タイトル:戦う貴方のドレスアップマスター:村井朋靖

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/03/26 09:49

●オープニング本文


 新進気鋭のファッションデザイナーたちが、ぞろぞろとカンパネラ学園へやってきた。
 彼らの目的は「能力者にも似合うドレスやタキシードを作ろう」というコンセプトの武者修行である。
 地球のために活躍する能力者たちも、よくよく考えれば普通の人間。そして、普通の男性と女性。
 そんな彼らもまたかっこいい、彼女たちもかわいい服を着たいはずだと、デザイナーたちは考えた。
 そこで能力者の装備を取り入れての、機能美や様式美などを兼ね備えた作品の制作を思いついたのだ。
 ちゃんとカンパネラ学園側の許可を得ており、課外授業の一環として活動するよう仰せつかっている。

 デザイナーたちは特殊施設エリアにある一室に集まり、まずは持ち込んだたくさんの荷物を整理し始めた。
 ここで協力者たちには素敵なドレスやタキシードに着替えてもらい、武器を持ってポーズを取ってもらう。
 彼らはその姿をじっくり観察し、改善すべき点などを話し合うというわけだ。もちろん本人の感想も聞く。
 今回はカメラマンも同行しているので、協力者をモデルに学園内で撮影をすることになっている。
 お気に入りの風景をバックに、仲のいいお友達と一緒に楽しく撮影することも可能だ。
 ただし着用したドレスやタキシードは、研究に必要なので回収する。写真も同じ理由でお渡しできない。
 自前で用意したカメラで記念撮影するのは自由だ。もちろん報酬は用意してあるので、ご心配なく。

 いつもと違う自分に出会いませんか? デザイナーたちは能力者の来訪を今か今かと待ちわびている。

●参加者一覧

UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
桐生院・桜花(gb0837
25歳・♀・DF
冴木 舞奈(gb4568
20歳・♀・FC
冴木氷狩(gb6236
21歳・♂・DF
如月 芹佳(gc0928
17歳・♀・FC
汀良河 柚子(gc1084
16歳・♀・DG

●リプレイ本文

●まるでパーティーのよう
 協力してくれる能力者が着替えをしている頃、UNKNOWN(ga4276)はカメラマンとともに移動していた。
 ロイヤルブラックとパールホワイトを基調としたおなじみの服装が、鍛え上げられた肉体をクールに包み込む。
 アクセントにはスカーレットのタイとポケットチーフ、白絹のロングマフラーに、兎皮の黒のボルサリーノだ。
 そんな彼がいつも忘れずに持ち歩くもの‥‥それは、咥え煙草とダンディズム。そのすべてがオーダーメイド。
 自分のボディは既製品に合わないと、彼はいつものこの姿で参加することを望んだ。
 デザイナーもカメラマンも、それを了承している。これは彼が言葉ではなく、肉体で説得をしたようなものだ。
 そんな彼の手には、カメラが握られている。今回、UNKNOWNは参加者のために撮影を買って出たのだ。
 そこに黒のタキシードを着た夜十字・信人(ga8235)、バニーガールの汀良河 柚子(gc1084)がやってくる。
 後ろから、桜色のドレスに白銀のティアラを身につけた時枝・悠(ga8810)が続いた。乾いた靴の音が響く。
「なるほど。バグアのパーティーからお姫様を救出する作戦を実行中、といった感じか」
「柚子はねー、お飲み物を持ってくるバニーさんなんだよ! 悠さんがお姫様で、信人さんがのーりょくしゃ!」
「おっ、俺だけそのまんまじゃないか‥‥柚子、もうちょっと気を利かせろ」
 信人がフォルトゥナ・マヨールーを、柚子は銀のトレーを装備。お姫様の悠は、腰に紅炎と月詠を携えている。
「そうなると、私はお姫様なのに能力者のお兄さんから、護身用にこれを持たされたってとこか」
「設定がどんどん追加されていく‥‥悠、頼むからこの苦無を持ってくれ。そっちの方がらしく見えるだろ?」
 撮影の意図を忘れるほど困り果てる信人を尻目に、3人はいよいよ盛り上がる。
「装飾をあしらった扉をバックにすれば、いい画が撮れるだろう。まずは君たちが素材だ。講堂の前に行こう」
 UNKNOWNはモデルたちとともに撮影ポイントに移動。この際、柚子は細かい素振りをしながら歩いた。
 彼女の衣装、実は自前である。デザイナーが準備した既製品だと、豊満な身体がこぼれ落ちてしまうのだ。
 それでもこの衣装を着ると、かなりセクシー。男性スタッフ数名がぼーっと見つめるほどの魅力があった。

