タイトル:【協奏】密会との遭遇マスター:村井朋靖

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/05/01 23:34

●オープニング本文


●3姉妹の日常
 UPC沖縄軍が奪った基地を自軍の拠点としたことを聞き、3姉妹はモニター越しではなく、顔を合わせての作戦会議を開くことにした。
 こうなると長女の照屋ミウミは、いつものように「シャレたとこ行きたい!」と駄々をこねる。ヨリシロにした人間が年頃の女性なので、当然といえば当然の思考だ。お忍びでちょっと気取ったカフェに入り、流行の飲み物を堪能しながら、マジメに今後の展開を考える。それがミウミの夢なのだ。
 しかしその幻想は、いつもかわいい妹のせいでぶち壊しになる。三女の榊原アサキ(gz0411)が幾度となく、公共の電波を使って沖縄島民を脅しているからだ。3人揃って店に入ると、必ず店主が逃げ出してしまう。普段は無関心の次女・山城カケルにして「これはヒドい」と呟くほどだった。
「アサキん、店主の逃げんとこ見つけてきてよー」
「‥‥たまには落ち着いて食事したい」
 戦犯のアサキは「そうですか」と言いながら、姉に湿った視線を送る。
「だいたい姉さんたち、沖縄を侵略しに来たんでしょ? なんでそんな注文つけるのか、意味わかんないんだけど‥‥」
「アサキん〜〜〜っ!!」
 ミウミが完全にキレる前に、アサキは部下に適当な店がないかの聴取を開始した。
「‥‥できれば美味しい食べ物が出るところがいい」
「最近、人間にも評判の移動屋台がいるんだって。ここでいい?」
 なんでも場所を変えての営業らしいので、3姉妹の腹心も安心した。もし誰かに「移動屋台にバグア出現」と通報されても、傭兵やUPCを煙に巻きやすい。
「じゃあ、うちの名前で予約入れといてー。ちょっとこじんまりしてるけど、豪勢に貸切やね!」
 いつもの紆余曲折を経て、3姉妹会談はいつものように開催の運びとなった。

●密会と衝撃
 その日の夜。移動屋台で出される粉もん料理を存分に堪能し、ミウミの酔いがいい感じに回ったところで、作戦会議に入った。
「そろそろ風りんもさー、本気で戦うと思うんよー。調子に乗られたら困るしぃー」
 ミウミは酔うとやたらと語尾が伸びるが、妹たちは慣れっこだ。カケルは少し食べ過ぎて、口に手をやりながら話す。
「‥‥戦力の切り崩し、必要かも‥‥」
「でも、こっちの損害は少ないでしょ? 勢いだけじゃない。どうってことないわ」
 アサキが一笑に付すと、ミウミも「そうそう!」と頷きながら、店主にビールを注がせる。
「なーんくるないさー。でも勢いだけで勝ち進む可能性もあるんよー。ちょっと冷や水を浴びせなアカンと思うねー」
 ミウミの言うとおりだ。その可能性は否定できない。パワーバランスが大きく崩れる前に、こちらから先手を打つべきだ。
 アサキはゴーヤチャンプルーを食べながら、ひとつ頷く。
「せっかくカケル姉さんにチューンナップしてもらったんだし、データ収集も兼ねてカスタムティターンで暴れてくるわ」
 彼女はその場で沖縄南部の襲撃を立案し、近くにある集落を赤く染めると宣言する。
「‥‥実戦データが取れたら、安全に撤退して。修理もしなきゃいけないし」
 アサキはてっきり、カケルが「あなたよりデータが大事なの」と断言すると思っていたので、この物言いには少なからず驚いた。
「絶対に撃破されたらアカンよー。うちらはまだまだやることがあるんよー」
 時の流れというのは不思議なもので、今や名実ともに彼女たちは「3姉妹」となりつつある。アサキはまんざらでもない表情を浮かべた。
「じゃ、適当に攻めて戻ってくるわ。もし焦土にできたら、ミウミ姉さんがパーティーでも企画してね」
「‥‥護衛にハンターを用意する。10機でいい?」
 カケルから改造HW「ハンター」の提供も受け、アサキは「十分よ」と言いながら、コップに注がれたスポーツドリンクを飲み干す。
 こうしてアサキが陣頭指揮を執る襲撃計画が決まると、あとはダラダラするだけ。まったりとした時間が過ぎていく。

