タイトル:【LP】北京伏兵殲滅・人マスター:凪池 シリル

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/18 18:17

●オープニング本文


 北京周辺のバグア主戦力が事実上敗退したことで、日和見な者たちもバグアを見限り始めた。それは、至極単純な形となって現れる。
「祭門の連中は知らないでしょうがね」
 ある者は『UPCにうまく取り入った』別勢力への対抗意識も露に。また、別の者は自分達の安全を代償に。場所こそ違えど、もたらされた情報は概ね同様のものだった。
「‥‥『人民の海のなかに埋葬する』ですか。なるほど、ウォンとやらは勉強家ですね」
 孫少尉は呆れた様に首を振る。UPCの反攻の主力は、特殊作戦軍だ。強力な軍が去るまでは周辺に隠れひそみ、その後退を待って再び出現、八門を確保しようと言う策だったのだろう。しかし、隠れるべき人民に見放されれば、潰える策でもある。
「いずれにせよ、看過はできません。傭兵に連絡を」
 かくて、本部にまた一つ依頼が並ぶことになった。



 ウォンの用意した伏兵の士気は高い。
 再び八門を奪還するための攻撃拠点として、彼は過去に手下のバグア・陳小龍に寂れた村を丸ごと与えた。そこには十分な兵力に加え、キメラプラントも完備している。
 そして作戦遂行の時になれば、この村は本当の姿を現すのだ。痩せた土地をその背で壊し、意思を持ったかのように動き出す。そう、この村全体が作戦遂行の要と位置づけられた地上戦艦なのである。これを計画通りに実行されたなら、戦況はますます不安定になっていただろう。
 しかし、この戦艦の存在はあっけなく明るみに晒されてしまった。ここしばらくの戦況を注視し、独自の判断でバグアを見限ったある組織が保身を目的に、地上戦艦『天雷』の情報をUPC軍にリークしたからだ。
 もちろんバグア側も協力者の変化には非常に敏感で、陳も「すでに地上戦艦の存在は人間側に露見した」と判断していた。
 だが進軍しても孤立無援は火を見るよりも明らかで、自分に課せられた作戦の遂行するには難しい。そして不幸にも士気が高いことが災いし、強行出撃を進言する部下が大半を占めているという現状‥‥今さら搦め手を使う空気でもない、というのが現状である。
 指揮官は腹を括った。
「地上戦艦『天雷』、死門に向けて出撃! 全軍奮起せよ!」
 陳は村の本当の姿を晒し、手近な距離に位置する北の天津市を攻めるべく動き出した。地は震わせんばかりの戦力と、天をも貫かん士気だけを頼りに‥‥
 かくして、地上戦艦『天雷』は動き出した。



 UPC軍はすぐさま作戦本部を設置し、撃破命令を遂行せんと動き出す。
 敵が軍事的安定のある天津市を目標にしてくれたおかげで、しばらくは足止めできるだろうと判断。まずは情報をかき集める。
 さっそく偵察機から、戦艦後部に超長距離対空プロトン砲が一門あるとの報告があった。さらに戦艦上空は小型ヘルメットワームと無数のキメラが飛来し、防御を固めているという。
 村だった場所、つまり戦艦上にはゴーレムやレックスキャノン、タートルワームなどの地上兵器の姿を確認。地上戦艦で迎え撃つ敵を蹂躙するだけでなく、そういった兵器で戦艦上からも攻撃を仕掛けることができるようだ。進軍に躊躇がないことから、おそらく士気が高いと思われる。
 ある将校は嘆息した。
「八門奪還は、UPC軍の士気を高揚させた。一時的とはいえ再度の支配を許せば、すべてがマイナスにしか働かないだろう」
 彼がそう言うと、隣の男が前に出てある作戦を口にする。
「高空にて飛行状態のKVが空の敵を惑わす間に、傭兵を満載した軍用輸送機が地上戦艦に強行着陸。突入部隊は速やかに、指揮官の撃破と地上戦艦の設計図を目指します。その情報を足止めを行う地上KV部隊に伝え、駆動部分を破壊して戦艦を止める‥‥これでいかがでしょう?」
 勢い任せの相手に負けず劣らずのパワープレイだが、早期決着を目指す以上は贅沢なんて言ってられない。
 すぐさま作戦は承認され、それぞれの担当者を選出。すぐさま傭兵に説明するために走った。



