タイトル:【東京】エミールの帰還マスター:村井朋靖

シナリオ形態: イベント
難易度: 難しい
参加人数: 11 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/01/18 19:24

●オープニング本文


●招かれざる客
 UPC情報部が推進する「ホワイトフェアリー作戦」は、半年前に解放された東京を復興のシンボルとし、年末年始を大いに盛り上げている。
 クリスマスには、まるでサンタのようなカラーリングの『ピュアホワイトXmas』が彩りを添え、たくさんの人々に希望を与えた。バグアによる宇宙からの侵攻も起こっているが、ホワイトフェアリー作戦そのものは順調に進んでいた。

 そんな年の瀬も差し迫った、ある日のこと。
 東京に駐留している情報部の事務所に、UPC関東軍から急報が届いた。これを聞いた係官は、一気に青ざめる。
「な、なんだって! 秋葉原の支配者・エミールが戻ってきた?!」
 その一言で、事務所は混沌とした空気に包まれた。東京解放作戦の際、強力な洗脳装置を用いて秋葉原を支配したエミールが、再侵攻を開始したというのだ。
 情報部はすぐさま周辺地域からの情報収集などを行い、エミールが有する敵戦力や目的を探っていく。この辺はさすが情報部、手慣れたものだ。
 ところが集まった情報は、なんともエミールらしいというか‥‥とにかく以前と何も変わっていない。
「まーた、手下をアニメキャラに扮装させてんのか、あいつは!」
 いつも通りの展開だ。あの少年はどこか、地球侵攻を目指すバグアとは思えない人間臭さがある。上官は「これぞ腐れ縁、だな」と吐き捨てた。
 しかし部下のひとりが「うーん」と唸りながら、眉をひそめて話す。
「でも、これはマズいですね。バグア産のアニメは、現在UPC向けに修正して放送しています。一般人は我々が用意したコスプレ企画と勘違いしたようで、かなり発見が遅れたらしく‥‥」
 これを聞いた上官の驚いた顔は、もはや形容することのできないほど崩れた。周囲に控える部下たちも「あっ!」と一声上げたまま凍りつく。
「い、今、どの辺にいるんだ!」
「八王子方面から東進しているようです。三鷹市での目撃情報もありますが、すでに23区に侵入したと判断すべきかと」
「エミールのことですから、秋葉原の再奪還が目的と考えていいと思います。まだこちらも手は打てるでしょう」
 上官は部下から出される冷静な分析に、いちいち怒りの声と表情を織り交ぜながら反応する。
 突然の襲撃は想定の範囲内でありながら、なぜ彼は苛立っているのか。その答えはシンプルだ。UPC情報部としてのメンツを潰される格好になったからである。部下たちは粛々と任務をこなしてはいるが、感情を表に出さないだけで、はらわたが煮えくり返っている士官も少なからず存在した。
「早急に傭兵たちに協力を仰げ! ただ、今の東京は復興のシンボルだ。いつものドンパチは避けて、アニメチックに対応できる連中を集めるんだ! 金に糸目をつけるな!」
 こうなったら、相手の土俵の上で戦うしかない。上官は達成の難しそうなこの任務を、傭兵たちの手に委ねた。

