タイトル:土色に揺れる森マスター:村井朋靖

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/03/13 22:35

●オープニング本文


 四国のとある山深き神社では、土着の神が宿ると伝えられる小高い山の洞穴にお供え物をする風習がある。
 バグアとの戦闘で世界は混乱し疲弊しているが、この神の存在は小さな村の人の心の拠り所となっていた。

 しかし、この小さな村にも事件が起きる。
 神主や村人たちが危険を冒してまで捧げたお供え物が、その翌日に無残にも食い荒らされてしまったのだ。
 過去に例のない事件を目の当たりにした村人は、「ついに神様がこの村をお見捨てになった!」と噂する。
 この手の噂は、だいたい尾ひれや背びれがつくものだが、なんと今回は複数の目撃者がいるという。
 お供え物の管理は、いつもマタギの集団が引き受けているのだが、彼らは土色の大蛇を見たと口を揃えた。
 洞穴から顔を覗かせたかと思うと、長い舌を器用に使ってお供え物を食ってしまったというではないか。
 もっともマタギの中でも「ありゃキメラだべ」という話も出たが、現実的な分析は老人の耳には届かない。
 結果的に、村の噂は「神様のたたり」ということになった。これ以降、村全体に不気味な不安が広がる。

 この事態に、神主は頭を抱えた。彼は「あれはキメラだ」という確信を持っている。
 この神社で祭っている神様が「大蛇になった」という伝承がどこにもないのだ。信じられるわけがない。
 そこで話のわかりそうな青年会の会長を呼んで、この問題を迅速にULTへ出すことを相談して決めた。
 洞穴にいるのは間違いなくキメラだが、普通に倒しては村人が納得しない。あれは神様だと思われている。
 神主は報告する際に「できれば村人の信仰心を傷つけないように配慮して退治してほしい」と付け加えた。

 小さな村を揺るがす土色の大蛇は、今も神が宿るとされる洞穴で舌を出して獲物を待っている。

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
高日 菘(ga8906
20歳・♀・EP
楊江(gb6949
24歳・♂・EP
ライフェット・エモンツ(gc0545
13歳・♀・FC
緑(gc0562
22歳・♂・AA
ファング・ブレイク(gc0590
23歳・♂・DG
黒木・正宗(gc0803
27歳・♂・GD

●リプレイ本文

●神の使いの能力者
 能力者ご一行はお忍びで問題の村へ入ると、まっすぐに村の公民館へ向かった。ここにあの神主が待っている。
 秘密の会合を開くには、お世辞にも適していない場所だが、神社にはすでに村人が集まっているので危険だ。
 神主と青年会の会長の出迎えを受けた赤木・総一郎(gc0803)は、「厳重ですね」と率直な感想を口にした。
 彼の言葉は、ふたりからうまく愛想笑いを引き出した。これは神主たちの緊張を解きほぐすための一言である。
 さらに高日 菘(ga8906)が「よろしくなー」と元気な声を響かせると、仲間たちの間にも笑みが広がった。

 能力者たちは軽く自己紹介を済ませると、さっそく作戦を練り始める。まずは神主が準備した事柄を説明した。
 キメラ退治の前と後に、村人の前で神事を行う旨を伝えてあるという。ここで一芝居を打ってほしいとのこと。
 この公民館には都合よく、お供え物を出した際に着用した衣装が揃っている。どうも片付ける前だったらしい。
 全員の衣装合わせは、巫女の経験がある石動 小夜子(ga0121)が担当。手の空いた仲間を呼んで着せていく。
 ただこれを普段着の上から羽織ってしまうと、防具はなんとかごまかせても、武器は目立って隠し切れない。
 そこで楊江(gb6949)が仲間たちの武器を集めて、それをまとめてお供え物を入れる大きな袋に詰め込んだ。
 これを目の届く茂みに隠しておき、蛇退治に向かう途中でこれを回収する。赤木は彼の作戦に太鼓判を押した。
 小夜子は着替えの最中、神事の作法についての手ほどきも行い、立ち振る舞いの不安をなくすことに尽力する。
 特に巫女をするライフェット・エモンツ(gc0545)、竜笛を吹くファング・ブレイク(gc0590)には念入りに。
 後ろに控える幡多野 克(ga0444)や緑(gc0562)は、前に出る演者がやりやすいように動くことだけ決めた。