「‥‥以上を踏まえまして、戦艦内部強襲班の担当となりました、UPC東アジア軍少尉孫 陽星です。今回もよろしくお願いします」
 孫少尉が、一礼と共にすぐに顔を上げる。
「改めて。本作戦の目標は、この地上戦艦『天雷』の停止にあります。そのために我々突入班が目標とすることは主に二つ。まずは『天雷』の設計図を入手すること。それから、敵指揮官の撃破、です」
 モニタにマップが映し出される。現時点での『天雷』の位置と予想進路。
「今回、相手の動きからして、敵兵の士気はかなり高いと見られております。おそらく、頭を潰さない限りは、決して降伏などしてこないだろう、と」
 マップ上には、『天雷』が目指すと思われる天津市も映し出されている。そしてその先、かつて環状包囲網であった都市も。
「ですが――この戦いにおいて、そこに懸ける想いは我々だって負けるつもりは、ありません。‥‥戦略上の意味はもちろん、再びこの地の人々の心をまた人類とバグアの間で弄ぶようなことにしてはならないと!」
 ずっと地図の一部を見つめながら話し続けていた孫少尉は、そこでゆっくりと傭兵たちに向き直った。
「今はまだ、ただ力ずくで取り戻しただけかもしれない。でも、だからこそ私は守りたい‥‥守り続けなければならないと、思います。‥‥それが、我々と共に闘うこととバグアに支配されることの違いのはずだ‥‥!」
 強く拳を握りしめながら言って、孫少尉は再び深く頭を下げる。
「お願いします。どうかまた、力を貸してください」

●参加者一覧

翠の肥満(ga2348
31歳・♂・JG
小鳥遊神楽(ga3319
22歳・♀・JG
夏 炎西(ga4178
30歳・♂・EL
紅 アリカ(ga8708
24歳・♀・AA
美崎 瑠璃(gb0339
16歳・♀・ER
ORT(gb2988
25歳・♂・DF
イーリス・立花(gb6709
23歳・♀・GD
ヘイル(gc4085
24歳・♂・HD
鳳 勇(gc4096
24歳・♂・GD
ジョシュア・キルストン(gc4215
24歳・♂・PN
天野 天魔(gc4365
23歳・♂・ER
那月 ケイ(gc4469
24歳・♂・GD

●リプレイ本文

「少尉の熱い心、しかと受け取った! ‥‥なんちゃって。うん、大規模終わってすぐに降って湧いた難題だけど、今回も頑張っていきましょー!」
 説明を聞き終えて、いつも前向きな美崎 瑠璃(gb0339)が、元気良く宣言した。
「孫少尉とは初対面だったな。鳳だ、今回はよろしく頼む」
 それに乗じるように鳳 勇(gc4096)が挨拶する。合わせて一同頷き合うと、軽く打ち合わせをはじめる。
「戦略的に見て俺達の勝利は確定だ。後はどれだけ手早く終えられるかだな」
 天野 天魔(gc4365)が言う。楽観視する気はないが、時間をかけたくないというのは全員同じ気持ちだった。
 構造がまったく分からない巨大戦艦の捜索。話し合いの結果、三手に分かれて、ひとまずは設計図の探索に集中するという形にまとまる。
「孫少尉、あたしは一介の傭兵だけど、事の重大さは理解しているつもりよ。全面的に任せろ、と大言壮語を吐くつもりはないけれど、あたし達を信頼して任せてちょうだい」
 作戦会議が一段落ついたとき、小鳥遊神楽(ga3319)が孫少尉に話しかけた。彼女の言葉を受けて孫少尉は小さく頷き、小隊の兵士の方へと顔を向ける。
「‥‥作戦は聞いていましたね。我々も三隊に分かれ傭兵たちの援護をします。道中、傭兵からの要請があれば無理のない範囲で応じること。私の指示と齟齬が発生した場合、現場を優先して構いません!」
 力強く命じてから、孫少尉は傭兵たちに向き直る。
「――北京解放は、貴方がたの活躍がなければなしえませんでした。そのお力に、今回も期待させていただきます。ですが‥‥我らもこの地を守る身として。及ばずながら助力させてください」
 一度神楽を見てから、改めて傭兵全員に向けて静かに告げると、そこで上空部隊、および軍用輸送機の出撃準備が整ったとの連絡が入る。
「さて、いつかの発言には責任を持たないとな‥‥行こうか少尉。共に戦うと決めてくれた人々とその意志を護る為に」
 最後にヘイル(gc4085)がそう言って、それを合図に皆動きはじめる。
 ――作戦、開始。



