●リプレイ本文
●幕が上がる前に
エミールのアニメ軍が世田谷区に突入した頃、UPC情報軍も急いで包囲網を敷いた。
これは傭兵が欲した措置である。さらに白い妖精が舞うトラックには、これから始まる戦いに欠かせない装備が満載されていた。情報士官たちはせっせと荷を降ろし、着々と準備を整えていく。
それを見た民間人は、おっかなびっくりの表情を浮かべながら、彼らに話を聞いた。
「あ、あの‥‥これは何の騒ぎで」
すると兵士は、明るい笑顔で接した。
「ああ、心配しなくてもいい。今からUPC軍主催の復興イベントの撮影をするんだ」
今の東京は、全世界復興のアピール都市として名を馳せている。人々も「撮影かぁ〜」と納得し、何度か頷く。
「ただ今回は、ちょっと内容を見せられないんだ。あとでステージショーがあるから、そっちは見ていいけど」
撮影は限られたメンバーで行う旨を伝え、兵士はスタンドマイクを持って走り出す。行く先には即席のステージも作られており、民間人も「おお!」と驚いた。
「こりゃ、時間になったら集まらないとな!」
彼らはその時間がいつであるかも知らされないまま、とりあえずその場を離れていった。
●白猫のダンス
UPC軍が封鎖した先では、エミール軍との激しい戦闘の火蓋が落とされようとしていた。
三軍の後ろに控えるのは、2匹の門松型タートルワーム。これを生身で倒せとは、なんとも酷な話だ。まさに「攻めるよりも守るが難し」といったところか。
そこへ一台のバイクが、アスファルトに残る砂塵を巻き上げて駆け抜けてくる。それは傭兵側の先陣を切る須佐 武流(
ga1461)であった。
「できるだけガチっぽく見せないように、だな‥‥」
戦士として生きることを誓った男にとって、この条件は少し厳しいか。しかし彼は東京の平穏を守るべく、金色のオーラを纏って走る。
武流はティピーリュースに狙いを定め、くず鉄兵団に接近。敵が慌てふためくうちに距離を詰め、小銃「ブラッディローズ」で敵の装甲を穿つ。
「グ、グエッ!」
さすがはくず鉄から作られたキメラ、そこそこの耐久力を誇る。武流は瞬時にそれを見抜き、すぐさま急所突きを活性化させ、二撃目を放った。生身の部分を抉られると、敵も汚い悲鳴を上げる。
「グギョアァァ!」
「まだまだいるようだな」
くず鉄兵団はボスの指示で、武流を囲むように広がる。他の二軍も傭兵の出現に備え、独自の動きを見せ始めた。
武流は敵を逃さぬよう、バイクを横滑りさせて体当たりでブレーキをかけつつ、他の敵に銃撃を敢行。また的にならぬよう、細かなアクセル動作で移動を始める。さらに後輪でキメラを持ち上げ、アクセルをフルスロットルし、タイヤの回転で肌を削った。
「アギャギャギャ!」
まるでスタントのような動きに終始する武流だが、そこへ力強い援軍が登場。顔を削られたくず鉄兵にソニックブームで食らわせ、颯爽と身軽な白猫が出現した!
