タイトル:【SL】残念チョコレートマスター:凪池 シリル

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/02/13 22:10

●オープニング本文


 ども。天の声っす。
「ふふーん♪ ふふーん♪」
 今日は茜さんはオフの日のようです。鼻歌と共に部屋に広がるのは甘い香り。
「ショコラクラシック完成ー♪」
 軽く浮かれた様子でオーブンから天板を取り出すと掲げます。
「‥‥いいじゃない、好きなんだから‥‥」
 そして直後に天板を下ろしながら遠い目になる茜さん。
 もともとお菓子作りもチョコレートも大好きな茜さん(29歳)、この時期になるとあちこちの店にこれでもかと並べられる製菓材料に、ついうっかり作ってしまうことはやン年。
 かくして毎年作られる自分チョコの腕前は、「どうせあげる相手もいないのに」というやけ気味な気持ちをパワーに変えて年々目覚ましくレベルアップしていっております。
 ‥‥そんな目で見ないであげて? 優しさってときには残酷なのよ?
「いやだってさー。この時期にチョコレート食べる権利があるのは恋人だけみたいな風潮よくないと思うのよ。誰にだって甘いもんは平等に与えられてるわ一年中。誰かがそれを主張しなきゃいけないのよ、うん」
 誰にともなく呟いても返事する相手はいません。すいませんあっしには無理なんで。しーんとした部屋に空しさが加速したのか、逃げるように視線を窓の外へやります。
 本日所謂小春日和。空気の冷たさは厳しいですが日差しは柔らかく風も穏やかです。
「出かけよっかなー‥‥」
 誤魔化すように呟いて、出来たチョコレートケーキを一切れ切り出して紙袋に包むと、ぶらぶらというかふらふらというかそんな感じで出かけていく茜さんでありました。



 適当に街を――言うまでもありませんがイベントに関しては執拗なまでに商魂たくましい日本のこと、この時期街はバレンタイン一色でございます――散策した後、公園にやってきた茜さん。
 缶コーヒーでも買ってくるかと、一旦、購入した文庫本ともってきたチョコケーキの紙袋を置いて離れ、

 ――後に、紙袋は無残な姿で発見されました。

 文庫本は無事です。ただ紙袋が引き裂かれ、僅かなチョコケーキの屑だけが残り、そこにケーキがあったのだろうな、という痕跡のみが残されております。
「‥‥‥‥え”」
 勝手に食べられた? そう思う茜さんにまず浮かびあがる気持ちは怒りよりもドン引きだったみたいです。まあ、公園のベンチに置いてあるよくわからん食べ物を勝手に食い散らかすとか怒りよりも先に「ないわー」って気持ちになるッすよね日本人の感覚では。

 うんざりしていると、街の方で悲鳴が上がるのが聞こえてきました。
 咄嗟に駆け付け、騒ぎを起こす人の一人を捕まえて事情を聴く茜さん。オフなのにご苦労さまです。
 で、話を聞いてみたところ、なんと一体のキメラがコンビニを襲撃、で、なんでか知らないけどチョコレートを強奪してあっという間に去って行ったそうです。
「なんでキメラがチョコレート‥‥バグアにチョコ好きでもいるの?」
 なんかもー。なんだかなー。あははー。みたいな虚ろな顔で成り行きを見守る茜さん。
 ちなみに茜さんは別にカップルに嫉妬とかそういうのはないみたいです。なんかもうとっくにそういうのは通り越して悟りの境地みたいです。
 年季のなせる技ですね。おっと誰か来たよう(略

 ごほん。失礼しました。気を取り直して。

 とりあえずUPCの皆さんが市民の避難と区画の封鎖を開始して。茜さんはなんか。どうしたもんかなーと立ち去るに立ちされないみたいです。っていうかこう、なんか色々とどろどろするものがあるところに、ちょうどぶつけ場所を見つけちゃった感じでどうしようかな的な?

