●リプレイ本文
●先手必勝
実習生たちの苦戦は続く。奪われた脱出ポッドは、すでに5つ。教師は思わず唇を噛んだ。
「このままではマズい」
そこに宇宙要塞カンパネラから出撃した援軍が、後方より接近。通信回線を開いたのは、リヴァル・クロウ(
gb2337)だ。
「こちら、シュテルン・G搭乗のリヴァル。状況の説明を」
「これまでに5人が捕獲された。生徒には遅滞戦闘を指示したが、相手が一枚上手で‥‥」
残る生徒は15名。教師は3班に分けて対応させている。それを聞いた氷室美優(
gc8537)は「3人1組にした方がいいかもね」と提案する。
「学園生相手にあの動きだから、きっと有人機‥‥相手も本気で来てる」
そう呟く美優。リヴァルも言葉を続けた。
「彼らには別の意図がある。それを考慮した上で早急に収束させる。援護をお願いしたい」
教師は「わかった」と答え、彼らの指示に従うことを約束。さっそく美優の提案を取り入れ、生徒を3人1組の編成に変更した。その隙を突かれぬよう、日下アオカ(
gc7294)搭乗のタマモが、前衛のHWを牽制する。
「これ以上、アオたちの同輩を捕らえさせはしませんわよ?」
ご挨拶代わりに放たれたレーザーガトリングを避けるのを見て、美優のドレイク「タギリヒメ」は戦闘機状態で障害物の影を利用しながら移動し、下方向からの接近を試みる。
HWの目的が「生徒の捕獲」であるのは一目瞭然。だから先手が打てる。敵はなんとか反転し、また生徒のKVに向かって前進。その時、美優のモニターにはHWの腹が大写しになっていた。
「ハハハッ! 外しようがないね!」
タギリヒメがDRAKE BREATHで攻撃すれば、HWは食らわざるを得ない。受けたダメージが大きく、その身を大きく揺るがし、致命的な隙を見せた。
美優は伸び切った捕縛用アームめがけて接近。翼に備え付けられたソードウィングが鈍く光る。
「ポッドのない方はこっちでね」
すれ違いざまに火花が散ったかと思うと、アームはポッキリと折れてしまった。
「アオカ、準備しといて」
美優はすぐさま人型形態になると、今度は練機槍でアームの接合部分を突く。HWの腕はまた折られ、脱出ポッドを掴んだ手がむなしく浮かぶ。
「あれがドレイク‥‥ずいぶん速いですわねー。でも、アオも負けてられませんわ」
タギリヒメのスピードにアオカは呆然とするも、ここは自分の仕事に専念。ブーストで脱出ポッドに接近し、スラスターで体勢を整えながら見事にキャッチ。それを持って後方へと下がる。
「先生、ポッドの管理をお願いしますわ」
「素早い救助、感謝する!」
教師はアオカからポッドを預かり、マサキを含む1班に管理を任せる。騎士の姿をしたKVに守られた生徒の得た安心感は大きかったに違いない。
●戦術の先
さっそく生徒が救出され、ビショップは怒り心頭。部下に奮起を促す。
「誇り高き黒騎士団の名に賭けて、懸命に戦え!」
ここは当然、徹底抗戦を指示。小隊長たるナイトも、ポーンに攻勢を強めるよう伝えた。特に前衛は、獲物を持つアームを警戒。後衛は敵の隙を突くため、戦況を観察しながらの行動を命じられる。
「前衛が動き出した。これより状況を開始する。各機、無理だけはするな」
そう呼びかけたリヴァルは微動だにしない後衛に狙いを定め、上方向からの奇襲を試みた。
生徒のポッドを持たぬ後衛に対しては、思い切り攻撃を仕掛けることができる。さらに指揮官機を守る理由もあって、彼らは密集していた。愛機・電影はPRMオフェンスコンボを発動。ロックオンした5機に向けて、小型ホーミングミサイルを発射した!
