●リプレイ本文
●南国の夜の海
UPC軍が沖縄の海を泳いでいることは、すでにミウミの知るところだ。
もちろん傭兵たちの姿もある。久しぶりの水中戦に心躍らせるのは、荒神 桜花(
gb6569)だ。彼女はモニターで敵機や味方機を確認しながら、美しい色合いの沖縄の海を堪能する。
「沖縄の海は綺麗ねんなー」
そんなロマンチックな気持ちに水を差すかのごとく、モニターには続々と赤い表示が出る。これは敵機を示していた。
「けど、無粋なモノがおるでー」
桜花は前方に目を向けると、バグア軍の水中部隊が姿を現す。まずは偵察も兼ねた先遣隊で、足の遅いタートルワームは含まれていない。
怪しく瞳を輝かせるドクター・ウェスト(
ga0241)はアサルトライフルを構え、さっそく交戦を開始。目新しさのないサメ型キメラに、無情の弾丸を叩き込む。
「けっひゃっひゃっ、我輩はドクター・ウェストだ〜」
この攻撃が、戦闘開始の合図となった。敵は水中で不意に鈍い音を発し、一匹、また一匹と群れから脱落する。
これを見た先遣隊の指揮官機である大型のマンタワームは、不意に足を止めた。どうやら他のワームを中心に指示を出しているらしい。それを証拠に、敵は連携した動きを見せた。
ドクターはキメラを掃射する一方、迫り来るマンタワームには水中用太刀「氷雨」で応戦。白兵戦に持ち込む。華奢なイメージのあるリヴァイアサンが放つ華麗な斬撃は、見る者に強烈な印象を与えた。
「ココから先は行かせないよ〜」
強気のドクターに呼応するかのごとく、愛機「玄龍」を操る威龍(
ga3859)も水中を駆ける。
「敵を張り付けておくのが今回の任務としても、敵を少しでもすり潰しておけば、友軍に貢献することになるからな。やっておいて損はない」
ドクターとは背中合わせになるように立ち、マンタワームに対して対潜ミサイルを発射。これを命中させると接近し、水中用ガウスガンで決着を狙う。水を切り裂く咆哮に、鱗のような銃撃。序盤から「威龍ここにあり」を印象付ける立ち回りである。
ふたりがゴーレムへの道を開けば、お次は突撃班の出番だ。
パピルサグ搭乗のイーリス・立花(
gb6709)は、拳でモニターを小突いてから前進。強固な鎧を盾に、ガウスガンで指揮官への道を切り開く。さらにアサルトフォーミュラAを駆使し、大型魚雷で行く手を阻む敵を吹き飛ばした。
「今です」
南国の海とは対照的に、冷静な声を放つイーリス。それを受け、オルカ・スパイホップ(
gc1882)が元気に突撃を敢行する。
「はーい! 指揮官機さんは退場願いますですよ〜!」
オルカの愛機・レプンカムイがブーストで一気に間合いを詰める。襲い掛かる敵は等しく、レーザークローで叩き潰された。そして指揮官機との決戦に持ち込む。
さすがに大型マンタワームの動きは洗練されている。流れるような動きからレーザーを繰り出し、オルカ機のエンブレムを貫かんとした。しかしレプンカムイはアクティブアーマーを活用し、その攻撃を簡単に弾いてしまう。
「そんなノックみたいな攻撃は効かないよ〜!」
さらに勢いを増すレプンカムイは、そのまま敵の胸元に飛び込む。敵は堪らずグラリと体勢を崩した。その隙を突き、エンヴィー・クロックを発動。絶好の機会を逃さぬとばかりに必殺の水中練剣「大蛇」を抜き、決定的な一撃を与えんと輝く剣を振りかざす。
「システム・インヴィディア発動! さよーなら〜!」
レプンカムイが流星のごとき残光を放てば、指揮官機はビッグバンのごとき爆発で応えるしかなかった。
指揮官を失った先遣隊は算を乱すかと思われたが、絶妙のタイミングで新手が現れる。撃破を目指すゴーレムに加え、タートルワームの姿もあった。想像以上の大軍である。
「次の集団は、最後尾にタートルワームがいるねー。数が多いだけに難儀するでー」
桜花はそう言いながらもオルカの隣まで出て、最前列に控えるマンタワームに対して多連装魚雷「エキドナ」で攻撃。合流を図るために背中を見せた先遣隊をも巻き込む。
「けっひゃっひゃっ、思い通りにはいかないもんだねぇ〜」
この隙にドクターと威龍も最前列に到着。傷ついた敵に対し、容赦なく銃撃を浴びせる。
序盤は注文通りに派手な立ち回りを見せ、さらに前線を押し上げることで、敵に「早期決着を狙っている」と誤認させようとした。
●ミウミの読み、傭兵の策