 まあ、色々とどうにかしてあげてください。

●参加者一覧

漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
マルセル・ライスター(gb4909
15歳・♂・HD
月城 紗夜(gb6417
19歳・♀・HD
ファリス(gb9339
11歳・♀・PN
橘 銀(gc2529
27歳・♂・HG
セラ(gc2672
10歳・♀・GD
沙玖(gc4538
18歳・♂・AA
緋本 かざね(gc4670
15歳・♀・PN

●リプレイ本文

 さて、まずはキメラ退治です。
 もともとこの季節っすから。チョコを買い求めてた人は多いんすよね。セラ(gc2672)さんなんかは鞄をパンパンにして歩いてたりなんかして、だからこの依頼が来た時には丁度いいので囮役をすると言ってきました。
 ええ、囮作戦の有効性は多分に証明されてます。ここでいったんカメラを戻して茜さんがいた公園。あの時、同じようにベンチで休んで、同じように缶コーヒーでもと離れてった人が存在したんす。月城 紗夜(gb6417)さん。
 戻ってきた彼女が見たのは一欠片も残さず消失していた大量の製菓用チョコレート。その様を見た紗夜さんは茜さんと違っていまだその場から動けずにいます。ええもう、誰かと違って用意したのは恋人に渡すためのチョコの材料っすから。ULTオペレータから付近でキメラ発生、対応要請の連絡が入ると、むしろ自分のいないとこで対応したらお前も刺す、くらいの二つ返事で了承してました。
 そんなわけで依頼を受けて連絡を取り合った皆さん、公園があるならそこに誘導すれば被害も少なくて済むだろう、てな感じで作戦が立てられます。立案は主に橘 銀(gc2529)さん。チョコでキメラを誘導するのはいいとして、途中で進路をそれられては困る、と、他に標的となるような商店や店がないルートを選定します。
 で、作戦開始。囮役は指示に従いキメラの元へ、それ以外は誘導先の公園に潜伏です。
 セラさん、キラーン☆とチョコを取り出しキメラを誘い。
「その様まさにカウボーイ!」
 ひらりひらりと旗振るようにチョコを翻し‥‥ってそれ多分、マタドールって言いたいんとちゃいますか。
 そのまま公園まで誘導すると、罠にかかったキメラに、まず漸 王零(ga2930)さんが瞬天足で強襲。振るうは魔剣、その身に纏う凶装と合わせ凶魔剣「ディスティルフィングスレイブ」‥‥舌噛みそうになった、をキメラに叩きつけます。
「カブトムシか‥‥しかもロボだと‥‥色々惹かれる要素が‥‥無いな、うん」
 そんなことを言いながら出てきたのは沙玖(gc4538)さんです。うん、キメラだからね。カブトムシ部分はやたら生々しくカブトムシで、そこに機械がわりと痛々しく接続されてて結構見た目グロイっすからね。
「俺の左腕の疼きを止めてくれるのか? 来い、相手をしてやろう!」
 てなわけで遠慮なく壊させてもらおう、とばかりに沙玖さん、覚醒。背後に回ってから斬りかかります。狙うのは羽の下の部分。ちょいと難しい位置で、何度か羽ばたく羽に弾かれたりもしますが、こっから攻撃するのは腹部へのチョコを気にしてのこともあるみたいっす。
 ファリス(gb9339)さんも相手の防御力は警戒してなんでしょう、槍を使って外骨格の継ぎ目なんかを狙って攻撃です。狙うときは一発集中、刹那を使って確実に当てていきます。ちなみに今日は魔槍少女ファリスへの変身はないみたいっすね。実は茜さんにはもう会ってて、傍で待機もしてるんですが。非番と聞いてそのまま休んでいるよう言ってました。そんなわけで彼女も今日はそのままで闘うことにしたみたいっす。
 ちなみに、誘導が終わった後も盾を構えて皆の援護に徹しているセラさんも魔奏少女はなしで相変わらずのまま闘ってます。‥‥えーとだから、ファリスさんが魔槍少女でセラさんが魔奏少女でよかったっすよね? え? 魔奏少女はアイリスさん。はーそうでしたか、すんません。いいじゃねえかこまけえことは。
 銀さんは後方から援護射撃中。死角を補ったり飛び立つのを牽制したり、遠距離武器の一歩引いた視点ならではの活躍をしております。
 まー、こんな感じでもう傭兵たちの圧倒的有利状況なんですが。あ、いやでもあれ。ちょっと苦戦してる人がいますね。マルセル・ライスター(gb4909)さんですか。キメラに向かって弾き飛ばされ、そんで。
「貴女の力が必要なんです!」
 と茜さんに向かって叫びます。茜さん、事前にマルセルさんから渡された衣装を抱えてはいるんですが。ただ残念、この手の作戦ってのは空気読まずに一人でやるのは厳しいもんで。
 他の皆は真剣に普通に戦ってる、いやむしろ。
「金返せ、チョコレートを綺麗なまま返せ、キメラ汁で汚れたチョコレートなどアイツに渡せるかボケ」
 一人本気でブチギレモードな人すらいる状況(言うまでもないと思いますが、紗夜さんです)で、ピンチを装うのはちょいと無理があったみたいです。
 茜さんは、なんかもう、いいか、と静観モードに入ってます。
 ってことで。
「お菓子を奪うだけでなく、見た目も大っ嫌いな虫なんて! 最低! 絶対、許さない!」
 魔法少女と聞いて、対抗して魔女っ子ハット、戦闘用ドレス、仕込み箒というトンデモファッションをしてきた緋本 かざね(gc4670)さん。えーと、今回面白い服装をしているのがあなた一人になってしまいましたが‥‥。い、いやまあ、普通に若くてかわいい子がやるならありだようん。大丈夫。

