タイトル:【火星】前向きな話マスター:凪池 シリル

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/02/02 23:43

●オープニング本文


 月面基地崑崙では今日も様々な作業が行われている。
 バグアの置き土産的なキメラ、無人ワームの警戒に、本星デブリの観測、除去。
 月面そのものの調査も進められているし、宇宙での長期滞在施設としてはこの基地はまだまだ研究、拡張の必要があった。
 ‥‥そして、それらの作業の傍らには、ほぼ必ずと言っていいほどKVの姿がある。
 護衛としては勿論のこと。ブーストをはじめとしたハイスペックな性能は、特に宇宙開発においては作業用機械としての転用をと考えるものは少なくない。
 傭兵たちも、緊急的にKVにおける土木作業や回収作業を行ってきた経験のある者はいるだろう。そうした経験や興味のあるものには基地のものは積極的に、作業に加わるよう声をかけていた。効率化の為、今は知恵と経験、試行錯誤回数は多いほうがよい。
 一般人と能力者が。作業機械とKVが。肩をならべて作業する、その背景には月面の大地と暗く煌めく宇宙。
 ‥‥ほんの昨日まで戦争していた気がするのに、この光景は何なのだろう。
 こうして世界が、変わっていくのか。
「しかし、火星‥‥なあ。本当に、んな必要あんのか?」
 この変化は少し性急すぎるんじゃないだろうか。取り残される心地を誤魔化すように、速水 徹は呟いていた。
「必要はともかく、確かな理由ならある」
 対し御武内 優人(gz0429)は、やけに自信満々な様子でそれに答える。彼がこういう態度の時には概ねろくなことは言わないので、徹は返事はせずにただじろりと一瞥をくれた。
 だが、優人はそれを促し、と取ったようだ。堂々とした態度のまま大きく口を開き、そして述べる。

「【行きたいから】」

 ‥‥まあ、そんなとこだろうこの単細胞は。やれやれと溜息をつく徹に、しかし優人は続けた。
「え? 駄目なのコレ。だって行けそうならどこまで行けるか試したくなるもんじゃない? 普通」
 穏やかな口調のまま続ける優人に、徹は顔を上げる。冷ややかな態度に大袈裟にうろたえて見せることのない、優人がそうした態度のときはつまり、ボケではなく本気で言っているのだ。
「人類が宇宙に進出する理由なんて【行きたいから】、以上も以前もあるのかな。資源だの技術開発だのって、そんなんどれも後から考えただけじゃない?」
「‥‥」
 明確な反論は‥‥思い浮かばなかった。
「いやまー。要するに俺はもうしばらくKV乗れる理由があればその方が良いってだけだけどね。宇宙でKV乗るのも、地上とは違う感覚でちょっと楽しいし。強制的に全撤収〜、ってなるよりは、地上か宇宙か選べる今の方が良いなあ」
 再び徹の口から漏れ出た溜息は‥‥何なのだろう。単純すぎる優人に対する、呆れなのか、それが一周回っての感心なのか。感心ゆえの‥‥己に対する自嘲なのか。
「はやみんは、」
 そして、そんな徹の気持ちに、優人は気付いているのだろうか。
「今後、どうしたいの?」
 しれっと、痛いところに切り込んできたことを分かっているのだろうか。
 ――いらない子だもの
 バグアについた実の母親からそう言われたことを徹はまだ忘れていない。完全に振り切ることは出来ていなかった。母親の影を断ち切る為にバグアと戦い続けて‥‥その戦いもほぼ終結した。
 どうするのだろう。
 どうしたいのだろう。
 これから自分は、どう、していけばいい?
 変わっていく世界に、まるで変わらない友人。
 ‥‥自分はきっと、変わらなければならない側の人間。
 そんな自分が‥‥。
「特に決まってないならまあ、もうしばらくは一緒に翔んでくれると嬉しいけどね。やっぱKVは信頼できる相棒と飛ぶのが一番」
「‥‥‥‥」
 徹の沈黙は、結構長かった。
「お、おぅ‥‥のーりあくしょん。いつもみたいに『相棒じゃねえ』ってツッコミすらなし? あの、ちょっとわりと寂しいよ?」
「‥‥んだよちょっとわりとって。相棒じゃねえ、っつったら『相方?』ってボケるつもりだろうが分かってんだよ。‥‥そんだったら相棒の方がましだ」
 ふん、とそれだけ言って徹は踵を返す。
 もう少しで交代の時間。リトルフォックス隊も、護衛としてデブリ回収のチームに出る。
 結局、優人の問いに徹ははっきりとした答えは返さなかったが。
 ――‥‥まあ、とりあえずは、このチームで飛んでるのもいいか
 ひとまず、それだけ心に決めておく。