 店主は「そろそろ閉店なんでー」と言うと、カケルは無言で飲み代を払う。
 アサキはしこたま飲んで寝そうなミウミの肩を担いで、夜の闇へと消えた。カケルも小走りで、後ろから追いかける。
 その頃、白い調理服を着こなす関西弁の店主は、ホッと胸を撫で下ろしていた。この店の名は「世界こなもん屋台チェーン」という。店主の名は、天満橋・タケル(gz0331)。今年は春の到来が遅いので、ふらっと沖縄に立ち寄っていたのだ。
 ここでバグアらしき存在‥‥しかも3人と戦慄の遭遇をし、自分の運のなさを恨む。
 しかし嘆いてる場合ではない。あまりに緊急事態なので、近くで電話を借り、即座にUPC沖縄軍へ通報した。
「あ、あの、もしもし? なんか店に来たバグアらしきショートジャギーの姉ちゃんが、カスタムティターンとハンターで焦土にするとか言うてたで! 場所は沖縄南部らしいけど、それ以外はよーわからんわ!」
 この情報を受け取った兵士は、敵がアサキであることを確認したが、すぐに表情を曇らせる。
 カスタムということは、カケルが手がけた特注品だ。ハンターも同様だが、脅威のレベルは比にならない。以前、空戦でカケル専用ティターンが出現した時も、恐ろしい性能を誇っていた。これは看過できない。
『君の安全は、UPC沖縄軍で確保する。そこから絶対に離れるな!』
「来るんなら、屋台も回収できるようにしてや! 放っとくわけにもいかんし、壊されたら困るー!」
 星が明るく煌く沖縄の夜は、まだまだ続く。そして何度目かの朝を迎えれば、アサキが戦場に立つだろう。新たなる脅威、カスタムティターンに乗って。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
大神 直人(gb1865
18歳・♂・DG
ラサ・ジェネシス(gc2273
16歳・♀・JG
ヨハン・クルーゲ(gc3635
22歳・♂・ER
巳沢 涼(gc3648
23歳・♂・HD
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA
ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751
18歳・♂・DF

●リプレイ本文

●赤紫の機体
 密会から数日後。カスタムティターンとハンター10機が、沖縄南部に姿を現した。あの夜の悪夢は、白昼に再現される。
「それじゃ、行くわよ」
 榊原アサキ(gz0411)が号令を下すと、改造HW「ハンター」は勢いよく飛び出す。その後ろにアサキが控える。彼女のティターンは全身を血のように赤く染め、要所にトレードカラーである紫のラインが入っていた。次女・山城カケルの心遣いに、アサキもご満悦である。
 しかしいい気分も、一瞬にして吹き飛ぶ。自機が複合ESM「ロータス・クイーン」とヴィジョンアイによる妨害を感知したからだ。
「そうこなくっちゃね」
 彼女の見据える先には、大神 直人(gb1865)機のピュアホワイトが立っている。アサキは彼に通信を送った。
「随分と命知らずじゃない」
「ラズベリー風味の苦渋の味に満足できてないようですから、今日は新しい味をお持ちしました」
 さわやかな笑顔から繰り出される最上級の嫌味を聞き、アサキはハンターに狩りを開始するよう指示するが、これもまた阻まれる。ヨハン・クルーゲ(gc3635)のディアマントシュタオプが、フィロソフィーで牽制。バグア式セミオートライフルとの撃ち合いで両者の足が止まると、突如として機槍「アテナ」を装備した雄々しき恐竜が突っ込んでくる!
「アーサキちゃん、遊びましょ♪」
「なっ、なんでそんなところから!」
 声の主はミリハナク(gc4008)。聞き慣れた声の出所は、意外な場所だった。なんとKVを掘った穴に隠して、そこから突進を敢行したのだ。
 アサキに見つかると同時にブーストで速度を上げ、超伝導DCを発動させて防御面も充実させる。これを防ぐためにハンター2体がバグア式ブレス・ノウを発動させて制圧射撃を行うも、その勢いは殺せず、そのまま串刺しにされ、爆発炎上の憂き目に遭った。さらにぎゃおちゃんは煙幕を使い、狙撃の火線が集中しないように目くらましをする。
 その隙を突いて、巳沢 涼(gc3648)搭乗のゼカリア改「シャークティ」が、マルコキアスで弾幕を張った。
「やるこたぁ多いが、やってやるぜ!」
 彼の位置は、アサキの妨害に専念する大神機の近く。彼の護衛をしながら、ハンターを相手する。涼の持つ武器がチェーンガンなので、ハンターも手を焼いた。
 このチャンスにぎゃおちゃんはまたも機槍で暴れ、ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751)こと「ヴァガーレ・ゴースト」もクロスマシンガンとフィロソフィーを浴びせた。ここでも2機の撃破すると、ゴーストはすかさずハンターの前に立つ。
「どれほど僕の友が恋した花を狂い咲かせたいのか」
 亡霊の言葉に意味はあるが、それを思案する暇はハンターにない。残った6機は傭兵と距離を置き、戦闘を継続した。いかに改造したHW言えども、戦い慣れた傭兵たちが相手では存分に真価を発揮できず、しばし膠着状態が続く。