●アニメ軍、襲来!
 一方、エミールが組織したアニメ軍は世田谷区に到達。行く手を阻む敵のみを手早く排除し、秋葉原のある東へと進む。
 ひときわ目立つのが、2匹のタートルワームだ。しかし凶悪そうな顔はどこへやら、しっかりエミール仕様にカスタマイズされている。甲羅の上に門松が乗っかっており、見た目が非常におめでたい。亀の頭には鏡餅が備えられ、お正月を想起させるのが敵ながら憎い演出だ。これを操るのは、エミールに忠誠を誓ったふたりの部下である。
 そんな彼らの眼下には、さらに厄介な軍団が揃い踏みだ。まずは「剣士マール放浪記」をベースとした、西洋ファンタジー軍。指揮官はなんとマール‥‥に激似で、まったく同じ扮装した強化人間である。
「課せられた使命を果たすため‥‥今は戦うわ」
 彼女が軍団の士気を上げると、隣に控えていたくず鉄キメラ兵団を率いるティピーリュースが「私も能力者たちにお仕置きしちゃうぞ♪」と笑顔で宣言。
 現代風の和服に身を包んだ武士軍団の中央には、「じゃぽね!」に登場したトニーが巨大な琴を抱えて立っている。
「麗しの調べで、傭兵たちを魅了するのさ」
 それぞれの軍団が固まって行動するが、手を振って応援する一般人の前では暴力を振るわない。これが進軍を早めた大きな要因だ。
「さすがはエミール様。見事に作戦が当たった!」
「喜ぶのはまだ早い。エミール様はまだ、秋葉原には到着されていないのだからな。ここで我々が踏ん張らなければ‥‥」
 そう、ここにはエミールの姿はない。アニメ軍は、傭兵たちを誘い出すための囮だ。御大将は別ルートで、秋葉原を目指している。
「マール、ティピーリュース、トニー! 我々の心はエミール様と共にある!」
「エミール様の聖地再奪還を援護するのだ、行くぞ!」
 バグアのアニメヒーローたちは、力強く頷く。彼らの鋼鉄の絆は、もしかしたらアニメから学んだのだろうか。

●その頃、エミールは
 エミールにも地の利はある。彼は精鋭を引き連れ、東京の地下を巧みに移動していた。
 精鋭は全部で11人。サッカーのユニフォームを着た軽装の青年だが、すべてが特殊訓練を施された強化人間である。
 そんな彼らを率いるのは、宇宙冒険アニメ「3・2・1、玲子!」に登場する佐伯玲子だ。彼女もマールたちと同じタイプの強化人間である。
「エミール様、しばらく潜伏した後に秋葉原の奪還作戦を決行いたします」
「うん、盛り上がってきたね! やっぱり冬はアニメの季節だもん。地上のみんなも楽しんでると思うよ〜、ふふふ♪」
 UPC情報部が怒り心頭という意味では、ある意味で「盛り上がってる」という表現は正解かもしれない。

 再び東京は秋葉原を舞台に、熱戦の火蓋が切って落とされようとしていた。

●参加者一覧

/ 須佐 武流(ga1461) / UNKNOWN(ga4276) / 緑川安則(ga4773) / 秋月 祐介(ga6378) / 瑞姫・イェーガー(ga9347) / イスル・イェーガー(gb0925) / 鹿島 綾(gb4549) / 番場論子(gb4628) / 功刀 元(gc2818) / ミリハナク(gc4008) / スロウター(gc8161

●リプレイ本文

●幕が上がる前に
 エミールのアニメ軍が世田谷区に突入した頃、UPC情報軍も急いで包囲網を敷いた。
 これは傭兵が欲した措置である。さらに白い妖精が舞うトラックには、これから始まる戦いに欠かせない装備が満載されていた。情報士官たちはせっせと荷を降ろし、着々と準備を整えていく。
 それを見た民間人は、おっかなびっくりの表情を浮かべながら、彼らに話を聞いた。
「あ、あの‥‥これは何の騒ぎで」
 すると兵士は、明るい笑顔で接した。
「ああ、心配しなくてもいい。今からUPC軍主催の復興イベントの撮影をするんだ」
 今の東京は、全世界復興のアピール都市として名を馳せている。人々も「撮影かぁ〜」と納得し、何度か頷く。
「ただ今回は、ちょっと内容を見せられないんだ。あとでステージショーがあるから、そっちは見ていいけど」
 撮影は限られたメンバーで行う旨を伝え、兵士はスタンドマイクを持って走り出す。行く先には即席のステージも作られており、民間人も「おお!」と驚いた。
「こりゃ、時間になったら集まらないとな!」
 彼らはその時間がいつであるかも知らされないまま、とりあえずその場を離れていった。