「年長者がフォローしなくては、格好がつかないものでね」
二度に渡るミサイル発射は、まるで流星のようであった。これにより後衛はことごとく被弾し、尋常ではない傷を受ける。このうち2機の捕縛用アームは、目視でも損傷が確認できた。
後衛が浮き足立つのを見て、雪代 蛍(
gb3625)は障害物から躍り出る。敵は脅威の挟み撃ちとなったが、冷静に竜牙弐型の接近に対応。集束フェザー砲で攻撃を仕掛ける。
「へぇ、さすがは謎の一団ってとこね」
有人機の反応に感心しつつも、蛍はミサイルポッドを発射して応戦。
お互いに攻撃を受け、装甲を傷つけるも、蛍には迷いがない。これが命運を分けた。
「じゃ、返してもらう」
蛍はウィングエッジで、ポッドを持つ腕を狙って攻撃。注意を払うよう指示のあったHWは、慌てて回避を試みる。しかし、蛍は驚くほど冷静だった。なぜなら彼女には、敵よりも味方の動きがよく見えていたから。
「あのさぁ‥‥上を見ないと痛い目遭うよ。ホラ」
この時すでに、雛山 沙紀(
gc8847)のフィーニクスが人型で待ち構えていた。その手にはアサルトライフルが握られている。
「誘拐なんて許さないっす! ボクと真・荒鷹神の力、見せてやるっすよ!」
その後の展開は、まさに彼女たちの言葉通り。フィーニクスが放つ弾丸はHWを深く傷つけ、竜牙も再びウィングエッジで攻撃を試みる。今度は見事にアームを砕き、脱出ポッドを呪縛から解き放った。
「一気にブーストっすよ!」
沙紀の判断は早い。即座にブーストを駆使してポッドを回収。一目散に教師の下へ戻る。
HWは残ったアームがあるので反射的に追おうとするが、そこは蛍が立ち塞がった。
「次に刻むのは本体だけど、いいよね?」
蛍は手頃な大きさの隕石をスパークワイヤーで引っ掛けて、敵にぶつけるなどのトリッキーな技を交えながら時間稼ぎをし、沙紀が戻ればふたりで反撃開始。フィーニクスは一気に距離を詰め、アームに向かって機拳を連打。腕をあらぬ方向に曲げ、操作不能にする。
「撃つべし、撃つべし!」
このパンチ、たまにHW本体も狙うから堪らない。トドメは蛍の剣翼が閃き、敵は鈍い音とともに爆発。この場から消え去った。
●演劇部の絆
美優とアオカ、蛍と沙紀の連携がうまく機能し、徐々に戦況が有利になってきた。
ここでニェーバに乗る月居ヤエル(
gc7173)が、同じ演劇部の仲間であるシャルロット(
gc6678)と星和 シノン(
gc7315)と組み、生徒たちの救出に挑む。
「向こうの目的はわかんないけど、どうせろくでもことに決まってるもん!」
ヤエルがそう言えば、シノンも「うんうん」と力強く頷く。バグアがもたらす不幸を、この少年は捨て置けない。
「KV戦、あんまり慣れてないけど‥‥しぃ、みんなのために戦うっ!」
意気盛んな仲間に対し、シャルロットは冷静さを求めた。
「僕も極力フォローは心掛けるけど‥‥みんな無茶だけはしないでよね? ‥‥ね?」
一応は念を押すが、たとえふたりが無茶をしても、それに対応できる器用さが彼にはある。きっとこの戦いでも、その部分が垣間見れるのだろう。
シノンはしばし障害物を縫うように飛んでいたが、ポッドを奪還する役目を担うシャルロットが定めたターゲットの位置をキャッチすると、積極的に動く。
「クイック! ダッシュ! ターン! ブースト噴かぁーす!」
声を出しての確認は、彼なりのリズム作りなのだろう。ブーストでポッドを持つHWに接近すると、まずはライフルで、続いて機刀で間合いを測る。
接敵した状態になれば、レッグドリルを多用した攻撃に転じた。当たるが当たるまいが、とにかくキックで攻める。
