タイトル:【FC】四国の意地マスター:村井朋靖

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/08/03 16:35

●オープニング本文



 最近、沖縄の戦況を注視しているミスターS(gz0424)にとって、四国の動向は二の次である。
 しかし、指揮官にウィリアム・シュナイプ(gz0251)が就任したとの報告を聞くと、驚きの声を上げた。
「へぇー、それは思い切ったことをしたね。こっちの手を読もうと必死だ」
 彼は「これは楽しめそうだ」と笑うが、内心は「僕の敵じゃない」と思っていた。
 確かに用兵だけ見れば、ミスターは一枚も二枚も上手。だが、勝ちに不思議の勝ちはある。油断はできない。
「ウィリアム君はまだ、四国で活動するレジスタンスの詳細を知らないだろう」
 ミスターは東京解放戦線において、レジスタンスの活動を放置したせいで手痛い目に遭っている。まさに「千里の堤も蟻の穴から」を体現した格好だ。これを教訓とすべく、彼はある策を授ける。
「UPCとレジスタンスが組むと、何かと面倒だ。まずはここを封じようか」
 彼は部下に対し、レジスタンスを引きずり出す作戦を決行するように指示。あの手この手で存在を抹消しろと伝えた。
「僕はしばらくここを留守にする。沖縄の3姉妹をエスコートしなければいけないからね」
 ミスター肝入りの「レジスタンス討伐作戦」が、今まさに始まろうとしている。


 こんな厳しい状況でも、「いつも四国に笑顔を!」を合言葉に活動を続けるローカル放送局が存在した。
 その名は「瀬戸内海なるとテレビ」。積極的に自社番組を企画・立案し、全世界への発信を意識した内容に仕上げる。戦時中とはいえ、彼らのプロ根性は決して衰えない。

 そんな連中をまとめる熱血局長・村松は、許可を得てレジスタンスのアジトに潜入。自分専用にチューンナップされたビデオカメラを、今も必死に回している。
「まったく、物好きなオッサンだな。俺たちを撮りたいとかよ。ま、いい出来栄えなら、ヘナチョコUPC軍にも送ってやれよ」
 スキンヘッドのリーダーはカメラの前でカッコよく銃を構えながら、村松に向かって言い放つ。
「私はバグアの侵略を止める人間の姿を、このカメラに収めたいだけだ」
 熱意あふれる局長の返答に、リーダーは「あんた、エミタの適合者ならよかったのにな」と真顔で答えた。村松は素直に礼を述べるも「私はこれしか能がないから」と笑ってみせる。
「UPCの若き指揮官様は、レジスタンスとの融和路線を実行中らしいが‥‥あんたはどう思う? 乗るべきか、乗らぬべきか」
 ミスター率いるバグア軍が、レジスタンス討伐作戦に舵を切ったことは、誰もが知っている。そこでリーダーは、局長に意見を求めた。
 村松は心の中で「やっとか」と呟く。彼がこの話をするまでに1週間かかった。人間不信にも陥っているのだろう。それも仕方のないことかもしれないが‥‥
 彼は大きく息を吐き、一呼吸置いてから持論を展開した。
「これは私の意見だが‥‥乗る乗らないで判断する問題じゃないと思うね」
 彼はまず「その受け止め方こそがナンセンスだ」と、あえて先に伝えた。
「さっきも言ったが、私は戦う人間を撮りに来た。しかしこの四国でそれを担うのは、レジスタンスだけじゃない」
 話の先が読めたリーダーは、戸惑った様子で「呆れた奴だ」と漏らす。
「傭兵もUPCも、私たち一般人も同じ人間だ。人間は皆、バグアという侵略者と戦っている。私は人間を撮るよ、必死で生きる人間をね。もちろん、見せ方は変えるけどね」
 リーダーは予想された答えを最後まで聞くと、まず最初に前言を撤回する。彼は「村松が適合者でなくてよかった」と褒めた。
「ったく、耳が痛いぜ。他の連中にも聞かせてやりてぇな、この説教‥‥」
「人間が助け合うのは間違いではない、と思っただけですよ」
 この考えはシンプルだが、とても重要なことだ。ただ、それを口にする人間によって受け止め方が変わってしまう。村松が口にしたからこそ、リーダーも素直に聞き入れたに違いない。