 てな感じで。
「ふむ‥‥こんなところか?」
 王零さんが言う頃には、うん、残念ながらこんなところではないっす。明らかにオーバーキルっす。そんな感じで勝利でした。



「お疲れー。あ、とりあえずこれは返す」
 マルセルさんに衣装を返しつつ、茜さんが皆に声をかけます。マルセルさん、内心は残念でしょうが表には出しません。
 ファリスさんやら、知った顔が結構いるのに気がついて。
「よかったらちょっとうち寄ってかない? ショコラクラシック‥‥チョコケーキが余っててさ」
 声をかける茜さん。ちょっと遠慮する一同。
「ふむ、チョコケーキかね? 構わなければ俺も相伴に預かりたい、ね」
 そんな中、最初に返事をしたのは銀さん。
「甘い物は好きな方なのでね、それに美人からのお誘いだ、断る訳にはいかんよ」
 さらりとそんなことを言ってのける大人げです。
「あらありがと。まあそういうわけだから、他の人も遠慮してるなら構うことないわよ?」
 茜さん、美人と言われて、きゃっ、とかなるほどうぶじゃありません。「大人の社交辞令」と冷静に受け止めてこちらも大人しく返します。いいんだか悲しいんだか。
 まあそんなわけで茜さんが歩きだして銀さんがついて行くと、なんとなくの流れで他の人も付いて行くのでした。
 ちなみに沙玖さんだけは、部屋に到着しても、
(いいのか? これ? 女性の部屋だぞ? 若干緊張するのは、やっぱり部屋が女性らしいからか?)
 とちょっと遠慮気味でした。こちらはまだ青春真っ盛りのシャイボーイのようっすね。

