●リプレイ本文
●華麗なマタドール
この地に集った傭兵は、決死の連絡を遂行した青年たちの案内で街を見て回る。もちろん猛牛の隙を突いての行動だ。
討伐作戦が開始されたらジーザリオを運転するヴィヴィアン(
gc4610)は、今日もド派手な衣装で登場。そのセクシーな姿に、青年たちはすっかり魅了された。
「あらあら、イケない坊やたち♪ あたしは嬉しいけど、今はちゃんと説明に専念しなきゃダメよ」
忠告もとても艶やかで、若人たちはついつい鼻の下を伸ばす。それを後ろから冷静な表情で見ていたエル3(
ga1876)は「これが若さゆえの過ちでありますか」と納得の表情を浮かべた。
「エルも公園跡地に住んでるデスけど‥‥自然公園を牛耳るなんて酷い牛キメラなのデス!」
聞き逃せない言葉が混じっていたが、それをかき消すように可憐な少女・御坂 美緒(
ga0466)が落ち着いた語り口で喋り出す。
「住民の皆さんが素敵なクリスマスが過ごせるようにがんばるので、ご安心くださいね♪」
言われてみれば、もうすぐクリスマス。青年たちも楽しい時間を期待しつつ、うら若き女性たちに「よろしくお願いします」と頭を下げた。
一通りの案内が済んだところで、ドラグーンのヴァレリア・リーコック(
gc5206)はミカエルを装着し、青年たちを避難先まで送る。
「ジーザリオの準備もありますので、私がお送りします」
「すみません、何から何まで‥‥」
ヴァレリアの姿は、まるで機鎧の天使。青年たちに与える安心感も大きい。
そういった「らしさ」でいえば、空言 凛(
gc4106)は入念なウォーミングアップで傭兵らしさを見せつけていた。パンチを繰り出すたび、白いシャツが余韻を残すかのようにふわっと揺れる。
「なんつーか、立ち回りするだけでも闘牛士って感じだな」
それをジーザリオの荷台の上で聞いたオリゼー・種小路(
gb9422)は、車両の後ろに取り付ける予定の赤い布を振って見せた。
「なるほどなっ、こういうことだよなっ!」
「そうそう、それ! そんな感じ!」
オリゼーは体格に似合わぬ軽やかな動きを織り交ぜながら、美緒と協力しながら赤い布をセッティングする。
すべての準備を整えた後、仕上げに「策士」の異名を持つ緑川 めぐみ(
ga8223)が、作戦の流れを再確認した。
「3匹を引き離してから、本格的に攻撃します。目標を撃破したら、他が相手している敵に向かってください」
ヴィヴィアンはふと、思い出したかのように話す。
「そういえば。凛ちゃんは、しばらくひとりで戦うのよね。大丈夫よ〜、すぐに応援に行くからね♪」
「ヴィヴィ、頼んだよ!」
連携も確認したところで、いよいよ作戦開始。メンバーは所定の位置に散った。
●ジーザリオの暴走?!
ヴィヴィアンの運転するジーザリオは、自然公園を見渡せる場所でエンジンを切り、猛牛がご在宅か確認する。
「あ、いるぜ!」
「今は座ってますね‥‥」
荷台に乗るのは、オリゼーとヴァレリアだ。このふたりの確認を聞いたヴィヴィアンは、なぜか乗車中の注意を発する。
「あのねぇ、あたしってばハンドル握ると人格変わるらしいのよ。運転ちょーっと荒くなるから、気をつけてね♪」
と、そんなことを呟いていたかと思ったら、急に腹に響くド低音で叫んだ!