 しかし、感傷に浸る暇はない。リーダーの身につけていた通信機が、けたたましく鳴った。狭い室内によく響く。奥からは仮眠中の若い構成員らが飛び出した。
 リーダーは村松に目配せをし、この場面を撮るように指示。彼も声を潜めて録画に専念する。
「こちら蟻の巣‥‥」
 通信機に向かって小声で暗号を発するも、相手は容赦なく大声で喋った。
『私の名はフィリス・フォルクード。ご無沙汰しております』
 上品で物腰のやわらかな声を聞くと、リーダーの顔がこわばる。
『すでにお察しでしょうが‥‥あなたの部下を2人ほど捕らえました。翌朝8時、市民を集めて処刑します』
 すかさず村松が時計を見る。今は夕方の5時‥‥あまりにも急な話だ。話の引き延ばしも兼ねて、リーダーがダメ元で提案を試みる。
「そいつら、ただの一般人だ。リーダーの俺が代わりに捕まるから、そっちは諦めろ」
『せっかくのお申し出ですが、今回は結構です。ふたりの方が、より美しく処刑できますから』
 このフィリスなるバグアは美しさを好むとされるが、人間の価値観では量れない独特な美の基準を有している。ろくな殺し方はしないことは明白だ。
「じゃあ、こっそり見に行くから、場所を教えろ」
『いつでも構いませんよ。そこから南に2キロ行くと、市民公園があります。そこの広場の中心に磔にしておきましたから。ぜひどうぞ』
 そこで通信は一方的に切られた。リーダーは静かに通信機を置く。
「捕まった連中があの辺を巡回するのは、午後2時頃だ。まさに「罠を仕掛けてあります」と言わんばかりだな」
 このレジスタンスは規模が小さい上、今から援軍を呼ぼうにも圧倒的に時間が足りない。ただ、リーダーの腹は決まっていた。
「俺は今日で、レジスタンスのリーダー失格かな」
 彼は村松に向かってそう呟くと、若い構成員にULTへ連絡を入れるように指示を出し、村松にその一部始終を撮るように願い出た。
「リーダー! そんなことしたら、他のレジスタンスに迷惑がかかります!」
「うるせぇ! 建前やメンツ振りかざして、あいつら助かんのか?!」
 リーダーは部下を一喝すると、室内がシーンとなった。
「人間が人間を助けるのに理由なんていらねぇってことをよ、この俺がメディアを通して、UPCの連中にも教えてやるんだ。なぁ、村松さんよ?」
 彼は何も言わず、カメラの向こうでOKサインを出す。必ず伝えるという気迫が、彼の体にも宿っていた。
 それを受け、若者は「わかりました」と答え、出発の準備を始める。
「村松さん、余すことなく撮ってくれ。これぞ四国ってとこを、たっぷりとな」
 このドキュメント番組のエンディングは、レジスタンス2人の救出と決まっている。あとは、能力者の活躍に期待するだけだ。

●参加者一覧

アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
風代 律子(ga7966
24歳・♀・PN
神楽 菖蒲(gb8448
26歳・♀・AA
サウル・リズメリア(gc1031
21歳・♂・AA
ラサ・ジェネシス(gc2273
16歳・♀・JG
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA
月野 現(gc7488
19歳・♂・GD
大神 哉目(gc7784
17歳・♀・PN

