タイトル:【火星】今、その力はマスター:凪池 シリル

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/12/20 06:35

●オープニング本文


 月面基地『崑崙』。大戦が終結したあとも、この基地司令部には日々、様々な報告が飛び交っていた。
「ステーション101号より定時報告。偵察宙域に異常なし」
「本星デブリ撤去状況の進捗ですが‥‥」
「例の工事は、今のところ順調、ですか」
「メガ・コーポ向け説明資料の草案はどうなってる?」
 宇宙における、UPC軍の最前線。残された宿題とこれからの課題。この基地が担うべき役割は多く、それに対して人員と設備が十分とはまだ言えない状態だった。
「やれやれ。この状況で火星の移住を考えるなど、早すぎる気もするな」
「‥‥手が足りないことが分かっているからこそ、早め早めに考え始めておこう、ということなのかもしれませんよ」
 司令室を行き来する仕官同士、何気なく交し合う言葉は苦笑混じりだ。孫 陽星(gz0382)中尉の手帳に書かれたToDoリストも、相変らずびっしりである。ただ、改めてそれを見返して溜息をつく孫中尉の表情は、重たいばかりでもない。
(もう少し、この作業を片付ければ、とりあえず‥‥――)
 思いを馳せる、その先のことに気力を貰いながら、どうにか業務をこなしていく。

 そんな日々の中。あるとき、切り裂くように、非常事態を告げる警報が基地に鳴り響いた。

「マスドライバー設置工事現場に、キメラの襲撃、ね」
 バグア技術の転用として、人類が形にしつつあるマスドライバー。輸送補助だけでなく、大型デブリの粉砕用とすればすぐにでも利用価値がある、として、火星移住計画において早い段階から検討された案件である。その現場に、キメラの襲撃があったという。
 勿論現場に護衛のKV隊は付いていた。彼らの活動もあって、作業員はもとより、現場にも大きな被害なく撤収を行うことは出来た。
 ‥‥だが、防衛を優先させたため、その際に、数匹のキメラを取り逃している。
 逃亡の意図が不透明のため、すぐに追うのは危険と判断された。改めて、偵察隊が出動したのは、撤収が完全に完了し護衛隊からの簡単な聞き取りを終え、十分に体勢を整えたあと。その初動は、慎重さを優先したものとなっている。
「本当に‥‥すぐに追わなくて、よかったんでしょうか‥‥!?」
 話を聞き終えた護衛隊員の一人は、明らかに落ち着かない様子だった。
「中尉。このまま‥‥あのキメラたちを見失ったら、その‥‥カンパネラへの船は‥‥」
 隊員が、何を懸念しているのか孫中尉は理解していた。次に出る崑崙とカンパネラを結ぶ定期便。出航には、まず確認されただけのキメラの確実な駆逐。その後の念入りな調査は必須となるだろう。
 ‥‥既に確認されているキメラすら見失った、となれば、中止すら検討せねばならない。そうなれば。
「お、お願いします! 何とかしてください! 家族にクリスマスには戻るともう連絡したんです! 4つになる娘が待ってるんですぅぅぅ!」
 ‥‥そうなれば、次にカンパネラから出るシャトルで地上に帰れなくなる――クリスマスに、間に合わなくなるのである。
「‥‥お気持ちは、お察しします」
 目を閉じて、しんみりと。孫中尉は、隊員に答える。
 分かるとも。
 とてもよく分かるとも。
 ‥‥中尉だって、ようやく長期休暇の許可が下りて、そのシャトルで帰還予定だった所なのだから。
 なるほど隊員が言うとおり、護衛KV隊にすぐさまキメラを追跡させていれば、キメラの出所がすぐに把握できた可能性は高い。だが‥‥――。
「そうした事情であれば、尚の事貴方が危険を負うわけに行かないでしょう」
 未練を断ち切るように、孫中尉は告げる。
「LHにも連絡を取り、傭兵に応援を要請しています。‥‥これは、バグアとの戦いです。共に戦う仲間を信じ、己がすべきことを、尽くしましょう。無謀も慢心も許すことなく。我々は、そうやって勝利してきた‥‥はずです」
 隊員ではなく己に言い聞かせる為に言って、中尉は窓の外を見た。
「‥‥どうか力を貸してください。まだ、貴方方の力が必要です」
 待ちわびるように、祈るように、ぽつりと中尉は、虚空に向かって呟く。