「ふにゃーはははっはー、レアアースの守護者シルキーキャット参上にゃ」
彼女の正体は、瑞姫・イェーガー(
ga9347)。KV少女を模したコスチューム「シルキーキャットPWF」となって、くず鉄兵団の退治に現れたのだ。
これを見たティピーリュースは冷笑を浮かべつつも、キャラを崩さぬように白猫ヒロインを出迎える。
「能力者はスクラップにしちゃうぞ♪」
「おかしいにゃ、テピリュースがこんにゃ奴らと組むなんて」
白猫の狙いは、あくまでティピーリュース。身を捻ってから天照で攻撃するなど、派手な立ち回りに終始する。
その間、彼女の取り巻きは武流が相手しつつ、瑞姫の夫であるイスル・イェーガー(
gb0925)もサポートに参加。彼は二丁拳銃を操るオオカミ少年に扮し、二連射で横槍を入れようとするキメラを倒していく。
「またここでドタバタすることになるのは、少し心苦しいかな‥‥」
そうは言いつつ、イスルは銃口を敵に向ける。自分には守るべきものがあるからだ。彼は妻に援護射撃を施し、必ずフォローを入れられる距離を保ちながら戦う。
武流は徐々に減ってきた雑魚の数を確認すると、自らバイクを降りた。もちろん白猫のフォローが目的だ。彼は機械脚甲「スコル」を装着し、今度は華麗な足技で敵を圧倒する。
「はっ! とうっ!」
ミドル、ハイと蹴りを繰り出し、敵が離れれば急所突きを乗せたブラッディローズで追撃。まだ息があれば、イスルが確実に仕留める。
しかし敵の数が多く、イスルは攻撃を避け切れずに手傷を負わされるシーンも。そうなれば、武流が大きくジャンプし、延髄に蹴りを食らわせるなどしてピンチを救う。
「ありがとう、助かる」
「早く魅惑のヒロインを手助けしなきゃならないからな」
クールなふたりは少し口元を緩めると、また戦いの場に戻っていった。
一方、シルキーキャットとティピーリュースの決戦は、一進一退を続けていた。
敵はバグアほどのパワフルさを持ち合わせていないが、近距離では短いロッドで攻撃を、遠距離では魔法を模した非物理攻撃を仕掛けてくる。いつもの瑞姫なら余裕で避けられるが、この時ばかりは違った。ティピーリュースの攻撃で衣装の袖が破られ、苦戦を強いられている。
「もう諦めて、スクラップになろうよ♪」
この時、敵は知らなかった。白猫は大事なものを守りながら戦っていたことを‥‥その事実は、彼女の口から明らかにされた。
「キツいにゃ、身重じゃにゃきゃ、苦戦なんてしにゃいのに」
しかし彼女は、ひとりではない。愛する夫と仲間が、雑魚を片付けて登場。イスルは再び援護射撃でサポートする。
「瑞姫、あまり無理しちゃダメだよ‥‥」
夫の励ましに背中を押され、白猫はゆっくりと立ち上がった。そして後ろを振り向き、彼らに最高の笑顔を見せる。
「ありがとにゃ、仕掛けるにゃ」
これまでの苦戦がウソのよう。彼女はしなやかに前へ踏み込み、そのまま剣劇を発動。白猫の残像に斬られまくるティピーリュースは、もはや為す術なしであった。
「これでトドメにゃ!」
最後は二段撃で魔法少女を倒した‥‥と思いきや、最後の一撃は天照の峰で腹を叩いただけ。ティピーリュースは苦悶の表情を浮かべたまま、静かに倒れた。
「なっ、なぜ、トドメを刺さないの‥‥?」
「偽者だからって、生きることから逃げるのはいけないにゃ」
瑞姫はそう言うと、UPC軍に捕縛するようにお願いする。彼女はこの戦いで不要な血を流す必要はないと思っていた。もしかすると、これもその身に命を宿しているからかもしれない。
オオカミ少年のイスルは、武流にも声をかけ、別の場所へ援軍に向かうことを提案した。
「こっちは大丈夫だ。そろそろあっちに行こうか‥‥!」
武流は再びバイクに乗り、新たな軍団を退治すべく動き出す。白猫とオオカミ少年もまた、別の場所を目指して歩き出した。
●魔術師とブラックマール
中世ファンタジー軍を率いるマールは、ふたつの影に怯えていた。
そのうちのひとつは、秋月 祐介(
ga6378)が演じる魔術師「ユース・K・スペルキャスター」である。彼は「クックック‥‥」と笑いながら、マールの前に立った。
「ようこそ、剣士マール。それでは始めよう、貴女の旅の閉幕を」
ここまで口撃に終始するユースに対し、兵士たちは遠慮なく襲い掛かった。しかし彼がひとたび本をめくり、「我は放つ裁きの雷」と詠唱すれば、敵は「ギャッ!」という声を残して地面に伏す。
これを見たマールは、舌を巻くしかなかった。
「なるほど‥‥口だけの道化ではないらしい」
彼女は剣を抜き、静かに微笑む。ところが、ユースも肩をすくめて笑った。
「いいだろう、ここは一騎討ちといこうではないか。いでよ、ブラックマール!」
ここで潜んでいた情報士官が怪しげなスモークを放ち、金髪に染めて露出度マックスの黒い鎧に身を包んだ鹿島 綾(
gb4549)が艶やかに現れる!