●リプレイ本文

●戦いは夜に
 レジスタンスのアジトに傭兵が招かれてすぐ、作戦会議を開始。意外にもすんなり、作戦の実行は夜と定められた。
 「人の死は見世物ではないわ」とは風代 律子(ga7966)の言葉だが、誰もがそれに頷く。神楽 菖蒲(gb8448)もまた「やることが安い。昔の特撮の悪役じゃあるまいし」とこき下ろした。
 その隣では、アルヴァイム(ga5051)が武具などに丁寧な細工を施し、ミリハナク(gc4008)がレジスタンスの狭くて暗い通路で暗視スコープのテストを行う。そんなふたりは共通して、サプレッサーを準備していた。
「このような人質作戦など、美しくありませんわ!」
 ミリハナクが息巻くと、黒子姿のアルヴァイムも「しかし乱戦になれば、美しくはないでしょうね」と冷静に分析する。
「それでも、竜のお嬢様は美しく戦えますかな?」
「‥‥いえ、自分の戦いには美しさの欠片もありませんので、ちょっと言ってみただけ‥‥」
 敵幹部であるフィリス・フォルクード(gz0353)の趣味に合わせて戦う必要もまた、どこにもない。大神 哉目(gc7784)は独特な美意識を理解するつもりもなく、ただひたすらに自分の仕事に専念する姿勢を貫かんとする。
「それにしても、この辺はなるとが有名なの?」
 彼女の疑問は、村松が在籍するテレビ局の名前に起因するのだろう。局長は、なるとが「瀬戸内海に起こる渦潮のこと」と説明すると、哉目はちょっぴり残念そうな表情になった。
「なんだ、ラメーンが名物ってわけじゃないんだ」
 それを聞いたリーダーが笑いながら「当てが外れたかい?」と言うも、「救出が無事に終わったらおごってやる」と言葉を続けた。きっとその輪の中には、囚われの身になっている2人も含まれていることだろう。

 救助に迎える状況を羨ましく思う月野 現(gc7488)だが、今はこの依頼に集中。同じく救出班として活動するサウル・リズメリア(gc1031)とも言葉を交わす。
 ある意味で今回のキーマンとなるレジスタンスの面々と村松には、ラサ・ジェネシス(gc2273)が挨拶をする。
「傭兵のラサです、一緒にがんばりましょう。無事に救出して、いい絵を撮ってくださいネ」
 ベストショットが用意できるかは、傭兵次第。それを撮ることができるのは、村松だけ。囚われの仲間を心身ともに解放できるのは、レジスタンスのみ。この三者が手を組み、バグアに奪われそうな命を救うのだ。

●二手に分かれて
 準備は整った。レジスタンスのアジトから、問題の市民公園は目と鼻の先。全員が闇夜に紛れて移動する。
 戦力を救出班と陽動班に分けたが、ここに一般の構成員は含まれていない。彼らはアジトでお留守番だ。ただ、能力者であるリーダーとサイエンティストのふたりには、救出班に同行してもらう。カメラマンである村松も救出班に属しており、黒塗りの迷彩服と盾に身を包んだサウルが専属のボディーガードを務めた。
「たまにゃ、俺もカッコよく撮ってくれよ!」
 声が入るといけないので、村松はジェスチャーで応じた。
 そんなことをしているうちに、市民公園を囲む石垣にまで到達。ここからは虎口といっていい。アルヴァイムは隠密潜行、サウルと現は探査の眼を発動し、不意打ちや罠に備える。
「わざわざ相手のルールに乗ってやる義理なんざないわよね」
 陽動班の菖蒲は赤い髪を掻き分けると、暗視ゴーグルを装着。首の後ろにケミカルライトを提げ、まずはひとりで颯爽と石垣を越える。レディーファーストで女性陣を先に公園内に誘い、野郎どもを引き入れる際は豪力発現を駆使して引っ張り上げた。
 ラサは豊富にある自然の変化を感じ取ろうと努力する。ミリハナクは見渡しのいい場所にアンチマテリアルライフルを設置し、暗視スコープとタクティカルゴーグルの望遠機能を用いて索敵を開始。哉目は旋棍「輝嵐」を構え、気持ちを戦闘モードに切り替えた。

