●リプレイ本文
「‥‥このバグアについての調査、ですか」
ULTのオペレーターは、龍乃 陽一(
gc4336)から依頼を受けて、幾つかの資料を検索した。
「九州地方における『都市伝説』を模した‥‥と、思しきキメラの事件、と言うのは確かに、同じバグアの仕業によるものだろうと目されては、いるわね。空気が同じというか‥‥勿論キメラは脅威なんだけど、どこか間抜け? 変に脱力させられるのが、それがまたUPC軍にとってたまに脅威になることもあるみたいだけど。狙ってんだか天然なんだか」
やれやれと首を振りながらオペレーターは答える。
「姿が確認されたのは、この間の貴方たちのが初めてよ。ここ最近活動を活発化させたみたいね。今まで大きな戦線等には関わってない、みたい。一人で活動するタイプ、かしら」
だから実力は未知数。キメラばかりをちまちまと投入してくるあたり、そういう役割しか負わされない、下っ端なんじゃないかと推察はしてるけど、油断は禁物。
「こんなところかしら? 要は、まだほとんど分かっていないってこと。ごめんなさい」
オペレーターの言葉に、陽一はひとまず十分ですよ、とにっこりと微笑みかける。
ともすれば女性よりも綺麗なその笑みに、オペレーターは複雑な顔で少し頬を赤らめていた。
「そんなわけで、この依頼。もしかしたらバグアの出現があるかもしれませんよ。皆さん、十分に気を付けてください」
同行する仲間に向けて、陽一はそう警告する。
「は‥‥はははっ‥‥」
まず答えたのは、荊信(
gc3542)の笑い声だった。
「分かってらぁ‥‥間違いねえ、この気に食わねえ感じ、『奴』に違いねえ」
言って荊信は仲間の方へ、特に、信頼のおける小隊仲間の方へ視線を向ける。
「ソウマ! 喧嘩だ、あいつら喧嘩を売ってきやがった! なら、答えは一つだ‥‥! 誘いに乗る、喧嘩を買う。そして‥‥あいつらを叩き潰す!!!」
ギラリとした目で、荊信は宣告した。
ソウマ(
gc0505)は、対照的に。いつもどおり、クールに、皮肉げに。
「まあ‥‥『英雄』なんてものには興味はありませんが敵は悉く打ち倒すのは信条ですよ」
肩をすくめて、そう答える。
だが、同じく同小隊所属の沖田 護(
gc0208)は、どこか上の空だった。
「素体は人間か。嫌なことを思い出すな‥‥」
前もって調べられた情報によると、今度のキメラは人間型。護にはその時、別の依頼の記憶がよみがえっていた。
「沖田様?」
声をかけたのは、彼らの小隊の小隊長を務める二条 更紗(
gb1862)だった。
「あ、大丈夫です。キメラ退治、がんばりましょう」
慌てて、護は気を取り直してしっかりと告げる。そう、大丈夫だ。何せ今回は、頼りになる隊長と、皆もいるのだ。
よほど大きな作戦でもなければ、個人で仕事を請け負う傭兵たちにとって、一つの仕事にこれだけ、小隊としてともに戦った仲間が集まるというのはなかなか珍しいだろう。
「数奇な縁ですね、月並みですけど頑張りましょう」
更紗が言うと、四人はしっかりと頷き合った。
一方、そんな事情は知らない美空・緑一色(
gc3057)は。
「バグア帝国の萬子キメラはこの「策子(ソーズ)マン」が斬るのであります」
どや顔でそんなことを言っていた。ソーズマンと掛けてみたのであろう。言わずと知れた剣を使う人の意。掲げる刀は国士無双。
嬉々として参加した彼女によって、名も敵も武装も麻雀用語大爆発という珍事態。言うなれば‥‥数え役満ってのは数えた結果役満になるのであって役満を数えることじゃねえ、とでも突っ込みたくなるような状態であったとか。
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指定された現場に向かうと、キメラはちゃんといた。聞いていた通りの姿の人型のキメラが、六体。周囲を見渡すと、ひとまずいるのはそれだけのようである。‥‥バグアは、離れた場所から見ているのか、それとも‥‥。
