タイトル:祝福の鐘は高らかにマスター:村井朋靖

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/04/09 13:00

●オープニング本文



 年中バグアの侵攻にさらされていた沖縄も、今やその脅威はわずかなものになっていた。
 人々の生活はすっかり平穏を取り戻し、観光地の修復も進んでいる。温暖な気候と花の香りに誘われて、そのうち観光客も戻ってくるだろう。

 劣勢から戦況をひっくり返したUPC沖縄軍の今の仕事は「復興の手助け」だ。たまに起こるキメラ退治は、もはやオマケである。
 戦中は士気向上のため、ソウジ・グンベ(gz0017)を旗印にし、勇ましいポスターも制作。住民に希望を与えた。ただ、状況は変わる。そろそろポスターも変えなければならない。
 そこで沖縄軍の首脳、ならびに広報部は復興の進む沖縄を象徴するような新ポスターの制作に知恵を絞る。この会議の席には、ソウジをよく知る新婚の渡嘉敷大尉、そして既婚の杉森・あずさ(gz0330)も呼ばれていた。
「そういえば、ソウジさんの結婚式ってまだなの?」
「自分は聞いておりませんが‥‥でも、少佐はそろそろ結婚しなくちゃ!」
 少し声が大きくなったところを、近くにいた隊員が聞かれてしまう。
 この時点で会議の方向性は定まった。
「ふむふむ、渡嘉敷くんと合同で挙式を行ったと聞いていたが、ソウジくんのは模擬だったのか」
「それはいけませんなぁ〜。早急に準備しないと」
「次のポスターは、新郎としての写真で決まりですな! 華やかでいい!」
 オッサン寄れば、円熟の知恵。会議の方向性はとんとん拍子で決まり、腕利きのカメラマン、結婚式会場の手配なども始まった。カメラマンは渡嘉敷に心当たりがあり、あずさは「私も沖縄で結婚式を挙げたんだけど」と、小さな教会があることを教える。テンションの上がった会議は、もはや止まることはなく‥‥
「ということで、ソウジくん。我が軍は、君の結婚式を全力でサポートさせてもらうよ」
「突然、何のことでしょう」
 自分の窺い知らぬところですべてが決まった後、ソウジが全容を聞かされるというオチとなった。無論、彼は困惑の表情を浮かべている。
「まぁまぁ、そんな顔をするな。費用はタキシード姿のスチール写真で手を打つから」
「‥‥?」
 交換条件の異様さに、ますます眉をひそめるソウジだった。 


 今回はソウジからの提案もあり、「合同結婚式」として執り行う。結婚を誓い合う能力者、それを祝福する能力者の参加は自由。当日は、立食パーティーを催す。
 あずさは式場の手配と近くにある広い公園の使用許可、そして「世界こなもん屋台チェーン」の天満橋・タケル(gz0331)らに当日の料理を任せた。渡嘉敷は会場の設営などの計画、その準備に追われている。
 ソウジは「また賑やかになってしまうな」と苦笑いとともに呟くも、「そう何度も祝福されることもないか」と笑った。
「こういう雰囲気でもいいと‥‥思ってくれると助かるが」
 彼は相手のことを思いながら、このことを連絡しに向かった。


 ある晴れた日、沖縄の空に祝福の鐘が鳴る。

●参加者一覧

/ 奉丈・遮那(ga0352) / リュイン・グンベ(ga3871) / シーヴ・王(ga5638) / ラウル・カミーユ(ga7242) / 宵藍(gb4961