「私の名は、ブラックマール。貴方の影‥‥」
「いわば、私の不出来な妹ね」
相手の無茶振りにも、積極的に絡んでくるマール。しかし、綾も負けてはいない。ふと胸に視線を向け、鼻で笑ってみせた。
「貴方が私の素体? みすぼらしいものね」
「なっ、なんてヒドいことを! あなたは、あなたなんか妹じゃないわ!」
どこまでが演技かわからなくなってきたところで、戦闘が開始された。ここですかさず、ユースは呪文を唱える。
「我は留める消えゆく黄昏」
覚醒時の粒子を調整することで、魔術師らしさを演出する祐介。漆黒の娘を援護する。
コスプレ前は随分と恥じらいを見せていた綾だが、スイッチが入れば何も問題はない。聖剣「デュランダル」を振りかざし、まずは力比べ。押し切れると確信すれば、体勢を崩して薙ぎ払う。
「はあっ!」
マールは避け切れず、半身でこれを受けるが、すぐさま剣を振り上げて反撃。しかし側面に隙があるので、綾は容赦なく刺突でカウンターを狙った。マールは受け止めようとするも、またしても力負けして攻撃を食らってしまう。
「言うならば‥‥私は、貴方の破壊衝動が具現化したようなものよ」
誰が見ても劣勢なのに、綾は口撃を繰り返し、マールを精神的にも追い込んでいく。相手は剣を地面に突き立て、「くっ!」と言いながら唇を伝う血を拭った。
相手が間合いを測る余裕さえ与えないのが、暗黒の娘。なんとソニックブームを繰り出して追撃し、自らもマールに向かって突進。その容赦のない攻めを見たユースは、思わず笑みを浮かべる。
「どうだね、ブラックマールは私の最高傑作となりつつある」
「こ、こんな奴! こんな奴が私だなんて、絶対に認めないわ!」
祐介は不意に、衣装に着替えてすぐの頃、同じことを言って戸惑っていた綾の姿を思い出していた。
彼女もまた「こんなのが自分だなんて認めない」というニュアンスのセリフを呟いていたが、まったく攻め手を緩めないところを見ると、今はそんなことを気にしていないらしい。つまり「綾=ブラックマール」の公式が、この戦いで完成しつつある‥‥祐介は思わず口元を緩ませた。
そして、ついに決着の時を迎えた。
傷だらけのマールに慈悲を与えようと、綾は十字撃を発動させ、最後の一撃を食らわせる!