 KVが新たに月面基地から飛び立っていく。
 護衛のKVに見守られながら、幾つかのKVが並んで作業をしている。
 遠い宇宙の光景に、その先に、少しは素直に胸躍らせてもいいのかもしれない。
 考えること山ほどある、それは分かっている。でも。
 戦争は終わった。少しだけ前向きになれる光景が、ここにある。

●参加者一覧

地堂球基(ga1094
25歳・♂・ER
シンディ・ユーキリス(gc0229
25歳・♀・SF
クラフト・J・アルビス(gc7360
19歳・♂・PN
村雨 紫狼(gc7632
27歳・♂・AA

●リプレイ本文

 ――今日も今日とて、月の大地で土木作業と来たもんだと
「そんじゃあ、KVは向こう側から頼む」
 現場の指揮者から威勢良くそう説明されて、地堂球基(ga1094)はしみじみと思う。
 真っ白な月の大地に、建築の基礎を打ちこんでいく。一般建機が基地側、KVが反対側、というのは、つまり、不意の襲撃があってもKVが時間を稼いでくれるようにと考えてのことだろう。作業については、基本、現場の指示に委ねつつ、緊張は適度に保つ。
 ‥‥KVと言えば、激しい戦闘に動きまわり、飛びまわっていたものだ。慎重に時間をかけて上げ下ろしや打ち込みを行う、という作業は、普段と違う神経と筋肉を使う。慣れるまでは、思った以上に疲れそうだ。
 臨時雇いの短い期間とはいえ、毎日毎日の作業。大変ではあるのだが。こうした地道な行為が有ってこそ‥‥目標とする場所へと、近づいていくのだと思えば、気力はいくらでも湧いてくる。
 目指す、遥かな場所を見やるために、KVごと見上げた空。
「あっちも始まったのか」
 丁度その時、また基地から新たに、KVが飛び立っていくのが見えたのだった。




『超魔導合神! ブレイブゥゥ! ダイッバァァァドッ!!!』
 アニメの世界から抜け出してきたかのような、ひときわ異彩を放つKVから、これまたひときわ異彩を放つ宣言と共に、一機のKVが先頭を進む。
 村雨 紫狼(gc7632)の機体だ。
「いやー戦闘中だと名乗りも見得切りも出来ねーんで気持ちいいなあ」
 そうして、心底うれしそうに呟いてから、軽く旋回。その軌道に合わせ景色が流れていくカメラモニタに、徹の機体が映る。
 深刻そうな顔をする彼から、あまり馴染みではない自分が根掘り葉掘り聞くつもりはない。‥‥誰もが何かを背負ってしまった戦争だ。
 紫狼自身も例外ではない。‥‥打ち破ったバグアたちに、強化人間。その命を背負っていると、自負している。
 だから、逆に考える。この胸の痛みを忘れない、と。
(弱さも苦しみも、受け入れて背負って生きる、それが大人になるってこった)
 心の中で、追随する若手たちにエールを送りながら、紫狼は更に加速する。

