌もお見通しというわけだ!」
 そこに――GooDLuckによる幸運も追加され‥‥奇跡の早上がりが可能となる!

「必殺! 大運一撃疾風烈探査滅悪秘儀武装ロン!」
(読み:ダイウンイチゲキシップウレツタンサメツアクヒギブソウロン)

 倒された西土朗の手配から光が放たれ、炎西を灼きつくすかのように飲み込んでいく――
 ‥‥というのはまあ、西土朗の練成超強化によって強化された演出であり、実際の上がり役としては大したことはない。故にダメージも大したことなかったりするのだが。
「やはり勝負事‥‥麻雀の世界はかくも厳しいものなのですね‥‥!」
 何となく雰囲気で吹っ飛ばされつつ炎西が呻く。
「ひとたび卓を囲んだからは素人も玄人も無いと‥‥ならばこの身のスキル全てで戦うのみ!」
 無駄に燃えつつ、夏 炎西―― 覚 醒 !
 そこに。
「ふむ――ここが空いているのか?」
 ふらりと現れた人影が一つ。
「遅かったじゃないか‥‥」
 そう言うグリフィスの呟きと共に現れたのは、レベッカ・マーエン(gb4204)。
「家族麻雀以来だな‥‥楽しませてもらうのダー」
 応えるように言って、カタギリがいた席にどん、と座るレベッカ。
 ちなみにグリフィスとレベッカ、別に面識はないはずである。これも単なるノリによる会話である。
「ふっ‥‥何人こようが俺の大運一撃疾ペッ‥‥レル‥‥1ターンロンの前には無力よ!」
(噛んだ‥‥)
(噛んだな‥‥)
(しかも名前略して無かったことにしようとしたのダー)
「ええいっ‥‥とにかくいくぞっ!」
 西土朗の叫びに、再び勝負開始となるが、まあ一旦さておき。



 別卓を見てみよう。
「ん? 麻雀かね? 戦場でもないのにやるのかね?」
 そう言ったのはUNKNOWN(ga4276)である。
 いやなに戦場でやるのが普通みたいな物言いなんだ、という突っ込みを入れる者はこの場にはいない。そう、能力者麻雀とは戦争なのだ。
「まあ、長丁場になるだろうが、やってみるかね?」
 挑発するかのような言葉に集まったのはアンジェリナ・ルヴァン(ga6940)、ソウマ(gc0505)、巳沢 涼(gc3648)である。
 じっくりと、だが確実に勝負を楽しむ者が集まるこの卓は、一見、静かだった。
「――リーチ」
 自らキョウ運の持ち主と称するソウマが静かに仕掛ければ。
「‥‥どうした。アタらないのか‥‥?」
 アンジェリナが、あえて危険牌をこれ見よがしに切って見せる。【急所突き】を乗せてそれを通して見せることで、周囲にプレッシャーを与えていた。
 UNKNOWNは、上がったりアタったりしながらも、【探査の目】で静かに全体を見渡しつつ様子を見ていた。こういうのは、記憶と確率のゲームだとして。
 ‥‥そうして、初めに大きな動きを見せたのは涼。
「それだぁ! 騎龍突撃(ドラゴン・ダイブ)ロン!!」
 叫びとともに手牌から龍が飛び出し、前方50mを疾走する。
 対面に居たアンジェリナはもちろん、卓上を飛び越えて言った龍は直線状に居た西土朗とレベッカも直撃、彼らからも点棒を奪い去っていった。必殺の卓越えロンである。
 【騎龍突撃】の射程は直線状5スクウェア。何も間違っていない。これは能力者麻雀である。
 一気に点数を稼ぐ涼。だが全員の表情は静かなまま。
 こぽこぽ‥‥と、UNKNOWNがグラスにワインを注ぐ音のみが響き渡る。
 それで思い出したかのように、ソウマがココアを所望していた。
 全員が全員、冷静さを失わない。
 最初に宣言されたとおり、この勝負、長くなる‥‥誰もが確信していた。