●魅惑の踊り手
 アサキの前には、3機のKVが立ち塞がった。
 まずは、愛機「忠勝」に乗る榊 兵衛(ga0388)が前に出る。機槍「千鳥十文字」を持ち、その立ち姿は威風堂々。敵の邪悪なフォルムとは対照的である。
「さて、悪いがしばらく、俺と下手なダンスに興じてもらうぞ」
「うまく踊れたら褒めてあげるわよ」
 アサキはそう言い放つと、兵衛と同じく槍を手に持ち、大きく踏み込んでくる。大きく縦に振りかぶるも、忠勝は機槍を地面に刺し、勢いよく後ろへ逃げた。これを見たラサ・ジェネシス(gc2273)が、毬藻・ツインタワーの中から「ムムッ」と目を凝らす。
「榊殿、なぜ反撃に転じないのデスか?」
 彼ほどのKV乗りなら、あの隙を突くのは難しくない。しかし兵衛は、あえて下がった。沖縄の空を戦った者だけが知る、カスタムティターンの底力‥‥これを仲間に伝えたかったからだ。
「いいか、ティターンの側面に立ってはならない。練剣「雪村」のごとく翼が生え、容赦なく切り刻まれる」
 それを聞いたラサは、驚きながらも「了解しまシタ!」と答える。しかし彼女はさらに「アサキはまだ何か兵装を隠し持っているネ」と読んでいた。妙に気になるのが、あの槍だが‥‥今は「怪しい」としか言えない。どちらにせよ、効果的に使われると厄介なので、近接攻撃の合間にスラスターライフルを撃って隙間を埋めた。
 同じく須佐 武流(ga1461)も、ラサと同じタマモでアサキ戦線に参加。主に近接戦闘で攻め立てる。
「それでは、俺のダンスはどうかな?」
 アサキの前で小さくジャンプし、細かい機動を駆使して半身となり、そこからタイガーファングを繰り出す。
「荒削りでダンスとは呼べないわ」
 ティターンの持つ槍の柄で虎の牙を弾くが、武流機のエミオンスラスターはまだ動いている。この時、もうひとつの拳「シルバーブレット」が唸りを上げていた!
「踊っている相手のことを知ろうとしないようでは、まだまだ未熟だな」
 振りかぶった勢いも加わり、強力な一撃がティターンの右肩を穿つ。この衝撃はコクピットのアサキを揺るがした。
「ううっ! 思ったよりトリッキーね。そういう性格かしら?」
「手の内を見せないうちに倒されるかもしれないというのに、随分と余裕だな」
 兵衛はアサキと距離を置き、長距離バルカンで牽制。しばし近接戦闘を武流に任せた。
 この行動は「アサキ機とハンターの連携を寸断するため」だが、カスタムティターンの火力を考えると、あまり余裕はない。
 その証明となるアサキの反撃が始まった。アサキは目前に迫る武流機に向かって、傷ついた肩から有線式スパークニードルを射出。金属の乾いた音が周囲に響き渡る。
「く! 小細工を‥‥」
 タマモの右胸に針が突き刺さるが、損傷は激しくない。
 問題はここからだ。そのワイヤーを手繰って、アサキがさらに距離を詰め、槍で何度も突いてくる。これをすべて避けるのは、さすがの武流でも困難。機体は大きく傷つく。
「踊る相手を間違えたんじゃない?」
「さすがはカスタム、か‥‥やるな」
 アサキはとにかく、前に出て戦うことを好む。ある意味で組しやすい敵なのだが、少しでも「アサキ有利」に見えてしまうと、敵軍の士気が上がってしまうのが難点だ。
 この時も例外ではなく、ハンターはアサキの指示がなくともうまく連携し、直人機にも適当にちょっかいを出す。
「あれ、アサキさん。いつもの知将気取りはどうしたの? 正攻法で負けたら、もう出る幕ないよ?」
 それでも、直人の口撃は激しさを増すばかりだ。今はとにかく、この状況を打開しないと、傭兵たちの背後にある集落が危険だ。勝負の分かれ目が、刻一刻と迫っている。