「ドリルッ! ドリルッ! 掘る! 掘る! 掘リルッ!」
その声を聞くものは楽しいかもしれないが、ラスヴィエートの動きは真剣そのものである。
この攻撃に晒されているHWもまた必死だ。反撃のプロトン砲を放つと、防御体勢を取ったシノン機に命中‥‥するが、彼は受防最適化機能でダメージを最小限に食い止める。
「貫いたかと思った? 残念、かすり傷でしたっ♪」
これを見たHWは慌てて間合いを取ろうとするが、背面には白銀のフィーニクス「ツークンフト」が迫る。シャルロットの愛機だ。
「何を企んでいるのかは知らないけど‥‥学園の仲間を連れ去らせなんかしないよ!」
光の粒子を纏う少年は、ここが攻め時とばかりに大仰に練機槍を構えて見せる。しかし不意にスパークワイヤーを発射し、まずは捕縛用アームの動作を封じ込めた。
「シャル、さっすが!」
「僕もしぃちゃんに負けてられません!」
その後は見事な槍捌きでアームを刺し貫き、シノンがポッドを優しくキャッチ。教師に回収と保護を任せるまで、ひとまず攻撃を中断する。
この隙にシャルロットは体勢を立て直しつつある後衛にフィーニクス・レイを向け、2機を射程に収めた状態でプロトディメントレーザーを放った。
「解き放て、ツークンフト!」
その名を呼ばれたフィーニクスは輝きを放ち、目標に対して牙を剥く。射線の中心にいたHWはリヴァルの先制攻撃もあって、爆発四散。もう1機もアームが吹き飛び、装甲も派手に傷ついた。
そこにヤエルが登場。まずは手負いのHWにアサルトライフルで牽制。損耗部を狙っての渋い攻撃を繰り出し、敵との接近を果たす。そこへちょうど、シノンが戻ってきた。
「シィちゃん、一緒に決める?」
「うんうん! ふたりでドリルキックしようよ!」
なんとも子どもらしい発想だが、これも立派な連携である。シノンは少し助走をつける形で上方から、ヤエルは両足を前に出して突進。
「ヤエ&シィ、ダブルドリルキッーーーク!!」
驚くべき威力を持ったキックはHWに大穴を開け、一気に勝負をつけた。敵もまた派手な爆発で、これに応える。
自分たちが狙った通りの結果に、シノンは思わずアオカに通信を入れた。
「ねぇねぇ、アオ! 今の見たぁ? カッコよく決まったでしょー?!」
感想を求められたアオカは、FETマニューバBとブーストを駆使しながら、キメラの群れをスマッシュハンマーで撃破していた。彼女は少し考えた後で、ボソッと答える。
「マンガの見すぎ」
さすがは「100%ツン」のアオカ。なかなか手厳しい。
しかしシノンも負けじと「でも、ハンマーだってロマンでしょ〜?」とニヤリ。アオカは「必殺技なんてないから」と一方的に話を終えると、シノンは「ふぅ〜ん」と言いながらも、今度はヤエルを相手に盛り上がった。
●ビショップの誤算
この盛り上がりは、傭兵はおろか実習生にも波及しつつあった。
生徒たちは、キメラ退治に専念。それに美優とアオカのサポートが加われば、もはや敵はない。連携を組む人数が減ったため、これまでよりも安全に戦えた。
「敵を落とそうと思わなくていい。自分たちが生き残ることだけを考えなさい」
美優の教えもまた、的を射ている。突然の襲来に緊張する実習生にとって、この言葉はプラスに作用した。
そして戦える者‥‥すなわち傭兵たちは、果敢に前へ出る。シャルロットにヤエル、シノンのところへリヴァルが加わり、さらに蛍と沙紀も残る2名の救出を開始。リヴァルとシノンは速攻で接敵し、足止めしているところに蛍と沙紀が加わる。シャルロットは後衛の援護を阻むべく、たまにプロトディメントレーザーで狙う仕草を見せて行動を抑制。ヤエルも障害物を盾にしながら移動を繰り返し、味方の動きを阻害しそうな敵に高速ミサイルを撃ち込んで牽制する。