 最初の目的地に着くと、さっそくUNKNOWNがカメラマンと打ち合わせを始める。
「うむ、アングルを工夫すれば問題ない。まずは信人からいこうか」
 UNKNOWNの呼びかけに応じ、信人が大仰な扉の前に立つ。そして銃を前に突き出し、顔を引き締めた。
「まさに獲物を狙う凛々しき紳士の眼光だな。カメラを意識せず、遠くのターゲットを狙う感じで見るといい」
「なるほど、モデルであることを意識しすぎてはならないか。これもまた戦いのひとつかもしれないな」
 信人はアドバイスに耳を傾けつつも、腕を伸ばした時に肩の部分に違和感を得たことをデザイナーに伝える。
 彼らは貴重な意見をメモしつつ、カメラマンはUNKNOWNとともにアングルを考えて撮影を開始した。
 カシャ、カシャと、シャッターを切る音が数回響く。時折、レフ板の角度を変えたりするなどの作業が入る。
 悠はあまり目にすることのない様子を見ていたからか、しばらくすると自分が取るポーズの練習をし始めた。
 一方の柚子は撮られることに慣れているらしく、自分の番が来るのをわくわくしながら待っている。
「よし、次はお姫様とバニーを一緒に撮ろう。武器を構えてくれるかな?」
「あんのうんさん、よろしくね! かわいく撮ってよ! 柚子はトレーでえーいだね!」
「私はとりあえず、紅炎からにするか‥‥うっ! ロンググローブの生地が滑って、柄が握りづらい!」
 愛刀を握り損ねそうになるまさかの事態に、悠は慌てた。それ以上に慌てたのは、デザイナーたちである。
 このロンググローブは実際の戦闘を想定した加工をしており、大きな問題はないだろうと思っていたらしい。
 結局、太刀を抜く動作は基本的に片手で行うので、両手で加工強度を測ってはならないという結論に至った。
「こういうことなのね、今日の試みって。あとで荷物を持ったりして、見た目のバランスも確認しなきゃね」
 モデルもモデルで大変。信人は次第に、細部のチェックを兼ねたポージングを考えるようになっていった。

●ここは秘密の花園♪
 今回参加した女性陣には開発されたドレスだけでなく、インナーのテストもお願いされている。
 バニーガール姿の柚子が撮影を終えて着替えの部屋に戻った時には、すでに数回のテストが終わっていた。
 モデルは身長が高くスラリとした桐生院・桜花(gb0837)に、かわいさ満点の樋口 舞奈(gb4568)。
 そしておっとりした雰囲気でマスコットのような芹佳(gc0928)が、それぞれの意見をデザイナーに出す。
「みんなー、順番にあんのうんさんに撮ってもらおーよー!」
「舞奈、ウエディングドレスだから、インナーも純白だったんだよ。も、もうドレス着ちゃってるけどっ!」
 さすがにお年頃だからか、舞奈は顔を真っ赤にして話す。そんな姿を見た桜花がクスッと笑みを見せた。
「ウエディングドレスの内側にも、武器や超機械を忍ばせるポケットがあるんだって。さすがに驚きだわ」
「本当に能力者さん専用に開発されてるんですね‥‥」
 芹佳も黒いスーツとズボン、白いカッターに黒ネクタイを身につけながら話す。足元は上品な黒い革靴だ。
 それに白マフラーと黒い革手袋、そして銀十字の刺繍入りの黒い眼帯をアクセントにした着こなしである。
「柚子くんさ。もう伝えてあるんだけど、防具は重ね着すること多いから、インナーにも余裕ほしくない?」
「あーっ、柚子もそう思うですー! 身体が締めつけられると困りますー!」
 柚子の同意を聞き、その場にいた女性スタッフがいろんなインナーを出してきて感想を聞こうと努力する。
 一度目の撮影を終えているので、柚子はデザイナーの要求に快く応じ、他の女性陣を送り出すことにした。
「柚子、しばらくここにいますから、カシャカシャ撮ってもらってくださーい!」
「あら。悠さんも戻ってこられたみたいですし‥‥そろそろ行きますね‥‥」
「お、あんた決まってんじゃない。撮影の時は、きっちり動いとくといいよ。その方が緊張しなくていいわ」
 着替えに戻った悠の率直な感想を聞き、芹佳は「ありがとう」とお辞儀すると、そのまま部屋を出ていく。
「さてと、私は北欧神話のヴァルキリー風のシンプルなドレスと装飾品を合わせてみようかしら」
「じゃ、舞奈は先に行くね。じ、実際にウエディングドレスって着ると、そ、その恥ずかしいね‥‥」
 この時、舞奈が本当に恥らっている理由を誰も知らなかった。そう、彼女が外に出るまでは。

