●リプレイ本文
●最高の遊び道具
太陽がこの日もっとも高い位置に達したが、まだ傭兵たちは現れない。
監獄となった基地の西側には、今も榊原アサキ(gz0411)が待ち構えている。基地周辺を見張るパープルブラッド(PB)隊にも、厳重に警戒するよう指示を出した。
「同じ構図で何度も失敗するわけにはいかないわ。ひとりでも多く吹き飛ばしてみせる」
いつもなら嬉しそうに語るセリフも、今は表情を崩さずに淡々と口にするのみ。アサキも追い詰められているということか。
しかし彼女に限っていえば、作戦の成否は二の次だ。能力者と刃を重ね、どれだけ戦えるか‥‥アサキの本音は、今日は胸の奥に閉まってある。
そこに現れたのは、バイクに騎乗した終夜・無月(
ga3084)であった。
アクセル全開でアサキの横を駆け抜ける瞬間、手にした魔剣「ティルフィング」で斬りかかる。しかし彼女はこれが「挨拶代わりの一撃」であることを見切り、黄金の一閃を刀で受け流した。
「あら、アルケニーと遊びたいの?」
アサキは嬉しそうに笑うと、すぐさま小型プロトン砲座変形バイク「アルケニー」に乗る。そしてあっという間に無月との距離を縮め、搭載されたプロトンライフルで銃撃を仕掛けた。
「自慢のアルケニーか、なるほど」
いきなり騎乗戦という意外な展開だが、無月は攻め手を緩めない。接近すれば魔剣を振り、離れれば拳銃「ケルベロス」で牽制。さらに動き回ることで的を絞らせない。アサキのバイクは槍があり、意味もなく距離を縮めるとタックルされる危険があった。
アサキは「距離を詰めた時の接近戦で勝負」と読み、ライフルを使う回数を減らして無月を誘う。
「これが甘い罠か?」
無月は挑発に乗り、拳銃で威嚇しながら距離を詰める。
アサキは「かかった」とばかりにニヤリと笑い、バイクはプロトン砲座に変形させた。万能な名馬は、瞬時にして王を撃つ大砲となる。
「これじゃ、外しようがないわね」
アサキが無月をロックオンした直後、ガッチリと接地したはずのアルケニーがバランスを崩した。
「不意打ち? なかなかやるじゃない」
彼女が振り向くと、そこには咥え煙草の紳士が立っていた。超機械「カルブンクルス」を構えたUNKNOWN(
ga4276)。無月が誘いに乗るのを見て、絶妙のタイミングで現れたというわけだ。しかし不意打ちしても、不意打ちされるのは趣味じゃないので、すぐさま探査の眼とGooDLuckを発動させる。もちろん彼の持つダンディズムと同じで、さりげなく。
「やっとバイクをくれる気になったのかと思ってね」
「あなた、そればっかり言ってるわね。欲しかったら、部下のを持っていけば?」
それを聞いたUNKNOWNは「ふむ」と頷き、紫煙を漂わせながら言葉を続ける。
「操縦者が離れると、動力部が破壊されるのは困るんだ。そうか、今回はお前ごと回収すればいいのかな?」
アサキは「そんな冗談に付き合ってられないわ」と言いながらアルケニーを降りる。背後からはバイクを降りた無月が瞬天速で迫っていたため、こうするしかなかったのだ。
しかしアサキは、能力者に服従する気は毛頭ない。すぐに問題のアイテムをちらつかせ、自分のペースを取り戻そうとした。
「このまま遊んであげてもいいんだけど、基地に残された兵士が爆発するのを生中継されたら困るんじゃない?」
覇王のオーラを放ちながら歩み寄っていた無月も、さすがにその場で立ち止まる。UNKNOWNも帽子に手をやって、「参ったね」と呟いた。
「他の姉妹と比べると、あなたが一番厄介ですね」
「最近は身内にも、そう言われるのよ?」
