●リプレイ本文
「お茶会にお誘いいただき、ありがとうございますっと♪ 話聞いてね、夫婦でお邪魔させてもらったよ♪」
ヴァレス・デュノフガリオ(
ga8280)の言うとおり、その横には彼の妻である流叶・デュノフガリオ(
gb6275)が連れ添っている。
「愛し合うカップルの話を聞くのは楽しい事ですものね。他の方々のノロケ話をたっぷり聞かせていただきますわね」
クラリッサ・メディスン(
ga0853)が微笑んで言うと、
「まあ聞かされる方にしたら人によっては苦痛でしかありませんからね、今日は良い機会かも知れません。宜しくお願いします」
普段、基本的に人前ではノロケ話はしないようにしているという玖堂 鷹秀(
ga5346)はそう言ってにっこりと笑みを浮かべた。
●うちの嫁が一番!
「しかし、ノロケ話かぁ。どんな事話せばいいかな?」
ヴァレスはそう言って首をかしげて、とりあえずこんな感じ? とばかりに話し始めたのは。
「流叶と付き合ってからは生活がど〜んと変わったかな。それまでは一軒家に一人で生活してたから家事全般は全部こなしてたけど、最近は全部流叶がやってくれるからね♪ 毎日3食美味いメシ作ってくれし、掃除もいつしてるのか分からないくらい家中綺麗だし、洗濯なんかも早いはやい♪ 毎日いいニオイのベッドで寝かせてもらってるよ♪」
怒涛のごとく飛び出す嫁自慢である
「のんびりしたい時はお茶に茶菓子♪ 前は和菓子と日本茶だったけど、最近は俺好みに紅茶や洋菓子までね♪」
「ああ、ソウいうのいいですヨね」
そこで口をはさんだのが、ラウル・カミーユ(
ga7242)である。
「彼女も、甘いモノ好きな僕の為に、一生懸命ケーキ作ってくれたりするんですヨ」
と始めたのを皮切りに。
「あとはねー、僕より少し年上なんだケド、誕生日祝うゴトにソレ気にしてるトコが可愛かったり、職場の窓際に枯れたサボテン並べるとか奇行が可愛かったり、うん、とにかく可愛い人なのデス。感情が表に出難いカラ、あまり表情変わる方じゃナイけど、僕はちゃんと分かるしネ!」
そうしてラウルからも次々出てくる恋人自慢。
‥‥こうなると、黙っていられないのか男性陣。
瞬く間に男性三名による「嫁可愛いよ嫁」大会となった。
「彼女は個人出版雑誌の記者兼編集者で、キメラの居る場所へ取材なんてするくらいなので割と破天荒と言うか無駄に活動的なんですが、先走って一人で現場に行ったり無茶をする事が多く、キメラを討伐した後に駆け付けた能力者に怒られるのを見ると犬っぽくて可愛いんですよ」
と、鷹秀。
「逆に割と焼きもち焼く事もある癖に交際から1年以上経つのに、手を繋いだりキスをするだけで真っ赤になってわたわたするんですよ、夜とか『離れちゃヤダ‥‥』なんて言ってきてもう俺を殺す気かと!? 何この可愛い生き物はと!!」
話すうちに徐々にヒートアップ。白衣をまとった理性的な青年の雰囲気はどこへやらである。
鷹秀が一段落した隙をついて、ヴァレスも負けじと話し始める。
「普段一緒にいる時は、流叶を抱いて過ごしてるよ♪ こう、膝の上に座らせて、後ろから抱きしめるんだけどね♪」
話しながら、ごく自然にヴァレスは実際に流叶を抱き寄せて膝に座らせていた。
「で、その状態で頭撫でると、気持ち良さそうにとろ〜んとした表情になるのがまた可愛いんだよなぁ♪」
口と同時に手が動くヴァレス。まさかの実演ノロケである。流叶は少し恥ずかしそうにしながらも、心地よくてつい目を細めて和んでしまう。
「んっ‥‥。あ、こら、ヴァレスっ‥‥!」
いつの間にか頭から腰のあたりに移動していたヴァレスの手に、流叶が突如身をよじり抗議の声を上げて。