「さようなら、マール。――クロス・ブレイクッ!」
「きゃああぁぁぁーーーっ!」
地面をも穿つ非情の一撃は、マールの姿をかき消してしまった。これも瑞姫同様、綾が考え出した舞台演出である。女戦士の敗北に焦るファンタジー軍だが、ユースはお構いなし。誇らしげな表情を浮かべながら、マールを始末した少女を褒め称えた。
「想定通りだ、ブラックマール。残りも蹴散らしてやれ」
雑魚の気持ちはとっくに折れているのに、綾は剣を持ち上げ、ゆらりと集団へ歩み寄る。その間に祐介は、自らに電波増強を施し、彼女の後ろを歩く。
「ひっ、ひいいぃぃぃーーーーーっ!」
叫びたい兵士の気持ちがよくわかるとは、なんたる皮肉であろうか。
主を失った中世ファンタジー軍の行く末は、もはや語るまでもない。ある者はユースに焼かれ、ある者はブラックマールの手玉に取られた。
●トニーとの決戦
白猫と黒い少女が猛威を振るう頃、和風武士軍団を率いるトニーは、機鎧のレディと戦っていた。
ミカエルに身を包んだ番場論子(
gb4628)は、散開した脇の死角を狙って襲撃。そのままスコールで銃撃を繰り返しつつ、迫る敵を月詠で斬る。
「秋葉原奪還十字軍の歩みも、ここまでです」
和風武士は一般兵なので、さほど強くはない。ところがトニーが巨大な琴を駆使して、遠距離から非物理の攻撃を仕掛けてくる。実はこれが厄介だった。論子は竜の咆哮で、うまくトニーに雑魚を飛ばして演奏を阻害するも、なかなか攻め手を止められない。
そろそろトニーの妨害も難しくなってきた頃、背の低い廃墟ビルの屋上から、勇ましき女の声が響いた。赤いマスクとスーツに身を包んだスロウター(
gc8161)の登場である。
「待てェい! 貴様らバグアザムライ、略してバグザムライの好きにはさせない! トニー、貴様にアメリカ文化を思い出させてやる!」
彼女はビルからジャンプすると、背後で派手な爆音が鳴った。これはもちろん、情報部の演出である。
そしてバグザムライに向かって壱式で斬りかかるが、意外にもスロウターは論子と協力しての行動を心がけた。
これを見たトニーは苦笑いを浮かべながら、率直な感想を口にする。
「アメリカのヒーローといえば、もっとひとりで戦うもんじゃないかな?」
「愛と怒りと悲しみとマスクとメイドの人妻ヒーローだから、いろいろと仕方ねぇんだよ!」
おそらく重要なのは最後の要素であると思われるが、トニーにすれば知ったこっちゃない。論子ともども、不思議な音色の毒牙で攻撃を繰り返す。
「うぉう、痛てて! ジャパニーズばっか傾倒しないで、アメコミも愛せよ、コラ! バグアども、おいコラ!」
どこまで効いてるのかわからないが、スロウターもダメージを負っているらしい。
論子は相方のために弾幕を張って雑魚の動きを止め、スロウターの攻めを援護。確実に敵の数を減らしていくが、決定的な一打が出ず、長期戦の様相を呈してきた。
他の部隊よりも苦戦していることを知り、さまざなな箇所で爆破演出に協力していた功刀 元(
gc2818)が漆黒のパイドロスに乗り、騎龍突撃を発動させてトニー軍の横っ腹を駆け抜けていく。
「謎の助っ人・カンパネラブラック登場ですー! 敵かなー? 味方かなー?」
「味方に決まってんだろ、ヘイユー!」
スロウターのツッコミもバッチリ決まり、一気に形勢逆転。雑魚が片付いたところで、論子は竜の爪を発動させてトニーに最接近する。
「さっきは安全なところから、チクチクやってくれたわね」
こうなると完全に傭兵のペース。論子は巨大な琴に触れさせぬよう、足払いや横薙ぎを仕掛けた。その隙を狙い、スロウターが攻撃を重ねていく。
「うぐっ、麗しの調べが‥‥!」
「ノーサンキューだっつってんだろ! 食らえ、必殺のカタナ・ラマ!」
スロウター渾身の一閃は、琴の弦をすべて切ってしまった。それに加えて、論子はトニーにトドメの一撃を食らわせる。
「ごあっ‥‥西洋、かぶれに負けるとは‥‥」
「まぁ、ざっとこんなもんね」
論子は崩れ落ちるトニーを見下ろしながら、まるで女幹部のように言い放つ。この部隊もまた、傭兵によって壊滅した。
●不屈のヒーロー
いくら陽動とはいえ、こうもあっけなく味方が倒れていくと、エミールの部下は溜息を漏らす。
「やはり、一矢報いるのがやっとか‥‥」
そこに現れたのは、瞬速縮地でビルへと駆け上がっていた緑川安則(
ga4773)である。彼はコクピットに向かって、盛大に声を張り上げた。
「まてーい! 東京の治安を乱す不埒なるバグアよ。アニメの聖地、秋葉原は私が守る!」
「あいつ、まさかこのタートルワームと対峙しようというのでは‥‥!」
部下のひとりは、竹造りのプロトン砲台を慌てて安則に向けるが、彼はさっさと瞬速縮地でビルから駆け下りる。そしてイアリスを抜き、続けざまに瞬速縮地を使い、亀に肉薄した。そして流し斬りを付与した一閃を披露!