「麻雀のルールにスキルで俺ルールが加わるのか。ふむふむ」
 周りの卓を見ながら言ったのはヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)である。
「ふむ、ふむ‥‥成るほどね‥‥面白そうじゃないか」
 その妻である流叶・デュノフガリオ(gb6275)も、孫少尉から話を聞きつつ大体理解する。そして。
「‥‥どうせなら、サシで勝負しないかい?」
 そう持ちかけたのは流叶の方だった。
 夫婦だからこそ、たまには全力で勝負してみたいというのはあるのだろう。傭兵としての力を直接ぶつけあうわけにはいかないが、こういった形ならば‥‥と。
「賭けは‥‥何にしようか?」
 配牌が終わった後、手配は伏せたままで流叶は問いかける。下手に手が良かったり悪かったりするのを確認した後では決められないことに気付いたのだろう。
「それじゃあ、負けたほうが勝ったほうの用意した服を着る‥‥で、どうかな?」
 ヴァレスの提案に流叶は少し考え。
「‥‥構わないよ? ――お互いに負けられない、ね」
 かくして二人の勝負が始まった。
「おっと、それロンだ!」
 ヴァレスが宣言した瞬間。
 流叶の捨て牌が逃げた。
 するりと卓上をすべりぬけて、ヴァレスのロンに対し無効宣言がなされる。
 残影斬――これにより、回避判定を行い成功すれば捨て牌が安牌に変わるのだ!
「‥‥今の私から、当たりを引けるかな?」
 流叶が不敵に言い放ち、そして、
「今度は‥‥こちらの当たりだ!」
 宣言した途端、ヴァレスの牌が‥‥同じように、回避した。
 視線をぶつけあい、そして、互いの口元に浮かぶのはやはり笑み。
 お互いペネトレーター同士のこの勝負、互いに手は早く、そして当たらせない。
 聴牌のまま流局が続くという、緊張感の漂う勝負が続けられていた。



「おや、なんか面白そうなことやってんじゃん。麻雀ならちょっとは覚えがあるし、私も混ぜてくれよ」
 そう言ってふらりと現れたのは百瀬 香澄(ga4089)である。
 ついで彼女は、下位二名がコスプレして写真撮影をするという賭けはどうかと提案した。
 それに対し動きを見せたものがいる。
「いいだろう、その勝負りっか君が受けよう」
「私かよ!」
 勝手に人を巻き込む秋月 祐介(ga6378)と、巻き込まれて即座に突っ込む春夏秋冬 立花(gc3009)である。
 次いで参加を申し出たのはキア・ブロッサム(gb1240)と立花 零次(gc6227)のコンビ。
 そして世史元 兄(gc0520)、なのだが――その姿は普段の彼とは大きく異なっていた。いや、今の彼を『彼』と呼ぶことはできまい。
 肩から胸の上まで大きくはだけられた和服姿。そう、上部が見えてしまうまでにはだけられた胸のその存在感はごまかしようもない本物によるものである。夢の中で、『彼』は『彼女』へと変貌を遂げていた。
 かくして集った六人の戦士。
 適当に対戦順を決めた結果、まずはキア―零次コンビと香澄、兄の四人。
「カン! ですわ♪ ドラ牌は〜♪ 来ましたわ〜♪ ドラ4♪ 素敵です♪」
 序盤に好調な滑り出しを見せるのは、【活性化】により好配牌を引き寄せる兄。
 【先手必勝】も利用して、驚異的な速度で上がっていく。
「おっと、それが当たりだ。ついでにもう一回アガっとくかな」
 香澄も負けてはいない。【二連撃】で続けて二度上がると、一気に倍の点数をかっさらっていく。
「っと、キアさん、危ないっ!」
 と思いきや、一撃は零次が【ボディガード】でカバー。
「‥‥勝っても負けても得がありませんけれど‥‥」
 キアが呟く。つい『賭け』という言葉に反応して参加した彼女だったが、お金をかけるつもりがコスプレ麻雀と知ってテンションは正直急降下である。だからこそ、全力でやるしかないわけだが。ノリノリの面々を見て溜息をつき。
「さて‥‥リーチです、ね‥‥」
 告げると同時に、散弾の音が響いた。
 撃った気配は見当たらない。ただ今は硝煙の香りが残るのみ。
 だが‥‥その名残に同じ卓に居た三人は息をのむ。キアが見せた腕前の一片を確かに感じ取り、呑まれ、そして卓がキアに制圧される。
 ――鳴くことも上がることもできなくなる。
 そうして、動きを硬直させるうちに。
「射程内‥‥踏み入れたのが運の付きです、ね‥‥。はい‥‥上がり、と」
 悠々と、キアがツモ。
 これで上位に立った‥‥と、思いきや。
 実は【自身障壁】で己のダメージは弾いていた零次が、地味に上に立っている。このままでは下位二名に入る。そうなれば‥‥コスプレである。
 かくなる上は。
 軽い世間話の後、さりげなく帽子に触れるキア。
 合図だ。これまた世間話を装い、さりげなく頷く零次。
 世間話に紛れて指定された牌を打ち、キアがそれを鳴く――
「‥‥ロン」
「えっ!」
 宣告された言葉に、零次がが立ち上がる。
「‥‥ちょっと!? どういうことですか!?」
「なんの‥‥ことかしら‥‥?」
 言われてぐっと零次は押し黙る。問い詰めるにはこれまでコンビ打ちしていたことを白状しなければならない。
「‥‥小隊仲間‥‥など、所詮は他人です、から」
 ぼそりとキアが言う。保身のためなら手段を選ばないらしい。
「あれ? でも上がってませんわよ♪」
 ふと、兄がキアの牌を見て言った。
「ああ本当だ。これ、違うじゃん」
 香澄も言われて見なおすと、キアに指摘する。
「ちょ!? ええぇ! どういうことよ!?」
「あ‥‥すいません、私ちょっと抜けてるところがあるんで‥‥もしかして、間違えました?」
「まあ何にせよ」
「チョンボですわね♪」
「ちょ、ちょっとおぉおお!?」
 そんなわけで、罰符である。