 進入路のチョイスがよかったのか、公園に侵入してもバグア側の反応はない。
 アルヴァイムは軍用双眼鏡で、進むべき道に爆弾等の罠がないか丹念に調べた。フィリスの美意識にそぐわないのか、現時点ではそういった派手な罠は見つからない。サウルと現もまた、同じ判断を下した。
 一方、陽動班はあえてまっすぐに中央へと向かう。先頭を行くのは菖蒲だ。月光のように輝く左腕をかざし、敵に「ここだ」と居場所を知らしめる。
「さ、私はここにいるけど?」
 その呼びかけに応じる形で、前方から白狼型キメラが突進してくる。ここへ瞳を輝かせる哉目が躍り出て、トンファーを振りかざしながら、白狼に襲い掛かった。
「血に飢えてるかもしれないけど、餌はあげられないよ!」
 敵の鼻っ柱を叩くが、すぐに奥から新手が出てきて、少女の柔肌に爪を立てんとする。
 しかし、そこは騎士・菖蒲の出番。ひとりで捌くのは難しい数の敵を、お互いの隙を埋めるかのように動いてカバー。獅子牡丹が煌けば、いかに気高き白狼も無残に倒れるしかない。
「初手は狼型キメラね。牙と爪に気をつけて。意外と数が多いわ」
 哉目にアドバイスを送りつつ、菖蒲は手近なキメラを切り伏せていく。今はまだ余裕があるので、拳銃「ラグエル」の出番はなかった。
 その代わり、手の届かない場所にいる敵は、ミリハナクが長距離射撃で牽制する‥‥が、実際にはかすっただけでも体が吹き飛ぶ威力。動物の本能だけでこれを避けるのは、至難の業といえよう。
 一方、ラサは菖蒲のやや後方に位置していたが、右側に静けさが広がったことから、小銃をそちらに構えた。
「あの辺、草があるのに虫の音がしなくなった。何か生き物が潜んでいるのカ」
 彼女の読みは正解。そこから鹿型のキメラが、角を振り上げて登場。その数は3体だが、これだけで済みそうにもない。
「見た目は黒猫だが、鹿には負けられないネ」
 彼女はいきなり制圧射撃で鹿の足止めを行うと、すぐさま無線機で陽動班の仲間に連絡。
「こっちは鹿デシタ!」
 数が少ないので、こちらには哉目が援軍として参加。動きが止まっているので、迅雷で一気に間合いを詰め、攻撃の軸になるであろう角を叩き折る。
「目が光る者同士、仲良く‥‥とはいかないよ」
 トンファーによる攻撃は、実に多彩。脚を払ったり、腹を穿ったりする一方で、敵の攻撃を防ぐのにも使える。敵の動きが鈍れば、手数を増やして応戦。状況が悪くなれば無理をせず、光る瞳を仲間に向けることで援護を依頼し、戦況の変化を求めたりした。

●表裏一体
 救出班は迂回し、公園の中央へと向かった。
 このルートは事前に地図を入手していたラサが調べ、それをアルヴァイムが正しく全員を導く。背の高い木々やトイレなどの施設が多く、移動すること自体に苦はないが、伏兵と出くわす危険があり、その点は誰もが細心の注意を払った。
 しかしキメラは彼らの存在に気づかず、とにかく陽動班の方に向かっていく。その数は徐々に増えつつあり、黙って見逃すのにも限界がある。
 リーダーは「大丈夫かねぇ」と心配を声にするも、アルヴァイムは顔の前で手を振った。これは「気にするな」のサイン‥‥しかし見た目に美しいキメラたちは、徐々に女性陣を追い込んでいく。

