●リプレイ本文
●打ち合わせ
嘉手納基地の各所で戦っているUPC沖縄軍は、軒並み有利に展開している。指揮系統への打撃が与える影響は、小さく済んだ。
しかし撹乱部隊を放置すれば、いずれ危機を招く。杉森・あずさ(gz0330)は、もっともソウジの身の上を案ずるリュイン・カミーユ(
ga3871)に声をかけた。
「ソウジさんの護衛についてもいいんだよ?」
そんなあずさの気遣いに、御坂 美緒(
ga0466)も「そうですよー」と頷く。彼女はソウジの婚約者だからだ。
ところが、肝心の彼女は首を振る。
「ソウジは、馬鹿兄に任せてある。我への気遣いは無用だ。今は混乱している指揮系統を何とかせねば」
「お義兄サマが手伝ってあげるカラ、安心すればいいサ」
兄のラウル・カミーユ(
ga7242)が胸を張ると、あずさも「頼んだよ」と激励する。
「こっちは任されたカラ、リュンちゃんも気をつけるんだヨ?」
夫婦愛、兄妹愛‥‥いろんな絆の形を見て、乙女は心をときめかせる。
「やっぱり愛の力は強いですね! 恋する乙女は、他の人の恋も応援するのです♪」
美緒はぐっと手を握り締め、リュインと共に撹乱部隊の撃退に参加する。
そこへ機械製の義腕を持つ少女・ミルヒ(
gc7084)が「私も行きます」と名乗りを上げた。
「指揮所というものは慌しくて大変ですね。待っていても情報は得られないでしょうから、とりあえず動いてみますね」
周囲の喧騒をよそに、冷静な態度を見せる少女の姿は、熱気に満ちた傭兵や兵士たちの気持ちを程よく冷ました。
いつもは素敵なドレスを身に纏っているメシア・ローザリア(
gb6467)は、騒動が起きた時点でUPC軍服に着替えを済ませている。彼女はソウジの護衛に就くが、その前に肝心なことを決めようと声を上げた。
「まずは符丁を用意しましょう」
それを聞いたソウジ・グンベ(gz0017)は話の輪に入り、即興で符丁を決めた。
「敵を『運転手』、始末することを『パンク』と呼ぼう。本部から報告を行う際に向かわせる兵士は、必ず左手の指をバタつかせるように指示しておく」
その他の符丁も決めると、リュインが動き出した。彼女は先ほど司令所を離れた『襲撃の報告をした兵士』を追って走る。
相手は急ぐ素振りこそ見せていたが、あっという間に追いついた。
「ちょっといいか?」
突然の問いかけにも驚かず、彼は「いいですよ」と気さくに答える。
「襲撃された者の所属や状況などを聞きたい」
「えっと、場所は補給部隊が陣取っているところで、主に救護班の連中です。いくつかの医療器具が破壊されましたが、それ以外は無事で‥‥」
リュインはわざと「わかった」と話を遮り、ポンポンと兵士の肩を叩く。実はこれ、フォースフィールドの有無を確認する動作だったが、この兵士からFFの反応は出なかった。リュインは「そうか」と呟くと、彼に動作の符丁だけを伝えておく。
「これで我も、安心して情報を聞けるというもの。ところで、なぜ兵士は無事だった?」
「混乱を助長させるなら、生かしておいた方がいいと判断したのかもしれません。やられた兵士に成り済ますこともできますし、単純に正体がバレにくいですし」
リュインは「なるほど」と唸った。ならば、負傷している兵士も怪しい。次に探索すべき場所を見つけ、彼女は「ありがとう」と言い残し、その場を去った。
●騙し騙され?