先遣隊が総崩れになったと聞き、ミウミは地団駄踏んで悔しがる。
「きーっ! これ以上、うちの海で勝手なことさせんよ!!」
怒れる長女を、いつものように腹心が諌める。そんな態度とは裏腹に、ミウミの心はなぜか冷静だった。
「うーん‥‥やっぱり引っかかるんよね。最近アサキんに似てきたんかな。なーんか落ち着かんね‥‥」
彼女の直感は当たっているが、傭兵たちの、いやUPC軍が意図することまでは読み切れていない。
そんな不安を払拭すべく、彼女は戦闘の指揮を執った。
「よーし、ここからはうちが指示を出すよ! とりあえずゴーレムはタートルワームの後ろに引っ込んで、今は様子見やよ!」
このミウミの判断は、傭兵たちにとっては迷惑以外の何でもない。モニターを見た桜花が、思わず不機嫌な表情を浮かべるほどだ。
「はぁ‥‥ゴーレムが最後尾に下がったなー」
それを聞いたドクター・ウェストは、おなじみの笑い声に加えて「なんくるないさ〜」と呟く。
「ここに来るまでと来てからで、指揮官が変わったってことさ〜」
同じくイーリスも「なるほど」と頷き、ドクターの後に言葉を発する。
「こちらのかけたプレッシャーに耐え切れず、思わず指揮官機を下げた‥‥つまりここまでは、作戦が成功しているということですね」
それならば同じ作戦で押せばいい。5人は再びゴーレムの首を狙う戦いを再開した。
桜花はガウスガンでマンタワームをけしかけ、リロードの合間に多連装魚雷「エキドナ」を発射。徹底した攻めで敵を圧倒する。
そんな傍若無人な振る舞いを続ける桜花機「海人」にお灸を据えようと、水棲キメラの群れが牙を剥いた。比較的後方に位置するドクターと威龍は、それぞれに応戦。威龍は小型魚雷ポッドで敵の足止めを行い、ドクターは分断された集団の前方に向かって丁寧な狙撃を仕掛ける。
「ええ〜い、鬱陶しいね〜」
ドクターの言葉は本音でもあり、芝居でもある。できれば敵の誰かに聞いてほしいが‥‥と思っていたら、モニタにダイバースーツ姿の女性が映し出された。なんとも嬉しそうな顔をしているではないか。
「ダラダラすると困るん? そりゃ、いいこと聞いた!」
傭兵の誰もが、このオバサ‥‥いや、彼女がミウミだと確信した。大魚が餌にかかったと知るや、ドクターは表情を曇らせる。
「よくもゴーレムを後ろに下げてく‥‥あ、ま、待ちたまえ〜! すまない、ソッチ行ったね〜!」
今もキメラの群れは、傭兵たちの死角を狙っての攻撃を続けていた。満足に会話もできない状況を見たミウミは、腹を抱えて笑い出す。
「はははっ! そんなに余裕ないん? なら、こうされたらどうするんかな?!」
ミウミの指示で、中盤に出てきたタートルワームが、海底から水面に向けて角度のある砲撃を一斉に開始。味方戦力であるキメラを犠牲にしてしまうが、それを補って余りある効果があるとミウミは踏んだ。リヴァイアサン搭乗の3人はエンヴィー・クロックを、桜花とイーリスはブーストを駆使して難を逃れるも、すべてを避けるには至らず。各々がダメージを受けてしまう。
しかし突然の一斉射にキメラたちも驚き、さっきほど足並みが揃わなくなった。今がチャンスとばかりに、威龍は小型魚雷とガウスガンを併用してキメラの撃破に挑む。ドクターは接近するマンタワームを食い止めるべく、システム・インヴィディアを発動させて氷雨で一刀両断。そこへオルカとイーリスが突っ込む。
「まだまだ〜! これからだよ〜」
沖の神がレーザークローを振るえば、敵は切り刻まれるしかない。前線を押し上げるオルカをサポートするイーリスは、取り囲もうとする連中にはブラストシザースで束縛を許さない。
「タートルワームの一斉射で怯む私たちではありません」
クールなイーリスを見たミウミが、なんとも悔しそうな表情で「くーっ!」と叫ぶ。ご自慢の兵器をコケにされたミウミは、タートルワームに乱射を指示。ゴーレムには白兵戦の準備をさせる。
「亀ちゃんの布陣は変えにくいから、ゴーレムは自分で考えて立ち位置を変えるんよ〜」
ミウミはすっかり傭兵の思惑通りに動かされていたが、もしこれが消耗戦ならば、この判断は間違っていない。威龍は口には出さずに「どこまで俺たちに付き合ってもらえるかな」と、この先の展開を案じていた。
●後の祭り
この後の展開は、言うまでもなくダラダラした。