「行くぜ、行くぜ、行くぜぇ! 舐めんじゃねぇぞぉ!!」
予想の斜め上を行く豹変っぷりに、健全な青少年たちは大いに驚く。その直後、さっきまでのヴィヴィアンとは別人のような荒い走りで現場へ急行する。
ふたりは振り落とされないようにしっかりと体勢を整えるが、まだ気持ちの整理はできていない。微細な音も発さず、ぎこちない動きで顔を見合わせるオリゼーとヴァレリアであった。
そんな運転だから、自然公園にもあっという間に到着。乱暴な運転で荷台を入口に向けると、ヴィヴィアンは傍若無人なタクシードライバーのようにクラクションを連打。さらに猛牛たちへ罵声を浴びせる。
「偉そうに寝てんじゃねぇよ! さっさと起きろ、ボケぇ!!」
猛牛からすれば、彼らは立派な侵略者。柄の悪さも手伝って、どこの誰が見ても侵略者。リクエストにお答えする形ですっくと立ち、3匹は予備動作なしで走り出す。
「バカみたいについてきな、このクソ牛野郎!」
アクセルベタ踏みの影響で、赤い布が風を受けてはためいた。それを見たのか、それとも怒っただけか、敵のスピードも上がる。
「うわっと! 今は距離があるから、ここは超機械で!」
オリゼーは自らに電波増幅を施し、遠距離でも効果的な超機械「ミスティックT」で先頭を走るボスに向かって先制攻撃。ヴァレリアもガトリングの弾を足元へ向けてばら撒く。
「ンボゴオォォーーー!」
猛牛に命中し悶絶するも、そのスピードを落とそうとはしない。そして、それをバックミラーで確認した運転手の怒号も止まらない。
「追いつかせるんじゃねぇぞ、しっかり足狙えってんだ!」
「俺様が狙ってないわけねーだろ! 人聞きの悪いこ、んげっ!」
さすがのオリゼーも反論するが、言葉を全部吐く前に瓦礫がタイヤが乗って、荷台が大きく揺れる。
「下手に喋ると舌噛むぞっ、黙って撃ちやがれ!」
「ったく、しょーがねぇな!」
オリゼーは再び猛牛の方を向き、攻撃のタイミングを図る。
ヴァレリアは周囲の様子を見て、「まもなく潜伏組のいる場所を通ります」と伝えた。AU−KVを装着していれば、振動があっても喋ることはできる。それがオリゼーには、ちょっとうらやましかった。
●猛牛孤立作戦
一方の潜伏班は、敵の‥‥いや、味方の接近にいち早く気づく。もっともこれだけ騒いで射れば、気づかないわけがない。
「なんだか、どこかのお祭りみたいですね♪」
「スペインに牛追い祭りというのがあるそうですけど‥‥」
美緒とメグはそんなことを言いながら準備を整える。メグは軽く息を吐くと、まもなく通過するであろう牛に向かって呪歌を捧げる。
「勇み足で進みゆく、貴方の怒りを鎮めること無く、だけど私は願う。その歩みを止め、眠りにつく事を。戒めの鎖と共に鎮魂の思いを込めて‥‥」
いつものエレガントさは重装甲のせいで見えないが、キメラを襲う美声は誰にでも聞こえる。
目標は群れから脱落する形でパタッと足を止め、苦悶の声を響かせた。
「グモ! ウグモォ!」
そのタイミングで、美緒は超機械を振りかざし、体へ直接的に雷撃を叩き込む。
「体は引き締まってますね‥‥脂身が少なそうですし、健康的ですね♪」
なんとも呑気は発言ではあるが、これも余裕があるからこそだ。
さらにエルが背後から接近。顔面に向かって弾頭矢を2発、さらに通常の矢を織り交ぜての射撃を行い、敵の集中を猛威と集中を絶つ。
