タイトル:【UL】友達の友達マスター:凪池 シリル

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 35 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/03/27 14:49

●オープニング本文


 「それ」が起きたのは、時期としてはそう、『九連宝燈』の事件が起きたあたりの時期だろうか。

『マー、初めハ普通に、オマエらに恐怖与えてヤろうとシたんダけどナ?』

 時刻は日曜日、午前三時ごろ。

『ドーもおカしいと思ったんダ。僕のキメラ、やっぱりどう考えテも強クも恐ろシくもないナ、と』

 通常ならば、ラジオなど放送していない時刻。故に受信しようと思う者もいないはずの。

『だかラこそ不思議でナらなイんだ。なンでこんなモンが『伝説』として残るノか‥‥分からナいから次はムカついた。僕みたいな奴からすレば。ダカら‥‥実現すルことで、その『伝説』をコワしてヤれるなら、ソレも良カった』

 だがそれでも。電源を切らないままうっかり寝ていた者など、何人かが確かに「それ」を受信していて。

『でもマー、遊んでイラれるのもソウ長くはナいんダろうな。‥‥ウン、素直に認めヨう人間ドも。お前ラの一部はモウ僕なんカよりは強イんダろう。だからこそ僕は戦力的に惜しクない存在だ。九州戦線、コッチにも余裕がなくなってキたら‥‥オマエらとの決着はツけに『行かされる』ンだろうナー。そのうち』

 町のどこかで、偶然聞いていた者相手にそれは、淡々と流される。

『マアそういうわけダから、そのウチ僕が全力で全戦力でオマエらのところに襲撃かケることになると思ウ。‥‥ダガ。言ってオクがこの勝負、オマエらが不利だぞ? ハッキリここで言ってオく。【僕は、バグアの中では、戦力として最低だ】。【元々、戦闘担当ですらないからな】。だからなあ、【人類のエースども】。僕に一人でも殺さレてミろ。僕に建物一つデも壊さレてミろ。オマエらはモウ、希望じゃない』

通常ならば放送しているはずのない時間に流れたそのラジオは。だから、聞いた人間のほとんどが寝ぼけていて。

『‥‥最後に、僕の地上での名を名乗っテおくか。僕はココで自分をフォウフ、と名付ケた。friend of a friend、友達ノ友達のフォウフ。都市伝説を撒くモノとして』
 
 こんな放送を聞いた、と誰かに話しても大概「夢」「冗談」と笑われながら。


『キット伝説になれないダろう僕は、だから伝説を壊シにいく』


 それでも、「そう言えば知り合いがこんなことを言っていた」と、都市のどこかで細々と語られ、広がっていた。




『でもマア、そう言エば。【実現してしまったら、それはもう伝説じゃない】ノだっけか? コの手のは。‥‥やっパり僕は、伝説にはナれなかった、ナ』
 そうして。今彼女は、多数のキメラと幾つかのワームを従え。総攻撃をかけるべく一つの街を見下ろしていた。

●参加者一覧

/ 伊藤 毅(ga2610) / UNKNOWN(ga4276) / クラーク・エアハルト(ga4961) / ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280) / 三枝 雄二(ga9107) / 白虎(ga9191) / 鹿嶋 悠(gb1333) / 二条 更紗(gb1862) / アンジェラ・D.S.(gb3967) / ルノア・アラバスター(gb5133) / ソーニャ(gb5824) / 流叶・デュノフガリオ(gb6275) / ファリス(gb9339) / 八尾師 命(gb9785) / 沖田 護(gc0208) / ソウマ(gc0505) / セラ(gc2672) / 功刀 元(gc2818) / 御剣 薙(gc2904) / ハーモニー(gc3384) / 荊信(gc3542) / ミリハナク(gc4008) / ヘイル(gc4085) / 沙玖(gc4538) / リック・オルコット(gc4548) / 結城 桜乃(gc4675) / ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751) / 片山 琢磨(gc5322) / トゥリム(gc6022) / 立花 零次(gc6227) / BEATRICE(gc6758) / 住吉(gc6879) / 綾瀬 宗司(gc6908) / アメール(gc6923) / チナール(gc6924

