タイトル:【UL】都市伝説「斧男」マスター:凪池 シリル

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/09/29 17:32

●オープニング本文


 一人暮らしをしている女性のところに、友人が泊まりに来た。
 部屋にベッドは一つしかないので、床に一つ布団を敷き、部屋の主がベッドで、友人が床で寝ることにする。
 そういて、いざ、寝ようというとき。
「ね、ねぇ、コンビニ行かない? ちょっと喉渇いて」
 友人が、そんなことを言い始める。
「? さっき飲んだばっかりじゃない」
「そうだけどさ。ちょっとお腹もすいたし。そうだ、アイス食べたくない?」
「‥‥もう遅いよ? 明日にすれば?」
「お願い! どうしても今食べたいの! ね? 一緒に行こう?」
「まあ‥‥そんなに言うなら、いいけど‥‥」
 普段、こんなわがままをいう子じゃないのに。不思議に思いながら部屋を出ると、友人は蒼白な表情をしている。
「ねえ。どうしたの?」
「あの、落ち着いて聞いてね? ‥‥貴女のベッドの下に、斧をもった男がいたの」

 都市伝説、ベッドの下の斧男、とは、おおむねこんな話である。



「そーいえばさー、ターボばあちゃんっていう都市伝説、知ってる?」
「ああ、高速道路でおばあちゃんが追いかけてくるってやつ? 知ってるけど」
「こないだ九州自動車道が通行止めになったじゃない。あのときのキメラ、それだったらしいよ」
「えー、うそぉ」
「本当だって。友達の友達がULTの関係者と知り合いで、聞いたんだって」
「‥‥友達の友達って、それこそ都市伝説レベルの信憑性じゃない」
 二人の女性が、そんなたわいもない(?)ことを話している。
 一人はベッドに腰掛け、一人は床に敷かれた布団に座り。
 ベッドに座っているのが、この部屋の住人。床に座るのが、そこに泊まりに来ている友人、という関係、だ。
「じゃ、そろそろ寝よっか」
 友人が、そんなことを言った時だった。
 部屋主の女性が、蒼白な表情で、視線をどこかに固定したまま硬直していた。
「‥‥?」
 訝しげに友人が、女性の視線の先、ベッドの正面にあるベランダの窓へと向かい‥‥
「――っ!?」
 悲鳴は、声にならなかった。恐怖に身体がひきつって。
 ジェイ○ンのようなマスクをかぶり、斧を持った男、が、ベランダに、立っている!
 バリン。音が響いて、窓が破られ、男が突進してくる。
 女性も、友人も、余りのことに頭が真っ白になって、動けない。
 そして。
 にゅるん。
 次の瞬間。男は地面に伏せたと思うと、おおよそ人体には不可能なクネクネとした、しかし蛇のような俊敏な動きでベッドの下へと潜り込む。
 そのまま、ベッドの下で男の目と斧の刃が妖しい光を放ち。

 ‥‥さらそのままで、数分が経過。
 斧男は、ひとまずベッドにもぐったまま何もしてこない。

 ようやく、女性たちに、少しずつ思考が回復していく。が。
 どうしよう。
 どうすればいいのこれ。
「こ、こここここコンビニ行こう!?」
 しばらくして。友人がふと何か思いついたかのようにそう言うと、女性もカクカクと頷いてそれに従った。



「‥‥しかし、報告を受けてUPC軍が向かった時、そこには何もいませんでした」
 オペレーターは、微妙な表情で事件の概要を告げる。
「一件ならば冗談の可能性も高いでしょうが、同様の報告が同じ日に五件。発生条件は全て、『一人がベッド、一人が布団という状態で、二人で夜を過ごしていた』ことと共通しています。と言っても、別に女性同士である必要はなく、男性同士、異性間でも発生したということで‥‥あれ? じゃあ何? この人たち男女で夜を過ごしててわざわざ別に布団敷かされて寝ようとしてたの? うわー男の人、気の毒ー。あ、どうでもいい話ですね」
 報告内容を見て突っ込まずにいられなかったのか呟いてから、オペレーターはパタパタと手を振って続ける。
「まあそんなわけで、またもや『都市伝説を模倣したいみたいだけど最終的にはよく分からない』キメラ? を、どうにかしてくださいという依頼です。まあ今のところ被害者はないとはいえ見た目的には相当物騒ですし。何かあってからでは遅いですから。報告があった範囲を封鎖しましたので、どうにかして発見、出来ればやっつけちゃってください」