 赤木は自分が考えた前口上を話すと、神主はそれに沿った形でフォローすることを快く了承した。
 基本的な設定についてはこの場で徹底的に打ち合わせ、全員がケアレスミスのしないように心がける。
 菘は「大阪弁が出たらあかんな」とお口の前でペケをして、ライフェットから穏やかな笑顔を引き出していた。
 従者は村人に問われるまでは口を開かず、困ったら赤木か神主に目配せしてフォローしてもらうことになった。
 その後は山に入ってキメラを討伐。倒したら、頭だけ持って戻る。それを聞いた楊江は、多めに袋を持った。
 そして最後に巫女役のライフェットが、ファングの吹く笛の音にあわせて舞う。その際、緑が物陰で覚醒する。
 こうすると巫女の踊りが際立つのだが、論より証拠とばかりにこの場でどうなるかは詳しく説明しなかった。
 小夜子は「嘘が苦手なので」ということで、老人たちの声かけに向かい、人心を落ち着かせる役目を願い出る。
 これで計画は定まった。ファングは赤木に「大丈夫なのかよぉ〜?」と冗談っぽく言うが、相手の反応はなし。
 それだけの自信が、彼にはあったのだろう。このメンバーならファングを含めて、うまくやってくれるだろう。
 決して表情には出さないが、そんな自信が計画からにじみ出ていた。準備を済ませ、彼らは神社へと向かう。

●我らは御払いの者なり
 老人の姿が目立つ村人たちの前に、静々と現れた能力者。これを迎えたのは「おおー」という驚嘆の声である。
 誰もが無口になることで近づきがたい雰囲気を盛り上げ、それが威厳を増幅させ、徐々に説得力を増していた。
 この時、緑だけは後の舞で重要な役目を果たすという理由で、衣装は着ているが村人の前に姿を現していない。
 赤木は全員が村人の前に揃うのを待ってから、一歩前に出る。そして打ち合わせどおりの前口上を言い放った。

 我々は、京都から来た御祓いの一団。
 布越しに透けて見える全身の刺青は悪魔を避ける呪術文様で、私は草薙の似姿の力を使い、悪魔を祓う呪い士。
 私たちは神主の要請により、神を飲み、押さえつける邪な神‥‥蛇の神を退治しに来た者である、と。

 偶然にも「邪」と「蛇」の読みが同じことが幸いし、うまく蛇型のキメラが悪役になるように仕向けられた。
 これを受け、神主はライフェットを「江本」と呼び、蛇を倒した後に平穏を与える舞を踊る巫女だと紹介する。
 ちなみに偽名を使おうと提案したのは少女本人、それを菘や克たちが「エモンツ」をもじって「江本」とした。
 彼女は緊張の面持ちであったが、不安げな村人の表情を見て心を痛める。必ず戻って、役目を果たすと誓った。
 うまく人心はつかんだが、これだけで平穏な気持ちを取り戻せるわけではない。巫女の表情が引き締まる。

 後ろに控えし従者たちもまた、なかなかの役者。克や楊江は、立っているだけでも誠実さがにじみ出てくる。
 一部の村人が「うちの娘をもらってくれんかのう」と囁きあっていたと、後に小夜子が明かしてくれた。
 一方の女性陣‥‥村人に声をかけて回る小夜子や笑顔を絶やさない菘もまた華があった。これでペースを握る。
 村人はあとの説明も素直に聞き入れ、メンバーが山へと向かう頃には、手を合わせて無事を祈るほどであった。
 神主は村を代表して「道中のご無事をご祈念いたします」と発し、いよいよキメラの待つ洞穴へと向かった。

●土地を縛る蛇
 洞穴に向かう道の途中、楊江の準備した袋から武器を取り出し、代わりに芝居の衣類を片付ける。
 その間、ライフェットとファングは舞の打ち合わせ。笛の音に合わせて、豊栄の舞をベースにした踊りを舞う。
 これで少女の緊張が解けたらしい。ファングも彼女の舞が間近で見れて、満足そうな表情を浮かべていた。
 早く着替えが終わっていたからか、菘は同じ音色で盆踊りを舞い、なぜか克や緑にツッコミの指導をしていた。
「はぁー、ちょちょいのちょいっと。って、みんなツッコまなあかんでー!」
「そ、そ、そんな‥‥まさか、こんな脅威が待ってるなんて‥‥緑さん‥‥」
「きゅ、急に俺に振られても困りますよ‥‥」
 いきなり高度なテクを要求された克と緑は大いに焦り、お互いに大任を押しつけ合う姿がとても印象的だった。