隙あらばスイッチを破壊せんと狙う無月だが、この時点ではアサキが手元への注意を怠るはずもない。このやり取りを見た紳士は新しい煙草に火を点けながら、「あのスイッチは本物」と確信した。かといって、アサキの言いなりになるわけにもいかない。
そんな状況を打破すべく、麗しき破壊竜・ミリハナク(
gc4008)が、ジーザリオに乗って現れた。
彼女は運転席から降りると、いつものゴシック風の黒のロングドレス姿。手には滅斧「ゲヘナ」を持つ。まさにアサキ主催の戦闘舞踏会にふさわしい姿だ。
「ごきげんよう、アサキちゃん。交渉に来ましたわ」
「交渉? そんな余地があると思ってるの?」
膠着状態からバグア有利の状況へ転じないよう、彼女はある提案を携えてやってきた。
「私と勝負しましょう。貴女が勝てば、邪魔な私の命をあげますわ。私が負けない間は、人質の命が永らえる。私は抵抗はしますが、反撃はしません」
これを聞いたアサキは、思わず鼻で笑った。もっとマシな交渉を用意するかと思いきや、これは想像を超える愚策である。
「いかがかしら? 面白いと思いません?」
「自己犠牲が美しく感じるのは、地球人だけだと思うけどね。死ぬ覚悟があるなら、それでいいわよ」
アサキはテレビカメラ班にミリハナクを映すように指示し、夕焼けのビッグショーまでの余興として放送することにした。圧倒的に不利な状況に置かれるミリハナクは、ゲヘナを防具のひとつとして扱う持ち方をし、これから始まる出し物に備える。
「さぁ、遊びましょう‥‥アサキちゃん」
その声は決して笑っていない。無論、無月もUNKNOWNも同様だ。
●猶予はわずか
アサキを迂回する形で基地に向かうのは、3人の救出班である。
春夏秋冬 立花(
gc3009)は双眼鏡を覗き込みながら、周辺を警戒するPB隊の位置を探り、敵と出くわさないルートを検討した。
「なんとしても助けないと」
立花がそう言うと、洋弓「リセル」を手にしたエレナ・クルック(
ga4247)も小さく頷く。
「早く乗ってください〜、行きますですよ〜」
エレナはジーザリオの運転席からメンバーを呼び、後部座席へと誘う。立花はバイクに乗り、兵士たちが侵入した場所へと導いた。
すでにタートルワームによる砲撃は開始されていた。安全な時間は、約5分。それまでに作戦を完了させなければならない。
ところが目的地へ到達する手前で、PB隊のひとりに発見されてしまった。隊員はすばやく、小隊長に連絡を入れる。
「隊長、傭兵が現れ‥‥おわっ!」
その通信を遮るかのように、風閂(
ga8357)が荷台から姿を現し、ソニックブームを仕掛けた!
「何度現れれば、気が済むのだ!」
そのまま衝撃波を追いかける形で車から飛び降りた風閂は、そのまま白兵戦へ。彼はひとりでここを食い止めるつもりなのだ。
「風閂さん、気をつけてくださいっ!」
「基地の中は任せた!」
敵に気づかれたのなら、もう遠慮はいらない。エレナは迷わず入口に向かってアクセルを踏んだ。しかし運悪く、背後から現れた遠距離砲を搭載したアルケニーに狙われてしまう。これに気づいた立花は、通る声でエレナに注意を促した。
「エレナちゃん、後ろ!」
「はわわっ‥‥」
極太の赤色光線を避けつつ、なんとか目的地へと到着。エレナは「ホッ」と一安心だ。立花はバイクから降りると、探査の眼と隠密潜行を駆使し、斥候を買って出る。
「相手はバイクに乗ってるから、基地の中では待たないか」
立花は伏兵がいないと判断し、エレナに合図を送る。少女は準備を整え、トコトコと小走りでやってきた。そして開かずの入口に対し、電子魔術師での開錠を試みる。すると「カチャン」という音と共に、ゆっくりと扉が開いた。
