●リプレイ本文
●刑事と能力者たち
キメラ犯罪の温床となる現場を発見し、状況を保持して能力者へ引き継ぐ。これが「キメラ刑事」のプライド。
坂神は『通報するに十分な確証を得た』と判断したあの交番で、事件解決に尽力する能力者たちを待っていた。
そこに個性的な面々が登場。坂神は「よぉ」と片手を上げた。すると、ヨグ=ニグラス(
gb1949)が駆け寄る。
「おお。貴方が『キメラ刑事』で名高い、坂神源次郎さんですかっ」
同業者だけでなく、能力者にも名前が売れているのか‥‥相手は照れながら「弱ったねぇ」と頭を掻く。
少年に続き、寿 源次(
ga3427)やホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)、白鐘剣一郎(
ga0184)も挨拶した。
「寿だ。よろしく頼む」
「こっちが厄介ごとをお願いしてるんだから、あごで使ってくれりゃいい。今からはそっちの手法にお任せだ」
ホアキンは「話が早いですね」と微笑むと、坂神も「折り合いつけねぇと警察にいられないんでね」と返した。
ここからは坂神を含めて準備が始まる。
ホアキンがUPCに申請して入手した周辺地図をメンバーの前で広げ、洋館とその周囲の位置関係を説明した。
研究飼育されているキメラはダチョウ型で、さらに動作が速い。そこで傾斜地に罠を仕掛ける作戦を実行する。
ターゲットとなる場所は、洋館の敷地から程近い、崖で袋小路になっている地点。ここに落とし穴を掘るのだ。
「俺にできることなら、何でも言ってください」
鉄 迅(
ga6843)の申し出もあり、彼に落とし穴の担当をしてもらうことになった。
ドラグーンのヨグと吹雪 蒼牙(
gc0781)は、穴掘り作業の他に、キメラの誘導でも活躍を見込まれている。
落とし穴の直前に、ロープを使った罠で驚かせる作戦を実行するのは、源次や美紅・ラング(
gb9880)だ。
「ここはビッグマグナムこと、この美紅美紅先生に任せるでありますよ」
「うーん、先生と寿君のロープマジックでズギャーンな技が見られるとは‥‥今から楽しみだよ」
源次のロープアクションが鍵を握ると目するのは、名探偵の雨霧 零(
ga4508)。彼女も、下準備に同行した。
剣一郎は軍用双眼鏡で洋館の監視を行い、ホアキンと坂神は周辺の聞き込みなどで、突入のタイミングを探る。
役割分担が決まると、さっそく自分の持ち場に移動した。
ホアキンは坂神とともに聞き込みを開始。バグアに洗脳されていても、人間としての生活までは変えられない。
そこでライフラインの使用状況や食料調達の手段を確認し、警戒の緩む食事時を割り出そうとした。
その結果、科学者は必要な食材を定期的に街のスーパーから配達させることで入手していることがわかる。
「多めに買ってくれる客には、まぁサービスしちゃうわな。なるほどねぇ‥‥」
店員によると、配達は午前中のうちに済ませてほしいとの約束は変わっておらず、今日も行ったばかりらしい。
電気やガスなどの使用状況は、一般家庭のようなデータ。人気のない場所だから、普通に生活しているようだ。
ホアキンは規則正しい生活を送っていると推理。罠が昼までに間に合わないので、夕方に攻める計画を立てる。
「俺も洋館の監視に向かいます」
「あとは任せたぜ。こっちは交番の兄ちゃんと願掛けでもしとくわ。他のみんなにもよろしく言っといてくれや」
ホアキンは軽く頷くと、洋館へと足を向けた。キメラ刑事から託されたバトンを、ゴールへと導くために。
●下準備は計画的に
罠の準備は順調に進んでいた。ホアキンが合流する頃には、鉄とヨグ、そして蒼牙が落とし穴を完成させる。
その上に緩く伸ばしたロープを張り巡らせ、落ち葉や折れた枝などで偽装。ここがキメラの墓穴となる予定だ。
その後は時間の許す限り、予想進路をデコボコにしていく作業が行われる。これで機動力を削ろうというのだ。
カモフラージュは落とし穴の応用で、窪みに水を注いで枯れ葉などを浮かべるというシンプルなものである。
ある程度の準備が終わると、AU−KVのバイク状態でキメラを誘導するヨグと蒼牙は所定の位置についた。
その際、蒼牙は同時に発進するための合図に呼笛を使う‥‥などのドラグーンチーム特有の打ち合わせをする。
「んと、カウボーイみたいな感じで追い込んでいくといいかもですっ」
「現代のカウボーイは、リンドヴルムでダチョウを追うんですね。協力して、落とし穴に導きましょう」
打ち合わせの最中も、ヨグと蒼牙は笑顔。このふたりの連携はうまくいく‥‥そう周囲に思わせる力があった。
一方、源次たちは予想進路の木々に、ロープを括りつけていく。これで敵の脚を引っ掛けて機動力を削ぐのだ。
ここで美紅は、二段構えの作戦を披露する。脚だけでなく、時間差で長い首も狙う‥‥名探偵も納得の表情だ。
