タイトル:【QA】決死の観測隊マスター:村井朋靖

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/02/25 23:26

●オープニング本文


●ユダの行く先は?
 オペレーション・イリオスの一翼を担うべくブリュンヒルデIIに同行していた別働艦隊は、マウルの指示を受けて独自の行動を取った。
 ユダ本体のいる宙域から少し離れ、ゆっくりと隣接域へ移動。作戦の旗艦であるブリュンヒルデに余計な増殖体が迫らぬよう、全力で食い止めている‥‥ように見せる必要がある。
「本作戦に参加してくれた勇気ある傭兵の諸君。我々はブリュンヒルデより、ユダ本体の撤退を観測する任を預かっている。これもまた、重要な任務だ」
 艦長は出撃前の戦士を集め、檄を飛ばす。いや、飛ばさずにはいられなかった。その熱意は言葉にせずとも、その場にいる全員に伝わる。

 ブリュンヒルデとの交戦を終えたら、ユダも撤退するだろう。本体の行き先を探るのが、別働艦隊の真の目的だ。敵の本陣がどこにあるかを知ること以外は、いわば「オマケ」である。
 つまり交戦時間は、旗艦であるブリュンヒルデよりも長くなる。こちらの戦場も負けず劣らずの激戦になることは必至なのだ。
 現在、旗艦はユダ本体と遭遇する確率の高い空域に到達し、エアマーニェとの交戦に備えている。艦長は「ブリュンヒルデは暗礁空域に位置している」ことを伝え、この艦との距離などを詳しく説明した。
「しかしながら、増殖体の撃退もまた容易ではない。これを両立させるには、いくつもの困難を乗り越えなければならない」
 最悪の場合、旗艦から出撃したKV部隊が、本当に壊滅するのを見届けなければならない。艦長は傭兵たちに「いかなる犠牲を払ってでも作戦を成功させる」という強い意志を持つように訴えた。
「もしかすると、周辺のバグア拠点がエアマーニェを援護する動きを見せるかもしれない。観測に専念する者は、その辺にも注意してくれ」
 とにかくやることが多い‥‥艦長は不意に苦笑いを浮かべる。それはまるで「搦め手は苦手だ」と言わんばかりだった。そのくせ、今回の相手はユダだというのだから、堪ったものではない。純然たる力押しと緻密な作戦のハーモニーを要求するところは、「さすがはオリムの秘蔵っ子」と言ったところか。
「諸君はただひたすらに、与えられた任務をこなせばいい。とにかく冷静に行動してくれ。単機で無理をしないように」
 何をどう説明しても、次々と伝えたい言葉が口に迫る。艦長は喉や唇の渇きを感じながらも、熱心に話し続けた。

 その様子を見た杉森・あずさ(gz0330)が、あえてそれを話を遮るように口を出す。艦長の話し振りから、少しずつ焦りの色が滲んでいたからだ。なお、彼女は戦闘には参加せず、傭兵との連絡役を担当することになっている。
「水素カートリッジの補給とかは、こっちに戻ってくればできるから」
 艦長は深く頷き、自らが漂わせた空気を晴らすために、力強く「よく連携して持ちこたえてくれ」と言い添えた。
「ブリュンヒルデが交戦を始め、撤退を開始してからが本番だ。この艦は頃合を見計らって撤退することになる。情報を勝ち得るであろう諸君にはふさわしくない動きを要求するが、その辺は我慢して従ってくれ」
 気持ちに余裕ができたのか、艦長はようやく冗談を口にした。それを聞いたあずさは「派手に逃げてくりゃいいのさ」と笑って見せる。

 その時、艦内に通信が入る。先行して出撃しているKV部隊に、新手の増殖体の群れが押し寄せたとの報だ。
 さらにブリュンヒルデに迫る流星のごとき一機が確認される。これが女王の乗るユダ本体であることは、火を見るよりも明らかであった。もうこれ以上、引き止めてはいられない。艦長は指示を下した。
「諸君の出番だ、頼んだぞ! 生きて帰るんだ!」
 敗北したかのように見せかけるために、決して敗北してはならない戦いへ‥‥矛盾に満ちた戦いの火蓋が、ここでも切って落とされる。

●参加者一覧

御坂 美緒(ga0466
17歳・♀・ER
地堂球基(ga1094
25歳・♂・ER
威龍(ga3859
24歳・♂・PN
米田一機(gb2352
22歳・♂・FT
色素 薄芽(gc0459
20歳・♀・SF