 ――結果。
「‥‥こんなの‥‥イカサマではありません?」
 自分のことはすっかり棚に上げながら、香澄の用意したネコミミメイド姿に着替えさせられたキアがプルプル涙目で震えることで一回戦終了となった。

 そうして――勝ち上がった香澄と兄の前に、祐介―立花コンビが立ちふさがる!



「えーと、同じ柄が三つと二つと‥‥?」
「同じ柄二つで頭として、後は三つずつの組み合わせですね。同じ柄で、同じ数字か、連番で。これが基本になります」
 というわけで、一通りカオス‥‥じゃなくて各卓を一巡したところで初心者卓に戻ってくる。
「やりながら覚えたほうが早いんじゃない?」
 そこに、割り込むように現れたのが小鳥遊神楽(ga3319)である。
「孫少尉! あたしと賭けをしない?」
 そう言って、孫少尉と石榴のいる卓のあいてる場所に神楽も腰掛ける。
「賭け‥‥ですか?」
「あたしが勝ったら、少尉が何処か雰囲気の良い店であたしに一杯奢りなさい! で、少尉が勝ったらあたしが同じ店で一杯奢るわ」
 どう? この賭けに乗る? と誘ってくる神楽に対し、孫少尉が一瞬どうしよう、という顔を見せたところで。
 ずずずずず‥‥と、怪しい地響きが鳴り始めた。
『ふ、伍長を倒したくらいで調子に乗らないで貰おうか。彼は一番の小物。これからが本当の闘いだ』
 影を背負い、くぐもった声で宣言するのは。
「ヘイル(gc4085)‥‥さん?」
 孫少尉が、驚きというよりは呆れた感じで呟いていた。
 轟音とともにセリ上がるステージには何故かお姫様スタイルの徐隊員がアレな感じで縛られていて、その横には少尉の執務机が置いてある。
『只の勝負では面白くないのでな。少尉の大事なモノは預かった。少尉が勝てば両方を。もし負けたならば片方だけを返してやろう』
「あ。机返してください、そう言えば」
『勝負の前に即答っ!? いやよく話を聞け!?』
「聞いてますけどー‥‥いや、冗談とはいえヘイルさんがこれ以上徐さんに酷いことするとは思えませんし‥‥だけど机だとうっかりノリで壊されたりしそうだなって。そしたら困るじゃないですか。凄く」
 あっさり。確かに正しいのかもしれないがこういうノリの時に冷静に判断してのけるのはどうなのか。
「にゅいー‥‥隊長さんってあれですよね。ただ愚痴聞いてほしい時にマジの正論返して『女心が分かってない』って嘆かれるタイプの男性ですよね多分」
 徐隊員がステージの上で縛られたまま、これまた冷静に分析していた。
「っていうか、よくまあこんなもの、いつの間に‥‥」
「‥‥舞台と人質は謝副長が一晩でやってくれた。ノリノリで」
「いや、名誉の為に言っておきますが服装と縛り方はヘイルさんの指定ですよ?」
「おぉいっ!?」
 アレな縛り方ってドレな縛り方なんでしょうね? まあこの報告書が無事に皆さんの元に届いているということは多分倫理規定に引っかかるような縛り方ではないです。あとはほら、皆さんがヘイルの印象を元にどんな縛り方を指定すると思うかで各々想像していただくのが一番正解に近いかと。そんなわけで詳しくは描写しません。
「まあとにかくっ! 勝負してもらうぞ少尉っ!」
 とりあえず埒が明かないので強引に話を進めるヘイル。
「‥‥ま、これでメンツはそろったわね」
 うやむやのうちにさらっと神楽も己の目的を進めていく。
 まあつまり結局。
 ここもカオスになった。