 上空部隊の援護を受けて輸送機はさしたる障害もなく敵地を進んでいく。やがてハッチを見つけると上空部隊に合図、着地した。強引にこじ開けることに成功すると、全員が素早く滑り込む。
 ひとまず、侵入までは問題なく成功。ここから三手に分かれての行動となる。
 夏 炎西(ga4178)が、外観と、突入したフロアの高さからおおよその階層数を割り出すと仲間に告げ、頷き合うとそれぞれのチームに分かれ、行動を開始する。

 上層を担当するのは翠の肥満(ga2348)、紅 アリカ(ga8708)、ジョシュア・キルストン(gc4215)、那月 ケイ(gc4469)。
 攻撃力の高いアリカと防御力の高いケイを先頭に、ジョシュアが銃と剣を使い分けての遊撃、翠の肥満が後方から射撃と指示というのが傭兵たちの布陣。それに小隊の一分隊がサポートに回る。それら全員で、緑の肥満の合図で「一方が攻撃、一方が回復・補給」を交互に行い、間断なく実施・敵接近を阻止。敵からの襲撃を一旦退ければ、手近な部屋を見つけては片っ端から捜索する。
「さあさあ、どんどん来ーい! 弾は腐るほどあるんだ、遠慮せずに蜂の巣になれ!」
 翠の肥満が楽しげに言う。
「おお、翠の肥満さんやりますねえ。その意気ですよ♪ なんとかなるさ、僕以外が頑張れば!」
 傍らでジョシュアが軽口を叩いて、ケイに突っ込まれている。
 実際、そんな余裕があるほど、彼らにとって兵士やキメラなど物の数ではなかった。

 中層を行くのは炎西、ORT=ヴェアデュリス(gb2988)、ヘイル、勇。
 先頭を行くのは勇。殿をヘイルが務め、炎西はサポートを中心に動く。
 そして、ORTは‥‥。
 ぐちゃり、と音を立てて、壁に叩きつけられた敵兵が肉塊と化した。銃と、太刀とを用いて、ORTは何の感情も見せず、ただ圧倒的な力をもって殺害を重ねていく。
 誰も口を開かなかった。何か言っている、どころか思う余裕も今は惜しい。
「ああぁあああ!?」
 無慈悲な殺害を目の当たりにして敵兵はそれでも退かなかった。恐怖に顔をひきつらせながら、逃げ場のない様相で特攻してくる。‥‥それでも、死はやはり恐れるのだろう。自然とORTに向かうのはキメラばかりとなり、兵士を勇が相手取る形になる。
 そうなってもORTには何ら思うところのある様子はなかった。別に彼は殺戮を楽しむわけではないのだろう。ただ任務の為に。兵士だろうが、キメラだろうが。
「見敵、必殺」
 淡々と、それだけをこなしていく。機械のごとく。
 他の者たちは開かれていく道をただ早く駆け抜けた。死によって開かれた道を駆け抜けて、設計図を求め急ぐ。

 残る神楽、瑠璃、イーリス・立花(gb6709)、天魔は下層班だ。
 まるでORTと対比するがごとく、天魔は兵士の殺傷を極力避けた。
「生かしておけば救助や治療に敵の手を割かせる事が出来るからな」
 冷酷なふうに言う一方で同行する味方兵士たちには気遣いを見せる天魔の思うところはよく分からない。それすらも任務遂行のためとしか考えていないのかもしれないし、またそれらとも違う、独特の価値観によるのかもしれない。
 中〜後衛系が集まっているためこちらは陣形の整理に多少手間取っていた。三人が銃を使用し、瑠璃は完全に支援系だ。盾役であるイーリスが、一人でほぼ全ての敵を受け止めることになる。それでも彼女自身の強固な防御力と、神楽の安定した支援射撃によって戦線を維持して見せる。だが積極的に主力となろうとするものの不足により他班より出遅れている感は否めなかった。