●リプレイ本文

●出撃の前に
 傭兵が運用するKVを含めると、別働隊が有する全部で16機。これをちょうど半分ずつに分け、補給のローテーションを決めた。
 今回はオペレーターに専念する杉森・あずさ(gz0330)は、班分けのリストを見ながら、班分けの確認をする。
「A班が戻ってくる時は、B班が戦線維持。A班が戻れば、B班が戻ってくるってことね」
 敵の居場所を探るのに、これほどのリスクを背負わなければならないとは‥‥米田一機(gb2352)は、この作戦を「まったるい」と評した。ちなみに「まったるい」とは「まったりだるい」の略である。
「ところであずささん、作戦に参加するKVは17機だから」
 その指摘を受け、あずさがハッとして顔を上げる。すると地堂球基(ga1094)が、いささか緊張気味の色素 薄芽(gc0459)を指差した。
「たったひとりのC班として活動する、作戦の鍵を握る少女を忘れないであげてよ」
 彼女はピュアホワイトの白さんに乗り、ユダの行き先を探る任務を受け持つ。
 こんな重要な役目を担う薄芽を、なぜ見逃したのか‥‥思わずあずさは首を捻った。そして彼女に謝る。
「その、あの‥‥ゴメンね、気づかなかったっていうか、その‥‥」
「あ、慣れてますから‥‥お気になさらず。よく人にぶつかられるんです」
 幸薄そうに微笑む彼女を見て、ますますヘコむあずさ。しかしこの少女なら、今回の任務を果たしてくれるかもしれない。なぜかそう思えてしまうから不思議だ。

 そして、その時は来た。艦長から出撃の指示があり、KV隊は最初のユダ増殖体の退治を要請される。
「ブリュンヒルデIIの撤退が契機になると思うから、それまではよろしく頼むよ」
 宇宙の戦いに長く関わっている球基は、一機と同じように「まったるい」感じで頭を掻きながら、それでも自分なりに気合いを入れ、コクピットへと向かった。

●放たれた増殖体
 こうして真空の世界に誘われたKV部隊は、迫り来るユダ増殖体との戦闘を開始する。
 A班所属の威龍(ga3859)は愛機「蒼龍」を駆り、まずは挨拶代わりにミサイルポッドで弾幕を貼った。
「抜けてきた敵は、狙い撃ちだ!」
 爆発を正面突破する異形に対し、同じA班の御坂 美緒(ga0466)が高分子レーザーガンで反撃。敵の出鼻を挫く。
「敵さんは、孤立してもらいます♪」
 別働艦隊所属のKV隊は、ユダの増殖体を見るのは初めてではない。美緒の言葉を体現するかのように、冷静な立ち回りで敵を攻め立てた。彼らは威龍の攻撃指示に対応しつつ、事前に美緒から伝えられた「味方は孤立しない、孤立させない」を遵守。必ず複数での行動を心がけた。
 一方の増殖体は、本能の赴くままに動く。戦場を縦横無尽に駆け巡り、敵性兵器の排除に精を出した。とはいえ、傭兵のような緻密な連携をするわけでもない。偶発的に連続攻撃を受けてしまうが、その直後にそれぞれが孤立、もしくは包囲され、一転して窮地に追い込まれた。
「逃さん!」
 威龍はG放電装置を駆使し、2匹同時の撃破を狙う。敵が怯んだと見れば、一気に接近して人型に変形。機拳「シルバーブレット」で、腹と思しき場所に正拳を打ち込む。
「はあっ!」
 蒼龍の拳に、奇妙な感触が伝わる。タマモの小型エミオンスラスターにより、宇宙でも体勢を崩さず、威龍の拳は美しく敵を捉えた。
 それに続けとばかりに、美緒も人型に変形。こちらも同じく機拳でトドメを狙う。同じ攻撃でも、どこか可憐さが漂っていた。
「頭数を減らせば、その分楽になるのです♪」
 美緒は踊るように打撃を当てると、敵は奇怪な声を発しながら爆発。宇宙の塵となって消し飛んだ。
 この音は、時間の経過とともに増えつつはある。しかし敵の数が多く、こちらも無傷ではいられない。その名が示すとおり、敵は「増殖体」だ。人間と違い、唯一無二の存在ではない。その違いもまた、顕著になってきた。

 その頃、孤独なC班も任務開始。別働艦隊が控える戦域から離れた場所に、ポツンと薄芽はいる。
 大きめのデブリで白さんを隠しながら、ロータス・クイーンを発動させ、ユダ本体を常時捕捉。さらに複製体を順次捕捉し、その動きを観測する。こうして観測・記録したデータは、別働艦隊の母艦に提供された。
「いませんよー。動きませんよー」
 彼女は息を潜めて淡々と任務をこなすが、この場にひょっこりと増殖体が顔を出すことはなかった。これは別働艦隊や本隊が奮闘している結果だが、不思議と「KVの白さんさえも存在感が薄いのではないか?」と疑ってしまう。少なくとも母艦にいるあずさと艦長は、その可能性を心の中で検討し始めていた。