●リプレイ本文

 緊急事態を受け、傭兵たちが作戦開始地点に集い、KVが地に降り立つ。
 地形を調べ、作戦を確認する傭兵たち。
 中でも、小隊「炎鎧鉄騎衆」の隊長二条 更紗(gb1862)は、同じ小隊から参戦する沖田 護(gc0208)、ソウマ(gc0505)、荊信(gc3542)の一人一人にしっかりと声をかけていた。
「荊信様もご無理は為さらぬように」
 小隊の中で一人、KVに乗りこもうとする荊信には、そう声をかける。
 荊信は明確な返事はせずにただニヤリと笑みを浮かべた。事実としては、無理をするなというのは難しい話だろう。彼はどちらかと言えばKVより生身での戦闘が中心だ。だから無理をするなという言葉にはっきりと答えは返さない。それでも彼が返すのは余裕の笑みだった。
「同じ小隊の仲間が居るのは心強いですね。例え離れて戦っていても、ね」
 その理由は、荊信でなくソウマが言葉にする。背後に、仲間がいる。自分は目の前の敵だけに集中すればいい。あとはきっとなんとかしてくれるだろう。荊信は改めて確信すると、KVに搭乗した。‥‥フォウフと、戦うために。
「それではソウマ様、沖田様、出陣しましょう」
 更紗はそう、力強く言って身を翻すことでそれに応えた。
「‥‥どうやら決着をつける時のようですね。まがい物の伝説は、僕たちで終わらせてみせます」
 ソウマがそう言って、彼女の後について行く。涼やかな双眸。だが、その奥には熱い闘志を滾らせていた。
 彼らは、何度かフォウフが起こした都市伝説事件に関わっている。
 故に。彼らにとってこれは、ただの防衛戦ではなく‥‥『決着』を意識した戦いだった。



『伝説なんざどうでもいい。敵として脅威となるなら、何より流叶に危害を及ぼす可能性があるなら、容赦無く潰す。唯、それだけだ』
 KVを駆り最前列に立つ一人、ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)は前を見据えそう言った。
『‥‥よくもそんな恥かしげも無く‥‥そんな台詞が言えるね』
 後方でそれを聞いた彼の妻、流叶・デュノフガリオ(gb6275)が呆れ半分に呟く。景気づけの宣言なのだろうが、何も通信網に乗せて言わなくてもいいだろうに。コックピットで溜息をついた。
『1体も、一撃も、通しては、ダメ‥‥。気は、抜けません、ね‥‥』
 流叶機の横に付けたルノア・アラバスター(gb5133)が、お守りと言って手首に黒いリボンを結びながら言った。
 彼女は事前に敵機を確認、配置と特徴をナンバリングして流叶に伝えている。
『管制‥‥と、フォロー‥‥よろしく、お願い、します‥‥』
 たどたどしく伝えるルノアに、流叶が頷く。
『ふむ‥‥ちょっと厄介だな、一斉のタイミング、此方で取ってい見ても良いかい?』
 流叶が前方のKVたちに呼び掛けると、各々が一斉に武器を構えジャキジャキと音が響き渡った。
 レーダーに敵影。射撃の構えに入るKVの状況を確認。敵位置。射程。
 タイミングを見極めて、流叶が号令を入れる。
 スラスターライフルの一斉射撃が、敵集団に向けて一斉に放たれる。面で制圧する射撃が、大群の進行を押しとどめ、あるいはそのまま薙ぎ払う。
 一斉攻撃が終わると、KVたちは各々に標的を定めて武器を構え直す。
 
 この度の戦い、規模が規模であるため多数の傭兵が集められた。これまでにフォウフが起こした事件に関わってきたものも、そうでないものも。
 故に、その胸に去来する思いは様々だ。
『フォウフとやらとの関わりはないですが‥‥街の防衛に理由は必要ないでしょう‥‥全力で守ります‥‥わずかな力ではありますが‥‥』
 BEATRICE(gc6758)が言うように、もっとも分かりやすい動機は市民に被害を出さないため、守るものの為、だろう。
 彼女は突出しようとするゴーレムに対し射撃を加え押しとどめる。
 目の前の相手の出足をくじいたのを見とめると、彼女は別の場所の援護に向かうべく視線を巡らせた。特に目標を定めず、遊撃として必要な個所に射撃を加えるよう動く目算なのだろう。
 綾瀬 宗司(gc6908)も同じように、後列からの援護射撃に徹していた。
『悪いが、まだまだ正面きって戦える腕前じゃないんでね』
 援護させてもらうよ、と、回線に乗せられた言葉は冷静に己と相手の戦力を分析した結果だろう。未熟を理解しながら、それでもこの状況の為にやるだけやる。その胸に去来するのはやはり、ただ一つのこと。
「街を守る。それだけだ」