 山を登るのに、それほどの苦難はない。大量のお供え物を運んだというだけあって、想像以上に立派な道だ。
 しばらく歩くと、洞穴が口を開けて待っていた。周囲にはキメラが食い荒らした後のゴミが散乱している‥‥
 これを見た菘が「食べ物の恨みは恐ろしいと教えたらなあかんなー」と言いながら、番天印を構えて警戒する。
 楊江も大きく頷いたところで、全員が戦闘態勢を整えた。それと同時に蛇型のキメラが、ゆっくりと姿を現す。
「ギリギリ‥‥キシャーーーッ!」
 長い体をあらわにすると同時に、小夜子が洞穴に逃げ込まないように後方へ移動。それと同時に蝉時雨で一撃。
 この攻撃で尻尾を傷つけられたキメラの注意が逸れたのを確認して、克と赤木が敵の前に立ちはだかる。
 ここで克が銃撃で牽制するが、すぐさま剣に持ち替えて接近した。もちろん攻撃は命中し、傷を負わせている。
 背後に回りこむのは楊江とライフェット、そして緑。菘が遠距離で銃撃し、ファングがAU−KVを装着する。
「すぐに狙いたいところだが、ちょっと待ってもらうとするか。準備ってもんがあるんでな」
 ファングはパイドロスの高機動性と弓の消音性を生かし、自分のタイミングで蛇の死角を狙おうとしていた。

 メンバーはそれぞれに立ち位置を決めると、順番に攻撃へと転ずる。
 克は月詠で流し斬りから豪破斬撃を使って、確実に土色の鱗を傷つけた。赤木の攻撃は惜しくも外れてしまう。
 後方に陣取る楊江の錫杖は効果抜群で、手傷を負わせると同時に気も引く。自身障壁も発動し、防御も万全だ。
 緑も愛用の銃剣「フォレスト」を華麗に扱い、今回は剣の攻撃を命中させている。その動きもまた舞のよう。
 この時、彼は覚醒しており、髪の変化を見せると同時に、周囲の植物をざわめかせる。キメラは大いに慌てた。
 ライフェットも双剣ピルツの攻撃を当て、菘は遠距離から番天印で牽制しつつ、敵の正面を狙って前進する。
「神様‥‥ね。少なくとも、こいつにそう名乗らせる価値はないよ」
 菘も気合一番、覚醒を行うと緑のように髪に変化が起きる。語尾も伸びず、さっきまでと印象が変わった。

 こんなめまぐるしく変わる状況を飲み込まず、とにかく人間を倒そうと開き直った蛇の猛攻はすさまじかった。
 長い体をぶんぶんと振り回し、戦列の前後などお構いなしに3回攻撃する。まるで太い木の幹がしなるようだ。
 この攻撃で小夜子と赤木、緑が狙われた。小夜子は避け、赤木は受け止めたが、緑はダメージを受けた。
「くっ! しかしこれだけ暴れるということは、退路を絶たれたと感じている証拠。このまま攻め立てましょう」
 緑の気丈な言葉に、誰もが頷く。確かに蛇の体力はそれほど残っておらず、一気に片付けるチャンスだった。

●報いを受けるべし!
 小夜子の横からの斬りつけは一撃が重く、キメラを徐々に絶望へと導く。焦りが叫びとなって、周囲に響いた。
 同じく克も胴体を狙い、今度はその身を裂かんとばかりに剣を振るう。普段の穏やかな表情とは別人の太刀筋。
「どのような形であれ、キメラが人の脅威になる存在に変わりはない」
 彼もまた覚醒し、銀色の髪と金色の瞳となっていた。この迷いなき意志が、力強き一閃を生むのだろう。
 これに負けじと、土色の蛇がまた暴れ出す。克と楊江、そして赤木が襲われた。ここでは楊江が手傷を負った。
「わっ、私は構わずに攻撃を! 今がチャンスです!」
 攻撃を受け止めた赤木はその言葉に応え、グラジオラスの一閃で隙を作る。克は攻撃を避け、再び剣を構えた。