●結婚式を守りし者
 女性陣が動き出した頃、外では白いタキシード姿の冴木氷狩(gb6236)は緊張した面持ちで立っていた。
 隣には黒いタキシードに着替えた信人が、十字架大剣クルシフィクスを携えている。
「おっ、花嫁が来たぞ。氷狩、盛大に祝ってやろうか?」
 氷狩が振り向くと、純白のドレスに赤面した顔が印象的な舞奈がゆっくりと向かってくる。
 彼は笑顔で迎え入れると、近くに設置してもらった化粧台に導き、自ら花嫁のメイクアップを行う。
 恋人のエスコートを受け、舞奈の鼓動は最高潮。ここはみんなで、ふたりの甘いひとときを演出する。

 その合間を縫って、芹佳の撮影がスタート。撮影の舞台は、白い石畳が印象的な道路で行われた。
 左手で蛍火の鞘を持ち、右手は柄の前で止め、居合いの構えを取る。そして覚醒し、瞳が赤く輝かせる。
 UNKNOWNは「尻の下あたりに意識を置くようにして、それを背筋まで伸ばす」とアドバイス。
 新進気鋭のカメラマンたちにも聞こえる声で言い、立ち方ひとつも大事にする姿勢をやさしく諭す。
 芹佳は自分の姿を意識したからか、今の気持ちが自然と口から言葉となって現れた。
「ここから先へは行かせないよ‥‥なんてね‥‥」
 モデルさんがその気になったのを見切ったカメラマンが、ここぞとばかりにシャッターを切っていく。
 続いて黒と白の対比を出すため、信人が入っての撮影になった。ここでは不敵な態度がテーマになった。
 これはUNKNOWNが、彼女のセリフからイマジネーションを湧かせたシチュエーションである。
 ふたりは背中合わせになり、信人は剣を構えてカメラを指差し、芹佳は刀を抜いて凛々しい表情で立つ。
「あれ‥‥なんか東洋のマフィアっぽくなっちゃったね‥‥」
「な、なんかいそうだな、なんとなく‥‥」
 後ろ向きな気持ちにも敏感なのが、プロのカメラマン。すぐに気分を高揚させる声が響いた。
 その後、ふたりの撮影は滞りなく進み、衣装の難点などを聞き出す作業へと続いていく。

 お次は女神様の登場である。桜花はアクセサリーのエンジェルウィングをつけて、カメラの前に立った。
 彼女の表現どおり、まさにヴァルキリー。シンプルな一枚ドレスに胸元のセント・クロスがよく映える。
 そんな女神が覚醒すると瞳の色が染まり、ベルセルクは黒き光を放つ。ホーリーベルは白銀の輝き。
 このコントラストを表現するため、UNKNOWNはカメラマンのみならずデザイナーにもアドバイス。
 能力者に与えられた覚醒という力さえも、オーダーメイドでアートにしてしまう究極の手段を授けた。
「そういうことなら、後でデビルウィングに付け替えてみようかしら。ずいぶん印象が変わるかもね」
 桜花も熱心な彼らのために一肌脱ぐことを約束すると、左半身を前に出してホーリーベルを横に構える。
 そして右手のベルセルクは刺突用にぐっと引き、今にも二段攻撃を繰り出さんとするポーズを取った。
「大胆に脚を開いたつもりだけど、あんまり邪魔にならないわね。ちゃんと裾とかを加工してあるのね」
 衣装の感想を口にしながらも、撮影は進む。この後、桜花は妖艶な女神へと変貌を遂げた。