●傲慢と謙虚
 ハンターとの戦闘は、長期戦を余儀なくされた。現在は3体ずつが固まり、接近を阻止しつつ、遠距離からの銃撃に終始する。
 その中でも時折、鋭い威力の銃弾が飛んでくることがあった。それはまるで「リンクススナイプ」のような機能で、これがKVの装甲を削っていく。
「逃げるだけが脳じゃないんでしょ?」
 ミリハナクは猛然と接近し、手前のHWに傷を負わせるのだが、3体がすかさず後退してすぐに体勢を整えてくる。これが長期戦の要因であった。

 ただ、アサキとの分断は成功しているので無理はせず、旗色が悪くなれば次善策を考えるくらいの気持ちで挑んでいる。しかし、敵にこれだけの余裕はない。HW隊のリーダーは今の状況を見誤り、つい「アサキとの合流を図ろう」と色気を出してしまった。
 そこでいったん傭兵ともアサキとも距離を取り、隙を突いて一気に合流‥‥と考えたが、ここで生まれた隙を見逃すほど、傭兵は甘くない。
 ヴァイスを駆るヨハンは、交互にフィロソフィーを撃ち、リロードの隙さえも見せずに攻撃。ハンターの視線を感じたら煙幕を張り、ブーストとHBフォルムを併用し‥‥なんと、そのまま突っ込んでいく!
「と、突進?! バっ、バカな‥‥!!」
 パイロットの虚を突くヨハンの頭脳プレーで、味方に絶好のチャンスを与える。すると亡霊が、音もなく静かに忍び寄った。
「狂い咲けェ! 僕の友が恋した華よ!」
 アサルトフォーミュラAを載せた真ツインブレイドの斬撃は、地獄への片道切符か。まずはクロスに斬り、フィニッシュは真横に薙ぐ。これが双柳蘭狂舞‥‥今日も爆破の花が咲いた。

 一方、シャークティはバグア式ブレス・ノウによる狙い撃ちに晒されている大神機の盾になりつつ、遠距離からマルコキアスで必死の応戦。それでもミリハナクが目指す先へのフォローも忘れない。
「そこの3体をやるんなら、俺にも考えがあるぜ」
 漆黒に輝く大口径滑腔砲から放たれたのは、ゼカリア必殺の徹甲散弾。どちらとも距離を置いたのが仇となった。この3体すべてにダメージと混乱を与え、いよいよぎゃおちゃんが本気の牙を見せ付ける。
「ハンターが竜を狩れるとは思わないことですわね」
 ここから機槍「アテナ」による蹂躙が始まる。HWは順番にダメージを負う形で連携していたため、すでに残りの耐久に自信が持てない状況だ。
 地面から空へ向けて飛ぶ銃弾は、まるで乗組員の涙のよう。それは自分の力のなさを恨んでか、それともリーダーの判断を恨んでか‥‥急造の1小隊が爆炎とともに姿を消した。

 残すは2機。ヨハンのヴァイスが挟み撃ちにされるも、距離が近いことから攻めに打って出る。
「シロフクロウの狩りは、知性的ですよ」
 HBフォルムとEBフォルムを同時に起動させ、前方の敵にスパークワイヤーを引っ掛けるようにして攻撃。バランスが崩れたところで背後の射線を外し、自らは接近して練機刀「白桜舞」を突き立てる。ここまでの動きは、まさに動物的な狩りであった。
「手ごたえ、ありですね」
 ヨハンの一撃で敵の駆動音が消え、周囲が静かになった。
 しかし唯一残ったHWを犠牲にしてでも、最後の1機は背後からマシンガンを構える。また、あの鋭い銃撃を繰り出すのか。
「隙は見逃さねぇ、絶対にだ! 俺の大口径滑腔砲は、伊達じゃねぇぜ!!」
 今度は涼が、背後から砲撃‥‥これで勝負あり。色気を見せたハンター部隊を、1機残らず破壊した。