 今なお。世界は能力者の協力を必要としている。
 残されたバグアの抵抗勢力を討つために。
 戦いを経て得た、人類の新たな可能性を探るために。
 あるいは――例えば、大切な人とクリスマスを過ごしたいとか、そんなささやかな願いをかなえてもらうために。
 緊急出動した宇宙船の中。傭兵たちは何を思うだろう。‥‥何のために、力を貸してくれるだろうか。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
小鳥遊神楽(ga3319
22歳・♀・JG
美崎 瑠璃(gb0339
16歳・♀・ER
那月 ケイ(gc4469
24歳・♂・GD

●リプレイ本文

「今回、軍と傭兵の連絡係を務める美崎伍長です!」
 そう言って、崑崙に到着した一行を出迎えたのは美崎 瑠璃(gb0339)だった。
 傭兵として軍に、ではなく、軍として傭兵に。
 そう。今の彼女は傭兵に与えられた名誉階級としての伍長ではなく、紛れもなくUPC宇宙軍伍長、なのだった。
(あたしが軍人さん、かぁ。能力者になった時はこんな風になるなんて思いもしなかったけど)
 宇宙を目指すことに決めて、UPC軍に志願してからの、これが初任務。色々な想いを巡らせながら、瑠璃は集まった傭兵たちを確認し‥‥
「‥‥ってことだけど、いつも通りのあたしでいいよね?」
 そうして、結局大半が見知った顔ぶれだったこともあるのだろう、すぐに姿勢を崩してそう話しかける。
 軍になったからと言って、急に態度が変えられるわけでもない。自分は自分のままで行くだけ、と、立場の変更に対して彼女の態度は堂々としたものだ。
 ‥‥軍として、これから上下関係や規律というものをまったく重んじないわけには行かないだろうが。
 それでもこの場においてはそれで問題はないようだ。苦笑と共に穏やかな空気が、一同の間に流れていき。
「いいんじゃないかな。俺はその方がやりやすいし」
 那月 ケイ(gc4469)がそう答える。そのまま何気なく、軍に志願したんだ、と尋ねると、瑠璃はどこか誇らしげに、「うん!」と元気良く頷いた。
 北京の大規模作戦以降、宇宙に関わる人々の熱意に触れる機会が多かった彼女は、いつしか自身も宇宙に関わりたいと考えるようになった、その方法としてこの道を選んだのだと。
「へえ‥‥」
 手短に語られた経緯に、ケイは思わず声を漏らした。
 バグアとの終戦。世界はまだ多くの問題を抱え、痛みと悩みにぶつかっている。でも、その中で、すでに新たな夢に向かって動き出している者たちがいる――
「火星移住計画の話を聞いた時は正直驚いたけど」
 視線を外にやれば、真白く広がる月面の大地。地平線から先には、星々の輝く宇宙が広がっている。あの先に、人類は手を伸ばそうとしている。
「でも、そんな欲を出せるくらい余裕が出来たのは良い事なんじゃないかな」
 呟いて、それから。
(‥‥その分、陽星さんの仕事は増えるかもしれないけど)
 何となくそんな事を思った、丁度その時。
「‥‥まあ、そのためにはまず、今いるキメラを退治しないとね」
 ケイの思考に、小鳥遊神楽(ga3319)の声が被る。
「‥‥さすがバグアの置き土産だけあるわ。最悪のタイミングで起動するとか」
 低く抑え気味の彼女の声には、僅かに憤りがにじみ出ている。
「ともかく原因となったキメラの駆除と元凶の排除をして、帰還を待ちわびている人達が安心出来るようにしないといけないわね」
 神楽の言葉は、せっかくの休暇をフイにされようとしている崑崙の人々の為の義憤に溢れ――。
「ああ‥‥うん、そうだよねえ」
「‥‥何よ」
 軍人として、【ある程度の予定】を知っている瑠璃が、つい向けた声と視線に、神楽は少し牽制する様な態度を見せる。‥‥神楽自身に、実際は自分はごくごく個人的な事情で参加している、という自覚はあるのだ。
「ああいや、もうクリスマスも近いんだねぇ、って。大規模が終わってからも身の周りがバタバタしてたから全然実感ないや」
 瑠璃もあまり野暮を言う気はないのか、にゃは、と笑いながらそう答える。事実、忙しいし、宇宙に来てからは余計に、季節や行事を実感しにくいのも確かだった。
 でも、だから。
「あたしの周りにも、家族に会いたがってる兵士さんがいるし。じゃ、その人たちが安心して帰れるようにさっさとキメラ、見つけちゃわないと!」
 瑠璃が張り切って声を上げる、それが、ブリーフィング終了と準備開始の合図になった。
 ただ‥‥。
 作戦開始となって、いち早く踵を返したのはドクター・ウェスト(ga0241)。急ぐその足取りは、しかし。
「我輩は『能力者』、すでに地球のイベントとは決別している〜」
 クリスマスや兵士の事情といったものとは一切関係なく、ただバグア戦力の排除、それのみへと意識を向けたもの。
「『交渉』だの言った結果がコレではないのかね〜」
 吐き出すように言ったウェストの言葉に答える者はいない。元々、今回はバグアとの停戦云々とは余り関係がない事例と思われた。今回起動したポッドはおそらく月面会戦時にバグアの強硬派によって投棄されていったもので、停戦合意が為される以前のものだからだ。
 先を歩くウェストと、少し遅れて、神楽と、瑠璃と、ケイ。共に進む二人を交互に見やりながら、ケイは再び、物思いに沈む。
 ‥‥バグアとの戦争が終わった、これから。
 能力者の在り方はどうあるべきなのだろう。
 考えさせられる温度差が、今ここにある。