「秘技! 龍皇斬魔!」
その一太刀は足元を切り、周囲に緑の液体を撒き散らした。
「ほう、悪くない。さぞかしいい出来のワームだな。しかし! 正義の心がある限り! 悪に屈する英雄などいないのだよ!」
傷つけた箇所にもう一度、流し斬りを帯びた剣撃を食らわせ、そこにスコールで弾丸の嵐をぶつけるという情け容赦ない攻撃を加えていく。
いくらワームとはいえ、これを続けられれば致命傷に繋がりかねない。部下は亀の足を操り、体当たりなどで攻撃を阻害。安則はとっさに獣の皮膚で防御力を高めるも、強烈な圧迫でダメージを食らう。
「鍛え上げた正義の心と共にあるこの肉体!貴様らごとき、偽物の邪悪な力には屈しないのだよ!」
それでも正面から攻撃を食らってみせる安則だった。
その心意気に応えるべく、ふたつの影が動き出す。ひとつは「カンパネラブラック」こと、元である。今度はパイドロスを装着した状態で竜の息を発動、アンチシペイターライフルで隙間を撃ち貫く。
「隠密性能に優れたパイドロスですから、攻撃しても安心ですねー」
「ぬおっ! まだ攻め手がいるのか?!」
思わぬ一撃を食らって操縦者が慌てると、次は探査の眼と隠密潜行を駆使する紳士・UNKNOWN(
ga4276)が、瓦礫の陰から超機械「カルブンクルス」による的確な射撃を披露。それは甲羅の隙間を狙うという、恐るべき芸当である。
「特製チューンナップの亀でも、弱点はあるさ」
UNKNOWNは静かにフロックコートを翻し、また違う角度からの射撃に専念する。口元からは紫煙が漂うも、それを察する者はいないだろう。彼は正面で戦い抜く決心をした安則に練成治療を飛ばし、決して意志が折れぬようサポートした。
この人数で亀と対峙するのは危険だったが、三軍を倒した傭兵たちが安則の元へと合流。状況が一変した。
ブラックマールこと綾は、傷ついた足だけを狙って斬撃を食らわせ、武流はバイクで接近して機械脚甲「スコル」による蹴撃で攻め立てる。そしてついには亀は立っていられなくなり、そのまま地面に倒れこんだ。
さらにUNKNOWNが念には念を入れて隠密潜行を活性化させ、亀の目を潰す目的で的確な射撃を放つ。最後の悪あがきで甲羅にある竹槍で安則を突くも、また獣の皮膚を使って正面から受け止めて見せた。もちろんそのダメージは計り知れないが、またも紫煙の紳士が練成治療で回復させ、危機的な状況は脱する。
安則は亀の頭に上り、渾身の力を込めた一撃に流し斬りを乗せ、思い切り剣を突き立てた!
「次、生まれてくるときあらば、友として語り合おうぞ‥‥さらば!」
「ムゲアァァァーーーーー!」
亀は断末魔の叫びを上げ、その身を地面へと横たえた。
●脅威のな〜がちゃん!
しかし、敵はまだ1匹残っている。最後の敵を相手していたのは、なんと竜のきぐるみを着たミリハナク(
gc4008)。しかも、たったひとりである。
彼女はタートルワームと戦うためにジーザリオで待機し、この姿で待っていたのだ。しかも爆発を伴っての派手な登場で、もう1匹の亀の注意を引くには十分すぎるほどである。
いつもの彼女なら、ここで妖艶なセリフを口にするのだが、今は「な〜がちゃん」なので「みぎゃみぎゃ」としか話さない。これには操縦者も戸惑いを隠さなかった。
「あの‥‥戦うってことで、いいんですかね?」
「みぎゃっ♪」
嬉しそうに頷くな〜がちゃんに対し、なんだか申し訳なさそうに動き出す亀。だが、これがいけなかった。
このな〜がちゃん、意外に俊敏な動きで、まずは亀の後ろを突く。そして脚甲「望天吼」でダイナミックなキックを放つと、コクピットがちょっと揺れるくらいの衝撃が走った!