●参加者一覧

アンジェリナ・ルヴァン(ga6940
20歳・♀・AA
秘色(ga8202
28歳・♀・AA
アラン・レッドグレイブ(gb3158
26歳・♂・DF
ヨーク(gb6300
30歳・♂・ST
沖田 護(gc0208
18歳・♂・HD
ソウマ(gc0505
14歳・♂・DG
守剣 京助(gc0920
22歳・♂・AA
エクリプス・アルフ(gc2636
22歳・♂・GD
荊信(gc3542
31歳・♂・GD
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA

●リプレイ本文

「走るお婆ちゃんの次は、斧男か。バグアって、人間の何を研究してるんだろう」
 思わずといった風に、沖田 護(gc0208)が呟く。
「まったく。こういう依頼が有る度に思いますが、バグアって本当に異星人ですね。このキメラの作成目的が理解できませんよ。負傷者がいないのが幸いですけどね」
 ソウマ(gc0505)が失笑とともに、呟きに応えた。
 それを皮切りに、数名が今回の依頼、そして確認されているキメラの感想を口にする。
「しかし如何して状況を確認して侵入するのじゃろうな? ‥‥逐一覗きでもしておるのかの」
 秘色(ga8202)がそう言えば、
「女性の部屋に侵入した上で、襲わないとは‥‥。どんな属性なんでしょうかね。脅え萌え?」
 アラン・レッドグレイブ(gb3158)はそんな、ちょっとアレな発言をする。
「寝ようとしたらベランダに変人が立ってたなんて、そういうのが苦手な人は気絶すんじゃね。俺とか」
 守剣 京助(gc0920)に至っては、これからその変人を退治しに行くのに大丈夫か、ということを、冗談なのか本気なのか分からない口調でしゃべっていた。
「斧男ねぇ。ふふふ、私も斧が大好きで武器として使っていますから、存分に戦ってみたいですわ」
 そんな中、ミリハナク(gc4008)は心底愉しみと言う風に囁く。
 荊信(gc3542)が、その言葉ににやりと笑みを浮かべて頷くと、
「グダグダ考えねぇでブチのめしゃぁイイ‥‥シンプルで俺得って奴だよ」
 煙草を燻らせながら、そんなことを呟いていた。

 そんな雑談を交えながら――ちなみにその雑談の間、ヨーク(gb6300)は一切合切、一言たりともしゃべらなかった。徹底して、無駄な言葉は言わない男である――、一行は作戦を打ち合わせ、決行の夜を待つ。
 彼らの立てた作戦は、斧男が現れたのと同じ状況を作り、待ち伏せるというものだった。
 聞いていた通りに、「ベッドと布団で寝ようとしている状況」を作り、『囮』となるのが秘色とエクリプス・アルフ(gc2636)。
 異変が起きたらすぐ駆け付けられるよう、隣室で待機するのがアラン、護、ソウマ。
 侵入・逃走を警戒し臨機応変に動けるよう、庭で待機するのが荊信、ミリハナク。
 さらに、少しでも状況を有利にすべく、斧男の動きをいち早く察知するために巡回するのが京助とアンジェリナ・ルヴァン(ga6940)だった。
 ヨークも、本当に最低限の言葉で、超機械を用い後方から支援する意思を伝える。
 かくして、夜を迎え。一行は作戦を開始した。