●リプレイ本文


 花嫁、リュイン・カミーユ(ga3871)のドレスアップは着々と進んでいる。
 小隊の仲間であり、本日の介添えを行うシーヴ・王(ga5638)が着替えを手伝いながら、リュインの緊張をほぐす。
「随分と長ぇ付き合いだったみてぇですが、やっと一区切りでありやがるのですね」
「そうだな。まず、付き合うまでが長かった。付き合ってから婚約までも長かった。きっと婚約してからも‥‥」
 今までの経緯もあり、待たされるのに慣れてしまったが、婚約後は何も待つ必要はない。ずっと愛する人と一緒だ。それに花嫁は気づくと、不意に言葉を飲んでしまう。そして焦りからか、白のロンググローブに思わぬ苦戦を強いられた。
「‥‥あ、な、何だか震えて来たんだが‥‥き、緊張しているのか? 我が」
 傍にいるシーヴに聞かれまいと、小声で呟くリュインだが、その姿を見れば花嫁の心中は容易に想像がつく。シーヴは「落ち着いてやがるようで、そわそわしてやがるですね」と思いながらも、あえて無言で近づく。
「その気持ち、よく分かりやがるのですが」
 シーヴは結婚3年目の先輩として、リュインが感じる得体の知れない不安を拭う。
「けど、結婚がゴールじゃなく、新たな始まりでもあるですから、まだまだ頑張るがよし」
「ゴールじゃなく、スタート‥‥か。なるほどな」
 グローブを着せてもらい、リュインの準備は完了。ドレスは、白のオフショルダーAラインドレス。清楚にレースが使われていながらも、シンプルなものを今回はチョイスした。ベールはロングベール。それに、白のロンググローブにパンプス。
 そして彼女は、模擬結婚式で使った月下美人のシルクフラワーブーケを手にした。ソウジも同じ花のブートニアを使うことになっている。これはリュインがあの時から決めていた。この花に彩られながら、小さな教会で結婚を誓う。

 そんな最中、珍客‥‥いや、失礼。花嫁の兄であるラウル・カミーユ(ga7242)が、控え室に飛び込んできた。
「リュンちゃん、綺麗! とっても綺麗だヨー!!」
 着替えを手伝う誰もが眉をひそめたが、妹は冷静に対処。ドレス姿だというのに、兄のどでっ腹に蹴りを放つ。それを見たシーヴは「やりやがるのですね」と感心し、ラウルは壁にへばり付きながら「何故そんなドレス姿で阻止できるんデスカ」と悲しげに語った。
「我が美しいのは当然だから、抱きつくんじゃない」
「そ、それは生まれた時から知ってるケド‥‥花嫁姿、素敵だネ」
 家族としての情‥‥それは7人兄弟姉妹の真ん中で生きたシーヴにもわかる。だからこそ、ラウルの乱入を止める気はなかった。この展開がどうなろうと、それが「家族としての形」なのだと思うから。しかし、いつも通りのドタバタ劇を見て「懲りねぇっつーか、変わりなくていいんじゃねけですかね」とわずかに微笑んだ。
 騒動が一段落すると、リュインは兄に向かって「まぁ、一連の褒め言葉はそのまま受け取っておこう」といつもの調子で切り出すが、肝心のラウルにやや元気がない。それを見た妹は、いつもの態度で語った。
「まぁ、その‥‥何だ。いつまでも兄妹には変わりないのだから、いつも通りでいろ」
 その言葉を聞き、ラウルはすっくと立ち上がる。その視線は、いつものように明後日に向いていた。
「わかったヨ! よし! ソウやん襲撃してくるっ!」
 これぞ、まさにラウルのいつも通り。止めても無駄だとわかっているリュインとシーヴは、ただただラウルの背中を見送るしかなかった。ソウジ、ややピンチ。


 一方のソウジ・グンベ(gz0017)は着替えも終わり、しばし控え室でひとりくつろいでいる。
 さっきまでは広報用のスチール写真などを撮ったり、さらに上官や同僚が祝福に来ていたが、今はそれも落ち着いた。緊張で少し震える手を使い、用意されたコーヒーを持ち、静かにそれを口へと運ぶ。
「ひとりの時の方が、なんだか緊張するな‥‥」
 花嫁を待つ花婿の気持ちは、渡嘉敷大尉から聞いている。そうか、そんな気持ちかと噛み締めようと思ったその時、後頭部に輪ゴムが当たった。
「バキューン。今のが本物だっタラ、ソウやんアウトだヨ」
 感傷に浸っていたソウジの頭を撃ち抜いたのは、同じく今日の結婚式に戸惑うラウルだった。指ピストルから放った輪ゴムは、見事に急所へ命中。まさにアウトの一撃だ。
 そんな目に遭った花婿は少し微笑みながら、静かにカップを置き、何も言わずに立ち上がる。
「今までもそうだったが、これからは‥‥あらゆる意味でひとりじゃなくなる。よく気をつけることにするよ」
 ソウジは静かに手を出す。義兄から受け取った教訓とでも受け取ったのだろうか。一方のラウルは、不意に妹に言われたセリフを思い出し、慌てて握手に応じる。
「リュンちゃん大切にしナイと、いつでも狙撃しに行くカラね」
「ラウルが基準なら、ちょっと注意しとかないとな」
「あ、大事なコト忘れてタ。これからは僕がお兄様なんだカラ、敬うよーに!」
 どこまでもマイペースなラウルを見ながら、ソウジはふと唯我独尊を地で行くリュインの面影を見た。それを感じた瞬間、ソウジは不意に「ああ」と答える。新しい家族の息吹が、ここに芽生えた。