 ここでファングが竜の爪に竜の瞳、さらに竜の息を発動させ、音を殺した強力な攻撃を土色の蛇に浴びせる。
 恐ろしく遠い場所からの攻撃に、さすがのキメラも気が動転したようだ。叫び声も痛みより驚きの方が目立つ。
「もう‥‥中には、戻らせないから‥‥」
 ライフェットは強く剣を握り、傷ついた鱗に攻撃を仕掛ける。致命傷こそ逃れるも、蛇のダメージは深刻だ。
 敵に隙を与えぬよう、菘は念のため自身障壁を発動し、武器を蛍火に持ち替えて攻撃。敵の絶叫を引き出す。
 ここが勝負どころと見た緑はフォレストに貫通弾を装填し、紅蓮衝撃を駆使して決着を図る。狙いは頭部だ。
「‥‥今だ」
 冷静な判断から放たれた一撃は見事に頭を貫き、キメラの悲鳴は断末魔へと変わった。次第にか細くなる声‥‥
「ギ、ギ‥‥シャーーーーー」
 それを聞いたメンバーは、戦いの終わりを確信する。血の気が失せ始めた蛇は、もはや濁った色になっていた。
 この土地に伝わる神をも脅かすと噂されたキメラの姿は、もはや生きていた雰囲気さえも感じさせない。
「私はこの土地の信仰を知りませんが‥‥こうしてキメラの亡骸を見ると、なんとも複雑な気分ですね」
「キメラも祟りも‥‥傍から見れば、何も変わらないのかも‥‥しれない‥‥」
 楊江の何気ない言葉に、覚醒を解いた克はこう返した。キメラの脅威は、形を変えて現れることもある。
 能力者に与えられた力とは、いったい何なのか。くしくもそれをキメラに考えさせられるという事件であった。

 邪悪な蛇を退治した証拠として、キメラを頭だけにする作業が始まった。克と楊江が自分からその役目を負う。
 この頃から、なぜかファングはずっと蛇を見ないようにしていたが、どうやら無類の蛇嫌いだったようだ。
 赤木が絶妙のタイミングで「お疲れさん」と声をかけたのがきっかけで、自分からバラしてしまったらしい。
 そんな状況でよく戦ったと褒める者もいれば、包み隠さず笑い飛ばす者もいた。ファングは、赤木をにらむ。
 その間、ライフェットが洞窟の前でしばし黙想。この地に祭られているという神様にご挨拶しているのだろう。
 いじられたファングは、見晴らしのいい場所でライフェットと同じように目をつぶって何事かを口にしていた。
 小夜子と菘は蛇が食い荒らしたゴミを掃除。菘が「もったいないなぁー」と嘆息しながら袋に詰め込んでいた。
 家族を守る身であったからか、どうしてもこの辺に敏感になってしまう。そんな菘を見て、小夜子が微笑んだ。
「労なく揃えられるものではありませんからね、お供え物も‥‥菘さんの気持ちもわかります」
「わかってくれるとはうれしいなー! ま、これで村も平和になるからええか。紛い物の神様はいらんて」
 意外な面倒を呼んだ事件も、いよいよクライマックスを迎える。そう、この依頼はまだ終わっていないのだ。

●ご加護がありますように
 仕事の終わったメンバーから武器を再び袋に片付け、例の衣装を出して着替えを始める。
 その間、克と菘が持っていた救急セットを使って、怪我をした緑と楊江の手当てを行った。
 赤木は確認のために軽く打ち合わせをするが、ほとんどライフェットとファングに任せるという内容である。
 ふたりのリズムは、すでに道中で確認済み。蛇の頭も準備完了。磐石の態勢で、一行は村へと降りていった。

 御祓いの一団が無事に戻ってきたと知るや、村人たちは大いに湧いた。出発前の生気のなさが嘘のようだ。
 緑はその列に加わらず、茂みに隠れる。そしてライフェットたちのサポートを行うタイミングを見計らった。
 神主は心から帰還を喜び、村人に向かって「邪なる蛇は去った」と改めて宣言する。村は拍手に包まれた。
 祭壇には蛇の頭が供えられ、いよいよ最後の仕上げである巫女の舞へと話が進む。ライフェットは立ち上がる。
 手には双剣ではなく、細長い木の枝を持ち、ファングの竜笛を合図にゆっくりと舞い始めた。
 その姿はまるで、冷たい空を舞う白い雪のよう。ファングの笛の音も、それにあわせて少しずつ変わっていく。
 この時、彼女は覚醒していた。雪のような粒子とともに舞い、雪の匂いを漂わせながら全身が白く光る。
 周囲の植物も動き始めた。この能力は、緑が覚醒した証拠である。この時ばかりは誰の心からも騒動が消えた。
 赤木たちは、この様子を静かに見守っている。もちろん緑も茂みから、暖かい応援の視線を送っていた。
 ライフェットは心を込めて舞う。この村の平穏を祈る気持ちに偽りなどない。この時、彼女は巫女だったのだ。

 かくして小さな村の騒動は、平和を思う心たちによって救われた。