●白猫のダンス
 UPC軍が封鎖した先では、エミール軍との激しい戦闘の火蓋が落とされようとしていた。
 三軍の後ろに控えるのは、2匹の門松型タートルワーム。これを生身で倒せとは、なんとも酷な話だ。まさに「攻めるよりも守るが難し」といったところか。
 そこへ一台のバイクが、アスファルトに残る砂塵を巻き上げて駆け抜けてくる。それは傭兵側の先陣を切る須佐 武流(ga1461)であった。
「できるだけガチっぽく見せないように、だな‥‥」
 戦士として生きることを誓った男にとって、この条件は少し厳しいか。しかし彼は東京の平穏を守るべく、金色のオーラを纏って走る。
 武流はティピーリュースに狙いを定め、くず鉄兵団に接近。敵が慌てふためくうちに距離を詰め、小銃「ブラッディローズ」で敵の装甲を穿つ。
「グ、グエッ!」
 さすがはくず鉄から作られたキメラ、そこそこの耐久力を誇る。武流は瞬時にそれを見抜き、すぐさま急所突きを活性化させ、二撃目を放った。生身の部分を抉られると、敵も汚い悲鳴を上げる。
「グギョアァァ!」
「まだまだいるようだな」
 くず鉄兵団はボスの指示で、武流を囲むように広がる。他の二軍も傭兵の出現に備え、独自の動きを見せ始めた。
 武流は敵を逃さぬよう、バイクを横滑りさせて体当たりでブレーキをかけつつ、他の敵に銃撃を敢行。また的にならぬよう、細かなアクセル動作で移動を始める。さらに後輪でキメラを持ち上げ、アクセルをフルスロットルし、タイヤの回転で肌を削った。
「アギャギャギャ!」
 まるでスタントのような動きに終始する武流だが、そこへ力強い援軍が登場。顔を削られたくず鉄兵にソニックブームで食らわせ、颯爽と身軽な白猫が出現した!
「ふにゃーはははっはー、レアアースの守護者シルキーキャット参上にゃ」
 彼女の正体は、瑞姫・イェーガー(ga9347)。KV少女を模したコスチューム「シルキーキャットPWF」となって、くず鉄兵団の退治に現れたのだ。
 これを見たティピーリュースは冷笑を浮かべつつも、キャラを崩さぬように白猫ヒロインを出迎える。
「能力者はスクラップにしちゃうぞ♪」
「おかしいにゃ、テピリュースがこんにゃ奴らと組むなんて」
 白猫の狙いは、あくまでティピーリュース。身を捻ってから天照で攻撃するなど、派手な立ち回りに終始する。
 その間、彼女の取り巻きは武流が相手しつつ、瑞姫の夫であるイスル・イェーガー(gb0925)もサポートに参加。彼は二丁拳銃を操るオオカミ少年に扮し、二連射で横槍を入れようとするキメラを倒していく。
「またここでドタバタすることになるのは、少し心苦しいかな‥‥」
 そうは言いつつ、イスルは銃口を敵に向ける。自分には守るべきものがあるからだ。彼は妻に援護射撃を施し、必ずフォローを入れられる距離を保ちながら戦う。
 武流は徐々に減ってきた雑魚の数を確認すると、自らバイクを降りた。もちろん白猫のフォローが目的だ。彼は機械脚甲「スコル」を装着し、今度は華麗な足技で敵を圧倒する。
「はっ! とうっ!」
 ミドル、ハイと蹴りを繰り出し、敵が離れれば急所突きを乗せたブラッディローズで追撃。まだ息があれば、イスルが確実に仕留める。
 しかし敵の数が多く、イスルは攻撃を避け切れずに手傷を負わされるシーンも。そうなれば、武流が大きくジャンプし、延髄に蹴りを食らわせるなどしてピンチを救う。
「ありがとう、助かる」
「早く魅惑のヒロインを手助けしなきゃならないからな」
 クールなふたりは少し口元を緩めると、また戦いの場に戻っていった。