 と、ここまでざっと各卓の紹介が終わったところで。
 ここから結果を見ていこう。



「実は基地に恋人がいるんですよ 戻ったらプロポーズしようと 花束も買ってあったりして」
 グリフィスが己を勇気づけるように言うそれは死亡フラグのお約束通り、最後の点棒を散らそうとしている。
「喰らえ、1ターンロン!」
 ちなみに1ターンロン、ロンって言ってるわりにたまにツモだったりするのもそうだが、「1ターン」であって一巡で上がっているわけではない。具体的に言うと西土朗の行動値内に上がれれば本人的にはOKらしい。というわけで必ずしも地和だったり人和だったりはしない。と今さら解説。
 ‥‥だが今回、西土朗が宣言の通り早上がりを果たすことはなかった。みれば西土朗の牌に闇が纏わりつき、アガリを阻害している。
 闇は炎西の右腕から生まれていた。【虚闇黒衣】、である。
 このスキルの効果は1ターン持続する。すなわち‥‥同じように持続するスキルを使えば、同時にその恩恵を受けることが出来るのである。
 炎西の左腕からは逆に白い輝きが生まれ‥‥組み合わさった闇と光が太極図模様を描く!
「我、今より攻防に隙無し!」
 炎西が叫ぶとともに、白い光――【ファング・バックル】を乗せた一撃が、西土朗に反撃の一矢を与える。
「ふ‥‥初心者にしては、よくやったのダー」
 そこで、レベッカががばりと頭を上げる。
「貴様‥‥先ほどドラゴン・ダイブを受けて倒れたはずではっ!?」
 お前も巻き込まれてたけどな、西土朗。まあそれはさておき。
「‥‥この白衣のおかげでギリギリ助かった」
 レベッカの答えはそれはそれで、そんな馬鹿な。
「白衣は科学者の正装、またじいちゃんの教えに救われたのダー」
「‥‥だが! その満身創痍の身でなにが出来る!」
「その慢心が命取りなのダー! ロン!」
「‥‥何ぃ! だが‥‥所詮発のみか!」
 ‥‥確かに、レベッカの牌は一見、ピンズとソーズが混ざり、他に特に役があるようにも見えない組み合わせ。だが。
「ここで‥‥【属性変化】!」
 レベッカの言葉とともに、手配のピンズが全てソーズに変化していく!
 そこにつかわれている数字は‥‥2・3・4・6・8のみ。すなわち!
「喰らえ『システムオールグリーン』!」
 ――緑一色。役満である。
「ぐ、ぐおおぉおおおおー――!」
 ふっとばされる西土朗。
「勝った‥‥?」
 呆然とつぶやく炎西。
「‥‥――勝った!」
 確かめるように、しっかりというグリフィス。その背には『第三部・完』の文字が浮かんでいた。