これに過敏な反応を示したのは、閉じ込められた兵士たちである。彼らは覚悟して武器を構えるも、エレナは顔の前で両手を振り「仲間ですよ〜」と訴えかけた。
「皆さんを助けにきました〜、もう安心です〜」
彼女の言葉を聞いた兵士たちは、思わず歓喜の声を上げる。しかし、立花がそれを制した。
「私たちは18人の救出を目指します。今から無線機を使って、閉じ込められた方の救出を行います。勝手に脱出はしないでください」
立花はテキパキとした対応を貫き、無線機を使って兵士のいる場所を探り、その結果をエレナに伝えた。
「エレナちゃん! 左の通路を進んで、順番に障壁を壊して! 私は右の壁に穴を開けて、皆がトラックのすぐ近くに出れるようにするから!」
「了解です〜」
エレナは兵士たちに「それぞれに連絡を取り合ってください〜」とお願いし、自らは弾頭矢を番えて障壁の破壊を目指す。
「大丈夫です、向こう側の連中は奥に避難しました」
「ん〜、にゃっ!」
安全が確保されれば、勢いよく矢を放った。不意に爆音が響くと、大人が潜れるほどの穴が開く。そこから兵士を脱出させるが、怪我をして動けない者には練成治療で応急措置を施す。
それが済めば、エレナはまた奥へと進む。兵士たちは脱出をスムーズにするため、手にした武器を最大限に活用し、開かれた箇所を広げようとがんばった。
「これで9人‥‥まだ半分」
エレナは急いで次の弾頭矢を用意し、しばしこの作業に没頭する。その次は兵破の矢を使い、確実な破壊を試みた。
立花も脱出口を作るために機械刀「凄皇弐式」で穴を開け、そこに弾頭矢を2本埋め込み、エレナと同じタイミングで爆破。脱出の準備を整えた。
●守るために!
立花とエレナが救出作業を行っている頃、風閂は苦戦を強いられていた。敵は小隊員が乗る近接用アルケニー3台。文字通り「多勢に無勢」である。どちらも白兵戦を好むので、一方的に攻撃を受けずに済むのが不幸中の幸いだった。
風閂は「なんくるないさ」と呟き、自分の身体に活性化を施す。そんな彼の耳にも、TWの砲撃が聞こえていた。
「今日も青い空、青い海‥‥あんな亀が浮いてなければ、最高の一日になったろう」
「減らず口もそこまでだ! もう楽にしてやろう!」
一気に決着をつけんと、通信を邪魔されたあの隊員が突っ込んでくる。
その瞬間、風閂はカッと目を見開いて、両断剣を発動。そして2本の刀を大きく振りかぶった。
「甘い! 正面から来るのを待っていた!」
渾身の力を込めてソニックブームを放ち、そのまま蛍火を地面に刺して体勢を整えた。渾身の力で放たれた衝撃波は敵を噛み砕き、見事に撃破。アルケニーと隊員は爆音と共に消え去る。
「なっ、何っ!」
「まだ勝負が終わっていない!」
気合いのみなぎる風閂は蛍火を引き抜くと、再び構えて残る敵と対峙する。さらに活性化を使い、全身に「必ず耐える」という気迫を滲ませた。
同じ頃、小隊長と遠距離砲撃の2台は、兵士の救出を行う傭兵を排除すべく、基地から少し離れた場所で待ち構えている。さっきまで基地内の障壁や外壁を爆破する音が響いていた。これが止んだ瞬間こそが脱出の時‥‥小隊長は息を殺して待った。
そこへ彼らの聞き慣れないバイクの音が響く。小隊長は砲台の座席から音のする方向を確認した。
「なっ、なんだと!」
小隊長はおろか、隊員さえも目を疑った。なんと立花が単騎で攻めてくる。彼女は服のポケットには無線機を忍ばせ、合図となる言葉を口にした。
「私もみんなも、今しかないわ!」
立花は3人を範囲に収め、制圧射撃を敢行。決死の覚悟で足止めをする。その合図で18人の兵士は、立花が作った脱出口からトラックに分乗。さっさと虎口を脱した。