 三手にわかれたのち、気配の異なる部屋を発見したのは中層班だった。一つの部屋を開けると、すでに待ち構えている兵士の姿。一見変わらないようでいて、軍刀を構えるその姿は他と明らかに雰囲気を違えている。
「強化人間か? 相手にとって不足無し!」
 勇が吼えて前に出る。軍刀の一撃を盾で受けると、予想以上の重さによろめく。ついで翻る刃に、勇の肩口から血が流れた。ORTが、無機質な動作のまま、しかし勇をフォローするように強化人間との間に割って入る。その隙に、銃で援護していた炎西が勇の怪我を治療した。
 ヘイルも、強敵と見ると後方警戒を小隊に任せ、銃をしまい槍を手に前に出る。
「鳳隼剣流 剛打! 撃倒砕!」
 戦線復帰した勇が再び炎西の援護を受けながら、渾身の一撃を叩きこむ。たまらず強化人間がよろめいたその隙にORT、ヘイルが続いた。反撃に手傷を追いながらも、少しずつ傭兵たちは強化人間を追いつめていく。やがてその体が地に伏せると、一息――つく余裕ももったいないとばかりに傭兵たちは部屋へと視線を巡らせた。わざわざ強化人間が守っていたのだ。ここに何かある可能性は、高い。改めて警戒を小隊に依頼し、特に念入りに捜査を開始し――
「これか!」
 声を上げたのは炎西だった。手にしたそれを孫少尉が近寄って確認し、頷く。

「突入部隊より地上部隊へ。設計図の入手に成功しました。これよりデータを転送します!」

 連絡を取る孫少尉の声が響く。傭兵たちもすぐに別の班に設計書の入手、転送がかなったことを無線で告げる。
 これが、やがて天雷を停止させる。無差別な破壊は、これで止まる。地上部隊はきっとやってくれるだろうという確信はあった。