 その、徹たちリトルフォックスチームの機体に、並走する様に近づいていく機体が一機。
『やっほー。ひっさしぶりー』
 優人の機体に通信を入れてきたのは、クラフト・J・アルビス(gc7360)だ。
『お。クラフトだ。なんかお久だね。どうしてたん?』
 言われてみれば確かに久々か、という感じで優人が応える。さして気にした風でないそれは、つまり、多少の時間をおいたくらいでは変わらない関係の表れでもあった。‥‥機体越しになってしまうのがほんの少し惜しいと、クラフトは思う。
『えーっと、俺は、今オーストラリアに帰る準備中。復興しきってないけどね、どうせ一からやり直すんだし、故郷を元通りにするために頑張ってるってところかなー』
 結局のところ、あそこが一番居心地が良かったということもあるのだろう。
 言いながらクラフトは、モニタに移る友人の機体、宇宙に出ても変わらぬ、見慣れたディアマントシュタオプを見やる。宇宙に浮かぶKVの絵。オーストラリアの復興に専念すると決めたということはつまり、この依頼が終わったら、当分宇宙には出られないだろう、ということも意味していた。
 復興をすると決めたこともあるし、それに彼女のこともある。せめて地球上にはいなければ、と。
『で、優人達は、しばらくこっちで頑張る感じ?』
 尋ねる声には、若干、宇宙への興味を捨てきれない未練があった。
『俺ら? 俺らはうーん。多分』
『何だよそれ。軍がそんなにアバウトでいいのかー』
『んー。俺らわりと、必要なところにあっちこっち行ってるからなあ。今んとこ崑崙だけど、どっかで情勢が変われば、分かんない』
『‥‥そっか』
 彼らはどこに行くかは、自分では選べない。それを思えば自分の名残惜しさなど可愛いものかもしれない。もっとも、優人はそのことを深刻に考えるつもりなどこれっぽっちもなさそうだが。彼には、これくらいの適当さが丁度いいのかもしれない。
『‥‥お前ら、雑談するなとはいわねーけど、ちゃんと周り見てるだろうな』
 と、ここで、徹からの割り込みが入った。いつひょっこり敵戦力が顔を出すか、まだ油断はできないのだ。それに‥‥気がつけば、目的とするデブリ地帯の、すぐ近くまで来ていた。




 かくして、護衛と作業チームに分かれながら、デブリの回収作業が始まる。
 大きな残骸に向けて、KVから粉砕の一撃が放たれる。
「バグアとの戦いは、一応終わったってことになってるけど‥‥」
 戦いが終わってからも、自分たちの仕事は、あまり変わり映えがしない気がする。そうぼやくのはシンディ・ユーキリス(gc0229)だ。
「まぁ、いきなりお払い箱になるよりは、いいけど‥‥」
 暫く、忙しいのは変わらない、だろうか。
 目の前の残骸がある程度細かくなったのを確認すると、シンディ機から顔をのぞかせたのは宇宙用の多目的アタッチメントだった。
 変わり映えのしない仕事、とはいうものの。
 戦闘用ではない、作業用のKVパーツと、それから、コンストラクションOSのオート操縦とマニュアル操縦の切り替えの意識。効率化を図るには、やはり戦闘とは違う意識を働かせる必要がある。

「しっかし、こないだ掃除の為に大規模な作戦があったって言うのに、まだこんなにあるんだな〜」
 別の場所で、紫狼が別のぼやきを漏らしていた。御大層な名乗りを上げたが、ひとまずは、大人しくごみ掃除をしているしかない。平和利用、と考えると、悪くはないのだが。
(しかし宇宙か‥‥KV乗り、となると能力者だしな)
 例えば型落ちや半ジャンク化したKVを、非武装のワークローダーKVとして再生して、能力者雇用の道とすることはできないだろうか。
 バグアの外宇宙航行用宇宙船の接収に、火星開拓。宇宙の新たな可能性を耳にしてきたし、直接関わっても来た。
 命の奪い合いじゃない、建設的な行動にエミタの力が使える。それだけで‥‥いい。
(自分が変われば、世界が変わる‥‥自分の欲望の為に世界を変えようとするんじゃない、自ら変化し、世界と調和していけるのが人間だ)
 能力者であろうとも。今の形の能力者を、世界が必要としなくなったのならば、必要とされる形に、己が変わっていけばいい。

