●リプレイ本文
●出撃の前に
傭兵が運用するKVを含めると、別働隊が有する全部で16機。これをちょうど半分ずつに分け、補給のローテーションを決めた。
今回はオペレーターに専念する杉森・あずさ(gz0330)は、班分けのリストを見ながら、班分けの確認をする。
「A班が戻ってくる時は、B班が戦線維持。A班が戻れば、B班が戻ってくるってことね」
敵の居場所を探るのに、これほどのリスクを背負わなければならないとは‥‥米田一機(
gb2352)は、この作戦を「まったるい」と評した。ちなみに「まったるい」とは「まったりだるい」の略である。
「ところであずささん、作戦に参加するKVは17機だから」
その指摘を受け、あずさがハッとして顔を上げる。すると地堂球基(
ga1094)が、いささか緊張気味の色素 薄芽(
gc0459)を指差した。
「たったひとりのC班として活動する、作戦の鍵を握る少女を忘れないであげてよ」
彼女はピュアホワイトの白さんに乗り、ユダの行き先を探る任務を受け持つ。
こんな重要な役目を担う薄芽を、なぜ見逃したのか‥‥思わずあずさは首を捻った。そして彼女に謝る。
「その、あの‥‥ゴメンね、気づかなかったっていうか、その‥‥」
「あ、慣れてますから‥‥お気になさらず。よく人にぶつかられるんです」
幸薄そうに微笑む彼女を見て、ますますヘコむあずさ。しかしこの少女なら、今回の任務を果たしてくれるかもしれない。なぜかそう思えてしまうから不思議だ。
そして、その時は来た。艦長から出撃の指示があり、KV隊は最初のユダ増殖体の退治を要請される。
「ブリュンヒルデIIの撤退が契機になると思うから、それまではよろしく頼むよ」
宇宙の戦いに長く関わっている球基は、一機と同じように「まったるい」感じで頭を掻きながら、それでも自分なりに気合いを入れ、コクピットへと向かった。
●放たれた増殖体
こうして真空の世界に誘われたKV部隊は、迫り来るユダ増殖体との戦闘を開始する。
A班所属の威龍(
ga3859)は愛機「蒼龍」を駆り、まずは挨拶代わりにミサイルポッドで弾幕を貼った。
「抜けてきた敵は、狙い撃ちだ!」
爆発を正面突破する異形に対し、同じA班の御坂 美緒(
ga0466)が高分子レーザーガンで反撃。敵の出鼻を挫く。
「敵さんは、孤立してもらいます♪」
別働艦隊所属のKV隊は、ユダの増殖体を見るのは初めてではない。美緒の言葉を体現するかのように、冷静な立ち回りで敵を攻め立てた。彼らは威龍の攻撃指示に対応しつつ、事前に美緒から伝えられた「味方は孤立しない、孤立させない」を遵守。必ず複数での行動を心がけた。
一方の増殖体は、本能の赴くままに動く。戦場を縦横無尽に駆け巡り、敵性兵器の排除に精を出した。とはいえ、傭兵のような緻密な連携をするわけでもない。偶発的に連続攻撃を受けてしまうが、その直後にそれぞれが孤立、もしくは包囲され、一転して窮地に追い込まれた。
「逃さん!」
威龍はG放電装置を駆使し、2匹同時の撃破を狙う。敵が怯んだと見れば、一気に接近して人型に変形。機拳「シルバーブレット」で、腹と思しき場所に正拳を打ち込む。
「はあっ!」
蒼龍の拳に、奇妙な感触が伝わる。タマモの小型エミオンスラスターにより、宇宙でも体勢を崩さず、威龍の拳は美しく敵を捉えた。
それに続けとばかりに、美緒も人型に変形。こちらも同じく機拳でトドメを狙う。同じ攻撃でも、どこか可憐さが漂っていた。
「頭数を減らせば、その分楽になるのです♪」
美緒は踊るように打撃を当てると、敵は奇怪な声を発しながら爆発。宇宙の塵となって消し飛んだ。
この音は、時間の経過とともに増えつつはある。しかし敵の数が多く、こちらも無傷ではいられない。その名が示すとおり、敵は「増殖体」だ。人間と違い、唯一無二の存在ではない。その違いもまた、顕著になってきた。
その頃、孤独なC班も任務開始。別働艦隊が控える戦域から離れた場所に、ポツンと薄芽はいる。
大きめのデブリで白さんを隠しながら、ロータス・クイーンを発動させ、ユダ本体を常時捕捉。さらに複製体を順次捕捉し、その動きを観測する。こうして観測・記録したデータは、別働艦隊の母艦に提供された。
「いませんよー。動きませんよー」
彼女は息を潜めて淡々と任務をこなすが、この場にひょっこりと増殖体が顔を出すことはなかった。これは別働艦隊や本隊が奮闘している結果だが、不思議と「KVの白さんさえも存在感が薄いのではないか?」と疑ってしまう。少なくとも母艦にいるあずさと艦長は、その可能性を心の中で検討し始めていた。
●交代の時期
最初に出現した増殖体を片付ける目処がついたので、A班が先に補給を受けるべく母艦へと戻った。