 ここまでお世話になった遮蔽物もついになくなり、ここからは中央まで丸見えに。距離にして50mはあるが、ここからなら磔にされた構成員の姿がハッキリと確認できた。
「あのフィリスって野郎、律儀な奴だぜ。あのまんま、朝まで放ったらかしとはな‥‥!」
 陽動班の手助けもできず悔しい思いばかりしているリーダーを、律子が制する。
「彼らを助けるために、皆が必ずチャンスを作ってくれるわ。私たちを信じて」
 律子はアーミーナイフとハンドガンを構え、リーダーに「そろそろね」と呼びかける。そして他のメンバーに「救出の方、よろしく」と声をかけると、彼らと少し距離を置き、そのまま一気にキメラの群れの横っ腹を突いた!
「鼻が利かないのかしら?」
 白狼型キメラの腹をざっくりと切り裂き、急襲で目を丸くする個体にハンドガンを浴びせる。リーダーは手負いの狼に止めを刺すと、迅雷でまったく別の敵にケンカを売りに行った。律子もそれを見て、瞬天速で別の場所へ。敵を撹乱しつつ、その時が来るのを待つ。

 アルヴァイムは囚われの2人が、事前に確認した人相や体格と一致すると判断。あえて最短距離で向かうことをサウルや現、村松らに伝える。
「小細工はいらない。まっすぐ向かう」
 裏方気質はしばし封印と、小型超機械と小銃を構えるアルヴァイム。若き青年もまた、村松らを守るために武器を持つ。
 そして一気に戦場へ。行く手を阻むのは白いタキシードの男たち。おそらく強化人間だろう。サウルは村松の移動速度を考え、あえて同行する形を取った。無論、村松は敵の的にされてしまうが、そこはアルメリアの盾を用いたボディーガードで完全にダメージを殺す。
「どうだ、やらせなしの戦闘は!」
「呑気に撮ってる場合じゃないってことだけは、よくわかったよ」
 村松はカメラを適当に持ち、意を決して前へと走る。彼も仲間の作戦を聞いていた人間のひとりだ。今、何をすれば、ただの一般人でも人質解放に寄与できるか‥‥それがちゃんとわかっている。
「無茶するぜ、オッサン! だが、それがいい!」
 一介のカメラマンが猛然とダッシュするのを、白服はどうすればいいかわからない。
 この一瞬が、明暗を分けた。アルヴァイムは小型超機械で白服の手を焼き、武器を落とさせる。そこへ瞬天速で先を行く村松の前に出たサウルが、武器を拾おうとする敵に、脚爪「オセ」の蹴りをスライディング気味に食らわせた。さらに遠くへ武器が転がれば、最後は現が小銃「ヴァーミリオン」で額に銃弾をめり込ませて撃破する。
「悪いが、貴様らと遊ぶ時間はないんでね」
 人質までの距離が縮まると、敵の妨害も激しくなる。特に親衛隊は銃を持ち、距離を取って攻撃できるのが厄介だ。
 しかし、百戦錬磨の傭兵に抜かりはない。ここでも現の制圧射撃が火を噴き、敵の足止めをすると同時に、アルヴァイムがスコーピオンで銃弾を急所へ的確に当てた。