エース機であるオルカを先頭にガンガン敵戦力を削るも、イーリスが何かにつけて隊列を整えようとする。後衛にはドクターと威龍、そして桜花は遊軍的な動きに終始した。
「マンタワームはうちの獲物やでー!」
桜花は多連装魚雷「エキドナ」が尽きたあたりから、単独で戦闘を仕掛け、仲間たちが慌ててそれを援護するという構図を演出する。もちろんこれは、事前に示し合わせたことだ。
この頃にはキメラとマンタワームの数は減っており、ある程度の自由が利く状態だった。威龍も桜花同様、対潜ミサイルや小型魚雷が尽きた時点で、別のターゲットに狙いを定める。彼はタートルワームの砲撃の隙を突き、潜行形態で一気に間合いを詰め、瞬時に人型へ変形し、レーザークローで白兵戦を挑む。
「この動きこそ、俺の持ち味」
レーザークローを巧みに操る姿は、まさしく威龍の真骨頂。その打撃を受けた者は、誰もが爆破で喝采した。
主に先頭で戦うオルカは、水中におけるタートルワームの多角的な動きを見てお勉強。動物的な本能でのアクションに舌を巻く。
「へぇー! そんな動き方、僕たちじゃ考えられないね〜! なるほどなるほど〜」
レプンカムイはすぐさまその動作を組み込んで、敵を翻弄する。自分が起こすアクションを他人にされると、案外と対応しにくいものだ。少年の向上心は、常に敵の隙を生み出す。
「これをマネできたら、キミも僕の一部なんだよ♪」
だから安心して破壊されろと言うわけではないが、オルカは圧倒的な火力でそれを悟らせる。この少年、まだまだ伸び盛り。
戦闘時間が60分を越えたあたりで、ようやくゴーレムにちょっかいを出せるところまで接近した。通信役に徹している杉森・あずさ(gz0330)は、ミウミをおちょくるがごとく「もうすぐ将の首に手が届くね」と味方を鼓舞する。
ミウミも腹心から時間経過を確認したが、それを聞いた瞬間に首を捻った。
「あれ? あそこまで近づいたんなら、もう押せ押せにならんとおかしくない?」
この疑問を解明する情報が、ミウミの元に届けられた。沖縄最南端のバグア基地に侵入者が現れ、激しい争奪戦が繰り広げられているという。
「あーっ! まんまと乗せられたっ! あいつらー!!」
今さら気づいても手遅れだ。ミウミの戦力は半分以下になっており、援軍も送れない状態に陥っている。さらにゴーレムを破壊されては、撤退さえも怪しくなってしまう。ミウミは渋い顔をして、現場の指揮官に指示を出す。
「あーあー、ゴメン。うちの読みが甘かった。できるだけ亀ちゃん連れて撤退して。無理ならキメラとかを盾にして構わんよー」
すっかり落胆したミウミは、妹たちに詫びるため、傭兵たちとの通信を切ろうとする。しかしどうにも我慢できず、捨て台詞を吐いた。
「また沖縄の海においでなー。今度はうちが直々にボコボコにしたるんよ!」
「へぇー、そんなことできるの〜? ホント? ホントぉ?」
オルカがニンマリ笑顔で挑発すると、ミウミは超絶不機嫌になった。
「オルカんとか言うたね‥‥おぼえとき! きーっ! 今日の亀ちゃんとかマンターみたいに、絶対にボコボコにし」
ヒステリーになったミウミの姿は、腹心によって一方的に遮断される。その一部始終を見た桜花とイーリスは「うわぁ」と嘆息し、オルカとドクターはモニタを指差しながら豪快に笑い続けた。
●陽動作戦、成功!
敵は尻尾を巻いて逃げたが、UPC沖縄軍から基地占拠の報が入らないので、傭兵たちは迷わず追い討ちをかけた。
背中を見せる相手を撃破することほど、簡単なことはない。無論、ゴーレムに乗る指揮官はキメラやマンタワームを盾にして、ほうほうの体で逃げた。この部分の結果を詳しく記す必要はないだろう。言うまでもなく、傭兵の圧勝である。
ゴーレムこそ逃がしたが、水中戦での戦果は絶大だった。モニタに赤い表記が遠ざかっていくのを見て、桜花はひとつ息を吐く。
「今回は何とかなったみたいやなー」
今度こそ沖縄の海を満喫しながら移動できる。イーリスも銀色の髪を掻き分け、戦闘終了を肌で感じた。
「威龍さんの狙い通りの展開に持ち込めてよかったです」
「いや、これはみんなで協力した結果だ。ドクターもお疲れ様だったな」
これを聞いたドクターは「まだまだこれからだよ〜」と元気いっぱいに答える。オルカもまた「おー!」と拳を上げた。
激化の一途をたどる沖縄戦線。基地争奪戦の前哨戦となる水中戦は、傭兵側に軍配が上がった。