その間は、球基のオリオンアームズ、一機の迅雷が戦線を維持することになる。残る敵は3匹。まだ旗艦は戦闘中で、予断を許さない状況は続いていた。
「さて、これからが本番だね」
球基の言うとおり、このタイミングであずさから「新手が出現」との報が入る。こっそりひっそりの薄芽から詳細な数が明らかにされた。
「えっと‥‥今度は8体ですね」
「地堂君、新手を戦艦に対応してもらおうか。少し下がって、射程に収めよう」
「了解。B班は、残った複製体を引っ張りながら後退だ」
球基はKV隊に指示を出し、攻撃を仕掛けながら後ろに下がる。この動きに呼応して、別働艦隊の動きも慌しくなった。輸送艦は少し後ろへ下がり、巡洋艦は敵に対して艦を横に向ける。
「こっちは高分子レーザー砲で応戦するから、残りの3匹は艦首付近で対応してね」
あずさからの通信を受け、球基と一機は指示された場所に移動。この時、オリオンアームズは敵を誘うように、あえてブーストを使って逃げた。このせいで、敵はまっすぐ並んでしまう。これを一機は見逃さなかった。
「各機、急速旋回。敵の横っ腹を突いてください」
B班もまた、「1匹の敵を3機で相手する」ことになっている。KV隊は前から2匹をそれぞれに叩き、球基は奥の敵に向かって再度ブーストで接近すると、小型ホーミングミサイルを連打。そのまま前進しつつ、アサルトライフルで敵の体を撃ち抜く。さらに一機が後方から追随し、高分子レーザーガンでトドメを刺した。
彼らが残党を片付けた頃、目と鼻の先にまで接近した新手に向かって、母艦がレーザー砲を浴びせる。
「傭兵に負けてられんぞ! よく狙って撃つんだ!」
最初の敵集団を撃破したことで、別働艦隊の士気は高まっていた。新手は相変わらず本能で攻めようとするが、容赦なく降り注ぐレーザーの前にタジタジ。これもまた本能的な動きなのだろう。
すっかり怯んだところを、再びB班が駆除に向かった。巡洋艦とは別の角度から攻めるが、戦法は同じ。球基がミサイルで弾幕を張り、足の止まった増殖体に一機がアサルトライフルでトドメを刺す。後方からの援護もあり、今回の敵は簡単に片付けられそうだった。
そこにあずさから連絡が入る。A班の補給完了したのだ。
「A班、まもなく戦線に復帰するよ。B班はどうする? いったん戻る?」
球基は奥の敵に三昧眞火を放って牽制しつつ、一機に「戻ろうか」と提案。相手も「そうだね」とこれを了承し、今度はB班が一時的に戦線を退くことになった。
●終われば始まり‥‥
A班が戦場に復帰した途端、薄芽から「また新手が接近しました」という報が舞い込む。
美緒は、この状況を「まるで性質の悪い勧誘ですね♪」と表現した。それを通信で聞いていた一機は「ごもっとも」と短い言葉で同意する。
作戦の性質上、圧倒的な戦力で敵を駆逐するのは好ましくないのだが、実際に戦ってみると、それを実現するのは困難であることがわかった。敵の増援があまりにも多く、別働艦隊で対応できる限界を突破するのも時間の問題。補給のタイミングを間違えると、危機的状況に陥る可能性もある。
B班が用いた作戦が有効であると踏んだ威龍は、敵が密集していればミサイルで足止めすると、A班をあえて母艦から遠い場所に配置。またB班が同じ手を使えるように仕向ける。
「お誘いに乗ってくれると助かりますね」
「相手は知性的でもなく、組織的でもない。ずっとは通じなくても、何度かは使える手段と踏んだ」
たとえ威龍の読みが外れても、KV隊のやることは決まっている。美緒は「がんばりましょうか♪」というと、敵の背後をレーザーガンで撃ち貫く。威龍もG放電を効果的に駆使し、いつ終わるとも知れぬ戦いに正面から挑んだ。
ここにB班が合流し、別角度から前線に突入。各個撃破を信条に、激しい戦闘を繰り広げた。ところがさっきよりも数が増えており、球基はある増殖体に接近を許してしまう。一機はすぐさまアサルトライフルで照準を合わせた。
「地堂君のドジっ子は、計算済みだから」
しかしオリオンアームズは瞬時に人型となり、機杖「ウアス」の一閃で接近を阻止。
「これで狙いやすくなったかな?」
「それ、僕の心配してくれたってことなのかな。それともドジっ子じゃないっていう主張かな?」
ふたりは会話を楽しみながら、また増殖体を駆逐した。
これを契機に「接近戦も辞さずに戦う」という指示が飛ぶ。状況が傾いてからでは遅いので、早い段階で手段を講じたのだ。特に威龍は撃破寸前の敵にトドメを刺す際、敵陣に切り込んで接近戦を挑むシーンが増えた。逆に一機は、迅雷を人型にすることなく、飛行形態を維持して射撃でのフォローを続ける。それぞれのカラーが、暗い宇宙を鮮やかに彩った。
●ユダの行く先は?