 この卓の最終結果。

 一位:レベッカ・マーエン
 二位:夏 炎西
 三位:グリフィス
 四位:館山 西土朗



「ユグドラシル リーチ‥‥ッ!」
 【先手必勝】から、アンジェリナが仕掛ける。
 彼女のこのむホンイツ手、しかも世界樹ユグドラシルもとい植物を模したソーズである。
 アタれば高め。狙いどころ。
 薄氷を踏むような繊細な攻防の中、決まれば一気に場を支配できる――
「おっと。一足遅い、ね。それは」
 直後、UNKNOWNが静かにツモを宣言した。
 安手。全員に大した被害はないが、逆にそれはこの場の硬直が続くことを意味している。
 いや‥‥もう全員気づいている。硬直しているのではなく、させられているのだ。
 それをしているのは――
 次局。UNKNOWNが静かに牌を切った、その瞬間。
「ロン!」
 声とともに、黄金の輝きが生まれる。涼の体から生まれているものだ。
 直視できぬ、太陽のごとき輝きはしかし彼の最後の輝きでもあった。
 【不敗の黄金竜】。
 全錬力を燃やして繰り出される力は、しかし後がなくなることを意味している。
 だが。
「これで――届くはず!」
 ここでUNKNOWNをハコ下にして終了させてしまえば、総合得点で彼の勝利‥‥!
「ふむ、いのかね? それで」
 だがそれでも。目の前の黒き男の余裕は崩れることがなかった。
 そっと、手袋をはめた指先で、男は己の点棒に触れる。
 使用するのは、何のことはない、ささやかなスキル――
「【錬成治療】‥‥!? しまっ‥‥!」
 ほんのわずか、点棒を回復するだけの。
 だがそれだけで、ハコ下にする、という涼の目論見は崩される。
 もちろんUNKNOWNの点数も危険域に入りはするのだが‥‥
「へっ‥‥燃え尽きた‥‥ぜ」
 錬力を使い尽くした涼が、かくりと崩れ落ちる。
 この場において、スキルを使えないということの意味。そのことが、実際の点数より涼の気力を奪い去っていた。
 ぐるり、とUNKNOWNが一同を見まわす。
「そろそろ、集中力が切れてきたのではないかな?」
 問いには、不敵に笑みを返すことで応えて見せるアンジェリナとソウマだったが、つ‥‥と一筋、汗が流れるのは抑えられなかった。
 ずっと、この男はそれを狙ってきたのだ、と。
 理解しても、消耗は否定できない。
「三流の勝負師は状況判断を誤り身を破滅させますが、真の勝負師は自分で勝ち負けをコントロールできるんですよ――」
 引かぬ気迫で、ソウマが、仕掛ける!
 乗せるスキルは‥‥【限界突破】、【GooDLuck】、そして――【布斬逆刃】。
 点棒ではなくプレイヤーそのものを狙う気迫で放たれる【布斬逆刃】。そこに彼のキョウ運が乗り、本人すら予測不能な効果を生み出す!
 ――結果を言うと、切ろうとした牌がすっぽ抜けて彼の河ではなく明後日の方向へと飛んで行った。
 行先は、UNKNOWNが飲んでいたワインのボトル。
 揺れるそれを、隣にいたアンジェリナが反射的に抱え込む。
 同時に、反対側におかれていた煙草を、ワインが倒れてかかったらもったいない、と、涼が引き寄せた。
 とたん。
「ああ、うん。有難う。――返してくれる、かな」
 UNKNOWNの声がしゅん、とするのを見落とす戦士たちではなかった。
「飲み過ぎじゃ、ないのか」
 アンジェリナは、そのままボトルをしっかりと抱え直す。
「吸いすぎも、よくないぜ」
 涼が煙草を背中に隠すようにしまう。
 ‥‥しばしのにらみ合い。
「うむ。‥‥ごめんなさい。酒だけは、煙草だけは‥‥」
 UNKNOWN、まさかの土下座であった。