「捕まった生徒たち、返せー!」
ヤエルのその言葉は、すぐさま現実になった。
電影がディフェンダーでの攻撃を空いたアームで受けさせるように仕向けると、残った方の腕を剣翼で切り落とす。同じくシノンと沙紀が連携し、今度はパンチとキックのコンビネーションでアームを破壊。ふたつのポッドを蛍が回収し、安全に教師へと送り届けた。
一方、黒騎士団の被害は尋常ではない。
奪った生徒はすべて取り戻され、満足に動けるHWは指揮官機だけ。前衛のHW部隊は、このまま討ち取られてしまうだろう。数の上でも劣勢となれば、もはや逃げるしか手はない。ビショップは前衛を盾にする格好で、後衛と共に撤退することにした。
「キメラと前衛がいるうちでなければ、戦域からの離脱は難しい。急げ!」
だが戦い慣れた傭兵にとって、ビショップの判断はもはや「見飽きた展開」だ。逃げながら戦うことは、何よりも難しい。そこを攻めるのは戦術の基本。
指揮官機が後ろを向いた瞬間、まずリヴァルが動く。ブーストを駆使し、対空機関砲「マジックヒューズ」の射程に収めると、情け容赦ない銃撃を敢行。敵の装甲を存分に傷つける。
「帰還次第、君の上司に伝えておけ。我々がいる限り、貴様らの好きにはさせん。と」
リヴァルからの突然の通信に、ビショップは回線を開いて噛み付く。
「我々は京太郎様を頂点とした特殊部隊、その名も黒騎士団! たった一度の敗戦で諦めると思うな!」
次の手があるとの言葉に「NO」を突き付けるべく、沙紀は満を持してプロトディメントレーザーを発射。敵は撤退するために距離を置き、さらには密集している。
「ボクの翼は炎の翼! 羽撃け、不死鳥! 爆裂炎翼翔!」
一直線に伸びる熱き光は、後衛のHWを2機破壊。指揮官機にも光が届き、機体は大きく傷ついた。
さらに美優が上方向からHigh Mobility Boostで急速接近。狙いは指揮官機だ。少女はアリスシステムを起動させ、ソードウィングでヒットアンドアウェイを繰り返す。
「撤退? 都合よすぎだよ」
「むうっ! こんなところで四天王のビショップが落ちるわけにはいかんのだ!」
操縦するビショップはその身に傷を負っていたが、プロトン砲で反撃。美優機に一撃を命中させ、損傷を与えた。しかし、彼女の勢いは衰えない。
「今さらそんな態度が通用するかッ」
スピードに勝るドレイクを振りほどくには、やはり犠牲が必要。ナイトは1機だけ残ったポーンに美優の相手を任せ、ビショップに全速力で撤退を促す。
「僧正、この場はお逃げください!」
「こ、小娘め‥‥勝負は預けた」
ビショップとナイトが戦域を離れる頃には、その場に残されたキメラとHWはすべて等しく撃破された。
勝負ありとなった瞬間、沙紀は「銀河! 荒鷹の型ぁっ!」とフィーニクスでポーズを取り、味方に勝利をアピール。リヴァルも短く息を吐いた。演劇部の仲間たちはそれぞれに喜び、蛍も「ま、こんなところね」と一安心の様子である。
「佐渡京太郎に従う黒騎士団、そして四天王か」
ふとリヴァルが呟くと、アオカが「そんな役どころで満足するなど、器が知れますわね」とバッサリ切って捨てる。
「いつでもいらっしゃいな。こちらは皆が主役を張れましてよ!」
漆黒を纏った敵が、この宇宙という舞台に踊り出たが、今回は傭兵たちがそれを阻止した。
勝てば官軍という言葉があるように、勝利した者が主役となるのが戦場である。最後まで舞台に立っているのは、はたしてどちらか。