美緒とあずさは司令所を出ると、さっそく気勢を上げる。これはもちろん意図があっての行動だ。
「あずささん、謎の一団がなんて大変です! みんなで早くやっつけに行きましょう!」
「ああ、手早く片付けるよ!」
司令所の騒ぎの原因を知るや、兵士たちに緊張が走る。
今までは正面から攻める作戦ばかりだったので、ついガードが甘くなった。それを口には出さないまでも、心の中で後悔する者も少なからず存在した。
「これがいいお薬になるといいんですけどね♪」
美緒は周囲を監視しながら語る。あずさも「勝って兜の緒を締めよ、ってね」と同調。真剣な眼差しで、仲間たちを見つめた。
その隣をアスタロトにまたがったミルヒが、陣中をさっそうと駆け抜ける。彼女はソウジよりも先に、軍の上役と会うことが目的だ。
少女はヘッドライトを使って周囲に通行の意思を伝えながら、問題の場所へと急行。前線基地の中でもっとも警備の兵士が多い場所へ進入する。
「あー! 止まって止まって! ここから先はAU−KVはダメ! 歩いてくれ!」
撹乱部隊の存在を知った兵士たちは気が立っており、少しでも抵抗すれば威嚇射撃をしかねない。しかし、ミルヒはいたって冷静。すかさずバイクから降り、相手の目を見て話す。
「ソウジ少佐からの伝言を預かってきました。上役はどちらにいらっしゃいますか?」
「お、おお。あ、あっちのテントだ」
彼女を見ていると、自分たちが浮き足立っているのがよくわかる。それに気づいた兵士は冷静さを取り戻しながら、ミルヒの問いに答えた。
緑色のテントの前に立って「失礼します」と一声かけてから、少女は中に入る。そこには上役が2人、腹心が3人、テーブルに広げられた地図を囲んで立っていた。
「おお、傭兵か。どうした?」
外の騒ぎを承知のはずだが、あえてお偉いさんは白を切る。
「司令所が混乱していますので、落ち着いて正しい判断をお願いしたく、ここまで参りました」
ミルヒがそう言うと、相手はすぐさま「何かあったのか」と問い質す。その後、少女は撤退に関する情報について話した。
「‥‥ということなのですが、この情報の真偽は‥‥」
「そんな指示は沖縄基地から出ない。全軍撤退の取り決めはソウジくんの案だから、情報の発信は我々に任されているんだ」
その話が本当なら、わざわざ上層部にまで確認する必要がなくなる。懸案事項がひとつ減り、ミルヒは「うん」と頷いた。そして無線機を取り出すと、さっそくメシアに連絡を入れる。
「ミルヒです。撤退は前線基地の判断に任されているそうです。先ほどの情報は、誤報です」
『ということは、先ほどお手紙を持ってきた男が運転手ですわね』
ミルヒは撹乱部隊が出現した場所に向かっている美緒たちと合流し、敵の討伐に向かう旨を伝える。メシアは上役に例の符丁を教えるように依頼し、自らは司令部のスパイ探しを続行。探査の眼を駆使し、ソウジに近づく兵士に対してFFの確認を行った。
またラウルは、常にソウジに話しかけることで不穏な動きをする兵士のあぶり出しを行う。相手が義理の兄となれば、ソウジも兵士も気を遣う。それが狙いだった。
『こちらはご安心ください。ところで、運転手は情報を配る役目を負っているかもしれませんわね。参考になさってください』
「了解です」
撹乱部隊の正体は情報部員の可能性が高い‥‥メシアは符丁に合わせて伝えたが、ミルヒはそれに気づいたか。
●撹乱部隊、出現
この頃、すでに終夜・無月(
ga3084)は覚醒した状態で前線基地に紛れ、嗅覚や知覚で見えない敵を追い詰めんとしていた。探査の眼を駆使し、煌羅の狼は消した上で、目立たぬように歩く。仲間たちが得た最新の情報は、情報端末「天照」でしっかりとキャッチ。今現在も、推理に活用されている。
彼は兵士が襲われたという場所をすでに探索済みで、そこで流れた血の匂いを存分に感じていた。大地に染み込む鮮血を思い出した彼は、何か思い出したかのように呟く。
「あの手口は、まるで暗殺だ」
無月はあの時、「感じなかったもの」に注目した。火薬の匂いだ。混乱を呼ぶだけなら、別に銃で襲っても構わない。しかしそれをしなかった。また、敵は「姿を現すこと」は大きなリスクだと考えている。だから原始的な武器を使い、ろくに姿も現さない。
もし混乱を長期化させるのが目的なら、すでに撹乱部隊は撤退している可能性もあった。犯人のいない空間で犯人を探し続ける状況ほど、恐ろしいものはない。しかしミルヒとメシアの得た情報から察するに、その確率は低いだろう。やはり「別の意図がある」と考えるのが妥当だ。
その推理を裏付けるかのように、怪しげな連中が無月の前を歩いていた。彼らは3人組で、足取りが速い。何か目的を持って移動しているようにも見えた。彼らは兵士とは思えぬ視線の向け方をする。常に他人を見て歩くわ、たまに物陰を探すわ‥‥もし本当に兵士なら、それはそれで問題だ。無月はそんなことを考えながら尾行する。
すると、3人は物陰へと向かい始めた。すかさず無月が接近し、背後から魔剣「ティルフィング」を抜いて切りかかる!