「そそくさ‥‥デス」
エルは攻撃を終えると、すばやくダンボール箱に身を隠す。そしてふたつの穴から牛との距離を測り、必要とあらば接近する。
「動きの取れない状態なら、エルのダンボール作戦は効果大デス」
次の弾頭矢を番えつつ、エルは小さな暗闇の中でニヤリと笑った。
潜伏班の活躍で1匹が暴走から脱落したかと思えば、また1匹も行く手を阻まれた。ここでファイティングガール・凛の登場である。
「さぁて、そんじゃ、こっちも暴れようかね!」
凛はすぐさま覚醒し、猫目で敵を睨みつける。牛も本能的に彼女へ向かうも、ひらりと避けられてしまう。
「なーるほど、私の相手はテメーか。来な!」
不敵な笑みの前に左手を出し、人差し指をちょいちょいと動かす。これがいつもの凛のスタイル。
建物をも破壊するという角を振り上げ、猛牛は再び突進を敢行。しかし凛は先ほどと同じように、横っ飛びでたやすく回避する。そして敵が急ブレーキをかけようとする瞬間を狙って接近し、天拳「アリエル」でジャブを撃ち、すぐさま腹にボディーブローを叩き込む。
「モギャッ!」
「腹が弱いのは、どの動物も一緒だぜ?」
苦痛に顔を歪める猛牛の隙をあざ笑いながらも、しなやかな猫はまた距離を置く。
凛は敵への挑発を止めないのには、理由があった。敵の突進を誘導し、攻撃をしやすくすると同時に、建物への被害を最小限に食い止める‥‥これを狙っていた。動物相手の心理戦は骨が折れるが、相手は猪突猛進がお好きなのは、先ほどからの行動で把握済みである。
思わず凛は、舌で上唇を舐めた。魅惑の猫は、まだまだ戦い足りない。
結果的にボスを引き受けることになった暴走族‥‥いや失礼、ジーザリオ組。
ヴァレリアは1匹になったことを知ると、徹底的に足を狙って機動力を奪おうとする。オリゼーも同じ箇所を超機械で狙っていると、ついにボスは片足を折って地面に転がった。
「車を止めてください。追撃します」
機鎧の天使がそう伝えると、ヴィヴィアンは急ブレーキでジーザリオを止める。その反動を利して、オリゼーは荷台からジャンプ。着地と同時に練成弱体をかけ、ボスを弱らせる。
「せりゃああああっ!」
そして気合一番、脚甲「グラスホッパー」でキックを繰り出す。体重の乗った重い蹴りが顔にめり込むも、敵は角を駆使して反撃。オリゼーは着地際を狙われ、右腕に軽い傷を受ける。
「くっ! な、何のこれしき!」
「もちろんだ、この野郎! 俺もやってやんぜ!」
ヴィヴィアンは覚醒して髪は長くなったが、言葉遣いはハンドルを放しても変化なし。相変わらずのハイテンションでボスを圧倒する。
接近までの時間を稼ぐ形でヴァレリアが竜の爪を纏わせた銃撃を仕掛け、敵が怯んだ隙に姐御が瞬即撃を発動。真横からハイキックと回転蹴りを叩き込む。脚甲「望天吼」のおかげもあって、周囲に赤い血が舞う。さらに姐御のセクシーな下着も見えちゃうのであった。
「あ、あの、その‥‥ヴィヴィアンさん、たまにその、下着が見えて‥‥」
「あ? スカートなんか気にしてられっか。男の下着見えても意味ネェだろ」
「あのな、ヴァレリアには意味あるだろうがよ!」
姐御にツッコミつつ、オリゼーも戦列に復帰した。さすがのボスも3対1では分が悪い。展開は引き離し作戦を成功させた傭兵側に有利に傾いた。
●仕留めよ、猛牛!