「みぎゃ! みぎゃっ!」
「ぬおあぁっ! な、なんだ、こいつ?!」
見た目とは裏腹に、とんでもない威力の攻撃を放つな〜がちゃん。慌てた亀は全速転進を試みるも、な〜がちゃんが素早く後ろに回り、せっせとちょっかいをかけてくる。これでは埒が明かないと、操縦者は後ろを向いたまま亀に尻餅をつかせた。これが功を奏し、な〜がちゃんにそこそこのダメージを与える。
普通なら攻めの姿勢が緩むところだが、それをさせない男の影が、ここにもあった。隠密潜行で迫り、練成治療を飛ばすその男は、銃を模した超機械で兎皮の黒帽子の位置を直す。
「――なに。私はイスカリオテなのだよ」
彼は何気なくそう呟くと、また別の場所へと移動した。
受けた傷を治癒してもらったな〜がちゃんは、ここが攻め時とばかりに高台へ。そしてそこから大きくジャンプした。さらに両断剣・絶を脚甲に乗せ、砲塔を狙ってキックを繰り出す!
「みぎゃぎゃっ!」
この一撃で、亀は完全にバランスを崩した。そう、な〜がちゃんの狙いは敵の破壊ではなく、敵の無力化である。見事に着地を決めると、続いて天地撃でバランスを崩した亀のひっくり返しを狙った。
「みぎゃみぎゃー!」
脅威のパワーを存分に発揮した怪獣は、見事に亀をひっくり返す。これはもはや特撮ではなく、限りなくアニメだ。援護に駆けつけた論子は、な〜がちゃんの活躍を見て驚く。
「これはある意味で、子どもたちに見せたいわね」
「みぎゃっ♪」
表情の変わらぬきぐるみだが、どこか誇らしげな顔をしているようにも見えるな〜がちゃんであった。
●遠い目と微笑み
エミールのアニメ軍は、こうして能力者の手によって退治された。
しかし、まだ親玉であるエミールの姿は見えない。消息についての情報は、生け捕りにされた部下を尋問すればわかるだろう。それに加え、この戦闘は誰が見ても面白画像にしか見えないということで、UPC情報部からもOKが出た。
それを聞いて微妙な表情を浮かべたのは、ブラックマールこと綾だった。もう任務は終わったというのに、まだ衣装を着替えず、どこか遠くを見ながら呟く。
「何だろう。だんだん‥‥コスプレが楽しく感じてくる自分がいるの‥‥」
それを聞いた祐介と安則は、期せずして「計算どおり」と呟いた。こうしてアニメに傾倒する傭兵は増えていくのだろうか。
そして情報部が作ったステージでは、瑞姫が白猫の衣装のまま、集まった民間人の前で歌を披露した。タイトルは「silky dream」である。
星空を見上げると君を思う
鉄のような心溶かして見せるから
例え、絶望だけが待ち構えていても
君が笑ってくれるそれさえ有れば
全てを敵に回しても恐れないから
目覚めた記憶 あふれ出した悲しみ
この姿のままでも恐れないから
もうボクは孤独では無いから
すり切れそうな 夢だとしても
身重でありながら、人々に希望を与えるために歌って踊る瑞姫。イスルも衣装を脱がずに、舞台の袖でじっと見守っていた。
そこへ思わぬ援軍が駆けつける。ミリハナクのな〜がちゃんであった。
「みぎゃぎゃっ! みぎゃっ♪」
軽やかな動きから察するに、このままお客さんの前に出て行こうと誘っているらしい。仲間がいれば、なんとかなる。それは戦場もステージも同じだ。イスルはひとつ頷く。
「じゃ、行こうか。白猫と怪獣と、オオカミのコラボで」
「みぎゃーっ♪」
ふたりがそれぞれのタイミングで入っていくと、元が花火の装置を操り、思いっきり派手な演出で迎える。瑞姫はもちろん、その場にいるみんなが笑顔だった。