 一方、シルキーキャットとティピーリュースの決戦は、一進一退を続けていた。
 敵はバグアほどのパワフルさを持ち合わせていないが、近距離では短いロッドで攻撃を、遠距離では魔法を模した非物理攻撃を仕掛けてくる。いつもの瑞姫なら余裕で避けられるが、この時ばかりは違った。ティピーリュースの攻撃で衣装の袖が破られ、苦戦を強いられている。
「もう諦めて、スクラップになろうよ♪」
 この時、敵は知らなかった。白猫は大事なものを守りながら戦っていたことを‥‥その事実は、彼女の口から明らかにされた。
「キツいにゃ、身重じゃにゃきゃ、苦戦なんてしにゃいのに」
 しかし彼女は、ひとりではない。愛する夫と仲間が、雑魚を片付けて登場。イスルは再び援護射撃でサポートする。
「瑞姫、あまり無理しちゃダメだよ‥‥」
 夫の励ましに背中を押され、白猫はゆっくりと立ち上がった。そして後ろを振り向き、彼らに最高の笑顔を見せる。
「ありがとにゃ、仕掛けるにゃ」
 これまでの苦戦がウソのよう。彼女はしなやかに前へ踏み込み、そのまま剣劇を発動。白猫の残像に斬られまくるティピーリュースは、もはや為す術なしであった。
「これでトドメにゃ!」
 最後は二段撃で魔法少女を倒した‥‥と思いきや、最後の一撃は天照の峰で腹を叩いただけ。ティピーリュースは苦悶の表情を浮かべたまま、静かに倒れた。
「なっ、なぜ、トドメを刺さないの‥‥?」
「偽者だからって、生きることから逃げるのはいけないにゃ」
 瑞姫はそう言うと、UPC軍に捕縛するようにお願いする。彼女はこの戦いで不要な血を流す必要はないと思っていた。もしかすると、これもその身に命を宿しているからかもしれない。
 オオカミ少年のイスルは、武流にも声をかけ、別の場所へ援軍に向かうことを提案した。
「こっちは大丈夫だ。そろそろあっちに行こうか‥‥!」
 武流は再びバイクに乗り、新たな軍団を退治すべく動き出す。白猫とオオカミ少年もまた、別の場所を目指して歩き出した。