●交代の時期
 最初に出現した増殖体を片付ける目処がついたので、A班が先に補給を受けるべく母艦へと戻った。
 その間は、球基のオリオンアームズ、一機の迅雷が戦線を維持することになる。残る敵は3匹。まだ旗艦は戦闘中で、予断を許さない状況は続いていた。
「さて、これからが本番だね」
 球基の言うとおり、このタイミングであずさから「新手が出現」との報が入る。こっそりひっそりの薄芽から詳細な数が明らかにされた。
「えっと‥‥今度は8体ですね」
「地堂君、新手を戦艦に対応してもらおうか。少し下がって、射程に収めよう」
「了解。B班は、残った複製体を引っ張りながら後退だ」
 球基はKV隊に指示を出し、攻撃を仕掛けながら後ろに下がる。この動きに呼応して、別働艦隊の動きも慌しくなった。輸送艦は少し後ろへ下がり、巡洋艦は敵に対して艦を横に向ける。
「こっちは高分子レーザー砲で応戦するから、残りの3匹は艦首付近で対応してね」
 あずさからの通信を受け、球基と一機は指示された場所に移動。この時、オリオンアームズは敵を誘うように、あえてブーストを使って逃げた。このせいで、敵はまっすぐ並んでしまう。これを一機は見逃さなかった。
「各機、急速旋回。敵の横っ腹を突いてください」
 B班もまた、「1匹の敵を3機で相手する」ことになっている。KV隊は前から2匹をそれぞれに叩き、球基は奥の敵に向かって再度ブーストで接近すると、小型ホーミングミサイルを連打。そのまま前進しつつ、アサルトライフルで敵の体を撃ち抜く。さらに一機が後方から追随し、高分子レーザーガンでトドメを刺した。
 彼らが残党を片付けた頃、目と鼻の先にまで接近した新手に向かって、母艦がレーザー砲を浴びせる。
「傭兵に負けてられんぞ! よく狙って撃つんだ!」
 最初の敵集団を撃破したことで、別働艦隊の士気は高まっていた。新手は相変わらず本能で攻めようとするが、容赦なく降り注ぐレーザーの前にタジタジ。これもまた本能的な動きなのだろう。
 すっかり怯んだところを、再びB班が駆除に向かった。巡洋艦とは別の角度から攻めるが、戦法は同じ。球基がミサイルで弾幕を張り、足の止まった増殖体に一機がアサルトライフルでトドメを刺す。後方からの援護もあり、今回の敵は簡単に片付けられそうだった。
 そこにあずさから連絡が入る。A班の補給完了したのだ。
「A班、まもなく戦線に復帰するよ。B班はどうする? いったん戻る?」
 球基は奥の敵に三昧眞火を放って牽制しつつ、一機に「戻ろうか」と提案。相手も「そうだね」とこれを了承し、今度はB班が一時的に戦線を退くことになった。

●終われば始まり‥‥
 A班が戦場に復帰した途端、薄芽から「また新手が接近しました」という報が舞い込む。
 美緒は、この状況を「まるで性質の悪い勧誘ですね♪」と表現した。それを通信で聞いていた一機は「ごもっとも」と短い言葉で同意する。

 作戦の性質上、圧倒的な戦力で敵を駆逐するのは好ましくないのだが、実際に戦ってみると、それを実現するのは困難であることがわかった。敵の増援があまりにも多く、別働艦隊で対応できる限界を突破するのも時間の問題。補給のタイミングを間違えると、危機的状況に陥る可能性もある。
 B班が用いた作戦が有効であると踏んだ威龍は、敵が密集していればミサイルで足止めすると、A班をあえて母艦から遠い場所に配置。またB班が同じ手を使えるように仕向ける。
「お誘いに乗ってくれると助かりますね」
「相手は知性的でもなく、組織的でもない。ずっとは通じなくても、何度かは使える手段と踏んだ」
 たとえ威龍の読みが外れても、KV隊のやることは決まっている。美緒は「がんばりましょうか♪」というと、敵の背後をレーザーガンで撃ち貫く。威龍もG放電を効果的に駆使し、いつ終わるとも知れぬ戦いに正面から挑んだ。