 だがまだ、終わりではない。
 周囲には無数の殺気がひしめいている。
 その全ての大本を叩かない限り――勝利ではない。



 一同は連絡を取り合い、司令官がいるであろう艦橋を目指し合流することにした。
 無事集合し、扉の前に立つとヘイルが閃光手榴弾を取り出す。皆に周知しピンを抜き、慎重にカウント。
 重厚な扉を開け放ち、投げつける。
 ――結果的にこれは、期待した完全な効果はもたらさなかった。
 突入の際に物音に気を払わなければこれだけの大所帯だ、監視カメラを破壊しようが接近は当然気付かれている。突入時に何か仕掛けてくるのは相手も当然警戒の上。手榴弾を視認するなり陳小竜と側近の強化人間は目と耳を庇っていた。
 とはいえ、キメラはそうもいかない。庇う知能も、ものによっては手段すら持ち得ぬ化け物たちは、轟音と閃光の影響をもろに食らってふらついていた。
 エミタのサポートを受けて機先を制した神楽の射撃が、ふらつくキメラを薙ぎ払っていく。同時に味方の突入を援護する射線を展開、翠の肥満も別翼のキメラを同じくガトリングシールドで蹴散らすと、残る傭兵はそれぞれの標的を見い出し走る。
「こんな御大層なモノまで持ち出そうとも最早この国での貴様達の敗北は覆らない。‥‥が、放置も出来んのでな。ここで討たせてもらうぞ」
「推進器は間もなく破壊される。もはや天雷は巨大な棺桶と同義だ。無駄な抵抗は止めて降伏しろ」
 ヘイルが、天魔が小竜に告げる。だが小竜は追い詰められた状況ながらも哄笑を上げた。
「はっ! そうのんびり構えているのはお前らごく一部に過ぎんよ! 中国軍も! 人民も! まだまだ容易く揺らぐ! 儂ごとき小物が動いただけで、だ! ‥‥人は容易く絶望する。容易く裏切る。儂の役割はまだ終わらぬよ!」
 引き付けるために派手に弾丸をまき散らしながら接近したイーリスを弾き飛ばし、小竜が宣言した。
 その叫びを――
 ある者はやはり無表情のままで受け流す。
 ある者は一笑に付し、
 ある者は困ったように肩をすくめる。
 またある者はそれがどうした、とばかりに胸を張り、
 ある者は意志ある瞳で睨みかえす。
 強化人間の一人に向かったヘイル、勇、炎西の三人は先ほどの戦いですでに互いの連携のコツを得ていた。敵の攻撃を引き受ける勇を炎西がサポートし、反撃のタイミングと合わせてヘイルが槍を繰り出す。
 もう一体の強化人間にはジョシュアとケイのペアが。これも、まず防御力の高いケイが攻撃を受け‥‥相手の苛烈な攻撃が一瞬やんだ隙をついて、ケイが盾を掲げ踏み込む。
「小賢しい!」
 ケイの攻撃を、苛立たしげに強化人間は軽くいなし――
「熱くなりすぎですよ。ほら、隙だらけです――!」
 聞こえてきた声に、振り向く強化人間は反応できなかった。ケイが掲げた盾によって生まれた、普段は死角とならぬ場所。故に警戒が遅れ‥‥そこにひねりを加えたジョシュアの一撃が叩きこまれる。
「ぐぁ‥‥!?」
 互いに親友であり相棒と認めあう二人の、完全に息の合った連携攻撃。強化人間相手に一気に深手を与えることに成功した。
 もちろん二組とも、この人数だけで強化人間を抑え込んでいるわけではない。そこには常に、全体に目を光らせる神楽と翠の肥満による援護が加わっている。
 翠の肥満が視線でイーリスの様子をうかがう。大丈夫と首を振って立ち上がる彼女に、瑠璃の超機械から援護と治療の光が走る。再び盾しっかりと構え、小竜の前に立つイーリスの傍らから。
「‥‥貴方に恨みはないけど、倒させてもらうわね」
 静かな呟きと共に。アリカが刀を振るう。
 ――漆黒の刃が落下する瞬間、やけに静かに思えた。
 まず、必殺の意思を込めて、彼女が持つ技量で最大の威力をもつ一撃が。それを起点とし、流れる動作で連撃が打ち込まれていく。
「これほど‥‥か‥‥!」
 小竜がよろめいて後ずさる。だがその瞳にはあくまで執念が宿っていた。追いつめられた手が繰り出す一撃を、今度はイーリスはしっかりと受ける。
「調子に‥‥乗っているがいい、能力者! 我らはバグアの兵として、最後まで恐怖を撒き続ける――! 貴様らが守る足元は、何度でも腐敗するぞ!」
 血みどろの形相で叫ぶ小竜の言葉に手を止める者はいなかった。
 まるで。
 たとえ何度裏切られようとも。何度絶望しようとも。それでも手を取り直し、希望を持ち直してきたのも人類だ、と言わんばかりに。
 神楽と翠の肥満、そして孫小隊の一部の射撃により、まず全てのキメラが駆逐される。
 次いで、ジョシュア達が相手取った強化人間が、さらに炎西たちの相手が倒される。
 そうして、最後は。
 別に何の感慨も、意思もなく。
 酷くあっけなく、無造作に。
 ORTが、小竜の首を刎ねた。



 小竜を倒すと同時に、ズズズ、と、足元から重たい振動が伝わってくる。
 僅かに浮揚しすべるように移動していた天雷が、推進器を破壊され地表に接地。
 轟音を立てながら揺れるそれはしかし、地上部隊の成功を示していた。
 まるでそれは鬨の声のように、重く、広く響き渡る。
 やがて振動が完全に収まって。ジョシュアとケイが、肩を組んで互いを健闘し合う。
 兵士たちの中から、歓声が上がった。
 徐々に勝利の確信が強まる中、炎西がふと気がついて艦橋にある通信機へと向かう。
「艦は止まった! 犠牲はもう必要ない!」
 残る兵への、投降への呼びかけだった。
 天魔がやれやれといった様子でそこに近づいていく。
「司令官は戦死し天雷はUPC軍が制圧した。そして司令官の遺命を伝える。『降伏し、次の機会を待て』
 これ以上の戦闘は無意味である、各員司令官の遺命に従え」
 告げる天魔に、炎西は一瞬きょとん、とした顔を向けた。
「勿論嘘だがね。こう言っておけば余計な戦闘をしなくてすむからな」
 しれっと告げる天魔に、炎西は苦笑した。
 なんにせよ、天雷の停止、および司令官の死亡は、もはやこの場に居るバグア側のものからごっそりと士気を奪っていることだろう。
 北京伏兵殲滅作戦。突入作戦は、文句なしの成果を収めていた。