 そんなわけで、9人はちょっと手狭ですが部屋に上がって、紅茶かコーヒーと共にショコラクラシックがふるまわれ。皆で和気あいあいとつつきます。
「‥‥このお菓子、美味しいの! 姉様、もう少し貰ってもいい?」
 ファリスさんが言うと、茜さんはにこにこともう一切れ切り分けて。
「ファリスも茜姉様みたいに美味しいお菓子を作ってみたいの。姉様、ファリスにも教えてくれると嬉しいの」
 ファリスさんの申し出に、「いいよ」と茜さんが快諾すると、セラさんと紗夜さんも私も私も、とばかりに視線を向けます。かざねさんは、ちょっと遠慮がちな顔をしていて。
「どしたの?」
「あーいえ。私が作ると大惨事になる可能性がっ」
 躊躇うもその顔には「でも、せっかくのバレンタイン。あげるなら、手作りの物も用意したいよね」とか書いてあります。
「ん、簡単なものからだし、なんなら見てるだけとかでもいいよ。そうやって覚えていく手もあるしね」
 茜さんがそう声をかけると、かざねさんもとてとてと台所に向かっていくのでした。
 男性陣では唯一マルセルさんが、ついでに自分も作りたいものがあるから台所を借りていいか、と尋ねます。これも気軽に了承されます。
「Schokolade macht gluecklich。(チョコレートは人を幸せにする)。ドイツは消費・生産世界一のチョコレート大国。技術も質も一級品だよ。良かったら食べてね」
 そんなことを言いつつ、女性陣とは別の場所で準備を始めるマルセルさん。
 そんなわけで、お菓子作り会、スタートです。

「セラはアップルパイとかゼリーをよく作るけど茜さんは何が得意なんだろ?」
 雑談混じりに、しかしどこか真剣な空気で女性陣はチョコ作りに励みます。
「手作りと言うのが、やはりいいよな」
 言うのは紗夜さん。冷えても美味しいのは、ガトーショコラやザッハトルテだと思うが、個人的には、フォンダンショコラも捨てがたい、などと何を作るか悩みつつ。
「‥‥ストレートに気持ちを伝えるのもいいが、やっぱり手紙など付けた方がいいと思うか?」
 ちゃっかりと恋愛相談なども持ちかけ出します。このメンツでそれは‥‥とか思いきや。
「そうねえー。普段はどうしてるの?」
 意外と親身に話を聞く茜さん。
「特別な日、ってのは、特別なことやるチャンスだからさ。やっぱりその感じを出すために意識してみるといいと思うのよ。普段『好き』って言葉にしてる方? 出来てないなら、直接ちゃんと伝えるのが一番嬉しいんじゃないかな。してるなら逆に、カードとかでいつもと違う感じを出す」
 茜さんの言葉に、ほう、と頷く紗夜さん。
「いいわよね、青春。だけど油断しちゃだめよ! 時はあんたが思ってる以上にあっという間に過ぎるわ。10年後に後悔しないために、今を精一杯やりなさい!」
 ‥‥重てえ助言っすね‥‥。

 さてそんな女性陣をなごみつつ見守る待機組男性陣三人。
「しかし‥‥和歌山はお菓子作りが趣味なのか? ‥‥まさか偽装で作っていたらうまくなったとか漫画みたいな展開だったりするのか?」
 間をもてあましたのか、王零さんがそんなことを呟きます。
「‥‥そういう王零は、バレンタインとかの予定は?」
 リアクションに困ったのか、沙玖さんが話題を変えるようにそう聞くと。
「む。我か。まあリア充かどうかで言えばかなりのリア充だからな」
 余裕の返答でした。
「いや、そんなら逆に別の女性の部屋とか上がり込んでいいのか?」
「もう、その程度で揺らぐほど浅い信頼でもないからな」
 余裕綽々でした。
 いたたまれなくなって視線を銀さんに向け直す沙玖さん。
「バレンタインかね? 毎年のチョコの特売は楽しみだ、よ?」
 銀さんは、肩をすくめてそんなお返事。
 寂しい答えながら大人の気品なんかも感じられたりして、やっぱりちょっと気圧され気味な沙玖さん。しょうがないので、目の前のショコラクラシックをまた一口、パクリといただくことにします。
(‥‥美味い)
 それでも、それなりに今幸せそうな沙玖さんでした。