「むお! き、貴様っ!」
驚く連中に向かって、無月は問う。
「俺が聞こう。なぜ、すぐに敵襲と叫ばない? なぜ、腰にある銃を抜かない?」
3人組が撹乱部隊の一味であることは、無月は初太刀の時点で確信していた。その後はまるで舞踏のように敵を倒し、一気に勝負をつける。最後のひとりは腹にパンチを加え、喋られるようにしておいた。
「ぐお! つ、強い!」
「指揮系統の混乱は目的のひとつだが、お前たちには真の目的がある。それを今すぐ吐け」
無月が高圧的に迫るも、敵は歯ぎしりをするかのごとく口を動かし、不敵な笑みを浮かべた。
「そこまでたどり着いているなら‥‥真実はもう、目の前‥‥ふふ、う、ぐ! ぐほっ!」
残ったひとりも口から血を吐き、その場に倒れる。しばらくピクピクと動いていたが、そのうち静かになった。歯に仕込んであった毒を噛み砕き、自害したのだ。
「真実は、目の前‥‥?」
無月は武器を収めつつ、メシアに情報を伝えた。そして「ソウジの護衛は抜かりなく」と念を押し、彼もまた目的を持って歩き出す。
ちょうど同じ時、美緒たちの前に撹乱部隊が姿を現した。数は6人で、ひとりが指揮官。非常にまとまった動きをする難敵である。
「こんなところで私たちを襲っても無駄ですよ」
美緒は超機械γを構え、手近な敵の手を焦がす。彼らが足止め部隊であることは気づいていたが、放っておいても益はない。彼女はあずさと協力して敵を倒す決心をした。
あずさは刀を構えて前衛として動き、美緒は後方で援護を行う。さすがは暗殺者、身のこなしは軽い。また多勢に無勢でもあり、序盤は防戦一方。美緒は前線を支えるあずさに、二度の練成治療を飛ばす。
「あずささん、ファイトっ!」
「こちとら、四国で旦那が待ってるんだよ! 負けてたまるかっ!」
ちょうどその頃、現場に駆けつけたリュインが「我の旦那はここにいる!」と大見得を切り、瞬天速で駆け抜ける。
「引くな、杉森っ!」
リュインはそのままあずさが相手する敵の前に接近。そのまま真燕貫突を発動させ、鬼蛍で腹を二度突く。この勢いに敵は膝から崩れ落ちた。
さらにミルヒがアスタロトで急行。瞬時に機鎧を装着し、指揮官に機械刀「凄皇」で斬りつける。
「こういった部隊は、誰から攻めても変わりません。きっと最後のひとりまで、戦い抜くでしょうから」
冴え渡る分析を聞き、敵も「賢いな」と笑った。そして色気のない剣で反撃し、AU−KVをわずかに傷つける。一気に攻め手の増えたので、美緒は回復に専念。ミルヒの傷を癒す。また周囲の兵士も混乱に気づき、敵の殲滅に動き出した。
これを見た美緒が、全員に声をかける。
「ここは皆さんにお任せして、ソウジさんのところへ戻りましょう!」
「ま、まさか! この作戦の立案がラルフというだけでなく、この場にラルフがいるのか?!」
リュインは思わず驚くが、この状況から考えると、ラルフ・ランドルフ(gz0123)が指揮している可能性が極めて高い。ミルヒは安全なところでアスタロトをバイク形態に戻し、リュインに後部座席へ乗るよう勧める。
「行きましょう」