 そうして、この長丁場勝負。
 集中力が切れたものから敗北する。
 それはまさに彼が見通した通りに――。

 この卓の最終結果。

 一位:アンジェリナ・ルヴァン
 二位:ソウマ
 三位:巳沢 涼
 四位:UNKNOWN



「中々やるじゃないか‥‥! そんなにバニーが着たくないかい?」
 硬直する戦局に、流叶が余裕たっぷりに告げる。
「その油断が命取りだ」
 これまた愉しげにヴァレスが返した。
「‥‥ところでヴァレス、私が着る物‥‥なんなの?」
 ヴァレスの態度に、ふと気になって流叶が問いかける。
 ヴァレスは、にまあ、と笑みを浮かべていった。
「シースルーのバニーだ。流叶の綺麗な身体が服の上から透けて見える‥‥悪くないだろう?」
 言われて流叶は一瞬、それを来た己の姿を想像する。
 透けて、見える。
 黒をベースとしたバニーの服に、己の胸やへそ、さらにはその下といった大事な部分がうっすらと、いっそ全てをさらけ出すよりどこか背徳的に浮かび上がる‥‥
 ごめんなさいこの報告官じゃこのへんが限界ですので勘弁してください。
「そんなの着られるかーーー!!??」
 まあそんなわけで、本気になる流叶。
 だが、想像だけで真っ赤になって目を潤ませる流叶の姿は、ヴァレスの本気に火をつけるにも十分で。
 刹那、連剣舞でアガリを狙いに来るヴァレス。
 回転舞、グッドラックでさらに安全率を上げに来る流叶。
 互いにスキルを全力で使いあっての勝負に出る!
 結果!
「捕えたっ!」
 ‥‥一度だけ、安手とはいえ上がった流叶が、そのまま持ち越して勝利。
「‥‥ぅぅ、なんで毎度こんな目に‥‥」
 めそめそと泣き崩れるヴァレスの姿が、そこにあったのだった。



 さてコスプレ賭け卓。
 祐介と立花がコンビ打ちを宣言した以上、自然、コスプレするのは祐介―立花コンビか、香澄―兄コンビになるか、という流れになりそうなのだが。
「うおぉおおお! 秋月さん頑張れぇえええ!」
「立花ちゃん! 応援してるぞ! 君はやればできる子だ!」
 その事実に気付いた兵士たちが、一斉に祐介―立花コンビの応援に回る。
「なんでだろう。応援されているのに何故か敗北感が漂うのは」
 何故だろう、涙があふれてくる立花だった。
 決して卓の一同を見渡す視線が、基本的に胸の上を通ってるからとかではないと思う。無いと思うよ、きっと。だから頑張れ?
「おっと立花ちゃん、泣くのはちょっと早くないかな」
 香澄がそこでツモを宣言。そこでさらに、
「点数のインフレを防ぐ満貫や跳満、その『限界』を『突破』した先は‥‥雲一つ無い『青天井』だ」
 【限界突破】を宣言。点数計算のリミットが解き放たれ‥‥青天井ルールにて計算されたダメージが、全員に降り注ぐ!
 一気に不利になる祐介―立花コンビ。
 だが、この状況において祐介はまだ勝負を投げた様子はなかった。
 やれやれ‥‥と腕を組み、座り直す。
 背もたれが祐介の体重を受けてぎしり、と音を立て。