メグによる呪歌の重ねがけもあり、美緒は極めて安全に攻撃できた。さらに練成弱体を施すと、もはや一方的な展開になる。
エルは所持している弾頭矢を撃ち尽くすと、さっそうとダンボールから抜け出した。そして武器を大鎌「プルート」に持ち替え、急所突きを駆使した致命的な一撃を繰り出す。
「住民の皆さんを恐怖に陥れた悪夢も、コレでおしまいデス! バタンQ〜でバーベQ〜デス」
大鎌には死神の力が宿るのか。エルの一閃で首がスパッと切れ、首と巨体は同じタイミングで地面へと転がった。
「なんとか倒せましたね。じゃあ、応援に行きましょうか♪」
美緒がふうっと息をつきながら周囲を見渡す頃、少し離れた場所にいるボスも終末を迎えようとしていた。
こちらは運転時と同じく、姐御がグイグイと展開を引っ張る。
「デカい図体でデカい態度しやがって。手間かけさせんなよ!」
集団でボコられるうちに、ボスは一瞬の隙を見せた。それをヴィヴィアンは見逃さない。二連撃と急所突きを駆使してトドメの蹴りを放った。
「自慢の角へし折ってやンヨ、このクソ牛がぁ!」
姐御はボスの顔の横に立つ。まずは手前の角を、渾身の力を込めた右脚で蹴り上げて破壊。自らが宙で勢いよく回転しながら、今度は左脚でかかと落としのように奥の角も砕く。
「モンギャアァァーーーーー!」
威厳の象徴であった角を折られたショックからか、ボスは絶命した。断末魔の叫びを聞いたヴァレリアは「今度は普通の牛に生まれてきてね」と呟くと、ミカエルをバイクに戻し、最後の1頭を相手している凛のところへ向かって移動する。
しかしヴィヴィアンはその場に残り、覚醒を解いてボスの体をピンヒールでにじにじしながら高笑いを開始。
「完全勝利☆ オカマ怒らせると怖いのよん♪」
さすがのオリゼーも無言で、口を「ああ、そうですね」と動かした。
最後の1頭も、戦い慣れている凛のテクニックを凌駕するほどの力はない。戦いは危なげなく進んでいた。
「今夜は焼肉だからな! つっても肉は硬そうだから、叩きまくって柔らかくしておいてやるよ!」
腹から腰の横を狙って堅実な攻めに徹する凛。そのパンチも正確に当たっている。もはや敵が負けるのも時間の問題だ。
そこへ、比較的近くにいたメグが応援に駆けつける。それを見た猛牛は鼻で笑うと、目標を変えて突進。猛然とメグに迫った。
「ふふ‥‥面白いですね。元ダークファイター相手に近接戦闘ですか? 仕方ありませんね」
メグはギター型の超機械「ライジング」を構え、電波増強で知覚を高める。突進を避ける素振りは微塵も見せず、ただ少し腰を落としただけ。
そして猛牛の突進は完成したかのように思われた。しかし激突の瞬間、敵はなんとも言えぬ違和感を覚える。なんと自分の攻撃は、重装甲の前に食い止められているではないか!
「グ、グ、グモォ?!」
「さあ、焼き上げてあげますよ。ミディアム? レア? それともウェルダン?」
彼女の攻撃は自らのテンションを限りなく高めるが、皮肉にも猛牛の鼓動は止まってしまう。凛が柔らかくしておいたので、あとは血抜きすればおいしく食べられそうだ。
こうして街を襲う脅威は排除され、再び平穏が戻ってきた。
●楽しい食事会
倒したキメラが牛ということもあり、オリゼーやメグは肉を料理して住民に振る舞おうと腕を振るう。舞台は主のいなくなった自然公園。調理用の焚き火も用意され、まるでお祭りのようだ。メグと美緒は包丁を借り、住民たちと協力してキメラから牛肉を取り出す。そしてコックに変身したオリゼーが簡単に味付けし、まずはみんなで味見をした。
「うん、うまい! 特に悪いところはなさそうだ。身の締まった肉だぜ! みんなも食えよ!」
ところが、ヴァレリアは冷や汗を流しながら後ずさりする。
「あ、あはは。私は普通のレーションでいいですから」
さすがにキメラを食べるのは、抵抗があるらしい。エルも似たような理由で「持参したチーズバーガーを食べるのデス」と答えた。
その後、オリゼーはバーベキュー用の串に肉や野菜を刺して焼いたり、硬い部位の肉はクリームシチューの鍋に入れてじっくりと煮込んだりと大忙し。食べ切れない分は燻製にし、冬の保存食にすることを住民に勧めた。
思い切り体を動かしたヴィヴィアンと凛は、贅沢にステーキで肉を頂いている。味付けはヴィヴィアンのご指定だが、凛も大満足。子どもたちにも人気のメニューとなった。
美緒も楽しい笑顔がたくさん並ぶのを見て、やさしく微笑む。
「ちょっと早いクリスマスパーティーですけど、楽しんでくださいね♪」
小さな街を襲った事件の終わりには、大きく明るい笑顔が咲いた。