 お菓子作りも大体終了。女性陣の大半は、オーブンレンジに張り付いて完成を心待ちにしています。
「――一度落ち着いて聞いてみたかったのだが」
 そんな中、ボウルを洗ったりしてた茜さんにふと声をかけるのは。
「‥‥セラちゃん?」
「【アイリス】だよ、私はね。‥‥別の人格で困っていると聞いてね。周りから見れば面白いが本人としては深刻だろう。ならば同質の者に愚痴を言うだけでも楽になるのではと思ってね、どうだい?」
 言われて茜さんはきょとん、として。
「‥‥私は、『フレイム・バレット』である間のこと、覚えてるけど。貴女のこと、セラちゃんは?」
 問い返しに、アイリスさんはただ肩をすくめます。
「私には明確な役割がある。とある”モノ”を守護する事だ」
 返ってきたのはそんな、関係あるのかないのか曖昧な言葉と態度でした。
「後天的な人格は役割を核にすることがある。なら、フレイム・バレットにも役割があるのかもね」
 そうして続いた言葉に、茜さんは、そうかな、と答え。少しだけ、暴走することに対する不安や恥ずかしさを語ってみせて。
「‥‥『同質の者に愚痴を言うだけでも楽になる』、か。良ければ貴女も。愚痴りたいこと、伝えたいことがあれば承るわよ。今日のお礼に、ね」
 多分、人生経験はこっちの方が長いでしょ? そう言うとアイリスさんはやっぱり、曖昧な表情をしたままでした。



「ドイツのバレンタインに義理チョコはないよ。‥‥その日は特別な人だけに、贈り物をするんだ」
 一方。チョコレートを完成させたマルセルさん。かざねさんに向かいます。
「君の為に、作った」
 そっと渡されたチョコに、かざねさんはちょっと戸惑いながらありがとう、とだけ言って一つ口にします。
 そして。
「辛いぃぃいい〜〜〜〜!?」
 直後に悲鳴が上がりました。
「なんでチョコが辛いんですか〜。辛いもの苦手なのに酷いです〜」
「いや、好きな人には癖になる味わいだと思うんだけどね。そう悪くないと思ったんだけど‥‥」
 何かを見極めつつ答えるマルセルさん。意地悪でなく真面目に作ったのものなのかと、もう一度チョコレートに目を落とすかざねさん。
「何? 唐辛子チョコレート? ‥‥試しに食べてみていい?」
 どうしようかと思っていると、辛いものもわりといけるらしい茜さんが興味を持ったみたいです。貰ったものだけど、何個かあるしいいか、とかざねさんが差し出して。
「‥‥ぼげふょっ!」
 食べた茜さんから上がったのは、なんかえらい事になってる悲鳴でした。
「か、かかかかっか辛っ!! あんららんーひょんきゅわせてんにょっ! にひゃへとかそうふひひゅもんらいやらいわひょこれっ!」
 多分文句言ってるんだろうけど字数の都合で解説出来ません。
「あ。一個仕込んだ超激辛、お姉さんが引いちゃったんだ‥‥」
 残念なような、これはこれでというような、そんな顔で思わずつぶやくマルセルさん。
 じろりと睨むかざねさん。
 苦笑して、マルセルさんはもう一つ、作ったものを取り出します。
 漂うオレンジキュラソーの香り、チョコと生クリームで綺麗に包んだパパゲーノトルテ。
 まごうことなく美味しそうなそれに、再び戸惑うかざねさん。
「妹さんと、食べてね」
 にっこりと言われると、うん、とおずおずと受け取るかざねさんなのでした。

「‥‥和歌山、大丈夫か」
 悶える茜さんに、沙玖さんがフォローに入ります。
「あーうん‥‥やっと舌が動くようになってきた‥‥」
 まだ震える声で茜さんがどうにか答えます。
「その‥‥おいしかった、ありがとう」
 沙玖さんが伝えると、そこで茜さんが涙目ながら笑顔を見せました。
「ん、そう言ってもらえるとやっぱ嬉しい。‥‥酷い目にも遭ったけど、やっぱ賑やかな休日も悪くないよね。楽しかった、ありがと」

 茜さんの言葉もまんざら強がりでもなく。成果を手に満足げな皆さんやら、それを見守ってた人たちのくつろぐ様子やら。
 なんだかんだでいい雰囲気に、皆、悪くない時を過ごせたようで。