「街を守る。それだけですね」
 期せずして、宗司と同じタイミングで同じことを呟いていたクラーク・エアハルト(ga4961)は、一体のゴーレムに標的を絞ると、そこに火線を集中させた。適宜周囲と応答しあい、孤立を避けながら、接近されないよう射撃を続ける。その間、足元をすり抜けようとするキメラに気付けば、可能な限りナックル・フットコートで踏みつぶしておく。
「折角引っ張り出してきた新型です。どれほどの物か、試させてもらいましょう」
 そこに敵に対する余計な感情は含まれていないようだった。
 敵の言い分に興味などない。情けや容赦をかける必要があるだろうか? いや。気にかける必要があるのは、街の、民間人の安全だけだ。

 リック・オルコット(gc4548)は、別翼でクラークと同じように戦いを繰り広げている。射撃中心にワームたちを相手取り、近づくキメラは踏みつける。敵に対しさしたる興味を見せない点も似通っている。
「うちの隊長を筆頭に、凄腕が集まってるんだ。せいぜい作戦成功報酬の増額の為に撃破させてもらう」
 ただ、コックピットで彼が嘯くのはそんな言葉だった。どんな戦いでなにが相手だろうが、ただ給料の為に頑張るだけさ、と。とはいえ、決して油断せず、気は抜かず。そこには確かに、彼なりの仕事に対する信念がある。

 その、リックの話に出てきた隊長、鹿嶋 悠(gb1333)は、今ちょっとした困惑の中に居た。
 悠もまたKVに乗り前線で戦っている。ゴーレムが比較的密集している地点を狙い定めると、盾を構えながらブースト。最大出力で突撃し、数体のバランスを崩す。そのまま周囲の敵に対し戦斧を振るい仲間が斬り込む隙を作るよう立ち回ろうとする。
 ‥‥その、戦術自体はうまく機能している。別段、目の前に居るのはありふれたゴーレムであり、熟練の傭兵である悠にとってはさして問題ではなかった。問題は、彼のすぐそばで戦う二機のKV。
『わわ、お兄ちゃんたちすご〜い! 混ざりたいっね♪ ね〜アルも混ざっちゃだめ?』
 そう言って割り込んできて、一機はゼピュロスブレードでゴーレムに突撃し、もう一機はそれに合わせてショルダーキャノンをバンバンと撃ちこんでいる。
 アメール(gc6923)とチナール(gc6924)の双子だった。
 ‥‥正直なところ、ゴーレムをまともに相手取るには機体性能も、その立ち回りにも不安があった。結果悠は結構必死になってフォローする羽目になる。ただ困惑の理由はそれだけではない。どうもこの双子たちの言う『お兄ちゃん』が、年上男性に対する一般名詞と言うわけではなく、はっきり自分へ何らかの意味を込めて用いられている気がする。だが、目下のところ悠には見覚えのない二人だった。
 だが。
『わーっ! チル助けてっ!』
 とりあえずそのことについて考えている暇はない。前に出ているアメールは、やはりフォローするにも限界があり、次第にその機体はゴーレムによって傷つけられていく。悠は強引にアメール機とゴーレムの間に割り込むと、下がるように指示した。

「九州といえば‥‥紫芋羊羹にデコポン、カステラに角煮饅頭と‥‥むふふ、食べ歩きでも致しましょうか〜」
 一方で、そんな場違いな呟きを洩らしているのは住吉(gc6879)だ。だが、マイペースなようでいて、その実きっちりと周囲との連携を心がけている。仲間からの戦況報告や支援要請は聞き逃さぬよう努め、都市に接近するキメラを少しでも減らすべく正確な射撃を心がける。
「一般市民の避難完了まで此処を死守する!! ‥‥なんて、一度は言ってみたいですよね〜」
 ヘビーガトリング砲でゴーレムを押しとどめながら言う住吉。目の前の相手の体勢が崩れたのを見て、一気に距離を詰めてスラッシュハンマーで一撃。
「あは〜、私の九州食べ歩きの為に‥‥とりあえず撃破されちゃって下さいね!!」
 咄嗟に出る一言に、どうも、食べ歩きが目的と言うのは景気付けの冗談ばかりとは言えないようである。

