●リプレイ本文
傭兵たちは各々の愛機を駆り、作戦地点へと進軍する。
始めに音声を発したのはファリス(
gb9339)だった。
『これ以上街には近づけさせないの! ファリスが必ず街の人たちを護るの!』
搭乗者の意思を乗せるようにしっかりと進んでいく機体はMX−0サイファー。愛称はジークルーネ。
『出来ればもう少し訓練してから乗りたかったけどな‥‥頼むぞナイトシルバー』
次いで、緊張気味につぶやいたのはTaichiro(
gc3464)だ。彼はこれが初のKV実戦となる。Mk−4Dロビンに、相棒として名付けた名を呼び掛けながら彼は気を引き締めた。
『ボクの薔薇様は、亀さんにも射撃戦なら負けないよ! 狙い撃って倒しちゃうんだから』
同じく、頼もしげに機体の名を呼びながら前に出たのはアルテミス(
gc6467)。機体はKM−m3マリアンデールだ。
『ふむ、TWだけを相手にするのは初めてです。中々手強そうですが、私の機体とコンセプトが一緒で親近感がわきますね』
一方で楽しむように呟いたのはハーモニー(
gc3384)。彼女の乗るMBT−012ゼカリア改は、どうせ戦いに赴くのだというのにこれでもかというくらいピカピカに磨きあげられ、愛着がうかがい知れる。その愛称にも、彼女の名と同じ意味を持つ『調和』という名が与えられていた。
『過去、幾度も苦しめられた敵ではあるが‥‥弱点も、対策も、立て切られては‥‥余り脅威には思えないね』
ハーモニーの言葉に対し、冷めた口調で言ったのは流叶・デュノフガリオ(
gb6275)だ。眼前に展開されるのが、これまでに戦ってきたTWであるのならば、彼女の経験と機体――CD−016Gシュテルン・G、愛称は『皇騎』――ならば勝算はあると踏んでいた。だが、街に向かって進軍されているという状況を考えれば、手を抜いてやる程余裕は無い。
「勝つべくして、勝とう。‥‥彼と共に、有る為に」
コックピット内で囁かれた言葉は周囲に聞こえることはなかった。それでも、流叶がその時視線を向けた先に居た機体――流叶と同じCD−016Gシュテルン・G――が、応えるように駆動音を立てる。『Deneb Cygni』と名付けられたそれを駆るのは、彼女の夫、ヴァレス・デュノフガリオ(
ga8280)。
『な〜んか、他とは違う不思議な亀さんが居ますねっ。新兵器っ?』
じっと前を見据えながら、白蓮(
gb8102)が言った。彼女の機体、RN/SS−001リヴァイアサンに名付けられた名は【ガウティヘクセ】。ルーマニアとドイツ語による造語で‥‥意味するところは「ドリル魔女」。その名の通り、「最強武装っ! ドリル」という主張がこれでもかと感じられる、ドリルによる近接格闘をメインとすべく調整された機体であった。
『なんにせよっ、自分達の後ろに守るべき街がある限り、先へは進ませませんよっ』
白蓮の言葉に、セージ(
ga3997)がコックピットの中で頷いた。
『亀を倒せても街に被害が出ちゃ意味がねぇ。とりあえずは引き離すぞ!』
鋭く叫ぶセージのその声が、作戦開始の号令となった。
開戦と同時にブーストをかけて飛び出したKVが二機。セージ機とアルテミス機だ。
セージ機は真正面から突撃するように、アルテミス機は皆の前に出ると少し回り込むように動き、直線状に敵を乗せるような位置取りを探す。
『必殺! ムーンライト! 時には月光も激しいんだよ』
叫ぶと同時にアルテミス機のDR−MM高出力荷電粒子砲から強烈な光線が放たれる。掃射モードとファルコンスナイプ改を合わせた強烈な先制パンチ。一体のTWに直撃し、2体のTWを掠め決して無視できないダメージを亀の身に、装甲に刻みつける。だが同時に、過負荷を受けたマリアンでールが冷却に入り機能低下する。速度をゆるめるアルテミス機を庇うように、セージ機はそのまま一気に躍り出た。
『打ち砕け。そして、突き進め!』
機刀を水平に構えたセージ機はそのままTWに向かって一直線に突き進んでいく。十二の翼から最大の出力を受けた機刀が、全面中央に居たTWに付き立てられる。幾つかの近接防御用ブレードが叩き折られ、TW自慢であるはずの甲羅をも小さくだがえぐって見せる。共にバランスを崩すセージ機とTW。だが即座にカバーに入る仲間がいるという点で二機に差が出た。
『まずは敵の連携を断ち切るぞ! 連携は力になる。だが、それは向こうも一緒だ』
セージの言葉に合わせるように前に出た機体は四機。ヴァレス機、流叶機、白蓮機、ファリス機。セージと合わせて合計五機、散開しつつそれぞれの目標へ近づいて行く。
『お前には俺の相手をしてもらおう』
ヴァレスは一体のTWに狙いを定めると、スラスターライフルを放ち他のTWと引き離すようにしながら接近、まずは一対一へと持ち込む。
狙うのは主に兵装。迫りくる近接ブレードを弾き、背に追う砲台に攻撃を加えていく。相手の反撃は、機体を巧みに操り回避することで対処。踏み込んできた一撃をすべるようにかわし横に回り込むと、すれ違いざまに剣翼で斬りつける。
機動力を向上させた機体とあってその動きは華麗にして的確だった。頑強なプロトン砲の砲台が、幾度も攻撃を受けて軋みを見せる。同時に巨体が傾き、たたらを踏んで。
『これに耐えられるかっ!』