●魔術師とブラックマール
 中世ファンタジー軍を率いるマールは、ふたつの影に怯えていた。
 そのうちのひとつは、秋月 祐介(ga6378)が演じる魔術師「ユース・K・スペルキャスター」である。彼は「クックック‥‥」と笑いながら、マールの前に立った。
「ようこそ、剣士マール。それでは始めよう、貴女の旅の閉幕を」
 ここまで口撃に終始するユースに対し、兵士たちは遠慮なく襲い掛かった。しかし彼がひとたび本をめくり、「我は放つ裁きの雷」と詠唱すれば、敵は「ギャッ!」という声を残して地面に伏す。
 これを見たマールは、舌を巻くしかなかった。
「なるほど‥‥口だけの道化ではないらしい」
 彼女は剣を抜き、静かに微笑む。ところが、ユースも肩をすくめて笑った。
「いいだろう、ここは一騎討ちといこうではないか。いでよ、ブラックマール!」
 ここで潜んでいた情報士官が怪しげなスモークを放ち、金髪に染めて露出度マックスの黒い鎧に身を包んだ鹿島 綾(gb4549)が艶やかに現れる!
「私の名は、ブラックマール。貴方の影‥‥」
「いわば、私の不出来な妹ね」
 相手の無茶振りにも、積極的に絡んでくるマール。しかし、綾も負けてはいない。ふと胸に視線を向け、鼻で笑ってみせた。
「貴方が私の素体? みすぼらしいものね」
「なっ、なんてヒドいことを! あなたは、あなたなんか妹じゃないわ!」
 どこまでが演技かわからなくなってきたところで、戦闘が開始された。ここですかさず、ユースは呪文を唱える。
「我は留める消えゆく黄昏」
 覚醒時の粒子を調整することで、魔術師らしさを演出する祐介。漆黒の娘を援護する。
 コスプレ前は随分と恥じらいを見せていた綾だが、スイッチが入れば何も問題はない。聖剣「デュランダル」を振りかざし、まずは力比べ。押し切れると確信すれば、体勢を崩して薙ぎ払う。
「はあっ!」
 マールは避け切れず、半身でこれを受けるが、すぐさま剣を振り上げて反撃。しかし側面に隙があるので、綾は容赦なく刺突でカウンターを狙った。マールは受け止めようとするも、またしても力負けして攻撃を食らってしまう。
「言うならば‥‥私は、貴方の破壊衝動が具現化したようなものよ」
 誰が見ても劣勢なのに、綾は口撃を繰り返し、マールを精神的にも追い込んでいく。相手は剣を地面に突き立て、「くっ!」と言いながら唇を伝う血を拭った。
 相手が間合いを測る余裕さえ与えないのが、暗黒の娘。なんとソニックブームを繰り出して追撃し、自らもマールに向かって突進。その容赦のない攻めを見たユースは、思わず笑みを浮かべる。
「どうだね、ブラックマールは私の最高傑作となりつつある」
「こ、こんな奴! こんな奴が私だなんて、絶対に認めないわ!」
 祐介は不意に、衣装に着替えてすぐの頃、同じことを言って戸惑っていた綾の姿を思い出していた。
 彼女もまた「こんなのが自分だなんて認めない」というニュアンスのセリフを呟いていたが、まったく攻め手を緩めないところを見ると、今はそんなことを気にしていないらしい。つまり「綾=ブラックマール」の公式が、この戦いで完成しつつある‥‥祐介は思わず口元を緩ませた。

 そして、ついに決着の時を迎えた。
 傷だらけのマールに慈悲を与えようと、綾は十字撃を発動させ、最後の一撃を食らわせる!
「さようなら、マール。――クロス・ブレイクッ!」
「きゃああぁぁぁーーーっ!」
 地面をも穿つ非情の一撃は、マールの姿をかき消してしまった。これも瑞姫同様、綾が考え出した舞台演出である。女戦士の敗北に焦るファンタジー軍だが、ユースはお構いなし。誇らしげな表情を浮かべながら、マールを始末した少女を褒め称えた。
「想定通りだ、ブラックマール。残りも蹴散らしてやれ」
 雑魚の気持ちはとっくに折れているのに、綾は剣を持ち上げ、ゆらりと集団へ歩み寄る。その間に祐介は、自らに電波増強を施し、彼女の後ろを歩く。
「ひっ、ひいいぃぃぃーーーーーっ!」
 叫びたい兵士の気持ちがよくわかるとは、なんたる皮肉であろうか。
 主を失った中世ファンタジー軍の行く末は、もはや語るまでもない。ある者はユースに焼かれ、ある者はブラックマールの手玉に取られた。