‥‥今、それを考えても仕方がないのだろう。キメラがこちらに気づき、身構えるのを確認するとともに、木場・純平(
ga3277)が動いた。
(「タフな者ほどいいと言われれば出て行きたくなるのは、年をとっても変わらない悪い癖だ」)
内心で苦笑する。今回のバグアと因縁のない彼は、この依頼に対して随分と気軽に望んでいた。分かりやすい依頼、単純な力の比べっこであると。
エミタに働きかけ脚力を増すと一気に駆け抜ける。キメラのいる地点まで。
体に違和感を覚えたが、構わず前衛に立ち、手近なキメラにその拳を打ち込んだ。軽いフットワークで撃ち出される拳。だが洗練されたその一撃一撃は非常に重い。腕に。頭に。戦闘能力の低下を目論んで、弱い部分に的確に決められていく攻撃が、弱らせる、どころかあっさりと一体のキメラの動きを停止させた。
ついで走り来たのは更紗。だが彼女は、キメラと接するよりも前で足を止める。
「この線の向こう側は、何か違和感を感じるとても嫌な」
飛びのくと同時に槍で地中に線を引く。仲間に注意を促すように声をかけると、前の依頼に参加したものはすぐに思い当たることがあったのか、顔を見合わせた。
――前回の、朦朧を与える装置だ。付近にあるはずだから、探して破壊する必要がある。
手短にそう伝えると、エキスパートであるシグ・アーガスト(
gc0473)が名乗りを上げる。
戦線を離れ、探索に向かうと、前回同様荊信がその護衛の為に付いていく。
更紗が武器を持ち替え、キメラの注意を引き、どうにか装置の効果範囲内に引きずりだせないか、と言う攻撃に変えると、夏 炎西(
ga4178)もひとまずは銃を手にする。
(「何というか、変なキメラですね」)
それが、炎西のひとまずの感想だった。彼も『都市伝説』は初見組。挑戦とあれば受けないわけにはいかない、とこの場に赴いたわけだが、このバグア特有の、分かるような分からないような、謎キメラに実際に相対すると困惑気味のようだ。
「‥‥彼女が言っていた『伝説』、今回はコレですか」
炎西の内心に合わせるように、ソウマが呆れ気味に言った。しかし、キメラの動きを見てその能力を判断し、その瞳だけは鋭さを増している。
「先手必勝! 動きを封じます!」
ソウマの横手で護が叫んだ。立て続けに銃弾を放ち、キメラの動きを牽制する。
それを見て取って、ソウマも連携して銃撃を重ねる。
「そこで無様なステップを刻んでいるのがお似合いですよ」
ソウマの言葉の通り、キメラの動きはそこで完全に縫いとめられた。
「リーチまでが長いのであります。ここは見でありますね」
そのリーチは距離と立直をかけているのかもしかして。そんなことをいいながらスコーピオンで射撃するのは緑一色。陽一が囮になると伝え前に出ると、攻撃から、それを援護する射撃に変更する。
近接能力しか持たないLynx(
gc5200)はひとまず見に入る。シグと荊信が装置を破壊してくれるまでの間は、装置の範囲外におびき寄せての戦い、と目論むのだが‥‥。
装置が、効果を発動する。襲いくる猛烈なめまいに、純平は耐えたが陽一は影響を受けた。
ソウマと護の制圧射撃は、錬力を気にしてだろう、断続的になっている。純平の拳と、炎西、更紗の射撃により、さらにもう一体のキメラが倒れるが‥‥そこで、残るキメラが動く。
標的となったのはまず前に出ていた二人だ。純平は軽いステップでかわして見せるが、陽一は朦朧の影響もあってキメラの拳をまともに受ける。威力自体は大したことはなかったが‥‥一気に三つ、陽一の周囲に麻雀牌の刻印が浮かぶ。また別の一体は、後ろに控えるものへと視線を向けた。
おびき出せるか‥‥その期待は、空振りに終わる。キメラは、相手と距離があると見ると、その場から動かず周囲に浮かぶ麻雀牌を飛ばしてきた。回避を試みる一行。そのなかで、Lynxはふと、拳でたたき落とせないか、と思い試してみる。
‥‥だが。さすがにそれは無謀、遊びすぎと言うしかなかった。見た目は小さな麻雀牌。だがそれでもキメラの一撃なのだ。まだ傭兵としての経験は浅いLynxが、簡単にいなせるものではない。見た目からは想像がつかない衝撃を伴って、牌はLynxの拳を砕いた。‥‥同時に、その身に呪いを刻みつける。