●任務に徹した者の勝利
 傭兵とバグアの間には、決定的な戦力差があった。しかしバグア側は、数で押すだけの兵力を有しており、長期戦になればどう転ぶかわからない。しかし、人質救出はアルヴァイムや青年らの手によって達成されるかのように思われた。
 このタイミングで陽動班の元に、なんとフィリス・フォルクードと親衛隊が現れる。
「非力な人間が、月夜の晩に無駄な努力とは‥‥ああっ、なんて美しくないのでしょう!」
 フィリスは額に手を当てて悲しがると、すぐさま細身の剣を抜き、哀れな能力者に切っ先を向ける。
「敬愛するミスターのご指示です。私が美しく始末して差し上げますよ」
 これを見た菖蒲は、思わずジト目でフィリスを見る。どうにも頭痛とイライラが止まらない。だが、ここで哉目が気迫を漲らせて前へ出た。なんとフィリスに挑もうという。これを見たラサは、すかさず援護射撃を哉目と菖蒲に施した。
 哉目は刹那を交えての打撃、さらにはサイドへ逃れつつ、さらに刹那で軸足と思しき右脚を狙って果敢に攻める。しかし、さすがに相手もバグア。ダメージを最小限に抑えたかと思えば、すぐさま反撃に転じ、素早い突きの連続で哉目の体力を奪っていく。
「なかなかの腕ね。性格は最悪だけど」
「今まで能力者の方に、私の趣向を理解してもらえたことはありません」
 哉目は強気の台詞を吐くが、彼女の劣勢は誰が見ても明らか。菖蒲は親衛隊に的を絞り、今度こそ拳銃「ラグエル」を駆使した戦法で足止めを行う。
「あの娘の邪魔はさせないわ。アンタたちの相手は私なわけ」
 菖蒲は銃で敵をいなし、親衛隊をいい位置に集めると、なんと彼らに背を向け、いきなり目標をフィリスにチェンジ。銃を片付け、脚甲「イキシア」を装着し、そのままジャンプ。そのまま真下に向けて蹴り下ろす形での天地撃を発動させる。
「同じ白服でも、アンタが一番気に食わないね」
 回避を諦めたフィリスはこれを受けるも、菖蒲の猛威は止まらない。ここから流し斬りを乗せた斬撃が待っていた!
「美しくないわねえ、思ってたより」
「それは‥‥仕方ありません」
 それでもフィリスは、ダメージを最小限に食い止める器用さを見せた。だが、ダメージはある。純白のタキシードは、徐々に真紅が侵食しようとしていた。

 磔にされたレジスタンスを前に、アルヴァイムらが奮闘している。これを見た律子は、リーダーに声をかけた。
「今よ! 救出するなら、今しかないわ!」
 律子とリーダーは、瞬天速と迅雷で人質の元へ。ちょうどアルヴァイムたちと役割がスイッチした形となった。そして人質に爆弾などの危険物が巻かれていないかを確認した後で束縛を解き、陽動班に「救助成功」の報をもたらす。
 サウルはカメラを回す村松をボディーガードで守りながら、リーダーが仲間を救出するシーンを撮るように要求。彼も親指を立て、最高のシーンが撮れてることを伝えた。
 しかし敵も、簡単には逃がしてくれない。複数の白服は槍斧で人質を始末せんと襲い掛かるが、そこは現が不壊の盾ですべて受け切った。
「何も問題ない。あとは撤退するだけだ」
 人質が救出できれば、もうこんな場所に用はない。すぐにでも陽動班と合流し、今度は正規の出入口からの脱出を図る。
 律子は閃光手榴弾のピンを抜き、無線で陽動班にも注意を促した後で、退路に投擲。爆音と閃光は白服とキメラの行動を大いに阻害した。
 「このままでは逃げられる」と悟ったフィリスは、部下に指示を下そうとするも、ラサの超長距離狙撃でいらぬダメージを負った上、言葉まで飲んでしまった。
「救出班だと思った? 残念、我輩でした!」
 さらに、親衛隊を制圧射撃で足止め。その隙にミリハナクが滅斧「ゲヘナ」に持ち替えて登場。活性化で体力を回復させ、この時を今か今かと待っていた。ところが、彼女の狙いは「仲間の撤退」である。フィリスなんて、アウト・オブ・眼中。ソニックブームを駆使して木々を倒し、敵戦力の合流を阻止しつつ、公園のモニュメントに対して天地撃を繰り出し、これを上に飛ばしてさらなる混乱を引き起こした。
 これで勝負あり。キメラの群れはまったく統率が取れず、指示を出す白服も銃撃などでことごとく足止めされ、フィリスも想定外の傷を負ってはどうしようもない。サウルはフィリスを見て、思わず「うわっ、幼馴染を思い出すじゃねーか、縁起悪ぃ」と言い放った。どうやらフィリスにとって、今回の戦いは散々だったろう。

 傭兵たちが脱出する頃、東の空が少しずつ明るくなっていた。四国の夜明けもまもなく、であるといいのだが。
 彼らはささやかな祝勝会を、近所のラーメン屋で行った。その間も村松のカメラは回り続けていた。