 その直後、ひとりの来客が現れる。彼の名は宵藍(gb4961)。リュインとは傭兵アイドル仲間であり、ラウルとは友人である。
 そんな彼の視界に飛び込んできたのは、ふたりが握手しているシーンだったが‥‥なぜかラウルが渾身の力を込めてニギニギしていた。ソウジも手が折れない程度に力を込めてはいたが、それが逆にラウルの闘志に火をつける。
 完全に堂々巡りになっているので、宵藍は「おい、ラウル」と冷静にツッコみ、なんとかこの場を収めた。
「結婚式の前に怪我させたら、どうするんだ!」
「だって、僕がソウやんのお兄様だモン。お兄様が強いのは当たり前だシ」
 宵藍はジト目でラウルに向けると、相手もさすがに「さて、準備しなきゃネ〜」と新郎の控え室を退散。ソウジは「助かったよ」と礼を述べた。
「いえいえ。今日はMpaメンバーを代表して、お祝いに来ました。リュインのこと、大切にしてください」
 ソウジは「わかったよ」と答えると、ラウルが忘れさせていたあの独特の緊張感が、またその身に戻ってきた。宵藍はその手を握ると、彼に背を向け、静かに部屋を去る。そこには花嫁を待つ新郎がひとり残された。


 結婚式のスタンバイが滞りなく終わると、渡嘉敷大尉は周辺の警戒を強める。
『こちら、渡嘉敷。あずささん、手荒い歓迎を目論む不審者の影はありません』
 無線機で連絡を入れるのは、教会の入口で警戒にあたる杉森・あずさ(gz0330)だ。彼女も参列するため、シックなドレスを身に纏っている。
「了解。たぶん大丈夫だと思うけど、警戒はよろしくね」
 そこへ淡いラベンダー色のフォーマルワンピースを着たシーヴが「お疲れ様でありやがるのです」と声をかけに来た。
「そろそろ始まるわね。じゃ、私も中に入ろうかな」
 シーヴとあずさが中に入ると、参列者席には奉丈・遮那(ga0352)の姿があり、宵藍と並んで座っていた。ここにふたりも腰掛ける。
「いよいよ、ですね。なんだか僕まで緊張します」
 遮那がそういうと、既婚者のシーヴとあずさも頷いた。

 そして結婚式が始まる。
 まずは上官に付き添われ、新郎のソウジが入場。新婦の登場を待つ。オルガンが荘厳な曲を奏で出すと、ラウルに伴われてリュインが登場。ゆっくりとした足取りでバージンロードを進む。そしてラウルからソウジへバトンタッチする瞬間、ふたりは意図せずまっすぐな視線を向け合う。
「任せるカラね」
「ああ」
 そんな短いやり取りを見て、シーヴは思わず「どっちも気合い入ってやがる、ですね‥‥」と呟いた。あずさは「ああいうのが男の世界、よね」と評すると、シーヴも深く頷く。
 ここから先は、結婚するふたりが道を歩む。そして神父に立ち、式が進んでいく。誓いの言葉の際、リュインは神父の一言一句をしっかりと聞き、最後にゆっくりと噛みしめるように「誓います」と答えた。ソウジの返事もまた凛とした響きを持ったもので、遮那は思わず納得の表情で頷く。
「いい声だね、どちらも」
 この次は、いよいよ誓いのキス。参列者席に戻ってきたラウルを宵藍がなだめていたので、静かに進んだ。ソウジはリュインのベールを上げ、ゆっくりと唇を近づける。以前のようなぎこちなさはなかったが、リュインの唇を離れる瞬間、彼女は小さな声で「これからは、たくさんのキスを贈るからな?」と耳打ちする。ソウジは動揺を抑えながらも「そ、それは楽しみだ」となんとか答えた。


 こうして、ソウジとリュインは夫婦となった。
 外に出れば、ライスシャワーで祝福され、リュインはブーケトスを行う。この時に使ったのは、トス用に用意されたブーケ。月下美人は思い出に残しておきたいと、リュインが希望したのだ。ちなみに今回のブーケは、祝福に訪れていた沖縄在住の女性が手にした。