「これなら脚を回避しても、首を軽く脱臼してくれるかもしれないのである」
「ふむふむ。視界も判断力も低下し、ますます落とし穴に落ちてくれそう。さすがは先生!」
「作戦は非常にいいのでありますが、よい子は絶対に真似しちゃダメでありますよ」
ビッグマグナムを自称するも、作戦は緻密で繊細。零もフィニッシュのロープトラップの仕掛けに熱が入る。
今日も元気で独自の推理が冴え渡る。時にダチョウの気持ちを考え、時に罠を張るハンターの気持ちを考えた。
「うん! キメラの性格や傾斜の角度から、だいたいここらへんで、おそらく落とし穴にシュートするはず!」
「な、なんだか、ストライクゾーンの広い推理だなぁ‥‥」
源次が首を傾げてもお構いなし。迷いなき推理から生まれた最後のロープを、零が自らの手で準備する。
これで罠へと至る道が完成した。あとはキメラを誘い出すだけである。みんなはそれぞれの持ち場へ向かった。
剣一郎はメンバーが持ち場についたことを確認すると、わざわざその場所に足を運んで『ある作戦』を説明。
今まで一緒に洋館を監視していたホアキンには話してあるが、この作戦では閃光手榴弾を使う可能性があった。
剣一郎は投げる時の合言葉は「伏せろ!」と設定。言葉が導く動作そのものが、この場合は保険になっている。
投げるタイミングは、彼が状況を見ながら決める。落とし穴にハマった後、ダメ押しに使う可能性もあり得た。
人は柔軟な対応を要求されると、そちらへの意識が消えにくい‥‥戦いの前に勝利へと近づくのも、また兵法。
再びホアキンの元へ戻り、作戦の決行を夕暮れ前とした。AU−KVによる誘導の安全を確保する狙いもある。
剣一郎は出鼻を挫くために魔創の弓を、ホアキンは突入するために雷光鞭を装備し、来るべきその時に備えた。
●突入、そして大捕物!
当初の計画どおり、ホアキンが洋館の玄関から侵入を試みた。設置された監視カメラの死角を縫うように進む。
玄関に入ると、左側の部屋から何やらカチャカチャと物音がする。それは皿を重ねる時に出る音のようだった。
しかし次の瞬間、外にも響く強烈な動物の鳴き声が洋館を襲う。緊急ボタンか何かで、キメラが放たれたのだ!
「上か‥‥!」
なんとダチョウの檻は玄関の上にあった。それが展開したかと思うと、目つきの悪いキメラが地面に着地する!
「屋内で決着がつけば、それに越したことはないが‥‥」
ホアキンはとっさに扉の裏に体を滑り込ませながら、雷光鞭で連撃。その激しい攻撃に、キメラは立ち尽くす。
その間隙を縫うかのように、剣一郎が紅蓮衝撃で強化した魔創の弓の一撃で機動力の軸となる脚部を狙い打つ。
攻撃は確実に命中したが、ダチョウは激痛で悲鳴を放ちながら暴れ狂い、そのままダッシュで外へと逃げ出す。
「やむを得ないな、当初の予定どおりで行こう。閃光手榴弾の使い方が明暗を分ける‥‥か」
剣一郎がそう呟きながら装備を月詠に持ち替えるのを確認した蒼牙が、打ち合わせに従って呼笛で合図を送る。
「えと、ここはカッコよく出ますね。はいよー、プリンシルバー!」
「なんだか‥‥おいしそうですね」
心地よい駆動音が響くと同時に、鋼鉄のカウボーイたちがダチョウを追い立てる。右にヨグ、左に蒼牙がつく。
落とし穴に導くのはもちろん、AU−KVが走行できない場所に行かれても困る。キメラも操る必要があった。
剣一郎とホアキンはあえてキメラを追わず、落とし穴へと直行する。途中の妨害などは、メンバーにお任せ。
源次は通りすがるふたりに練成強化を施し、キメラが接近すると仕掛けておいたロープを引っ張っていく。
ピンと張られたロープは興奮しまくっているダチョウに効果絶大。スピードと高揚した気持ちをうまく削いだ。
もちろんヨグと蒼牙がAU−KVで通過する際には緊張を緩め、タイヤに巻き込まないよう細心の注意を払う。
「おっ、そのテクニックは『エージェントのストーム』こと、吹雪君にもやさしいっ!」
零は独特のネーミングセンスで周囲を盛り上げつつ、ザフィエルを使ってキメラの進行方向の微調整を試みる。
ここから先は例のデコボコ地帯を通るので、枯れ葉の浮いた箇所に足を踏み入れるよう狙った。
好戦的なキメラの気持ちは徐々に動揺へと変わっていく。ここでは美紅先生が考案した首の脱臼ロープも炸裂。
こうなるとダチョウも走るだけで精一杯。いや、今は『なぜ自分は走ってるの?』と思っているかもしれない。
敵がいよいよ、落とし穴の近くにまで迫った。両翼で誘導してきたヨグと蒼牙は、このタイミングで反転する。
剣一郎はキメラの進度にあわせ、すでに閃光手榴弾のピンを抜いていた。獲物が落ちる前に怯ませるつもりだ。
慌てふためくダチョウの目の前に投げると同時に、彼はメンバーに聞こえる声で合言葉を腹の底から叫ぶ!