「まさか‥‥出し抜かれた?!」
「そういうこと!」
立花は機械刀を持って、バイクを急発進。PB隊をトラックに近づけさせまいと、必死で応戦する。
しかし相手は、名うてのバイク部隊。しかも親衛隊であり、遠距離での交戦が得意だ。立花はあっという間に追いつかれ、プロトンライフルの餌食となってしまう。彼女は「反撃ができない」と知ると、武器を収めて逃げるだけに徹した。それでも銃撃を食らい、いよいよピンチを迎える。
そこに無線が入った。兵士と同時にジーザリオへ飛び乗ったエレナからである。
「こちらエレナ! バイクを食い止めてた風閂さんを回収しました〜!」
「ナイスよ、エレナちゃん!」
これで救出部隊の仕事も、残すはあとひとつ。少女たちは無線で示し合わせ、「ある場所」へと向かった。
●一枚上手
ミリハナクという玩具を手に入れたアサキは、愛刀で遠慮なく弄び続ける。
彼女はアサキの攻撃を防御する権利を有していたのに、いつの間にかドレスは血まみれ。だんだんと息も荒くなり、端正な顔にも血が滲んだ。
無月は何度かミリハナクをフォローしようと瞬天速で接近するも、アサキに「スイッチ押していいの?」と言われると、素直に引き下がらざるを得ない。UNKNOWNは煙草を吸いながら「打つ手なし」を決め込んで周囲を歩き回っているだけに見えるが、実際には無月と組んでアサキの行動を阻害できる間合いをキープし、ずっと相手にプレッシャーを与えていた。
「あなたはいつもは攻めてくるけど、防御は苦手なのかしら? なんか不思議ね‥‥」
ミリハナクとアサキの付き合いは長い。アサキは一方的に苛めてはいたが、どこか不自然さを感じていた。
そう、彼女の直感は正しい。実は、ミリハナクはわざとやられていた。
そうなると必然的に傷を受けることになるが、そこはこっそり自前の活性化や、UNKNOWNの練成治療で回復。絶妙のタイミングで血糊をつけたり、顔にも塗ったりして誤魔化したのだ。
「でも‥‥トドメを刺さないのは、なぜかしら?」
「決まってるじゃない。基地が爆破するのを見せてあげようと思ってるからよ」
アサキが得意満面でそう呟いた瞬間、背後からバイクとジーザリオがすごいスピードで接近してきた!
「お待たせしました〜! もう大丈夫です〜!」
「なっ! こ、これはいったい‥‥!」
問題の2台を追うのは、アサキご自慢のPB隊‥‥これを見たアサキはすべてを悟り、唇を噛み締めて怒り狂った。
「この女ぁぁぁ! 何度も何度もぉぉ!!」
「それは俺のことか? 残念だが、俺は女じゃない」
無月が聖剣を抜き、両断剣・絶を乗せた強力な一撃で、アサキが左手に持ったスイッチを穿つ。それは瞬時にして破壊され、アサキは破片で手を切った。
「ぐっ! ス、スイッチが‥‥!」
「アンノンノンの治療のおかげで、思ったより元気ですわ。ア〜サキちゃん、また今度ね♪」
すっくと立ち上がったミリハナクが、素直にやられっぱなしで逃げるわけがない。同じく両断剣・絶を纏わせたゲヘナでソニックブームを放ち、アサキの皮膚やドレスを切り刻む。
「ぐはあっ! こ、これだけの力が残ってたなんて‥‥!」
「あ、そうそう。ここに私が使ったラズベリー味の血糊を置いておきますわ。ちょっと苦いですけど‥‥朝食にいかがかしら?」
UNKNOWNは「それは苦渋の味かな?」と呟きながら、ミリハナクが乗ってきたジーザリオの助手席に座る。無月はバイクにまたがると「沖縄をその色で染めさせない」と言い、全員揃ってこの場を脱出した。
この一部始終は、沖縄全土に放送されていた。この勝負、傭兵に軍配が上がった。