●トニーとの決戦
 白猫と黒い少女が猛威を振るう頃、和風武士軍団を率いるトニーは、機鎧のレディと戦っていた。
 ミカエルに身を包んだ番場論子(gb4628)は、散開した脇の死角を狙って襲撃。そのままスコールで銃撃を繰り返しつつ、迫る敵を月詠で斬る。
「秋葉原奪還十字軍の歩みも、ここまでです」
 和風武士は一般兵なので、さほど強くはない。ところがトニーが巨大な琴を駆使して、遠距離から非物理の攻撃を仕掛けてくる。実はこれが厄介だった。論子は竜の咆哮で、うまくトニーに雑魚を飛ばして演奏を阻害するも、なかなか攻め手を止められない。
 そろそろトニーの妨害も難しくなってきた頃、背の低い廃墟ビルの屋上から、勇ましき女の声が響いた。赤いマスクとスーツに身を包んだスロウター(gc8161)の登場である。
「待てェい! 貴様らバグアザムライ、略してバグザムライの好きにはさせない! トニー、貴様にアメリカ文化を思い出させてやる!」
 彼女はビルからジャンプすると、背後で派手な爆音が鳴った。これはもちろん、情報部の演出である。
 そしてバグザムライに向かって壱式で斬りかかるが、意外にもスロウターは論子と協力しての行動を心がけた。
 これを見たトニーは苦笑いを浮かべながら、率直な感想を口にする。
「アメリカのヒーローといえば、もっとひとりで戦うもんじゃないかな?」
「愛と怒りと悲しみとマスクとメイドの人妻ヒーローだから、いろいろと仕方ねぇんだよ!」
 おそらく重要なのは最後の要素であると思われるが、トニーにすれば知ったこっちゃない。論子ともども、不思議な音色の毒牙で攻撃を繰り返す。
「うぉう、痛てて! ジャパニーズばっか傾倒しないで、アメコミも愛せよ、コラ! バグアども、おいコラ!」
 どこまで効いてるのかわからないが、スロウターもダメージを負っているらしい。
 論子は相方のために弾幕を張って雑魚の動きを止め、スロウターの攻めを援護。確実に敵の数を減らしていくが、決定的な一打が出ず、長期戦の様相を呈してきた。

 他の部隊よりも苦戦していることを知り、さまざなな箇所で爆破演出に協力していた功刀 元(gc2818)が漆黒のパイドロスに乗り、騎龍突撃を発動させてトニー軍の横っ腹を駆け抜けていく。
「謎の助っ人・カンパネラブラック登場ですー! 敵かなー? 味方かなー?」
「味方に決まってんだろ、ヘイユー!」
 スロウターのツッコミもバッチリ決まり、一気に形勢逆転。雑魚が片付いたところで、論子は竜の爪を発動させてトニーに最接近する。
「さっきは安全なところから、チクチクやってくれたわね」
 こうなると完全に傭兵のペース。論子は巨大な琴に触れさせぬよう、足払いや横薙ぎを仕掛けた。その隙を狙い、スロウターが攻撃を重ねていく。
「うぐっ、麗しの調べが‥‥!」
「ノーサンキューだっつってんだろ! 食らえ、必殺のカタナ・ラマ!」
 スロウター渾身の一閃は、琴の弦をすべて切ってしまった。それに加えて、論子はトニーにトドメの一撃を食らわせる。
「ごあっ‥‥西洋、かぶれに負けるとは‥‥」
「まぁ、ざっとこんなもんね」
 論子は崩れ落ちるトニーを見下ろしながら、まるで女幹部のように言い放つ。この部隊もまた、傭兵によって壊滅した。