「伏せろ!」
それを合図に全員が視界を閉ざす‥‥一瞬の爆音と閃光の餌食になったのは、あのキメラだけ。作戦は成功だ。
さらにキメラは物騒なものを投げ込んだ敵に迫らんとよたよたと歩を進めるが、そこにあるのは例の落とし穴!
「ブボ、コケェェェーーー!」
無様な悲鳴とともに落下したダチョウの姿は、マヌケ以外の何者でもない。
このチャンスを見逃す能力者はいない。これを合図に、総攻撃が始まった。鉄は覚醒し、強弾撃を使って攻撃。
「AI、出力全開! 一撃で仕留める!」
気持ちを乗せた一撃はキメラの体をえぐった。さらに源次が練成弱体で、キメラをとことんまで追い詰める。
零は援護射撃をビッグマグナム美紅先生に発動させてから射撃。先生は貫通弾を装填した強力な射撃を見舞う。
「さすがは先生の十八番っ! 狙った獲物は逃さないね!」
「援護も名探偵の心得、ということでありますか。理解したであります」
剣一郎とホアキンは、ともに急所突きを発動させ、ホアキンは持ち替えた紅炎ですれ違いざまに強力な一閃を。
さらに剣一郎は鋼をも断つ剣閃一刃、その名も「天都神影流・斬鋼閃」を愛刀の月詠で繰り出した!
「ズベッ! アッキャアァァ‥‥」
「さすがはみんなのまとめ役! いわば私たちの若大将だね。そう、頼れる若大将!」
落とし穴がキメラの墓穴となった。剣一郎とホアキンは示し合わせたかのように、ゆっくりと刀を鞘に収める。
キメラの脅威は嵐のように過ぎ去ったが、まだ洗脳された科学者が残っている。休む間もなく移動を開始した。
●美しき敵を影をつかめ!
バイクに乗った刑事とエージェントは、いち早く洋館へ戻っていた。蒼牙は洋館の外を、ヨグは中を見張る。
少し間を置いて、メンバーが合流。剣一郎がキャーキャー騒ぐだけで科学者に峰打ちを食らわせて昏倒させた。
武器を持ったり、怪しげな装置を持っていないことから、純粋に洗脳されただけの科学者であることがわかる。
「よし、罠の類に注意しながら調査しよう。外で調査する場合も同様だ」
「ガサ入れってヤツですね〜。おっと、ここからは坂神刑事も参加していただいた方がいいんじゃないですか?」
鉄の提案は賛成多数で認められた。みんなが洋館の敷地内で捜査や警戒している中、キメラ刑事がやってくる。
「おー、がんばってるな。俺はみんなの報告を聞いたら、それで十分なんだけど」
「えと。キメラの製造用プラントがふたつあったんで、これは破壊する方向でいいですか?」
「いいぞ、少年科学者。派手にやってくれ。事件の処理や判断は、すべて君らに任せてあるからな」
ヨグは坂神にお伺いを立てるが、さすがは能力者が携わる事件を調査するプロ。自分の立場をわきまえている。
坂神のゴーサインを聞き、剣一郎や源次、鉄などがガシガシ攻撃を加え、再使用できないくらいまで破壊した。
名探偵の零は製造用プラントのすぐ近くにキメラを作るデータがあると推理し、源次たちに精査をお願いした。
ヤスウラ刑事ことヨグは散らばっている書類の中から『強く美しいキメラの製造』を推奨するプリントを発見。
源次は上役からの指令を受けるための映像受信機を回収したが、こちらからお伺いを立てる仕様ではなかった。
ただ、この機械には『真紅のバラと黒い棘をあしらった紋章』が刻まれており、坂神刑事がそれを確認する。
「ああ、間違いない。俺が追ってるバグア野郎だわ。ナルシストっていうか、まぁ変わった奴だねぇ」
「むむっ! じゃあ、その紋章入りの大きな赤いボタンは‥‥私の推理ではこの辺を吹き飛ばす自爆スイッチ!」
零がポーズを決めてバーンとボタンを指差すと、メンバーは「絶対にこれには触れるな!」と注意しあった。
「なるほど。これだけの書類をマメに燃やすより、爆破した方が早い上、爆発は見栄えがして美しいであります」
美紅の分析は正しく、そして他のメンバーの発想力の一助となる。ホアキンも「なるほどね」と納得していた。
独自な美的センスを持ち、それをキメラや作戦に反映させる性格の黒幕‥‥彼は今、どこにいるのだろうか?
蒼牙が外を警戒してくれたおかげで、中の調査はすんなり終わった。
キメラ刑事こと坂神は、メンバーと握手を交わす。そして「また会うわな、この調子なら」とニヒルに笑った。
剣一郎も「ともあれみんな、お疲れ様だ」とねぎらいの言葉をかける。ひとまず、この事件は解決した。