 氷狩が花嫁に施したメイクも終わり、いよいよ舞奈が記念撮影の場に登場する。
 今度の舞台は、まっすぐに伸びた新緑の木の下。まるで結婚式の案内状を送るための撮影のようだ。
 ひとつだけ違うとすれば、それは能力者同士の結婚ということ。ふたりの手には、武器が持たれていた。
 氷狩はグラジオラスとレイシールドをすらりと構える。どちらも舞奈からもらった大事な品だ。
 舞奈は純白のウエディングドレスと真逆のカラーリングが施されたユニバースフィールドを持っている。
 その姿は一見、不釣合いに見えるが、お互いに支え合っていく結婚というものをよく表現していた。
「ええっと‥‥その‥‥氷狩君、こ、こんな感じで、ど、どーっすか?」
 いよいよ気持ちが沸騰しちゃった舞奈は、完全にうつむきながらも目だけは彼の顔を見る。
「よく似合ってるよ。ボクは‥‥お遊びで新郎新婦の格好をしてるわけじゃないよ?」
「え、ええーっ! あぅ、は、花嫁‥‥舞奈が花嫁‥‥ああ、あれ、これって本番?」
 新郎の告白で場はヒートアップ。芹佳は自分のことのように頬を赤らめ、桜花は驚きの表情を覗かせる。
「今はお遊び気分でも、ボクは一生涯かけて舞奈ちゃんを守り、支えていく覚悟でいるからね」
 恋人にここまで言われたら、もはや慌てるより他にない。舞奈はポーズを取ったまま固まってしまった。
 そんな初々しい姿をかなり撮られた後、極めつけに氷狩が不意に唇を奪っちゃったからスタッフも感動。
 もはや本当の結婚式になっちゃう勢いに、UNKNOWNも思わず「おめでとう」とご祝辞を口にした。
 撮影が思わぬシナリオを生み、結果として大いに盛り上がる。こんな予想外なら、いつでも大歓迎だ。

●最後はみんなで記念撮影
 個人撮影のトリを務めるのは、カメラマンとして活躍した紫煙の紳士・UNKNOWNだ。
 その間、他のメンバーは集合写真用の衣装に着替える段取りである。
 懐にホルスターと愛銃のスコーピオン、胸元にロザリオを懐中時計を持って、カメラの前に立った。
 カメラマンにとって、その時に感じ取った雰囲気を収めることこそ、究極のテクニック。
 デザイナーにとって、服を着た本人の魅力を自在に引き出すことこそ、珠玉のテクニックである。
 その両方を痛感させるUNKNOWNは、もはや動く教材。洗練された動きもまた、重要な素材なのだ。
「服を着せようとしてはいけないよ。同じように、モデルを写真に収めているという意識もいけない」
 服は着られてこそ。そして写真は、枠を飛び出した表現こそが重要。UNKNOWNはそう教える。

 そして貴重な意見を出してくれたモデルたちが、再びスタッフの前に姿を現す。
 氷狩と舞奈は好評だったため、そのままの姿で待機していた。悠は男物のスーツを粋に着こなしている。
 さっきのこともあったので機能的な面に注意し、違和感を覚えたところは近くのデザイナーに指摘した。
 桜花はゴシック風のホラーチックなドレスに身を包み、背中にはデビルウィングをつけて妖艶さアップ。
 前に大きくスリットの入った大胆なものを選んでいたので、またまた男性スタッフが興奮していた。
 もちろん桜花は着替えの効率アップのためにレオタードを着用しているので、めくれても問題はない。
 芹佳はこっそりかわいい黄色のドレスを着て、その辺を歩いて満足しようと裏口から出て行ったが‥‥
「あーっ! 芹佳さん、柚子と同じドレスだね! しかもビスクドール持ってるんだ、かわいい〜♪」
「ここなら、誰も見てないと思ったのに‥‥」
 同じデザインの淡いブルーのドレスを着た柚子に発見され、芹佳は結局みんなの前に出されてしまった。
「これで全員だね。よし、まずは私たちで記念撮影をしよう」
 UNKNOWNが音頭を取るが、信人の姿が見当たらない。悠や舞奈はきょろきょろとあたりを見渡す。
 すると血のように赤いドレスに身を包んだ美女‥‥いや、男の娘の信人がこっそり立っていた。
「メイクさんの努力と、俺の才能で見事に変身した。どうだ、これが斬撃のダンスだ!」
 口と両手に苦無を咥え、軽快なステップとともに舞い踊り、スカートをひるがえして猛烈アピール。
 それにあわせて氷狩が踊ったもんだから、最後の最後まで笑いの絶えない撮影会となった。

 最後の最後に、スタッフを交えての記念撮影をし、無事に彼らの修行は終了した。
 近い将来、能力者の要望をふんだんに盛り込んだ新しいファッションが登場するかもしれない。