『皆さん! ここが踏ん張り時ですよー! 頑張って行きましょうー!』
 功刀 元(gc2818)はそう叫ぶと、傍らに佇む二機にサインを送る。恋人の御剣 薙(gc2904)と、兵舎仲間のドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751)機だ。彼らは三人でチームを組んで作戦に当たると事前に打ち合わせていた。
 一緒にKV戦ははじめてだねと、機体越しに視線を交わし合う恋人たちの横で、ドゥは少し物思いにふけっていた。
(随分呑気な襲撃者だ‥‥生まれる所が違ってたら)
 ほんの少し、浮かぶ想いにドゥはあわてて首を振る。今そんなことを考えてはいけない。
(こんな事許しちゃいけない。それは挑戦状を届けに来たこいつの為でもある筈だから)
 思い直し、彼は一度だけTWに視線を送り‥‥そして、今はただ、前を向く。
『二人は目の前の敵に集中して下さい! 周りはボクが引き受けます!』
『頼んだよ、元君。ドゥ君、行くよ』
 元の、薙の声に、ドゥも応え、そして三人はゴーレム部隊に正面から突撃していく。
 元が周囲の敵を射撃で牽制、あるいは意識を引きつける中、薙とドゥが一体の敵に集中。数的優位を生かして、速攻での撃破を狙う。
 とはいえ、全くの余裕と言うわけではない。今回、ゴーレムの数に対し前に出るKVの数にやや不安があった。結果彼らが引き受けることになったゴーレムの数は少なくなかった。対し薙とドゥの機体はゴーレムの相手をするには防御力にやや不安がある。時間をかければつぶされる危険も見えた。
 だが、彼らの表情に焦りは見られない。
 そこで、何か連絡を受けた元が二人に合図を送る。
 一度二機は距離をとると、三機同時に一斉射撃。
 まきこまれたゴーレムの群れが一斉に三機に目を向けると‥‥端の一体が突如、横手から機槍の一撃を受けて崩れ落ちた。
 ヘイル(gc4085)の機体の一撃だ。三人が作ってくれた隙を利用しての完璧な奇襲。そのままゴーレムたちに立て直す隙を与えず、続けざま弱っているゴーレムを狙い着実に撃破していく。



 KVたちが奮戦する後方では、討ち漏らしすり抜けてきたキメラに対応すべく、生身にて控えているものたちがいた。
「コールサイン『Dame Angel』、敵混成軍団を各員それぞれに適時役割を引き受け、迎撃撃退の任を負うわよ」
 後方に構え状況を見渡していたアンジェラ・D.S.(gb3967)が、交戦の気配を察して周囲に呼び掛ける。
 彼女が、いつでも援護と足止めの射撃を行えるようアサルトライフルを構えるのを背に、キメラを殲滅すべく傭兵たちが動く。

「ターボばーちゃんは沖田様に任せますので巧く引きつけて下さい、わたくしは其処をスルーして他を叩きますので」
 更紗の言葉に護は頷いて、AU−KV「バハムート」をまずバイク形態へと変えて軽く流す。
 同じ小隊員ではないが、共にターボばあちゃんを標的に定め協力すると申し出たトゥリム(gc6022)がそれに追随した。
「街はバグアのオモチャじゃないのにね」
 フォウフの放送を聞いていたトゥリムは静かに怒っている。何としても敵の野望をくじくつもりでいた。
 とはいえさすがにAU−KVに自分の足でついて行くのは無理があり、護もその辺を流していただけとはいえ、交戦開始時に多少足並みは乱れたが。
 ターボばあちゃんはその本能の通り、護に向けて掌を突き出してくる。護はそれを盾で受け、同時に後ろへ装輪走行。衝撃を逃がす。
 トゥリムが援護射撃を加える中、電磁波で反撃を加えた。
 経験のある相手。その性質も強さも、何ら変わりがなかった。それを確信すると、護は一体一体確実に、かつ時間をかけずに倒していく。

 そのそばで、更紗は突撃を加えるタイミングを、場所を狙い定めていた。
 やがて一点を見極め、そして。
「‥‥貴女の背後は僕が護ります」
 ソウマの言葉が、彼女の背中を最後にひと押しする。
「委細構わず突貫、刺し、穿ち、貫け!」
 彼女と同時に、彼女の騎乗するAU−KVが吼える。一気に加速、主に標的とするのは高い攻撃力を持つレッドハンドの群れ。そこに、更紗がAU−KVごと突撃、直線上全てを薙ぎ払っていく!
「こっちで動き封じる、ソウマはこちらの攻撃の継ぎ目に攻撃を、敵に休む間を与えず粉砕する、遅れるな」
 彼女の言葉に、そして宣言した己の言葉に従うように、ソウマは瞬天速で彼女に追いつくと、そのまま一撃離脱戦法で彼女の援護に入る。