 いち早くキメラを見つけるべく、一行は分散しての索敵を選択した。それでも、互いにレーダーに写る範囲で、というのは全員が順守している。
 瑠璃はハヤテ、Lapis Lazuli Mk3のカメラモニタを真剣に見つめ、地表を観察。不自然な割れ目や足跡といった痕跡を見つけられないかと注意しながら捜索している。
 襲撃現場となったマスドライバー設置予定地より、キメラの現れた方向を辿るようにしてケイ機、パラディンのアイアスが駆けていく。
 ヴァダーナフ、デアボリカの中で神楽は、短い時間で収拾できた襲撃状況の分析を改めて確認。ある程度の捜索範囲の絞り込みを駆けると、ケイとは重複しない方向へと向かう。
 ウェストの機体は天。彼は、自身も捜索をしながら、各機からのデータを集め出現地点の絞り込みを狙っている。
 急ぎながらも焦りは許されない。各種計器と、ひっきりなしに流れていく通信。目の前を流れる光景にと、気を抜くことを許されない索敵活動が続く。

 初めに動きを見せたのは、崑崙との連絡を注視していた神楽。基地のレーダーに反応があった方向へと進んでいくと‥‥。
『居たわ! 反応は二匹!』
 声を上げながら神楽機はスナイパーライフルを構える。手短に状況と、敵の数から全員集まる必要はない旨告げる。
『フォローは俺が! 二人はそのまま捜索お願いします!』
 すぐさまケイが呼応した。
 向かい来る敵、味方。その距離を確認すると神楽はキメラと距離を詰め‥‥射程に捉えると同時にトリガーを引く!
 銃弾が、宇宙の闇の中ぬめりと光る宇宙キメラのグロテスクな体躯、そのどてっぱらに撃ちこまれる。のけぞるキメラ。さすがに一撃で絶命とはいかず、すぐに姿勢を立て直すと、反撃の弾丸を体内から撃ちだしてくる。距離が開いているため神楽機はそれを難なくかわすが、別の一体がその隙に距離を詰めてくる。
『させるかっ!』
 同時に、ケイ機がブーストをかけてエンゲージに来ている。反応し、向き直るキメラを、機刀「凪」を構えて迎え撃つ。