 ここにB班が合流し、別角度から前線に突入。各個撃破を信条に、激しい戦闘を繰り広げた。ところがさっきよりも数が増えており、球基はある増殖体に接近を許してしまう。一機はすぐさまアサルトライフルで照準を合わせた。
「地堂君のドジっ子は、計算済みだから」
 しかしオリオンアームズは瞬時に人型となり、機杖「ウアス」の一閃で接近を阻止。
「これで狙いやすくなったかな?」
「それ、僕の心配してくれたってことなのかな。それともドジっ子じゃないっていう主張かな?」
 ふたりは会話を楽しみながら、また増殖体を駆逐した。
 これを契機に「接近戦も辞さずに戦う」という指示が飛ぶ。状況が傾いてからでは遅いので、早い段階で手段を講じたのだ。特に威龍は撃破寸前の敵にトドメを刺す際、敵陣に切り込んで接近戦を挑むシーンが増えた。逆に一機は、迅雷を人型にすることなく、飛行形態を維持して射撃でのフォローを続ける。それぞれのカラーが、暗い宇宙を鮮やかに彩った。

●ユダの行く先は?
 そしてついに、この時を迎えた。ブリュンヒルデIIの撤退が確認されたのである。
 あずさはKV隊に「戦線の維持が困難となったので撤退する」が告げると、別働艦隊はさっさと向きを変え、一目散に逃げる準備を進めた。
「撤退だ! 俺たちは増殖体の攻撃を防ぐぞ!」
 威龍はそう叫ぶと、KV隊は敵を母艦に近づけまいと必死に応戦した。これ以上の増援が来ると、この言葉も冗談ではなくなる。彼らは、真実と虚構の狭間に立たされていた。
 傭兵たちはここで、KV隊と別行動になる。彼らには「薄芽が潜伏している場所の手前まで敵を誘導する」よう、事前に打ち合わせてあった。すべてはユダ本体の行き先を探るためである。

 旗艦を追わずに撤退するユダを見て、薄芽は気持ちを引き締めた。
「白さん、いよいよですよ!」
 彼女は大きく深呼吸をしてから、ヴィジョンアイを発動。ユダ本体の機動予測と、撤退先の特定を行う。さらに通信を一時的に遮断し、白さんの出力カットを行い、戦闘不能を偽装。デブリとの接触による慣性移動で可能な限りの追跡を試みた。
「気配をうすーく、うすーく‥‥」
 これ以上なく警戒しながら移動し、敵の行き先を探る。彼女の背後には、存在感あふれる味方機が援護のために控えていた。
 しかし、ユダ本体は何も気にせずに移動を続ける。その先に何があるのか‥‥薄芽は経過する時間に比例して、膨大な量の情報を獲得した。

 いよいよKV隊が傭兵たちのところまで、敵を引っ張ってきた。ユダ本体がどこへ逃げるかを見届けるとなると、KV隊が母艦に戻れなくなってしまう。タイムリミットが迫っていた。
 残念ながら居場所は突き止められなかったが、それを補って余りある情報を、今の白さんは有している。これを詳細に分析すれば、行き先がわかるはずだ。
「白さん、帰りますよー!」
 次にバトンを渡すためにも、薄芽は戦闘不能を演じながらの撤退と、母艦への情報送信を開始した。
 しかし薄芽は、何度も敵の攻撃を受けてしまう。純白の機体が傷つくたび、その演技は本物へと変貌していく。それは作戦の成功を意味していた。
「色素ちゃん、それでいい。いや、それがいい」
 一機は白さんの元へ駆けつけると、迫り来る複製体をおなじみの射撃で食い止める。威龍は人型形態となって前線に突っ込み、複数の敵を相手に徹底抗戦。背を向けた敵は、球基のオリオンアームズがライフルで狙い撃つ。こうして薄芽の退路を確保した。
 彼女の撤退とデータ送信が完了した時点で、美緒のコロナが前線に登場。これを見た威龍は飛行形態に戻って戦線を離脱すると、美緒は敵に向かって煙幕装置を使う。これは彼女なりに「決死の撤退」を演出したものだ。さらに煙に向かってレーザーガンを撃ち、その隙にKV隊も含めた全員が母艦に向けて撤退。次第に敵との距離が開いていき、偽装撤退は完成した。


 母艦に戻った彼らを待っていたのは、安堵の表情を浮かべる艦長だった。隣には同じ表情のあずさがいる。慣れない仕事をしたせいか、少し疲れているようだ。
「諸君、よくやってくれた。あれだけの情報量があれば、本拠地を割り出すこともできるだろう。旗艦も見事な逃げっぷりだったようだ」
 作戦が成功したことを知り、ようやく傭兵たちも安堵の表情を浮かべる。別働艦隊は、急いで戦闘宙域を離れていった。もう、この場所には用はない。