 皆で協力して、デブリを集めていく。
『まだまだたくさんあるね‥‥』
『元々がバグア本星だからねー。粉砕に予定より時間かかってるかなあ。今計画中の大型レーザーが完成すれば、もうちっと楽になりそうだけど』
 クラフトの声に、優人が答える。
『大型レーザー‥‥そっか、そんな計画もあるんだっけ』
 色々進んでるなあ、と。しみじみとクラフトは思う。思えばこの基地は、来るたびにどこかしら姿を変えている気がした。
 文句も言いながらも辛抱して作業を続けていけば、やがて眼に見えるほどに目の前の景色も綺麗になっていく。
 ‥‥いつしか、自分が地上に専念している間に宇宙が遠くなってしまうのでは、という不安は消えていた。
「仕事で長期滞在とかなら難しいかもだけど、遊びに行くのなら可能だよね」
 時間がたてばたつほど、きっと地上と宇宙の距離は小さくなっていく。
「『そうだ、宇宙に行こう』みたいな日が来るかもだしね」




 球基が従事する月面上での基礎工事も、順調に進んでいた。
(とりあえず、手前の自己解決できる問題を処理しつつ、廻りの状況を踏まえて手順に逸れない程度に手伝う感じだよな)
 KVは確かに、細かい動きが可能な、優れた性能をもった機体だ。
 だが、本当に地面を馴らす、土台を敷く、程度の作業なら簡単なレクチャーで手伝えても、そうはいかない、きちんとした専門知識を必要とする作業も、勿論関わってくる。そうした作業は、やはりどうしても非能力者が主体だ。
 戦いに明け暮れていた能力者たちは、ずっと作業に専念していた者たちよりは建築に対し経験、知識を譲り。
 しかしながら、能力者でないものは防備が低く、宇宙への感覚に対し、エミタからのサポートが得られない。
 ならばこれらは、お互いに足りないところを補って補完する立場。ただ漫然と手伝うのではなく、滑らかに協力できるよう、人付き合いにも気を使いたいところだ。

 そうして、能力者たちはそれぞれに、決められた作業を黙々とこなし、いつしか迎えた最終日‥‥―ー

『よおーし、慎重に降ろせー!』
 声を張り上げる。新たなユニットブロックが、月面基地に接合される。月面基地に、使える場所が新たに増える形だ。
 地面から伝わってくる振動がなくなると、球基はじっと、司令室から聞こえる通信に耳を澄ませていた。
『接合OK‥‥計器異常なし‥‥気密‥‥状態‥‥』
 一つ一つ、作業が上手く言ったのかどうか、それを示す情報が流れていき。
『OK‥‥隔壁開きます』
 そして。新たに誕生した月面基地の一室に。今回の現場監督が、名誉と、それから責任をアタすべく、第一歩を踏み出していく。
 モニタ越しに、皆でその様子を見守る。それから、数分。
「よしっ! 一切問題なしだ! お前らも入ってこい! ‥‥例の準備は出来てるな?」
 心底うれしそうな声で、監督が声を上げた。通信は、球基の元にも入っている。これは自分も呼ばれたことになるのか? しかし‥‥例の準備とは何のことだ?
 戸惑いながら入り口付近でうろうろしていると、何してんだ入ってこい、と、当たり前のように手招きをされた。
 そして、例の準備。その意味が、直後に判明する。
 運ばれてくる、簡単な食事と、それから、酒。
「こうやって、新しく宇宙の最前線になった場所で、真っ先に宴会。俺らだけに許された特権よ」
 杯を掲げて、工夫たちは誇らしげに、本当に誇らしげに肩を組む。
 ――‥‥ああ、そうだ。今ここが、宇宙の最前線となった。
 それはすなわち。
(‥‥『約束の場所』に向けて、また一歩前へと進んだよ、爺さん)
 思い浮かぶのは好々爺の顔。バグアに道を閉ざされた後もなお、宇宙へと望み続けたその人。人類へと宇宙の道を、再び示してくれた者。
 顔を上げて見やるのは、月の地平線でも、火星でもなく、もっとずっと遠く――『果ての向こう側』。
 そのための努力として、彼は今ここにいるのだから。
「何れは向かう星の海、迎え撃つは希望か絶望かってな」
 ‥‥とはいえ、安全、安心忘れずに。はやる気持ちを抑えるように、肩をすくめて呟いて。しかし今はしばし、仲間たちと充足感に浸っていても許されるだろう――