そしてついに、この時を迎えた。ブリュンヒルデIIの撤退が確認されたのである。
あずさはKV隊に「戦線の維持が困難となったので撤退する」が告げると、別働艦隊はさっさと向きを変え、一目散に逃げる準備を進めた。
「撤退だ! 俺たちは増殖体の攻撃を防ぐぞ!」
威龍はそう叫ぶと、KV隊は敵を母艦に近づけまいと必死に応戦した。これ以上の増援が来ると、この言葉も冗談ではなくなる。彼らは、真実と虚構の狭間に立たされていた。
傭兵たちはここで、KV隊と別行動になる。彼らには「薄芽が潜伏している場所の手前まで敵を誘導する」よう、事前に打ち合わせてあった。すべてはユダ本体の行き先を探るためである。
旗艦を追わずに撤退するユダを見て、薄芽は気持ちを引き締めた。
「白さん、いよいよですよ!」
彼女は大きく深呼吸をしてから、ヴィジョンアイを発動。ユダ本体の機動予測と、撤退先の特定を行う。さらに通信を一時的に遮断し、白さんの出力カットを行い、戦闘不能を偽装。デブリとの接触による慣性移動で可能な限りの追跡を試みた。
「気配をうすーく、うすーく‥‥」
これ以上なく警戒しながら移動し、敵の行き先を探る。彼女の背後には、存在感あふれる味方機が援護のために控えていた。
しかし、ユダ本体は何も気にせずに移動を続ける。その先に何があるのか‥‥薄芽は経過する時間に比例して、膨大な量の情報を獲得した。
いよいよKV隊が傭兵たちのところまで、敵を引っ張ってきた。ユダ本体がどこへ逃げるかを見届けるとなると、KV隊が母艦に戻れなくなってしまう。タイムリミットが迫っていた。
残念ながら居場所は突き止められなかったが、それを補って余りある情報を、今の白さんは有している。これを詳細に分析すれば、行き先がわかるはずだ。
「白さん、帰りますよー!」
次にバトンを渡すためにも、薄芽は戦闘不能を演じながらの撤退と、母艦への情報送信を開始した。
しかし薄芽は、何度も敵の攻撃を受けてしまう。純白の機体が傷つくたび、その演技は本物へと変貌していく。それは作戦の成功を意味していた。
「色素ちゃん、それでいい。いや、それがいい」
一機は白さんの元へ駆けつけると、迫り来る複製体をおなじみの射撃で食い止める。威龍は人型形態となって前線に突っ込み、複数の敵を相手に徹底抗戦。背を向けた敵は、球基のオリオンアームズがライフルで狙い撃つ。こうして薄芽の退路を確保した。
彼女の撤退とデータ送信が完了した時点で、美緒のコロナが前線に登場。これを見た威龍は飛行形態に戻って戦線を離脱すると、美緒は敵に向かって煙幕装置を使う。これは彼女なりに「決死の撤退」を演出したものだ。さらに煙に向かってレーザーガンを撃ち、その隙にKV隊も含めた全員が母艦に向けて撤退。次第に敵との距離が開いていき、偽装撤退は完成した。
母艦に戻った彼らを待っていたのは、安堵の表情を浮かべる艦長だった。隣には同じ表情のあずさがいる。慣れない仕事をしたせいか、少し疲れているようだ。
「諸君、よくやってくれた。あれだけの情報量があれば、本拠地を割り出すこともできるだろう。旗艦も見事な逃げっぷりだったようだ」
作戦が成功したことを知り、ようやく傭兵たちも安堵の表情を浮かべる。別働艦隊は、急いで戦闘宙域を離れていった。もう、この場所には用はない。