●不屈のヒーロー
 いくら陽動とはいえ、こうもあっけなく味方が倒れていくと、エミールの部下は溜息を漏らす。
「やはり、一矢報いるのがやっとか‥‥」
 そこに現れたのは、瞬速縮地でビルへと駆け上がっていた緑川安則(ga4773)である。彼はコクピットに向かって、盛大に声を張り上げた。
「まてーい! 東京の治安を乱す不埒なるバグアよ。アニメの聖地、秋葉原は私が守る!」
「あいつ、まさかこのタートルワームと対峙しようというのでは‥‥!」
 部下のひとりは、竹造りのプロトン砲台を慌てて安則に向けるが、彼はさっさと瞬速縮地でビルから駆け下りる。そしてイアリスを抜き、続けざまに瞬速縮地を使い、亀に肉薄した。そして流し斬りを付与した一閃を披露!
「秘技! 龍皇斬魔!」
 その一太刀は足元を切り、周囲に緑の液体を撒き散らした。
「ほう、悪くない。さぞかしいい出来のワームだな。しかし! 正義の心がある限り! 悪に屈する英雄などいないのだよ!」
 傷つけた箇所にもう一度、流し斬りを帯びた剣撃を食らわせ、そこにスコールで弾丸の嵐をぶつけるという情け容赦ない攻撃を加えていく。
 いくらワームとはいえ、これを続けられれば致命傷に繋がりかねない。部下は亀の足を操り、体当たりなどで攻撃を阻害。安則はとっさに獣の皮膚で防御力を高めるも、強烈な圧迫でダメージを食らう。
「鍛え上げた正義の心と共にあるこの肉体!貴様らごとき、偽物の邪悪な力には屈しないのだよ!」
 それでも正面から攻撃を食らってみせる安則だった。
 その心意気に応えるべく、ふたつの影が動き出す。ひとつは「カンパネラブラック」こと、元である。今度はパイドロスを装着した状態で竜の息を発動、アンチシペイターライフルで隙間を撃ち貫く。
「隠密性能に優れたパイドロスですから、攻撃しても安心ですねー」
「ぬおっ! まだ攻め手がいるのか?!」
 思わぬ一撃を食らって操縦者が慌てると、次は探査の眼と隠密潜行を駆使する紳士・UNKNOWN(ga4276)が、瓦礫の陰から超機械「カルブンクルス」による的確な射撃を披露。それは甲羅の隙間を狙うという、恐るべき芸当である。
「特製チューンナップの亀でも、弱点はあるさ」
 UNKNOWNは静かにフロックコートを翻し、また違う角度からの射撃に専念する。口元からは紫煙が漂うも、それを察する者はいないだろう。彼は正面で戦い抜く決心をした安則に練成治療を飛ばし、決して意志が折れぬようサポートした。

 この人数で亀と対峙するのは危険だったが、三軍を倒した傭兵たちが安則の元へと合流。状況が一変した。
 ブラックマールこと綾は、傷ついた足だけを狙って斬撃を食らわせ、武流はバイクで接近して機械脚甲「スコル」による蹴撃で攻め立てる。そしてついには亀は立っていられなくなり、そのまま地面に倒れこんだ。
 さらにUNKNOWNが念には念を入れて隠密潜行を活性化させ、亀の目を潰す目的で的確な射撃を放つ。最後の悪あがきで甲羅にある竹槍で安則を突くも、また獣の皮膚を使って正面から受け止めて見せた。もちろんそのダメージは計り知れないが、またも紫煙の紳士が練成治療で回復させ、危機的な状況は脱する。
 安則は亀の頭に上り、渾身の力を込めた一撃に流し斬りを乗せ、思い切り剣を突き立てた!
「次、生まれてくるときあらば、友として語り合おうぞ‥‥さらば!」
「ムゲアァァァーーーーー!」
 亀は断末魔の叫びを上げ、その身を地面へと横たえた。

●脅威のな〜がちゃん!
 しかし、敵はまだ1匹残っている。最後の敵を相手していたのは、なんと竜のきぐるみを着たミリハナク(gc4008)。しかも、たったひとりである。
 彼女はタートルワームと戦うためにジーザリオで待機し、この姿で待っていたのだ。しかも爆発を伴っての派手な登場で、もう1匹の亀の注意を引くには十分すぎるほどである。
 いつもの彼女なら、ここで妖艶なセリフを口にするのだが、今は「な〜がちゃん」なので「みぎゃみぎゃ」としか話さない。これには操縦者も戸惑いを隠さなかった。
「あの‥‥戦うってことで、いいんですかね?」
「みぎゃっ♪」
 嬉しそうに頷くな〜がちゃんに対し、なんだか申し訳なさそうに動き出す亀。だが、これがいけなかった。
 このな〜がちゃん、意外に俊敏な動きで、まずは亀の後ろを突く。そして脚甲「望天吼」でダイナミックなキックを放つと、コクピットがちょっと揺れるくらいの衝撃が走った!
「みぎゃ! みぎゃっ!」
「ぬおあぁっ! な、なんだ、こいつ?!」
 見た目とは裏腹に、とんでもない威力の攻撃を放つな〜がちゃん。慌てた亀は全速転進を試みるも、な〜がちゃんが素早く後ろに回り、せっせとちょっかいをかけてくる。これでは埒が明かないと、操縦者は後ろを向いたまま亀に尻餅をつかせた。これが功を奏し、な〜がちゃんにそこそこのダメージを与える。
 普通なら攻めの姿勢が緩むところだが、それをさせない男の影が、ここにもあった。隠密潜行で迫り、練成治療を飛ばすその男は、銃を模した超機械で兎皮の黒帽子の位置を直す。
「――なに。私はイスカリオテなのだよ」
 彼は何気なくそう呟くと、また別の場所へと移動した。