 デブリ回収作業も、目的通りの成果を上げて撤収の流れとなっていた。
 帰りの道。またも優人に語りかけるものがいた。シンディである。
『‥‥リトルフォックス隊は無事だったって聞いてはいるけど、皆、元気‥‥?』
『うん。シンディたちも無事だったんだね。良かった』
 激しい戦いがあったのだ。こうして、知り合いの無事を確認できるのは、本当に幸運なことだと思う。互いの近況を確かめ合うその声は、本当に、喜びに満ちたものになる。そうして、簡単な報告をしあった後。星の海を泳ぎながら話題に上るのは、やはり宇宙に向けての話。
『行きたいから‥‥か。ユウトらしい理由だね。それに、その気持ちは何となく私も分かるよ。
規模は違うけど、私がザック一つ担いで旅に出る理由は、詰まるところ『行きたいから』、だしね?』
 彼女がバックパッカーとして、世界中をめぐっている話は、優人もこれまで何度か耳にしている。ただ、今回のそれは、「何気ない話題提供」とは少しトーンが違っている気がして、茶化すことなく優人はただ、時折相槌をうつのみだ。
『戦いが終わって、ひと段落したら‥‥記憶を探すのも兼ねて、思う存分一人で世界中を回ってみるつもりでいたんだけど。何が待ち受けているか誰も知らない宇宙の先を目指すのも、きっと素敵なことで‥‥そっちにも惹かれるんだよね』
『‥‥そっか』
 どちらが良いのか、については、優人は答えない。記憶を失っている、とはどのような状態なのだろう。優人には想像できない。出来ないからこそ、安易に同情もアドバイスもするつもりはない。思い出す方がいいのか。思い出すならばどうするのが良いのか。そこについては、何も言うつもりはない、から。
『もし、その時は‥‥ユウト、私とも一緒に飛んでくれる?』
 だから、はっきりと己に向けて問われた、そのことについてだけ。
『‥‥俺は』
 いいとか悪いとかではなく、ただ素直な気持ち、それだけを。
『シンディと飛べるなら、そりゃあ、すごく嬉しいよ?』
 偽りなく、はっきりと、答える。
『‥‥そう』
 彼女が、そう、答えた時だった。

『んじゃ、しばし宇宙とのお別れ。というわけで無重力ひこー!』

 響いてきたのは、クラフトの声。そして、レーダーに障害物が何もない宇宙空間を、急加速して突き進んでいく。
 ブーストによる疑似慣性制御。それをフル活用して、アクロバット飛行めいたことを敢行する。
『あはは。いいな、あれ』
 そうして、優人も笑って、ふわりと、チームで隊列を組んでいたその位置から離脱する。
『というわけで、リーダー権限によりこっから自由飛行とします。うん、離れすぎなければ多分大丈夫だよ、多分』
『お、おい!?』
 そうして、仲間がツッコミを入れる暇もなく、チームから離れていき。
『‥‥ということで、せっかくだしさ。今から飛ぼうよ。予行練習、予行練習』
 そうして、エスコートするかのように、シンディ機へと近づいていく。

『‥‥あの、なあ』
 呆れ切った、徹の元へ。
『ま、難しいことは考えなくてもいいさ』
 変わるように近づいていったのは、紫狼。
『バグアに比べりゃはるかに短い命だが、まだだま数十年は生きられる。人生の先は長い‥‥楽しんでいこうぜ少年』
 声をかける紫狼の通信機に、やがて返ってきたのは‥‥呆れと、諦め。そして、何かをふっ切ったかのような溜息だった。




 宇宙。ここでは毎日、未来が切り開かれている。それは過去、誰かが踏み固めてくれた道でもある。
 皆の希望を乗せて。
 そして、新しい希望となって。
 彼らは、今日も進んでいく。