装置を警戒して本来の動きが出来ない傭兵たちの攻撃は、明らかに精彩を欠いていた。二重の制圧射撃による足止めがあるからこそどうにかなっているが、装置の影響を受ける陽一と、利き手にダメージを受けたLynxの状況にそろそろ不安を覚える。
装置の破壊はまだなのか‥‥思うが、前回は、探索に入る前に全体の地形把握をきちんと行っていた。今回の二人は、探し方にやや粗がある。陽一がどうにか朦朧を振り払うと、しかしそのタイミングで純平が、とうとう装置の餌食となった。鍛えられた体躯は、キメラの攻撃自体は弾いて見せるが、それでもきっちり呪いは乗る。
メインの攻撃手が動きを止められ、いよいよまずいか‥‥それでも、出来る限りの攻撃を重ね、援護射撃を加え、どうにか場を持ち堪えせると‥‥ようやく、装置が解除された。
じらされていた一行が、一斉に前に出る。
「拳なら負けん!」
相手が拳法使いとあって負けられないと思っていた炎西が、爪を振るい。
「リーチ一発ツモ緑一色でお逝きなさいなのです」
国士無双を抜き放ち――えーと、だから結局国士無双なのか? 緑一色なのか? さておき――緑一色が刀を振るう。
「お顔の色が優れませんね? ならば‥‥早く楽にして差し上げるのが情けというものでしょうか」
合流したシグも、援護をすべく戦線に加わり。
「突貫します、離れて」
更紗が、状況を見て宣言した。
すっ‥‥と、ソウマが恭しく道を指し示した。今回これまで、彼の「キョウ運」は発動していない。「萬子の呪い」の影響によるものだろうか? それもあるかもしれない。だが、そもそも。今回の勝利の為に、「キョウ運」など、必要ないのだ。阿吽の連携を見せる仲間が、ここにこれだけ集っているのだから。――いや。それこそが、今回の「キョウ運」だったのかもしれない。
更紗の、ヒベルティアを持って突撃の構え。ずっとこのタイミングを狙っていた。そして‥‥小隊の、そしてこの場で出会った仲間が、そのタイミングを作ってくれた。
「邪魔なものは総て轢き潰す、潰れろ」
AU−KVへと騎乗し、突っ込んでいく。キメラがまとめてなぎ倒されていく。残るキメラに、まとめて大ダメージを与えることに成功し、勝利は、これで決定的となった。
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「九連宝燈を和了ると死ぬというのは迷信です。要は究極の役満ともいえる九蓮宝燈を成立させたことで全ての運を使い果たして死ぬという、そんな噂ですよ」
ソウマが、もはや恒例となった解説を口にする。
キメラは倒されたが、一行の不安は消えなかった。
周囲に視線を巡らせる。前回姿を現したあのバグアは‥‥見つからない。
「おい、聞こえてるか! 手前ェの言ってた事が間違いだと教えてやる! 『伝説』が『英雄』を潰すんじゃねぇ、『伝説』が『英雄』を作るんだ! だから…手前ェの『伝説』を踏み台に、この皆遮盾・荊信が『英雄』になってやろうじゃねぇか!」
姿を見せない相手に向けて、荊信が吠えた。
「そろそろ、あきらめて欲しいな」
護は、静かにつぶやく。冗談みたいなものばかりとはいえ、実験にされた人間や動物のことを思えば、バグアに対しては不快感しか湧かない。
‥‥だが、その戦闘能力は決して侮ってはいけない相手。
慎重に、慎重に一同は警戒を続け。
――しかし、あの奇妙なバグアは、今回は姿を現さなかった。
●
『マア、そんナ格好つけテ言ウほどの『伝説』デモないと思うケドなー』
どこかで、バグアは、荊信の言葉に、それでも面白そうに呟き。
そして。
『――諦メろ? 諦めテる、サ。とっくニ、な』
護の呟きに対しては、やはり自嘲気味にそう返していた。
『モウじき、だろウな‥‥マアそれデも、あがクか。暫くは、準備ニ専念、ダな。『アレ』の効果が、アるといいんダけどなー』
言って、バグアは‥‥闇に消えた。