「あいつは居るだろうか?」
 片山 琢磨(gc5322)は、何かを探すように戦場に視線を巡らせていた。
 彼が探すのは、例えば他の一部の傭兵がそうするように、戦術を効率化させるための特定のキメラ‥‥とかではなく。
 そしてそれは、簡単に見つけることが出来た。
「人々の悲しみの旋律に導かれ、魔奏少女 マジカル☆リリック今此処に参上!」
「世界を覆う闇のヴェールを、光の弾丸が穿つ! 魔弾少女隊、マジカル☆リボルバー!」
 明らかにテンションが別物の少女が二人。厳密に言えば、少女と少女っぽい何か、気の毒なので明言は避ける、だが。
 セラ(gc2672)とUPC軍として傭兵に協力する和歌山 茜(gz0402)である。
 茜は覚醒の影響でこうなっている。セラ‥‥今出ている人格はアイリスの方だが、は、どうやら楽しんでいるようだ。
「ああ、いたな」
 琢磨は呟いて、彼女たちの援護に向かうべく近づいて行った。
 同時に、同じく彼女たちに近づく人物がいた。
 だが彼らは、最終的には自らの意思ではないところで彼女たちに近づくことになる。
 接近を感知したイエローハンドがその手を伸ばし、引き寄せてきたのだ。
「引き込まれる? 歓迎だな、近付けば終わるということを思い知らせてやろう」
 そうして、琢磨とは別のもう一人は不敵にそう言った。
 機械脚甲「スコル」を纏った蹴りを放つのは沙玖(gc4538)である。スライムに合わせた装備と言うことだろう、三色ハンドや斧男も問題なく相手にしていく。
「この孤高の黒鷲の爪の前に、どこまで持つかな?」
 ニヤリと沙玖が笑みを浮かべる横で。
「相変わらず、彼女の周りは、楽しい、な」
 カオスのさなか、琢磨は一人冷静に剣をふるって援護していた。
 いや、厳密には騒ぎつつもアイリスの目はいつもの通り冷静なままだ。彼女はブルーハンドを難敵と定める。事実、普段は防御力を頼りに戦術を組む彼女にとって、張り付き直接攻撃を加えてくるブルーハンドとは相性が悪い。故に彼女は、近寄らせないようエネルギーガンでの射撃を中心に攻撃していた。
「フレイム・バレット、後ろは任せたぞ!」
 沙玖の言葉の通り、茜はその少し後ろで別の敵に銃撃を加えている。
 小隊や軍隊ほどの洗練さはないが、なんだかんだでここも一つのチームとして機能してはいるようだった。
 ‥‥まあ、それでもやっぱり、冷静に見るとカオスなんだが。

 立花 零次(gc6227)は超機械『扇嵐』で一体一体キメラを撃ち落としていく。なるべく距離があるうちに一体でも多く落としたいが、数の多さに苦戦している。結城 桜乃(gc4675)が射撃を重ねフォローに入った。斧男を中心に桜乃は撃ちこんでいくが、軟体を持つ相手に彼の武器はやや火力が不足している。押し切られそうになったところで、突如熱線が彼の前に居る一体を焼き払った。
「無理をせず。一度、下がりたまえ。こちらで治療しよう」
 後方に構えていたUNKNOWN(ga4276)が声をかける。
 その手にはエネルギーキャノン。そのまま、左右に動きながら彼は射撃を続けている。余裕の漂う態度からその動きは一見ふらりふらりとしたもの見えるが、実のところは素早く動いている。
 そうして、隙を見て下がる傷ついた傭兵たちに、八尾師 命(gb9785)が治療と支援を施していく。
 彼女たちがいる位置はもう、街の入り口にほとんど近い。
 だが幸いにして、これまで、その横をすり抜けるキメラは――いない。