 外を回る組は予想される侵入経路を、家の中で待つものは敵が不定形であることまで想定し逃走に使われそうなルートを。それぞれ念入りに確認し、後はひたすら待つ。
「まぁ呼んでくるものでもないでしょうし、一服してますかねー」
 アランがそう言って窓際に立ち、煙草をふかす。護はコーヒーを飲んでいた。
 京助は、いかにも、キメラを待ってるぜ! 的な疑いは持たれないよう、なるべく普通に街を出歩くような感じで巡回する。
「お、自販機発見。って、コーラねえじゃん‥‥」
 自然な感じを装うように、そんなことを呟いていたりもした。もっとも、無類のコーラ好きの彼のこと、後半の呟きは、わざとでなく本当に自然に洩れたものかもしれない。
 囮部屋の二人が動いたのは、そんな時だ。
 聞いた話によって、「今まさに寝ようとする状況」を作るのが大事と考えたエクリプスが、ごくさりげなく、「そろそろ寝ましょうか」と秘色に呼び掛ける。秘色が「うむ」、と頷くと同時に、しゅるりと衣擦れの音がした。
 はらりと着物を脱ぎ棄て、秘色が襦袢姿になる。エクリプスが、さすがに驚きで目を見開いた。
「着物のまま寝るなぞ、言語道断じゃろうが」
 視線に気づいた秘色が、ケロリと答える。
「では寝るかのう」
 秘色がそう告げた時。
 家の周囲を巡回していたアンジェリナが、何かに気づく。地面を走るするするという奇妙な音。同時に、低い位置から何かが急速に近づく気配。
 反応することはできただろう。だが、それが向かう先が囮の部屋がある方向だと察知すると、一人で対処するより皆で行う方が有利と判断し、泳がせる。
 素早く無線で連絡すると、逃がすことのないよう、ひとまずアンジェリナはその場で待機した。
 そして。
 するすると何かが庭を這い抜けていき。
 秘色から見える位置、その窓の外に、『斧男』が立ちはだかる。
 作戦通り。秘色はしかし、ベッドの中に引き込むまでは反応せず、むしろ怯える振りなどして見せた。
 誘われるままに、斧男は窓を突き破り、そしてにゅるりとその身をくねらせてベッドの下へと侵入する。
 その時、傭兵たちは動いた。
 待機していた人員が、囮の部屋に向かい、入口を、その他想定できる退路をふさぎ、斧男を取り囲む。
 それを確認し、秘色が、手にしたショットガンをベッド下に撃ちこもうと‥‥する前に、しかし斧男が先に動く。
『う‥‥あ‥‥?』
 愚鈍な呻き、だが動きは滑らかに、ベッドの下から再び這い出てくる。ぎゅるりと体をねじり、周囲を確認し。一瞬、動きが固まる。
 チガウ。状況が変わった。このままでは、主の命が果たせない。キメラは一瞬、戸惑いを見せ。
 そして、命を果たすべく改めて、行動を開始する。
 キメラの愚図な知能で考えられるそれは‥‥力づく。『寝室に二人』という条件を再び整えるには? 排除してしまえばいいのだ。他の人間を。
 そう。これまで『斧男』の目撃者に被害が出なかったのは、たまたま皆『二人揃って部屋を出る』という、都市伝説通りの正しい対処を取ったから。
 もしも、状況が違えば。京助は冗談で言ったが、気絶して逃げられなかったり。不意に第三の人間が訪れたり。そうした『斧男にとって不測の事態』が起きた場合‥‥キメラの凶刃が、一般人に向けられていたのかもしれないのだ!
 やはりキメラは危険な存在。即座に排除しなければならない!
 ‥‥とまあ、ちょっとシリアスに言ってみたりはしたが、「いや結局意味分からんから」という意見の存在は認められるだろう。そんなキメラであった。
 さておき。
『うがあぁああああ!』
 そんなわけで、斧男は雄たけびを上げて、新たに侵入してきた異端の存在へと一撃を振るう。
 ちょうど、部屋の入口に立つ護に向かったそれを、部屋の中にいたエクリプスが割り込む形で盾を構え、止めた。
 同時に、銃から刀に持ち替えた秘色が動く。
「寝所に忍び込む輩には天誅じゃ」
 優雅ながら高速で振り下ろされた刃が、一直線に斧男の身に食い込んでいく。
「‥‥ぬ」
 だがその手ごたえに秘色は僅かに顔をしかめた。伝わってくるのは粘土を切ったような感触。
 柔らかなその感覚に、攻撃の威力が殺されたことを理解する。
「これならどうだ」
 眼前に迫られた形の護が、手にした機械剣を振り下ろす。
 AU−KVによって増幅された知覚で、威力を高められたレーザーの刃が斧男の体を焼く。
 もんどりうって苦悶の声を上げる斧男。
「AUKVは、こんな場所でも戦えるんです」
 誇らしげに護が言うと、それで勢いづいたのか、傭兵たちがそれぞれの武器を手に斧男に向かう!
 エクリプスが盾で皆を守る中、ソウマの、ヨークの超機械が、アランの機械剣が、それぞれに敵を打ちすえる。
 一体だけおびき出されたところに、連携の取れた集中攻撃。しかも、軟体であることも見越していたのだろう、超機械を用意していたのは決定的だった。あっという間に、斧男は動かなくなる。