好機。その瞬間に見せた甲羅の隙間に、ヴァレス機が思い切り機杭を穿った。
『‥‥行こうか、ヴァレス。道を開こう』
ヴァレス機に合わせて前に出たのが流叶機だ。ヴァレスが一体を引き付けたことで出来た隙間を縫って、多少の被弾は覚悟で盾を掲げて更に前に出る。流叶が目を付けたのは、武装の異なる一体だった。一番後方に居るそいつに対し銃器を乱射しながら強襲。だが標的となったTWは僅かに向きを変え真っ向から銃弾を受けるのを避けると、甲羅とブレードの形状を生かしダメージを受け流す。
『随分、反応がいい、か? ‥‥さては』
流叶機は兵装を錬剣に持ち替えると距離を詰める。
『そう、危ない物を振りかざすものではないよ!』
背中の妙な兵装を狙い斬り飛ばそうとするが、相手は明らかにそれを警戒し、庇う動きで立ち回る。
――有人機。
流叶がその確信を得た時、砲台が流叶機へと向けられ、そこから猛烈な火炎が噴きつけられた。一瞬、視界が赤く染まる。流叶は驚愕しながら、それでも咄嗟に盾を掲げてそれを防いでいた。
白蓮機は、盾を構えつつラスターマシンで牽制を加えながら敵に接近。敵の迎撃を、アクティブアーマーも使って盾で受け流すように防御しながら、まず狙うのは徹底的に背面武装。
狙い撃つことでその使用を制限、無効化し後衛や他のメンバーへの砲撃を防ぐ。
『硬い甲羅で身を守っても、一番危ない武装が外部に出てたら、狙ってくれっていってる様なものですよっ』
叫びながらノワール・デヴァステイターによる銃撃を重ねていく。接近し、撹乱しつつ動き回りながら、兵装を一つ一つ排除していき。
『後は純粋な殴り合いっ』
生き生きとした声で、レッグドリルを起動させる。
『亀にドリルが負ける筈無いのですっ、その甲羅抉り砕いてあげますよっ!』
ガウティヘクセ、ドリル魔女。ここからが真骨頂と言わんばかりに超近接戦へと持ち込んでいく。
ファリス機もまた、距離を詰める間は射撃で。懐に入れば砲台を狙っていくのもまた皆と同じ狙いだった。砲台の動きに注意し、狙えない位置へと意識しながら、回り込むようにスライドし攻撃を加えていく。TWは、砲撃では狙いにくいと判断したか、ブレードによる攻撃を仕掛けてくると、その刃はファリス機を何度か掠めていった。
狙いを絞るというのは、有効ではあるが、ただ攻撃を当てるよりも当然難易度は高くなる。ファリスが相手をしているのは無人機のようで、こちらの意図を読んで対応するほどの知能はないようだが、それでも幾度かの攻撃は空を切り、または目的とは別の場所にあたって弾かれる。それでも背に負う街のことを考えて、めげることなく、焦ることなく立ち向かっていく。
そんな彼女に呼応するように、銃弾がファリス機の横を通り過ぎTWに突き立っていった。
後列に陣取っていた3機、Taichiro機、ハーモニー機、アルテミス機による援護射撃だ。
『チェンジ・ライフルモード!』
ヒーローのように叫びながらTaichiroはレーザーライフルで狙い撃っていく。
ハーモニー機は無駄に弾幕を張るのではなく、当てることに集中して味方機の援護射撃に徹していた。
『あの敵から。集中して狙い撃っていきましょう』
全体の戦局を見ていたハーモニーが、後衛機に呼び掛ける。と。
『はーい』
アルテミスが、やる気があるのだか無いのだか、適当な感じで応えて、しかし攻撃はきっちり合わせていく。
敵の動きは分断し、前衛は一対一でありながら後衛はしっかりと連携し、一体ずつ着実に当たっていく。やがて残るは、流叶の前に立つ一体。
『良い動きすると思ったら人が乗ってるのか、だがやることに変更はねぇ。全力でぶっ潰す。ただそれだけだ』
セージが嘯く。合わせるように味方機がTWを取り囲み、一斉攻撃。
特にこのメンツで訓練をしたわけでも、入念に打ち合わせを行ったわけでもない。このコンビプレーは即興によるものだ。友軍を信頼し、だからこそその動きをよく見る。それによって可能な技。
『今なら行けそうですね』
後衛から、どこか嬉しげな声で入ってきた通信に、皆が射線を開く。
ほぼ同時にハーモニー機の420mm大口径滑腔砲が火を噴いた。
激震に巨体を揺らすTW、隙をついてKVは踊りかかる。
やがて最後の一体も、完全に機能を停止し、その身を四散させた。
「もっと強くならなくてはたのしめませんね。まだまだ、私は初心者の域から出られていません」
闘い終えて。後ろから皆の動きを見ていたハーモニーがしみじみと呟く。
他の仲間は苦笑しつつ、互いを讃えあった。
今回はお互い上手くやった。協力しあえば人類にとってもはやワームも脅威ではない、と。
――だからこそ、今回の相手の規模の小ささは逆に気になる。
その想いを抱く者も傭兵たちの中にいないでもなかった。
陽動? 時間稼ぎ?
その可能性も頭をよぎるが、今のところこの襲撃と同時にどこかで被害が出たという報告はないようだ。
‥‥何と言うか、投げやりな感じすら受けた。別に負けても構わないという風な。
その感覚が本当だったとして、だとすれば‥‥。
投げやりな攻撃ですら、全力で立ち向かわなければならない。そこに、人類とバグアの間にまだまだ差のあることを見せられたような気もして。
楽観しきれない。そんな思いも、傭兵たちの間にどこか残っていた。