 そうして、戦いは、この戦闘の要である‥‥TWの元へ。
『ドラゴン1、砲撃開始』
 伊藤 毅(ga2610)はそう言って、シールドを構えながら距離を取って攻撃する。スラスターライフルをばらまき、時折ミサイルで牽制。火炎放射の射程を見極めようとする。
『弾道データ送受信、射線に注意』
『了解こちらドラゴン2、測距データ受信確認、FCSに入力』
 毅の呼び掛けに応えたのは同じ380戦術戦闘飛行隊に所属する三枝 雄二(ga9107)。
『敵機射程内に捕捉、ドラゴン2、攻撃開始』
 同小隊というだけでなく、二人共元航空隊パイロットとあって連携はばっちりだった。
『弾道データ修正、先輩次当てるんで足止めお願いするっす』
 雄二の要請に応じて毅が射撃開始、雄二は宣言の通り、ショルダーキャノンの一撃で一体のTWの横面をはたいて見せる。
 その隙をついて、ヴァレス機とファリス(gb9339)機が強化人間の乗るTWに狙いを定める。
『なんの罪もない街の人々を危険に曝す訳には行かないの。ファリスが護るの!』
 ファリス機がレーザーカノンを構えるのを見ると、ヴァレス機はブーストをかけて一気にTWの懐に潜り込んだ。
 ファリス機はそのまま、火炎放射の射程の外から一方的に射撃を加えていく。狙うは前に戦った時と同じように、砲台中心。
 だが、そこでここまでとは少し勝手が違っていた。
 ゴーレムやキメラ戦は、これまでの知識をもとに傭兵たちは優位に戦いを進めていた。
 だが、TWは有人機、知能ある相手なのだ。向こうだって学習する。前回と同じ作戦をとれば、当然予測もしやすくなる。砲台を狙った攻撃は、何度かは回避され、何度かは不完全なヒットとなる。
 だがそれでも、ヴァレスの機体性能と傭兵としての練度は高い。
「‥‥街に入られたら、街の人達が苦しむ事になるの! だから、ここで食い止めるの! どんな事があってもここは通さないの!」
 そう、ファリスが叫んで、必死になって撃ちこんだ攻撃を、それによって発生した傷に重ねるようにして攻撃を加え、一撃を深いものにする。
 やがて、砲台が傾き、その根元と甲羅の間に大きな隙間が生まれ。
「この一撃、耐えられるかっ!」
 ヴァレスはそこに、最大火力の一撃を叩きこむ――

 そして、TWの、もう片方。バグア人の乗る一体――。
「あのラジオは奴の挑戦状だ。こちらも受けて立つからには街にも人にもノーダメージの完全勝利で奴を叩き潰すにゃ!」
 そう言ってまず飛びこんでいったのは白虎(ga9191)。正確には彼はTWではなく、そのすぐそばに居るゴーレムに向かい。
『さあ、行けい 決着をつけてこいにゃー』
 白虎の言葉に応じ、まっすぐTWに向かっていくのは二機。
 うち片方、ソーニャ(gb5824)は都市伝説事件に関わるのは初めてだ。それでも彼女は、あえてまっすぐにTWの元へと向かった。
 そしてもう一機。これまで何度も都市伝説に関わってきた、荊信のもの。
(笑いやしねぇぜ‥‥奴が来たんだ。なら本気の喧嘩をしてやるのが漢ってモンだろ)
 彼のKVの性能は、バグアの搭乗するワームとまともにやり合うには十分とはとても言えない。だが、彼にはやりたいことがある。そのためには、このTWの間近で戦う必要があった。
 しかし、やりたいことの前に自身が墜とされてしまっては何の意味もない。まず彼は盾を構えての牽制射撃を行った。
 機動力の高いソーニャ機が撹乱すると、ハーモニー(gc3384)が後方から射撃を加える。緊急性をかんがみて、ハーモニーのゼカリア改からは虎の子の420mmも惜しみなく放たれて、そして。
 もともと戦闘担当じゃない、というフォウフの言葉はブラフではなかったのだろう。
 攻撃力などはともかく、反応としてはむしろ強化人間のほうが高かったかもしれない。
 あらかたゴーレムを潰し終えた味方の援護が入り始めると、バグア人として警戒していた傭兵たちが拍子抜けそうになるほどあっさりと、TWは動きを、停止した。
 油断なく様子を見ようとする中、荊信は一人素早く動いていた。
 ――KVから、降りたのだ。
 はっきり言って無謀極まりない行為である。今TWが再起動しその兵器からの攻撃を受ければ生身ではタダでは済まない。
 ‥‥だがそれでも、これまでの戦いを振り返り、彼はそうした。
「おい! まだくたばっちゃいねえだろ! さぁ、出てきやがれ! 手前のキメラともやり合って、ジハイドの1すら止めた皆遮盾荊信だ!」
 動かなくなったTWに向けて、荊信は呼びかける。
「伝説を作りてぇんだろ? なら残してやらぁ‥‥この皆遮盾荊信の戦果にその名を刻んで逝け! 不足たぁ言わせねぇぜ!」