まさか、真の目的がソウジの首とは‥‥私怨をこじらすとろくなことがない。あずさはそう思った。
●化けの皮
ソウジを擁する司令所は、メシアとラウルのおかげでよく機能していた。しかし上役が来ると、状況は一変。
「ソウジくん! この騒ぎはなんだね?!」
ソウジは「申し訳ありません!」と言いながら、慌てて前に出る。この時、彼の視線はある場所に注がれていた。まったく動かぬ左手の指‥‥
「上官、何の御用でしょう?」
この猿芝居の前から先手必勝を発動させていたラウルが、少佐殿の言葉に反応し、すかさず影撃ちと急所突きも使用。ご挨拶代わりの銃弾を胸に撃ちこむ!
「っていうか、ラルフだヨネ? 僕の義弟をいじめないデくれるカナ」
「鼻の利く連中だ、まったく」
ラルフは正体を現すと、剣でソウジを狙う。しかしそこへ割って入ったのが、ボディーガードを発動させたメシアであった。まさに名前通りの活躍である。
「あなたの作戦は、とてもお粗末でしたわ。エレガントさが微塵も感じられなくて」
「敵を葬るのに、美しさを必要だというのか? 相当な変わり者だな」
その後もラウルが影撃ちと急所突きを併用して銃撃を放つが、さすがに攻め手が決定的に足らない。ソウジも武器を持って立ち向かうが、次第にラルフが押す展開に。能力者たちのダメージも蓄積していく。
その刹那、銀色の光が駆け抜ける。危険を察知した無月が、司令所に戻ってきたのだ。
「敵将が大将の首を取りに来るとは、さすがに思わなかった。あまりに古風で」
瞬天速から両断剣・絶に繋がる白煌の一閃は、ラルフに傾きかけた勢いを一気に取り戻した。銃弾を受けた胸にさらなる傷を受けたラルフは、苦痛を封じ込めるべく無表情を貫く。
「うう‥‥これほどの者がいようとはな」
さらにアスタロトが到着し、ミルヒとリュインも参戦。妹が兄とメシアの受けた傷を癒す。
「ラルフ! ソウジをやらせはせん!」
もはや傭兵の優位は揺るぎないものとなった。これを見たラルフは敵に背を向け、堂々と逃走を開始する。その瞬間、別の箇所で爆破が起こった!
「ソウジ、勝負は預けた」
混乱する前線基地をまとめるには、ラルフの逃亡は願ったり。無月やラウルは敵将を追おうとするが、ソウジは敢えてそれを止めた。
「今ここを混乱したままにしてしまうと、嘉手納基地に向けた戦力がいらぬ被害を受ける恐れもあります。ラルフは諦めましょう」
ラウルは「しょうがないネ」と答えると、すぐに頭を切り替える。そしてソウジに「沖縄基地本部への問い合わせ方法を変える」ように提案した。
「勝負のキモは、撤退のタイミングにアルネ。ここを再度、確認しとくト、万全になると思うヨ」
この提案は、嘉手納に向けた戦力の速やかな撤退に貢献した。
前線基地の機能は、しばらくして回復した。爆破されたのは空のコンテナで、最初から逃亡用に準備していたらしい。陽動のために姿を現した撹乱部隊もすべて討ち取り、司令所の防衛は成功した。
UPC沖縄軍の旗印となりつつあるソウジを消すというラルフの奇策は、皮肉にも傭兵たちが軍としての絆を強める結果を導いたらしい。