「くすぐったり意地悪した時に、ちょっとむすっとするけど、怖いというよりは愛らしいというか♪ それが見たくて時々わざと意地悪したりするんだけどね♪」
そう言ってヴァレスは、ぷぅ、とむくれる流叶の顔を覗き込んだ。
「まぁ、これも全部俺だけの特権だけどねっ♪ 流叶は俺だけのもの、だからね♪ 奪おうとする奴いたら、世界を敵に回してでも阻止する。世界が流叶を敵としたら、それは俺の敵だよ♪」
大きく出たねえ、と一同が感嘆だか冷やかしだかの息を漏らす中、ラウルはうんうんと頷いている。
「愛の為なら何とだって戦えるよネ! 『あーん』してご飯食べさせたり、キスして照れる彼女を見てると、もう研究所に帰したくなくなるし」
研究所? 何気なく挟まれた単語に誰かが聞き返すと、彼女はとある軍に属する研究所に勤務しているのだとラウルは説明して。
「アノ中将を敵に回すのは怖いケド、いざとなったら戦えるヨ、彼女の為ナラ僕は!」
あの中将?
言われて一同は先ほどラウルが言った軍の組織を思い出す。
和やかにざわめいていた雑談会に、一瞬静寂が滑り込んだ。
その静けさを埋めるように一同の脳裏に響くのは、とある女傑の軍靴の足音。
あの中将。
――あの中将か。
「愛だね」
と、誰かが言った。
「愛だね」
と、誰かが応えた。
●愛しさと切なさと
「そういえば、今の今までお相手さんがどんな方なのかよく分からないままに聞き入ってしまってましたねえ」
A子がふと呟く。
「まあ、ヴァレスさんはよく分かるとして。確か、鷹秀さんが、週刊誌の女性記者さん、ラウルは、軍の研究員さん、ですか」
確かめながらA子は改めて一同を見まわし、クラリッサに視線が行く。
「まあ、わたしとあの人はごくごく普通の夫婦ですわね」
落ち着いた調子で、クラリッサは唇を開いた。
「お互いに傭兵ですから、すれ違いの日々も続きますけど、必ず私の許に帰ってきてくれると信じていますし、特に不安になる事も有りませんわ」
強がりでない、確かな絆がもたらす言葉に、A子から羨望の溜息が洩れた。
「さっきも言ったケド、僕の彼女‥‥今は婚約者にまでこぎつけたケド、軍指揮下の研究所勤務なんだヨネ」
落ち込みそうになっているA子に、ラウルが言葉を継ぐ。
「おかげでセキュリティ厳しいのなんのって、簡単に電話もかけられナイし、会いに行くのもダメ。会えるのは彼女が研究所カラ出られた時くらい。自慢じゃないケド、A子ちゃんの会えなさ具合には勝てる自信あるネ!」
どや顔で言うラウルに、A子は、それで平気なんですか? と不安げに問いかける。
「でも何てーの? どっかの国の昔の歌に、会えない時間が愛を育てるとか何とかあるらしーケド、ソレはホントだと思う。ま、寂しさに負けちゃうカップルもいるカモだケド、僕らは全然ダイジョブ。不安要素がナイ訳じゃないケド、立派にソレ乗り越えてると思うし」
そこにふ、と、どこか自嘲めいた苦笑が横手から聞こえてきた。
「私は、そんなに簡単にはいかなかったよ」
流叶だった。
「御恥かしい話だが、それまで私は恋という物を、した事がなくてね。その感情が好きというモノだと気付くのに、‥‥随分と時間が掛かったものだ」
そもそも、好きになった理由すら、いまだによく分からないのだという。
気付いたらそばに居て、気付いたら気になっていて、‥‥気付いたら、好きになっていた、と。
それでも。
「気付いてからはどうしようもなかったね、物思いに耽る度に、彼の事しか考えられなくなってしまった。‥‥結局、耐えられなくなって、告白したのも私なんだ」
告白、の言葉に、どこかで小さな歓声が上がる。