『っと、こっちにもっ!』
 始まった戦いの気配に誘われてか。別の地点で新たな気配が生まれていた。
『2‥‥いや、3、かなっ‥‥!』
 見つけた反応に瑠璃機が急ぎ向かっていく。キメラとは言え大型、複数相手に無理はしない。瑠璃が取った行動はまずバルカンでの足止めだった。
『特に目的もなく、敵対物を攻撃するプログラムだけかね〜』
 神楽側と瑠璃側、双方のキメラの動きを見てウェストが推測する。そのままウェスト機も瑠璃機が対応するキメラへと向かっていく。ガトリングを撃ちながら接近。キメラの反撃を避けながら、更にレーザーガンを叩き込み、近づくまでにダメージを負った個体に向けて錬機槍を振り下ろす。
 自らバグアへの憎悪を自覚しているウェストの攻撃はまさに容赦がなかった。真っ直ぐに錬機槍に貫かれ月面の大地へと縫い留められたキメラが陸に揚げられた魚のごとくのたうっている。もがいているのか死に際の痙攣なのか分からないようなそれに、「まだ動いている」と執拗に攻撃を重ねていく。
「切り裂け、シンジェ〜ン〜!」
 重練機剣「星光」――改造を重ね膨大な出力となったソレ――を、叩き潰すようにキメラの身体めがけて振り下ろして、とどめ。胴体が焼き払われ手足が低重力空間にゆっくりと四散していく。一片の生存可能性も許さぬ徹底ぶりだった。
『ふむ、各機のデータと合わせると、バグアの出現ポイントはアソコかね〜』
 そのまま瑠璃機と協力して、ひとまず目の前の敵を焼き払うと、すぐさま次の目標を探す。
 他の人類にはない、圧倒的な能力と破壊力を持って、ただひたすらに、キメラを、バグアの兵を破壊するための存在。
 戦中とまったく変わらぬ、軍の、人類の期待する、想像するとおりの姿がそこにある。

 ウェストが割り出した地点に、新たな反応。滲みだすように複数体現れてきたキメラに、傭兵たちもいよいよ本命と見て合流しての対応。
 だが所詮はキメラたち。見つけさえしてしまえば、油断のない一行にとって敵ではなかった。
 やがてその奥に、今回の発生源と思しきキメラポッドが発見される。
 地中から顔を出したポッドは、やはり地面の異変に気を配っていた瑠璃が、亀裂を辿る形で見つけ出していた。
『ポッド発見っ! 司令部、どうしますかっ!』
 瑠璃は即座に破壊、とはせずにまず冷静に司令部に指示を仰いでいた。
『‥‥慎重に近づいて。倒したキメラの数とポッドの規模を確認するわ。ただ、迎撃機能があるようなら安全優先』
『りょーかいっ!』
 司令の言葉に、一行は武器を構えながら油断なくポッドに近づいていく。
 そして――