「さぁ、『お前の伝説』か『俺』か、ケリをつけようぜ!」

 荊信が叫び終わると同時に――TWのコックピット部分が、弾けた。
 ワームを、一撃で、内部から破壊し‥‥そして一人の女性、女性にしか見えないその存在が、中からはいずり出てくる。
 そして、その体からは‥‥最後の命を燃やしつくそうとする、その凄みがはっきりと見て取れた。
 荊信はニヤリと笑い、盾を構え‥‥そして、フォウフはその盾に向かって真っすぐに、その全身ごと拳を突き出してくる!
 全霊を持って受け止めた荊信の体を、受け流しきれない衝撃が走る。その体が軽く宙に浮き、後方へと弾かれる。
『勝負、勝負、カ‥‥』
 そして、フォウフもまた、ニヤリと笑って。

『ああいいトモ‥‥勝負はマダ続ける‥‥だが見誤るナ! 僕が仕掛けル勝負はあクまでコッチだ!』

 そうしてフォウフは、体勢を崩した荊信の前から急に方向転換、まっしぐらに街に向けて走りだす!
 誰かが、いや誰もが警告を発し、慌てて武器を構え直す。
 だがKVでは咄嗟に小さな標的に精密な狙いをつけることは難しく、倒しきる前にあっさりとその射程圏から逃れてしまう。
 近接武器を持つ者は、彼女の移動線上にいない限り、追いついて一撃を加えるのは無理があった。
 どうにか、射撃武器を持つものが慌てて彼女に幾度かはダメージを与え――UNKNOWNのエネルギーキャノンもその内に入っていたが、それでも、彼女の最後の行進を止めるには至らない。
 そして。
 彼女を最後に迎え撃つのは。
「その挑戦を受けて立ちますわフォウフ」
 街の一歩手前、街へと続く道の上で仁王立ちし、最終防衛線となっていたミリハナク(gc4008)――
「守る為にすべてを破壊してあげますわ」
 宣言し、エースアサルトの名のもとに、その破壊力の全てを込めた剣を構え。

 二人が、激突する。

 真正面から膨大な破壊力がぶつかり合う、すさまじい衝撃が周囲に伝わり、そして――。




 後日。
 この都市に。
 一つの伝説が生まれた。

「こないださー、軍と傭兵が凄い集まってたじゃん。あのとき、マジやばかったらしいよ?」
「ああ、なんか偉い数のキメラが押し寄せてたんだって? でもすごいよなー。そんな状態で、傭兵たちは街を守りきってくれたんだろ?」

 無傷で街を守り切った傭兵たちの活躍は、長く都市の人たちに語り継がれ。
 そして――その元凶となった『彼女』の名は。

 街に到達することのなかった『彼女』の名は――残って、いなかった。


 そして、この作戦に参加した傭兵たちにとっても。
 多くの者にとっては、ただ、一つの依頼が終了した、それだけに過ぎない。

「――で、君たちは一体?」
 戦い終わって悠がしたことは、アメールとチナールに問いかけることだ。
「あ、ユウ兄はアルとチルのことわかんないんだっけ?」
 そういってアメールはごそごそと手紙を取り出して、悠に手渡す。
 要約すると「二人の面倒宜しくね♪ byパパ」と書いてある手紙に、概ねを把握して悠はがっくりと崩れ落ちた。
「あのクソ親父‥‥」
 呻くがしかし結局。
「‥‥行く当てがないのなら付いて来なさい」
 二人から事情を聞くと、大きな溜息とともに悠はそう言うのだった。

「あー‥‥お疲れ様。協力、感謝するわ」
 茜は、いつもの通りフレイムバレットの服装からUPC軍服に着替えなおすと、共に闘った面々に声をかける。
 ‥‥特に、戦闘後落ち着きがない様子の沙玖に。
「あはは‥‥本当、覚醒終わった後の後悔タイムはやんなっちゃうわよね」
 苦笑しながら茜が話しかけると、沙玖は「あ、ああ‥‥」と曖昧な返事を返した。
「まあでも、今回はおかげさまで被害もなかったみたいだし、凹むのもほどほどでいいかな。‥‥っていうかなんか最近、あんたがいるとちょっと気が楽かも。いつもありがとうね」
 そう言う茜に、沙玖が咄嗟に返事が出来ずにいると、気がつくと茜は他の傭兵たちに挨拶に行っていた。
(あ、和歌山にバレンタインのお返し持って来てない)
 ふと、沙玖はそんなことを思っていた。