「まぁ、OKは貰ったけど‥‥、むしろそこからが気が気じゃなかった」
長期の仕事が有れば、落ち着かないくらい心配になるし、一緒に居る時は、どこまで甘えて良いのかの探り合い。
「共に居る為に、慣れない洋風にも手を出した。信じれば良いのに‥‥どうしても不安だったんだ」
A子はすっごくよく分かります、と、ぶんぶんと頷き、そしてお互い、駄目だねえ、と溜息を零し合う。
クスリ、と、クラリッサが綺麗に微笑んだ。
「白状しますとね? 私も、恋人同士になるまでは紆余曲折があったんですよ。好き合っていたのに、お互いに関係が壊れるのが怖くて、なかなか本心が言い出せなくて‥‥1年くらいは友人以上な関係が続いていたんです」
今考えるとその時間がもったいなく思う、とクラリッサは言った。もう少し勇気があれば、今のような幸せな時間をもっともっと長く楽しむ事が出来たのに、と。
「え? でもそれじゃあ‥‥」
お互い遠慮していたなら、一体、とA子がクラリッサに視線で問いかけて――
●告白はどうでしたか?
「‥‥告白ですか? あの人からしてもらいましたわ、南国の満天の星空の下で。何がきっかけだったかは分かりませんけれど、そのきっかけに正直感謝したいですわ。それでやっと踏み出せたんですからね」
ここで、返事は迷わなかったんですか? と、冷やかし混じりの質問に。
「まあ、確かに。あの人は万人受けするハンサムさんという訳ではないですね。でも、わたしにとっては最高の殿方ですわ。女性に時々に優しすぎるのがちょっと不満と言えば不満ですけどね」
軽く受け流して応えるクラリッサ。
「もう結婚して1年半にもなるのに、いつまでもわたしからのキスに照れ臭そうにするところとか、そういうところも愛しく感じられますわね」
そう言って、最後に、「‥‥あの人の良さはわたしだけが知っていれば良いと思っていますわ」と、そう締めくくる。
そうして、話は自然に告白の話へ。
鷹秀は出会いの経緯から順に語り始める。
「言いましたっけ? 彼女は無茶をする人なので、出会いのきっかけはキメラの居る場所への取材へ行くのでその護衛ですね」
そうして、『面白い人だなあ』と思ってその後の護衛の依頼にほぼ毎回顔を出していたのだが。
「彼女の仕事場で七夕のパーティの罰ゲームで「秘密を公開」というものを受けた時に、何となく形に成りきらなかった想いがハッキリしてその場で発表しました」
うんうんと聞いていた一同が、一瞬え? と考える。
「パーティだったから私と彼女以外の人達もいましたけど。あの時の驚いた顔は今も覚えてますよ」
皆の前で告白した、という話に、A子がきゃあ♪ と小さく声を上げた。
「それじゃあ、クラリッサさんが告白された方でー。流叶さんと鷹秀さんがした方ですか」
オペレーターの性なのか、何となく分類するA子。
「あ、でも。告白は流叶からだったけど、プロポーズは僕がしたよ?」
ヴァレスの言葉に、流叶はこくりと頷いた。
「‥‥私の不安を取り払う為に、ヴァレスが取ってくれた行動が、結婚の話、だったのかも知れない」
目を閉じて、流叶が想いを馳せる。
「‥‥告白より、より大きな告白を受ける事で、不安が、心配が、面白い様に消えていったのを‥‥今でも覚えている」
最も、それからたがが外れたのか、逆にもっと、離れられなくなってしまったけれどね。
言った瞬間、無意識にだろう、流叶がヴァレスの服をきゅ、とつかんでいた。
「まぁ、幸せなのは良い事‥‥かな」
最後にそう言ったところで。
「告白‥‥告白、ね」
震える気配と声とともに。
バン! と、テーブルが叩かれた。
●ある意味真打