 完全に倒したのを確認すると、一同は顔を見合わせ、一度ふう、と息を吐き。
 ‥‥だが、そこで油断は、しない。
 斧男は、一晩で五組も確認されていたのだ。一体とは限らない。一同は頷き合うと、もう一度、おびき出す状況を作ることにする。
 結果は‥‥すぐに出た。
『何か行ったぞ!』
 巡回組の京助が、無線で警戒の声を上げる。ここまではまた予想通り。だが。
『一体じゃねえ! 複数いる!』
 続く声に、一同の緊張が高まる。
 斧男たちは、命を果たせる場所が周辺に見つからないことにかなり苛立っていたようだ。我先にと集まるその数、四体。そして傭兵たちが反応するのを確認すると、一体目と同様、『状況が整わないならば、無理矢理作り出す』という発想に落ち着くにいたったようだ。斧男の様子が尋常でないのを確認すると、傭兵たちも先手を打って反応する。
 ――かくして状況は結局、非常に分かりやすい乱戦、という体に落ち着いた。

 覚醒し、暴力的な性格へと変化したアランが、部屋に来た斧男に対し、我先にと前に出る。
 流れるような刃の動きで相手を翻弄し、嫌がらせのような攻撃を加えて斧男にダメージを与えていく。
 だが、攻撃の小器用さに比べれば、防御はややおざなり。反撃の刃も、幾度かアランの身に打ちこまれた。だが。
「相討ち上等! 避けるなんて器用な真似ァできませんからねぇ!」
 気にすることなく、アランは戦いを続ける。斧男は、ならばとばかりに大きく体をしならせて。人体には不可能な動きから、ありえないほどの勢いを乗せて斧を振り上げてくる。
 が、その一撃はアランには届かなかった。
「ソイツを通す訳にゃぁいかねぇかなぁ‥‥」
 盾で、錬力で強化した己の肉体で。重い斧男の一撃をはじき返した荊信が、斧男にはにやりと不敵な笑みを浮かべ。
「嫌いじゃねえぜそう言うの‥‥援護する。思いっきりやんな!」
 アランには、豪放な笑いを向ける。戦場で高揚する血を確かめ合い、男たちは視線を交わし。
 ――いや、戦いを好むのは何も男だけの血ではない。
「皆様とだけでなく、私とも遊んでくださるかしら? その首──斬り落とさせてくださると嬉しいわ」
 新たに庭に現れた一体に、ミリハナクが立ちはだかる。両手に斧を構え、楽しそうに、本当に愉しそうに彼女はすっと笑みを浮かべた。その両腕には今、闇が纏わりついている。
 不可解な、言ってしまえば気色の悪い動きを見せる斧男に何ら臆することなく、彼女は双斧を手に立ち向かう。
 軟体を持つ相手に、斧ではやや分が悪い。だが勢いを殺されるなら、それを上回る勢いの打撃を与えればいいだけのこと。エミタに働きかけ両断する勢いで斧を振り回し、少しずつ、だが確実にダメージを与えていく。
 護は、支援に徹しながらしっかりと周囲を観察していた。まだ修行中の身、敵味方問わず、参考に出来る動きがあれば吸収しようと思ったのだ。
 そのさなか。
「ちょっと秘色さん!? はだけそうですよ!?」
 相変わらず、襦袢姿のまま立ち回り続けていた秘色を見て思わず叫ぶ。
「え?」
 それを聞いて、ソウマはつい何気なく振りかえった。
 ‥‥それは、室内にいる斧男がまさに、ソウマに向けて凶刃を振りおろそうとしていた時。
 だが。
 振り向くソウマとともに旋回する盾が『偶然』その攻撃を綺麗に受け流す。
 動きを巻き込まれ、刃は見事に盾の表面を滑っていき‥‥たまらずバランスを崩して、斧男がべしゃりと転げた。
「おやあ?」