●推理の力
 ハンター撃破に乗り出した頃、武流に加え、兵衛も混じってアサキ機の押さえつけをしていた。
 少しでも距離が開けば、忠勝は遠慮なくブーストを使って間合いを詰め、千鳥十文字を縦横に振る。さらに超伝導アクチュエータを駆使し、驚きの機動力を確保。回避のみならず、多角的な攻撃を繰り出し、アサキを大いに翻弄した。
「一日の長ってやつね、その武芸は立派だわ。ダンスは下手だけど」
 アサキは忠勝の洗練された動きに舌を巻くも、高火力の攻撃で対応。槍と槍が、激しくぶつかり合う。
 そこに割って入るのが、武流だ。確実な隙が生まれない状況ではあるが、最悪でも兵衛の攻撃に合わせる形で攻撃をぶつけることはできる。状況の打破には、これが不可欠と武流は腹を括った。
「屈辱にまみれて帰れ‥‥!」
 渾身の攻撃は、FETマニューバAの起動から始まる。攻撃力の底上げを行い、持てるブースター類を活用してギリギリまで接近。そこから銀と虎の拳を思い切り振りかぶって放ち、その勢いを利して脚に装着したソードウィングとエナジーウィングの蹴りを見舞う!
「ううっ! こっ、これが本気というわけね、よく踊れるじゃない!」
 これだけの攻撃を受ければ、さすがのアサキ機も無事では済まない。殴られた箇所は陥没し、剣翼によってボディも傷つけられた。しかし撃破までには至らず、アサキは反撃。必殺のプロトンウィングで切り刻まんとするも、武流は高出力ブースターを駆使して安全に回避する。
 それを見たアサキは、武流を嘲笑した。
「フフフ、バカね。あたしが当てるつもりなら、相討ち覚悟でやってたわよ」
 武流機が回避する先を読み、その場所を槍で狙う。武流も回避に専念し、なんとか紙一重のところで避けるも、彼女の攻撃は続く。彼は不利な体勢のままでの回避を強いられた。

 ちょうどその頃、ハンター部隊を片付けたゴーストは、カスタムティターンを観察する。
 だが、彼はすぐに違和感を覚え、思わずそれを口にした。
「アサキの武器が、槍?」
 前線で戦いたがるアサキの性格から察するに、槍というチョイスはあまりにも意外だ。またお世辞にも細身とはいえず、あの形状では素早い突きには適さない。その辺はラサとまったく同じ感想だった。
「ゴースト殿もそう思われマスカ?」
 アサキの妨害に徹しているラサは、ショットガンを撃ちながら通信を続ける。武流を救っているのは、彼女のおかげでもあった。
「あの装備だと、今に突進しそうデスネ‥‥」
 この瞬間、ゴーストとラサはある推論にたどり着く。それを脳裏に描く前に、ふたりは何とかして言葉で表現した。
「武流君、今すぐ全力で避けろ! そいつの足元は機動力強化の改造がされている!!」
「アサキの性格からして、アレは突進用ダネ! よく見ると、槍にもギミックがあるヨ!」
 これを聞いた直人は、すぐさま画面をズームアップ。その両者があることを確認し、すぐさま分析した。
「まさか、機槍突撃‥‥?!」
 カケルが手がけた陸戦機には、パラディンやアッシェンプッツェルのエッセンスまで織り交ぜられているというのか。涼はマルコキアスで、ミリハナクは高分子レーザー砲「ラバグルート」を駆使し、アサキ機への懸命の妨害を始める。
「今の武流のタマモに、あれを防ぎ切る力はねぇ! 絶対に避けろ!」
「私、アサキちゃんの悔しがる顔が見たいの。ま、今から見れると思いますけど」
 しかしマジックのタネがわかれば、回避のしようもあるというもの。アサキは周囲のご期待に応えるべく、敵の妨害を振り切って機槍突撃を敢行する。槍のギミックは無論、推進力を得るためのものだ。さらに足元のブースターからも推進力を得る。そして地面を抉りながら、宙を舞うKVを破壊せんと突進した。
「これは食らえない!」
 先ほどの攻撃と同じ要領で、今回は見事に避け切る。周囲の傭兵も、胸を撫で下ろした。
 ところが、肝心のアサキはその勢いを利する形で、戦線を離脱。どうやら最初から当てる気はなく、逃げるのが目的の発動だったようだ。
「本気のダンスは、またの機会にするわ」
「ごきげんよう、アサキちゃん」
 ミリハナクは自信たっぷりにご挨拶し、逃げるアサキに追い討ちを浴びせた。
 ただ今回は、口だけでなく攻撃も仕掛ける。ラバグルートで、カスタムティターンをずっと撃ちまくったのだ。これにはさすがのアサキも「参ったわね」と嘆息する。

 ともかく集落の安全は確保し、敵勢力の排除も進め、カスタムティターンの性能もだいたい判明させることに成功した。
 しかし、味方の損傷も激しい。赤紫の死神は、今後の沖縄戦線の大きな障害になりそうだ。