「都市伝説? ‥‥そう在りたかったのなら曖昧な噂だけ流していれば良かったんだ。そうすれば勝手にカタチになっただろうに」
 ヘイルが誰にともなく呟くと。
「妖怪変化の類は、人の感情が“よくわからない何か”に仮の名前と姿を与えたものっす、実現してしまえば、それはもう恐怖(何か)とはいえなくなるっす、その辺を彼女は見誤ったっすね」
 偶々聞きとめた雄二が、それに答えた。それから雄二は、でも、愛すべき勘違いっすよ、と言って軽く哀悼の意をささげる。
「‥‥只の敵として相対された以上、俺達に何を言われても慰めにもならないだろうよ」
 ヘイルはただ、そう言って肩をすくめる。

 その他にも、ぱらぱらと。
 傭兵たちの大半はただ、簡単な言葉のみで軽く事件を振り返り、労をねぎらい合うと。
 ただそれだけで、終わりとなって、解散していくだけで。

 それでも、一部の者にとっては――




「友達の友達に聞いたんだけどね?」
 こうした形で語られる事柄は、大概眉唾ものであることが多い、と言われる。
 語り手の多くは、概ねその『友達の友達』が誰のことかなど把握していない、ようするにソース不明の情報であることが大半だからだ。
 故に、『友達の友達』もまた、実体のない、あやふやな存在。時に「都市伝説の出所」として紹介される。
 だが。
 それを名乗った『彼女』は。

『やぁ
 友達ノ友達のフォウフ
 君の話は聞いたよ

 君はヘンなコだね
 ヘンなコは嫌いじゃない

 君は伝説に成りたい?
 伝説に成れないのならと、それを壊したかった?

 君は伝説になって人々に記憶されたかった?
 しかし伝説は実体を持たない
 実体からかけ離れる
 もし君が伝説になっても記憶される君は君じゃない

 伝説になって多くの人々に語り告がれるより
 一人の友達に記憶される方がずっと素敵な事だよ
 ボクが覚えていてあげる
 回線を開いて顔を見せて
 声を聞かせて
 君の好きなものはなに?

 古来より人は家族、友人が敵味方に別れ戦った例は多くあるよ。
 立場が違い敵味方にわかれても友達にはなれる

 もし君がバグアを捨ててボクの所に来るなら出来る限りの事をしよう。
 まぁ、捕虜扱いでかなり自由は制限されるだろうけどね。

 それが出来ないのなら、
 友達として殺し合おう
 生き残った方がその思い出を抱く
 友達ノ友達のフォウフ
 これからは
 ボクの友達のフォウフだよ』

 それは、TWで戦いを続ける最中ソーニャが語りかけ続けた言葉。
 高速艇の中でソーニャがそれを思い返す中。
「結局お前は何がやりたかったんだ? 伝説なんてなぁ、なろうとしてなるモンでなく、なっちまってるモンだぜ」
 荊信が、盾を、腕をさすりながら呟いていた。
「ま、詮索なんぞしても意味は無ぇか。お互い好き勝手をやって片方が勝った、それ以上でも、それ以下でもねぇな」
 そう言って煙草をふかす荊信を見て、ソーニャは、初見のボクが友達を名乗るにはちょっとおこがましかったかな? と思いながら‥‥それでも、感じるのは満足だった。

 『彼女』は伝説にはならない。
 なれるわけがない。
 ソーニャの呼び掛けに応じ、姿を見せてしまったのだから。
 『友達の友達』が示す通り、あやふやなままの存在でいればまだ、どこかで語り残される可能性はあったのに――
 でもきっと彼女は、勘違いではなく、分かっていてそうしたのだ。

「伝説にはなれずとも、私は貴女のことを覚えてあげますわ」
 ミリハナクが言った。
 都市伝説を作り、伝説を壊そうとしたバグア、フォウフ。
 彼女は最後、己が『伝説』となる可能性を壊し――そして、一部の者の『思い出』となることを選んだ。

 ‥‥宣言通り‥‥最後まで、彼女は『伝説』を実体化し、壊したのだ。彼女自身の『伝説』ですら。

 だからこれで、『彼女』の事件は、お話は、これでお終い――