 改めて、ソウマは斧男に向き直る。全く意図せず敵を転ばせておきながら、呟く声音に疑問の色はない。むしろ、当然の結果とばかり――
「僕の『キョウ運』は凶器ですよ」
 そうして、倒れた斧男にソウマは超機械の容赦ない一撃を浴びせた。
 巡回に回っていた京助も、敵が複数になっていたのを見て取って戦いに参戦した。
 庭に隠していた二刀小太刀を素早く取り出すと、室内に残る敵を打ち倒すべく突進する。
「二刀流やんの何年ぶりだろうなっと!」
 不安を口にしながらも、その口ぶりはどこか楽しそうだ。覚醒とともに彼の背に浮かび上がる四本の剣が、彼のテンションに合わせてくるくると回る。エクリプスが盾を構えそのカバーに入った。援護を受けながら、持てる力を惜しまず使い、確実に攻撃を加えていく。
 やがて無事に立っている斧男はたったの一体となっていた。
 状況の不利を悟り、この場では命題を果たせないと理解したのだろう。あくまで『都市伝説を再現する』ことを第一に命じられる斧男は、隙を見て逃走を図ろうと‥‥するが。
 逃げたつもりのその先には、最後まで不測の事態に備え警戒をしていたアンジェリナがいた。 そう、もともと他の傭兵たちも逃がしたつもりなどない、斧男の経路を見て、そちらなら大丈夫、と判断したにすぎない。
 斧男の退路をふさぐと、アンジェリナは、最近新たに手に入れた力を解放する。
 アンジェリナが踏み出すとともに、地面が爆ぜた。
 踏み込みとともに、疾く、重い一撃が振り下ろされる。
 斧男の体に向かうのは、刃だけではない。
 絶。
 その一文字に徹底的に純化された意思。
 込められた力が、相手がキメラだとか、軟体だとかいう事実などお構いなしに、ただ意思を果たす。
 斧男の肩から入った刃は滑らかにその体に埋まっていき、一気に腹の先まで到達した。
 おそらく斬られたことすら理解できないだろうままに、斧男の体が倒れた。
「これがハイランクの力‥‥悪くない。悪くないが、見誤ると途轍もない事になり得る‥‥そんな力を感じる」
 アンジェリナは、思わずそんなことを呟いていた。

 かくて全ての斧男は倒され、街に静寂が取り戻される。
 ミリハナクは、倒した証とばかりに、相対した斧男が使っていた斧を拾い上げて、持っていくことにする。
(ただし、この斧はのちに「キメラが使用していたものとのことで、研究対象です」と未来研に没収されることとなる)
 去り際。
「アメリカ発祥の都市伝説とも言われていますが、やはり都市伝説。類似する事件は皆無だそうですよ。せいぜい、賃貸情報誌に戸締りを促す目的で掲載されているのが実情。虚構の存在は虚構のままであるべきなんですよ」
 ソウマの唇から零れる、誰にともつかない言葉が、風に流れていった。
「まぁ、こういう仕事の方が、わかり易い分、後腐れが無くていいさ‥‥」
 結局最後は単純な戦闘になった、その分考える面倒がなかったからだろう、荊信が気楽な調子で言った言葉は、しかし、微かに含みが感じられる。少し気になったのだろう、護が訝しげな目を向けた。
「なぁに、ただただ殴り合えばいい、喧嘩はシンプルな方が良いんでな‥‥」
 荊信ははぐらかすようにそう言って煙草をふかした。
「油断せず、それぞれの役を果たす。いつも通りですね」
 ‥‥深く、聞かない方がいいのかもしれない。護もただ、同意するようにそう答えた。


 しかし、またしても、『結局はいつものキメラ退治』となったわけだが。
 それだけに、その目的は意味不明、である。
 目的が分からぬだけに、これで終わりでないかも‥‥まだ、不明である。