「明日は晴れるかなぁ‥‥」

 姿勢を変え、窓の外へ視線を向けた祐介がそう呟くと、立花がはっとした顔を見せる。
 ざわ‥‥ざわ‥‥
 立花だけでない、ふと聞きとめ、その意味に気付いた人間が思わずどよめく。
「あれが噂の‥‥!」
 石榴の呟きに。
「知ってるのか石榴!」
 グリフィスが反応して聞き返す。
「分からないなんとなく言ってみただけ♪ 孫さーん、教えて」
 実はさっきから、分からないことがある度に少尉に聞いている石榴である。
「‥‥いや、これは分かりません」
 麻雀のルールなら答えられるしスキルの結果なら何となく推測できるが、さすがに一言何か言っただけで空気が変わった、この状況は分からないと孫少尉は言う。
 まあ、そうだろう。彼が分からないのは無理もない。
 スキルではない。今の一言は‥‥純粋な『イカサマ』の仕込みなのだから。
「!? まずい、アレは! 伏せろ、デカイのが来るぞ!」
 レベッカが叫ぶと同時に配牌が終わり、祐介の手牌が開かれ――その手は。
「‥‥聴牌?」
 後ろで見ていた涼が、拍子抜けするように呟いた。
 先ほどの天気の話。それは‥‥『積み込みの合図』である。
 ならば‥‥親である祐介に、一気に上がり役を作ることも可能となる。が。
 失敗‥‥だろうか。一個だけ間違えた?
 だが、祐介はここまでやってくれれば十分とばかりににやりと笑みを作り。

「 天 和 」

 平然と宣言し、手牌を倒す!
「馬鹿な! さっきの布石には気付いた‥‥だから先ほどお前の牌はすり替えたはず!」
 香澄が驚愕の声を上げる。そう、瞬天足による牌のすり替え。それを香澄は、仕込みに気付いた祐介の山に仕掛けたのである。が。
「ふっ‥‥一つしか変えなかったのは驕りだったな‥‥変えられた牌を、さらに書き変えた‥‥そう」
 【電子魔術師】。
 言い終えると同時に卓に降り注ぐ天の怒り。
 全てを押し流す奔流となって――後には、何も残らなかった。

 一位:秋月 祐介
 二位:春夏秋冬 立花
 三位:百瀬 香澄
 四位:世史元 兄

 ‥‥ちなみに、罰ゲームのコスプレに関しては。
「あーーー、駄目ですよ〜。これでは私が脱がないと(汗)」
 最下位の兄が、嫌がりつつもわりとノリノリだったようにも見えた。



 ところで残る少尉の卓だが。
 一時はカオスになるかと思いきや。
「まさかとは思うが少尉、本気で隊員より仕事が大事だということはないよな」
「いやまさかー‥‥それはないですよ?」
 ヘイルの問いにどこか怪しい調子で孫少尉が答えつつ、なんかもう人質周りはぐだぐだになりながらわりと和やかに進行していた。
 と、そこで神楽が孫少尉に対しロンを宣言。
「あら、安めと思って、安心しない事ね。あたしの攻撃をそれほど甘く見ない方が良いわよ」
 【強弾撃】が乗せられた一撃が、孫少尉の点棒に重く食い込んでいく。
「‥‥本当に、手加減なしですねー」
「あたしもそれほど裕福じゃないし、負けるつもりはないからね」
 くすりと、クールな表情のまま言う神楽に。
「‥‥まあ別に、小鳥遊さんと飲みに行くのであれば、普通に奢っても構わないのですけど」
 完全に、楽しんで言っている少尉がいつしか、ポツリと零した。
 え、と神楽が一瞬聞き返すと。
「――何度も、お世話になっていますからね‥‥と、あ、ヘイルさんそれロンで――」
 孫少尉が言いかけたところで、ヘイルの捨て牌を神楽の【援護射撃】が弾き飛ばして無効化した。
「まあ、そんなこったろうと思ったわよ」
 あくまで冷静に孫少尉を狙い撃ちしながら神楽が溜息をついた。
 ‥‥まあ、和やかに進行していた。多分。

 ちなみにヘイルも結構スキル使っていたのだが、結構巳沢 涼さんとかぶっていたのでテンポの関係で省略となったのである。不遇の傭兵ヘイル、彼の次回作の活躍にご期待ください!

 あと、当たり前だが徐隊員はちゃんと解放されたし、最終的に孫少尉の奢りで神楽は一緒に飲みに行ったようである。
 ので、この卓の順にはわりと、どうでもいい。



 というか、何がどうなろうが所詮どうでもいいのだが。
 何せここは、夢の話。
 どれだけカオスだろうが楽しかろうが幸せだろうがイラっとしようが、目覚めればすべて失われる。
 まあそれでも‥‥残滓くらいはどこかに残るのかもしれないが。