 この後、舞台は公園に設けられたパーティー会場となる。
 ソウジとリュインはお色直しを済ませ、再び参列者の前へ。渡嘉敷大尉は任務に就いていたが、この時ばかりはスーツに着替え、上官へ花束を渡しに登場。大いに場を盛り上げた。
 盛り上がっているといえば、ラウルであろう。シーヴや宵藍、遮那と一緒に、やけ食いを始めた。
「スイーツ系があると嬉しいナ。やけ食いが進むカラ」
「シーヴはそんなに付き合えねぇですよ。小食でありやがるですから」
 とってもクールなシーヴに、ラウルは「シーちゃん、だったらやけ酒デ‥‥」と食い下がるが、これに応じたのは宵藍だった。ただし、そんなには飲まないとのこと。こちらも本格的にお付き合いしてくれそうにない。
「やっぱサー、哀しいモン! あと僕も早く結婚したい‥‥」
 早くも酔ったのか、麦わら細工のハングウォッチを見ながら、そんなことを言い出した。こちらも程々に付き合っていた遮那も、意味ありげな表情で微笑みながら「そうですねぇ」と相槌を打つ。

 宴が盛り上がってきた頃、大いに飲み食いを堪能したラウルが「せっかくだカラ、兄妹義弟で写真とってもらおーカナ」と、カメラマンを引っ張って夫妻の元へ。リュインは極度の緊張から解放されたせいか、兄の考えを読む余裕がないまま撮影をOKした。
 いざ撮影‥‥となった瞬間、ラウルはソウジの頬を笑顔で引っ張る。そのままシャッターが下りるかと思いきや、その直前でシーヴが無表情のまま、ラウルの頬を引っ張った。
「痛いッ! 酷いヨ、シーちゃん!」
「ラウル、そう来やがるですか」
 この写真は、めでたくラウルの表情だけが愉快なものとなった。リュインは、しばしソウジの頬をゆっくりと撫でてやる。
「さすがの我も、気が抜けていたようだ。すまない」
「賑やかになりそうだ。この先の人生も」
 ソウジはまんざらでもない表情で、そう呟いた。
「汝が沖縄軍に居続けるなら、我も沖縄に住んだ方がいいな」
「ああ。まだしばらくは、ここで働くことになりそうだ。一緒にいてくれるか?」
 リュインは「新しい門出、新しい土地もいいだろう」と快諾した。ふたり一緒の生活が沖縄から始まる。

 それを祝福するかのように、シーヴから音楽のプレゼントがあった。
 彼女はライブに飛び入り参加して、キーボードで祝いの曲を演奏する。自ら「玄人には及ばない」と言うが、こういった場では気持ちが何よりも大事。シーヴの演奏に、参列者から割れんばかりの拍手が巻き起こった。
 その後、彼女は宵藍を招き入れる。彼は「祝いの曲を披露します」といい、愛用の二胡を構える。伴奏はシーヴが担当する。歌は6月をモチーフにしたものらしいが、「その辺はご愛嬌で」と軽快なトークで説明した。


 『June Brightness』

  紫陽花なでる涙雨
  キミの嬉し涙? 誰かの悔し涙?
  それなら派手に降ればいい
  真っ白なタキシード ずぶ濡れでも
  それだけシアワセだと誇ってやる

  子供みたいと笑うキミ
  病める日にも 健やかなる日にも
  僕の隣 その笑顔を見せて
  舞う雫に揺れる 6月の空
  太陽隠れても光あふれる My World

  Dingdong 祈りの鐘が響く
  二人重なるこの手が 永遠に離れないように
  Dingdong 誓いの鐘は歌う
  今この刻から始まる 僕ら奏でる協奏曲(コンチェルト)

  輝く6月のMelody

  In sickness and in health
  To love and to cherish
  Till death do us part‥‥


「グンベ少佐、リュイン、結婚おめでとう!」
 明るいポップなバラードの最後を祝福の言葉で締め括ると、参列者の盛り上がりは最高潮に達した。
 リュインはソウジの手を引いて前に出て、宵藍に感謝を述べる。
「我らに素敵な歌をありがとう」
「こっちこそありがとう、最後までちゃんと聞いてもらって。ところでさ、ふたりの子どもとか美形になりそうだし、アイドルにどう?」
 宵藍の言葉に、思わず顔を赤らめてしまう夫婦であった。


 沖縄で奏でられた祝福の鐘は、きっと永遠のものになるだろう。