一同が視線を向ければ、そこに居るのは今まで沈黙を続けていたエスター・ウルフスタン(
gc3050)が俯いて体を震わせていた。
「‥‥あのね、最初に言っとくけど、うち別に惚気たくて来たんじゃないのよ。むしろ、逆よ! 逆!」
叫んでから、ここからずっとエスターのターンとなった。
「で、まあ、告白の話だったわよね。うん。あのね。別にうちだってそんな、好きだからってすぐ、その‥‥つ、付き合うとか、そんな期待をしてたんじゃないのよ。‥‥でもね、だからって、あんまりにも鈍すぎるってのもどうかと思うの」
堰を切ったかのように話し始めるエスター。
「ていうかね、一番あり得ないのがね! うち、バレンタインにチョコあげたのよ。手作り。ハート形の。言っちゃなんだけど、うち料理下手なのに頑張ったのよ、火傷とかしてさ。それで、それ渡してさ。そいつ何て言ったと思う?」
ここで、一拍置いてから。
「『ありがとうエスター。頑張ったねー』」
相手の口調をまねるように言う。
「‥‥終わりよ? ええ、終わりよこれで。ハート形よ、普通なんかあるでしょ?! 信じらんないでしょ!! ‥‥頭にきてその後告白してやったわよ」
ああ、成程ここで告白につながるんですかー。納得しつつもまだ口をはさむ者はいない。
「しかも、ホワイトデーの時さ、手作りのケーキと、前遊びに行った時にうちが欲しがってたマスコットと買って来てさ? これなんだけど」
ここまで言ってふぅーっと溜息。
「『もうしばらく、返事待って』」
その時の気持ちを思い出したのか、エスターはがくりとうなだれて。
「NOって言われなくて安心しちゃったうちってどうなのよ!」
そこで言葉を止めたエスターに。
一同は、何も言わずにただ時折頷いて見守っている。
皆、自分の経験が、気持ちがあるから分かっている。今はまだ彼女に何か言うべき時ではないのだと。
かわりに、ただそっと促す。それで? と。
「‥‥まぁ、そんなわけでさ」
それを意識してかしないでか、エスターが、再び口を開いて。
「ま、まぁ、そうよ、そいつ確かにものすごいにぶちんなんだけどさ‥‥」
途切れがちになりながら、
「でも、そんな奴だけど‥‥優しかったり、かっこよかったりすることもあって‥‥だから‥‥」
溢れる想いを、確かめるようにゆっくりと零していく。
「‥‥ま、まぁ、そうよ‥‥」
そうして、ギュッと目を閉じて、赤らめた顔を上げて。
「す、好きよ! そいつのこと! 悔しいけど! 頭に来るけど! 大ぁぁぁぁい好きなの!! これでいいっ?!」
そうして彼女が全てを吐きだし終えると、一同、「はい、よくできました♪」とばかりに優しい視線を向けていた。
慰めの言葉をかける者はいない。
無責任な希望を焚きつける者も。
人の気持ちは簡単には分からないものだ。彼女も、彼女が言う「そいつ」も。どちらも何も悪くなくたって、上手くいくとは限らない。
だから何も言わない。ただ黙って、吐き出したい想いを受け止めるだけ。
‥‥いや、エスターだけじゃない。自分たちだって。いつまでも上手くやっていけるのか、保証なんてどこにもなくて。
それでも。
ああ‥‥やっぱり、幸せだなあ、と、A子はしみじみと噛みしめていた。
今恋人を想う自分、それだけが、きっと幸せ。
寂しかったり不安だったり、時には相手の言葉で傷ついたり。その痛みすら――甘やか。
改めて、今日集まった一同を見渡して、A子はそう感じた。
「すっきりしましたっ! 皆さん、今日はありがとうございますっ!」
A子が言うと、皆思い思いに、「いやいや」「楽しかったよ」と言葉を返し。
そうして、突発のお茶会は、和やかに終了したのだった。