 状況終了が告げられた崑崙内部内はしかし、今度は事後処理の慌ただしさに包まれている。
 何となく落ち着かなくて基地内をうろついていたケイは、会議室の扉の前で落ち着かなそうに佇んでいる兵士に気付いていた。手にはフォトフレーム。祈るような表情で会議の結果を待っている。
 ‥‥きっとあれが、瑠璃から聞いた、「家族に会いたがっている兵士」なのだろう。そして同時に理解する。キメラは退治して、それでも‥‥彼らが戻れるかどうかは、今行われている会議次第、なのだ。
 ――ここから先は、ケイにはどうしようもない。共に祈るぐらいしか。
 やれるだけのことはやった‥‥んだと、思う。兵士の表情も、「多分大丈夫そうだけど‥‥」といった様子だ。だけど‥‥やっぱり、最後の最後まで手が伸ばせないのは、もどかしい。
 戦後から数ヶ月が過ぎた。
 その間‥‥平和には遠く、やるべき事も山積みで、何とかしようと行動しても思い通りには中々行かない、という気持ちをケイは味わってきた。
 それでも‥‥いや、だからこそ。『クリスマスを大切な人と過ごす』というささやかな平和を、守りたかった。
 能力者の、この力で。
 だけど‥‥。
(‥‥自己満足、かもな)
 やっぱりここでも立ちはだかる壁に、俯きがちになってしまう。そうして歩くケイに。
「――今日は有難う。おかげで、思った以上に速く片付いたわね」
 神楽が、そう声をかけてきた。ケイははて? と首をひねる。特別礼を言われるようなことを、自分はしただろうか?
「あの時駆けつけたことなら‥‥元々そういう作戦でしたし、改めて礼を言われるほどでもないですよ」
 同じ作戦に参加したもの同志、連携するのは当然‥‥と、謙遜するケイに、神楽はなんともいえない微笑で。
「そのことだけど‥‥そのことだけじゃないわよ」
 そんな、意味深な言葉を返す。
「ごめんなさい。時間がないから、今日はここまでね」
 益々不思議そうな顔になるケイに、神楽はそう言って離れていって。また更にケイの頭上に浮かぶ「?」マークが増える。
 時間がない? いや、今何時だっけ。時間を確かめる。
 神楽が言ったとおり、今回の任務は結構余裕を持って達成できたのだ。傭兵用の帰りの艦が出るまでは、まだ時間が――
「‥‥あ」
 そこで合点がいって、思わず声が出た。
 ああ‥‥そうだ。早めに終わったんだ。
 もう少し、この場所にゆっくり出来るんだ。
 顔を上げた先。ちょうど会議が一旦休憩になったのか、扉が開いて中からばらばらと士官が出てきているところだった。散り散りになっていく中――並んで歩いていく背中が、ケイの目にくっきりと映る。
 ――それはどれくらいの時間なんだろう。一時間? 30分?
 だけど紛れもなく。『彼らが頑張ったから』、出来た時間。
 世界にとって、自分はちっぽけな存在だけど。
 上手く行かないことだってたくさんあるけれど。

 それでも少しは‥‥『頑張りたい』『頑張ってよかった』と思っても、いいんだろうか?




 かくして、短い逢瀬の時間を得た恋人たちは。
「お疲れ様でした」
「そっちも、バックアップお疲れ様。‥‥大丈夫なの?」
 神楽はそっと、陽星の様子を伺った。穏やかに微笑む彼の表情には、少し疲れが見える。
「ええ。皆さんの対応のおかげで十分な判断材料は集まっています。あのポッドからのキメラは、ほぼ退治されたと見て間違いないでしょう。今後異常が確認されなければ、大丈夫ですよ」
「‥‥そう」
 返事に、神楽は複雑な気分だった。そのために、この人はもう一働きするんだろう。あまり無理して欲しくないが‥‥でも、ここは頑張ってもらわないといけない。
「‥‥休暇で戻ってきたら、ゆっくりとした時間を過ごしましょうね。期待して待っているからね」
 だからせめて、今はそう言って励ますくらいしか、出来ない。それでも効果はてきめんだったようで。神楽からの誘いの言葉に、陽星の表情が目に見えて明るくなっていく。
「会いに行きます。必ず。待っててください――あと、もう、すぐですから」
 そう言って、陽星はそっと神楽の肩に腕を回して、そのまま抱き寄せた。
(‥‥軍として。これからどのように、エミタの力と向き合っていくことが出来るだろう)
 温もりを確かめながら、陽星は思う。
(順番を、間違えるな)
 戒めるように、内心で呟いた。
 戦後。様々な道を選択するものがいる中、彼もまた、一つの道を選ぼうとしている。
 今は軍として。これからの能力者のために出来ることを、考えていこうと。
 だけど、能力者の立場を守りたい、と思うのは‥‥今、この腕の中の存在の為に、だ。自分は聖人君子などではないのだから。




 エミタの力は。能力者は、これからどうなっていくのだろう。
 変わらず、バグアとの戦いをその使命とするものがいる。
 戦いから、違う方向へと力を向けようとするものがいる。

 能力者たちが、必ずしも闘う必要がなくなった、今、その力は。
 これから、それぞれにとって、違う意味を持つようになるのだろう。