 受けた傷を治癒してもらったな〜がちゃんは、ここが攻め時とばかりに高台へ。そしてそこから大きくジャンプした。さらに両断剣・絶を脚甲に乗せ、砲塔を狙ってキックを繰り出す!
「みぎゃぎゃっ!」
 この一撃で、亀は完全にバランスを崩した。そう、な〜がちゃんの狙いは敵の破壊ではなく、敵の無力化である。見事に着地を決めると、続いて天地撃でバランスを崩した亀のひっくり返しを狙った。
「みぎゃみぎゃー!」
 脅威のパワーを存分に発揮した怪獣は、見事に亀をひっくり返す。これはもはや特撮ではなく、限りなくアニメだ。援護に駆けつけた論子は、な〜がちゃんの活躍を見て驚く。
「これはある意味で、子どもたちに見せたいわね」
「みぎゃっ♪」
 表情の変わらぬきぐるみだが、どこか誇らしげな顔をしているようにも見えるな〜がちゃんであった。

●遠い目と微笑み
 エミールのアニメ軍は、こうして能力者の手によって退治された。
 しかし、まだ親玉であるエミールの姿は見えない。消息についての情報は、生け捕りにされた部下を尋問すればわかるだろう。それに加え、この戦闘は誰が見ても面白画像にしか見えないということで、UPC情報部からもOKが出た。
 それを聞いて微妙な表情を浮かべたのは、ブラックマールこと綾だった。もう任務は終わったというのに、まだ衣装を着替えず、どこか遠くを見ながら呟く。
「何だろう。だんだん‥‥コスプレが楽しく感じてくる自分がいるの‥‥」
 それを聞いた祐介と安則は、期せずして「計算どおり」と呟いた。こうしてアニメに傾倒する傭兵は増えていくのだろうか。

 そして情報部が作ったステージでは、瑞姫が白猫の衣装のまま、集まった民間人の前で歌を披露した。タイトルは「silky dream」である。

  星空を見上げると君を思う
  鉄のような心溶かして見せるから
  例え、絶望だけが待ち構えていても
  君が笑ってくれるそれさえ有れば
  全てを敵に回しても恐れないから

  目覚めた記憶 あふれ出した悲しみ
  この姿のままでも恐れないから
  もうボクは孤独では無いから
  すり切れそうな 夢だとしても

 身重でありながら、人々に希望を与えるために歌って踊る瑞姫。イスルも衣装を脱がずに、舞台の袖でじっと見守っていた。
 そこへ思わぬ援軍が駆けつける。ミリハナクのな〜がちゃんであった。
「みぎゃぎゃっ! みぎゃっ♪」
 軽やかな動きから察するに、このままお客さんの前に出て行こうと誘っているらしい。仲間がいれば、なんとかなる。それは戦場もステージも同じだ。イスルはひとつ頷く。
「じゃ、行こうか。白猫と怪獣と、オオカミのコラボで」
「みぎゃーっ♪」
 ふたりがそれぞれのタイミングで入っていくと、元が花火の装置を操り、思いっきり派手な演出で迎える。瑞姫はもちろん、その場にいるみんなが笑顔だった。